EMリレーSS 第二期 第一話 「あの世の沙汰も、この世の沙汰も」
ツェンバルン。この周辺では唯一の大都と呼ばれるだけの大きさを持った街である。その大きさは、でっかい病院に動物園、劇場、遊園地にメロディランド、ハイパーゲーセンに美術館までもが存在することからわかるだろう。
リョウコウから歩いて8日、途中で妙な遺跡に迷い込み、ついでに会いたくもないカイルとレミットらに追いかけまわされたりしていた悠也たち一行は、ようやく辿り着いたこの都で一息ついていた。
「さすがに人が多いな」
「ま、大都って言われるくらいだしね」
市場を埋め尽くす人々の中で、そんな会話をしているのは悠也とリラである。
「はあ〜、すごいですねぇ」
その隣では、若葉が感嘆の声を上げている。以前に立ち寄ったジェクリやターヴァルザン、カーゼルーンでもこのくらいの人出はあったのだが、そのときは若葉が行方不明になるのを恐れた悠也がなんとか宿屋に引き留めていたので、若葉にとっては珍しい光景なのだろう。
今日は、ウェンディとフィリーを宿に残し、数日前に遺跡で得たお金(やたらと調子がよく、勝って勝って勝ちまくってしまった)を持って市場に買い物に来た三人だった。
「ところで、どうしてウェンディは来なかったんだ?」
「部屋が気に入らないんだって」
「……また模様替えか」
部屋中ひっくり返して家具を移動させていであろうウェンディと、出発前に部屋を元に戻す苦労を想像して、悠也はため息をついた。リーダーは辛いのだ。
そのころの宿屋。
「くしゅん!」
「きゃっ、何よ何よ!?」
「ぐす……誰かが噂でもしてるのかな」
「こんだけバタバタとホコリたててたら、そりゃくしゃみも出るわよ」
「もう少しだから、我慢してください。あ、そっち持ってもらえますか?」
「……あんた、あたしに何期待してるの?」
「……私が悪かったです」
話を戻して、市場では。
「あ、おい若葉! 一人で先に行くんじゃない!」
人混みの中、なぜか誰にもぶつかることなくすいすいと進んでいく若葉。しかし、進んでいく方向は目的の店とは逆方向だった。相変わらずの天才的方向音痴は健在である。
「何で若葉はこの人混みの中を誰にもぶつからずに進めるんだ!?」
「一種の才能かもしれないわね……」
「なんつーはた迷惑な……と、こんなこと言ってる場合じゃない。若葉は?」
「あそこよ」
「確か、三つ目の角を左、でしたね」
リラが指さす先には、そんなことを言いつつさっきの場所から二つ目の角を右に曲がっていく若葉の姿。すでに現在位置からして間違っているので、もはやどこにつくのかは神のみぞ知る。いや、神ですら予想はつかないかもしれない。
「このままでは、追いつけないどころか俺たちまで迷子になってしまう……」
絶望的な表情を悠也は浮かべる。脳裏には、迷子の若葉を見つけだしたはいいが、ふと気づくとそこは自分も知らない場所だった、というほぼ確実に訪れるであろうすばらしい未来が浮かんでいた。
そんな悠也を、リラがちょいちょいとつつく。
「ん?」
「このまま若葉を追いかけてたんじゃ、予定してた買い物もできないじゃない」
「しかたないだろ」
「あたしはごめんだからね、そんなの。あたしは自分の分を先に買ってくるわ。というわけで、後は任せたから」
「へ?」
「じゃ〜ねぇ〜」
「あ、おい、ちょっと!」
振り返ったときには、すでにリラの姿は人混みの向こうに消えていた。元盗賊の面目躍如といったところか。しかし、人混みの中をそれだけの早さで移動できるのなら、若葉を捕まえてくれてもいいじゃないか、とも思うのだが。
後に残された悠也は、しかたないな、とつぶやくと、改めて若葉を追いかけはじめた。
リーダーは、苦労人であるだけでなく、お人好しでなければつとまらないのだろうか。
同じ頃、本人にとってははなはだ不本意であろうが、第三者が評すればお人好しと言われてしまう行動をついとってしまいがちなリーダーは。
「ぐがー」
もう太陽も高いというのに、完全に熟睡していた。何しろ、遺跡から大量の遺物(カイルにしてみればガラクタ)を担いで来たのだ。疲れもしようというものである。朝早く、この宿屋の一階でなにやら騒ぎがあったのだが、その騒音にもめげずに寝続けているのは立派かもしれない。
