一茶発句全集(12)・・・夏の部(5)

最終補訂2000年10月15日

 

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動物(続)

 

腐草化して蛍と成る

    酒は酢に草は蛍と成にけり          八番日記   政4

 

繭作る

    まゆひとつ仏のひざに作る也        七番日記   化9

 

火取り虫(夏の虫)

    火とり虫人は人とてにくむ也        七番日記   化9
    夏の虫恋する隙はありにけり        七番日記   化13
    火に終る虫や人にはにくまるゝ      八番日記   政2
    庵の火は虫さへとりに来ざりけり    八番日記   政3
    入相のかね撞かねて火とり虫        八番日記   政3
    如中決定してや火とり虫            八番日記   政3    「中」→「此」
                                                         (異)『梅塵八番』上五「心中に」
    けしてよい時は来る也火取虫        八番日記   政3    「る」→「ぬ」
                                                         (異)『発句集続篇』中七「時は来ぬ也」
    木がくれや火のない庵へ火とり虫    八番日記   政3
    此雨の晴間もまたで火とり虫        八番日記   政3
    どれ程に面白いのか火とり虫        八番日記   政3
    逃された草にうぢ 〜 火とり虫      八番日記   政3
    火とり虫咄の腰を折せけり          八番日記   政3
    ぶち猫に追れ序や火とり虫          八番日記   政3
    むだ咄虫に行灯消されけり          八番日記   政3    (出)『発句鈔追加』真蹟
    藪蟻の地獄を逃て火とり虫          八番日記   政3    (異)『梅塵八番』上五「藪越の」
    余の方へ心はふらず火とり虫        八番日記   政3
    両三度うろ 〜 下手な火とり虫      八番日記   政3  (異)『梅塵八番』中七「ころ 〜 下手な」
    又来たぞ手の盃を火とり虫          文政句帖   政6

 

尺取り虫

    あの虫に尺をとらるゝ柱哉          八番日記   政2
    虫に迄尺とられけり我柱            八番日記   政2
             (出)『発句鈔追加』前書き「幽栖」(異)『おらが春』前書き「幽栖」下五「此はしら」
    斧の刃や尺とり虫のとりもどる      文政句帖   政6
    青虫が尺とりしまふ柱哉            真蹟

 

毛虫(白髪太夫)

    紅い花につら 〜 毛むし哉          文政句帖   政6
    大菊のてつぺんに寝る毛虫哉        文政句帖   政6
    大毛虫蟻の地獄におちにけり        文政句帖   政6
    大毛虫白髪くらべに来る事か        文政句帖   政6
    涼しさにぶら 〜 下る毛虫哉        文政句帖   政6
                                                   (異)『だん袋』『発句鈔追加』上五「涼んと」
    それそこは蟻の地獄ぞ這ふ毛虫      文政句帖   政6
    たをやめの側へすりよる毛虫哉      文政句帖   政6
    鉄鉋をびくりともせぬ毛虫哉        文政句帖   政6    「鉋」→「砲」
    としより[の]門や虫さへ諸白髪      文政句帖   政6
    祭り見にぶら 〜 下る毛虫哉        文政句帖   政6
    見かけより素直に逃る毛虫哉        文政句帖   政6
    我門は虫さへ白髪太夫かな          文政句帖   政6
                                                  (出)『だん袋』『発句鈔追加』『発句集続篇』

 

ぼうふり(棒振り虫)

    孑孑や日にい[く]度のうきしづみ    七番日記   化10    (出)『発句鈔追加』
    孑孑も御経の拍子とりにけり        七番日記   化12    (出)『句稿消息』前書き「寺にて」
    けふの日も棒ふり虫と暮にけり      八番日記   政2    (異)『梅塵八番』下五「暮しけり」
        日々懈怠ニシテ不惜寸陰
    けふの日も棒ふり虫よ翌も又        おらが春   政2    (出)『文政版』
    孑孑が天上するぞ三ヶの月          八番日記   政2
 (異)『おらが春』『発句集続篇』上五中七「孑孑の天上したり」『文政句帖』(政5)下五「門の月」
    孑孑の連に巡るやさくらの葉        八番日記   政4    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    孑孑の念仏おどりや墓の水          八番日記   政4    「お」→「を」(出)『発句集続篇』
    孑孑の一人遊びやぬり盥            八番日記   政4    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    孑孑の拍子をのぞく小てふ哉        八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「杓子をのぞく」
    孑孑もふれ御祭ぞやれこらさ        八番日記   政4
    よるはよしよ孑孑見ても涼まろふ    八番日記   政4    「ろふ」→「らう」
    脇見すな虫も棒ふる江戸[の]町      八番日記   政4
                         (異)『文政句帖』(政5)前書き「涼みがてら江戸に入」下五「江戸の水」
    孑孑や息をもつかず長の日に        文政句帖   政5
    孑孑や小便無用 〜 とて            文政句帖   政5
    孑孑や夜は拮講な堀の月            文政句帖   政5    「拮講」→「結構」
    孑孑よせい出してふれ翌は盆        文政句帖   政5

 

蚊(藪蚊、蚊柱、蚊の声)

