竜胆紫



夕焼けと宵闇が混じり合う時間のことだった。
『襲撃…か』
夜の帳が、赤く染まった空を青紫へと染め上げた大気の薄闇。
ところどころに潜む濃い闇に紛れて、殺気あふれる者達が小舟で我に近づき、甲板へと忍び寄る。
身体を這いまわる襲撃者たちに、我は、不快感を募らせた。
我が名はシリウス。海賊王が統べる船の精霊。
「ったく、また変なのが来たな…」
航海室に集まって相談していた海賊達。
ちょうど、見張り台も舵も不在の隙をついてやってきた、襲撃。
船長であるリュウガの言葉に、シリウス海賊団の男たちが、周囲の気配を探る。
「ナギと私は前方へ行くから、シンとハヤテは後方でどう?」
人数と状況を的確に把握したソウシの言葉に、リュウガが頷いた。
「トワとヒロインは、見張り台へ登れ。シンに、敵の船の位置と数を正確に伝えろよ?」
ナギがフォアマストに走り、ソウシがメインマストへ走る。
セイルの多くを畳み、速度を落としていた我。
海賊達は、それぞれのマストにつながる帆を広げ、船足を速めることを優先したようだ。
ハヤテがミズンマストへ走り、シンは舵へ向かう。
それぞれの持ち場にたどり着く前に、それぞれが襲撃者と遭遇する。
唯一、トワとヒロインはリュウガに守られ、襲撃者に遭うこともなく見張り台へ登って行く。
後方に向かったハヤテが、一番多くの襲撃者を迎え撃っていた。
二本の剣が、止まることなく舞う。
ナギとソウシが帆を広げても、ハヤテはまだ帆桁につながるロープへ辿り着けずにいた。
「……遅いっ」
片手で舵を支えて銃を持ったシンが、ハヤテの周囲を狙い撃つ。
「あぶねぇな、シンっ」
「ふん、当てるようなヘマはしねえよ」
口許に笑みを浮かべたシンが、動きまわるハヤテの肩を掠めそうなスレスレの弾道で襲撃者を倒した。
「それは、こっちの台詞だってぇーのっ! 誰が当たるようなヘマするかよっ!」
『相変わらずだな…』
戦闘中も減らず口の多い二人に、我は苦笑しつつ、感心する。
シンの援護射撃で、確実に道を切り開いたハヤテが、ミズンマストの帆を次々に広げていく。
減らず口の掛け合い以上に、息の合った二人の動き。
「シンさんっ、7時の方角と4時の方角に、船があります」
襲撃者たちの太く低い声があちこちで響く中、ヒロインの声が甲板に降ってきた。
「よしっ、あっちの船にもお礼をするぞ。ナギ、大砲の用意だ。シン、船体頼んだぞ」
リュウガが不敵な笑みを浮かべる。
大砲抗穴は我の側面。
シンが舵を両手に持って、敵船を同時に砲撃できる角度に転回させていく。
夕焼けと夜の狭間。
竜胆紫に輝く波を側面に受けながら、我は砲弾を襲撃者たちに浴びせたのだった。


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