十一日月
昨夜、入港してから我はずっと寄港中だった。
帆をたたんで商船のふりをする我は、この船の精霊シリウス。
海賊達が宿に泊まるので、船内は静まり返り、至極、つまらない。
港にいた男たちが、我の前で話している。
「この街に、海賊王が現われたらしいぞ」
「…しかし、それらしい船は見当たらねぇな」
「海賊王の船ってことは、さぞかし絢爛豪華なんじゃねーのか?」
「どーだか。結構な修羅場乗り越えてるって噂だぜ。案外、傷だらけのボロ船かもしれねーぞ」
「どうせ、どっかの入り江にでも船は隠してるんじゃねぇか。まさか、海軍がいるこの港に堂々と入港なんてしねぇだろ」
男たちの世間話を面白く話を聞いていると、新たな船が入港してきた。
黒い帆をたたんで姿を現した船は……。
「おい、あの船、怪しくないか?」
「黒い帆だな…。あれが、うわさの海賊船じゃねぇのか?」
男たちが声をひそめる。
『やあ、シリウス』
よりによって、我の横に並ぶように停船して声をかけてきたのは、海賊ロイの船の精霊リカー。
『……また、襲いにきたのか?』
『まさか。海軍の目が光っているこの港で、さすがの船長くんもそんなことはしないよ』
『その帆で、さっそく怪しまれているぞ』
『そうなんだよね。こそこそ逃げ回るより海軍に目をつけられる方が喜びみたいなところあるからなぁ、僕の船長くんは』
『とばっちりが来るのは困るな』
『こればっかりは、舵を握っているのは船長くんだし、僕も自分じゃ何もできないからねぇ…』
甲板に姿を現したロイは、相変わらず、一見して海賊と知れる服装をしている。
「やっぱり、海賊だよ。しかし、あんな堂々と…あいつ、馬鹿だな」
「ここが、海軍の管理する港だって、わかってないんじゃないのか?」
声をますますひそめた男たちの会話は、リカーにも聞こえたはずだ。
『…と、言われているが?』
『だよねえ。仕方ないじゃん。僕に船長は選べないんだから』
『我はこの港で平穏に過ごしたいんだがな…』
やがてロイ一行も、船を下りていく。
港から見える山の向こうへ登り始めた、いびつな円の月を見ながら、我は波に浮かんでいた。
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