    通し給へ蚊蝿の如き僧一人          寛政句帖   寛4
    蚊を焼くや紙燭にうつる妹が顔      寛政句帖   寛5
        閑居
    只一つ耳際に蚊の羽かぜ哉          寛政句帖   寛5
    戸迷や蚊の声さぐる木賃宿          寛政句帖   寛5    「迷」→「惑」
    人ありて更て蚊たゝく庭の月        寛政句帖   寛5
    雨垂の内外にむるゝ藪蚊哉          寛政句帖   寛6
    桶あてるちよろ 〜 滝や蚊の声      享和句帖   享3
        竹[裡]といへる<裡>僧の、久しく布川辺をさまよふ
    追れ 〜 蚊の湧く草を寝所哉        享和句帖   享3
    蚊を殺す紙〓にうつる白髪哉        享和句帖   享3    「〓」→「燭」(〓は虫偏に「蜀」)
    蚊のゆふべ坊主にされし一木哉      享和句帖   享3
    蚊一つの一日さはぐ枕哉            享和句帖   享3    「は」→「わ」
    宵越のとふふ明りや蚊のさはぐ      享和句帖   享3    「とふ」→「とう」「は」→「わ」
           (異)『発句題叢』『希杖本』中七下五「豆麩明りになく蚊哉」『版本題叢』『発句鈔追加』
                           中七下五「豆腐明りの藪蚊哉」『嘉永版』中七下五「豆腐明りに藪蚊かな」
    蚊所と人はいへども流哉            文化句帖   化1
    むさしのや隣替へても藪蚊なく      文化句帖   化2
    かつしかの宿の藪蚊はかつえべし    文化句帖   化3    「え」→「ゑ」
    目出度さは上総の蚊にも喰れけり    文化句帖   化3
        下谷出火
    焼にけりさしてとがなき藪蚊迄      文化句帖   化3
    うつくしき花の中より藪蚊哉        文化句帖   化5
    門酒を藪蚊も祝へ朝の月            文化句帖   化5
    蚊の出て蚊をやく草も生へにけり    花見の記   化5    「へ」→「え」(出)『発句鈔追加』
    蚊の出て空うつくしき夜也けり      文化句帖   化5
        上の原猟師次郎左衛門に泊。深谷より十三里十八丁となんいふ。是はるな山の下也。
    蚊の声や足を伸せば草の原          草津道の記 化5
    蚊の声やさら 〜 竹もそしらるゝ    化五六句記 化5
        霖雨の潤ひに土ぬかりて、歩行心にまかせず。
    ぬれ臑にへたとひゝつく藪蚊かな    草津道の記 化5    「ゝ」→「つ」
        庵に入
    時鳥聞所とて藪蚊哉                文化句帖   化5
    あばら蚊の生所の御花哉            化五六句記 化6    「ら」→「れ」
    あまびらや蚊を焦す火に行当        化五六句記 化6
    蚊[の]声やほの 〜 明し浅間山      化五六句記 化6
    樒つむ左<り>明りや蚊の行衛        化五六句記 化6
    翌も 〜  〜 太山と藪蚊哉          七番日記   化7
    鐘鳴や蚊の国に来よ 〜  〜 と      七番日記   化7
    蚊の声に子の育ざる門もなし        七番日記   化7
                                   (異)『文化三―八年句日記写』(化7)中七「子のふとらざる」
    蚊柱や凡五尺の菊の花              七番日記   化7
    蚊柱や草は何なと咲やうす          七番日記   化7
    さし柳見ておれば蚊の出たりけり    七番日記   化7    「お」→「を」
    夕 〜 蚊に住れたる桜かな          七番日記   化7
    庵の蚊にあはれことしも喰れけり    七番日記   化8
    夕空や蚊が鳴出してうつくしき      七番日記   化8    (異)『物見塚記』上五「夕暮や」
    世[の]中はよ過にけらし鳴藪蚊      七番日記   化8    (類)同日記(化10)下五「けさの露」
    蚊柱の外は能なし榎哉              七番日記   化9
                       (出)『希杖本』『発句集続篇』真蹟(異)『発句題叢』中七「外はのうなき」
                                 『嘉永版』中七「外にのうなき」『発句鈔追加』中七「外は用なき」
    ひとつ蚊の咽へとび込さはぎ哉      七番日記   化9    「は」→「わ」
    朝な 〜 蚊のかくれ家の御花哉      七番日記   化10
    今の間に蚊が拵へし柱哉            七番日記   化10    (異)『発句集続篇』中七「蚊の拵へる」
    うかれ蚊の臼となり又柱哉          七番日記   化10
                                                 (異)『志多良』「うかれ蚊や臼となりつゝ又柱」
    臼となり柱となりてなく蚊哉        七番日記   化10
    蚊の声の中[に]赤いぞ草の花        七番日記   化10
    蚊柱をよけ 〜 這入乙鳥哉          七番日記   化10
    蚊柱が袂の下に立にけり            七番日記   化10
    蚊柱も立よささうなかきね哉        七番日記   化10
    蚊柱や翌も来るなら正面へ          七番日記   化10
    か柱やこんな家でもあればこそ      七番日記   化10
    蚊柱やとてもの事に正面へ          七番日記   化10
    蚊柱や松の小脇の捨蚊やり          七番日記   化10
    五十にして都の蚊にも喰れけり      七番日記   化10
                                                   (異)『希杖本』『嘉永版』上五「ねがひから」
    尻くらへ観音堂の藪蚊哉            七番日記   化10
    其袂しばしと餅をつく蚊哉          七番日記   化10
    隣からいぶし出されし藪蚊哉        七番日記   化10
    人あれば蚊も有柳見事也            七番日記   化10
    百敷や夜の都も蚊のさはぐ          七番日記   化10    「は」→「わ」
    明がたはどこへかせぎに行蚊哉      七番日記   化10
    有たけの蚊をふり出して立木哉      七番日記   化11
                                             (異)同日記(化13)中七下五「蚊をふるひ出す芒哉」
    蚊柱の穴から見ゆる都哉            七番日記   化11    (出)『句稿消息』『文政版』
    蚊柱のそれさへ細き栖かな          七番日記   化11
    蚊柱や是もな<き>ければ小淋しき    七番日記   化11
    方 〜 から叩き出されて来る蚊哉    七番日記   化11
    我庵は蚊柱ばかり曲らぬぞ          七番日記   化11
    十念をうけるこぶしへ鳴蚊哉        七番日記   化12
    老が世ぞもう蚊[が]一つ鳴そむる    七番日記   化13
    門の藪蚊の出るのみが一げいぞ      七番日記   化13
                                             (異)『句稿消息』『希杖本』中七「蚊の出るばかり」
    蚊の中へおつ転しておく子哉        七番日記   化13    (出)『発句集続篇』
    蚊柱の足らぬ所や三ヶの月          七番日記   化13
    蚊柱や月の御邪魔でないやうに      七番日記   化13
    涼風が口へ吹込む藪蚊哉            七番日記   化13
    それがしが宿は藪蚊の名所哉        七番日記   化13    (出)『希杖本』
    旅すれば蚊のわく藪もたのみ哉      七番日記   化13
    なむあゝと大口明けば藪蚊哉        七番日記   化13
    一つ蚊のかはゆらしもく聞へけり    七番日記   化13    「もく」→「くも」「へ」→「え」
    むらの蚊の大寄合や軒の月          七番日記   化13
    目出度さはことしの蚊にも喰れけり  七番日記   化13    (出)『随斎筆紀』前書き「方壺より書て
          よ[と]云越たる句」遺稿 前書き「賀六十」『句稿消息』『文政版』『希杖本』『夜のはしら』
    世に住ば蚊のわく藪もたより哉      七番日記   化13
    我宿は口で吹ても出る蚊哉          七番日記   化13    (出)『希杖本』『文政版』
    わん 〜 と江戸生抜の藪蚊哉        七番日記   化13
    明がたに小言いひ 〜 行蚊哉        七番日記   化14
