一茶発句全集(8)・・・夏の部(1)

最終補訂 2004年4月11日

夏の部

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時候

 

夏めく

    鶯にすこし夏めく軒の露            西紀書込   寛中

 

卯月(四月)

    神祭卯月の花に逢ふ日哉            寛政三紀行 寛3
    四五月やかすみ盛りのつくば山      七番日記   化10

 

六月(水無月、青水無月)

    六月の空さへ廿九日哉              享和句帖   享3
    六月や草も時めくわらじ茶屋        化五六句記 化5    「じ」→「ぢ」
    六月は丸にあつくもなかりけり      七番日記   化9
    我上[も]青みな月の月よ哉          七番日記   化9
                  (出)『句稿消息』(異)『八番日記』(政2)上五「戸口から」
    水無月の空色傘や東山              七番日記   化11    (異)『希杖本』中七「空色傘よ」
    夜はなを青みな月の流哉            七番日記   化13    「を」→「ほ」
    六月にろくな夜もなく終りけり      七番日記   化13
    六月にろくな月夜もなき庵哉        八番日記   政2    (異)『梅塵八番』下五「なき家哉」
    六月や月幸に煤はらひ              八番日記   政2
    六月や月夜見かけて煤はらい        八番日記   政2    「い」→「ひ」
                                                         (出)『文政版』『発句鈔追加』
        獄々屋
    六月もそゞろに寒し時の声          文政句帖   政6    「声」→「鐘」
    六月や天窓輪かけて肴うり          文政句帖   政6
    六月はよりとし達の月よ哉          文政句帖   政6    「よりとし」→「としより」

 

夏の暁(夏の寝覚め)

    夏の暁や牛に寝てゆく秣刈          寛政句帖   寛6
    夏の寝覚月見に堤へ出たりけり      西紀書込   寛中

 

日盛り

    日盛りや葭雀に川の音もなき        寛政句帖   寛4
    日盛の上下にかゝるひとり哉        遺稿

 

炎天

    炎天にてり殺されん[天]窓哉        文化句帖   化2
    むら雨や六月村の炎天寺            七番日記   化14    (類)同日記(化13)上五「蝉鳴や」
    炎天のとつぱづれ也炭を焼          文政句帖   政6

 

夏の夜(夏の夜明け)

    夏の夜に風呂敷かぶる旅寝哉        寛政句帖   寛4
    夏の夜や河辺の月も今三日          遺稿       寛中
    段々に夏の夜明や人の顔            文化句帖   化1
    夏の夜やあなどる門の草の花        文化句帖   化1
    夏の夜や人も目かける草[の]花      文化句帖   化1
    夏の夜は小とり廻しの草家哉        文化句帖   化2
    夏の夜やいく原越る水戸肴          七番日記   化7
    夏の夜やうらから見ても亦打山      七番日記   化7
    夏のよや焼飯程の不二の山          七番日記   化10    (出)『発句鈔追加』
    夏の夜や明てくやしき小重箱        七番日記   政1
    夏の夜や二軒して見る草の花        発句題叢   政3
                                                   (出)『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』遺稿
    夏の夜や背合せの惣後架            文政句帖   政5
        麓の東張庵に入
    夏の夜や枕にしたる筑波山          遺稿

 

短夜(明け易し、夜が詰まる)

