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第一幕 「絆」 前編

 君主にとって、最も重要な使命とは何か。
 国内の政治?
 確かにそれも大切なことだ。しかし、優秀な家臣がいれば、君主がぼんくらでも内政に問題は生じない。現に君主は君臨するだけで統治はしていない国だってある。
 でなければ国の代表としての外交?
 確かに君主が出向いた方がいい場合もなくはないだろう。しかし、それだって家臣でことが足りることに違いはない。ぼんくらな君主が余計なことをよそで言ってくるよりは優秀な家臣がそつなくこなした方が丸く収まる方がことだってある。
 あとは…戦の際陣頭指揮を執り、兵士達の志気を高めるとか?
 それこそ、討ち死にでもすれば国はとんでもないことになる。陣頭指揮を執るのなら優秀な将軍の方がずっと安全だし効果的だ。
 それでは一体なんだろう?
 どんなにぼんくらで無能な君主でも、彼らにしかできないことがある。
 それは、君主の支配の永続性を守ること。つまり、君主の血筋を残すこと。

 …有り体に言えば…子づくり、である…。

 そして、君主の子は多い方が血筋は安泰だし、政略結婚で国内を固めたり他国との関係を作ったりできて、好都合だ。継承戦争などが勃発するおそれももちろんあるが、それとて継承者不在の空位時代を作るよりはマシだろう。

 ジャルドゥラン帝国の第五代皇帝・ハミト一世は、内政においても外交においても軍事面でも実に優秀な君主であったが、ただ一つ、その点についてだけは失敗をした。
 彼は、一夫多妻が当然のジャルドゥラン帝国の、皇帝という立場でありながら、それこそ3ケタに及ぶ女性たちを侍らすことすら望めばできたのに、生涯を通じてただ1人の后しか持たず、後継者も40を過ぎてからようやく授かったカディル皇太子ただ1人だけしか設けられなかったのだ。
 ジャルドゥラン帝国は現在国力すこぶる旺盛で、周辺諸国を次々と征服したり、軍事的圧力をかけつづけたりしている。周囲は敵ばかりなのだ。ハミトには兄弟はあったが征服戦争のさなか皆戦死しており(皇位継承争権を巡りハミトに暗殺されたという噂も当然あるが、真偽は闇の中だし、今更それを明らかにする意味もない。ハミトは前述の通り皇帝としては充分優秀な能力を持っていたのだ)、現在唯一皇位継承権を持っているカディル皇太子が暗殺でもされれば国はとんでもないことになるし、その危険性も充分にあった。現に、未遂事件なら数回起きている。
 しかし幸いなことに、カディル自身は今のところ無事だし、ハミトの後継者として申し分ない能力を備えるに至っている。もとよりカディルが生まれた時点で40を過ぎていたハミトは、既にこの国の平均寿命に照らして、いつ鬼籍に入ってもおかしくない60過ぎの高齢にある。この国の皇位は崩御まで譲れないことになっているので実際の継承についてはまだ先になるとしても、カディルが実権を引き継ぐことにほとんど問題はなかった。
 ただ一つのことを、除いては。

 ジャルドゥラン帝国の首都ジェンネットにある皇宮は、隆盛を誇る国に相応しく、豪奢で華麗な建造物である。
 大きさだけ見てみても相当なもので、皇族の他にも文武百官がそれぞれの任務に奔走しているはずでも、皇族たちの居住区画は静寂に包まれているのが常だった。
 しかしその時、ずぅん、という重々しい音が響いたかと思うと、荒々しい足音がそれに続いた。眉間に深いしわを寄せながら、ぶつぶつ言って歩き出したのは皇太子のカディル。分厚くて重い皇帝の居室の扉を叩き付けるように閉めたところから察するに、かなり機嫌は悪いようだ。
(まったく…。父上も自分のことを棚に上げてよく言うよ…)
 ぶつぶつ言いながら自分の部屋に向かっていた彼は、その途中で突然歩みを止める。
「そんな所で何してんだ?」
「あやっ!?」
 カディルが振り向き視線を向けた先には、一人の娘が、カディルに話しかけることもせずオロオロしながらつっ立っていた。年頃の娘にしてはやけに飾り気のない、動きやすさ重視の服に身を包み、化粧っ気もない。見るからに「自分を綺麗に見せる」ということに関心がなさそうな風体だ。もっとも、それは彼女がそんなことに関心を持たなくても充分美しいという幸運な天の恵みのためかもしれないが。
 あるいは、彼女の身分や立場のため、なのかもしれない。彼女はアクセサリーの類は全く付けていなかったが、腰に一振りの曲刀をさしていた。この皇宮の中で帯刀が許されるのは、皇族たちと最上級武官、そして皇族親衛隊というごく一部の人々だけだ。彼女はその最後の一つに該当した。
「あ、あのっ、あっち歩いてたらカディルを…じゃなかった、皇太子殿下をみつけて…あ、いや、お見かけして、その…お話ししようと思ったら、すごい恐い顔してたから…じゃなくって、その…あややー…」
 何だかしどろもどろになっている彼女を見て、カディルは険しかった表情をゆるめた。
「俺の部屋に行こう」

