練色



「何をイヤラシイ想像している?」
シンの言葉に、ハヤテがはっとしてヒロインの手元から顔を上げた。
「し、してねぇよっ! 何もっ!」
慌てて否定するハヤテを、シンが眇める。
「な、何だよっ。ただ、絡まった糸を取ってやる手伝いしてやってただけだろっ。文句あるなら、てめえがやれよっ」
その言葉に、シンの口許が緩んだ。
「おい、ヒロイン」
「え? あ…」
シンが強引かつ噛み付くようなキスをした。
戸惑うヒロインは、すぐ横にハヤテがいるからか、真っ赤になってシンから逃れようとするが、シンは抗う手を逆に抑え込む。
「なっ…」
ハヤテも目を丸くして二人を見ていたが、キスをしながらも、射るようにハヤテを見返すシンに、はっとしたように視線を反らした。
『シンの危惧は当たらずとも遠からず、といったところか』
我は船の精霊シリウス。
船の中であった出来事の全てを知る存在。
個々の室内、プライベートな出来事の全てを、我は知っている。
絡まった練色の糸束と、その合間を解こうと行き来するヒロインの手を見て、ハヤテが気まずげに手を止め、息を飲んだのは事実。
『人にとって劣情は、ままならぬものらしい。まあ、色合いは確かに似ているな…』
昨夜、一人で息を乱しつつ舌打ちしていた男の手に流れたものと。
「わざと、見せつけるんじゃねーよっ」
怒ったようにハヤテは、甲板を後にする。
「…くそっ」
ダン、と自分の部屋の扉を叩き、ハヤテはイライラした空気を身にまとったまま、倉庫へ向かう。
「おい、トワ。打ち合いやろうぜ」
「あ、ハヤテさん。これを厨房に運ばないといけなくて」
「はぁ? これ全部かよ。しかたねぇな、手伝ってやるよ」
トワと話しているうちに、ハヤテのイライラは収まっていく。
甲板では、ようやく開放されたヒロインが、頬を染めながら不思議そうにシンを見返す。
「…あの……、今の、は…?」
「そうやって糸を絡めていると、物欲しげに見えるな。今夜は、お前の手だけでシてみるか?」
酷薄な笑みで囁くシンに、ヒロインは、不思議そうに自分の手元を見て、しばらくして耳まで真っ赤に染めて俯いた。
その様子を満足気に見下ろしたシンは、操舵へ戻っていく。
風が、帆を揺らす。
「シンてば…相変わらず、ヒロインちゃんが絡むと狭量……」
『まったくだ…』
我は見張り台でクスクスと笑うソウシの横に降り立ち、空を仰いだ。


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