    大淀や砂り摺舟の明安き            文化句帖   化2    「安」→「易」
    捨人や明安い夜を里歩き            文化句帖   化2    「安」→「易」
    明安き榎持けりうしろ窓            文化句帖   化3    「安」→「易」
    明安き鳥の来て鳴榎哉              文化句帖   化3    「安」→「易」
    短夜の門にうれしき榎哉            文化句帖   化3
    短夜の鹿の顔出す垣ね哉            文化句帖   化3
    草植て夜は短くぞ成にける          文化句帖   化4
        跡に残る物など忌み 〜 しとて、前なる川へ捨るも有りけり
    短夜やけさは枕も草の露            化三―八写 化4
    巣立鳥夜の短かいが目に見ゆる      文化句帖   化5
    短夜を継たしてなく蛙哉            文化句帖   化5
    短夜に竹の風癖直りけり            文化句帖   化5
                                           (出)『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
    明安き闇の小すみの柳哉            七番日記   化7    「安」→「易」
    五[六]本草のつい 〜 夜はへりぬ    七番日記   化7
    明安き夜のはづれの柳哉            七番日記   化9    「安」→「易」
    江戸の[夜は]別にみかじく思ふ也    七番日記   化9    「かじ」→「じか」
    短て夜はおもしろやなつかしや      七番日記   化9
    短夜や草葉の陰の七ヶ村            七番日記   化9
    短夜やまりのやうなる花の咲        七番日記   化9
    短夜やよやといふこそ人も花        七番日記   化9
    露ちりて急にみじかくなるよ哉      七番日記   化10(出)『志多良』『句稿消息』『発句集続篇』
    花の夜はみじかく成ぬ夜はなりぬ    七番日記   化10
    短夜の真中にさくつゝじ哉          七番日記   化10
    短夜や妹が蚕の喰盛                七番日記   化10
    短よや蚕の口のさはがしき          志多良     化10    「は」→「わ」
    短よや髪ゆひどのゝ草の花          七番日記   化10
    短夜や傘程の花のさく              七番日記   化10
    短夜やくねり盛の女郎花            七番日記   化10
                                                 (出)『志多良』『句稿消息』『発句鈔追加』真蹟
    短夜やにくまれ口をなく蛙          七番日記   化10
                                         (異)同日記(化13)『文政句帖』(政8)下五「きく蛙」
    明安き天窓はづれや東山            七番日記   化11    「安」→「易」
    明安き夜を触歩く雀哉              七番日記   化11    「安」→「易」
                                  (出)『句稿消息』『発句集続篇』(異)書簡 上五「あつけない」
    遊ぶ夜はでのなく成ぬなく成ぬ      七番日記   化11
        菅公十七回忌
    短よや十七年も一寝入              七番日記   化11
    行雲やだら 〜 急に夜がつまる      七番日記   化11
    今に知れ夜が短といふ男            七番日記   化12
    短夜を公家で埋たる御山哉          七番日記   化12
    短夜のなんのと叱る榎哉            七番日記   化12    (出)『句稿消息』『随斎筆紀』
    短夜や鬮にあたりし御金番          七番日記   化12
    短夜や樹下石上の御僧達            七番日記   化12
        送雲水
    わるびれな野に伏とても短夜ぞ      七番日記   化12    (出)『発句鈔追加』
    遊ぶ夜は短くてこそ目出度けれ      七番日記   化13(異)『文政句帖』(政8)上五「涼む夜は」
        閑窓
    田も見へて大事の 〜 短夜ぞ        七番日記   化13    「へ」→「え」
    月さして遊でのない夜也けり        七番日記   化13    (出)『発句集続篇』
    短夜をさつさと露の草ば哉          七番日記   化13
    短夜やゆうぜんとして桜花          七番日記   化13    「ゆ」→「い」
        魁されたりなむ関之仏
    短夜やよしおくるゝも草の露        七番日記   化13
       (出)『希杖本』(異)『発句集続篇』前書き「魁されたり南無関の神」中七「よしおくるとも」
    手の込んだ草の花ぞよ短夜に        七番日記   化14
    短夜にさて手の込んだ草の花        七番日記   化14
    短夜や河原芝居のぬり顔に          七番日記   化14
    短夜や草はつい 〜  〜 と咲        七番日記   化14
    短夜をよろこぶとしと成にけり      八番日記   政2    (出)『文政版』『発句集続篇』
    短夜や赤へ花咲蔓の先              八番日記   政2    「へ」→「い」
    短夜や草へ弘げる芝肴              八番日記   政2
    短夜を嬉しがりけり隠居村          八番日記   政4
    短夜を橋で揃ふや京参り            八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「短夜の」
    短夜を古間の人のたくみ哉          文政句帖   政5
    短夜や草もばか花利口花            文政句帖   政5
    短夜に木銭がはりのはなし哉        文政句帖   政6
    短夜の畠に亀のあそび哉            文政句帖   政8
    短夜も寝余りにけりあまりけり      文政句帖   政8
    短夜や寝あまる間土の咄哉          文政八草稿 政8    「間土」→「土間」
    夜のつまる峠の家の寝よさ哉        文政句帖   政8
    夜のつまる峠も下り月夜哉          文政句帖   政8
        信濃
    短夜をさつさと開く桜かな          希杖本
    短夜や吉原駕のちうをとぶ          真蹟

 

暑し(暑き日、暑き夜)

