十四日月



見張り台の当番だったハヤテが、我の揺れに起こされて、蒼白になった。
 我は海賊船の精霊シリウス。
 今、我の後ろから、一つの船団が近づいていた。
「後ろに敵がいるっ」
 慌てて叫んだハヤテだったが、逃げるにはあまりにも接近し過ぎている。
 ただ、どの船も真新しくて、精霊が宿るほどには使い込まれていない。
「おいおい…何だ、あいつらは…素人か?」
 船の上で我に乗り移ろうと画策する船団を眺めたリュウガが、苦笑した。
「海賊のようですが…転職したてですかね…」
 シンも操舵デッキから見下ろして、苦笑した。
 我の後方を完全に捕えているのに、五つの船は我に付き従うのが精一杯らしい。
 渡し綱や渡し板をかけるも、我に辿りつかずに海へ落ちる者ばかりだ。
 甲板に出てきたナギが、厨房へ戻る。
「うーん。浮き輪、いくつあるかなぁ…」
 呑気に呟いたソウシが、倉庫へ向かう。
 厨房で手伝っていたヒロインは、ナギになんでもないと言われ、調理を続けている。
 甲板に出てきたファジーも呆れて眺めていた。
 トワは、ソウシに呼ばれて倉庫で浮き輪代わりに使えそうなものを探している。
「おい、ハヤテ。お前1人で充分だろ。責任とって、追い払え。できれば、親玉は生け捕りにして連れて来いよ」
 見張り台のハヤテに告げたリュウガは、笑って船長室へ戻った。
 我の船を襲ってくるのは、よほどの海賊か海軍、または駆け出しの何も知らない海賊。
『船体に傷を付けるなよ』
 我の声はハヤテに届かないが、一応、言ってみる。
「あー、もう。めんどくせぇなあっ」
 ハヤテが渋々甲板に降り立つ。
 うまく親玉を捕らえたら、きっとリュウガは散々脅しながら、諭すのだろう。
「おいシン、もっとあいつらに近づけねえの?」
「これでも、かなり手加減してやっているんだがな…」
 痺れを切らしたハヤテが、渡し綱を駆けて逆に向こうの船へ乗り込む。
 次々と海へ落とされ、泳げそうもなく溺れる者に、ソウシとトワが浮き輪や空き樽を投げてやる。
 ほどなくして、ハヤテは1人の男を引っ張ってきた。
 既に、怯えきって、震えている。
「ゆ、許してくれ、海賊王の船だなんて、知らなかったんだよぉ」
 苦笑したリュウガが、船長室から顔を出した。
『海賊なのに、相変わらず親切なことだな…』
 我は、平和な海をゆったりと進んだ。


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