    庵の蚊のかせぎに出や暮の月        七番日記   化14    (異)書簡 下五「三日の月」
    庵の蚊は手で追出して仕廻けり      七番日記   化14
    うしろからふいと功者な藪蚊哉      七番日記   化14
    蚊の声[や]ずらり並んで留主長家    七番日記   化14
    夜の蚊やおれが油断を笑ふらん      七番日記   化14
    あばれ蚊に珠数[を]ふり 〜 回向哉  七番日記   政1    「珠数」→「数珠」
    あばれ蚊や臼引あきて餅をつく      七番日記   政1
    蚊の声に貧乏樽を枕哉              七番日記   政1
    蚊柱の三本目より三ヶの月          七番日記   政1    (出)『希杖本』
    蚊柱のそつくりずるや畠迄          七番日記   政1
                                            (異)同日記(政1)上五「蚊柱も」真蹟 下五「隣迄」
    蚊柱も一本半のかきね哉            七番日記   政1
    蚊柱も横つ倒しの小道哉            七番日記   政1
    来るからに蚊にもふるまふ寝酒哉    七番日記   政1
    酒過し藪蚊やわあんわん 〜 と      七番日記   政1
    野ゝ宮の神酒陶から出か哉          七番日記   政1    「ゝ」→「の」
    柱事などして遊ぶ藪蚊哉            七番日記   政1
                                           (出)『発句集続篇』真蹟(異)『希杖本』上五「柱立」
    一つ二つから蚊柱と成りにけり      七番日記   政1
    へた 〜 と酔倒たる藪蚊哉          七番日記   政1
    本堂にぎつしりつまる藪蚊哉        七番日記   政1
    本堂の藪蚊や爪のたゝぬ程          七番日記   政1    (異)同日記(政1)中七「藪蚊や爪も」
    真直に蚊[の]くみ立し柱哉          七番日記   政1
    旦の蚊の弥陀のうしろにかくれけり  八番日記   政2
        曲物隠れてうかゞふ図
    あばれ蚊のついと古井に忍びけり    おらが春   政2
                                                 (異)『八番日記』(政2)中七「こそと古井に」
    蚊の声に馴てすや 〜 寝る子哉      八番日記   政2    (出)『嘉永版』『発句鈔追加』
    蚊もちらりほらり是から老が世ぞ    八番日記   政2
                                           (出)『おらが春』(異)『あつくさ』上五「蚊ちらり」
    かはいらし蚊も初声ぞ 〜           八番日記   政2
    御祝義の初声上る藪蚊哉            八番日記   政2    「義」→「儀」
    桜迄悪く言する藪蚊哉              八番日記   政2    (出)『おらが春』
    たのもしき夜の藪かもはつ音哉      八番日記   政2    (異)『梅塵八番』上五「たのもしや」
    年寄と見るや鳴蚊も耳の際          八番日記   政2    (異)『あつくさ』中七「見てや」
         『おらが春』中七下五「見るや鳴蚊の耳のそば」『文政版』中七下五「見てや鳴蚊も耳のそば」
    なむあみだ仏の方より鳴蚊哉        八番日記   政2
                                             (出)『おらが春』(異)『梅塵八番』下五「暑かな」
    閨の蚊の初出の声を焼れけり        八番日記   政2
                                             (異)『発句鈔追加』「閨の蚊や初出の声に焼れける」
    閨の蚊のぶんとばかりに焼れけり    おらが春   政2
    一つ蚊のだまつてしくり 〜 哉      八番日記   政2
                         (出)『おらが春』『発句鈔追加』(異)『希杖本』中七「だまりてしくり」
    昼の蚊の隠るゝ程の藪も哉          八番日記   政2
    夕空に蚊も初声をあげにけり        八番日記   政2
    庵の蚊の初出の声を上にけり        八番日記   政3
    大原や人珍らしと来る藪蚊          梅塵八番   政3
    思ふさま蚊に騒がせる番屋哉        梅塵八番   政3
    壁に生る一本草や蚊のこもる        八番日記   政3
    蚊もいまだ大あばれ也江どの隅      八番日記   政3    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    きらわれて長生したる藪蚊哉        八番日記   政3    「わ」→「は」
    草の葉に蚊のそら死[を]したりけり  八番日記   政3
    御仏にかじり付たる藪蚊哉          八番日記   政3
    蚊柱や犬の尻から天窓から          八番日記   政4
    声 〜 に火責のがれて行蚊哉        八番日記   政4
    つり鐘の中よりわんと出る蚊哉      八番日記   政4
    人味を知らずに果る山蚊哉          八番日記   政4    (出)『発句集続篇』
    一つ蚊の聾と知て又来たか          八番日記   政4
    昼の蚊のさすや手をかへ品をかへ    八番日記   政4
                                     (出)『発句集続篇』(異)『文政版』中七「来るや手をかへ」
    蚊の喰ぬ呪になるばくちかな        文政句帖   政5
    寝た人[を]昼飯くひに来た蚊哉      文政句帖   政5
    隙人や蚊が出た 〜 と触歩く        文政句帖   政5    (出)『文政版』
    あばれ蚊のから戻りする夜明哉      文政句帖   政6
    あばれ蚊のさはれと臑を出しけり    文政句帖   政6
    あばれ蚊のそれでも都そだち哉      文政句帖   政6
    有明にから戻りすと鳴く蚊哉        文政句帖   政6
    蚊柱をにくみ崩すや角大師          文政句帖   政6    「く」→「ら」
    湯から出るを待かねて来る蚊哉      文政句帖   政6
    あさぢふの痩蚊やせのみやせ子哉    文政句帖   政7
    あばれ蚊や叱りのゝしる口ばたへ    文政句帖   政7
    庵の蚊よ不便ながらも留主にする    文政句帖   政7
    江戸の蚊の気が強いぞよ強いぞよ    文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)上五「江戸は蚊も」
    喰逃のき妙を得たる藪蚊哉          文政句帖   政7
    闇がりや蚊の目に這入る穴に入      文政句帖   政7
    ごちや 〜 と痩蚊やせ[蚤]やせ子哉  文政句帖   政7
    酒くさい膝もきらはぬ藪蚊哉        文政句帖   政7
    隣から敲き出れて来る蚊哉          文政句帖   政7
    日本の蚊をば苦にせぬ乙鳥哉        文政句帖   政7
                                         (異)同句帖(政7)上五中七「日本の蚊は苦[に]もせぬ」
    昼の蚊やだまりこくつて後から      文政句帖   政7    (出)『文政版』『糠塚集』
    仏のかたより蚊の出る御堂哉        文政句帖   政7
    痩脛は蚊も嫌ふやらつい通り        文政句帖   政7
                                           (異)同句帖(政7)上五中七「皺脛は蚊もまづいやら」
    藪村や蚊と行灯と留主におく        文政句帖   政7
    喰逃や蚊蚤もちゑの文珠堂          文政句帖   政8    「珠」→「殊」
        草庵暁
    こがすらねへふりして帰る藪蚊哉    文政句帖   政8    「へ」→「え」
        柏原
    尤じや藪を焼れし藪蚊共            政九十句写 政10
                                               (出)『希杖本』前書き「柏原大火事、六月朔日也」
    やけ原ややけを起して蚊のさはぐ    政九十句写 政10    「は」→「わ」(出)『希杖本』
    一押にどつと藪蚊も江戸気哉        希杖本
    昼の蚊を後にかくす仏かな          嘉永版
    ふは 〜 と出たは御堂の藪蚊哉      真蹟
    餅つきの真似して遊ぶ藪蚊哉        あつくさ

