一茶発句全集(13)・・・夏の部(6)

最終補訂2004年5月9日

 

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植物

 

夏草

    夏草の桜もどきに咲にけり          七番日記   化11
    夏草や立よる水は金気水            遺稿

 

草茂る(葎)

    後の世に迄も薬草の茂り哉          西紀書込   寛中
    毒草やあたり八間はびこりぬ        七番日記   化11
    八重葎茂れる宿の寝楽哉            七番日記   政1
    草の葉や世[の]中よしと草さはぐ    発句題叢   政3    「は」→「わ」
    (類)『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』下五「蠅さはぐ」真蹟「群蠅や世の中よしと草そよぐ」

 

草いきれ

    うら窓や頭痛にさはる草いきれ      文政句帖   政7
    寝莚や窓から這入る草いきれ        文政句帖   政7
    悪くさい草のいきれや夜の窓        文政句帖   政7

 

夏菊

    夏菊の小しやんとしたる月よ哉      文化句帖   化1

 

昼顔(雨降り花)

    昼顔やしほるゝ草を乗越て          寛政句帖   寛4    「ほ」→「を」
    昼顔[に]切割川原 〜 哉            西紀書込   寛中
    昼顔の〓の員に刈れけり            文化句帖   化2    (〓は禾偏に「巴」)
    昼顔に大きな女通りけり            化五六句記 化5
        泣堀通流山に入
    昼顔[に]ころ 〜 虫の鳴にけり      化五六句記 化5
    昼顔や赤くもならぬ鬼茄子          化五六句記 化5
        浅間山
    昼顔やけぶりのかゝる石に迄        化五六句記 化5
    旅人に雨降花の咲にけり            七番日記   化7
        けふ布川大明神祭りとて、つく舞といふ事有
    昼顔の花の手つきや狙の役          七番日記   化7
    大汐や昼顔砂にしがみつき          七番日記   化9
        出崎
    昼顔やざぶ 〜 汐に馴てさく        七番日記   化9
    とうふ屋が来る昼顔が咲にけり      七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』『嘉永版』
    昼顔の花の東や伝馬貝              七番日記   化10
    昼顔や畠掘ても湯のけぶり          七番日記   化11  (異)『発句集続篇』中七「石をはねても」
    昼顔やふんどし晒らす傍示杭        七番日記   化11
    大水や大昼顔のけろり咲            七番日記   化13
    昼顔に虫もぎいちよ 〜 哉          七番日記   化13
    昼顔ののり出てさくや法華村        七番日記   化14
    昼顔や古曽部の僧が窓に迄          八番日記   政2    (異)『梅塵八番』中七「古曽部の僧の」
        浅間山
    昼顔やぽつぽと燃る石ころへ        おらが春   政2
    昼顔の這のぼる也わらじ塚          八番日記   政4    「じ」→「ぢ」(出)『発句集続篇』
    昼顔にふんどし晒す小僧かな        希杖本

 

夕顔(夕顔棚)

    咲は夕顔長者になれよ一つ星        享和句帖   享3  (異)『文化句帖』(化5)上五「夕顔の」
    夕顔にひさしぶりなる月よ哉        享和句帖   享3
    夕顔の長者になるぞ星見たち        享和句帖   享3
        南有喜魚                                         「喜」→「嘉」
    夕顔や草の上にも一つ咲            享和句帖   享3
    夕顔や兵共の雨祝                  享和句帖   享3
    夕顔や柳は月に成にけり            享和句帖   享3
    夕顔やひとつ 〜 に風さはぐ        文化句帖   化3    「は」→「わ」
    夕顔の花めで給へ後架神            文化句帖   化5
    夕顔やはら 〜 雨も福の神          文化句帖   化5
    夕顔や世直し雨のさば 〜 と        化五六句記 化6
    夕顔の花に冷つく枕かな            七番日記   化8    (異)『発句集続篇』中七「花に摺こむ」
    夕顔の夜もさば 〜 なくなりぬ      七番日記   化8
                                               (異)『我春集』上五中七「さば 〜 と夕顔の夜も」
    夕顔やさもなき国に笛を吹          七番日記   化8
    夕顔に涼せ申仏哉                  七番日記   化9
    夕顔のかのこ班の在所かな          七番日記   化9    「班」→「斑」(出)『句稿消息』
    夕顔の花で涕かむ娘かな            七番日記   化9    「涕」→「洟」
               (出)『句稿消息』(異)『おらが春』下五「おばゝ哉」『発句集続篇』下五「女かな」
    夕顔の花にぬれたる杓子哉          七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    夕顔やあんば大杉はやし込          七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    夕顔の花の先よりおばご哉          七番日記   化10    「お」→「を」
    世直しの夕顔さ[き]ぬ花さきぬ      七番日記   化10
    汁椀にぱつと夕顔明り哉            七番日記   化11
    百も生ん夕顔棚の下住居            七番日記   化11    (異)『希杖本』上五「百も生よ」
    夕顔に尻を揃て寝たりけり          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    夕顔も貧乏かくし咲にけり          七番日記   化11
    夕顔や祭の客も一むしろ            七番日記   化11
    夕顔に引立らるゝ後架哉            七番日記   化13
    夕顔の次其次が我家かな            七番日記   化13
    夕顔の中より馬の屁玉哉            七番日記   化13
    夕顔の花にそれたる屁玉哉          七番日記   化13    (出)『文政句帖』(政7)
                   (異)『七番日記』(化13)中七「花に出たる」『発句鈔追加』中七「花にざれ込」
    夕顔や馬の尻へも一つ咲            七番日記   化13
    楽剃や夕顔棚の下住居              七番日記   化13
    夕顔の花にて涕をかむ子哉          八番日記   政2    「涕」→「洟」
    夕顔にほの 〜 見ゆる夜たか哉      文政句帖   政5
    夕顔のそれとも見ゆる泊り宿        政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    夕顔の花からまてと出たりけり      希杖本
        源氏の題にて
    夕がほや男結の垣にさく            嘉永版             (出)『発句集続篇』前書き「源氏を読」
    夕がほや十づゝ十のみなし花        発句鈔追加

 

踊り花

    蟻どもゝ何[を]祭るぞ踊り花        文政句帖   政5
    梢からはやす蛙やおどり花          文政句帖   政5    「お」→「を」
    涼しさに花も笠きておどり哉        文政句帖   政5    「お」→「を」

 

藪虱

    里 〜 や野らはのらとて藪虱        八番日記   政4

 

芥子の花(花芥子)

    芥子の花々と見る間にあらし哉      寛政句帖   寛6
    芥子の花がうきに雨の一当り        書簡       寛10
    陽炎のおびたゞしさやけしの花      享和句帖   享3
    けつくして松の日まけや芥子[の]花  享和句帖   享3
    咲く日より雨に逢けりけしの花      享和句帖   享3
        北風
    兵が足の跡ありけしの花            享和句帖   享3
        火地晋
    桃苗の二葉うれきや芥子畠          享和句帖   享3    「き」→「し」
    門番がほまちなるべしけしの花      享和句帖   享3    (異)『発句題叢』『発句鈔追加』
         『希杖本』中七下五「ほまちの芥子の咲にけり」『嘉永版』「門番のほまちのけしの咲にけり」
    芥子散てはれがましさの簾哉        文化句帖   化3
    よ所並にはやく散れかし芥子[の]花  文化句帖   化3
    生て居るばかりぞ我とけしの花      七番日記   化7
    庵の松ぱつぱと芥子に咲れけり      七番日記   化9
    大原や前きの小町がけしの花        七番日記   化9    (出)『株番』
        四日  花喬仏                                     「喬」→「嬌」
    何をいふはりあひもなし芥子の花    七番日記   化9    (出)『発句集続篇』前書き「懐旧」
                                 (異)『株番』前書き「花嬌仏の三廻忌俳莚旧懐」上五「何ぞいふ」
    裸子が這ふけしの咲にけり          七番日記   化9
    花げしのふはつくやうな前歯哉      七番日記   化9
    みそ豆の珠数がそよぐぞ芥子[の]花  七番日記   化10    「珠数」→「数珠」
                                                         (出)『志多良』『句稿消息』
    大げしをぱ[つ]くり加へかへる哉    七番日記   化11    「加」→「咥」
    子を喰猫も見よ 〜 けしの花        七番日記   化11
    今日の志いふけしの花              七番日記   化12
    蕗[の]葉はたしか茶の子ぞけしの花  七番日記   化12
    草庵に薬売る也けしの花            七番日記   化13    (出)『句稿消息』『希杖本』
    我庵は江戸の辰巳ぞけしの花        七番日記   化13    (類)同日記(化8)下五「むら尾花」
    八重一重栄花尽せりけしの花        七番日記   政1    「花」→「華」
    桑の木は坊主にされてけしの花      八番日記   政3    (出)『嘉永版』
  (類)『文政句帖』(政5)下五「かんこ鳥」『文政句帖』(政7)上五下五「桑の木や・・・かんこ鳥」
    清書の赤へ直しやけしの花          八番日記   政4
                                             (異)『梅塵八番』『発句集続篇』中七「赤い直しや」
    けし炭を丸で並べてけしの花        八番日記   政4    「で」→「め」
    僧になる子のうつくしやけしの花    文政句帖   政7
    ばか念の江戸紫やけしの花          文政句帖   政7
                                               (異)同句帖(政7)上五中七「ばか念や江戸紫の」
    一重でもすまゝしものをけしの花    文政句帖   政7(異)同句帖(政7)中七「すましゝものを」
    けし提てけん嘩の中を通りけり      文政句帖   政8    (異)『文政版』中七「群集の中を」
    極上の江戸紫をけしの花            文政句帖   政8
    何事の八重九重ぞけしの花          文政句帖   政8
    紫の上に八重也けしの花            文政句帖   政8
        二十四年栄花只一夜夢
    善尽し美を尽してもけしの花        文政版

 

美人草

    美人草そなた本地は何菩薩          文政句帖   政7

 

青蔦

    青葛の手にかして置柱哉            八番日記   政2    「葛」→「蔦」

 

葵(花葵)

    明星に影立すくむ葵哉              享和句帖   享3
    威をかりてしなのゝ葵咲にけり      七番日記   化12
    指もならぬ葵の咲にけり            七番日記   化12
    薪部や見付に立る葵哉              七番日記   化14
    只伸よ祭に逢ぬ我葵                七番日記   化14
    伸よ葵とても祭に逢ぬなら          七番日記   化14
    花葵芥にまぶれて咲終ぬ            七番日記   化14
    祭にもあはでつゝ立葵哉            文政句帖   政5

 

芍薬

    芍薬のつんと咲けり禅宗寺          八番日記   政4

 

牡丹(白牡丹・牡丹畠)

