一茶発句全集(14)・・・秋の部(1)

最終補訂 2004年7月4日

秋の部

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時候

 

七月

    七月の大べら坊に暑かな            七番日記   化2

 

葉月

    二度目には月ともいはぬ葉月哉      文政句帖   政7

 

九月(長月、菊月)

  菊月や山里 〜 も供日酒      寛政句帖  寛5  「供」→「共」
  小蕣大蕣も九月哉         文化句帖  化2
  ひやう 〜 と瓢の風も九月哉    文化句帖  化2
  長月の空色袴きたりけり      文化句帖  化3
  長月や廿九日のきくの花      化五六句記 化5
  長月の廿九日のかゞし哉      七番日記  化7
  長月も廿九日をのべのてふ     七番日記  化10
  菊月や外山は雪の上日和      文政句帖  政5
  夜 〜 は長月もあつかれな     文政句帖  政6

 

秋立つ(秋来る)

  藪越や御書の声も秋来ぬと     樗堂俳諧集 寛8  (出)遺稿
  唐崎や寝顔より秋の立       与播雑詠  寛10
  山おろし秋のやうすの夜明哉    黄華集   寛10
  寝心や秋立雨の風さわぐ      西紀書込  寛中  (異)遺稿 下五「竹を吹」
  秋立や身はならはしのよ所[の]窓  文化句帖  化1
  丘の家秋[の]きぬらし笛を吹    文化句帖  化1
  立秋や旅止まくと思ふ間に     文化句帖  化1
  夜水さへかゝらぬ町や秋立と    文化句帖  化2
  秋立や木づたふ雨の首筋に     文化句帖  化3
  秋立や峰の小雀の門なるゝ     文化句帖  化3
  秋立や雨ふり花のけろ 〜 と    化五六句記 化5
  秋立や風より先に雪の事      化五六句記 化5
  秋立や寝れば目につく雪の山    化五六句記 化5
  秋立やあるが中での小松しま    七番日記  化9
  秋立や隅の小すみの小松島     株番    化9  (出)『文政版』
  息才に秋と成たる草葉哉      七番日記  化11  「才」→「災」
  そこらから秋が立たよ雲の峰    七番日記  化11
  立秋もしらぬ童が仏哉       七番日記  化11
  夕やけや人の中より秋が立     七番日記  化11
  秋立やあつたら口へ風の吹     七番日記  化12
  あはう草うか 〜 伸な秋が立    七番日記  化14
                         (異)『希杖本』上五中七「草蔓よあはうに伸な」
  秋立といふばかりでも寒哉     文政句帖  政5
  秋立や朝飯の板木の間より     文政句帖  政5
  秋立やおめしの進む風が吹     文政句帖  政5
  立秋は風のとがでもなかりけり   文政句帖  政5
    六月十九日より八月六日迄照つゞく
  小山田やわれながらに秋の立    だん袋   政6
  堺丁やしんかんとして秋の立    文政句帖  政6
  三越路や秋立てより村時雨     文政句帖  政7
  秋立といふばかりでも足かろし   文政句帖  政8
  秋立は立ても十九土用哉      文政句帖  政8
  足玉の軽く覚えて秋の立      文政句帖  政8  「玉」→「下」
  来ぬ秋とけんを見せけり冷た雨   文政句帖  政8
    狗子有仏生                    「生」→「性」
  秋来ぬとしらぬ狗が仏かな     文政版     (異)『八番日記』(政3)上五「けさ秋と」
  秋立やおこりの落たやうな空        希杖本
    藪竹の曲った形に秋は来ぬ          発句集続篇

 

今朝の秋(初秋)

  雨だれや三粒おちてもけさの秋   文化句帖  化1
  門畠のはれ 〜 しさよかさの秋   文化句帖  化1
  今朝の秋山の雪より来る風が    化五六句記 化5
  雪うりのさめ 〜 立りけさの秋   化五六句記 化5
  けさ秋ぞ秋ぞと大の男哉      七番日記  化7
  なん[の]そのしらでもすむをけさの秋七番日記  化8
  初秋や人のなしたる門の露     七番日記  化10
  けさ秋と云ばかりでも小淋しき   七番日記  化11(異)『八番日記』(政3)下五「老にけり」
  けさ秋と合点でとぶかのべの蝶   七番日記  化11
  けさ秋や瘧の落ちたやうな空    八番日記  政2
  御目出度存じ候今朝の秋      八番日記  政3
                          (異)『八番日記』『文政版』下五「けさの露」
    有狗子仏性
  けさ秋としらぬ狗が仏哉      八番日記  政3  (異)『文政版』上五「秋来ぬと」
  小盥の魚どものいふけさの秋    八番日記  政4
  木兎のあきらめ顔やけさの秋    八番日記  政4
  科もない風な憎みそけさの秋    文政句帖  政5

 

二百十日

  呑手共二百十日の何のかのと    文政句帖  政5
  二百十日の何のかのと呑手共    だん袋   政6 (異)『発句鈔追加』中七「何のかのとて」

 

残暑(秋暑し)

  萩芒秋の暑もけふ翌か       七番日記  化7
  よい程に夜が暑いぞ萩すゝき    七番日記  化7
    薄月に残る暑をたのみ哉            我春集     化8
    萩の葉にひら 〜 残る暑哉          我春集     化8
    三ヶ月に残る暑のたのもしき        七番日記  化8    (異)『我春集』中七「残る暑ぞ」
    茶屋の灯のげそりと暑へりにけり    七番日記  化11
                                                    (異)書簡 前書き「両国」上五「茶屋が灯の」
    三ヶ月の暑もよはり給ふ哉          七番日記  化14
  老の身は暑のへるも苦労哉     だん袋   政3  (出)『発句鈔追加』
  たのもしや暑のとれぬ三ヶの月   発句題叢  政3
               (出)『希杖本』(異)『嘉永版』『発句鈔追加』中七「まだうす暑き」
  遊夜の暑たしなく成にけり     八番日記  政4
  門の月暑がへれば友もへる     八番日記  政4  (異)『嘉永版』下五「人もへる」
  友もへり暑もへるや門の月     八番日記  政4
                    (異)『だん袋』『梅塵八番』『発句鈔追加』上五「人立も」
  夜参りよ門の暑も今少       八番日記  政4
           (異)『梅塵八番』上五「寝余るよ」『だん袋』『発句鈔追加』上五「遊ぶ夜や」
  門の夜や大事の暑へりかゝる    文政句帖  政6
    老ぬる身は夜寒の寝覚のみ心に先立
  まだたのしまだ暑いぞよ三日の月  希杖本

 

秋寒

        木曽にて
    秋寒き河を聞こと今いく夜          真蹟       寛中
  秋寒むや行先 〜 は人の家     享和句帖  享3
    扇波百ケ日
  うつる日やあはれ此世は秋寒き   享和句帖  享3
  ほうろくのがらつく家や秋寒[き]  文化句帖  化2  「ほ」→「は」
  寒くなる秋をしん 〜 しいん哉   七番日記  化12
  秋寒し鳥も粘つけほゝん哉     七番日記  化13  「粘」→「糊」(異)同日記(化13)上五「夜寒とて」
  くらがりやこそり立ても寒い秋   発句鈔追加   (異)『文政句帖』(政7)下五「冷い秋」

 

うそ寒(やや寒、そぞろ寒)

        洲崎詣
  漸寒き後に遠しつくば山      享和句帖  享3
  うそ寒 〜 とて出る夜哉      化五六句記 化5
  うそ寒き風やぼけのみ木瓜[の]花  化五六句記 化5
  うそ寒く売れて参る小馬哉     化五六句記 化5
  草家からうそ 〜 寒くなる夜哉   化五六句記 化5
  うそ寒も小猿合点か小うなづき   志多良   化10
  うそ寒や親といふ字を知てから   七番日記  化10
         (出)『句稿消息』前書き「周流諸国五十年」『嘉永版』(異)『七番日記』『句稿消息』
               「親と云ふ字を知てから秋の暮」『八番日記』(政2)「親のいふ字を知てから夜寒哉」
  うそ[寒や]我両罔の殊勝さよ    七番日記  化10  「両罔」→「罔両」
  うそ寒し 〜 と作るかきね哉    七番日記  化11
  うそ寒や只居る罰が今あたる    七番日記  化11
  うそ寒や如意輪さまもつくねんと  七番日記  化11
  売もせぬ窓のわらじやうそ寒[き]  七番日記  化11  「じ」→「ぢ」
  寝むしろや虱忘れてうそ寒[き]   七番日記  化11
              (異)『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』下七「やゝ寒き」
  うそ寒や蚯蚓の声も一夜づゝ    八番日記  政2
                  (異)同日記(政2)『梅塵八番』『嘉永版』中七「蚯蚓の唄も」
  狼の糞さいそゞろ寒かな      八番日記  政2  「い」→「へ」
  うそ寒や仏の留主の善光寺     八番日記  政3  (異)書簡 中五「如来の留守主の」
  うそ寒も真事寒いも年とれば    八番日記  政4  (異)『梅塵八番』中七「誠さむなり」
    いつくしま
  御鳥もうそ 〜 寒き芽さしかな   発句鈔追加

 

肌寒

    はだ寒き国にふみ込むゆふべ哉      享和句帖  享3    (異)『名家帖』中七「園にふみ込む」
    けぶり見へ戸隠見へて肌寒き        化三―八写 化4    「へ」→「え」
        今から江戸は
    柴の戸の眠かげんや肌寒き          七番日記  化13
    肌寒やむさしの国は六十里          七番日記  化13

 