 

蠅(蠅打つ、蠅の声、蠅除け)

        あはれ、おのれ命に替へて、一度はすこやかなる父にして見まほしく、たうべた
        きと[の]給ふも、あしかりなんは戒めしが、今は耆婆・遍鵲が洒落もとゞかざら
        ん、諸天<神>善神の力も及ばざらんと、只念仏申より外にたのみはな[か]りき。
    寝すがたの蠅追ふもけふがかぎり哉  終焉日記   享1
    蠅一つ打ては山を見たりけり        享和句帖   享3
    起て見よ蠅出ぬ前の不二の山        文化句帖   化2
    蠅のもち蝶から先[に]来たりけり    文化句帖   化2
                                       (異)『七番日記』(化8)中七下五「蝶に来よとは思ぬぞ」
    庵[の]蠅何をうろ 〜 長らふる      文化句帖   化3
    かつしかや蠅を打 〜 松を友        文化句帖   化3
    蠅打てけふも聞也山の鐘            文化句帖   化3
                                         (異)『発句鈔追加』『梅塵抄録本』中七「けふも聞けり」
    蠅打にけふもひつぢの歩哉          文化句帖   化3    「ぢ」→「じ」
    蠅打や友となりぬる峰の松          文化句帖   化3
    蠅飛で畳にうつる楓哉              文化句帖   化3
    もちの蠅楓のあらしかゝる哉        文化句帖   化3
    蠅打に敲かれ玉ふ仏哉              文化句帖   化5
    蠅負や花なでしこに及ぶ迄          文化句帖   化5
    帰れ蠅[庵]は何なと草の咲          七番日記   化10
    さはぐなら外がましぞよ庵[の]蠅    七番日記   化10    「は」→「わ」
                                                         (出)『志多良』『句稿消息』
    蠅打の四五寸先の小てふ哉          七番日記   化10
    [我]庵の蠅をも連て帰りけり        七番日記   化10
    蠅ちつと口が達者なばかり也        七番日記   化11
    蠅一つ打てはなむあみ[だ]仏哉      七番日記   化11
                                 (出)『句稿消息』『文政版』(異)『文政句帖』(政7)上五中七
                         「蠅を打つ度になむあみ」『発句鈔追加』『希杖本』中七「うてばなむあみ」
    我宿の蠅とり猫と諷ひけり          七番日記   化11    (出)『希杖本』
    小童に打るゝ蠅もありにけり        七番日記   化12
    谷汲に蠅も納て出たりけり          七番日記   化12
    蠅打やあみだ如来の御天窓          七番日記   化12
        されば生としいけるもの、誰か其恵みうけざる者やはあるべきと、ことし葉守のかみのまもり始
        の月十五日といふ日、友がき魚淵が日本魂の直き心より、垣のうちに新に其神のやしろいとなみ
        て、みづからはふりとなりて、いつき祭る物から、おのれもおなじく笛吹き鼓打てはやしぬ。
    蠅寺や神の下らせ給ふとて          真蹟       化12
        独楽庵を訪ふに不逢
    蠅除の草を釣して又どこへ          七番日記   化12    (出)『栗本雑記五』
         (異)『句稿消息』前書き「独楽坊を訪に錠のかゝりて」下五「さてどこへ」『杖の竹』前書き
       「独楽坊を訪ふに、錠のかゝりければ、三界無安といふ事を」中七下五「草もつるして扨どこえ」
    飯欠もそまつにせぬや御代の蠅      七番日記   化12
    留主にするぞ恋して遊べ庵の蠅      七番日記   化12
    ことしや世がよいとや申蠅の声      七番日記   化13
    武士に蠅を追する御馬哉            七番日記   化13    (異)『文政版』中七「蠅を追せる」
    すりこ木で蠅を追けりとろゝ汁      七番日記   化13
    蠅打に花さく草も打れけり          七番日記   化13
    蠅追を二人供しけり未亡人          七番日記   化13
    我出れば又出たりけり庵の蠅        七番日記   化13 
                                         (出)『発句集続篇』(異)同日記(化13)下五「草の家」
        那古山
    おのれ迄二世安楽か笠の蠅          七番日記   化14    (出)『発句集続篇』
    一日は蠅のきげんも直りけり        八番日記   政2
    縁の蠅手をする所を打れけり        八番日記   政2    (異)『梅塵八番』上五「腕の蠅」
    親しらず蠅もしつかりおぶさりぬ    八番日記   政2    (出)『文政版』
    御首にはいが三疋とふまつた        八番日記   政2    「い」→「へ」「ふ」→「う」
    かくれ家は蠅も小勢でくらしけり    八番日記   政2    (出)『おらが春』
    笠の蠅も[う]けふから[は]江戸者ぞ  八番日記   政2
        帰庵
    笠の蠅我より先へかけ入ぬ          八番日記   政2    (出)『文政版』『発句集続篇』
    しつかりと蠅もおぶさる九十川      八番日記   政2
    ぬり盆にころりと蠅の辷りけり      八番日記   政2
    蠅打ば蝉もこそ 〜 去にけり        八番日記   政2    (異)『梅塵八番』中七「蝶もそこ 〜 」
    蠅はろふのもなぐさみや子の寝顔    八番日記   政2    「ろ」→「ら」
                                         (異)同日記(政2)上五中七「蠅追ふ[も]又たのしいか」
    人一人蠅も一つや大座敷            八番日記   政2
    古郷は蠅すら人をさしにけり        八番日記   政2
                                     (異)『おらが春』前書き「心に思ふことを」中七「蠅迄人を」
    疫病神蠅もおわせて流しけり        八番日記   政2    「わ」→「は」
                     (異)『梅塵八番』下五「送りけり」『嘉永版』上五中七「厄病神蠅も負はして」
    世がよくばも一つ留れ飯の蠅        八番日記   政2    (出)『おらが春』『文政版』『年籠集』
    長生の蠅よ蚤蚊よ貧乏村            八番日記   政3    (出)『だん袋』
    雨止ぞ立て行 〜 笠の蠅            八番日記   政4 
    老牛も蠅はらふ尾は持[に]けり      八番日記   政4
    老の手や蠅を打さい逃た迹          八番日記   政4    「い」→「へ」
    おれとして須磨一見か笠の蠅        八番日記   政4
                       (異)同日記(政4)上五「もろともに」『発句鈔追加』中七「須磨見に行か」
    口明て蠅を追ふ也門の犬            八番日記   政4
    そり立のつぶりを蠅に踏れけり      八番日記   政4
    出始の蠅やしぶ 〜 這畳            八番日記   政4
    堂の蠅珠数する人の手をまねる      八番日記   政4    「珠数」→「数珠」
    初蠅や客より先へ青だゝみ          八番日記   政4
    群蠅を口で追けり門の犬            八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「屎蠅を」
    群蠅の逃た迹打皺手哉              八番日記   政4
    やれ打な蠅が手をすり足をする      梅塵八番   政4
           (出)『文政版』『鶴巣日記後篇』真蹟(異)『八番日記』上五「やよ打な」『関清水初篇』
                   『同二篇』中七「蠅は手をすり」『花鳥文庫』「それうつな蠅は手もする足もする」
    青畳音して蠅のとびにけり          文政句帖   政5
    安房猫蠅をとるのが仕事哉          文政句帖   政5    「安」→「阿」
    打て 〜 と逃て笑ふ蠅の声          文政句帖   政5
    とく逃よにげよ打たれなそこの蠅    文政句帖   政5
    なぐさみに猫がとる也窓の蠅        文政句帖   政5
                                             (異)同句帖(政5)中七下五「蠅などとるや庵の猫」
    から紙のもやうになるや蠅の屎      文政句帖   政6    (出)『発句集続篇』
    人有れば蠅あり仏ありにけり        文政句帖   政6
    客人のおきみやげ也門の蠅          文政句帖   政6
    耳たぼに蠅が三疋とまりけり        文政句帖   政6    (異)同句帖(政7)上五「福耳に」
    むれる蠅皺手に何の味がある        文政句帖   政6
    出よ蠅野には酢い花甘い花          文政句帖   政7
    打れても 〜 来るや膝の蠅          文政句帖   政7
    座頭坊や赤椀で蠅追ひながら        文政句帖   政7
    しこつ蠅火入の灰を又浴る          文政句帖   政7
    草庵にもどれば蠅ももどりけり      文政句帖   政7
    点一つ蠅が打たる手紙かな          文政句帖   政7
    鶏が下手につむ也もちの蠅          文政句帖   政7
    塗盆を蠅が雪隠にしたりけり        文政句帖   政7
    蠅の替りにたゝかるゝ畳哉          文政句帖   政7
    蠅の身も希ありてや灰浴る          文政句帖   政7
    蠅よけの羽折かぶつて泣子哉        文政句帖   政7    「折」→「織」
    美女に蠅追せながらや寝入道        文政句帖   政7
    豊年の声を上けり草の蠅            文政句帖   政7    (異)『文政版』下五「門の蠅」
    まめ人の人の頭の蠅を追ふ          文政句帖   政7
    老僧の伊達に持つかよ蠅はらひ      文政句帖   政7
    我家へもどりて居るや門の蠅        文政句帖   政7
    くれておく飯[に]かまはず宿の蠅    文政句帖   政8
    僧正の頭の上や蠅つるむ            文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「客人の」
    無常鐘蠅虫めらもよつくきけ        文政句帖   政8
    山おく[は]茸も蠅を殺す也          文政句帖   政8
    草の葉や世の中よしと蠅さはぐ      嘉永版             「は」→「わ」
 (出)『発句鈔追加』『希杖本』(異)『発句題叢』下五「草さはぐ」「群蠅や世の中よしと草そよぐ」
    田がよいぞ 〜 とや蠅さはぐ        希杖本             「は」→「わ」

 

    夢の世と亀を笑ふかぶゆの声        七番日記   化9

 

