胆礬色



若い海賊達が運び込んできた宝箱を、我は興味深く眺めた。
我はシリウス。海賊王率いる海賊達の船。
『珍しい宝箱だな。まだ中を見ていないのか』
宝箱は見つけたが、鍵は見つからなかったらしい。
見つけたのがハヤテとトワなら、珍しくもない不手際だ。
「このタイプの鍵は、この隙間に金具を差し込んでスライドさせると…」
ソウシがピンセットを隙間に差し込んで、右に滑らせると、カチャリと金属が動き合う音が箱の内部に響いた。
「おぉぉ、すげえっ。さすがソウシさんっ」
ハヤテが、かなり期待した様子で宝箱を開ける。
『……綺麗な青だな』
形は水晶の結晶のようだが、澄んだ青空のような、とても美しい色をしていた。
割れたものもあるが、箱いっぱいに同じ石が詰まっている。
「……で、コレ、何? ダイヤじゃねーし…サファイヤとかじゃねーよな……水晶か?」
ハヤテが、ざらざらと手で箱の中身をかき混ぜ、全部同じ石だと確認する。
箱の隅や下には、真っ白い粉がたまっていた。
「うわぁ、綺麗な宝石ですね。すごいです、ハヤテさん」
ヒロインが覗きこんで賞賛する。
しばらく考え込んでいたソウシが、医務室へ一度戻り、薬皿と水を持ってきた。
トワが不思議そうにソウシに尋ねる。
「ソウシ先生? どうしたんですか?」
「あ、うん、なんかこの青い結晶、見覚えがあると思ってね。念のためだよ」
宝箱の底にたまっていた白い粉を薬皿にすくい取り、水を数滴かける。
水を浴びた白い粉は、たちまち宝石と同じ澄んだ青色になった。
『……確かに、これは見覚えがあるな』
我は、ソウシが医務室で行っている様々な実験や薬生成の過程を思い起こす。
他の海賊達が目にすることはあまりないが、我は船の精霊。船内で起きた全てのことを知っている。
「わぁ、不思議な粉ですね。石と同じ色になった。綺麗…」
ヒロインが目を輝かせた。
ソウシは、そんなヒロインに、可愛いとにっこり笑いかけ、青い宝石を一つ、もってきた水の中に落とした。
次第に、水が青く宝石色に染まっていく。
「え? この宝石、水に溶けるんですか?」
トワが、驚いてソウシの手元を覗き込む。
「はあ? 水に溶ける宝石があるかよ」
ハヤテもトワに倣って、ソウシの手元を覗き込んだ。
『溶けているな…つまり、宝石ではないということか…』
「ハヤテ、これは人魚が命かけて守った宝だと言っていたんだよね?」
「え? ああ。アイツら、この宝箱の鍵は、人魚が持っているって言ってたし…」
「……そうだね。その話は本当かもしれないよ? この石は、たぶん…海水白点病の特効薬だね」
ソウシが結晶が溶けて青く染まった水を見ながら硫酸銅溶液だね、と小さく頷く。
「え? じゃあ、これ全部、お魚さんの薬ですか?」
トワが複雑そうに宝箱を見下ろした。
「人間にも使える薬の原料、といったところかな。水に弱いものだから、瓶に入れておかないとね」
残念そうなハヤテやトワとは対照的に、ソウシはとても嬉しそうだ。
「くっそー。苦労したのになー」
「買えば高価な薬剤だよ?」
ソウシは、十分に高価な宝物だと告げた。
『下手にリュウガやシンに自慢する前で良かったな』
不満そうなハヤテの隣に立つ。
精霊である我の言葉は人には聞こえない。
リュウガとシンは、相談を終えて今、船長室を出てきたところだ。
どうやら我は、宝箱の石と同じくらい青く澄んだ空の下、次は南へ向かうことになりそうだった。


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