コン、コン
そんな時、部屋の扉がノックされた。
カチャ……
返事も待たずに扉が開く。その向こうにいたのはカイルのパーティメンバーの一人、楊雲だった。
「起きてください……」
「ぐがー」
「カイルさん、起きてください……」
「ぐがー」
全く起きそうにないカイルの様子に、ぴくっ、と楊雲の瞼が動く。
「起きないなら……」
「どわあっ!?」
ベッドから放り出され、床に顔面を打ち付けて、カイルは飛び起きた。
「な、何だ何だ!? 何が起こった!?」
慌てて周りを見回すが、静かにたたずむ楊雲がいるだけ。後は、ベッドがひっくり返っている他は昨夜と変わらない部屋……
「……何でベッドがひっくり返る?」
「さあ……」
人一人ではとうてい持ち上げることができないようなベッドがひっくり返っている。その理由を、なぜだかカイルは楊雲に問いただすことができなかった。
「起きたのなら、食堂に来てください。カレンさんがお話があるそうです……」
そう言って、くるりとカイルに背を向け部屋を出ていこうとする楊雲。
と、足を止めて一言。
「……そのベッドも、戻しておいてください」
十数分後。
「で、このオレ様に話とはどういうことだ?」
ツェンバルンの宿屋の食堂。そこでカイルは、パーティメンバーであるカレン、メイヤー、楊雲を前にふんぞり返っていた。無意味に偉そうである。
すでに食事時は過ぎており、四人の他に客の姿は見えない。
「お金がないの」
単刀直入にカレンが言った。その表情は疲れ切っている。
「何?」
カレンのその言葉に怪訝な顔をするカイル。
「確かに、先日の遺跡では少々不覚をとって金を奪われたりしたが……まだ残っていただろう?
それに、遺跡から持ってきた大量のガラクタ……じゃなくて」
メイヤーの鋭い視線を受けて慌てて言い直す。
「遺物も、大変な価値があるものとか言っていただろう! あれを売り払えば……」
「なんてこと言うんですか!」
ガタン、と音を立てて立ち上がり、身を乗り出すメイヤー。それに合わせてのけぞってしまうカイルだった。なんだかんだ言っても押しが弱いのだ、この男は。
・・・・
「確かに、あの遺物には考古学的価値があります! だからこそ! あのような貴重な遺物は私が保管して調査しなければならないのです!」
「保管だと?」
「……この街の博物館に。保管料として3000ゴールドの出費となります……」
カイルのいやーな予感を楊雲が的中させてくれる。
「必死に止めたんだけどね……」
カレンの疲れの原因は、メイヤーを止めようとしたことである。今朝起きたという騒ぎはそれのこと。さぞかし大きな騒ぎだったに違いない。
だが、結局止めることはできなかったというわけだ。まあ、考古学に関係することで下手にメイヤーの妨害を行うと、命に関わるかもしれないのでしかたないといえばしかたないのだが。
「となると、残っているのは……?」
「今日の分の宿代を払ったら、ゼロよ」
カレンのつぶやきには、絶望的な響きがあった……
「うー……」
レミットは、机の上に乗っている袋をうなりながら見つめていた。
「うー……」
いくらうなっても、視線の先にあるぺたんこの袋、はっきり言ってしまえば空っぽの財布には何の変化も起きない。
「うー、どうしよう……またアイリスに怒られちゃう……」
王位継承権を持ってはいないとはいえ、マリエーナ王国のお姫様であるレミットとその一行は、悠也達やカイル達よりも多くの資金を持っている。しかし、その大部分はアイリスが管理しており、レミットの個人で使える金額はさほど大きなものではない。
いくらレミットの押しに弱いアイリスといえど、お金の使い方に関しては厳しかった。何しろ旅の途中だ。下手に無駄遣いしたら行き倒れになりかねない。
そんなわけで、この大都ツェンバルンについて早々無駄遣いしてしまったレミットは、空っぽの財布を前にうなっているのである。
「あの、どうしたんですか、レミットさん?」
宿屋の食堂の隅で、空っぽの財布をにらんでうーうー言っているレミットに、おそるおそるティナが声をかける。
「ティナ、お金持ってない!?」
藁にでもすがりつくような思いでティナにすがりつく。
