十五日月
満月の夜。
海賊達は、宴を開く。
我は海賊船の精霊シリウス。
夜空に輝く満月が、海賊達を照らしている。
珍しい組み合わせが、飲み比べを始めていた。
シンとソウシとナギ。
酒を注いでいるのは、ヒロイン。
4人の周囲だけ、微妙な空気が漂っている。
男たちの会話がほとんどない。
グラスが空く度に、目の前に差し出された三つのグラスへヒロインが均等に酒を注ぐ。
「あの…皆さん、そろそろやめた方が…」
気遣わしげなヒロインの前に、再びグラスが三つ差し出された。
ヒロインは、黙って酒を注ぐ。
「何やってんだい?」
あきれ顔のファジーの横で、リュウガは至極面白そうに見物している。
我も、眺めていて飽きない。
男たちの反目が、面白い。
3人とも酒に強く、普段は滅多に酔いつぶれた姿を見せない。
かなり飲んでも昼間の冷静さを保つシン。
飲むほどに隠した本性を垣間見せるソウシ。
黙々と顔色を変えずにひたすら飲み続けるナギ。
3人の反目に呑まれて、ヒロインも黙って差し出されるグラスに酒を注ぐだけになっている。
ハヤテとトワは、とうの昔に酔いつぶれてしまい、3人の飲み比べが始まったことすら知らない。
満月は、まだ天頂を過ぎたばかり。
ファジーは、馬鹿な男には付き合いきれないと、酒瓶を持って船室へ下りて行った。
相変わらず、早いペースは変わらずに飲み比べが続き、横並びが続いている。
注ぎ手がヒロインである以上、全員本当に限界の限界まで飲むはずだ。
様子を見物していたリュウガが、眠そうに欠伸をしながら酒を注ぐヒロインを見て、そろそろ潮時だな、と呟いた。
確かに、この調子では朝まで続くだろう。
「おい、ソウシ。そろそろ遊びはやめて、俺とサシで飲め」
リュウガの声に、ソウシが剣呑な目を向けた。
「…なぜ、俺を呼ぶ?」
シンとナギとヒロインが、驚いてソウシを見た。
リュウガが苦笑して、マジになったお前が、一番タチ悪ぃんだよ、と小さく呟く。
我も、船長室でソウシがサシで飲むと朗らかさを通り超えたあたりから、言動が危険になることを知っている。
みんなで楽しく飲んでいる時には、朗らかなうちに自ら飲むのを控えるので、滅多に見せない言動。
「……見て判れよ。相手がいねぇんだよ」
リュウガの言葉に、渋々飲み比べを中断したソウシが、酒を注いでいたヒロインの頭を愛しげに撫でた。
「俺が抜ければ、終わりだよ。早く寝なさい」
普段と随分違う、どこか妖艶なソウシの雰囲気に、唖然と見上げるヒロイン。
すかさず、立ち上がったシンがヒロインの腕を引く。
「飲み比べは終わりだ。部屋に戻って寝るぞ」
ナギは、動かずにため息をつく。
海賊達は見ていて飽きない。
我は、満月の浮かぶ海に揺られながら、酔う、というのはどのような感じがするものなのかと考えた。
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