    砂原やあつさにぬかる九十九里      寛政句帖   寛4
    山うらを夕日に巡るあつさ哉        寛政句帖   寛6
        脛折駅といふ有。昔鬼鹿毛といへる馬の脛折りし所といふ。いかなる逸物にやありけん、今の
        代迄里の名によぶ。彼畜生界にてもほまれなるべし。其屍を葬て、印を植て鬼かげ松といふ。
    暑き日や籠はめられし馬の口        草津道の記 化5    「脛」→「膝」
    暑き夜に大事 〜 の葎哉            七番日記   化7
    あつき夜や江戸の小隅のへらず口    七番日記   化7
    大空の見事に暮る暑哉              七番日記   化7
    蓬生の命かけたる暑哉              七番日記   化7
    暑日に何やら埋る烏哉              七番日記   化9    (異)『句稿消息』上五「暑き野に」
    暑き日の宝と申小藪哉              句稿消息   化9
    暑き日のめでたや臼[に]腰かけて    句稿消息   化9
    暑き夜をはやしに行や小塩山        句稿消息   化9
    あら暑しなごや本町あらあつき      七番日記   化9
    粟の穂がよい元気ぞよ暑いぞよ      七番日記   化9
    鶯の草にかくるゝあつさ哉          七番日記   化9
    むさしのや暑に馴れし茶の煙        七番日記   化9
    風鈴のやうな花さく暑哉            七番日記   化10
    暑日や一つ並の御用松              七番日記   化11
    あつき夜をありがたがりて寝ざりけり七番日記   化11
    蓑虫の暑くるしさよくるしさよ      七番日記   化11
        憐二階住
    暑き夜[を]にらみ合たり鬼瓦        七番日記   化12
                                             (異)『発句鈔追加』上五中七「暑夜やにらみ合たる」
    稲の葉に願ひ通の暑哉              七番日記   化12
             (出)『発句鈔追加』『発句集続篇』(異)『句稿消息』前書き「田家」上五「草の葉に」
    竹縁の鳩に踏るゝあつさ哉          七番日記   化12    (異)同日記(化13)上五「うす庇」
    蕗の葉にぽんと穴明く暑哉          七番日記   化12    (出)『文政版』『希杖本』真蹟
    暑夜を唄で参るや善光寺            七番日記   化13
    暑夜の咄の見へぬ夕月夜            七番日記   化13    「へ」→「え」
    あら暑し 〜 何して暮すべき        七番日記   化13
    大家の大雨だれの暑哉              七番日記   化13    (出)『希杖本』
    喰ぶとり寝ぶとり暑 〜 哉          七番日記   化13
    寝草臥て喰くたびれて暑哉          七番日記   化13
                             (異)『希杖本』前書き「粒々皆心苦なるさい中に」上五「寝くたびれ」
                     『発句集続篇』前書き「粒々皆心苦なる最中に」上五中七「寝草臥喰くたびれの」
    砂山のほてりにむせる小舟哉        七番日記   化14
    遊女めが見てけつかるぞ暑い舟      七番日記   化14
    青蔓の窓へ顔出す暑哉              七番日記   政1  (異)『文政句帖』(政7)上五「蔓草の」
        本堂
    暑き日や爰にもごろりごろ 〜 寝    だん袋     政1    (異)『発句鈔追加』下五「ごろり哉」
    暑き日や野らの仕事の目に見ゆる    だん袋     政1
        土用店
    暑き日やひやと算盤枕哉            七番日記   政1
        坂本泊
    暑き日や胸につかへる臼井山        だん袋     政1    「臼井」→「碓氷」
    暑き夜や子に踏せたる足のうら      七番日記   政1
    あらあつし 〜 と寝るを仕事哉      だん袋     政1    (出)『文政句帖』(政8)
    馬になる人やよそ目もあつくるし    だん袋     政1
           (出)『発句鈔追加』前書き「土用芝居」(異)『八番日記』(政4)中七「人やおか目も」
    栗の木の白髪太夫の暑哉            七番日記   政1
    しなの路の山が荷になる暑哉        だん袋     政1    
                   (出)『文政版』前書き「碓氷にて」(類)『七番日記』(化9)前書き「臼井峠」
                           下五「寒哉」『句稿消息』前書き「臼井峠」中七下五「雲が荷になる寒哉」
    べら坊に日の長い哉暑い哉          だん袋     政1
               (出)『文政句帖』(政8)(異)『発句鈔追加』前書き「江戸言」中七「日の永へ哉」
    蝮住草と聞より暑哉                七番日記   政1
    あゝ暑し何に口明くばか烏          八番日記   政2    (異)『梅塵八番』上五「あら暑し」
    暑き日に面は手習した子かな        八番日記   政2    「は」→「で」
   (異)『おらが春』上五中七「あついとてつらで手習」『梅塵八番』中七下五「面で手習する子かな」
    暑日や青草見るも銭次第            八番日記   政2
    暑き日や庇をほじるばか烏          八番日記   政2    (異)『梅塵八番』中七「尻を干たる」
    暑き日よ忘るゝ草を植てさい        八番日記   政2    「い」→「へ」
    暑き夜をとう 〜 善光寺詣り哉      八番日記   政2
                         (異)『梅塵八番』中七「どろ 〜 善光寺」『希杖本』中七「かけて善光寺」
    暑き夜の上なき住居かな            八番日記   政2
    暑夜の荷と荷の間に寝たりけり      八番日記   政2    (出)『嘉永版』前書き「関宿舟中」
    暑夜や蝋燭かける川ばたこ          八番日記   政2    「蝋燭」→「蝙蝠」「こ」→「に」
                                                         (異)『梅塵八番』下五「川の端」
    稲の葉に忝さのあつさ哉            八番日記   政2
    米国の上々吉の暑さかな            八番日記   政2
    大帳を枕としたる暑かな            八番日記   政2    (異)『梅塵八番』中七「枕にしたる」
        田中川原如意湯に昼浴みして
    なを暑し今来た山を寝て見れば      おらが春   政2    「を」→「ほ」
                                 (出)『発句鈔追加』(異)『八番日記』(政2)上五「あら暑し」
    南無あみだ仏の方より暑かな        梅塵八番   政2
                                           (類)『八番日記』(政2)『おらが春』下五「鳴蚊哉」
    白山の雪きら 〜 と暑かな          八番日記   政2
                                     (異)『文政句帖』(政7)上五中七「かゞ山の雪てか 〜 と」
    暑ぞよけふも一日遊び雲            八番日記   政4
    暑き日や馬の沓塚わらじ塚          八番日記   政4    「じ」→「ぢ」
    暑日や見るもいんきな裏長屋        八番日記   政4  (異)『梅塵八番』中七「見てもいんきな」
    猪になる人どの程に暑からん        八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「人どの様に」
    猪役はおか目で見ても暑かな        八番日記   政4    「お」→「を」
    手に足におきどころなき暑哉        文政句帖   政5
    梨柿のむだ実こぼるゝ暑哉          文政句帖   政5
    乗かけの暑見て寝る野馬哉          文政句帖   政5
    身一つをひたと苦になる暑哉        文政句帖   政5
    草葉より暑い風吹く座敷哉          文政句帖   政6
                                                 (異)『発句鈔追加』『だん袋』上五「草葉から」
    洪水の川から帰るあつさ哉          文政句帖   政6
    あつき日や終り初ものほとゝぎす    文政句帖   政7
    暑き日や棚の蚕の食休              文政句帖   政7    (異)『希杖本』中七「蚕もぞろり」
    暑き日やにらみくらする鬼瓦        文政句帖   政7
    暑き日や火の見櫓の人の顔          文政句帖   政7
    大菊の立やあつさの真中に          文政句帖   政7
    来た峠寝て見れば又あつし          文政句帖   政7
    立じまの草履詠る暑哉              文政句帖   政7
    日蝕の盥にりんと暑哉              文政句帖   政7
    満月に暑さのさめぬ畳哉            文政句帖   政7
    箕の米を蝶の〓て〓る暑哉          文政七草稿 政7
    わる赤い花の一藪暑哉              文政句帖   政7
    あつき日も子につかはるゝ乙鳥哉    文政句帖   政8
    乙鳥に家かさぬ家の暑哉            文政句帖   政8
    何もせぬ身の暑い哉暑哉            文政八草稿 政8
    野ら仕事考へて見るも暑哉          文政八草稿 政8
    穀値段どか 〜 下るあつさ哉        政九十句写 政9    (出)『希杖本』(異)真蹟 中七
         「ぐつくとさがる」『嘉永版』『発句集続篇』『あみだがさ』上五中七「米値段ぐつくと下る」
    暑き夜や藪にも馴てひぢ枕          真蹟
    けふも 〜 翌[も]あついか藪の家    真蹟
    じつとして白い飯くふ暑かな        希杖本             (出)『発句集続篇』
    白峯の雪の目につく暑哉            希杖本
    何のその小家もあつしやかましき    真蹟
    稗の葉の門より高き暑哉            希杖本