    散ぼたん昨日の雨[を]こぼす哉      寛政句帖   寛4    (異)『五明句控』下五「盈しけり」
    一向に日まけは見へぬぼたん哉      文化句帖   化1    「へ」→「え」
    糸屑もいとしからずやぼたん咲      文化句帖   化1
    かくれ家やぼたんぐるめに草[の]原  文化句帖   化1    (出)『一茶園月並』
    草の葉に半分見ゆる牡丹哉          急逓記     化1
    日まけする草の中よりぼたん哉      急逓記     化1
    煤わらの古家のぼたん咲にけり      文化句帖   化3
    咲ぼたん一日雀鳴にけり            化五六句記 化6
    猫の鈴ぼたんのあつちこつち哉      化五六句記 化6
    我庵やあくたれ烏痩ぼたん          化五六句記 化6
    ひろ 〜 と麦の咲そふぼたん哉      七番日記   化7    「の」→「に」?
        四日  花喬仏                                     「喬」→「嬌」
    目覚しのぼたん芍薬でありしよな    七番日記   化9
                                                 (出)『株番』前書き「花嬌仏の三廻忌俳莚旧懐」
    牛のやうなる蜂のなくぼたん哉      七番日記   化10
    後の世の寝所にせんぼたん哉        七番日記   化10    (異)『発句鈔追加』下五「白牡丹」
    福相と脇から見ゆるぼたん哉        七番日記   化10
    平八に過たる物はぼたん哉          七番日記   化10
    小ぼたんもそよ 〜 花の庵哉        七番日記   化11
                                               (異)『希杖本』上五中七「ちつぽけな牡丹も花の」
    茶けぶりのそよと不運のぼたん哉    七番日記   化13
    眠さうなねぶちよ仏のぼたん哉      七番日記   化13
    花咲て目にかゝる也痩ぼたん        七番日記   化13
    榎から四五丁入のぼたん哉          七番日記   政1
    大牡丹貧乏村とあなどるな          七番日記   政1
    おのづから頭の下たるぼたん哉      七番日記   政1
    影ぼしも七尺去てぼたん哉          七番日記   政1    (異)同日記(政1)上五「影法師を」
    是程のぼたんと仕かたする子哉      七番日記   政1
 (出)『文政版』『たねおろし』(異)『七番日記』(政1)『希杖本』上五中七「是程と牡丹の仕方」
                       『文政九・十年句帖写』(政9)『希杖本』上五中七「こらほどゝ牡丹の仕方」
    盃をちよいと置たるぼたん哉        七番日記   政1
                                             (異)『文政句帖』(政7)中七「ちよいと乗せたる」
    侍が傘さしかけるぼたん哉          七番日記   政1    (出)『発句集続篇』
    蟾どのも福と呼るゝぼたん哉        七番日記   政1
    火の吹けぬ門とは見へぬぼたん哉    七番日記   政1    「へ」→「え」
    麦殻で尺を取たるぼたん哉          七番日記   政1
    扇にて尺を取たるぼたん哉          八番日記   政2
                                 (出)『文政句帖』(政7)(異)『嘉永版』中七「尺をとらせる」
        (前略)されど、腰かけ台の価をむさぼるためにもあらで、たゞ日 〜 の群集
        に酒・茶つひやしてたのしむ主の心、おもひやられてしきりにをかしくなん。
    紙屑もぼたん顔ぞよ葉がくれに      おらが春   政2    (出)『発句鈔追加』
    吝ん坊がぼたん咲けり咲にけり      八番日記   政2
    鶏の抱かれて見たるぼたん哉        八番日記   政2    (出)『発句集続篇』
    鼻紙[に]引つゝんでもぼたん哉      八番日記   政2    (異)『梅塵八番』下五「ほたるかな」
    福の神やどらせ給ふぼたん哉        八番日記   政2
                       (出)『希杖本』(異)『文政句帖』(政5)中七下五「下らせ給へぼたん咲」
    福もふく大福花のぼたん哉          八番日記   政2    (出)『発句鈔追加』
    ぼたん迄果報のうすき我家哉        八番日記   政2
                                                 (異)『希杖本』『発句集続篇』下五「かきね哉」
    唐[土]の真似する寺のぼたん哉      八番日記   政2
    雨の夜や鉢のぼたんの品定          八番日記   政3
    ふく 〜 と乗らばぼたんの台哉      八番日記   政3    (異)『だん袋』『発句鈔追加』前書き
                         「蓮は水難の心づかひもあれば」『文政九・十年句帖写』『希杖本』前書き
     「長沼内町魚淵の内かけもの也。蓮は水難の恐あれば」『だん袋』『文政九・十年句帖写』(政10)
                 『希杖本』上五「ぬく 〜 と」『発句鈔追加』上五中七「ぬく 〜 とよらばぼたんの」
    あばらやに痩がまんせぬぼたん哉    八番日記   政4
    すだれのみ青き屑屋のぼたん哉      梅塵八番   政4
                                                 (異)『八番日記』上五中七「簾の青き清き家の」
    とち 〜 と角兵衛獅子もぼたん哉    八番日記   政4
    掃切た庭にちよんぼりぼたん哉      八番日記   政4
    皆様の御こゑのかゝるぼたん哉      八番日記   政4
    痩庭にやせぼたんではなかりけり    八番日記   政4
    おぼたんや刀預る仮番屋            文政句帖   政5    (異)同句帖(政5)下五「畠門」
    おぼたんや畠に直す刀掛            文政句帖   政5
    錠明て人通しけりぼたん畠          文政句帖   政5
    大黒の頭巾からんぼたんかな        文政句帖   政5
    福介がちやんと居てぼたん哉        文政句帖   政5
    頼ともの天窓程なるぼたん哉        文政句帖   政5
    大悠にうごき出したるぼたん哉      文政句帖   政7
    角兵衛といふ獅[子]がまふぼたん哉  文政句帖   政7
    獅[子]の気取りに狂<杜>ふぼたん哉  文政句帖   政7
    白露に福ややどらんぼたん畠        文政句帖   政7
    せいたけの麦の中よりぼたん哉      文政句帖   政7
    草庵にふつり合也さくぼたん        文政句帖   政7
    草庵にほゞつり合ぬぼたん哉        文政句帖   政7(異)同句帖(政7)中七「ちと釣りあはぬ」
    鐘と挑灯の中をぼたん哉            文政句帖   政7
    てもさてもても福相のぼたん哉      文政句帖   政7    (出)『文政版』真蹟
    猫の狂ひが相応のぼたN哉          文政句帖   政7
    花たぼに豆を並ぶるぼたん哉        文政句帖   政7
    人のまふ獅[子]やぼたんのはら 〜 と文政句帖   政7
    貧乏蔓にとり巻かれてもぼたん哉    文政句帖   政7
    福来ると聞てほしがるぼたん哉      文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)上五「福花と」
    見ろとてやぼたんの富貴ぱつとちる  文政句帖   政7
                                           (異)『発句集続篇』前書き「読古文」上五「人の世や」
    山寺や[赤い]牡用の花の雲          文政句帖   政7    「用」→「丹」
                                               (異)同句帖(政8)上五中七「遠寺や赤い牡丹の」
    あながちにせい高からぬぼたん哉    文政句帖   政8
    金まうけ上手な寺のぼたん哉        文政句帖   政8
    唐びいきめさるゝ寺[の]ぼたん哉    文政句帖   政8
    小ぼたんのふつり合なる盛哉        文政句帖   政8
    隅つこに咲くやぼたんのかじけ花    文政句帖   政8
    立石の穴をふさげるぼたん哉        文政句帖   政8
    つく 〜 とぼたんの上の蛙哉        文政句帖   政8
    乙鳥[の]泥口ぬぐふぼたん哉        文政句帖   政8
    人出して錠おろす也ぼたん畠        文政句帖   政8
    日[に] 〜 麦ぬか浴るぼたん哉      文政句帖   政8
    古椀をまだかぶつてるぼたん哉      文政句帖   政8
    籾ぬかやぼたん畠の通り道          文政句帖   政8
        遠望
    山雲や赤は牡丹の花の雲            文政句帖   政8
    屑ごゑにつゝかくれても牡丹哉      文政句帖   政8             「ゑ」→「え」
    掃人の尻で散たる牡丹かな          文政句帖   政8

 

蓮(蓮の花、白蓮、鬼蓮、蓮の葉、蓮の浮葉、蓮池)