朝寒

    朝寒にとんじやくもなき稲葉哉      享和句帖  享3    「じ」→「ぢ」
        誰謂河広
    川西の古郷も見へて朝寒み          享和句帖  享3    「へ→「え」
    関の灯[の]とれかねる也朝寒み      享和句帖  享3
    念入て竹を見る人朝寒き            享和句帖  享3
    朝寒や松は去年の松なれど          文化句帖   化1
    あさぢふや茶好になりて朝寒き      文化句帖   化1
    深川の家尻も見へて朝寒き          文化句帖   化1    「へ」→「え」
    朝寒き浅ら井見へて御ふく鍋        文化句帖  化2    「へ」→「え」
    朝寒し 〜 と菜うり箕うり哉        文化句帖  化2
    朝寒や梅干桶も旅のさま            文化句帖  化2
    朝寒や蟾も眼を皿にして            文化句帖  化2
    朝寒を狙も合点か小うなづき        七番日記  化10
    わらじ売窓に朝寒始りぬ            七番日記  化13    「じ」→「ぢ」
    朝寒や垣の茶笊の影法師            版本題叢   政3  (出)『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
    朝寒や菊も少々素湯土瓶            八番日記  政3
    朝寒や隙人達のねまる程            八番日記  政3    (異)『梅塵八番』中七「隙人連の」
    朝寒に拭ふや石の天窓迄            八番日記  政4
    朝寒や雑巾あてる門の石            八番日記  政4
    朝寒や茶腹で巡る七大寺            八番日記  政4    (異)『梅塵八番』中七「茶漬で巡る」
    朝寒のうちに参るや善光寺          文政句帖  政5
        (出)真蹟(異)『七番日記』(化14)上五「凍とけぬ」『文政句帖』(政6)上五「朝凍の」

 

夜寒

    酒呑まぬ吾身一つの夜寒哉          寛政句帖  寛5
    咬牙する人に目覚て夜寒哉          寛政句帖  寛5
    やゝ寝よき夜となれば夜の寒哉      寛政句帖  寛6
    湖に鳥鳴初て夜寒かな              松風会     寛8
    言伝も哉夜寒のいまだありと        西紀書込   寛中
    活過し門の夜寒や竹の月            享和句帖  享3
    殻俵たゝいて見たる夜寒哉          享和句帖  享3
    灯ちら 〜 どの顔つきも夜寒哉      享和句帖  享3
    見る程の木さへ山さへ夜寒哉        享和句帖  享3
    青梧の見れば見る程夜寒哉          文化句帖   化1
    朝見れば夜寒げもなし次の宿        文化句帖   化1
    兄分の門とむきあふ夜寒哉          文化句帖   化1
    さる程に五両の松も夜寒哉          文化句帖   化1
        貧交
    すりこ木もけしきに並ぶ夜寒哉      文化句帖   化1
                                         (出)『発句鈔追加』(異)同句帖(化1)下五「夜永哉」
    先住がめでし榎も夜寒哉            文化句帖   化1
    野ゝけぶり袖にぞ這る夜寒哉        文化句帖   化1    「ゝ」→「の」
    蒔捨の菜のうつくしき夜寒哉        文化句帖   化1
    向ひでも片ひざ立る夜寒哉          文化句帖   化1
        きのふは洪水のかなしびをよ所に見なして、けふは火災のなげき我身
        にかゝる。実にうき世の哀楽は、瞬の間も待たず。十とせ労してふや
        したる器材も、只一時の灰となる。我も人もおそれつゝしむべし。
    やけ石や夜寒く見へし人[の]顔      文化句帖   化1    「へ」→「え」
    山見るも片ひざ立て夜寒哉          文化句帖   化1
    悪い程松うつくしき夜寒哉          文化句帖   化1
    青柳の門にはら 〜 夜寒哉          文化句帖   化2
    さる人のおもしろがりし夜寒哉      文化句帖   化2
    二度生の瓜も花咲く夜寒哉          文化句帖   化2
    なでしこの気を引立る夜寒哉        文化句帖   化3
    なでしこの一花ほこる夜寒哉        文化句帖   化3
    鶏の小首を曲る夜寒哉              文化句帖   化3
    人[の]声森に夜寒はなかりけり      文化句帖   化3
    山里や夜寒[の]宵の歩き好          文化句帖   化3
    夜寒さへ川さへ住ば住れけり        文化句帖   化3
    いなゝくや馬も夜寒は同じ事        化五六句記 化5
    かくべつの松と成たる夜寒哉        化五六句記 化5
    門の木に階子かゝりし夜寒哉        化五六句記 化5
                 (出)『鴫の井』(異)『随斎筆紀』『鴫の井』『発句類題集』中七「階子かゝりて」
    げつそりと夜寒くなりし小家哉      化五六句記 化5
    こと 〜 く仏の顔も夜寒哉          化五六句記 化5
    月出て夜寒ならざる家もなし        化五六句記 化5
    何の夜寒関のうらてや人の立        化五六句記 化5
    ふら 〜 と瓢のやうに夜寒哉        化五六句記 化5
    わた売はちり 〜 と夜寒哉          化五六句記 化5
    芦に舟いかにも 〜 夜寒也          七番日記  化7
    小柱や己が夜寒の福の神            七番日記  化7
    古郷や是も夜寒の如来様            七番日記  化7
    うしろから大寒小寒夜寒哉          七番日記  化8    (出)『我春集』
    さぼてんのさめはだ見れば夜寒哉    七番日記  化8
                                             (出)同日記(化11)(異)『我春集』下五「秋の風」
    まじ 〜 と梁上君の夜寒哉          七番日記  化8
    芦の家の見ればみる程夜寒哉        七番日記  化10
    あばら骨なでじとすれど夜寒哉      七番日記  化10    (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』
    今見ても石の枕の夜寒哉            七番日記  化10    (出)『句稿消息』
    芋などが裾にからまる夜寒哉        七番日記  化10
    をじ甥の家のごちや 〜 夜寒哉      句稿消息   化10    「じ」→「ぢ」(出)『志多良』
    折 〜 は蚤もしく 〜 夜寒哉        七番日記  化10
    救世観世音かゝる夜寒を介給へ      七番日記  化10
    早速に身程あたりの夜寒哉          七番日記  化10
    死こぢれ 〜 つゝ夜寒かな          志多良     化10    「ぢ」→「じ」
                                 (異)『七番日記』(化10)『句稿消息』『志多良』下五「寒かな」
    寝ぐらしに丁どよい程夜寒哉        七番日記  化10    (出)『志多良』『句稿消息』
    粘つけよと[て]鳥の鳴く夜寒哉      七番日記  化10    「粘」→「糊」
                                                       (類)『文政句帖』(政5)下五「紙子哉」
    鳩部屋に鳩が顔出す夜寒哉          七番日記  化10
    火ともして生おもしろき夜寒哉      七番日記  化10
             (類)『志多良』下五「草の露」『句稿消息』『文政版』中七下五「生おもしろや草の露」
    一夜 〜 虫喰ふ虫も寒い声          七番日記  化10
    手下鼓脇の夜寒をしらぬげな        七番日記  化10    「手下」→「下手」
    窓の竹うごくや夜寒始ると          七番日記  化10
    木兎が杭にちよんぼり夜寒哉        七番日記  化10
                                             (異)『志多良』『句稿消息』中七「株にちよんぼり」
    むつまじき家のごちや 〜 夜寒哉    七番日記  化10
    両国の両方ともに夜寒哉            七番日記  化10    (出)『志多良』『文政版』前書き
         「茶屋の万燈日ましにへりぬ」(異)『句稿消息』『発句題叢』『希杖本』中七「両方一度に」
    石梨のからり 〜 と夜寒哉          七番日記  化11
                                                   (異)『八番日記』(政4)上五「さいかちの」
    熊坂の松のみ残る夜寒哉            七番日記  化11
    はつとして丸屋 〜 の夜寒哉        七番日記  化11
    母親に狙がおぶさる夜寒哉          七番日記  化11
    腹上で字を書習ふ夜寒哉            七番日記  化11
    身をつんで人の夜寒をしられけり    七番日記  化11
    六十に二つふみ込む夜寒哉          七番日記  化11    (出)『文政版』
    石橋を足で尋る夜寒哉              七番日記  化12
    犬にけつまづいたる夜寒哉          七番日記  化12
    うき世[とて]空も夜寒や雲急        七番日記  化12
    狼どのより漏どのが夜寒哉          七番日記  化12
    かゝる時姥捨つらん夜寒哉          七番日記  化12
    せつかれてむりに笛吹夜寒哉        七番日記  化12
    次の間の灯で飯を喰ふ夜寒哉        七番日記  化12
                                      (異)『希杖本』前書き「同じ心を」真蹟 中七「行燈で寝る」
    ならはしや木曽の夜寒の膝頭        七番日記  化12
    ぬつぽりと立や夜寒の大入道        七番日記  化12
    膝がしら山の夜寒に古びけり        七番日記  化12
                 (異)『嘉永版』『発句鈔追加』『栗本雑記五』『句草紙初篇』中七「木曽の夜寒に」
    笛吹や已に夜寒が始ると            七番日記  化12
    豆煎を足で尋る夜寒哉              七番日記  化12    (異)同日記(化14)上五「たばこ盆」
    椋鳥といふ人さはぐ夜寒哉          七番日記  化12    「は」→「わ」
    むだ人の遊かげんの夜寒哉          七番日記  化12
                                 (異)『だん袋』上五「庵の夜の」『発句鈔追加』上五「庵の夜は」
    餅腹をこなして歩く夜寒哉          七番日記  化12
    藪と見へ人と見へつゝ夜寒哉        七番日記  化12    「へ」→「え」
    我庵は尻から先へ夜寒哉            七番日記  化12
    庵の夜寒成りなりにけり            七番日記  化13
    大声に夜寒かたるや垣越に          七番日記  化13
    おもしろう豆の転る夜寒哉          七番日記  化13
    垣外へ屁を捨に出る夜寒哉          七番日記  化13
    店賃の二百を叱る夜寒哉            七番日記  化13
    ぼつ 〜 と猫迄帰る夜寒哉          七番日記  化13
    見上皺見下し皺の夜寒哉            七番日記  化13
    卅日銭がらつく笊の夜寒哉          七番日記  化13
    身一つ[に]是は朝寒夜寒哉          七番日記  化13
    夜寒とて鳥も糊つけほゝん哉        七番日記  化13    (出)『希杖本』(異)同日記(化13)上五「秋寒し」
    いろりから茶[の]子堀出す夜寒哉    七番日記  化14    「堀」→「掘」(出)『希杖本』
    草の穂のつんと立たる夜寒哉        七番日記  化14    (異)『希杖本』上五「草花の」
    〓の大声上る夜寒哉                七番日記  化14    〓は虫偏に「車」
                                       (異)同日記(化10)『志多良』『句稿消息』下五「卅日哉」
    立臼の蓑きせておく夜寒哉          七番日記  化14
    掌に藍染込で夜寒哉                七番日記  化14
    ばか咄嗅出したる夜寒哉            七番日記  化14
    咄する一方は寝て夜寒哉            七番日記  化14
    行灯を引たく[ら]れて夜寒哉        七番日記  政1
        独旅
    一人と書留らるゝ夜寒哉            七番日記  政1
                     (異)同日記(政1)中七「帳に付たる」『ひうち袋』『文政版』『希杖本』真蹟
                         中七「帳面につく」『さびすなご』『笠松集』中七下五「帳面につく寒かな」
    かくれ家や夜寒[を]しくのあつめ垣  七番日記  政1    「くの」→「のぐ」
    木のはしの法師に馴るゝ夜寒哉      七番日記  政1
    盆の灰いろはを習ふ夜[寒]哉        七番日記  政1
   (異)『八番日記』(政2)中七「いろは書く子の」『梅塵八番』上五中七「盆の灰にいろは書子の」
    窓[の]月とれてそうして夜寒哉      七番日記  政1    「そ」→「さ」
    宮守を鼬のなぶる夜寒哉            七番日記  政1
    藪陰をてうちん通る夜寒哉          七番日記  政1
    赤馬の苦労をなでる夜寒哉          八番日記  政2
    親のいふ字を知てから夜寒哉        八番日記  政2    「の」→「と」
                                           (異)『七番日記』(化10)『句稿消息』下五「秋の暮」
                     『七番日記』(化10)『句稿消息』『嘉永版』「うそ寒や親といふ字を知てから」
        若僧の扇面に
    影法師に恥よ夜寒のむだ歩き        おらが春   政2    (出)『文政版』書簡
    から樽を又ふつて見る夜寒哉        八番日記  政2
    小便所爰と馬呼夜寒哉              八番日記  政2
                                       (出)『おらが春』『発句鈔追加』前書き「戸迷せし折から」
    のらくらが遊びかげん[の]夜寒哉    八番日記  政2    (出)『おらが春』
    古郷を心でおがむ夜寒哉            八番日記  政2    「お」→「を」
                         (出)『発句鈔追加』(異)『おらが春』前書き「老楽」上五「子どもらを」
    若い衆のつき合に寝る夜寒哉        八番日記  政2
    青空のきれい過たる夜寒哉          だん袋     政3    (出)『発句鈔追加』
        留主居
    老が身は鼠も引ぬ夜寒哉            八番日記  政3    (出)『発句鈔追加』
    山鳥の尾のしだりをの夜寒哉        だん袋     政3    (出)『発句鈔追加』
    行灯のしん 〜 として夜寒哉        八番日記  政4
    蚊の責をいまだのがれぬ夜寒哉      八番日記  政4
    菜畠の元気を得たる夜寒哉          八番日記  政4
    弱蚊の伽に鳴たる夜寒哉            八番日記  政4    (異)『梅塵八番』上五「一つ蚊の」
    足で追ふ鼠が笑ふ夜さむ哉          文政句帖  政5
    草の家は秋も昼寒夜寒哉            文政句帖  政5
    さをしかのきげんの直る夜寒哉      文政句帖  政5
    寒いのはまだ夜のみぞうらの山      文政句帖  政5    (異)同句帖(政5)上五「寒いのも」
            『だん袋』『発句鈔追加』中七「まだ夜ばかりぞ」真蹟 中七下五「まだ夜ふかしぞ山の家」
    大寒の寄れば過たる夜寒哉          文政句帖  政5
    荷の間から空を見る夜寒哉          文政句帖  政5
    寝ぐらしの空塩梅なる夜寒哉        文政句帖  政5    (異)真蹟 上五中七「隣人寝塩梅なる」
    寝て暮らす衆が祝ふ夜寒哉          文政句帖  政5    (出)遺稿
    寝莚に夜寒のきげん哉              文政句帖  政5
    窓際や虫も夜寒の小寄合            文政句帖  政5
    藪村に豆腐屋できる夜寒哉          文政句帖  政5
    我としの値ぶみされたる夜寒哉      文政句帖  政5
    うしろ壁見い 〜 咄す夜寒哉        文政句帖  政8
    親の[状]小壁をおがむ夜寒哉        文政句帖  政8    「お」→「を」
    親の状三度いたゞく夜寒哉          文政句帖  政8
    汁のみのほちや 〜 ほけて夜寒哉    文政句帖  政8
                                   (出)『梅塵抄録本』(異)『発句鈔追加』中七「見事にほける」
    雨雲が山をかくして夜寒かな        政九十句写 政10        (出)『希杖本』
    入もせぬ山見覚へる夜かな          政九十句写 政10    「へ」→「え」(出)『希杖本』
    裸組裸かげんの夜寒かな            政九十句写 政10        (出)『希杖本』
    ずんずんとぼんの凹から夜寒哉      あつくさ           (異)『七番日記』(政1)下五「寒哉」
    我庵や夜寒昼寒さて是は            希杖本          (異)『希杖本』「我庵は夜寒所か昼も又」