 

涼し(朝涼、夕涼、涼風、月涼し)

    涼しさや只一夢に十三里            寛政句帖   寛4
    涼しさや見るほどの物清見がた      寛政句帖   寛4
    涼しさや欠釜一つひとりずみ        寛政句帖   寛5
    涼しさや半月うごく溜り水          寛政句帖   寛6
    涼しさや雨をよこぎる稲光り        書簡       寛10    (出)遺稿
    萱庇やはり涼しき鳥の声            西紀書込   寛中
    涼風を真向に居へる湖水            与播雑詠   寛中    「へ」→「ゑ」
    涼しさは三月も過る鳥[の]声        西紀書込   寛中
    麻〓す池小さゝよ涼しさよ          享和句帖   享3    〓は「さんずい」に「區」
    涼しさは黒節だけの小川哉          享和句帖   享3
    舟板に涼風吹けどひだるさよ        文化句帖   化1
        扇波墓詣
    はななりと涼しくすべしきれい好    文化句帖   化2
    夕涼や凡一里の片小山              文化句帖   化3
    夕涼や薬師の見ゆる片小藪          文化句帖   化3
        礎によりて
    涼風に吹かれぢからもなかりけり    化三―八写 化4    (出)『連句稿裏書』
        野本原、又生首が原、昔追剥住みて、夜る 〜 人を殺せし
        より、かく名づけしといふに、とある木陰も気味わろく
    涼風に立ちふさがりし茨哉          草津道の記
        おの 〜 蕗の葉を曲げて器となして、渓の一河を掬して、絶がたきをしのぐ。   「絶」→「耐」
    とく 〜 と水の涼しや蜂の留主      化五六句記 化5
        茄子、小豆角のたぐひ、舟いくつも漕連るゝ、是皆江戸朝餉のれうと見へたり。
    朝涼に菊も一般通りけり            七番日記   化7    「般」→「艘」
    朝涼や瘧のおつる山の松            七番日記   化7
                                               (出)『文化三―八年句日記写』前書き「将門旧迹」
    門の夜や涼しい空も今少            七番日記   化7    (出)『文化三―八年句日記写』
    涼風や力一ぱいきり 〜 す          七番日記   化7
    涼風はあなた任せぞ墓の松          七番日記   化7
        観音の震鐘手に取ばかりに聞                        「震」→「晨」
    涼しさに忝さの夜露哉              七番日記   化7
    涼しさに前巾着をとられけり        七番日記   化7
        留別
    涼しさや今出て行青簾              七番日記   化7
    涼しさや山から見へる大座敷        七番日記   化7
    涼しさや闇の隅なる角田川          七番日記   化7
    月涼しす[ゞ]しき松のたゝりけり    七番日記   化7
    涼風も仏任せの此身かな            七番日記   化8
        松緑館即興
    涼風や鼠のしらぬ小隅迄            七番日記   化8
    涼し[さ]に一本草もたのみ哉        七番日記   化8
    涼しさにぶら 〜 地獄巡り哉        七番日記   化8
    涼しさや門も夜さりは仏在世        七番日記   化8
    涼しさや松見ておはす神の蛇        七番日記   化8
    涼しさは雲の作りし仏哉            我春集     化8
    蝉の世も我世も涼し今少            七番日記   化8
    鷺並べどつこも同じ涼風ぞ          七番日記   化9
        廿一日  四条河原
    涼風に月をも添て五文哉            七番日記   化9
           (出)同日記(政1)(異)『八番日記』(政2)『嘉永版』『発句集続篇』下五「二文哉」
    涼しさも刃の上の住居哉            七番日記   化9
    涼しさやうしろから来る卅日哉      七番日記   化9    「や」→「の」
    涼しさよ手まり程なる雲の峰        七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    銭出[し]た程は涼しくなかりけり    七番日記   化9
                             (出)同日記(化11)前書き「年代未改」『発句集続篇』前書き「両国」
    夜に入れば江戸の柳も涼しいぞ      七番日記   化9
    よるとしや涼しい月も直あきる      七番日記   化9
    おゝ涼し 〜 夜も卅日哉            七番日記   化10
    下 〜 も下 〜 下々の下国の涼しさよ七番日記   化10
                           (出)『志多良』『句稿消息』『嘉永版』前書き「おく信濃に浴して」真蹟
    涼風[も]月も〆出す丸屋哉          七番日記   化10
    涼風も今は身になる我家哉          七番日記   化10
                   (異)『志多良』前書き「帰庵納涼」『句稿消息』前書き「帰庵涼」同日記(化10)
             上五中七「一吹の風も身になる」『発句鈔追加』前書き「帰庵」上五中七「風が身にしむ」
    涼しさに雪も氷も二文哉            七番日記   化10
    涼しきに我と火に入きり 〜 す      七番日記   化10    「しき」→「しさ」
    涼しさや今拵へし夜の山            七番日記   化10
    涼しさや八兵衛どのゝ祈り雨        志多良     化10    (出)『句稿消息』
    涼しきや枕程なる門の山            七番日記   化10    「き」→「さ」
    涼しさや又西からも夕小雨          七番日記   化10
    涼しさや貰て植し稲の花            七番日記   化10
    涼しさは天王様の月よ哉            七番日記   化10
    大の字に寝て涼しさよ淋しさよ      七番日記   化10
    何もないが心安さよ涼しさよ        七番日記   化10
    一本の草も涼風やどりけり          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    草雫今拵へし涼風ぞ                七番日記   化11    (出)『句稿消息』『文政版』
    涼風の第一番は後架也              七番日記   化11
    涼風の横すじかひに入る家哉        七番日記   化11    「じ」→「ぢ」
    涼しさの江戸もけふ翌ばかり哉      七番日記   化11
    涼しさや畠掘ても湯のけぶり        七番日記   化11
    古藪も夜は涼風の出所哉            七番日記   化11    (異)『句稿消息』上五「古垣も」
    夕涼や水投つける馬の尻            七番日記   化11    (異)同日記(政1)上五「涼しさや」
        田中
    涼風に欠序の湯治哉                七番日記   化12
        裏店に住居して
    涼風の曲りくねつて来たりけり      七番日記   化12
   (出)『句稿消息』前書き「うら長屋のつきあたりに住て」『嘉永版』前書き「裏長屋のつきあたりに
     住す」『発句鈔追加』前書き「裏家住居」(異)『発句集続篇』前書き「裏屋住居」上五「涼風も」
    涼風も隣の松のあまり哉            七番日記   化12
                                                   (異)『句稿消息』『文政版』中七「隣の竹の」
    涼風やあひに相生の蝉の声          七番日記   化12    (異)『句稿消息』上五「住吉や」
    涼風ややれ西方山極楽寺            七番日記   化12
    涼風は雲のはづれの小村かな        七番日記   化12
    涼しいといふ夜も今少哉            七番日記   化12
    涼しさやお汁の中も不二の山        七番日記   化12
                                                   (異)『文政句帖』(政8)中七「汁の椀にも」
    涼しさや笠へ月代そり落し          七番日記   化12
    涼しさや大大名を御門番            七番日記   化12
    涼しさや湯けぶりそよぐ田がそよぐ  七番日記   化12
        東[本]願寺御門迹