    川中へ蚤を飛ばする旦哉            西紀書込   寛中    (異)同書込 上五「泉中へ」
    蚤まけの顔に遠きや小行灯          遺稿       寛中
    むく起に蚤はなちやる川辺哉        西紀書込   寛中    (異)『七番日記』(政1)
                   「むく起や蚤を放に川辺迄」『七番日記』(政1)「むく起や蚤をとばせに川原迄」
    むさしのへ蚤をとばする夜明哉      遺稿       寛中
        夜は人々も大かたもどりて、ともしびの明きにつけても、病床の辺のなつかしく、
        あからさまに寝給ひし父の目覚るを待<心>心ちして、なやみ給ふ顔は目をはなれ
        ず、よび給ふ声は耳の底にのこりて、まどろはば夢に見へ、さむれば俤に立添ふ。
    夜 〜 にかまけら[れ]たる蚤蚊哉    終焉日記   享1
    放し亀蚤も序にとばす也            享和二句記 享2
    風も吹月もさしけり蚤の宿          享和句帖   享3
    草の蚤はら 〜 もどる火かげ哉      享和句帖   享3
                                     (異)『文化句帖』(化5)中七下五「ばらり 〜 ともどる也」
    痩蚤の矢指が浦の曇り哉            享和句帖   享3
    盃に蚤およぐ[ぞ]よ 〜             七番日記   化8
    蚤にゝた虫のやれ 〜 不便さよ      七番日記   化8
    庵の蚤かはいや我[と]いぬる也      七番日記   化9
    蚤とぶや笑仏の御口へ              七番日記   化9
    湖を蚤およぐぞ[よ] 〜 よ          七番日記   化9
    夕暮や大盃の月と蚤                七番日記   化9
    あばれ蚤我手にかゝつて成仏せよ    七番日記   化10
    有明や不二[へ] 〜 と蚤のとぶ      七番日記   化10
    庵の蚤ふくら雀に[ひ]ろはれな      七番日記   化10
    庵の蚤不便やいつか痩る也          七番日記   化10
    遅しとや迎ひに出たる庵の蚤        七番日記   化10
    門榎人から蚤をうつりけり          七番日記   化10    「を」→「の」
    草原や何を目当に蚤のとぶ          七番日記   化10
    さはげ 〜 お江戸生れの蚤蚊なら    七番日記   化10    「は」→「わ」
    皺腕歩きあきてや蚤のとぶ          七番日記   化10
    長 〜 の留主に[も]あかぬ庵の蚤    七番日記   化10
    蚤とべや野べは刈萱女郎花          七番日記   化10
                                                 (異)『志多良』『句稿消息』中七「野らは刈萱」
    蚤どもに松島見せて逃しけり        七番日記   化10
   (出)『志多良』『発句集続篇』(異)同日記(化10)下五「逃すぞよ」『句稿消息』下五「放けり」
    蚤の迹それもわかきはうつくしき    七番日記   化10
                                             (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』『浅原日記』
        病中
    蚤蠅にあなどられつゝけふも暮ぬ    七番日記   化10    (出)『志多良』『希杖本』
    ふくれ蚤腹ごなしかや木にのぼる    七番日記   化10
    むく起や蚤を飛ばする角田川        七番日記   化10
    痩蚤の達者にさはぐ山家哉          七番日記   化10    「は」→「わ」
    やよや蚤逃るが勝ぞ皆逃よ          七番日記   化10
    よい日やら蚤がおどるぞはねるぞよ  七番日記   化10    「お」→「を」(出)『句稿消息』
           『志多良』『発句鈔追加』(異)『発句題叢』『希杖本』中七下五「蚤がはねるぞ踊るぞよ」
    朝 〜 の蚤捨松と呼れなん          七番日記   化11
    追な 〜  〜 子どもよ子持蚤        七番日記   化11
    草原をかせぎ廻や宿の蚤            七番日記   化11
    狭く[と]もいざ飛習へ庵の蚤        七番日記   化11
    辻堂を蚤蚊に借て寝たりけり        七番日記   化11    (異)同日記(化11)上五「草庵は」
    蚤[ども]もつつがないぞよ草の庵    七番日記   化11    (異)『句稿消息』前書き「帰庵」中七
                                 「まめそく才ぞ」『希杖本』前書き「帰郷」中七「つゝがないぞや」
    夕されば痩子やせ蚤賑はしや        七番日記   化11
    朝晴に蚤のきげんのよかりけり      七番日記   化12
    門の蚤犬がまぶつて走りけり        七番日記   化12    (出)『句稿消息』
    猫の子が蚤すりつける榎かな        七番日記   化12
    借直し 〜 ても蚤莚                七番日記   化13
    飛下手の蚤のかわいさまさりけり    七番日記   化13    「わ」→「は」
    蚤とばす程は草花咲にけり          七番日記   化13
                         (異)同日記(化13)『希杖本』上五「蚤放す」『句稿消息』上五「蚤放つ」
    蚤どもも隠るゝすべはしりにけり    七番日記   化13
    蚤噛んだ口でなむあみだ[仏]哉      七番日記   化14 
                                       (出)『希杖本』(異)『発句集続篇』中七「口に南無阿弥」
    子の蚤を休み仕事に拾けり          七番日記   政1
    蚤の迹かぞへながらに添乳哉        七番日記   政1    (出)『おらが春』『文政版』書簡 真蹟
                   (異)『発句鈔追加』中七「かぞへながらも」『あつくさ』中七「かぞへながらの」
    蚤の迹吹て貰ふてなく子哉          七番日記   政1    「ふ」→「う」
    一莚蚤を棄るぞのけ蛙              七番日記   政1
    継つ子や昼寝仕事に蚤拾ふ          七番日記   政1    (出)『嘉永版』
    草原にこすり落や猫の蚤            八番日記   政2
                                   (異)『だん袋』『発句鈔追加』「猫の蚤こすりおとすや草原へ」
    とぶな蚤それ 〜 そこが角田川      八番日記   政2
    とべよ蚤同じ事なら蓮の上          八番日記   政2  (出)『おらが春』『希杖本』(異)『発句
 鈔追加』『梅塵抄録本』上五「蚤飛べよ」『発句鈔追加』下五「蓮の花」『梅塵八番』上五「飛べよ蛍」
    親猫が蚤をも噛んでくれにけり      だん袋     政3    (出)『発句鈔追加』
    芝原にこすり付るや猫の蚤          八番日記   政3
                                         (異)『文政句帖』(政7)上五中七「青芝にすり付る也」
    寝莚や鼠の蚤の降り所              八番日記   政3    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    蚤かんで寝せて行也猫の親          八番日記   政3    (出)『発句集続篇』書簡
    でく 〜 と蚤まけせぬや田舎猫      八番日記   政4
    猫の蚤はら 〜 戻る夜さり哉        八番日記   政4
    蚤蠅も達者で留主をし[て]居るか    八番日記   政4    (異)『梅塵八番』下五「して居るよ」
    湖や山を見当に蚤およぐ            八番日記   政4    「見」→「目」
    我宿は蚤捨藪のとなり哉            八番日記   政4
    庵の蚤子どもに迄もとられけり      文政句帖   政5
    蓙の蚤かくれたふりをしたりけり    文政句帖   政5
                                         (異)同句帖(政8)「逃[れ] 〜 陰[れ]たふりや蓙の蚤」
    座頭坊と知て逃ぬか蓙の蚤          文政句帖   政5
    順礼の蚤やくりから谷へとぶ        文政句帖   政5    (異)同句帖(政7)上五「旅人の」
    としよりも蚤を追ふ目はかすまぬか  文政句帖   政5
    とんだ蚤かくれて人をはかるかよ    文政句帖   政5
    新畳蚤の[飛ぶ]音さは 〜 し        文政句帖   政5
    蚤虱よりあひもする背中哉          文政句帖   政5
    蚤出れば蚤とり草も咲にけり        文政句帖   政5
    人声に蚤のとび寄る河原哉          文政句帖   政5
    人の世や山松陰も蚤がすむ          文政句帖   政5
    紫の花で蚤とる子ども哉            文政句帖   政5
    村末や芝原にさへ蚤のとぶ          文政句帖   政5
    目覚しに蚤をとばする木陰哉        文政句帖   政5
    目のかすむなどゝて蚤は上手也      文政句帖   政5
    夜の庵や蚤の飛音騒々し            文政句帖   政5
    うら店は蚤もいんきか外へとぶ      文政句帖   政7  (異)同句帖(政7)中七「いんきか蚤も」
    追ふな 〜 蚤が隠たふりをす[る]    文政句帖   政7
    川風や砂つ原にも蚤がとぶ          文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)下五「蚤のわく」
    木の猿や蚤をとばせる犬の上        文政句帖   政7
    捨藪の蚤やはら 〜 とびもどる      文政句帖   政7
    臑の蚤しびれは京へ上つたに        文政句帖   政7    (異)同句帖(政7)下五「のぼる也」
    蚤ばら 〜 足にとりつく川原哉      文政句帖   政7
    [あばれ蚤おのれと入るや]さかる火に政八草稿   政8
    あばれ蚤おのれと入るやもち桶へ    政八草稿   政8
    庵の蚤子を負ひつゝ逃廻る          文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「あれ蚤が」
    老ぼれと見くびつて蚤も逃ぬ也      文政句帖   政8
                                       (異)同句帖(政8)「としより[と]見くびつて蚤逃ぬぞよ」
    蚤ひよいひよい 〜〜 過て火にはまる文政句帖   政8
    蚤ひよいひよい 〜  〜 達者じまん哉文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「とぶ蚤[の]」
    蚤焼て日和占ふ山家哉              文政句帖   政8    (出)『文政版』
    のら猫が負て行也庵の[蚤]          政八草稿   政8
    掃捨た其一倍や蓙の蚤              政八草稿   政8
    一人寝た我も行ぞよ庵の蚤          政八草稿   政8
    火の中へわれと入る也あばれ蚤      政八草稿   政8
    山里やおがんで借りし蚤莚          文政句帖   政8    「お」→「を」
    よい月[や]内へ這入れば蚤地獄      文政句帖   政8
    つゝがなく湯治しにけり腕の蚤      政九十句写 政9    (異)『希杖本』中七「湯治してけり」
    待かねて寄つたぞ 〜 留主の蚤      政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    朝顔のうしろは蚤の地獄かな        政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    かまふなよやれかまふなよ子もち蚤  政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    五六人蚤追ひ歩くあさぢかな        政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    大道に蚤はき捨る月夜かな          政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    人の世や小石原より蚤うつる        政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    人の世や砂歩行ても蚤うつる        政九十句写 政10
                                           (出)『希杖本』(異)『梅塵抄録本』上五「人の世は」
        土蔵住居して
    やけ土のほかり 〜 や蚤さはぐ      書簡       政10    「は」→「わ」
                                                 (異)『希杖本』上五中七「焼迹やほかり 〜 と」
    痩蚤にやけ石ほたり 〜 哉          政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    痩蚤のかはいや留主になる庵        政九十句写 政10
                         (出)『希杖本』(異)『発句鈔追加』『梅塵抄録本』中七「不便や留守に」
    うら山を遊び歩行や寺の蚤          希杖本
    願ひから京の蚤蚊に責らるゝ        真蹟