 

冷やか(冷ゆる、下冷え)

    下冷もさいごと公居に涙哉          西紀書込   寛中
        掻首踟〓ス                                       〓は足偏に「厨」
    よりかゝる度に冷つく柱哉          享和句帖  享3
    背中から冷かゝりけり日枝[の]雲    文化句帖   化3
    冷 〜 と日の出給ふうしろ哉        文化句帖   化3
    越後山背筋あたりを冷つきぬ        化三―八写 化4
    背筋から冷つきにけり越後山        連句稿裏書 化4
    冷つくや背すじあたりの斑山        連句稿裏書 化4
    下冷の蓑をかぶ[つ]てごろり哉      七番日記  化14
    下冷や臼の中にてきり 〜 す        七番日記  化14
    下冷よ又上冷よ庵の夜は            七番日記  化14
    風冷りひゝやり秋や辰のとし        文政句帖  政6
    風ひやり 〜 からだの〆り哉        文政句帖  政7
                                   (出)『たねおろし』前書き「夕風寒く山を下る」『発句鈔追加』
    闇がりやこそり立ても冷い秋        文政句帖  政7    (異)『発句鈔追加』下五「寒い秋」
        十万憶土よい連なれど少用あり迹から
  先へ行て下冷ぬ場を必ずよ     文政句帖  政7  (出)書簡 前書き「送皐鳥仏」
  下冷の子と寝替りて添乳哉     文政句帖  政7
  寝転ばなを下冷る夜舟哉      文政句帖  政7  「を」→「ほ」

 

有明

  有明に躍りし時の榎哉       享和二句記 享2
    二竹しなのへかへる
  有明やさらしな山も通りがけ    文化句帖  化1
  有明や空うつくしき蚊の行衛    化五六句記 化6
  有明や窓からおがむぜん光寺    七番日記  化13

 

秋の寝覚

  秋の寝覚翌陰らん戸穴哉      西紀書込  寛中
  柴[の]戸の空見る秋の寝覚哉    西紀書込  寛中

 

秋の宿

  只一つ見る俵かよ秋の家      享和句帖  享3
  だゝ広い夜明となりぬ秋の宿    遺稿

 

秋の日

  秋の日やかへらぬ水をなく烏    文化句帖  化1
  秋の日や山は狐の娵入り雨     文政句帖  政6

 

秋の夕

  山見ても海見て[も]秋の夕哉    西紀書込  寛中
  御旅宿の秋の夕を忘れたり     西紀書込  寛中
  植足しの松さへ秋[の]夕哉     文化句帖  化1
        そのかみ天和の比となん、鶴を殺して従類刑せられし其屍を埋し跡とて、念仏院
        といへる寺あり。二百年の後に聞さへ魂消るばかり也。況縁ある人においておや。
  見ぬ世から秋のゆふべの榎哉    文化句帖  化1
  鶴亀の上にも秋の夕哉       文化句帖  化2
  秋の夕親里らしくなかりけり    連句稿裏書 化4
  たまに来た古郷は秋の夕哉     連句稿裏書 化4
    小児玉迎                     「玉」→「霊」
  赤紐の草履も見ゆる秋の夕     七番日記  化7
             (異)『文化三―八年句日記写』(化7)前書き「小児新盆」下五「秋の暮」
  赤玉は何のつぼみぞ秋の夕     七番日記  化9
  さぼてんやのつぺらばうの秋の夕  七番日記  化11
                             (異)『発句鈔追加』下五「秋のくれ」
  野歌[舞]伎や秋の夕の真中に    七番日記  化11
  棒きりのづんづと秋の夕哉     七番日記  化11  「づ」→「ず」
    更級山
  姥に似た石の寝やうや秋の夕    版本題叢  政3
              (出)『発句鈔追加』(異)『発句題叢』『希杖本』真跡 下五「秋の暮」
  なくなるや見倦し秋の夕さへ    文政句帖  政5
    翁の讃
  立給へ秋の夕をいざさらば     政九十句写 政9  (出)『希杖本』
  芦の穂を蟹がはさんで秋の夕    発句鈔追加
     (異)『的申集』下五「秋のくれ」『画餅集』『嘉永版』中七下五「蟹がはさみて秋のくれ」

 