    涼しやな弥陀成仏の此かたは        七番日記   化12    (異)真蹟 前書き「本願寺」
 『句稿消息』前書き「日光祭り御役人付といふもの題に分て二百年忌の真似をしたりし時東本願寺菩薩」
 『文政九・十年句帖写』(政10)『文政版』『希杖本』上五「涼しさや」『句稿消息』上五「花さくや」
    夕涼や草臥に出る上野山            七番日記   化12
    あら涼し 〜 といふもひとり哉      七番日記   化13
    涼風の吹く木へ縛る我子哉          七番日記   化13    (出)『発句集続篇』前書き
                         「親といふ題にて」『おらが春』『文政九・十年句帖写』(政9)『希杖本』
    涼しさに転ぶも上手とはやしけり    七番日記   化13
    涼しさに夜はゑた村でなかりけり    七番日記   化13
        光雲山宿
    涼しさは仏の方より降る雨か        七番日記   化13
    涼涼や汁の実を釣るせどの海        七番日記   化14    「涼涼」→「夕す」
                             (異)『発句題叢』『文政版』『希杖本』前書き「銚子」上五「朝涼や」
    我宿といふばかりでも涼しさよ      七番日記   化14
        本堂納涼
    涼しさにみだ同体のあぐら哉        七番日記   政1
                 (異)同日記(政1)前書き「本堂」中七「釈迦同体の」『希杖本』上五「涼しさは」
                                 『発句集続篇』前書き「善光寺納涼」『あつくさ』上五「すず風に」
    涼しさや朝草刈の腰の笛            七番日記   政1
        雨乞
    涼しさや外村迄も祈り雨            七番日記   政1
    涼しさや飯を掘[出]すいづな山      七番日記   政1
    涼しさはき妙む量な家尻哉          七番日記   政1
    涼しさは喰ず貧楽世界哉            七番日記   政1
        日々十里
    草臥や涼しい木陰見て過る          八番日記   政2
                                       (異)『希杖本』前書き「旅中」『文政版』下五「見て廻る」
    涼風の出口もいくつ松かしは        八番日記   政2
    涼しさにしやんと髪結御馬哉        八番日記   政2
    涼しさに大福帳を枕かな            八番日記   政2
    涼しさや笠を帆にして煮うり舟      八番日記   政2    (出)『嘉永版』
    涼しさや<爰>極楽浄土の這入口      八番日記   政2
    涼しさやしなのゝ雪も銭になる      八番日記   政2
               『梅塵八番』前書き「時を得[ん]にはしかず」(出)『発句集続篇』前書き「得時不如」
    すずし[さ]や沈香もたかず屁もひらず八番日記   政2
    橋涼し張良たのむ此沓を            八番日記   政2    (異)『梅塵八番』下五「其沓を」
    水に湯にどう流ても夕涼し          梅塵八番   政2
                                                   (異)『八番日記』中七下五「どの流でも夕涼」
    桟を知らずに来たり涼しさに        八番日記   政3
    拵へた露も涼しや門の月            発句題叢   政3  (出)『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
    柴垣や涼しき陰に方違              八番日記   政3
    涼風も一升入のふくべ哉            八番日記   政3
    涼しさの家や浄土の西の門          八番日記   政3
    涼しさや四門を一つ潜ては          八番日記   政3
    涼しさや土橋の上のたばこ盆        八番日記   政3    (出)『嘉永版』
    涼しさや糊のかはかぬ小行灯        八番日記   政3    「は」→「わ」
               (出)『文政版』前書き「新家賀」(異)『梅塵八番』前書き「賀新宅」下五「丸行灯」
    極楽も涼風のみは[ほ]しからん      八番日記   政4
    涼風の浄土則我家哉                八番日記   政4    (出)『発句鈔追加』
    涼風の窓が極楽浄土哉              八番日記   政4    (出)『発句集続篇』
    涼しさや一畳敷もおれが家          梅塵八番   政4
    涼しさやきせる加へて火打坂        八番日記   政4    「加」→「咥」
    涼しさや手を引あふて迷子札        八番日記   政4    「ふ」→「う」
    涼しさや我永楽の銅盥              八番日記   政4
    涼しさは[小]銭をすくふ杓子哉      八番日記   政4
    涼しさは鳥も直さず神代哉          八番日記   政4    「鳥」→「取」
                                                         (異)『梅塵八番』中七「とりも直さぬ」
    夕涼に笠忘れけり迹の宿            八番日記   政4    「迹」→「後」
    涼風に連をや松の釣し笠            文政句帖   政5
        菊女祝
    涼風や何喰はせても二人前          文政句帖   政5
    涼しさや里はへぬきの夫婦松        文政句帖   政5    「へ」→「え」
    銭出さぬ人の涼しや橋の月          文政句帖   政5
    つき合の涼しや木は木金は金        文政句帖   政5
    涼風に正札つきの茶店哉            文政句帖   政6
    涼風に手ふりあみがさ同士哉        文政句帖   政6
        去十三日、富右衛門児を戻しての捨言葉に、「此児けふより五日目死ぬ。それ過ても遠から
        ぬうち也」といひ 〜 帰りけるとなん、人のかたりぬ。犬猫にことならぬ者のいゝ草、とり
        用るにはあらねど、ものゝ心も白露の消るばかりなる児の哀さを手放して、遠くの里におけ
        ば、庭の立木のほろほろ散さへそこはかとなくものがなしく、気にかゝる折からなれば、
    涼風も身に添ぬ也鳴烏              希杖本     政6
    涼風や仏のかたより吹給ふ          文政句帖   政6
    涼しさを自慢じやないがと夕木陰    文政句帖   政6
    涼しさに一番木戸を通りけり        文政句帖   政6
    涼しさや藍より[も]こき門の空      文政句帖   政6
    涼しさや縁の際なる川手水          文政句帖   政6
            (異)真蹟 前書き「田中氏にやどりけるを、朝起 〜 のいさぎよさを」中七「縁から直に」
    涼しさやどこに住でもふじの山      文政句帖   政6
    涼しさや義経どの[の]休み松        文政句帖   政6
    涼しさや夜水のかゝる井戸の音      文政句帖   政6
    立札の一何 〜 皆涼し              文政句帖   政6  (出)同句帖(政7)前書き「書役左人花」
    火宅でも持てば涼しき寝起哉        文政句帖   政7
    涼しさの下駄いたゞくやずいがん寺  文政句帖   政7
    涼しさは直に神代の木立哉          文政句帖   政7
    涼しさは手比あみ笠の出立哉        文政句帖   政7    「比」→「に」
    人[の]屑よりのけられてあら涼し    文政句帖   政7
        戸隠山
    涼しさや青いつりがね赤い花        文政句帖   政8
    涼しさや切紙の雪はら 〜 と        文政句帖   政8(異)『発句鈔追加』前書き「かぶき木段見」
    釣鐘の青いばかりも涼しさよ        文政句帖   政8
    菜の花の涼風起りけり              文政句帖   政8
    涼しさに大鼾にて寝起□哉          政八草稿   政8
        春甫京へ行を送る
    涼しからん這入口から加茂の水      文政版
    涼しさは蚊を追ふ妹が杓子哉        希杖本
                                           (異)『発句鈔追加』上五中七「涼しさに妹が蚊を追ふ」
    涼しさや扇でまねく千両雨          真蹟               (異)『文政版』上五「松影や」
    すゞしさや二文花火も夜の体        発句集続篇
        (異)『七番日記』(化14)上五「よい雨や」『文政版』上五「縁はなや」真蹟 上五「夕立や」
    人は人我は我が家の涼しさよ        発句鈔追加