        我たぐひは、目ありても馬のごとく、初雪のおもしろき日も、悪いもの
        が降とて謗り、時鳥のいさぎよき夜も、かしましく鳴とて憎み、月につ
        け花につけ、たゞ従に寝ころぶのみ。是あたら景色の罪人ともいふべし。
    蓮の花虱を捨るばかり也            寛政三紀行 寛3
    君が世や蛇に住替る蓮の花          寛政句帖   寛4
    蓮の香や昼寝の上を吹巡る          遺稿       寛中
    暁に人気も見へぬ荷哉              享和句帖   享3    「へ」→「え」
    けふも 〜 茶をたをされつ蓮の花    享和句帖   享3    「たを」→「たふ」
    白蓮に二筋三すじ柳哉              享和句帖   享3    「じ」→「ぢ」
    せゝなぎの樋の口迄蓮の花          享和句帖   享3
    蓮の香をうしろにしたり岡の家      享和句帖   享3
    二日ぶり夜は明にけり蓮の花        享和句帖   享3
        沢陂
    まじ 〜 と稲葉がくれの蓮哉        享和句帖   享3
    青柳ははや夜に入て蓮[の]花        文化句帖   化1
    大沼や一つ咲ても蓮の花            文化句帖   化1
    雀等が浴なくしたり蓮の水          文化句帖   化1
    どの村の持とも見へず蓮の花        文化句帖   化1    「へ」→「え」
    鼻先のわら菌いくつ蓮の花          文化句帖   化1
    蓮咲て手も邪魔になる夕哉          文化句帖   化2
    蓮咲や搗屋は臼に腰かけて          文化句帖   化2
    蓮[の]花辰上りしと人のいふ        文化句帖   化2    「辰」→「竜」
    御祝に飴をめせ 〜 蓮の花          文化句帖   化3
    風筋に藪の立けり蓮[の]花          文化句帖   化3
    片町の雨掃つける蓮[の]花          文化句帖   化3
    小盥も蓮もひとつ夕べ哉            文化句帖   化3
    蓮[の]花乞食のけぶりかゝる也      文化句帖   化3
    蓮[の]花燕に人に暮にけり          文化句帖   化3
    蓮[の]花燕はとしのよらぬ也        文化句帖   化3
    荷[の]葉に雨掃よせて立りけり      文化句帖   化3
    福蟾[も]這出給へ蓮の花            文化句帖   化3
    うき葉 〜 蓮の虻にぞ喰れける      七番日記   化7
    馬喰し虻が逃行蓮の花              七番日記   化7    (異)同日記(化7)上五「手ばしこく」
    したゝかにさして去けり蓮の虻      化三―八写 化7
        蓮池有
    花盛蓮の〓蚊に喰れけり            七番日記   化7    (〓は「亡」の下に「虫」)
                                                   「〓」→「虻」(出)『文化三―八年句日記写』
    門 〜 は残[ら]ず蓮の月よ哉        句稿消息   化9
    ちり芥投るべからず蓮[の]花        句稿消息   化9(異)『七番日記』(化9)上五「芥あくた」
    蓮の葉に乗せたやうなる庵哉        七番日記   化9
           (異)『株番』『句稿消息』中七「乗せたるやうな」『発句集続篇』中七「のせるやうなる」
    べら坊に日の永くなるはすの花      句稿消息   化9
    大かたはあちら向也はすの花        七番日記   化10
    鬼蓮もさら 〜 一つ夕哉            七番日記   化10
    乞食の枕に並ぶうき葉哉            七番日記   化10
    誰家や蓮に吹かれて夕茶漬け        七番日記   化10    (異)『志多良』『句稿消息』上五
                       「誰宿ぞ」『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』上五「丘の家や」
    児達や盃をく也蓮の花              七番日記   化10    「を」→「お」
    はす池やつんとさし出る乞食小屋    七番日記   化10
    人さした虻のまじ 〜 蓮の花        七番日記   化10
    足洗ふ拍子にひらく蓮の花          七番日記   化11
    穏坊[の]むつきほしたり蓮[の]花    七番日記   化11    「穏」→「隠」
    雲霧もそつちのけとや蓮[の]花      七番日記   化11
    蝶鳥もそつちのけとや蓮[の]花      七番日記   化11
                                           (異)同日記(化14)上五中七「虻蜂もそつちのけ 〜 」
    蓮池にうしろつんむく後架哉        七番日記   化11
        鬼
    世[の]中よ針だらけでも蓮[の]花    七番日記   化12
    鬼蓮も花の盛は持にけり            七番日記   化13
    千軒の垢も流るゝ蓮の花            七番日記   化13
    蓮咲くや八文茶漬け二八そば        七番日記   化13
    蓮の風ふんばたがつて吹れけり      七番日記   化13
    張出しや蓮の台の小食小屋          七番日記   化13    「小食」→「乞食」
    人の世に田に作るゝ蓮の花          七番日記   化13    (異)『発句集続篇』上五「人の世や」
    懐をふくらかしけり蓮の風          七番日記   化13
    うす縁や蓮に吹かれて夕茶漬        七番日記   化14
    蓮池や切てやりたき家の尻          七番日記   化14
    蓮ぞろり並や六の拍子木に          七番日記   化14
    灯かげなき所が本<ん>の蓮哉        七番日記   化14
    咲花も此世の蓮はまがりけり        八番日記   政2
                                             (出)『嘉永版』(異)『あつくさ』上五「あらし吹」
    すつぽんも朝飯得たか蓮の花        八番日記   政2
    直き世や小銭ほどでも蓮の花        梅塵八番   政2    (出)『おらが春』
    蓮池やうしろつんむく乞食小屋      八番日記   政2
    蓮の花少曲るもうき世哉            おらが春   政2    (出)『発句鈔追加』
    はすの花曲[ら]せば斯う曲りけり    八番日記   政2
    我門にうつせば小さし蓮の花        八番日記   政2
    蓮の葉は雨も白玉となりにけり      八番日記   政4
    池の蓮金色に咲く欲はなし          文政句帖   政5
                (異)同句帖(政5)上五下五「神の蓮・・・欲はなき」同句帖(政7)上五「御世の蓮」
    いつの時在家には咲く蓮の花        文政句帖   政5
    穢太らが家の尻より蓮の花          文政句帖   政5
    大きさよしかも在家の蓮の花        文政句帖   政5
    さく蓮下水 〜 のおち所            文政句帖   政5
    泥中の蓮と力んで咲にけり          文政句帖   政5
    沼の蓮葉さへ花[さ]へ売られけり    文政句帖   政5
    蓮の花汁の実畠へ咲のぼる          文政句帖   政5
    蓮の花大浴人に貰ひけり            文政句帖   政5    「浴」→「俗」
    人をとる主の際より蓮の花          文政句帖   政5
    人喰た虻が乗る也蓮の花            文政句帖   政5
                                             (異)同句帖(政7)上五中七「馬くふた虻の乗る也」
    菜畠や四五本そよぐ蓮の花          文政句帖   政7
        不忍池
    犬の声ぱつたり止て蓮の花          発句鈔追加
        鬼蓮
    沼蓮や鬼とよばれて楽に咲          発句鈔追加
        忍ずの池
    畑へものさばり出たり蓮の花        発句集続篇

 

撫子(河原撫子)

    なでしこの蒔そこなひも月夜也      文化句帖   化1    (異)真蹟 下五「月よ哉」
    なでしこに添ふて伸たる野びへ哉    文化句帖   化2    「ふ」→「う」「へ」→「え」
    なでしこや畠さまたげとぢゝがいふ  文化句帖   化2
    なでしこやわらじ作が朝の花        化五六句記 化6    「じ」→「ぢ」
    御地蔵や花なでしこの真中に        七番日記   化9
    御地蔵[よ]河原なでしこたゞ頼む    七番日記   化9    (出)『株番』
    俤のかはらなでしこそれも恥        七番日記   化9(異)『株番』『句稿消息』下五「あの通り」
    なでしこが大な蜂にさゝれけり      七番日記   化9
    なでし子に日の目も見せぬ小笹哉    七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    瞿子のもまれてさくや汐風に        七番日記   化9    (出)『株番』
    なでしこや片陰できし夕薬師        七番日記   化9
                                               (出)『句稿消息』(異)『株番』中七「片陰作る」
    なでしこやそなたは親の蕃椒        七番日記   化9    (出)『株番』
    ろくな露もなくて瞿麦の一期哉      七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    石と成りし姫がなでしこありしよな  七番日記   化10
    なでしこや一つ咲ては露のため      七番日記   化10
    雨露の恩返し哉野なでしこ          七番日記   政1
    なでし子に二文が水を浴せけり      八番日記   政2    (出)『おらが春』『発句集続篇』
        我又さの通り、梅の魁に生れながら、茨の遅生へに地をせばめられつゝ、鬼ばゝ山の山おろし
        に吹折れ 〜 て、晴れ 〜 しき世界に芽を出す日は一日もなく、ことし五十七年、露の玉の緒
        の今迄切ざるもふしぎ也。しかるに、おのれが不運を科なき草木に及すことの不便也けり。
    なでしこやまゝはゝ木々の日陰花    おらが春   政2
    江戸ありて花なでしこも売れけり    八番日記   政3    (異)『嘉永版』下五「売にけり」
    赤いぞよ中あのなあかの小なでしこ  八番日記   政4
    朝夕に育おかれしなでしこよ        八番日記   政4
  たぢりもじりなりたきまゝや野なでしこ八番日記   政4    「たぢ」→「すぢ」「じ」→「ぢ」
    なでしこの行義に咲くや育がら      八番日記   政4    「義」→「儀」
    なで[し]このなぜ折たぞよおれたぞよ八番日記   政4    「お」→「を」
    物陰にこつそり咲や小なでしこ      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「こそりと咲や」
    なでしこや人が作れば直ほそる      文政句帖   政5
    野なでしこ我儘咲が見事也          文政句帖   政5
        箱根山さいの河原
    なでしこや地蔵菩薩の迹先に        真蹟
    撫子やにくまれ草にはゝされる      発句集続篇

 

常夏

    常夏に切割川原 〜 哉              西紀書込   寛中

 

釣り荵

    薄べりにつとふ荵のしづく哉        西紀書込   寛中    「と」→「た」
    水かけて夜にしたりけり釣荵        七番日記   化11    (出)『句稿消息』真蹟
    荵売馬の下腹くゞりけり            文政句帖   政7

 

辷りひゆ

    釣らされて一期しまひぬ辷り〓      七番日記   化12    「ら」→「る」〓は草冠に「見」

 

蓼(犬蓼)

    犬蓼に流れ入けり土左衛門          文政句帖   政5
    犬蓼のをん果に狂ふ川辺哉          文政句帖   政5
    肴屋がうらと知れけり蓼畠          文政句帖   政5
                                               (異)『発句集続篇』「肴屋の裏と見えけり蓼の花」
    蓼の葉と掴で行や酒の銭            文政句帖   政5

 

    麻一本つんと延たる茨哉            享和句帖   享3

 

杜若

        此里は、家 〜 のいたゞきにさま 〜 の草を植る。なんと
        なくいにしへめきて、さながら巣居のありさまとも見ゆ。
    かきつばた烟かゝらぬ花もなし      寛政三紀行 寛3
    垣津旗よりあの虹は起りけん        寛政句帖   寛6
    杜若低い花にも風の吹              文化句帖   化1
    消炭の見事に干たり杜若            文化句帖   化1
    旅人にすれし家鴨や杜若            文化句帖   化1
    杜若妹がなべずみかゝる也          文化句帖   化3
    紙屑のいつかつゞきしかきつばた    文化句帖   化3
    草稗もそよぎ添けりかきつばた      文化句帖   化3
    杜若夜は家鴨も寝ざりけり          文化句帖   化5
    杜若蚊やりにしても露 〜 し        化五六句記 化6
    雁鴨が足を拭也かきつばた          七番日記   化9
    赤犬の欠の先やかきつばた          七番日記   化10
    磯寺やこつぱの中のかきつばた      七番日記   化10
    沢潟に日陰とられてかきつばた      七番日記   化10    (出)『発句集続篇』
    さりとてはばか長[き]日よかきつばた七番日記   化10
    ひよ[ろ] 〜 と草の中よりかきつばた七番日記   化10
    棒つきが袖よそれ 〜 かきつばた    七番日記   化10
    さをしかの口とゞかぬや杜若        七番日記   化11
    乙鳥にも節句をさせよ杜若          七番日記   化11
    我庵や花のちいさいかきつばた      七番日記   化11    「ちい」→「ちひ」
                                                       (異)同日記(政1)中七「なぜに小さい」
    画簾や半分上て杜若                七番日記   政1
    杜若庵に植れば小ぶり也            七番日記   政1
    小便のたら 〜 下や杜若            七番日記   政1
    先操に隙を明けりかきつばた        七番日記   政1    「操」→「繰」
                                                         (異)『発句集続篇』中七「隙の明けり」
    太刀かつぐ子のかはいさよ杜若      七番日記   政1
    一雫袖で拭つゝ杜菴                七番日記   政1    「菴」→「若」
    古杭の古き夜明やかきつばた        七番日記   政1
    細長い蛇の社や杜若                七番日記   政1
    馬の子が口さん出すやかきつばた    八番日記   政2
                                        (類)『七番日記』(政1)上五下五「馬の子や・・・柿紅葉」
    馬も髪結ひて立也かきつばた        八番日記   政2
    けさ程や芥に一本かきつばた        八番日記   政2
    杜若花故に葉も切れけり            八番日記   政4
    鵲鴒は神の使かかきつばた          文政句帖   政7
    通ひ路に階子渡すや杜若            文政句帖   政8    (出)『文政版』
    大江戸やおめずおくせず杜若        嘉永版
                (類)『版本題叢』『希杖本』下五「時鳥」『発句題叢』上五下五「大江戸も・・・時鳥」
                             『七番日記』前書き「勇」『発句鈔追加』上五下五「江戸入や・・・時鳥」

 

花菖蒲(花あやめ、菖蒲、あやめ)

    足首の埃たゝいて花さうぶ          文化句帖   化2    「さ」→「しや」
    うしろ日のいら 〜 しさよ花あやめ  文化句帖   化2
    見るうちに日のさしにけり花せふぶ  文化句帖   化2    「せふ」→「しやう」
    さうぶ刈音さへ朝のもよう哉        化五六句記 化6    「さ」→「しや」「よ」→「や」
    住吉のすみの[小]隅もせうぶ哉      七番日記   化8    「さ」→「しや」
    大馬の口のとゞかぬあやめ哉        七番日記   化11
        五日祝
    親ありて笠にさしたるさうぶ哉      七番日記   化12    「さう」→「しやう」
    草家根やさゝぬ菖[蒲]は花がさく    文政句帖   政7
    溝川の底や菖[蒲]の画そら言        文政句帖   政7

