十八日月



月が海に顔を見せたのは海賊達の夕食も終わった頃。
 船長のリュウガは、船尾で腕を組んで固定された操舵輪を眺めていた。
「どうしたもんかな…」
 聞こえるはずのない我の声が、独り言に応じた。
『止めて欲しがっているぞ』
 我はこの海賊船の精霊、シリウス。
 この船の中にいる海賊達の全ての動きと想いを、我だけが知っている。
「……船長なんてめんどくせぇな…」
 呟いて船長室へ歩きだしたリュウガも、今夜は疲れている。
 気づいている海賊は居ないが、朝からずっと、リュウガはあれこれ忙しく立ち回っていた。
 船長室へ戻るのは、実に朝起きて以来…稀有なことだ。
 ところが。
 光が灯ったばかりの船長室を、船医のソウシが訪れた。
「そろそろ、何か言いたいことがありそうだと思ってね」
 強い酒を手土産に、にっこり笑って飲みに来たソウシに、リュウガは苦笑した。
 一日の、リュウガのさまざまな働きで、船内の海賊達には比較的穏やかな時間が流れている。
 唯一このソウシを除いて。
「しびれをきらして、自分から来たか」
「……」
 微笑んだソウシは、黙って、リュウガと自分用に持ってきた酒を注いだ。
「……言いたいことねぇ?」
「あるでしょ? たくさん」 
「解ってて、俺に言って欲しいのか?」
「そうだね…フフフ」
 リュウガは、盛大な溜息をついて、グラスを置き、腕を組んだ。
「今は、やめとけ。ソウシ」
「……あれ? 『今は』なんだ?」
「ああ。『今は』だな。……なあ、ソウシ。俺は、ヒロインの選択は間違っちゃいねーと思う。なんだかんだ言っても、俺が船に乗せても大丈夫だと感じたヤツだ。ちゃんと見る目がある」
「それはつまり、船長から見たら彼女にはシンがふさわしいってことかな?」
 リュウガが、違うな、と笑った。
「お前も解ってるだろうが、シンは欲張りだ。惚れた女に命はかけても、自分も一緒に生き残りたい奴だ。あわよくば、ついでに宝まで手に入れようとする。……でも『今の』お前やナギは、そこまでの欲は、まだねーだろ。惚れた奴に命かけたら、本当に死んじまいそうだ。だから、だ」
 リュウガもソウシも、遺された者の悲しみは身にしみていることを、我は知っている。
 それぞれが、独りで海を眺め、消えない悲しみや悔恨と折り合いをつける姿は、数限りなく我だけが見ている。
「…あはは…リュウガらしい理屈だね」
 ソウシが苦笑した。
「そういうわけで、今なら俺はシンに付く。けどな、先は判らん…その方が面白れぇだろ?」
 奪うことは海賊の本分。
 この船は、海賊船。
「もっと、ちゃんと止めて欲しかったんだけどね…」
 ソウシが残念そうに呟くと、リュウガは笑ってグラスを空にした。
「そりゃ無理だな。俺も自分で手一杯だ」
 月が雲に隠れて暗くなった海を、我は潮に乗って進む。


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