 

    大川へ虱とばする美人哉            七番日記   化14

 

羽蟻

    水桶の尻干日也羽蟻とぶ            七番日記   政1    (出)『発句集続篇』
    羽虫出る迄に目出度柱哉            八番日記   政2    「虫」→「蟻」
                       (異)『嘉永版』『希杖本』下五「庵かな」『発句集続篇』中七「直に目出度」
    門柱羽蟻と化して仕廻ふかよ        文政句帖   政5
    きのふには一ばいましの羽蟻哉      文政句帖   政5
    けふ替た庵の柱を羽蟻哉            文政句帖   政5
    先操に切を切てやとぶ羽蟻          文政句帖   政5    「操」→「繰」

 

水馬(みづすまし)

    大井川つひ 〜 虫[が]澄しけり      八番日記   政3    「ひ」→「い」
    苦にするな毒玉川ぞ水馬            文政句帖   政5
    水馬毒がそれ程苦になるか          文政句帖   政5
    山水の清むが上をも水馬            文政句帖   政5
    毒川に入らぬ世話ぞや水馬          文政句帖   政8
                                         (異)同句帖(政8)上五中七「毒水[に]入らざる世話を」
    刀禰川や只一つの水馬              文政句帖   政8
                                             (異)同句帖(政8)上五中七「刀禰川を只た一つで」
    御手洗や虫がとんでも水がすむ      文政句帖   政8

 

紙魚

    逃る也紙魚[が]中にも親よ子よ      七番日記   化10
                                                    (出)『志多良』『句稿消息』前書き「虫干」

 

蝉(蝉生る、初蝉、唖蝉、松蝉、山蝉、空蝉、蝉時雨)