 

百合の花

    いくばくの草ほこりや百合の花      享和句帖   享3
    うつとしや雨はやみても百合の花    享和句帖   享3
    ゑりはりと茨の下より百合[の]花    享和句帖   享3
    散迄に月日も見ぬや百合[の]花      享和句帖   享3
    長降りの節の明らん百合[の]花      享和句帖   享3
    松迄は日もとゞきけり百合[の]花    享和句帖   享3
    山松に吹つけられし百合[の]花      享和句帖   享3
    我見ても久しき蟾や百合[の]花      享和句帖   享3
    松の葉の丁と立けり百合[の]花      文化句帖   化1
    百合咲や米つく僧が藪白眼          文化句帖   化1
    百合[の]花朝から暮るゝけしき也    文化句帖   化1
    百合も咲雲もはれけり卅日掃        文化句帖   化1    「掃」→「柿」
    けふからの念仏聞 〜 ゆりの花      七番日記   化7
    さくゆりになむあみだぶのはやる也  七番日記   化7
    しん 〜 とゆりの咲けり鳴雲雀      七番日記   化7
    寝る午はゆりの心にかなふべし      七番日記   化7    「午」→「牛」
    ゆり咲てとりしまりなき夕哉        七番日記   化7
    ゆり咲や大骨折て雲雀鳴            七番日記   化7
    さをしかの角にかけたりゆりの花    七番日記   化9
                           (類)同日記(化9)下五「一葉哉」『八番日記』(政2)下五「手行灯」
    長 〜 と犬の寝にけりゆりの花      七番日記   化9
    夕闇やかのこ班のゆりの花          七番日記   化9    「班」→「斑」

 

芭蕉の花(優曇華)

    甘い露芭蕉咲とて降りしよな        八番日記   政3    (出)『文政版』前書き「うどん花」
    うどんげや是から降らば甘い露      梅塵八番   政3
    日本のうどんげ咲ぬ又咲ぬ          八番日記   政3
    法の世や在家のばせを花が咲く      文政句帖   政7

 

萍(萍の花)

    軽石や萍の中を行戻り              寛政句帖   寛4
    萍の花より低き通りかな            享和句帖   享3
    萍や朝から闇き松片枝              享和句帖   享3
    萍やいつやどり木の薄紅葉          享和句帖   享3
    萍や黒い小蝶のひら 〜 と          享和句帖   享3
    萍にぞろりと並ぶ乙鳥哉            七番日記   化9
    萍のそれも楽やら花のさく          七番日記   化9    (出)『株番』
    萍や袂の紙もとんでさく            七番日記   化9
    萍のつい 〜 人がきらひやら        七番日記   化9
    萍の花よ来い 〜 爺が茶屋          七番日記   化9
                 (出)『発句題叢』『嘉永版』『希杖本』(異)『発句鈔追加』中七「花よこよ 〜 」
    萍もちさい経木をたのみ哉          七番日記   化9
    萍も願ひ有やら西にさく            七番日記   化9    (異)『株番』中七「願ひありてや」
    萍やだま[つ]て居たら天窓へも      七番日記   化9
    萍や鳥打奴が袖にさく              七番日記   化9
    萍の咲てたもるや庵の前            七番日記   化11    (異)『希杖本』下五「庵の川」
    萍や花咲く迄のうき沈              七番日記   化11    (出)『希杖本』
    うき草や網の目[に]さへしばし咲    七番日記   化13
    萍の花からのらんあの雲へ          八番日記   政2    (出)『おらが春』前書き「大沼」
    馬柄杓にちよいと葎咲にけり        八番日記   政2    「葎」→「萍」
    萍のかふにして咲門田哉            八番日記   政3
    萍の鍋の中にも咲にけり            八番日記   政3    (出)『発句集続篇』
    萍の兀た所がもやう哉              八番日記   政3
                               (異)『だん袋』中七「兀た所も」『発句鈔追加』中七「のけた所も」
    萍の腕を詠て添乳哉                八番日記   政3    「腕」→「花」
    萍の花の台の沼太郎                八番日記   政3    (異)『梅塵八番』上五「浮草や」
    萍や遊びがてらに花のさく          八番日記   政3
                                               (出)『だん袋』『発句鈔追加』『発句集続篇』書簡
    萍や浮世の風のいふなりに          八番日記   政3
                                           (出)『嘉永版』(異)『発句集続篇』下五「吹なりに」
    萍にふはり蛙の遊山かな            八番日記   政4
    萍や桶に咲ても風そよぐ            八番日記   政4    (出)書簡
    御鼠ちよろ 〜 萍渡り哉            八番日記   政4
    うき草の腕に咲たる裸かな          発句集続篇
    萍や魚すくふたる小菅笠            希杖本             「ふ」→「う」

 

石菖

    昼過や石菖鉢と蚊いぶしと          七番日記   化12
    石菖のしん 〜 として鼾哉          文政句帖   政5
    石菖や土の西行もねぶた顔          文政句帖   政5
    石菖や昼寝連[から]かりらるゝ      文政句帖   政5

 

蚊帳釣り草

        香附子、和名カヤツリ草
    野に伏ば蚊屋つり草も頼むべし      八番日記   政3
                                      (出)『発句鈔追加』前書き「香附子一名かやつり草といふ」

 

早苗(捨て早苗、余り苗、早苗舟)

    余苗馬さへ喰ず成にけり            七番日記   化12
    捨早苗馬も踏ずに通りけり          七番日記   化12
    虻蠅になぶらるゝ也捨早苗          七番日記   化13
    里の子が犬に付たるさ苗哉          七番日記   化13
    捨さ苗犬の寝所にしたりけり        七番日記   化13
    大道へどなり 〜 や捨早苗          七番日記   化13
    かくれ家の畠に植る早苗かな        八番日記   政2
    道ばたや馬も喰はぬ捨早苗          八番日記   政2    (異)『梅塵八番』中七「馬でも喰はぬ」
    旅人や野にさして行流れ苗          文政句帖   政5
    めでたしやどさり 〜 と捨さ苗      文政句帖   政5
    朝富士の天窓へ投る早苗哉          希杖本
                                       (出)『発句集続篇』(異)『希杖本』中七「あたまへ投し」
    象潟や蛍まぶれの早苗舟            画賛

 

麦(大麦、小麦、烏麦、穂麦、新麦、痩せ麦、麦畑、麦穂、麦糠、麦秋、麦の秋、麦刈る、麦打つ、麦搗く)

    麦秋やふと居馴[染]る伊勢参        題葉集     寛12    (出)遺稿
        防有鵲巣
    揚土に何を種とて麦一穂            享和句帖   享3
        東門之池
    里の女や麦にやつれしうしろ帯      享和句帖   享3
    しの竹のひよろ 〜 暮る穂麦哉      享和句帖   享3
    麦刈の不二見所の榎哉              享和句帖   享3
    麦ぬかの流の末の小なべ哉          享和句帖   享3
    麦の穂や私方は竹の出来            享和句帖   享3
    山水の溝にあまるや田麦刈          享和句帖   享3
    鶯やうき世の隅も麦の秋            七番日記   化7
    風引な大麦小麦烏麦                七番日記   化7
    麦秋の小隅に咲くは何の花          七番日記   化7
             (出)『文化三―八年句日記写』(化7)(異)『希杖本』中七下五「小隅に咲る椿かな」
    かはいさうな花の咲けり麦の秋      株番       化9
    はら 〜 と麦の四月五月哉          七番日記   化9
    麦秋やうらの苔屋は魚の秋          七番日記   化9    「苔」→「苫」
                                                         (出)『株番』『発句集続篇』
    麦秋やしはがれ声の小田の雁        七番日記   化9
    鶯の功者に成ぬ麦の秋              七番日記   化10    (出)『発句集続篇』
    陽炎の真盛也麦の秋                志多良     化10
                                   (出)『句稿消息』(異)『七番日記』(化10)下五「ことし竹」
    烏麦あたり払て立りけり            七番日記   化11
    此所かすみ盛りや麦の秋            七番日記   化11
    のさばるや黒い麦のほ里蜻蛉        七番日記   化11
    麦の穂や大骨折て行小蝶            七番日記   化11
    庵の麦きせ[る]で打て仕廻けり      七番日記   化12  (出)『句稿消息』『随斎筆紀』『希杖本』
    思入に木槿咲けり麦の秋            七番日記   化12
    なまけ[る]な大麦小麦烏麦          七番日記   化12
    萩の葉のうむい盛や麦[の]秋        七番日記   化12    「う」→「ね」
    麦打の打ころばすな草の庵          七番日記   化12
    妹が子は穂麦の風にふとりけり      七番日記   化13
    黒い穂もなまめき立り麦の秋        七番日記   化13  (異)『発句集続篇』中七「なまめき立ぬ」
    辻仏守り給ふや麦一穂              七番日記   化13
    軒下や一本麦も五六尺              七番日記   化13
    のら 〜 の丈の高さよ烏麦          七番日記   化13
    ちさい子がたばこ吹也麦の秋        七番日記   化14
    畠縁に酒を売也麦の秋              七番日記   化14    (類)同日記(政1)下五「花盛」
    門 〜 や月を見かけて麦をつく      七番日記   政1
    黒い穂も世の賑しや麦畠            七番日記   政1
    味噌皮のあらありがたや麦[の]秋    七番日記   政1
    隠れ家の柱で麦をうたれけり        梅塵八番   政2
                                             (出)『おらが春』(異)『希杖本』中七「柱も麦を」
    首たけの水にもそよぐ穂麦哉        八番日記   政2    (出)『嘉永版』
        越後女、旅かけて商ひする哀さを
    麦秋や子を負ながらいはし売        おらが春   政2    「は」→「わ」(出)『発句鈔追加』
    新麦や幸月の利休垣                発句題叢   政3
                                                   (出)『発句鈔追加』『希杖本』『発句類題集』
    麦つくや大道中の大月夜            八番日記   政4
    痩麦も世間並とて穂に出ぬ          八番日記   政4
    山芋の印の麦も穂に出ぬ            八番日記   政4
    くり 〜 と月のさしけり坊主麦      文政句帖   政5
    黒いのは烏が蒔た穂麦かな          文政句帖   政5
    柴門や一穂二ほも麦の秋            文政句帖   政5
    つゝ立やにくまれものゝ烏麦        文政句帖   政5
    麦秋や土台の石も汗をかく          文政句帖   政5
    御仏の分は家根にも穂麦哉          文政句帖   政7
                                             (異)同句帖(政7)中七下五「分は家根なる麦穂哉」
    麦秋のあて事もない夜寒哉          文政句帖   政7
    麦秋や畠を歩く小酒うり            文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)上五「麦の穂や」
    麦秋や本の秋より寒い雨            文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)上五「麦[の]穂や」
    麦搗の大道中の茶釜哉              文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「麦搗に」
    麦搗や行灯釣す門榎                文政句帖   政8
    麦搗や榎三本小だてにとり          文政句帖   政8
    麦ぬかの真つ風下を通り哉          文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「麦の毛の」
    家の峰や鳥が仕わざの麦いく穂      文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)下五「麦一穂」
    山寺は碁の秋里は麦の秋            文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)中七「棋の秋里は」
    垣添や只四五本の麦の秋            希杖本