「は、はあ。お金ですか? その、私はあんまり……」
「そんなぁ!」
すがったティナは、やっぱり藁だった。あえなく沈没するレミット。
どうにか気を取り直して、再び財布をにらみつけてうなりだしたレミットの耳に、パーティの残り二人の会話が飛び込んできた。どうやら出かけていた先から帰ってきたらしい。
「いやぁ、よう食べたなぁ」
「うう……ボク、もうダメ……」
「なんや、だらしないやっちゃなぁ」
「あ、あんなに食べられるのなんて、アルザくらいだよ……勝手に人の分まで注文するんだから」
「ぜーんぶ食ったらタダになるんやで。食わなきゃ損やろ」
「ボクにはとても無理……」
「ほれ、元気だし。失敗したときの罰金もうちが払ってやったやないか」
「半分だけだよ……おかげで、ボクもアルザもお金残ってないじゃないか。今夜の夕飯とかどうするの?」
「またあそこに食いに行けばええやろ」
「そんなぁ……」
話が進むたびに沈んでいくレミット。
「あはは……」
ティナは、もう笑うしかなかった。
「……遅いわよ」
市場の入り口で、リラは待ちくたびれていた。さすがにこのあたりになると、人もまばらになってくる。
「悪かったな。あの人混みの中から若葉を探し出す苦労を考えてくれよ」
その言葉通り、悠也の顔には疲労が伺える。
「どうもすみません……ご迷惑をおかけしたみたいで」
そんな悠也の後ろで、若葉がぺこぺこと頭を下げていた。
「まったく、鍛え方が足りないんじゃないの? 確か、あんたのいた世界って凄く人が多いんじゃなかったっけ?」
「休日の秋葉原くらいは経験あるが、あいにくコミケには行ったことなくてな」
「は?」
「いや、何でもない」
元いた世界のことを思い出し、ちょっと懐かしさを覚える悠也である。
「さて、ようやく買い物ができるわね。悠也、財布ちゃんとある? あの人混みの中ですられたなんて言わないでよね」
「えーと……」
懐を探る悠也。
「……あれ?」
じとーっ、とその様子を見つめるリラ。首を傾げて、まるでわかっていない様子の若葉。
「確か、この辺に……」
「……」
「……」
「おっかしいな」
「……」
「……」
「お、あった」
「まあ、よかったです。本当になくしてしまったかと……」
「中身は?」
悠也が懐から取り出したものを見て、ほっとしたように手を合わせる若葉だが、リラの声は変わらず冷たかった。
「えーと、福沢さんが2枚に夏目さんが5枚。小銭の数もあってるぞ。総計25531円なり、だ」
「ほえ?」
「……」
「……」
「珍しいお金ですねぇ。初めて見ました」
「……」
「どこのお金よ、それ」
「……てへ」
「……この、おバカ!!」
ぱかーん、と景気のいい音が市場に響き渡った……
「……というわけで」
とある宿屋でパーティメンバーを前に悠也が宣言する。
「オレ様達は早急に金を稼がなければならん」
別の場所で、同じようにカイルが。
「できるだけ、あいつらに知られないようにするのよ! アイリスにも!」
やはり、別の場所でレミット。
……かくして、三者三様の資金獲得作戦が始まった。
==================================
中書き・1
……おかしい。予定と全然違う。フィリーの出番を多くしようとか、前回全然出番のなかったロクサーヌを出してやろうとか、いろいろたくらんでいたのに。
さすがに、久しぶりに書くとうまく書けませんね。特に、エタメロキャラをちゃんと書けているか心配です。最近やった別のゲームとかのキャラがいろいろと入ってしまっているような気がしてならない……いや、絶対入ってるだろうなぁ……
……やっぱり、書く前にもう一度エタメロをプレイし直した方がよかったかなぁ。
さて、今回から新シリーズですが、前回からあんまり時間は経っていません。次の街に行っただけだし。さらに、今回の話はツェンバルンの中だけで展開しそうだし、一体第四の魔宝にたどり着くのはいつになるやら(笑)。
しかし、実にベタなネタですいませんです。いやあ、いろいろと忙しいってのもあるんだけれど、ネタを考えるのって大変なんだなぁ……
あちこちでたくさん小説とかを書いてる人を尊敬しますよ、ホント。
それでは、次の人がんばってください。