 娘の名は、リュヤという。前述の通り皇族親衛隊の一員だ。当然武芸全般についてはかなりの腕前を誇る。それは、彼女の父が他ならぬ親衛隊の隊長であり、幼い頃から女の子でありながらそういった武術に触れる機会が多かったためでもある。
 それだけではない。リュヤの母は、カディルの乳母をつとめた女性で、従ってカディルとリュヤは乳兄妹ということになる。幼い頃は本物の兄妹同然に育てられており、カディルがこの国の風習に従い13歳で成人するまでは、リュヤは彼のことをお兄ちゃんなどと呼んでいたという過去もある。お互い大きくなってからはさすがに兄妹みたいに一緒、というわけにはいかなくなったが、それでも気の置けない幼なじみであることに変わりはなかった。
 そんな彼女ももう19歳となり、人並みの分別もある。成人して正式に皇太子となったカディルと、人目があるところで対等の口をきいたらまずい、ということくらいはわかっているのだが、兄妹同然に育てられていたためか、二人きりになると口調は昔のようになってしまう。慌てたりするとその切り替えがうまくいかず、先程のようになることもある。カディルの方も、そんなリュヤに敬語でよそよそしく話されるのは気分が良くないので、二人きりになれる場所、つまり自分の居室に彼女を誘ったわけだ。
 ちなみに、蛇足ではあるが、年頃の娘であるリュヤが年頃の青年であるカディルの部屋で彼と二人きりになることについては、さほど問題にはならない。お互いが兄妹同然で相手を異性として見ていないから、などという理由ではない。皇太子であるカディルが、皇宮の中の女性に手を付けたところで、文句を言う者など誰もいない、ということだ。