秋の暮

  象潟や朝日ながらの秋のくれ    蚶満旅客集 寛1
  秋の暮大木の下も人たゆる     享和句帖  享3
    釆蘋
  釜かけて空見る人や秋の暮     享和句帖  享3
    鴇羽
  烏さへおやをやしなふ秋の暮    享和句帖  享3
  たのみなき大木の下や秋の暮    享和句帖  享3
  手招きは人の父也秋の暮      享和句帖  享3
  一つ鵜の水見てゐるや秋の暮    享和句帖  享3
  一つなくは親なし鳥よ秋の暮    享和句帖  享3
  窓引によりのけられつ秋の暮    享和句帖  享3
  御仏の外の石さへ秋の暮      享和句帖  享3
  我植し松も老けり秋の暮      享和句帖  享3
               (出)『文化句帖』(化1)(異)『享和句帖』(享3)上五「植捨の」
    下ノ関
  どの蟹も平家めく也秋の暮     文化句帖  化3
  又人にかけ抜れけり秋の暮     化三―八写 化3
  石川の胸にこたゆる秋の暮     連句稿裏書 化4
  薄靄の足にからまる秋の暮     文化句帖  化5
  蝸牛何をかせぐぞ秋の暮      文化句帖  化5
                       (異)『文化五〜六年句日記』(化6)下五「秋の雨」
  苦の娑婆と草さへ伏か秋の暮    化五六句記 化5
    括嚢順会所以無咎
  梟の一人きげんや秋の暮      化五六句記 化5
    小児新盆
  赤紐の草履も見ゆる秋の暮     化三―八写 化7
                   (異)『七番日記』(化7)前書き「小児玉迎」下五「秋の夕」
  智者達のさたしおかれし秋の暮   七番日記  化7
  象がたやそでない松も秋の暮    七番日記  化8  (出)『我春集』『方言雑集』『希杖本』
  象潟や田中の島も秋の暮      我春集   化8
  さをしかや片ひざ立て秋の暮    七番日記  化8 (類)『八番日記』(政3)下五「山の月」
     『文政句帖』(政8)下五「月見哉」『文化句帖』(化2)上五下五「さをしかの〜雲や思ふ」
  島 〜 や思 〜 の秋の暮      七番日記  化8
  なか 〜 に人と生れて秋の暮    我春集   化8  (出)『発句題叢』『文政版』『希杖本』
                   『世美塚』『深大寺』(異)『名なし草紙』上五「うか 〜 と」
  梟と見しはひが目か秋の暮     七番日記  化8
    松島
  松島や一こぶしづつ秋の暮     七番日記  化8  (異)『我春集』上五「島 〜 や」
  吉原やさはさりながら秋の暮    七番日記  化8
  秋の暮かはゆき鳥の通りけり    七番日記  化9
  生徳や見る物とては秋の暮     七番日記  化9
  姥の寝たやうな石也秋の暮     七番日記  化9
               (異)『発句題叢』『希杖本』真跡 上五中七「姥に似た石の寝やうや」
  出直せば出直す方や秋の暮     七番日記  化9
  活て又逢ふや秋風秋の暮      七番日記  化10  (出)『句稿消息』
  今に成て念入て見る秋の暮     七番日記  化10  (出)『文化十年句文集』
    えいやつと活た所が秋の暮          七番日記  化10
                                       (出)『句稿消息』『文政版』『反古さがし』前書き「病後」
    親と云ふ字を知てから秋の暮        七番日記  化10
                                     (出)『句稿消息』(異)『八番日記』(政2)下五「夜寒哉」
                     『七番日記』(化10)『句稿消息』『嘉永版』「うそ寒や親といふ字を知てから」
        五百仏
    親に似た御顔見出して秋の暮        七番日記  化10    (出)『発句鈔追加』前書き「五百羅漢」
    死神により残されて秋の暮          七番日記  化10
    薪ちよぼ 〜 遠山作る秋の暮        七番日記  化10
                                               (異)『句稿消息』『志多良』上五「柴ちよぼ 〜 」
        松井身まかりぬ[と]聞く
  正夢や終にはかゝる秋の暮     七番日記  化10  (出)『発句鈔追加』
  又活て見るぞよ 〜 秋の暮     七番日記  化10  (異)『句稿消息』上五「活て又」
  祭り草臥もぬけぬに秋の暮     七番日記  化10
  我拵へし野けぶりも秋の暮     七番日記  化10  (出)『志多良』『句稿消息』
  青空に指で字をかく秋の暮     七番日記  化11
  蕣の生れ替りや秋の暮       七番日記  化11
  芦の葉を蟹がはさみて秋のくれ   画餅集   化11  
  (出)『嘉永版』(異)『的申集』上五中七「芦の穂を蟹がはさんで」『発句鈔追加』下五「秋の夕」
  あはう鶴のたり 〜 と秋の暮    七番日記  化11
  うしろから耳つとうする秋の暮   七番日記  化11
  江戸 〜 とえどへ出れば秋の暮   七番日記  化11
  狼も穴から見るや秋の暮      七番日記  化11
  ぎつくりと浅黄の山や秋の暮    七番日記  化11
                      (異)『発句鈔追加』上五中七「きつかりと山は浅黄に」
  草からも乳は出るぞよ秋の暮    七番日記  化11
  乞食が団十郎する秋の暮      七番日記  化11
  杉で葺く小便桶や秋の暮      七番日記  化11
                          (類)『八番日記』(政2)下五「ころもがい」
    三巡
  化されに稲むら歩行秋の暮     七番日記  化11
  身一つは貧乏鬮ぞ秋の暮      七番日記  化11
  むさし野へ投出す足や秋の暮    七番日記  化11
  むら雨やおばゝが槇も秋の暮    七番日記  化11
  やよ狐みやげやらふぞ秋の暮    七番日記  化11  「ふ」→「う」
  小猿めがきせる加へて秋の暮    七番日記  化12  「加」→「咥」
  馬の子も旅に立也秋の暮      七番日記  化13
                          (異)『八番日記』(政2)中七「旅さするかよ」
    なむ克兄仏
  おがまるゝ草とは成ぬ秋の暮    七番日記  化13  「お」→「を」
  親なしや身に添かげも秋の暮    七番日記  化13
  中々に人もむまれて秋のくれ    俳家奇人談 化13
  又ことし死損じけり秋の暮     七番日記  化13
  痩脛にゆるせ秋風秋の暮      七番日記  化13
  赤雲や蝶が上にも秋の暮      七番日記  化14
  秋の暮けふ此ごろの古迹さへ    七番日記  政1
  暑いのがまだたのみ也秋の暮    七番日記  政1
  追分の一里手前の秋の暮      七番日記  政1
          (異)同日記(政1)上五中七「追分は一里手前ぞ」同日記(政1)下五「雲雀哉」
    戸隠山
  鬼の寝た穴よ朝から秋の暮     七番日記  政1
  米缺ぐ水とく 〜 や秋の暮     七番日記  政1  「缺」→「炊」
  床の間の杖よわらじよ秋の暮    七番日記  政1  「じ」→「ぢ」
  一二三四と薪よむ声や秋の暮    七番日記  政1
  我家も一里そこらぞ秋の暮     七番日記  政1
  馬のせの土をはくなり秋の暮    八番日記  政2
  膝抱て羅漢顔して秋の暮      八番日記  政2  (出)『だん袋』『発句鈔追加』
  一人通ると壁に書秋の暮      八番日記  政2(出)『おらが春』『だん袋』『発句鈔追加』
  行な雁住ばどつこも秋の暮     八番日記  政2  (異)『おらが春』中七「住ばどつちも」
                 『嘉永版』上五「立な雁」真跡 上五中七「立な雁いづくもおなじ」
    おれのみ[は]舟を出す也秋の暮      八番日記  政3
    隠家や呑手を雇ふ秋の暮            八番日記  政3
    桟や盲もわたる秋のくれ            八番日記  政3
    此人や蝦夷が島迄秋の暮            八番日記  政3    (異)『梅塵八番』下五「春の雨」
        さどが島
    それがしも宿なしに候秋の暮        八番日記  政3
    留舟や古人ケ様に秋の暮            八番日記  政3
    松の木も老の中間ぞ秋の暮          八番日記  政3    「中」→「仲」
    三日月や江どの苫やも秋の暮        八番日記  政3
    我松も腰がかゞみぬ秋の暮          八番日記  政3
    御地蔵も人をばかすぞ秋の暮        八番日記  政4
    さをしかに書物負せて秋の暮        梅塵八番   政4    (異)『八番日記』下五「更衣」
    立馬は何を笑ぞ秋の暮              八番日記  政4
    株の鷺苦労性かよ秋の暮            文政句帖  政5
    気を[入れて]見れば見る程秋の暮    文政句帖  政5
        善光寺の柱に長崎の旧友昨二日通るとありけるに
    知た名のらく書見へて秋の暮        文政句帖  政5
                                               (出)『だん袋』(異)『文政版』上五「近づきの」
    墨染の蝶の出立や秋の暮            文政句帖  政5
    銭金をしらぬ島さへ秋の暮          文政句帖  政5
    お[さ]な子や笑ふにつけて秋の暮    文政句帖  政6    「お」→「を」
                                   (出)『だん袋』前書き「母におくれたる二つ子の這ひならふに」
                                   『文政版』前書き「母のなき子の這ひならふに」『一茶翁終焉記』
    小言いふ相手のほしや秋の暮        文政句帖  政6
                                         (異)同句帖(政6)中七「相手のことし」「相手は壁ぞ」
    古郷は雲の先也秋の暮              政九十句写 政10  (出)『希杖本』
    糸芒露のよすがの秋の暮            小升屋通い帳裏書
    かな釘のやうな手足を秋の暮        希杖本
                   (異)『句稿消息』『志多良』『文政版』『一茶翁終焉記』下五「秋の風」
    さぼてんやのつぺらぼうの秋のくれ  発句鈔追加         「ぼう」→「ばう」
                                                       (異)『七番日記』(化11)下五「秋の夕」
    爺どのよ何の此の世を秋の暮        希杖本

