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STAGE 0 待ちきれなかったお姫さま
 
「でも…でも、もしまたここに戻ってきたら…」
「うん」
「…真っ先に私に会いに来るって約束してくれる?」
「戻ってこれるかどうかはわからないけど…でももしそうなったら、最初に会いに行くよ」
「うん」
 
 そんな会話をかわしたあの夜から、もうだいぶ経っていた。今日までの間レミットは、嫌いな王宮で大人しくしている。彼が「またここに戻ってきて、真っ先に会いに」来てくれたとき、どことも知れない場所をお忍びで旅していたら会えないかもしれない、と思っていたからだ。
 しかし、もともとこらえ性のあまりない彼女のことである。日増しにイライラはつのっていき、今では関係ない侍女の皆さんにもあたり散らすようになってしまった。
 そして、今日もまた。
「アイリスさん、アイリスさーん」
 マリエーナ王国の王宮に、キャラットの声が響いた。彼女はあの魔宝探索の旅ではレミットとともに旅をしていたのだが、それが終わった今では、同じく一緒に旅をしていた若葉とともに、このマリエーナに滞在している。長い間旅を続けていて仲良くなったレミットが、あれ以来ずっと寂しそうにしていたのを放っておけなかったのである。
 そんな彼女の声に答え、奥まった部屋からアイリスが姿を現す。あの旅が終わるまではずっとレミットと一緒にいた彼女だが、旅から戻り侍女長に就任してからは、他の侍女たちの指導や管理のために、こうしてレミットと離れていることも珍しくない。
「どうかなさいましたか、キャラットさん?」
「…うん…。また、レミットがね…」
「…姫さまが…」
 それだけで大体の状況を察したアイリスは、キャラットとともにレミットの部屋に向かった。たどり着いてみると、扉の前ではお城に上がったばかりの新しい侍女がおろおろしており、キャラットと同じような理由でここにいる若葉がそれを一生懸命なだめている。
「あ、アイリスさん」
 気づいて声をかけた若葉の声に、新人侍女も顔を上げる。そしてアイリスにかけよると、どうしましょうどうしましょうと狼狽しきった声を上げた。話を聞くと、不慣れな彼女は午後の紅茶の時間にレミットのお好み通りのものを出すことができず、機嫌を損ねてしまったらしい。アイリスはそんな彼女を優しくなだめ、持ち場へ戻すと、傍らのキャラットと若葉を見た。
「…姫さまは…やはり、お寂しいのでしょうか…」
「うん…。やっぱり、最近のレミットっておかしいよ…」
「そうですね…。ふさぎ込んでいらしたかと思うと、いきなり怒鳴ったり…」
「…姫さま…」
 アイリスは少しうつむくと、意を決したように顔を上げ、彼女にしてはやや強く、レミットの部屋のドアをノックした。
「…なによ」
 小さく、かなり不機嫌そうなレミットの声が聞こえる。
「…姫さま、アイリスです」
「・・・・・・」
「…失礼します」
 返事はなかったが、アイリスは、失礼を承知で、部屋に踏み込んだ。
 
「・・・・・・」
 アイリスはただ黙ってレミットを見つめた。
 別にレミットは泣いているわけでもそっぽを向いているわけでもなかった。レミットもまたただ黙って、ものすごく不機嫌そうな顔でアイリスを見ている。
 恐る恐るアイリスの後ろから部屋に入ったキャラットと若葉が、不安げにそんな二人を見守る。意外にも、アイリスはいつものような困惑顔ではなく、なんだか厳しい雰囲気を漂わせている。
「何なのよ!」
 そんな雰囲気に気圧されたのか、レミットが苛立たしげに怒鳴った。しかしアイリスはそれにひるむこともなく、静かに口を開く。
「…姫さま…」
「・・・・・・」
「…今の姫さまは…姫さまらしくございません」
「なっ…」
「いつもの…私の好きな姫さまは、確かに気に入らないことを我慢するような方ではございませんが、気に入らないことがあったらそれを自分自身のお力で、変えていこうとなさる方のはずです」
「・・・・・・」
「姫さま。ご自分が本当に望んでいるのは何なのか、そのために本当にしなければならないことは何なのか…よくお考え下さい」
「ア…アイリス…」
 言われたレミットは、困惑したような、不安そうな目でアイリスを見た。その無言の要求に応えるように、アイリスは、優しく言った。
「私が今言えるのは…、
 一番好きな人と一緒にいるのが、一番幸せで、一番自然なことだということ…
 ただ、それだけです」
 そんなアイリスの言葉にうなだれるレミットを見て、心配になった若葉が駆け寄る。一方キャラットは、そのまま部屋を出ていくアイリスを慌てて追った。
「ア、アイリスさん…いいの? レミット放っておいて…」
「大丈夫です、キャラットさん」
「え?」
「貴女もご存知の通り…姫さまは、とてもお強い方ですから」
 