「あたしだって分かってはいるんだよ。でも、やっぱりカディルに敬語って、慣れないな」
 カディルの部屋の毛足の長い絨毯に、行儀悪く脚を放り出して座りながら、ほっと息をついて、安堵の笑みとともにリュヤが言う。もちろんこんな態度は皇太子のカディルに対しては不敬もいいところなのだが、それをいろいろ言われないために彼はリュヤをここに連れてきたのだ。
「俺もだ。お前に臣下の態度なんて取られても居心地が悪いだけだ」
「だよね」
 二人は向かい合って座ると、楽しそうに微笑んだ。少しだけの沈黙の時を挟み、真顔になったリュヤが口を開いた。
「それで、どうしたの? なんだか、すっごい怖い顔してたよ」
「あん? んー…」
 問われたカディルは困ったように、リュヤから目を逸らす。
「あたしには言いにくいことなのかな? だったら、ムリには聞かないけど…」
「…いや、聞いてくれ。考えてみたら、お前じゃなきゃ話せない」
 もう一度リュヤに向き合うと、わずかにためらってから、それでもカディルは話し始めた。
「父上がいまどういう有様かは、知ってるよな?」
「うん」
 カディルの父である現皇帝のハミトは、老齢のためめっきり体力が落ち、重病にこそなってはいないものの軽い病に度々罹り、寝たり起きたりを繰り返すようになっていた。他国はもちろん国民にも伏せていることではあるが、親衛隊員であり、皇太子の乳兄妹であり、皇族居住区を含め皇宮の中を好きに歩き回れるリュヤの耳には当然そのことは入っていた。
「でな、俺に政治の実権を譲る、って言うんだよ」
「そっか。まあ、カディルしかいないんだし、いつかはそうなるよね。おめでとう…なのかな? カディルは権力なんて嬉しくないだろうから、めでたくもないのかな」
 幼なじみであるリュヤは当然、カディルの性格を概ね把握している。頭もいいし剣の腕も立つ。政治も軍事も優秀。だが、人の上に君臨するなどという偉そうな真似は、彼の好むところではないのだ。案の定、カディルの表情は浮かないままだ。
「ちっともめでたかないよ。まあ、皇帝にならなきゃならないってのは前からわかってたことだから諦めるとしてもだ」
 そこで言葉をいったん句切り、じっ、とリュヤを見つめるカディル。何か普段と態度が違う、とリュヤは思った。
「いきなり、『カディルよ、儂は家臣達に済まないと思っていることがある』とか言い出してな。何かと思ったら…」
「ふふ…あや、ごめん」
 親子だけあって、カディルがハミトのモノマネをするとやたら似ている。それでつい失笑してしまったリュヤだったが、カディルの表情が険しいままだということに気づいてあわてて口をつぐんだ。カディルは気にせず続ける。
「『跡継ぎをお前一人しか設けなかった故、国の将来に対して家臣達はひどく心を砕いたことだろう。
 そこでお前に国を任せるに当たり、一つ、命じておきたいことがある。
 后を多く持ち、子を多く設けよ。なに、案ずることはない。相手は儂が手配しよう』
 …だとよ」
「…え?」
 リュヤの目が丸くなる。
「つまりだ。あのアホ親父、俺に女を三人も四人も囲え、って言ったんだよ。ヘタするともっと多くかもしれないがな」
「あやや…」
 今度はリュヤの目が宙を泳いだ。
「そりゃ、俺だって男だからな。女が嫌いとは言わない。だが、一人の男に女が何人も、ってのは…なんだ、巧く言えないが、不公平っていうのか? んー…少し違うか。とにかく、嫌なんだよ。父上だってそう思ったから、母上一人しか娶らなかったんだろうが。それを俺にはそういうことを言うなんて、勝手とは思わないか?」
「んー…」
 今度はリュヤの方が、カディルから視線を逸らし、眉間にしわを寄せて難しい顔でうなり始めた。何と言っていいか、わからないらしい。
「こんなこと聞ける女はお前しかいないから、率直に聞くぞ。お前が嫁いだ相手に、他の女がいたらどう思う?」
「あ、え? あやー、いきなりそんなこと聞かれても困っちゃうけど…んー…」
 しばらく首をひねっていたリュヤだったが、やがて表情を引き締めると、真っ直ぐにカディルを見つめた。
「あたしは…そうだなあ、『嫁いだ相手に』っていうと、ちょっとわかんないかな。好きになった相手に嫁げるとは限らないし」
 リュヤも自分の立場はわきまえている。父は皇族親衛隊長、母は皇太子の乳母。相当な権力者の家の娘である彼女の結婚が政略結婚になっても不思議はない。いや、ならない方が不思議だ。
「だから、『好きになった相手に』ってことでいい?」
「ああ」
 カディルは、自分をじっと見つめたまま目も逸らさないリュヤに引きつけられるように、自分も目を逸らせずにうなづいた。
「あくまで、あたし個人の感じ方なんだけどね。
 あたしは、あたしが好きになった人が幸せになってくれることが、一番嬉しい。だから、その人が他の人もいた方がいいって言うなら、それでいい。それにね」
 そこでいったん言葉を句切り、少しだけ目を伏せたリュヤは、もう一度強い視線をカディルに向け直した。
「もし、一夫一婦だったら、あたしが好きになった誰かがあたしの前に誰かと結婚したらさ、あたし、諦めるか、その奥さんが別れたり死んだりしていなくなるの待ったり祈ったりするかしないといけないじゃない? そんなのは嫌だし…。
 あたしは、他の誰かが一緒でも、好きな人と一緒にいられるなら、その方がいいな。
 …あ、あやや、ごめんね。なんだかうまくまとめられないよ」
「そうか…。
 なあ、リュヤ。やっぱり俺、何人も后持った方がいいのかな」
「それは…。国のためを思うなら、その方がいいんだと思うよ。だって、お后さまが何人かいれば、子供も何人も生まれるでしょ。カディルの子供だったら、きっとこの国のためになるもの。
 でも、カディル自身のためを思うなら…。カディルの納得いくようにすればいいと思う、としか、あたしには言えないよ。ただ…あたしより、カディルの方がもっと…好きな相手と結婚するって、難しいと思うけど…。
 それに、こんなこと言うのって意地悪だと思うけど…今の皇帝陛下に皇后陛下がお一人しかいらっしゃらないのは、ご自分のときの後継者争いが嫌になったから、だよね? その陛下がカディルにそういうこと言ったんだから、カディルなら自分の子供たちをそういう争いを起こさないように育てることができるって、陛下もお考えになったんだよ。カディルだって、文句言ってたって、あたしなんかに言われなくても全部わかってるんだよね? …カディルは、その期待、きっと裏切れない…んじゃ、ないかな」
「ちッ。ホントに意地が悪いな。なんでもお見通しかよ、ヤなヤツ」
 カディルはリュヤに背を向けて歩き出すと、寝台にごろんと寝転がった。リュヤが最後に言ったことは、カディルにも確かにわかってはいたことだ。それをずばり言うリュヤはさすがだと、カディルは思った。
「仕方ないのかな…。はァ。
 せめて、相手を自分で選べりゃな」
 ぼそっとつぶやいたカディルの声を、リュヤは聞き逃さなかった。
「選べるなら…誰がいいの?」
「ん?」
「この人なら、っていう女の人、誰かいるの?」
「そうだなあ…」
 カディルは何か言おうとして、口をつぐんだ。そしてそのまま、黙ってリュヤを見つめる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 リュヤもそんなカディルを見つめ返し、しばらく二人は黙ったまま、そうして見つめ合っていた。
「…やめておこう…。言っても仕方ないことだからな…」
「…そうだね。ごめん」
 后、というものは、愛妾などとは根本的に違う。愛妾なら高貴な身分の者が気分で選んでよいが、后を選ぶには高度な政治的判断がなければならない。皇族の婚姻は、失敗すれば国内外のパワーバランスを崩しかねない、難しい問題なのだ。
 カディルが気軽に選ぶことができるのは「愛妾」だけだ。今、カディルが話したいのは、そんなことではない。
 ましてや、リュヤに話したいのが、そんなことであるはずがなかった。
「あ…あはは、ごめんね、なんだかあまり力になれなかったね」
「いや、聞いてもらえただけでだいぶ楽になったよ。
 ま、いくらなんでも何人もまとめて寄越すってことはないだろうから、二人目の話が来るまではゆっくり考えるさ。
 …一人目までは、もう間がないだろうがな。どのみち、一人は后持つつもりだったし」
「…ん。そう…」
 気まずくなった空気を振り払うように、リュヤは立ち上がった。
「まあ、皇太子殿下が来いって仰ったんだから、文句は言われないと思うけど、一応あたしも仕事中だから…そろそろ、戻るね」
 取り繕うような笑みを浮かべ、ぱたぱた手を振るリュヤを、カディルは寝台に腰掛けたまま、それでも笑って見送った。