 

土用(土用入り、土用東風、土用休み、土用見舞い、土用芝居)

    水切の本通り也土用なり            享和二句記 享2
    木末から土用に入し月よ哉          享和句帖   享3
    寝心や膝の上なる土用雲            享和句帖   享3
    町 〜 や土用の夜水行とゞく        享和句帖   享3
    鬼と成り仏となるや土用雲          七番日記   化11
    笠の下吹てくれけり土用東風        文政句帖   政5
    初日から一際立や土用空            文政句帖   政5
    白菊のつんと立たる土用哉          文政句帖   政5
    畠中や土用芝居の人に人            文政句帖   政5
    人声や夜も両国の土用照り          文政句帖   政5
    満月[も]さらに無きずの土用哉      文政句帖   政5
    安役者土用休みもなかりけり        文政句帖   政5
    朝顔の花から土用入りにけり        文政句帖   政6
    雨迄も土用休や芝居小屋            文政句帖   政6
        辛崎
    いく日迄土用休ぞ夜の雨            文政句帖   政6
    鶯に土用休はなかりけり            文政句帖   政6
    此雨は天から土用見廻かな          文政句帖   政6    「廻」→「舞」
             (出)『だん袋』『発句鈔追加』前書き「草庵無訪人」(異)『あつくさ』上五「三粒程」
              『希杖本』『発句集続篇』上五「雨三粒」『発句鈔追加』上五下五「雨三粒・・・見舞ぞよ」
    吹風も土用休みか草の原            文政句帖   政6
    降る雨もけふより土用休哉          文政句帖   政6
    ふん切て出ればさもなき土用かな    文政句帖   政6
    湯も浴て土用しらずの座敷哉        文政句帖   政6
    長かれと祈らぬものを土用雨        文政句帖   政7
    うつくしや雲一つなき土用空        文政句帖   政8
    雲一つなし存分の土用哉            政八草稿   政8
    〓かけん坊主頭の土用照            文政句帖   政8    〓は竹冠に「輪」
             (出)『発句鈔追加』前書き「素鏡亭に笠とられて」(異)同句帖(政8)上五「畠道や」
    庭破土用ぞと知る庵哉              文政句帖   政8
        素鏡亭にて失笠
    二つなき笠盗れし土用哉            文政句帖   政8
    痩がまんし放也土用晴              政八草稿   政8
    横立の庭の割目や土用入            政八草稿   政8
    両国や土用の夜の人[の]体          政八草稿   政8
    なか 〜 に出れば吹也土用東風      政九十句写 政9    『希杖本』