 そして、その日の夜のことである。
「アイリス」
 いつもの侍女控え室ではなく、人気のあまりない廊下にいたアイリスは、レミットの小さな声に呼ばれ、振り返った。声をかけたレミットは、すっかり旅装を整えている。
「…あのね」
「わかっております、姫さま」
 答えたアイリスは微笑んで、足下に置いてあった、旅に必要な道具一式を持ち上げた。
 
 結局、その夜のうちに、レミットとアイリス…そして、長く一緒にいた者のカンからか二人の行動に気づいた若葉とキャラットは、揃って城を出た。
「でも、これからどうするの? あてなんて何にもないんでしょ?」
 不安そうにキャラットが尋ねる。
「そうですね。どうしましょう、姫さま?」
「とりあえず…カレンに相談してみようと思う」
 カレンは、以前の旅でレミットと一緒に旅をしていたメンバーの、最後の一人である。パーティ最年長の彼女は、旅の途中で困ったことが起こったときに最も頼りになる、自称の通りの「おねーさん」だったのだ。だから、レミットの言葉に皆異存があろうはずもなかった。
「でも、カレンさんって今どこにいるの?」
「パーリアに戻ってらっしゃるはずですよ」
 キャラットの問いに即答するアイリス。あらかじめ調べは済んでいるらしい。さすが第三王女レミットの優秀侍女といったところか。
「カレンさんにお会いするのもお久しぶりですね。楽しみですわ」
 若葉が楽しそうに言う。
 再び世界各地に散った魔宝を集め直すのは、以前の旅以上に厳しいものになるはずだ。それに対する不安がないといったら嘘になる。だが、今の若葉と同じように、楽しみに思っているのも確かだ。
「よし! それじゃあ、行くわよ!」
 レミットは右腕を高々と上げ、付き従う三人に号令をかけるように言った。王宮を出た、本当に自分のしたいことを見つけた彼女は生き生きとしていて、すっかり彼女本来の姿を取り戻していた。そんな彼女を、アイリスは、まるでまぶしい光と向き合っているかのように、目を細めて見つめていた。
 
<To Be Continued>
 

STAGE 0 あとがき
 
 どーも、もーらですー。とりあえず正式タイトルも決まらないままの「電脳戦記エターナルメロディ(仮)」の第0話です。レミットの告白〜追っかけまでの間のお話です(するってえと、時間的には小説版EMと同じ時期ってことになるんだなあ)。うーん、ギャグのつもりで企画は立てたんだが…まあいつものことか。エタメロのパロディストーリーなのですが、仮タイトルの通りストーリーラインは「バーチャロン」だったりします…なんて無茶な。
 で、これを書いてる途中で頭をよぎったことをひとつ、徒然なるままに書いてみようかと思います。タイトルは、
 
『迫り来る保母さんの影』
 
 さて、私はここしばらくエタメロをやってません。うーん、うまく書けるかなあ…。まあ、うまくいかないことがあったらまた立ちあげてやってみればいいか…とか思い書き始めたわけですが。
 私は話を書いてるとき、たまに、このとき登場人物はどんな顔してるんだろうな…とか考えたりするのですが、アイリスさんの顔を思い浮かべようとして、頭の中に浮かんできた相手に一言。
「セ○ーヌ。君じゃない」
 あああ…。最近UQ2ndばっかりやってたからなあ…。
 なんとかアイリスさんのイメージ修正は終わり(ちょっとアイリスさんがしっかりしすぎてるのは、彼女のイメージから修正するときの副作用です)、話を進めたのですが…それだけでは終わりませんでした。
「違う、若葉なんだ! セリ○ヌ、君じゃないっ」
 このお話で若葉のセリフが少ないのは、彼女のせいかも知れません。
 
※魔宝探索のパーティについて。
 魔宝探索の旅での各パーティのメンバーは以下の通りです。
 主人公…楊雲、メイヤー、リラ。
 カイル…アルザ、ウェンディ、ティナ。
 レミット…カレン、若葉、キャラット(、アイリス)。
 
※エンディングについて
 これ以降本編で触れることもあるでしょうが、特に言及しない場合、各キャラクターは背景なしエンディングを迎えることになります。その結末にまだ至っていないキャラクターも大勢いますが。
  
 それでは次回予告…
 
STAGE 1 “GET READY!”
íNEXT ENEMY
 Karen−Lekakis
 Energy-Arrow
 Energy-Arrow
 Sword
 

 
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