「…ふぅ」
 いろんなものが入り混じったため息を、リュヤはカディルの部屋から出るなりついた。相手がカディルだと、男性だからといって一緒にいて緊張したりすることはない。が、部屋から出るときは話が別だ。下手な相手に見られたらどんな噂を立てられるかわからない。普通の町の若者と町娘の間に立てられる噂とはワケが違う。そのような噂は政治的混乱の元になることさえあるのだ。細心の注意を払って扉を閉めた…つもりだった。が、ずん、と微かだが重い音を立ててしまい、びくっ、と身を震わせる。
 普段はそんなミスはしないリュヤだったが、やっぱり動揺しているのだろう、と、自分で思った。頭ではいつか来るとはわかっていたことだったが、実際にカディルの口から彼の結婚のことを話されたら…やはり、平静ではいられなかった。
 前述の通りリュヤは良家の娘だ。今までの19年間、「友達」としてであっても、そうおいそれと異性とつきあうわけにはいかなかった。その一方で、皇太子であって普通の者にとっては簡単にお近づきにもなれないカディルとは、幼なじみで乳兄妹、ということもあって、年頃になってからもちょくちょく気軽に会うことができた。リュヤにとってカディルは、一番…いや、ほぼ唯一の、親しい異性なのである。思いは複雑だった。
「…ふぅ」
 普段はカディルの部屋の前はなるべくすぐに立ち去ることにことしている。だが、今は気持ちが混乱して、つい足が止まってしまっていた。とはいえここでずっと突っ立っているのもまずい。もう一度ため息をつき、歩き出そうとしたそのときだった。
「リュヤ」
「きゃっ」
 突如名を呼ばれた。別に悪いことをしていたわけではないが、無責任で危険な噂の心配と、そして、自分の心の動揺のせいで、リュヤは必要以上に驚き、悲鳴まであげてしまった。
「おいおい、そんなに驚くことはないだろう。私だよ」
 声の主は苦笑しながら続けた。振り返ると使い込まれた曲刀と革鎧を身につけた壮年の男性がリュヤを見下ろしていた。
「…父さんかあ…驚かさないでよ…」
 親衛隊長まで努める手練れであり、厳しい人物ではあるが、リュヤにとってはそれ以前に父親である。無論、リュヤに関する妙な噂を流したりする人物ではないことは言うまでもない。安堵して一息ついたリュヤだったが、父の顔から笑みが消えたのを見て、自分も表情を硬くした。
「殿下の所に行っていたんだな」
「…そう…だけど…」
 当然、リュヤがカディルの部屋を訪れたのも、そこで二人きりになったのも初めてではないし、そのことを両親に注意されたのも、カディルが成人した時の一回だけだ。今更そのことを何か言われると思っていなかったリュヤは父の真意をはかりかね、首を傾げた。
「…そうか…」
「どうか…したの?」
 どうも父の様子が普段と違う。
「リュヤ。一緒に帰ろう。大切な話がある」
「え? でも…」
 もう夕方も間近ではあるが、まだまだ日は高い。途中でカディルの部屋で話し込んだりもしてはいたが、曲がりなりにも親衛隊員の職務時間内なのである。それを、親衛隊長である父が中断しろ、というのだ。
「かまわん。
 親衛隊の仕事よりも重要な話がある」
「え!?」
 リュヤは驚きで目を丸くした。親衛隊長が、「親衛隊の仕事より重要」などと言うとは、これは本当によほどのことなのだろう。
 そして、自宅に帰ったリュヤは、父からその話を聞き、
「えええぇーッ!!??」
 19年間の人生の中で、一番衝撃的なことを聞かされたのであった。