 

麦藁(麦殻)

    麦わらのまんだらもおれ筥根山      草津道の記 化5
    麦殻や連て流るゝ山桜              七番日記   化13

 

麦笛(麦藁笛)

    むら雀麦わら笛におどる也          七番日記   化10    「お」→「を」
    麦笛や子笛細工にしては呼          文政句帖   政5

 

    片意地や芦も片はの法花村          八番日記   政4    「花」→「華」
                                       (異)『文政句帖』(政7)上五中七「片意地に芦の片葉や」
    よしあしも一つにくれて行衛哉      八番日記   政4
    芦の葉やによろり顔出す沼太郎      発句鈔追加

 

    貢なき沢と見[え]たり蒲はち葉      享和句帖   享3    「ち」→「す」

 

    てつぺんに露乗せおくは藺哉        文政句帖   政6

 

太藺

    真直に蓮の中の太藺哉              文政句帖   政5

 

青芒

        同行四人、雑司ヶ谷にかゝる。皆々行末の安堵ならんことを鬼子[母]神に祈る。
    顔ぬらすひた 〜 水や青芒          草津道の記 化5

 

一つ葉

    一つ葉の囲はひでるそよぎ哉        文政句帖   政5

 

苔の花(青苔)

        大磯
    苔の花小疵に咲や石地蔵            五十三駅   天8
    我苔の花咲時に逢にけり            文化句帖   化3
    庵の苔花さくすべもしらぬ也        七番日記   化9    (出)『株番』『発句題叢』『文政版』
                                 『希杖本』『きやらぶき』遺稿(異)『花鳥文庫』中七「花咲事も」
    古郷や細い柱の苔もさく            七番日記   化9    (出)『株番』
    夕陰や今植たれど苔の花            七番日記   化9    (出)『株番』
    赤い花咲かせておくや下り苔        七番日記   化11
                               (異)同日記(化11)『句稿消息』上五中七「赤花をおのがのにして」
        白眼看他世上人
    苔咲くや自慢を聞に来る雀          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    石の苔千代の様を咲にけり          七番日記   化12
    売石にしばしと苔の咲にけり        七番日記   化12
    それ 〜 に盛り持けり苔の花        七番日記   化12
    髭袋松に吹かせて苔[の]花          七番日記   化12
    もく礼の髭がそよぐぞ苔[の]花      七番日記   化12
        雲居因十七日山上ノ墓詣一句
    世[の]中よ云も語も苔の花          七番日記   化12
    我上にやがて咲らん苔の花          七番日記   化12
                     (出)『随斎筆紀』(異)『文政版』『終焉記』上五中七「我上へ今に咲くらん」
    我苔の花さへ盛持にけり            七番日記   化12
    青苔の今一入ぞ花なくば            八番日記   政2
                                             (出)『希杖本』(異)『梅塵八番』中七「今一入と」
    いそがしや山の苔さへ花盛り        八番日記   政2
    庇の苔それでも花のつもり哉        八番日記   政2
                                 (異)『発句集続篇』上五「屋根の苔」『希杖本』下五「仲間かよ」
    山苔も花咲世話のありにけり        八番日記   政2
                       (異)『おらが春』中七下五「花さく世話はもちにけり」『あつくさ』上五中七
                             「石苔も花咲く世話は」『発句集続篇』上五中七「苔にさへ花咲世話は」
    苔はあれ花の咲けり埋れ塚          八番日記   政3
                                                  (異)『希杖本』上五下五「苔もあれ・・・埋れ家」
    花さわぎせずことも哉深山苔        八番日記   政3    「ず」→「ぬ」
    青苔や入らざる花の咲かざらば      八番日記   政4    「入」→「要」
    御地蔵[の]膝も眼鼻も苔の花        八番日記   政4
    猫の寝た迹もつかぬぞ苔の花        八番日記   政4
    冷やりと居り心や苔の花            八番日記   政4
    家根の苔花迄咲て落にけり          八番日記   政4
    家の棟や烏が落す苔の花            八番日記   政4
    夕陰や下手が植ても苔の花          八番日記   政4
    老僧が塵拾ひけり苔の花            八番日記   政4
    世を捨ぬ家に咲く也苔の花          文政句帖   政5

 

若竹(今年竹)

    ことし竹真直に旭登りけり          与播雑詠   寛中
    麦刈の用捨もなしやことし竹        享和句帖   享3
        殷其雷
    わか竹のおきんとすれば電り        享和句帖   享3
    邪魔にされ 〜 つゝことし竹        七番日記   化7
                                             (異)『文化三―八年句日記写』(化7)「 〜 けり」
    せい出してそよげわか竹今のうち    遺稿       化7
                           (出)『発句題叢』『文政版』『希杖本』『さくら念仏』『雪七くさ』真蹟
    そよげ 〜 さら 〜 [竹]のわかいうち七番日記   化7
    そよげ 〜  〜 わか竹今のうち      化三―八写 化7
    わか竹や是も若は二三日            七番日記   化7
                                             (異)同日記(化7)上五中七「竹薗やわかばと云も」
    藪竹もわかいうちとてさはぐ也      七番日記   化9    「は」→「わ」
                                                         (異)『句稿消息』下五「そよぐ也」
    わか竹をたのみに思ふ小家哉        句稿消息   化9
    わか竹やさもうれしげに嬉しげに    七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    蕣のあつらへたやうなことし竹      七番日記   化10    (出)『志多良』
    うれしげや垣の小竹もわか盛        七番日記   化10
                                                 (異)『志多良』『句稿消息』上五「うれしいか」
    陽炎の真盛り也ことし竹            七番日記   化10(異)『志多良』『句稿消息』下五「麦の秋」
    君が代や世やとやそよぐことし竹    七番日記   化10
     (出)『希杖本』(異)『句稿消息』中七「よやとやさはぐ」『発句鈔追加』中七「代やとて戦ぐ」
    扨は月君がわか松わか竹よ          七番日記   化10
    鳩遊べわがわか竹ぞ 〜             七番日記   化10
    古垣やいぢくれ竹もわか盛り        七番日記   化10
    わか竹と云る[ゝ]も一夜ふたよ哉    七番日記   化10
 (出)『句稿消息』(異)『志多良』中七「そよぐも一夜」『文政版』中七下五「呼るゝうちも少かな」
    わか竹に[一]癖なきもなかりけり    七番日記   化10
                            (出)『志多良』(異)『志多良』真蹟 上五中七「わか竹の一癖なきは」
    若竹の世をはゞからぬわか葉哉      七番日記   化10
    わか竹[や]盲蜻蛉に遊ばるゝ        七番日記   化10
    さはぐぞよ竹も小笹もわか盛        七番日記   化11    「は」→「わ」
    なよ竹や今のわかさを庵の垣        七番日記   化11(出)『句稿消息』『発句鈔追加』『希杖本』
    細竹もわか 〜 しさよゆかしさよ    七番日記   化11    (異)『希杖本』上五「熊笹も」
    わか竹や山はかくれて入間川        七番日記   化11    (異)『希杖本』上五「若竹に」
    かくれ家や枕元よりことし竹        七番日記   化13
    古郷や寝所に迄ことし竹            七番日記   政1
    窓ぎりに伸ずもあらなんことし竹    七番日記   政1
    赤注連や疱瘡神のことし竹          八番日記   政2
    あつぱれの大若竹ぞ見ぬうちに      八番日記   政2    (出)『おらが春』(異)『梅塵八番』
   中七「若竹だぞよ」『文政版』中七「大若竹よ」『八番日記』(政2)「少し見ぬうちに天晴若竹ぞ」
    それであれうす紫の今年竹          八番日記   政2
    苦竹をよいことにして若葉哉        八番日記   政2
    雀らも何かよむぞよことし竹        八番日記   政3
    うら窓の明り先なりことし竹        梅塵八番   政4    (出)『発句集続篇』
    若竹のわかい盛りも直過る          梅塵八番   政4    (異)同日記(政4)上五「なよ竹の」
    藪竹や親の真似してつん曲る        文政句帖   政5    (出)真蹟
    遖の大わか竹よわか竹よ            文政句帖   政7
    蟻塚の中やつい 〜 ことし竹        文政句帖   政7
    ことし竹松を手本に曲りけり        文政句帖   政7
    さあらさら野竹もわかいげんき哉    文政句帖   政7
    さはがしや門のわか竹わか雀        文政句帖   政7    「は」→「わ」
    さわがしや役なし竹もわか盛り      文政句帖   政7
    立ぶりやさすが男竹のわか盛り      文政句帖   政7
    杖になる小竹もわか葉盛り哉        文政句帖   政7
    なぐさめに窓へ出たのかことし竹    文政句帖   政7
    むつまじや男竹女竹のわか盛り      文政句帖   政7
    わか竹やとしより竹もともいさみ    文政句帖   政7    (出)『希杖本』『みはしら』
    わか竹や枕の上も夜の雨            発句集続篇      (異)『七番日記』(政1)上五「古郷や」

 

竹の子(親竹、笹の子)