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天文

 

卯の花腐し

    塀合に卯の花降し流けり            寛政句帖   寛5    「降」→「腐」

 

入梅(入梅雷)

    入梅や蟹かけ歩大座敷              七番日記   化14
    寝ぼけたか入梅の[雨]けふも又      七番日記   化14
    正直に入梅雷の一つかな            八番日記   政3
    今の世や入梅雪のだまし雨          文政句帖   政5    「雪」→「雷」

 

入梅晴れ

    入梅晴や佐渡の御金が通るとて      七番日記   化13
    入梅の晴損ひや箱根山              七番日記   化14
    下手晴の入梅の山雲又出[た]ぞ      七番日記   化14
    入梅晴や二軒並んで煤はらひ        八番日記   政2    (出)『おらが春』『発句集続篇』

 

五月雨

        舟留りたれば、小市といふ渡りへ廻
    五月雨や雪はいづこのしなの山      寛政三紀行 寛3
    五月雨や夜もかくれぬ山の穴        寛政三紀行 寛3
                                           (異)『文政版』前書き「妙義」中七「夜もかくされぬ」
    五月雨や借傘五千五百ばん          西国紀行   寛7    「借」→「貸」
    五月雨夜の山田の人の声            西紀書込   寛中    (異)同書込 上五「五月雨や」
    家一つ蔦と成りけり五月雨          享和句帖   享3
    一日にはや降あがる五月雨          享和句帖   享3
    かい曲り柱によるや五月雨          享和句帖   享3
    五月雨の竹に隠るゝ在所哉          享和句帖   享3
                                               (異)『発句題叢』『文政版』中七「竹にはさまる」
    五月雨や二階住居の草の花          享和句帖   享3
    十軒は皆はしか也五月雨            享和句帖   享3
    二階から見る木末迄五月雨          享和句帖   享3
    ほつ 〜 と二階仕事や五月雨        享和句帖   享3
    けふも暮 〜 けり五月雨            文化句帖   化1
    五月雨の里やいつ迄笛法度          文化句帖   化1
    五月雨や子のない家は古りたれど    文化句帖   化1
    五月雨や弥陀の日延もきのふ迄      文化句帖   化1
    鳴烏けふ五月雨の降りあくか        文化句帖   化1
    二人とは行かれぬ厨子や五月雨      文化句帖   化1
    五月雨におつぴしげたる住居哉      文化句帖   化2
    五月雨もよそ一倍や草[の]家        文化句帖   化2
    五月雨や烏あなどる草の家          文化句帖   化4
    五月雨や二軒して見る草の花        文化句帖   化4
    寝所も五月雨風の吹にけり          文化句帖   化5
    五月雨や胸につかへるちゝぶ山      七番日記   化7
          (出)『発句題叢』『希杖本』前書き「江戸立より日 〜 降れて」『発句鈔追加』真蹟 前書き
      「信濃の国にかへらんとして板橋といふ処にかゝる」書簡 前書き「途中吟」『発句集続篇』前書き
     「けふは 〜 と立おくれつゝ入梅の空いつ定まるべくもあらざれば五月五日東都をうしろになして」
    のつきつて五月雨也二ばん原        七番日記   化8    (異)『我春集』中七「さみだるゝ也」
    朝鳶がだまして行や五月雨          七番日記   化9
    芦の葉を蟹がはさんで五月雨        句稿消息   化9
    坂本や草家 〜 の五月雨            七番日記   化9
    五月雨つゝじをもたぬ石もなし      七番日記   化9
    五月雨や花を始る小萩原            七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    乙鳥や子につかはるゝ五月雨        七番日記   化9
    蟾どのゝはつ五月雨よ 〜           七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    蓑虫の運の強さよ五月雨            七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    草刈のざくり 〜 や五月雨          七番日記   化11
    五月雨ざく 〜 歩く烏かな          七番日記   化11    (異)同日記(化11)上五「五月雨に」
    五月雨や鳥の巣鴨の小藪守          七番日記   化11
    一舟は皆草花ぞ五月雨              七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    藪に翌なる藪や五月雨              七番日記   化11
    さみだれや明石の浦八島へて        栗本雑記五 化12
    蓮[の]葉の飯にたかるゝ五月雨      七番日記   化12
    蕣の竹ほしげ也五月雨              七番日記   化13
    今に切る菜のせわしなや五月雨      七番日記   化13    「わ」→「は」
    さしつゝじ花 〜 しさや五月雨      七番日記   化13
    五月雨の初日をふれる烏哉          七番日記   化13
    五月雨も仕廻のはらり 〜 哉        七番日記   化13
     (出)『おらが春』『発句鈔追加』(異)『八番日記』(政2)『発句集続篇』上五「さみだれの」
    ちよんぼりと鷺も五月雨じたく哉    七番日記   化13
                                             (異)『希杖本』上五中七「しよんぼりと鳩も五月雨」
    どうなりと五月雨なりよ草の家      七番日記   化13
    砥袋の竹にかゝりて五月雨          七番日記   化13
    吹芒はつ五月雨ぞ 〜               七番日記   化13
    藪陰やひとり鎌とぐ五月雨          七番日記   化13
    ざぶ 〜 と五月雨る也法花原        七番日記   化14    「花」→「華」
    手始はおれが草家か五月雨          七番日記   化14
        えど
    うら住や三尺口の五月雨            七番日記   政1    (異)同日記(政1)中七「三尺口も」
    五月雨や穴の明く程見る柱          七番日記   政1    (出)『文政句帖』(政5)
    五月雨や石に座を組引がへる        七番日記   政1
    五月雨や線香立したばこ盆          七番日記   政1    (出)『発句集続篇』
    五月雨や天水桶のかきつばた        七番日記   政1
    掃溜とうしろ合や五月雨            七番日記   政1
    ひきどのゝ仏頂面や五月雨          七番日記   政1
    ひき殿は石法花かよ五月雨          七番日記   政1    「花」→「華」
    丸竈や穴から見たる五月雨          七番日記   政1
    面壁の三介どのや五月雨            七番日記   政1
    藪村や闇きが上の五月雨            七番日記   政1
    此闇に鼻つまゝれな五月雨          八番日記   政2    (類)同日記(政3)下五「ほとゝぎす」
    五月雨も中休みぞよ今日は          八番日記   政2
                   (異)『おらが春』中七「中休みかよ」『希杖本』上五中七「五月雨の中休みかよ」
    草の葉やばかていねいな五月雨      八番日記   政3    (異)『梅塵八番』中七「馬鹿丁寧に」
    ざぶ 〜 とばか念入て五月雨        八番日記   政3
    夕立のそれから直に五月雨          八番日記   政3
    湯のたきも同おと也五月雨          八番日記   政3
    蕣の運の強さよ五月雨              八番日記   政4
    五月雨又迹からも越後女盲          八番日記   政4    「迹」→「後」(出)『発句集続篇』
                                                         (異)『梅塵八番』上五「さみだれや」
    五月雨に金魚銀魚のきげん哉        八番日記   政4
    五月雨や肩など打く火吹竹          八番日記   政4    (出)『発句集続篇』
    五月雨や沈香も焚かず屁もひらず    八番日記   政4
    五月雨やたばこの度に火打箱        八番日記   政4
    次の間に毛抜借す也五月雨          八番日記   政4    「借」→「貸」
                                                         (異)『梅塵八番』上五「次の間へ」
    天皇のた[て]しけぶりや五月雨      八番日記   政4
    なぐさみに風呂に入也五月雨        八番日記   政4
    何の其蛙の面や五月雨              八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「蛙の雨や」
    蕗の葉をたばこに吹や五月雨        八番日記   政4
    二所に昼風呂立ぬ五月雨            八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「昼風呂立や」
    豆煎を鳩にも分て五月雨            八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「鳩にも分る」
    五月雨や火入代りの小行灯          文政句帖   政8
    朝顔に翌なる蔓や五月雨            希杖本
    五月雨や馬の沓塚わらじ塚          発句集続篇         「じ」→「ぢ」
    さみだれや鳥もとまらぬ澪標        発句集続篇
    ちさい子が草背負けり五月雨        希杖本