 

秋の夜

  秋の夜や旅の男の針仕事      寛政句帖  寛5
    有狐綏々タリ
  秋の夜の独身長屋むつまじき    享和句帖  享3
  秋の夜やひと木立でも松の風    享和句帖  享3  (出)『面目棒』『五明句控』
  秋の夜の袖に古びし柱哉      文化句帖  化1
  秋の夜や隣を始しらぬ人      文化句帖  化1
    八月九日夜 俄見物
  秋の夜や人にすれたる天乙女    文化句帖  化1
  秋の夜やよ所から来ても馬の嘶   文化句帖  化1
  秋の夜のひよろ 〜 長き立木哉   七番日記  化7
  秋の夜や窓の小穴が笛を吹     七番日記  化8
                     (異)『我春集』『文政版』遺稿 中七「しやうじの穴が」
  秋の夜やうらの番屋も祭客     七番日記  政1
    枕石山
  秋の夜や祖師もか様に石枕     八番日記  政3  (出)同日記(政3)前書き
          「板敷山の麓に伏して」(異)『発句鈔追加』前書き同前 中七「祖師もかやうな」
    南都
  秋の夜や本丁筋の鹿の声      八番日記  政3
  秋の夜や木を割にさい小夜ぎぬた  八番日記  政4  「い」→「へ」
  秋の夜や乞食村へも祭り客     八番日記  政4
  秋も又蚊のさわぐ夜はたのみ哉   八番日記  政4  (異)『梅塵八番』上五「秋もまだ」
  秋の夜ののらつく程は長くなる   希杖本

 

夜長(長き夜)

  素湯釜を二人し聞は夜永哉     享和句帖  享3
  ばか長き夜と申したる夜永哉    享和句帖  享3
  耳際に松風の吹く夜永哉      享和句帖  享3
  うら門のさまはいかにも夜永哉   文化句帖  化1
  すりこ木もけしきにならぶ夜永哉  文化句帖  化1
                 (異)同句帖(化1)前書き「貧交」『発句鈔追加』下五「夜寒哉」
  出る度に馬の嘶く夜永哉      文化句帖  化1
  人過て夜は明かねて亦打山     文化句帖  化1
  争や夜長のすみの角田川      七番日記  化7
  おもしろき夜永の門の四隅哉    七番日記  化8
  あいつらも夜永なるべしそゝり唄  七番日記  化10
  あばら骨あばらに長き夜也けり   七番日記  化10
  庵の夜も小長く成るや遊ぶ程    七番日記  化10
                   (出)書簡(異)『志多良』『句稿消息』中七「小長く成りぬ」
  庵の夜や寝あまる罪は何貫目    七番日記  化10  (出)『句稿消息』『文政版』遺稿
  一町の惣名代の夜永哉       七番日記  化10
  寝あまる夜といふとしにいつか成ぬ 七番日記  化10  (出)『志多良』『句稿消息』
  おそろしや寝あまり夜の罪の程   七番日記  化10
          (異)『志多良』『句稿消息』中七「寝あまる夜の」書簡 中七「夜が寝あまりし」
  草の戸や夜永の人の又這入る    七番日記  化10
  下駄からり 〜 夜永のやつら哉   七番日記  化10
                      (出)『志多良』『句稿消息』『発句鈔追加』『希杖本』
  小莚や庵に寝あまる祭り客     七番日記  化10
    善光寺の閨を思ふ
  虱ども夜永かろうぞ淋しかろ    書簡    化10  「ろう」→「らう」
                  (異)『志多良』『句稿消息』上五中七「蚤どもが夜永だらうぞ」
                      『七番日記』(化10)上五中七「蚤どもがさぞ夜永だろ」
  其はづ[ぞ]夜永の芒八九尺     七番日記  化10
  十ばかり屁を棄に出る夜永哉    七番日記  化10
    「昼よりも夜は誰をかともし火の咲ちる花もひとり
    詠て」と契仲あざりの病中此通りの淋しさなるべし
  長いぞよ夜が長いぞよなむあみだ  七番日記  化10(出)『志多良』『句稿消息』『発句鈔追加』
  永き夜に旅寝のけいこいたしけり  七番日記  化10
  永き夜の梁をにらむを仕事哉    七番日記  化10
  長き[夜]や心の鬼が身を責る    七番日記  化10
  なむあみだあむみだ仏夜永哉    七番日記  化10
                      (異)『句稿消息』『発句鈔追加』中七「南無あみだ仏」
  蚤どもがさぞ夜永だろ淋しかろ   七番日記  化10
   (異)『志多良』『句稿消息』中七「夜永だらうぞ」書簡(化10)上五中七「虱ども夜永かろうぞ」
  のら猫が夜永仕事かひたと鳴    七番日記  化10
    ばら 〜 と夜永の蚤のきげん哉      七番日記  化10
    腹の上に字を書ならふ夜永哉        七番日記  化10
    細長い夜のはづれ[の]灯かな        七番日記  化10  (出)『発句鈔追加』
    耳底のなる程 〜 夜永哉            七番日記  化10
    よん所なく菊を見る夜永哉          七番日記  化10
                                                 (異)『志多良』『句稿消息』中七「なく菊に立」
        若僧に対して
    影法師に恥よ夜永のむだ歩き        八番日記  政2    (出)同日記(政4)
    永き夜を赤子知て鳴にけり          文政句帖  政5    「鳴」→「泣」
    長の夜にまじりともせぬ山家哉      文政句帖  政5
    行灯の戻る間の永夜かな            文政句帖  政7
    かくれ家や一かたまりの夜永衆      文政句帖  政7
    月入て後もたつぷり一夜哉          文政句帖  政7
    念仏の外は毒なり夜が長い          文政句帖  政7
    夜が長長とさする身骨かな          文政句帖  政7
        田中
    一の湯へ灯貰ひに行く夜永哉        文政句帖  政8ちょうちんの
    草庵や入替り立替り夜永好き        文政句帖  政8    (異)同句帖(政8)上五「草の戸や」
        草庵
    挑灯の灯貰ひに出る世永哉          文政句帖  政8
    世は長し徳りはむなし放れ家        希杖本

 

秋さび

    はせを翁仏器を拝みて
  木魚うつ我も秋さびのひとつ哉   真蹟

 

暮の秋(行く秋、秋の名残、翌なき秋、九月尽)

    俳諧之連歌
  天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ    たびしうゐ 寛7
  利根川の秋もなごりの月よ哉    文化句帖  化1
  大川や暮行あきのかさい酒     文化句帖  化2
  そば花の秋もなくなりかゝる哉   文化句帖  化2
  鳥をりて秋の暮るぞ小梅筋     文化句帖  化2  「を」→「お」
  行秋にひよくと立し田びえ哉    文化句帖  化2
  子共等が翌なき秋をさはぐ也    文化句帖  化2  「共」→「供」「は」→「わ」
  行雲やかへらぬ秋を蝉の鳴     化三―八写 化4
  行秋や妹がお花のそら招き     化三―八写 化6  「お」→「を」
  行秋をぶらりと大の男哉      七番日記  化7
  行秋に角力もとらぬ男哉      七番日記  化7
  行秋や一文不通の尼入道      七番日記  化7
    さが御帰
  行秋や已に御釈迦は京の空     七番日記  化7
  秋行や沢庵番のうしろから     七番日記  化8
  から 〜 と貝殻庇秋過ぬ      七番日記  化8
  行秋やどれもへの字の夜の山    七番日記  化8
    兵庫つき島
  行秋や入道どのゝすゞみ汐     七番日記  化9  (異)『株番』下五「にらみ汐」
  翌からは冬の空ぞよ蝶蜻蛉     七番日記  化10
  暮る秋も猿合点か小うなづき    七番日記  化10  (出)『句稿消息』
  草も寝よ秋が行ぞよ今行ぞ     七番日記  化10
  行秋を尾花もさらば 〜 哉     七番日記  化10
  (出)『発句鈔追加』(異)『句稿消息』『発句題叢』『嘉永版』『希杖本』中七「尾花がさらば」
  どん亀の秋も暮るぞ 〜 よ     七番日記  化11
  行秋や馬の苦労をなでる人     八番日記  政2
  行秋や大鼓[で]送る祭り哉     八番日記  政4  「大」→「太」
  行秋に御礼申か神の鳩       八番日記  政4
  行秋やいかい御苦労かけました   八番日記  政4
  行秋や糸瓜の皮のだん袋      八番日記  政4
  行秋や曲る形なる菜大根      八番日記  政4
  秋もはや西へ行く也角田川     文政句帖  政5
  行秋を送るめで[た]いたいこ哉   文政句帖  政5
  冬が来る 〜 とせうじのはそん哉  文政句帖  政7  「せ」→「しや」
  行秋[や]無かぶ酒屋の又ふへる   文政句帖  政7  「へ」→「え」
  行秋を輿でおくるや新酒屋     文政句帖  政7
  夕蝉の翌ない秋をひたと啼     発句鈔追加

 

秋惜む

  松原の秋をおしむか鶴の首     文化句帖  化2  「お」→「を」
    山川眺望不蹇楼に招るる夜は九月六日也けり
  秋おしめ 〜 とか昔松       木槿集   化9  「お」→「を」
                 (出)『茶翁連句集』(異)『発句鈔追加』中七「秋をしめとて」
  行秋やつく 〜 おしと蝉の鳴    文政句帖  政5  (異)同句帖(政5)下五「鳴せみか」

 

天文

 