    笋の影の川こす旭日哉              西紀書込   寛中
    笋に娑婆の嵐のかゝる也            文化句帖   化3
    笋の憎れ草も伸支度                文化句帖   化5
    笋や鶯親子連立て                  文化句帖   化5
    笋や門の葎もおとらじと            文化句帖   化5
    親竹のげつくり痩て立りけり        化五六句記 化6
    笋を見つめてござる仏哉            化五六句記 化6
       (出)『文化三―八年句日記写』(化6)(異)『七番日記』(化7)中七「にらんでおじやる」
                                 『発句集続篇』前書き「達磨賛」上五中七「竹の子の藪にらみたる」
    笋や闇い所の行あたり              化五六句記 化6    (出)『文化三―八年句日記写』
    誰が生て居るぞ笋竹の月            七番日記   化7
    笋といふ笋のやみよかな            七番日記   化7
    笋にかゝれとてしもやみよ哉        七番日記   化7
    笋にへだ[て]られけり草の花        七番日記   化7
    笋の兄よ弟よ老ぬ                  七番日記   化7    (異)同日記(化12)下五「つい 〜 と」
    笋や痩山吹も夜の花                七番日記   化7
    ほろ苦い藪笋の行義哉              七番日記   化7    「義」→「儀」
    夜 〜 は門も笋分限哉              七番日記   化7
    うつくしや苦竹の子のつい 〜 と    志多良     化10    「苦」→「若」
    閑居して笋番をしたりけり          七番日記   化10    (出)『志多良』
    笋に病のなきもなかりけり          志多良     化10
                 (出)『発句題叢』(異)『七番日記』(化10)上五「笋の」『版本題叢』『嘉永版』
       『発句鈔追加』『希杖本』中七「病のなきは」『発句集続篇』上五中七「竹の子の病ひのなきは」
    笋も中 〜 庵のほだし哉            七番日記   化10
    露ちるや苦竹の子のぞく 〜 と      七番日記   化10    「苦」→「若」
    笋の連に咲けり赤い花              七番日記   化11
                                           (出)『希杖本』(異)『句稿消息』中七「伽に咲けん」
    娑婆の風にはや笋の痩にけり        七番日記   化12
    順 〜 [に]大笋の曲りけり          七番日記   化12    (出)『句稿消息』
    笋の今がにくまれ盛り哉            七番日記   化12    (出)『発句鈔追加』
    笋のうんぷてんぷの出所哉          七番日記   化12    (異)『句稿消息』『随斎筆紀』中七下五
                       「うんぷてんぷに出たりな」『句稿消息』中七下五「うんぷてんぷな出やう哉」
    笋の罪作らせに出たりけり          七番日記   化12
    笋のにくまれ盛り過にけり          随斎筆紀   化12
    笋も思ふ所へは出ざりけり          七番日記   化12
    足序苦笋も折れけり                七番日記   化13    「苦」→「若」
                                                         (異)『発句集続篇』中七「呉竹の子も」
    笋に喰あひ<合>のなき此身哉        七番日記   化13
    笋の三本目より月よ哉              七番日記   化13
    笋のついと揃も揃たよ              七番日記   化13
    笋も御僧もまめでおじ[や]つたよ    七番日記   化13    「じ」→「ぢ」
    笋も天上天下独尊と                七番日記   化13
    笋の千世もぽつきり折にけり        八番日記   政2
    笋の人の子なくば花さかん          八番日記   政2    (異)『おらが春』上五「笋よ」
    笋も名乗か唯我独尊と              八番日記   政2
    苔竹の子や幸してそろふ            八番日記   政2    「苔」→「苦」
                                                         (異)同日記(政4)下五「つく 〜 と」
    君が世は山笹も子を育けり          八番日記   政3
    笋や女のほじる犬のまね            八番日記   政3    (異)『梅塵八番』中七「女のおしへる」
    笋の面かく猫の影法師              八番日記   政4
    笋の番してござる地蔵哉            八番日記   政4
    笹の子も竹の替りに出たりけり      文政句帖   政5
    笹の子も一はゞするやおく信濃      文政句帖   政5
    笋も育つ度んびに痩にけり          文政句帖   政5
    竹の子や竹に成るのはまんがまれ    文政句帖   政5
    笋やとも 〜 育雀の子              文政句帖   政5    (異)同句帖(政5)上五「笋の」
    若竹の子さへのがれぬうき世哉      文政句帖   政5
    笋の木に交りて曲りけり            文政句帖   政7
    一番の大笋を病かな                希杖本
    しなのなる山笹の子も折れけり      希杖本
    すつかりと見たばかりでも竹の子ぞ  希杖本

 

瓜の花

    谷底の大福長者瓜の花              化五六句記 化6
    番町や谷底見れば瓜の花            七番日記   化1   (異)『発句集続篇』中七「谷庇見れば」

 

瓜(初瓜、冷し瓜)

    冷し瓜二日立てども誰も来ぬ        文化句帖   化1
    待もせぬ月のさしけり冷し瓜        文化句帖   化1
    瓜一つ丸にしづまぬ井也けり        文化句帖   化2
    加茂川や瓜つけさせて月は入        文化句帖   化2
    酒なども売侍る也瓜の番            文化句帖   化2
        野火留の里は、昔男の「我もこもれり」とありし所と聞く
        に、そのあたりに思はれてなつかしく、此辺西瓜を作る。
    瓜むいて芒の風に吹かれけり        草津道の記 化5
    瓜になれ 〜 とや蜂さはぐ          化五六句記 化6    「は」→「わ」
    夕陰や鳩の見ている冷し瓜          七番日記   化8    「い」→「ゐ」
    瓜の香に手をかざしたる鼬哉        七番日記   化9
    瓜のかやどこにどうしてきり 〜 す  七番日記   化9
    はつ瓜の天窓程なる御児哉          七番日記   化9
    石川や有明月と冷し瓜              七番日記   化10
    葉がくれの瓜と寝ころぶ子猫哉      七番日記   化10    (異)『志多良』中七「瓜を枕に」
    人来たら蛙になれよ冷し瓜          志多良     化10
 (出)『句稿消息』『発句題叢』『文政版』『希杖本』(異)『七番日記』(化10)中七「蛙となれよ」
    我庵や小川をかりて冷し瓜          七番日記   化12
    瓜西瓜ねん 〜 ころり 〜 哉        七番日記   化13
    御座敷や瓜むく事もむつかしき      八番日記   政2
    初瓜を引とらまいて寝た子哉        八番日記   政2    「い」→「へ」
                                                         (出)『おらが春』『嘉永版』自画賛
    三日月と一つ並びや冷し瓜          梅塵八番   政2    (出)『嘉永版』
    柳あればその水汲んひやし瓜        類題集     政3
    烏めにしてやられけり冷し瓜        文政句帖   政6
    盗人の見るともしらで涼し瓜        文政句帖   政6    「涼」→「冷」
    初瓜や仏に見せて直下る            文政句帖   政7
    瓜の香にむし出されたる狗哉        希杖本
        五月二十二日渡辺程我妻悼
    けふからはひとりながめや瓜大角豆  発句鈔追加
    草の戸や一月ばかり冷し瓜          希杖本            (異)『発句集続篇』中七「半月ばかり」

 

真桑瓜

    ごろり寝の枕にしたる真瓜哉        七番日記   化14    (異)『発句集続篇』上五「冷 〜 と」
        さと女笑顔して、夢に見へけるまゝを
    頬べたにあてなどしたる真瓜哉      おらが春   政2    (出)『発句鈔追加』
    みたらしや冷し捨たる真[桑]瓜      文政句帖   政5
    又来る[も]来るもうそなれ真瓜哉    文政句帖   政6

 

茄子(初茄子、巾着茄子)

        与介坊が祝往生
    一二本置みやげかよ初なすび        享和句帖   享3
    おくればせに我が畠も茄子哉        享和句帖   享3
    苗売の通る跡より初なすび          享和句帖   享3
    も一日葉陰に見たき茄子哉          享和句帖   享3
    朝顔もたしにざはつく茄子哉        句稿消息   化9
    石茄葉のおほきさよ 〜             句稿消息   化9
    江戸者にかはいがらるゝ茄子哉      句稿消息   化9  (類)『七番日記』(化9)下五「蛍かな」
    吾庵の巾着茄子にく 〜 し          七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    一不二の晴れて立けり初茄子        文政句帖   政5
    扇から扇にとるやはつ茄子          文政句帖   政5
    大江戸や二番なり也はつ茄子        文政句帖   政5
    けふも 〜 もがずに見るやはつ茄子  文政句帖   政5
    柴門や貰ふたる日がはつ茄子        文政句帖   政5    「ふ」→「う」
    前載に立や茄子の守り札            文政句帖   政5    「載」→「栽」
                                                         (異)同句帖(政5)上五「葉がくれに」
    大兵の使也けりはつ茄子            文政句帖   政5
                                               (異)同句帖(政5)「はつ茄子さて大兵の使かな」
    手のひらや見て居るうちが初茄子    文政句帖   政5    (異)『発句集続篇』上五「手のひらに」
    鉢植や見るばかりなる初茄子        文政句帖   政5
    初茄子とらずにおいて盗まれし      文政句帖   政5
    守り札かけて育やはつ茄子          文政句帖   政5
    守り札すき間あらすな初茄子        文政句帖   政5
    御仏に見せたばかりやはつ茄子      文政句帖   政5

 

胡椒

    丸呑はもとより水と胡椒哉          八番日記   政3

 

若葉(初若葉、若葉陰)

        浦和の入口に月よみの宮あり。いさゝかの森なれど、いとよく茂りぬ。
    わる眠い気を引立るわか葉哉        寛政三紀行 寛3
    出る枝は伐らるゝ垣のわか葉哉      寛政句帖   寛5
    遠浦や常は無木のわか葉見ゆ        寛政句帖   寛5
        探題
    山はわか葉人は身軽き比に哉        西国紀行   寛7
    おとわかゞ雨のぼる迄わか葉哉      与播雑詠   寛中
    門口にわか葉かぶさる雨日哉        与播雑詠   寛中
    存分に藤ぶら下るわか葉哉          西紀書込   寛中
    ほち 〜 とよべの雨落るわか葉哉    与播雑詠   寛中
        大過初九二、変日枯揚生柿、老夫得其女妻           「揚生柿」→「楊生梯」
    筏木の流れながらのわか葉哉        享和句帖   享3
    駒つなぐ門の杭にわか葉哉          享和句帖   享3
        けふは雨降らぬと云日なれば、富が岡の開帳かけて同行三人、ふと立出侍る。
    年よらぬ心になりしわか葉哉        文化句帖   化1
    わか葉吹 〜 とて寝たりけり        文化句帖   化4
    夕飯も山水くさきわか葉哉          文化句帖   化5
    旦夕にふすぼりもせぬわかば哉      七番日記   化7
    桑の木や旦 〜 の初わか葉          七番日記   化7
    赤わか葉よは 〜 しさよおとなしき  七番日記   化11
    灰汁の水が澄きるわか葉哉          七番日記   化11
    しんとしてわか葉の赤い御寺哉      七番日記   化11
    其中にはゞせぬ赤いわか葉哉        七番日記   化11
    辻番の窓をせうじをわか葉哉        七番日記   化11    「せ」→「しや」
    なぜかして赤いわか葉がもろいぞよ  七番日記   化11
    寝ころべば腹の上迄わか葉哉        七番日記   化11    (出)『発句集続篇』
    古垣の仕様事なしのわか葉哉        七番日記   化11
     (異)『句稿消息』中七「仕やう事なしに」『文政句帖』(政7)上五中七「荒垣の仕様事なしに」
    放下師が小楯にとりしわか葉哉      七番日記   化11
    又六が門はわか葉の間かな          七番日記   化11
    向ふ三軒隣 〜 へわか葉哉          七番日記   化11
    よそ並にわか葉もせぬやばさら垣    七番日記   化11
    我庵は何を申すも藪わか葉          真蹟       化11
    わか葉さへ日陰もの也鉢の木は      七番日記   化11
    わか葉して又もにくまれ榎哉        七番日記   化11
                               (出)『句稿消息』『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
    折ふしや栄ように見へてちるわか葉  七番日記   化13    「よ」→「え」「へ」→「え」
 (異)同日記(化13)上五中七「折 〜 や少栄ように」『希杖本』上五中七「折ふしは栄ようがてらに」
    つるべ竿きよんとしてあるわか葉哉  七番日記   化13
                                             (出)『句稿消息』(異)同日記(化13)下五「茂哉」
    なまじいに赤いわか葉の淋しさよ    七番日記   化13    「じい」→「じひ」
                                         (出)『句稿消息』(異)『発句集続篇』上五「中 〜 に」
    みたらしや果報やけしてちるわか葉  七番日記   化13    (出)『発句集続篇』
    我桜わか葉盛りもちりにけり        七番日記   化13
    わか葉陰なむさん餅や出ざりけり    七番日記   化14
    門の垣わか葉盛もなかりけり        七番日記   政1
    ざぶ 〜 と白壁洗ふわか葉哉        七番日記   政1
    竹垣の曲られながらわか葉哉        七番日記   政1
    つげ垣の四角四面のわか葉哉        七番日記   政1    (異)『発句集続篇』上五「柘植垣は」
    どちらから鋏をあてんわか葉垣      七番日記   政1
    念入て虫が丸しわか葉哉            七番日記   政1
    橋守が桶の尻干わか葉哉            七番日記   政1
    真丸にせつてうさるゝわか葉哉      七番日記   政1    「て」→「ちや」
        辻村
    わか葉して男日でりの在所哉        七番日記   政1    (出)『発句集続篇』前書き「臍村」
    わか葉して御八日講の幟哉          七番日記   政1
    穢[多]村や男日でりのむら若葉      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「臍村や」
    桶の尻並べ[立]たるわか葉かな      八番日記   政4    (出)『発句鈔追加』
    梧丸た何をたのみにはつわか葉      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「何をたよりに」
    けし炭の庇にかはくわか葉哉        八番日記   政4    「は」→「わ」
    隙人やだらつきあきてわか葉陰      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「だらつき当て」
    塀の猫庇の桶やむら若葉            八番日記   政4
    よい程にたばこのしめる若葉哉      八番日記   政4    (出)『発句鈔追加』
    わかい葉を吹けどかくれぬ古木哉    八番日記   政4
    若葉して猫と烏と喧嘩哉            八番日記   政4
    若葉して福々しさよ無縁寺          八番日記   政4
    大ひねの氷売る也わか葉陰          文政句帖   政5
    楠の念の入たるわか葉哉            文政句帖   政5
    どつしりと居るつぎ穂のわか葉哉    文政句帖   政5
    乗掛のひよつくり出たるわか葉哉    文政句帖   政5
    伴僧が手習す也わか葉陰            文政句帖   政5
    わか葉して中ぶらりんの曇り哉      文政句帖   政5
    ある時は沢山<に>さうにわか葉哉    文政句帖   政6
    いそ 〜 と老木もわか葉仲間哉      文政句帖   政7
                                             (異)同句帖(政7)上五中七「老木も同じくわか葉」
    桐の木の悠々然とわか葉哉          文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)中七「悠然として」
    古垣も分ん相応にわか葉哉          文政句帖   政7
    真丸に四角に柘のわか葉哉          文政句帖   政7
    よい程に赤花すかすわか葉哉        文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)上五「よき程に」
    石になる覚悟[は]見へぬわか葉哉    文政句帖   政8    「へ」→「え」
                                                   (異)同句帖(政8)中七「けぶり[は]見へぬ」
    乾く迄縄張る庭やわか葉吹          文政句帖   政8
                                                   (出)『文政版』『発句鈔追加』『梅塵抄録本』
    子どもら[が]反閉するやわか葉陰    文政句帖   政8
    殊勝さよ貧乏垣も初わか葉          文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)中七「貧乏垣の」
    すり鉢をかぶつた形でわか葉哉      文政句帖   政8
    蠅打の役象るわかば哉              文政句帖   政8