    風はやゝ三保に吹入る蝉の声        寛政句帖   寛4
    浜松や蝉によるべの浪の声          寛政句帖   寛4
        寺は道明寺と云。わづか行ば玉手山、尾州公の荼毘処あり。竜眼肉の木ありて、
        此かいわいの景地也。艮の方にかつらぎ山見ゆる。折から遊山人処々につどふ。
    初蝉や人松陰をしたふ比            西国紀行   寛7
    せみなくや鳥井の外にみさらひ[に]  享和二句記 享2    「井」→「居」「さ」→「た」
    浮島やうごきながらの蝉時雨        享和句帖   享3
    蝉鳴や袖に一粒雨落て              享和句帖   享3
    大雨や大な月や松の蝉              文化句帖   化1
    唖蝉の二日降れし柱哉              文化句帖   化1
    かくれ家は浴過けり松の蝉          文化句帖   化1
    聞倦て人は去也朶の蝉              文化句帖   化1
    蝉なくや柳ある家の朝の月          文化句帖   化1
    觜太の夢や見つらん夜の蝉          文化句帖   化1
    蜘の巣に月さしこんで夜のせみ      文化句帖   化2
    蝉時雨蝶は日やけもせ[ざ]りけり    文化句帖   化2
    せみ啼や梨にかぶせる紙袋          文化句帖   化2
    今しがた此世に出し蝉の鳴          文化句帖   化3
    草の葉やたつぷりぬれて蝉の鳴      化五六句記 化5
    蝉なくや貧乏かづらも時を得て      化五六句記 化5
    蝉ばかり涼しき衣き[た]りけり      文化句帖   化5
    投足の蝉へもとゞけ昼の空          化五六句記 化5
    せみ鳴て別して長い日あし哉        化五六句記 化6
        古間雪居の母のもにこもるをとふ
    母恋し 〜 と蝉も聞ゆらん          化五六句記 化6
    世直しの竹よ小藪よ蝉時雨          化五六句記 化6
    山人や袂の中の蝉の声              化三―八写 化7
    けふ切の声を上けり夏の蝉          七番日記   化8
    蝉なくや鷺のつゝ立寺座敷          七番日記   化8
    露の世の露を鳴也夏の蝉            我春集     化8
    夏の蝉しかし我らが先じややら      七番日記   化8    「じ」→「ぢ」
    米つきよまて 〜 臼に蝉が鳴        七番日記   化9
    蝉鳴や赤い木[の]葉のはら 〜 と    七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    蝉鳴や今象潟がつ[ぶ]れしと        七番日記   化9    (異)『句稿消息』中七「象潟こんど」
    鳴かけて何を見かけて行蝉[か]      七番日記   化9
                                               (異)『句稿消息』中七下五「何を見つけて行蝉か」
    初蝉といへば小便したりけり        七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    はつ蝉や臼に泊てふつとなく        七番日記   化9
    湖に尻を吹かせて蝉の鳴            七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    むく犬や蝉鳴く方へ口を明          七番日記   化9
                                   (異)『株番』前書き「六月七日菊池氏にて」中七「蝉なく空へ」
    青空はいく日ぶりぞ蝉の鳴          七番日記   化10
    恋をせよ 〜  〜 夏のせみ          七番日記   化10
    せみ鳴や笠のやうなる鳰の海        七番日記   化10
    蝉鳴や空にひつゝく最上川          七番日記   化10  (異)『希杖本』上五「蝉の声」『志多良』
       『句稿消息』『文政版』中七下五「天にひつつく筑摩川」『発句題叢』『希杖本』下五「筑摩川」
    蝉なくや我家も石になるやうに      七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』
    そこでなけ同じ風ぞ夏の蝉          七番日記   化10    (出)『志多良』
    だまれ蝉今髭どのがござるぞよ      七番日記   化10
                                             (異)『志多良』中七下五「又髭どのがおじやるぞよ」
    寺山や袂の下を蝉のとぶ            七番日記   化10
    夏の蝉恋する隙も鳴にけり          七番日記   化10
                                         (出)『発句集続篇』(異)『志多良』下五「おしむらん」
    逃くらし 〜 けり夏のせみ          七番日記   化10
    山蝉や鳴 〜 抜る大座敷            句稿消息   化10
    蝉鳴や物喰ふ馬の頬べたに          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    夏の蝉なくが此世の栄よう哉        七番日記   化11    「よ」→「え」
    はつ蝉[や]馬のつむりにちよつ[と]鳴七番日記   化11
    うす赤い花から蝉の生れけり        七番日記   化12
    唖蝉それも中 〜 安気かな          七番日記   化12
    小坊主や袂の中の蝉の声            七番日記   化12
    ざんぶりと一雨浴て蝉の声          七番日記   化12
    住吉やあひに相生の蝉の声          句稿消息   化12    (異)『七番日記』上五「涼風や」
    蝉鳴て疫病にしたりけり            七番日記   化12
    蝉鳴や今伐倒す松の木に            七番日記   化12
    蝉鳴やまゆが干るゝ 〜 と          七番日記   化12
    鳴蝉や袂の下をついとゝぶ          七番日記   化12
    初蝉の聞かれに来たか門柱          七番日記   化12
    初蝉の目見へに鳴か如来堂          七番日記   化12    「へ」→「え」
    松の蝉経聞ながら生れけり          七番日記   化12
    六五つ門桃のおちけり蝉の声        七番日記   化12
    じつとして見よ 〜 蝉の生[れ]様    七番日記   化13
    蝉鳴や六月村の炎天寺              七番日記   化13    (類)同日記(化14)上五「むら雨や」
    初蝉のちよと鳴て見し柱哉          七番日記   化13  (異)同日記(化13)中七「ふと鳴て見し」
    鳴蝉の朝からじいり 〜 哉          七番日記   化14
    狗に爰へ来よとや蝉の声            八番日記   政2    (出)『おらが春』
    せみなくやつく 〜 赤い風車        八番日記   政2
    はつ蝉のうきを見ん 〜 みいん哉    八番日記   政2
    松のせみどこ迄鳴て昼になる        八番日記   政2
                                   (出)『おらが春』『嘉永版』『発句鈔追加』『発句集続篇』真蹟
    山ぜみの袂の下を通りけり          八番日記   政2
               (異)『文政句帖』(政5)上五「山の蝉」『嘉永版』上五中七「山蝉のたもとの中を」
    鰐口のくちのおくより蝉の声        八番日記   政2    (異)『嘉永版』中七「くちの奥なり」
        うつせみ
    なつかしやゆかしや蝉の捨衣        八番日記   政3(出)『発句鈔追加』前書き「源氏うつせみ」
    狗の夢見て鳴か夜のせみ            八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「爰見て啼か」
    つひの身も見事也けり夏のせみ      八番日記   政4    (類)同日記(政4)下五「枯野原」
    鳴ながら蝉の登るやぬり柱          八番日記   政4
    引捨し臼の横手や蝉の声            八番日記   政4
    目の上のこぶし林や蝉の声          八番日記   政4
    もろ蝉やもろ雨垂や大御堂          八番日記   政4
    藪寺や夜もおり 〜 蝉の声          八番日記   政4    「お」→「を」
    臼引が今引く臼をせみの声          文政句帖   政5
    蝉鳴や神の[鉄]釘ぬける程          文政句帖   政5
    蝉鳴や山から見ゆる大座敷          文政句帖   政5
    そよ風は蝉の声より起る哉          文政句帖   政5
    とらまへてむりに鳴すや蝉の声      文政句帖   政5
    鳥さしの邪魔にとびけり松のせみ    文政句帖   政5
    風鈴はちんとも云ず蝉の声          文政句帖   政5
    むら雨の雫ながらや蝉の声          文政句帖   政5
    もろ蝉の鳴こぼれけり笠の上        文政句帖   政5
    道哲の仏の膝や蝉の声              文政句帖   政7
    木の下や見るうち蝉と成て鳴        政八草稿   政8
    蝉鳴や盲法師が扇笠                文政句帖   政8
    山里や臼に盥に蝉の鳴              政八草稿   政8
    明日の事人はなり也夏の蝉          発句集続篇
    ねがはくは念仏を鳴け夏の蝉        文政版

 

蓼喰ふ虫

    鳴明す蓼くふ虫も好 〜 に          八番日記   政4
             (異)同日記(政4)上五「世は世也」『発句鈔追加』上五下五「世は世なり…好 〜 と」
    炎天に蓼くふ虫のきげん哉          文政句帖   政5
    蓼あれば蓼喰ふ虫ありにけり        文政句帖   政5
    蓼くふや火に入虫も好 〜 に        文政句帖   政5
    まゝな世や蓼くふ虫と火とり虫      文政句帖   政5

 

蜘の子(蜘蛛)

    売[もの]の並に下るやふくろ蜘      文政句帖   政5
    蜘の子の散り留より三ヶの月        文政句帖   政5
    蜘の子はみなちり 〜 の身すぎ哉    文政句帖   政5    (出)『文政版』
    店先に釣し捨たり袋蜘              文政句帖   政5
    猫の子の首にかけたり袋蜘          文政句帖   政5
    平蜘や蠅とりはづし 〜             文政句帖   政8

 

蝸牛(でいろ、でで虫)