天の川

  ひとりなは我星ならん天[の]川   享和二句記 享2
  天[の]川都のうつけ泣やらん    享和句帖  享3
  雲形に寝て見たりけり天[の]川   享和句帖  享3
  汁なべもながめられけり天[の]川  享和句帖  享3
  深さうな所もありけり天の河    享和句帖  享3
  我星はどこに旅寝や天の川     享和句帖  享3
  (異)『七番日記』(化9)『株番』中七「どこにどうして」『八番日記』(政4)中七「今は旅寝や」
  破なべも夜はおもしろ天[の]川   享和句帖  享3
  木に鳴はやもめ烏や天[の]川    文化句帖  化1
  うつくしやせうじの穴の天[の]川  七番日記  化10  「せ」→「しや」
                       (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』『希杖本』
  庵門に流れ入けり天の川      七番日記  化11
  我星は年寄組や天の川       七番日記  化11
  寝むしろやたばこ吹かける天の川  七番日記  化12  (出)書簡(異)同日記(化12)下五「女郎花」
  もちつとで手がとゞく也天の川   七番日記  化12
  木曽山に流入けり天の川      七番日記  政1  (異)『八番日記』(政3)上五「古郷に」
  小坊主が子におしへけり天の川   七番日記  政1  「お」→「を」
  さむしろや鍋にすじかふ天の川   七番日記  政1  「じ」→「ぢ」(異)『あつくさ』中七「汁の中迄」
  冷水にすゝり込だる天の川     八番日記  政3
  ぼんの凹から冷しけり天の川    八番日記  政3  (異)同日記(政4)中七「冷つかせけり」
  穴の明程見たりけり天の川     八番日記  政4
  おのが田へ夜水を引て天の川    八番日記  政4
  かしましき寝ぼけ烏や天の川    八番日記  政4
  水喧嘩水と成時天の川       八番日記  政4
  山陰も寄て祭るや天の川      文政句帖  政5
  我星はひとりかも寝ん天の川    文政句帖  政5
  盃に呑んで仕廻ふや天の川     政九十句写 政9  (出)『希杖本』
    船中
  霜おくやふとんの上の天の川    自筆本
  ゆかしさよ田舎の竹も天の川    希杖本

 

月(秋の月、月夜、夕月、月の雲、月の兎)

  船頭よ小便無用波の月       寛政句帖  寛4
  其感勢卅日の月も招くべし     寛政句帖  寛4  「感」→「威」
    寄月恋
  晦日に月出ば君を忘んか      寛政句帖  寛4
  松島や三つ四つほめて月を又    寛政句帖  寛4
  河縁の冷汁すへて月夜哉      書簡    寛10  「へ」→「み」?
  横町に蚤のござ打つ月夜哉     みつのとも 寛10
  月と吾中に古郷の海と山      西紀書込  寛中
  月や昔蟹と成ても何代目      西紀書込  寛中
  出る月のかたは古郷の入江哉    西紀書込  寛中
  大あれのけもなき月の御山哉    享和二句記 享2
  汗くさき兜にかゝる月よ哉     享和句帖  享3
  さらしなをうしろになせば月夜哉  享和句帖  享3  (異)同句帖(享3)中七「うしろに見れば」
  さらしなを放れし其夜月夜哉    享和句帖  享3
  さらしなはきのふとなりて月夜哉  享和句帖  享3
  戸をさして月にもそぶく住居哉   享和句帖  享3
  投られし角力も交る月よ哉     享和句帖  享3
    水山蹇
  西向て小便もせぬ月よ哉      享和句帖  享3
  としよりの仲間に入らん月よ哉   文化句帖  化1
  やぶ陰も月さへさせば我家哉    文化句帖  化1
  御月様いくつ昔の神の松      文化句帖  化2
  かばかりの藪も毎ばん月よ哉    文化句帖  化2
  かつしかや月さす家は下水端    文化句帖  化2
  里の火の古めかしたる月よ哉    文化句帖  化2
  汁の実を取に<に>出ても月よ哉   文化句帖  化2
  段 〜 に寒うなるみの月よ哉    文化句帖  化2
  月影の皆さゝずとも角田川     文化句帖  化2
  月かげや須磨の座頭の窓に入    文化句帖  化2
  常不断通る榎も月よ哉       文化句帖  化2
  むさしのに住居合せて秋の月    文化句帖  化2
  むさしのや犬のこふ家も月さして  文化句帖  化2  「こふ家」→「こう(後)架」
  山の月親[は]綱引子はおがむ    文化句帖  化2  「お」→「を」
  気に入らぬ家も三とせの月よ哉   文化句帖  化3
  是程の月にかまはぬ小家哉     文化句帖  化3
  煤くさき畳も月の夜也けり     文化句帖  化3
  思ひなくて古郷の月を見度哉    連句稿裏書 化4
  たまに来た古郷の月は曇りけり   連句稿裏書 化4
  たま 〜 の古郷の月も涙哉     連句稿裏書 化4
  たまに来し古郷も月のなかりけり  連句稿裏書 化4
  月さしてちいさき藪も祭り也    連句稿裏書 化4  「い」→「ひ」
  入月に退くやうな小山哉      化五六句記 化5
  こと 〜 く月はさゝぬぞらかん達  化五六句記 化5
  さらしなは迹の祭の月よ哉     化五六句記 化5
  しなのぢやいく夜なれても軒[の]月 化五六句記 化5
  夕月やいかさま庵は姥が雨     化五六句記 化5
  湯けぶりにふすぼりもせぬ月の顔  草津道の記 化5
  あばら家の十はり七つ月よ哉    化五六句記 化6  「は」→「ま」
  事はりや更しな山の月の邪魔    化五六句記 化6  「は」→「わ」
  さらしなにあひ奉る月よ哉     化五六句記 化6
  さらしなや月のおもはくはづかしき 化三―八写 化6
  夕月や萩の上行おとし水      化五六句記 化6
  湯のやうな[お]茶もさしけり我月よ 化五六句記 化6
  大方の月をもめでし仏かな     七番日記  化7
  赤い是は誰のじや子ども達     七番日記  化8  「じ」→「ぢ」(出)『我春集』『嘉永版』
  さらしなの月を〆出す庵哉     七番日記  化8  (出)同日記(化13)
  婆ゝどのが酒呑に行く月よ哉    七番日記  化8
  明く口へ月がさす也角田川     七番日記  化9
                  (出)『株番』『文政版』(異)『希杖本』中七「月もさすなり」
  そば時や月のしなのゝ善光寺    七番日記  化9
  月も月抑 〜 大の月よ哉      七番日記  化9
        (出)真蹟、前書き「良夜」『株番』『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
  あの月をとつてくれろと泣子哉   七番日記  化10
              (出)『志多良』書簡(異)『おらが春』『文政版』真蹟 上五「名月を」
  御目にかゝるも不思儀也秋の月   七番日記  化10  「儀」→「議」
  それでこそ御社宇松に月      世美塚   化10
  君が代もお<か>らが世をも月よ哉  七番日記  化11
  のら 〜 [と]べら棒桐の月よ哉   七番日記  化11
  さしあたり当もなけれど月よ哉   七番日記  化12
    憐江戸隠士
  掃溜を山と見なして秋の月     七番日記  化12  (出)『発句鈔追加』
  むだ人を叱なさるや秋の月     七番日記  化12
  もちつとで乗れさう也月の雲    七番日記  化12
  蜻蛉の補養に歩行月よ哉      七番日記  化13  「補」→「輔」(出)同日記 中七「保養に歩行」
  夜 〜 やのゝ様いくつ[と]云し月  七番日記  化13
  姥捨た奴も一つの月夜哉      七番日記  化14
  貝殻の山からも出る秋の月     七番日記  化14
  鳴くな雁どこも旅寝の秋の月    七番日記  化14
  山の月理屈の抜し御顔哉      七番日記  化14
  姨捨ぬ前はどこから秋の月     七番日記  政1
  さらしなや姨の打たる小田の月   七番日記  政1  (出)『発句集続篇』
  すつぽんと月と並ぶや角田川    七番日記  政1
  許々多久の罪も消へべし秋の月   八番日記  政3  「へ」→「ゆ」
  深川や蠣がら山の秋の月      梅塵八番  政4  (出)『文政句帖』(政8)『文政版』『梅塵抄録本』
  みちのくや角銭山の秋の月     梅塵八番  政4  (出)『文政句帖』(政8)
  気をもむな爰をさいても山の月   文政句帖  政5
  生娘が遠歩きする月夜哉      文政句帖  政5
  のゝさまと指た月出たりけり    文政句帖  政5
  翌はなき月の名所を夜の雨     文政句帖  政6
  川留やむかふは月の古る名所    文政句帖  政6  「ふ」→「う」
    天上のたのしみもさることながら
  玉兎むしろ下界[が]らくならん   文政句帖  政6
  手づくねの山の上より秋の月    文政句帖  政6
  義経は松の月さへひいき哉     文政句帖  政6
  義経の尻迹はどこ松の月      文政句帖  政6
  我らにも腰かけられし松の月    文政句帖  政6
  山のはや心で月を出して見る    文政句帖  政7
  けかちとは月の空うそさはぎ哉   文政句帖  政8  「さはぎ」→「さわぎ」
  名所や壁の穴より秋の月      文政句帖  政8
  古壁の穴や名所の秋の月      文政句帖  政8
  反古窓も沢山月の明哉       文政句帖  政8
  山寺や月も一間に一つづゝ     文政句帖  政8
  月はしらん住吉の松いつはいた   政九十句写 政9  「はいた」→「はえた」
  古壁やどの穴からも秋の月     政九十句写 政9  (出)『希杖本』書簡
    春耕孫祝
  門の月ことに男松のいさみ声    文政版
               (異)『八番日記』前書き「祝」上五「名月や」真蹟 上五「出る月よ」
  客ぶりや月に居並ぶ仏達      希杖本
  我宿のおくれ松魚も月夜哉     発句鈔追加

 