 

青葉(青柏、青松葉)

    梅の木の心しづかに青葉かな        寛政句帖   寛4
    染飯や我 〜 しきが青柏            寛政句帖   寛4
        下山して遠望
    雲折 〜 適に青葉見ゆ玉手山        西国紀行   寛7
    掃初ていく代になりぬ青松葉        享和句帖   享3
    とぶ蝶や青葉桜も縄の中            文化句帖   化1
    〓の上にのせたる青葉哉            文政句帖   政5    〓は麥偏に「少」

 

病葉

    わくら葉のしんぼづよくはなかりけり 文政句帖   政5

 

夏木立

    鴉の声のみ青し夏木立              寛政句帖   寛4    「鴉」→「鵲」
    風さへも除て行也夏木立            寛政句帖   寛4
    塔ばかり見へて東寺は夏木立        寛政句帖   寛4    「へ」→「え」
        誉田祭
    遥拝す御廟は白し夏木立            西国紀行   寛7
    家ありて又家ありて夏木立          享和句帖   享3
    ふりかけていく日の雲や夏木立      享和句帖   享3
    小手前に住こなしたり夏木立        文化句帖   化1
    刀禰川は寝ても見ゆるぞ夏木立      文化句帖   化1
                                           (出)『双樹草稿』前書き「五月十日日暮里にて」遺稿
    鶏の鳴ぬ家なし夏木立              文化句帖   化1
    湯も飯も過し御寺や夏木立          文化句帖   化1
    古郷やちさいがおれが夏木立        七番日記   化11
   (出)同日記(化13)前書き「遠望」(異)『句稿消息』上五「村中や」『希杖本』上五「家 〜 や」
    十疋の馬の嚔や夏木立              七番日記   化12
    堂守りが茶菓子売る也夏木立        句稿消息   化12
                             (出)『文政句帖』(政5)(異)『七番日記』(化12)下五「木下闇」
    二番火の酒のさはぎや夏木立        七番日記   化12    「は」→「わ」
                           (出)『八番日記』(政2)『希杖本』(異)『梅塵八番』下五「夏の月」
    屁のやうな茶もうれる也夏木立      七番日記   化13    (出)『発句集続篇』
    赤い葉の栄耀にちるや夏木立        おらが春   政2    (出)『発句集続篇』
    芝でした休所や夏木立              八番日記   政2
                 (出)『おらが春』(異)『希杖本』中七「腰懸茶屋や」『梅塵八番』下五「夏の月」
    門先や今年さしても夏木立          八番日記   政3
    夜駄ちんの越後肴や夏木立          八番日記   政3
    夜談義の仕方も見へて夏木立        八番日記   政3    「へ」→「え」
                                               (異)『文政版』上五中七「法談の手まねも見へて」
    かりそめにさした柳も夏木立        八番日記   政4
    上人が昼寝つかふや夏木立          八番日記   政4
    むら雨や墓の樒も夏木立            八番日記   政4
    山寺は留主の体也夏木立            文政句帖   政7    (異)『嘉永版』上五「大寺は」
    人声に蛭の降る也夏木立            文政句帖   政8
    夏木立けにもはれにも一木なり      政九十句写 政10
                                           (出)『希杖本』(異)『発句集続篇』下五「一木かな」
    寝る足しになるや隣の夏木立        政九十句写 政10    (出)『希杖本』

 

木陰(木下陰)

        地内にて
    君が世やかゝる木陰もばくち小屋    文化句帖   化1
    下陰を捜してよぶや親の馬          七番日記   化7
    風筋をばゝに取らるゝ木陰哉        七番日記   化13
    白笠を少さますや木下陰            書簡       化14    (出)『おらが春』
        一つ松
    野休みの片袖暑き木陰哉            だん袋     政1  (出)『文政句帖』(政8)『発句鈔追加』
    一人は半身あつし木下陰            文政句帖   政6
    笠で顔ぱつぱとあをぐ木陰哉        文政句帖   政6    「を」→「ふ」

 

茂り(茂り葉)

    伊香保根や茂りを下る温泉[の]煙    寛政句帖   寛4
    君が世や茂りの下の那蘇仏          寛政句帖   寛5    「那」→「耶」
    山の茂り荷とりの馬の松火哉        菊の香     寛12
    汗拭 〜 塚と物がたる茂り哉        西紀書込   寛中
    雨灰汁に月のちら 〜 茂り哉        享和句帖   享3
        我孫子より北へ入、野田を過て流山に入る道に、一丈ばかりなる蛇蟠る。
    大蛇の二日目につく茂り哉          享和句帖   享3
    一本の茂りを今はたのみ哉          七番日記   化9
    笹の葉に飴を並る茂り哉            七番日記   化9
    塩からい餅のうれたる茂り哉        七番日記   化9
    住の江の隅の餅屋が茂哉            七番日記   化9    (出)『発句集続篇』
    目の上[の]瘤とひろがる榎哉        七番日記   化9
    さし柳はや一かどの茂り哉          七番日記   化12
    突さした柳もぱつと茂哉            七番日記   化12
    鶯も隠居じたくの茂り哉            七番日記   化13
    つるべ竿きよんとしてある茂哉      七番日記   化13
                                               (異)同日記(化13)『句稿消息』下五「わか葉哉」
    一本は昼寝の足しの茂り哉          八番日記   政2
    しげり葉や庇の上の湯治道          文政句帖   政5

 

木下闇(下闇)

    灰汁桶の蝶のきげんや木下闇        文化句帖   化1
    さし柳はや下闇の支度かな          七番日記   化7
    下やみや萩のやうなる草の咲        七番日記   化7
                                           (異)同日記(化10)中七下五「まりのやうなる花の咲」
    一本の下闇作る榎かな              七番日記   化10
    界隈の縄なひ所や木下闇            七番日記   化12    (異)同日記(化12)中七「縄くり所や」
    門脇や麦つくだけの木下闇          七番日記   化12
             (異)『句稿消息』中七「粟つくだけの」『栗本雑記五』上五中七「片脇や粟つくだけの」
    堂守りが茶菓子売也木下闇          七番日記   化12
                                           (異)『句稿消息』『文政句帖』(政5)下五「夏木立」
    下闇に清めの手水 〜 哉            七番日記   化13
    下闇や虫もふら 〜 蓑作            七番日記   化13
        浄国寺村に入
    下闇や精進犬のてん 〜 と          七番日記   化14
    ぶら下るわらじと虫や木下闇        七番日記   政1    「じ」→「ぢ」
    界隈のなまけ所や木下闇            八番日記   政2    (出)『おらが春』
    梨坂の神の御前や木下闇            八番日記   政3
    人の寄る水からくりや木下闇        八番日記   政3
    作りながらわらぢ売なり木下闇      八番日記   政4
                           (異)同日記(政4)中七「草履売なり」『発句集続篇』上五「作りしな」
    うら窓や只一本の木下闇            文政句帖   政8
    笠程の花が咲けり木下闇            文政句帖   政8    (類)同日記(政8)下五「手杵哉」
    権禰宜が一人祭りや木下闇          文政句帖   政8
    下闇を小楯にとりて手杵哉          文政句帖   政8
    白妙に草花さくや木下闇            文政句帖   政8
    すみ 〜 もさうじ届くや木下闇      文政句帖   政8    「じ」→「ぢ」
                             (出)『文政版』前書き「禅寺」(異)同句帖(政8)上五「隅 〜 の」
    大庭や松壱本の木下闇              発句集続篇
    洗濯をつけて置けり木下闇          発句集続篇

 

松葉散る

        曽根の松、こは菅公の植給ふと。惜い哉、片枝かれてあれば、
    散松葉昔ながらの掃除番            西国紀行   寛7

 

楠の花

    楠の花人から先へ石になる          文政句帖   政8

 

柿の花

    渋柿のしぶ 〜 花の咲にけり        七番日記   化11
                 (出)『句稿消息』(異)『発句題叢』『希杖本』中七「花のしぶ 〜 」『版本題叢』
     『発句鈔追加』中七下五「しぶ 〜 花と成にけり」『嘉永版』中七下五「しぶ 〜 花になりにけり」
    役馬の立眠りする柿の花            八番日記   政3

 

石梨

    石梨や盲の面に吹つける            文政句帖   政8

 