〈第一幕「絆」後編に続く〉

あとがき

 そんなわけで新作「ダリュスサーデ」の第一回をお送りします。
 私、いわゆる「ギャルゲー」ってやつをよくやるんですがね。その手のゲーム、ヒロインが複数います。
 ゲームだとストーリーの分岐があって、その中の誰かとエンディング、ってなってめでたしめでたしなわけですよ(まあシナリオ上めでたくないエンドもありますけれど)。ところがそれを別メディアでやろうとすると(ゲームのノベライズやOVA化、あるいはもとより類似コンセプトのマンガとか)、当然お話は一本道になりますので、メインヒロイン以外の扱いがややこしくなります。ゲームだったら最初から会わないルートを選ぶとか、全然仲良くしないとかいう方法も取れるわけですが、別メディアではキャラクターそのものは出さないといけないし、それなりに主人公とも絡める必要があります。それでいて主人公は最後まで八方美人じゃいられないわけですね。メインヒロインときっちりくっつかないとならない。
 ゲームでは複数同時攻略はキライな私なのですが、ふと、物語でそれ(複数ヒロイン皆と丸く収まる話)をやってみたくなりました。でもそうすると、主人公がフタマタ(以上)をかける必然性ってのが要ります。ただモテるだけ、ってのはムカつくから却下として(笑)。
 で、選んだ題材が「ダリュスサーデ」だったんですね。このタイトル、オスマン・トルコの後宮の名前です。「ハーレム」って言った方が通りはいいんでしょうが、これはアラビア語ですし、もともとは「立ち入り禁止」って意味しかないし、それにこれをタイトルにするのはあまりにあんまりだったんで…。
 本編でカディル殿下が嘆いていたように、彼の元にはこれから何人かお后様が来ます。展開の方はなるべくベタでこっ恥ずかしいお話にしようってくらいの展望しかないですが(笑)。

 つまり、この話のコンセプト、一言で言えば「同時攻略したギャルゲーのシナリオ」なんですね。

 さて、どうなりますことやら。今回は長くなりすぎたのを途中で切ってとりあえず載せてありますので、次回(後編)も、割とすぐ発表できると思います。

 では、そのときを(よかったら)お待ち下さいね。

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