盆の月

  盆の月木綿裾のうれしいか     文化句帖  化1  「裾」→「袷」?
  子をもたば盆 〜 〜 の月よ哉   七番日記  化9
  蚯諷ひ蚊が餅をつく盆の月     七番日記  化9
  小柱もせんだくしたり盆の月    七番日記  政1
  立臼に子を安置して盆の月     七番日記  政1
  笛吹てはせ山越る盆の月      七番日記  政1
  浴して我[身]となりぬ盆の月    八番日記  政3
  片里は盆の月夜の日延かな     八番日記  政4
  戸せうじの洗濯したり盆の月    八番日記  政4
  盆の月今夜切とや人通り      八番日記  政4
  峯越る越後同者や盆の月      八番日記  政4  「同」→「道」
  もろこしをあぶり焦すや盆の月   八番日記  政4  (異)同日記(政4)中七「堤であぶるや」
  うら山もくり 〜 掃て盆の月    文政句帖  政5
  盆の月参る墓さへなかりけり    文政句帖  政5
  けふ翌の盆さへ欠る月夜哉     文政句帖  政6
  盆の月猫も御墓を持にけり     一茶園月並裏書
  盆の月地獄の種を蒔に出る     発句集続篇

 

三日月

  我もいつあのけぶりぞよ三ヶの月  文化句帖  化1
  三ヶ月の朧作りてはや入ぬ     化五六句記 化6
  翦鞠の松にかゝりて三ヶの月    七番日記  化10
  むだ草も穂に穂が咲ぞ三ヶの月   七番日記  化11  (異)『梅塵八番』(政4)真蹟 中七「穂に穂が咲て」
  三ヶ月をにらみ付たる蝉の殻    八番日記  政3  (異)『梅塵八番』中七「白眼つめたり」
  窓ぶたのつゝ張りとれて三ヶの月  文政句帖  政6

 

待宵

  名月は翌と成けり夜の雨      享和句帖  享3
  松かげや月待つよひの夢ざうり   甲子発句集 化2
  待宵の松葉焚さへさが野哉     文化句帖  化2
  待宵や芒刈かや寝草伏       化五六句記 化5
  待宵や寝て草伏し花すゝき     化五六句記 化5
  草の穂は雨待宵のきげん哉     七番日記  政1
  八月や雨待宵の信濃山       八番日記  政3
               (異)『発句題叢』『希杖本』上五「必や」『版本題叢』下五「しのぶ山」
  待宵やきたぬ雨ふるしなのやま   八番日記  政3  「き」→「ま」
                       (異)同日記(政3)中七下五「またぬ大雨ざぶ 〜 と」
  翌の夜の月を請合ふ爺かな     八番日記  政4  (出)『だん袋』『文政版』
  里人はかぶき芝居を待宵や     文政句帖  政6
  子ども衆は餅待宵の月見哉     政九十句写 政9  (出)『希杖本』
  江戸川や月待宵の芒船       文政版

 

名月(今日の月、芋名月、十五夜、月今宵、月一夜、閏名月、雨名月、月見)