合歓の花

    日 〜 に四五本ちるや合観の花      享和句帖   享3    「観」→「歓」
    合歓の露浴ねばならぬ支度哉        七番日記   化7
        小菅川に入。左右合歓の花盛り也。
    古舟もそよ 〜 合歓のもやう哉      七番日記   化7
    長の日やびんづるどのと合歓[の]花  七番日記   化10
    寝ぐらしやねぶちよ念仏合歓の花    八番日記   政3    (異)『梅塵八番』中七「ねぶちよ仏に」
    別ぢや合歓の木陰の頼れむ          八番日記   政4
    合歓さくや七つ下りの茶菓子売      文政句帖   政5

 

紫陽花

        鳴海
    紫陽花や己が気儘の絞り染          五十三駅   天8
    紫陽花の末一色と成にけり          文化句帖   化1

 

卯の花(花卯木、卯の花月夜)

        葛履
    道よけて人を待也花卯の木          享和句帖   享3
    いかけしがる壺こぼすや花卯木      文化句帖   化1    「壺」→「堝」
    卯の花に蛙葬る法師哉              文化句帖   化1
    卯[の]花や葬の真似する子ども達    文化句帖   化1
    卯の花や水の明りになく蛙          文化句帖   化1
    淋しさに蠣殻ふみぬ花卯木          文化句帖   化1
    今しばし有明残れ花卯の木          文化句帖   化2
    僧入れぬ垣の卯[の]花咲にけり      文化句帖   化2
    人形りに穴の明く也花うの木        文化句帖   化2
    うの花にどつさりかゝる柳哉        化五六句記 化6
    卯[の]花や臼の目きりと鶯と        化五六句記 化6
               (出)『文化三―八年句日記写』『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』書簡
    うの花や蛙葬る明り先              化五六句記 化6
    うの花や二人が二人仏好            化五六句記 化6
    うの花や飯鐘過もなま二日          七番日記   化7
    堅どうふあな卯[の]花の在所哉      七番日記   化7
    うの花にとぼ 〜 臼の目きり哉      七番日記   化10
    卯の花や伏見へ通ふ犬の道          七番日記   化10
    卯の花や神と乞食の中に咲          七番日記   化11
                 (出)『句稿消息』『発句集続篇』(異)『句稿消息』中七下五「神と庵との其中に」
    卯の花や乞食村の大祭              七番日記   化11
    ずつぷりと濡て卯の花月よ哉        七番日記   化11
    卯の花を先かざしけり菩薩役        七番日記   化12
    卯の花に活た雛見る御山哉          七番日記   化12
    卯の花の門はわらぢの名代哉        七番日記   化13    (異)『発句集続篇』下五「名所かな」
             『句稿消息』中七「垣はわらぢの」『希杖本』『文政版』中七下五「垣に名代のわらぢ哉」
    小盥に臼にうの花吹雪哉            七番日記   政1
    卯の花に一人切の鳥井哉            八番日記   政2    「井」→「居」
                                                         (異)『おらが春』下五「社かな」
    卯の花の吉日もちし後架哉          八番日記   政2
                                           (出)『嘉永版』(異)『梅塵八番』上五「うのはなは」
        八日
    卯の花の花のなきさへうられけり    八番日記   政2
        爰らの子どもの、戯に、蛙を生ながら土に埋めて諷ふていはく、「ひきどのゝ
        お死なつた。おんばくもつてとぶらひに 〜  〜 」と口 〜 にはやして、〓苡    (〓は草冠
        の葉を彼うづめたる上に打かぶせて帰りぬ。しかるに『本草綱目』、車前草の      に「不」)
        異名を蝦蟇衣といふ。此国の俗、がいろつ葉とよぶ。おのづからに和漢心をお
        なじくすといふべし。むかしはかばかりのざれごとさへいはれあるにや。
    卯の花もほろり 〜 や蟇の塚        おらが春   政2  (異)『発句鈔追加』中七「ほろり 〜 と」
    寝所見る程は卯の花月夜哉          八番日記   政2
                                             (異)『おらが春』前書き「独楽坊」下五「明りかな」
    卯の花に布子の膝の光哉            八番日記   政4    (異)同日記(政4)中七「布子の肱の」
    卯の花の四角に暮る在所哉          八番日記   政4    (異)同日記(政4)下五「名主哉」
    卯の花や子どもの作る土だんご      八番日記   政4
    卯の花にけ上げの泥も盛り哉        文政句帖   政5
    卯の花の窓や鬼王新左衛門          文政句帖   政5
    卯[の]花や垣のこちらの俄道        文政句帖   政5
    樒有ひめのりも有花うつ木          文政句帖   政5
    泥道を出れば卯[の]花なかりけり    文政句帖   政5
        十九日雪降
    卯の花や本まの雪もさ[か]り降      文政句帖   政6
    卯の花にしめつぽくなる畳哉        文政句帖   政7    (出)『発句集続篇』
    卯の花の垣根に犬の産屋哉          文政句帖   政8
    卯の花の垣根に吹雪はら 〜 と      文政句帖   政8
    卯の花や子らが蛙の墓参            文政句帖   政8
    卯の花や糊看板のから 〜 と        文政句帖   政8

 

茨の花(花茨)

        行徳より舟に乗て、中川の関といふにかゝるに、防守、怒の眼おそろしく、婦人をにらみ返
        さんとす。是おほやけの掟ゆるがせにせざるはことわり也。又舟人いふやう、「藪の外より、
        そこ 〜 のうちを通りて、かしこへ廻れ」といふ。とく教のまゝにすれば、直に関を過る事
        を得たり。誠に孟甞君が舌もからず、浦の男の知恵もたのまず。げに 〜 丸木をもて方なる
        器洗ふがごとく、隅み 〜 の下闇を見逃[す]とは、ありがたき御代にぞありけ[る]。
    茨の花爰をまたげと咲にけり        寛政三紀行 寛3    (出)『文政版』
    茨咲くや田水の淡にけらすだく      寛政句帖   寛5    「淡」→「泡」
        今夜は主の招きによりて、金比羅の秘法行ふとて、高き所に趺坐して、年頃四十余りの女の、
        女郎花なまめき立る盛りはむかしにして、白き木綿を身にまとひ、髪は芒の乱れたる如く、顔
        は棗の赤みたるやうに、夜叉の眼赫々と開きて、何か呪文を唱ふ口つき、むらがる人をさへ雀
        蚊虻と見下したるおもぶき、いかなる障怪もいかで退かざらん。誠是無垢が勇びか、天邪鬼が
        怒りかともおぼへておそろしく、行末いかなることに身をやよすらんと思ひやられ侍る。
    茨の花虫まけさへもなかりけり      遺草       化5
        辰刻柏原に入。小丸山墓参。村長誰かれに逢ひて我家に入る。き
        のふ心の占のごとく素湯一つとも云ざれば、そこ 〜 にして出る。
    古郷やよるも障も茨の花            七番日記   化7
                (出)真蹟 前書き「柱ともたれしなぬし嘉左衛門といふ人に、あが仏の書一紙いつはり
               とられしものから、魚の水に放れ、盲の杖もがれし心ちして、たのむ木陰も雨降れば、一
                 夜やどるよすが<な>もなく、六十里来りて、墓より直に又六十里外の東へふみ出しぬ。
    鬼茨も花咲にけり咲にけり          七番日記   化13
    蟷螂のわにたつら也茨の花          八番日記   政3
    茨垣犬の上手に潜りけり            文政句帖   政5
    卯の花と人あざぶくや茨垣          文政句帖   政5
    鬼茨もなびくやみだの本願寺        文政句帖   政5
(類)書簡 上五中七「木 〜 もめを開らくやみだの」同句帖(政5)上五中七「花の世や田舎もみだの」
   同句帖(政5)上五中七「西へちるさくらやみだの」同句帖(政5)上五中七「鹿も角落すやみだの」
    花茨ちよつけいを出す小猫哉        文政句帖   政5
    花咲て茨つ子迄も喰れけり          文政句帖   政5
    茨垣や上手に明し犬の道            文政句帖   政5
    見らるゝや垣の茨も花盛り          文政句帖   政5
    下々国の茨も正覚とりにけり        文政句帖   政6
    鬼茨やほとけの世とて花が咲        発句集続篇
    花うばら垣ね曲[れ]る山家哉        浅黄空

 

青瓢

    大雨の上り口也青瓢                文化句帖   化1
    笛吹て立人おはせ青瓢              文化句帖   化1
    心してけぶりもかゝれ青瓢          七番日記   化9
    むだ花にけしきとられて青瓢        七番日記   化9    (出)『株番』『発句題叢』『嘉永版』
        (異)『希杖本』中七下五「気色とらるゝ瓢かな」『嘉永版』中七下五「気色とられし瓢かな」

 

梅の実(青梅、梅漬け)

        土師村菅公廟に詣るに、贈大政大臣正一位と云額ありて、
    社内に天穂日命の社あり。はた門前に梅の並木ありて、
  青梅や餓鬼大将が肌ぬいで     西国紀行  寛7
  青梅に蟻の思ひも通じけん     享和句帖  享3
  探る梅朶の蛙のおしげ也      享和句帖  享3  「お」→「を」
  てつぺんの梅の未練におつぬ哉   享和句帖  享3  「つ」→「ち」
    標有梅
  七つ三つ青梅もおつる日揃哉    享和句帖  享3
  うつり香も青梅 〜 とこなさるゝ  文化句帖  化2
  痩梅のなりどしもなき我身哉    文化句帖  化3
  梅おちて又落にけり露の玉     化五六句記 化6
  沙汰なしに実をむすびたる野梅哉  化五六句記 化6
  山の院梅は熟して立りけり     化五六句記 化6
  我梅やとかくに薄き衆生縁     七番日記  化7
  青梅も十三七つ月よ哉       七番日記  化9    (出)『発句集続篇』
  老梅[の]なるやいかにも痩我慢   七番日記  化13
  痩梅の実のなり様の功者哉     七番日記  化13
  痩梅も実[の]なり様のいさましや  七番日記  化13
  よそ並に実を結たる野梅哉     七番日記  化13
  痩梅のなり年さへもなかりけり   版本題叢  政3  (出)『発句鈔追加』『発句集続篇』
  痩梅もなりどし持てなりにけり   発句題叢  政3  (出)『希杖本』
  青梅は気のへるばかり落る也    文政句帖  政5
  梅漬の指をつく 〜 詠めけり    文政句帖  政5

 

  狗がこかして来たり赤李      発句題叢  政3  (出)『希杖本』
  葉がくれの赤い李をなく小犬    発句題叢  政3
       (出)『発句類題集』(異)『嘉永版』中七「赤い李に」『発句鈔追加』中七「赤へ李を」
  大江戸にまぢりて赤き李哉     八番日記  政4  「ぢ」→「じ」
                             (異)『梅塵八番』下五「木のこ哉」
  もまれてや江戸の李は赤くなる    八番日記  政4  (異)『梅塵八番』中七「江戸のきのこは」
  若猫がざらしなくすや桑季      文政句帖  政8  「季」→「李」
  御地蔵の玉にもち添ふ李哉      真蹟        (異)真蹟 上五「野地蔵の」

 

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