    御旅所を吾もの顔や蝸牛            西国紀行   寛7
        薬相応したりければ、しば 〜 進め参せ度、炭火煽ぎつゝ、心ちよげなる寝すがたを
        倩守り奉るに、顔色うるはしく、脈をうかゞふに一つとして不足なければ、十に九つ
        は本腹ならめ[と]祝び侍けり。末に思へ[ば]、快気あれかしとおもふ欲目の見る所也。
    足元へいつ来りしよ蝸牛            終焉日記   享1
    朝地震と成けり蝸牛                享和句帖   享3
    石原や照つけらるゝ蝸牛            文化句帖   化1
    宵越の茶水明りや蝸牛              文化句帖   化1
    朝やけがよろこばしいか蝸牛        文化句帖   化2
 (出)『発句類題集』(異)『発句鈔追加』上五「朝やけの」『発句題叢』『嘉永版』上五「夕やけが」
    蝸牛気任せにせよ草の家            文化句帖   化2
    蝸牛蝶はいきせきさはぐ也          文化句帖   化2    「は」→「わ」
    ぬれたらぬ草の月よや蝸牛          文化句帖   化2
    馬の子も同じ日暮よ蝸牛            文化句帖   化3
    蝸牛鯉切人に馴そむる              文化句帖   化3
    蕣ははや風の吹かたつぶり          文化句帖   化4
    鶯と留主をしておれ蝸牛            文化句帖   化4    「お」→「を」
    蝸牛我なす事は目に見へぬ          化五六句記 化6    「へ」→「え」
    渋笠を張ぞゝこのけかたつぶり      化五六句記 化6
    蝶が寝て又寝たりけり蝸牛          化五六句記 化6
    ともかくもあなた任せかかたつぶり  化五六句記 化6
    御仏の雨が降ぞよかたつぶり        化五六句記 化6
    朝雨やすでにとなりの蝸牛          七番日記   化7
    蝸牛壁をこはして遊ばせん          七番日記   化7
    それなり[に]成仏とげよ蝸牛        七番日記   化7
    かたつぶりうろ 〜 夜もかせぐかや  七番日記   化10
    蝸牛[仏]ごろりと寝たりけり        七番日記   化10
    でゝ虫や莚の上の十文字            七番日記   化10
    何事の一分別ぞ蝸牛                七番日記   化10
    古郷や仏の顔のかたつむり          七番日記   化10
    山草に目をはぢかれな蝸牛          七番日記   化10    「ぢ」→「じ」
    夕月や大肌ぬいでかたつぶり        七番日記   化10
              (出)『文政版』(異)『志多良』『句稿消息』下五「かたつむり」書簡 上五「坂口や」
    蝸牛見よ 〜 おのが影ぼふし        七番日記   化11
                                (出)『句稿消息』『発句鈔追加』真蹟 前書き「狗いけんしていふ」
    でゝ虫や赤い花には目もかけず      七番日記   化11
    並んだぞ豆つぶ程な蝸牛            七番日記   化11    (異)『句稿消息』中七「豆粒程の」
    一ぱしの面魂やかたつむり          七番日記   化12    (出)『句稿消息』
    柴門や錠のかはりの蝸牛            七番日記   化12    (異)『随斎筆紀』『文政版』上五中七
                         「柴の戸や錠のかはりに」『句稿消息』上五中七「かくれ家や錠のかはりに」
    雨一見のかたつぶりにて候よ        七番日記   化13    (異)『句稿消息』下五「候か」
    いざかさん膝に這へ 〜 蝸牛        七番日記   化13    (出)『希杖本』
        一向寺
    御朝時角かくしせよ蝸牛            七番日記   化13
                 (異)『発句集続篇』上五「御朝時に」『希杖本』前書き「本願寺」上五「御願時に」
    家なども捨てこちらへ出いろ哉      八番日記   政4    「こ」→「ど」
    縁ばなや上手に曲る蝸牛            書簡       政4
    蝸牛気がむいたやらごろり寝る      八番日記   政4
    元政の垣に昼寝やかたつむり        八番日記   政4
    笹つ葉に雨一見のでいろかな        八番日記   政4    (出)『発句鈔追加』
    でゝ虫の其身其まゝ寝起哉          八番日記   政4
    でゝ虫や誰に住とて家捨し          八番日記   政4
    わら垣や上手に落るかたつむり      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』下五「かたつぶり」
    蝸牛こちら向く間にどちへやら      文政句帖   政5
    芋の葉の露の小脇のかたつむり      文政句帖   政7
    芋の葉や露の転るかたつむり        文政句帖   政7
    大天狗の鼻やちよつぽりかたつむり  文政句帖   政7
    木の雫天窓張りけりかたつむり      文政句帖   政7
    此雨の降にどつちへでいろ哉        文政句帖   政7
                           (出)『嘉永版』前書き「里俗かたつむりをでいろといふ」『発句鈔追加』
                     (異)『たねおろし』前書き「御談に蝸牛(デヘロ)といふ」下五「でへろかな」
    笹の葉やなるや小粒のかたつむり    文政句帖   政7    「葉や」→「葉に」
    戸を〆てづんづと寝たり蝸牛        文政句帖   政7
    練塀や廻りくらするかたつむり      文政句帖   政7
    野らの人の連に昼寝やかたつむり    文政句帖   政7
    鉢の子の中より出たり蝸牛          文政句帖   政7
    小粒なは心安げぞ蝸牛              文政句帖   政8    (異)『発句集続篇』中七「手一合ほど」
    笹の葉や小とり廻しの蝸牛          文政句帖   政8
    鮓のおしの足し[に]寝るかよ蝸牛    文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「鮓をしの」
    雨の柳でゝ虫ほろり 〜 かな        発句集続篇
    夕立がよろこばしいかかたつぶり    希杖本

 

蛭(山蛭)

    なでしこの花の蛭にぞさゝれけり    草津道の記 化5
    姫百合の咲々蛭に住まれけり        草津道の記 化5
        門を出るより胸につかへし山ぶみする日はけふ也けりと、はき替のわらじなど用意す。
    山神の物とがめかよ袖の蛭          草津道の記 化5
    涼風をはやせば蛭が降りにけり      七番日記   化12
    草庵も人くさいやら蛭落る          七番日記   化13
    人の世や山は山とて蛭が降る        七番日記   化13
    蛭住としりつゝ這入る沼田哉        七番日記   化13

 

みみず出づ

    暑い世へ出るが蚯蚓[の]栄よう哉    八番日記   政4    「よ」→「え」
                                                         (異)『梅塵八番』中七「出るは蚯蚓の」
    出るやいな蚯蚓は蟻に引れけり      文政句帖   政5

 

松魚(初松魚)

    初松魚序ながらも富士[の]山        文化句帖   化1
    初松魚山の際迄江戸気也            文化句帖   化1
    片里はおくれ鰹も月よ哉            文化句帖   化5
                             (異)『発句題叢』『嘉永版』『希杖本』『発句集続篇』上五「我宿の」
    陶の笹もそよ 〜 松魚哉            七番日記   化7
    只たのめ山時鳥初松魚              七番日記   化7
    初松魚江戸気の葎とは成りぬ        七番日記   化7
    蕣もさらりと咲て松魚哉            七番日記   化9
    江戸者に三日也けりはつ<初>鰹      七番日記   化9
    髭どのに先こされけりはつ松魚      七番日記   化9  (類)『浅黄空』『自筆本』下五「花の陰」
    むさしのは不二と鰹に夜が明ぬ      七番日記   化9
    うけ水や見たばかりでもはつ松魚    七番日記   化13
                         (異)同日記(化14)中七「音ばかりでも」『発句集続篇』上五「かけ水や」
    馬上からおゝいおいとや初松魚      七番日記   化13
                                  (出)『句稿消息』『希杖本』(異)真蹟 中七「やあれまてとや」
                   (類)同日記(化13)下五「時鳥」同日記(化13)中七下五「やあれまてとや時鳥」
    山かげも江戸きにしたりはつ松魚    七番日記   化13    (出)真蹟
    門川や逃出しさうな初松魚          七番日記   化14
    えど末や一切も売はつ松魚          八番日記   政3
    水道の水いつ浴た初松魚            八番日記   政3
    大将の前やどつさり初松魚          八番日記   政3
    初鰹只一切もうればこそ            八番日記   政3
    一切も鰹さはぎや隠者町            八番日記   政3    「は」→「わ」
    天窓に箍かけ走る也はつ松魚        文政句帖   政7
    大家や犬もありつくはつ松魚        文政句帖   政7    (異)同句帖(政8)上五「大江戸や」
    芝浦や初松魚より夜が明る          文政句帖   政7
                                                   (異)『文政版』中七下五「初鰹から夜の明る」
    貰ふたよ只一切のはつ松魚          文政句帖   政7
    六すつぽ返事さへせぬはつ鰹        文政句帖   政7
    鰹一本に長家のさはぎ哉            文政句帖   政8    「は」→「わ」
                                                         (異)同句帖(政8)上五「鰹一本で」
    柴の戸へ見せて行也初松魚          文政句帖   政8    (異)同句帖(政8)上五「柴の戸に」
    柴の戸やまだ丸で見ぬ初鰹          文政句帖   政8
    蓬生や菖[蒲]過ての初鰹            文政句帖   政8

 

        開帳参
    活鰺や江戸潮近き昼の月            享和句帖   享3

 

    此世より鮎石を積るかな            寛政句帖   寛5
    あつちこち鮎逃て已に入日かな      書簡       寛10
    終とも桜の陰ぞ吉野鮎              七番日記   化13
    みたらしや梅の葉およぐ鮎およぐ    七番日記   化13

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