  名月をかさねつこけつ波の間    百名月   天8
    樹下石上を栖となすは、雲水斗藪の常ならなくに、今よひ諸風土と共に蝸牛庵に会す
  人並に畳のうえの月見哉      遺稿    寛8  「え」→「へ」(出)『月の会』真蹟
  名月のこゝろとなれば夜の明る   なにはの月 寛10
  海のなぎおもひやる月見哉     西紀書込  寛中
  此あたり我顔海に月見哉      西紀書込  寛中
  さぞ今よひ古郷の川も月見哉    西紀書込  寛中
  月今よひ古郷に似ざる山もなし   西紀書込  寛中  (異)同書込 中七下五「古郷に似たる山はいくつ」
  月今よひ山は古郷に似たる哉    西紀書込  寛中
  月やこよひ舟連ねしを平家蟹    西紀書込  寛中
  古郷に似たる山をかぞへて月見哉  西紀書込  寛中
  名月や与市が的もかゝる夜は    西紀書込  寛中
  よ所からは嘸此島を月見哉     西紀書込  寛中
  姥捨の山のうらみる今宵哉     享和句帖  享3
  草の雨松の月夜や十五日      享和句帖  享3  (異)同句帖(享3)下五「かへる雁」
  十五夜や無疵の月はいつのまゝ   享和句帖  享3
    揚止水
  白石のしろき心の月見哉      享和句帖  享3
  名月もそなたの空ぞ毛唐人     享和句帖  享3
  名月や役にして行あさぢ原     文化句帖  化1  「役」→「後」
  名月や雨なく見ゆるよ所の空    文化句帖  化1
  名月や石のあはひの人の顔     文化句帖  化1
  名月や誰 〜 ばかり去年の顔    文化句帖  化1
  名月や都に居てもとしのよる    文化句帖  化1
  雨降らぬ空も見へけり月一夜    文化句帖  化2  「へ」→「え」
  雨ふるや名月も二度角田川     文化句帖  化2
  雨降も角田河原や月一夜      文化句帖  化2
  家かりて先名月も二度目哉     文化句帖  化2  (異)同句帖(化2)中七「から名月も」
  大雨や月見の舟も見へてふる    文化句帖  化2  「へ」→「え」
  けふの月我もむさしに住合[せ]   文化句帖  化2
  十五夜にふれ<し>と祈し雨なるか  文化句帖  化2
  十五夜に持込雨の柳哉       文化句帖  化2
  十五夜の月霞家も我世哉      文化句帖  化2
  十五夜の二度目も雨の角田川    文化句帖  化2  (異)同句帖(化2)中七「二度目も雨か」
  十五夜や田を三巡の神の雨     文化句帖  化2
  月見荒それさへもないことし哉   文化句帖  化2
  鶴の首あるべかゝりの月よ哉    文化句帖  化2
  年よりや月を見るにもなむあみだ  文化句帖  化2
  武蔵野ゝ名月も二度逢ふ夜哉    文化句帖  化2  (異)同句帖(化2)上五「店かりて」
  名月をさしてかまはぬ草家哉    文化句帖  化2
  名月の二度迄ありと伏家哉     文化句帖  化2
  名月の二度目も軒の雫哉      文化句帖  化2
  持こたへこたへし雨や月一夜    文化句帖  化2
  名月や頓て嫌ひな風の吹      文化句帖  化3
  名月にかまはぬ家も祭り哉     連句稿裏書 化4
  臀に石あたゝまる月よ哉      化五六句記 化5
  石とならば此名月ぞ其女      化五六句記 化5
  名月にすつくり立し榎哉      化五六句記 化5
  名月の御覧の通り屑家也      化五六句記 化5  (異)『随斎筆紀』『文政版』
  『発句類題集』『繋橋』『古今百句集』『万家人名録』『月百句』真蹟 下五「屑家哉」
  名月も脇へつんむく小家哉     化五六句記 化5
  芥藪そも名月の夜也けり      化五六句記 化6
  けふといふ今日名月の御側哉    化三―八写 化6  (出)『菫草』『発句題叢』
  『文政版』『発句鈔追加』真蹟(異)『文化五・六年句日記』(化6)俳額 下五「御山哉」
  名月のさしかゝりけり貰餅     句稿断片  化6
  名月や下戸が植たる松の木に    化五六句記 化6
  名月やそも 〜 寒きしなの山    化五六句記 化6
  名月やどこに居ても人の邪魔    化五六句記 化6
  名月[や]深草焼のかぐや姫     化五六句記 化6
  名月やにぎ 〜 したる赤子哉    七番日記  化7  (異)『発句鈔追加』下五「わらは哉」
  名月の御顔あでかな茶のけぶり   七番日記  化7
           (異)同日記(化7)下五「御急ぎ」真蹟 上五中七「けふの月あなたもさ程」
  名月や旅根生の萩すゝき      七番日記  化7  「生」→「性」
  名月や汐に流るゝ小舟かな     七番日記  化7
  名月や女だてらの居酒呑      七番日記  化8  (異)『我春集』下五「頬かぶり」
  名月[や]門から直にしなの山    七番日記  化8
    去廿日花川戸六兵衛喜兵衛妻ちよ親孝行銀五枚公より賜る
  名月や暮ぬ先から角田川      七番日記  化8
  名月や高観音の御ひざ元      七番日記  化8  (出)『我春集』
  名月や藪蚊だらけの角田川     七番日記  化8  (出)『我春集』『発句題叢』『希杖本』『仙都紀行』
  名月やおれが八まん大菩薩     七番日記  化9
  明がたに本んの名月と成り[に]けり 七番日記  化10
  丸一夜名月にてはなかりけり    七番日記  化10
  名月を取てくれろと泣く子哉    おらが春  化10
        (出)『文政版』真蹟(異)『七番日記』(化10)『志多良』書簡 上五「あの月を」
    病中
  名月[や]とばかり立いむつかしき  七番日記  化10  「い」→「ゐ」(出)『志多良』『文政版』
  名月や明て気のつく芒疵      七番日記  化10
  名月や家より出て家に入      七番日記  化10
  名月や上座して鳴きり 〜 す    七番日記  化10  (出)『句稿消息』
  名月やきのふと成りし大荒日    七番日記  化10
  名月や草の下座はどこの衆     七番日記  化10
  名月や寝ながらおがむ体たらく   七番日記  化10  「お」→「を」(出)『志多良』『句稿消息』
  山里は汁の中迄名月ぞ       七番日記  化10
                 (出)『句稿消息』(異)『八番日記』(政3)中七「小鍋の中も」
  仇藪も貧乏かくしぞけふの月    七番日記  化11
  名月や焼飯程のしなの山      七番日記  化11
  木母寺は吐反だらけ也けふの月   七番日記  化11  「吐反」→「反吐」
  藪原やばくちの銭も名月ぞ     七番日記  化11
  壁穴に我名月の御出哉       七番日記  化12
  名月やあなたも先[は]御安全    七番日記  化12  (異)『文政版』書簡 中七「まづはあなたも」
  名月や西に向へばぜん光寺     七番日記  化12  (出)『発句鈔追加』前書き「長沼にて」
    松島
  名月や松ない島も天窓数      七番日記  化12
  破壁や我が名月の今御座る     栗本雑記五 化12
  あがくなよ二度目もこんな名月ぞ  七番日記  化13
    二階月見
  梁の横にさしても名月ぞ      七番日記  化13
  君が代は二度も同じ名月ぞ     七番日記  化13  (出)『希杖本』前書き「閏十五夜」
    閏良夜
  人声やおくれ月見も所がら     七番日記  化13  (出)『希杖本』
    漂泊四十年
  ふしぎ也生た家でけふの月     七番日記  化13
         (類)『浅黄空』『俳諧寺抄録』下五「けさの春」『自筆本』真蹟 下五「けふの春」
  寝むしろも是名月ぞ名月ぞ     真蹟    化13
    十五夜雨
  ぼんやりとしてもさすがに名月ぞ  七番日記  化13
  名月とお[つ]つか[つ]つや通り雨  七番日記  化13
  名月にけろりと立しかゞし哉    七番日記  化13
  名月に引ついて出る藪蚊哉     七番日記  化13
  名月も二度逢にけりさりながら   七番日記  化13
    壬十五夜
  名月も二度迄御目[に]かゝりけり  七番日記  化13  「壬」→「閏」
  名月や石の上なる茶わん酒     七番日記  化13
  名月や芒の陰の居酒呑       七番日記  化13
  (出)『希杖本』前書き「さらしな山」(異)同日記(化13)『発句鈔追加』真蹟 中七「芒に座とる」
  名月や箕ではかり込御さい銭    七番日記  化13  (出)『希杖本』『発句鈔追加』前書き「男山」真蹟
  名月や山のかゞしの袂から     七番日記  化13
  土でつくねた西行も月見哉     七番日記  化14
  名月や芒へ投る御さい銭      七番日記  化14
  珠数かけて名月拝む山家哉     梅塵抄録本 化中  「珠数」→「数珠」(出)『発句鈔追加』
  究竟の雨といふ也けふの月     七番日記  政1
  十五夜や祈ばなしの山の雨     七番日記  政1
    良夜
  十五夜や丁どもち込祈り雨     七番日記  政1
 (出)書簡 前書き「六月より片でり、所々雨乞もしるしなかりければ」(異)同日記(政1)中七「村もつて来て」
  名月の小すみ[に]立る芦家哉    七番日記  政1
  名月や大道中へおとし水      七番日記  政1
  名月やおんひら 〜 の流し樽    七番日記  政1
  庵のかぎ松にあづけて月見哉    八番日記  政2
  姥捨た罪も亡んけふの月      八番日記  政2
  金上戸と金聾と見月哉       八番日記  政2  「見月」→「月見」
  御祝義[に]月見て閉る庵かな    八番日記  政2  「義」→「儀」
  酒尽て真の座に付月見哉      八番日記  政2  (出)『おらが春』『発句鈔追加』
  十五夜の月や我家に寝たならば   八番日記  政2  (異)同日記(政2)上五「是程の」
  そば所のたんを切つゝ月見哉    八番日記  政2
  (異)『おらが春』前書き「おのが味噌のみそ嗅をしらず」上五「蕎麦国の」『発句鈔追加』上五「蕎麦の花」
  古郷の留主居も一人月見哉     八番日記  政2
                    (出)『おらが春』前書き「十五夜は高井野梨本氏にありて」
  名月やあたりにせまる壁の穴    八番日記  政2
             (異)『梅塵八番』中七「当にはせざる」『嘉永版』中七「あてにもせざる」
  名月や下戸はしん 〜 しんの座に  八番日記  政2
  名月や五十七年旅の秋       八番日記  政2  (異)『句稿断片』中七下五「四十七年後し秋」
    祝
  名月やことに男松のいさみ声    八番日記  政2
             (異)真蹟 上五「出る月よ」『文政版』前書き「春耕孫祝」上五「門の月」
  名月や膳に這よる子があらば    八番日記  政2  (異)同日記(政2)中七「膝[を]枕の」
  名月や松に預ける庵の鍵      八番日記  政2
  籾蔵の陰の小家も月見哉      八番日記  政2
  此秋は正じん酒の月見哉      八番日記  政3  「正」→「精」(異)『梅塵八番』上五「秋風は」
  名月に乗じてかつぐ鉄炮哉     八番日記  政3  「炮」→「砲」
  名月に任せて置や家の尻      八番日記  政3
  名月やおれが外にも立地蔵     八番日記  政3
  名月やせうじん酒は常なれど    八番日記  政3  「せ」→「しや」
  名月や目につかはれて夜も終    八番日記  政3
  名月や山の奥には山の月      発句類題集 政3
  目の役に拙者もならぶ月見哉    八番日記  政3  (異)『梅塵八番』(政4)中七「犬も並んで」
  虻もとらぬ蜂[を]もとらぬ月見哉  八番日記  政4
    仏ので子にはあらねど
  有合の臼の上にて月見哉      八番日記  政4  (出)『発句鈔追加』
    姥捨などゝ草臥るも詮なければ
  有合の山ですますやけふの月    八番日記  政4  (出)『文政版』『終焉記』『飛濃紀佳散』
  御の字の月に成たよ成つたぞよ   八番日記  政4
  十五夜の祝義に出たり三足ほど   八番日記  政4  「義」→「儀」
  十五夜の月やあなたも御安全    八番日記  政4
  出ず入らぬ座につらなりて月見哉  八番日記  政4
  手拭をつむりに乗せて月見哉    八番日記  政4
  二番小便から直に月見哉      八番日記  政4
   大円寺
  松が枝の上に座どりて月見哉    八番日記  政4  (出)『発句鈔追加』
  松の木のてつぺんにざす月見哉   八番日記  政4
  名月のさつさと急ぎ給ふ哉     八番日記  政4  (出)『文政句帖』(政8)『文政版』『茶翁聯句集』
  名月や梅もさくらも帰り花     八番日記  政4  (異)『文政句帖』(政6)中七「八重山吹の」
  名月や出家士諸商人        八番日記  政4
  名月や住でも見たき小松島     八番日記  政4
  名月や茶碗に入れる酒の銭     八番日記  政4
  名月や八文酒を売あるく      八番日記  政4
  名月や横に寝る人おがむ人     八番日記  政4  「お」→「を」
  雨どしや十五夜とても只の山    文政句帖  政5
  大雨や此十五夜も只の山      文政句帖  政5
  大井[戸]も小井戸[も]かへて月見哉 文政句帖  政5
  御の字の月と成りけり草の雨    文政句帖  政5
  (出)遺稿(異)『だん袋』『あつくさ』中七「月夜也けり」『発句鈔追加』中七下五「月夜なりけり草の花」
  十五夜とさへ申さぬや二度目には  文政句帖  政5
  十五夜の萩に芒に雨見哉      文政句帖  政5  (異)『あつくさ』中七「萩も芒も」
  十五夜や月にもまさる山の雨    文政句帖  政5
  十五夜や月のかはりに雨がもる   文政句帖  政5
  名月に来て名月を鼾かな      文政句帖  政5
  名月や生[れ]たまゝの庭の松    文政句帖  政5
  名月や隅の小すみの小松島     文政句帖  政5
  名月や山有川有寝ながらに     文政句帖  政5  (出)遺稿
  小言いふ相手もあらばけふの月   文政句帖  政6(出)『文政版』前書き「やかましかりし老妻ことしなく」
                    (異)同句帖(政7)下五「花筵」『だん袋』下五「菊の酒」
  芝居迄降つぶしたりけふの月    文政句帖  政6
  十五夜のよい御しめりよよい月夜  文政句帖  政6  (異)『だん袋』『発句鈔追加』上五「十五夜は」
    良夜雨
  十五夜や雨見の芒女郎花      だん袋   政6  (異)『発句鈔追加』上五中七「十五夜の雨見や芒」
  名月やつい指先の名所山      文政句帖  政6  (出)『文政版』前書き「筑摩川舟留」
  夕立やしかも八月十五日      文政句帖  政6
  渡られぬ川や名月くはん 〜 と   文政句帖  政6  「は」→「わ」
    思遠国旅人
  えいやつと来て姨捨の雨見哉    書簡    政7
  姨捨や二度目の月も捨かねる    文政句帖  政7
  十五夜に姨捨山の雨見哉      文政句帖  政7  (異)同句帖(政7)上五「百里来て」「逗留して」
  屁くらべや芋名月の草の庵     文政句帖  政7
  壁穴で名月[を]する寝楽哉     文政句帖  政8
  壁穴の御名月を寝坊哉       文政句帖  政8
  十五夜や窓一ぱいの雨明り     文政句帖  政8
  なむ 〜 と名月おがむ子ども哉   文政句帖  政8  「お」→「を」
  名月を一つうけとる小部屋哉    文政句帖  政8
  隠れ家は気のむいた夜が月見哉   政九十句写 政9  (出)『希杖本』書簡
  名月に尻つんむける草家哉     政九十句写 政9  (出)『希杖本』
    赤間関
  名月や蟹も平を名乗り出      政九十句写 政9  (出)『文政版』真蹟
  名月や抔とは上べ稲見かな     政九十句写 政9
            (出)『希杖本』(異)『発句鈔追加』『梅塵抄録本』中七「とはいふものゝ」
  世直しの大十五夜の月見かな    政九十句写 政9  (出)『希杖本』
    良夜姨捨雨
  十五夜もたゞの山也秋の雨     真蹟
  何となく生れた家の月見哉     真蹟
    姥捨月
  一夜さは我さらしなよ 〜      発句鈔追加
  名月をおつゝかつゝの御船哉    発句鈔追加
  名月を針の穴から見る子かな    発句集続篇
    日々眼力うとく
  明月や去々年までも針の穴     発句集続篇
  名月や羽織でかくす欲と尿     発句鈔追加
    石上
  名月や仏のやうに膝をくみ     真蹟
    八幡の御手洗川
  名月や流れに投る嗽銭       真蹟

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