白銀色
海賊たちの宴の最中だった。我にまとわりつく人間から発せられる殺気。
『そろそろ見ぬふりしてして飲むのも無理じゃないか?』
気づいていたのに面倒がっていたリュウガが、殺気に視線を鋭くした。
「ったく…」
海賊王であるリュウガが、手にしていた酒瓶を床に置いて立ち上がる。
シリウス号に乱入してきた男たちは、酔った彼ら相手なら勝機があると考えたに違いない。
確かに、酔いつぶれてしまっていた見習いのトワは、ナギが咄嗟に鎖で守らなければ、最初の一撃で殺られていたかもしれない。
けれど、血気盛んなハヤテを筆頭に、他のメンバーは相手の殺気に敏感だった。
『宴の余興としては、少しばかり相手が多いな…』
我は彼らの乗る船の精霊、シリウス。我の声は人に聞こえず、我の姿は人に見えない。
「はい、酔い覚ましだよ」
ソウシが、渡した丸薬を口に含んだハヤテは、なんとも言えない複雑な表情になったものの、一気に酔いがさめた様子で真っ先に敵に向かって駆けだす。
ナギの鎖鎌は、最初から酒酔いなど感じさせない正確さで、無防備に寝てしまっていたトワを敵の刃から守り、身柄を安全な場所へと運ぶ。
シンの銃撃もまた、正確に相手から武器を奪い、足を封じ、腕を封じる。
リュウガは、面倒くさそうに船縁へ移動すると、不機嫌な表情で海を見降ろした。
横帆が一枚だけの小型船が十数隻、シリウス号の横を並走している。その中に、精霊が宿る船はない。
「ったく。ナメたヤツらが居たもんだ」
まるで、手すりを乗り越えるような気やすさで船縁を跨ぎ、そのまま小舟に跳び移った。
「海賊王が逃げたぞ」
リュウガが船縁を乗り越えて落ちていく姿を見た乱入者の声に、ハヤテが剣を薙ぎ払いながら笑みを浮かべた。
「ばっかじゃねーの?」
ナギもシンも、嘲笑うような笑みを口許に浮かべる。
ソウシが、気の毒そうに襲撃者たちへ忠告した。
「早く自分達の船に戻った方がいいと思うけどね…。今、リュウガはかなり機嫌が悪いから…」
ソウシが言い終わる前に、波間から驚愕の絶叫が響く。
「ばかなっ」
「やめてくれー」
何事がおきたのかと襲撃者が、仲間達の声をする方へ眼をやり、表情を凍りつかせた。
「な…何者だ…」
「人間じゃねぇ…」
リュウガの剣が白銀にきらめいて、小舟を次々と解体してゆく。鮮やかな船の解体。
『相変わらず、船を壊すのが上手いな…』
「船長が一人で海軍の軍艦を鎮めるっての、お前ら知らねぇの?」
ハヤテが、呆れたように言う。
「そんな…」
確かにそこにあった筈の十数隻の小型船は、五分と経たずに、全て人が捕まって浮くことも難しいような小さな木切れになっていた。
一見、海面にたくさんの薪が散っているように見える。
「フン。まさに海の藻屑だな…」
シンが、唖然として動きを止めた襲撃者を、海へ蹴り落とした。
ナギの放った鎌を咄嗟に避けようとした襲撃者も、そのままバランスを崩して海へ落下する。
「リュウガが甲板に戻ってくる前に、ここから逃げたほうがいいと思うよ」
ソウシがにっこり笑うと、甲板に残っていた襲撃者達が、踵を返し、我先にと木切れに埋まった海へ飛び込んでいく。
我は、唯一ひっくり返って船底を見せている小舟に立つリュウガを迎えに、船体を寄せるのだった。
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