 

五月晴れ

    虻出よせうじの破の五月晴          七番日記   化13
    草花の仕廻は五月晴にけり          七番日記   化13
    草笛のひやりと五月晴にけり        七番日記   化13

 

五月闇

    我門は闇もちいさき五月かな        希杖本             「い」→「ひ」

 

虎が雨(虎が涙)

    石と成雲のなりてや虎が雨          寛政句帖   寛4
    女郎花つんと立けり虎が雨          八番日記   政2
    とし寄の袖としらでや虎が雨        八番日記   政2    (出)『嘉永版』
    とらが雨など軽じてぬれにけり      八番日記   政2
                                     (出)『おらが春』前書き「五月廿八日」『文政版』『希杖本』
    我庵は虎が涙もぬれにけり          八番日記   政2
    気に入らぬ里[も]あらんをとらが雨  文政句帖   政5
    誠<と>なき里は降ぬか虎が雨        文政句帖   政5    (出)『発句集続篇』
    末世とてかたづけがたし虎が雨      文政句帖   政7
    恋しらぬ里のぞく也[虎が雨]        政八草稿   政8
    五粒でも三つでもいふや[虎が雨]    政八草稿   政8
    正直の国や来世も虎が雨            文政句帖   政8
    としよりのおれが袖へも虎が雨      文政句帖   政8
    なでしこ[に]ぽちりと虎が涙哉      政八草稿   政8
    人鬼の里ももらさず虎が雨          文政句帖   政8
    日の本や天長地久虎が雨            文政句帖   政8
    末世でも神の国ぞよ虎[が]雨        文政句帖   政8
        泊り屋の飯盛遊女を関東の諺に称して八兵衛といふは、いとふるくより呼来ると見たり
    八兵衛や泣ざなるまい虎が雨        発句鈔追加

 

夕立(白雨、夕立雲)

    逃込で白雨ほめるおのこ哉          寛政句帖   寛4    「お」→「を」
    白雨や三日正月触る声              寛政句帖   寛5
    竹原や余処の白雨に風騒ぐ          寛政句帖   寛6    (出)『夏木立』遺稿 真蹟
    棒突がごもくを流す白雨哉          寛政句帖   寛6
    うつくしき寝蓙も見へて夕立哉      文化句帖   化1    「へ」→「え」
    夕立や竹一本[の]小菜畠            文化句帖   化1
    夕立や舟から見たる京の山          文化句帖   化1
    夕立に次の祭りの通りけり          文化句帖   化3
    夕立の祈らぬ里にかゝる也          文化句帖   化3
    夕立や草花ひらく枕元              文化句帖   化3
    夕立やそも 〜 萩の乱れ口          文化句帖   化3  (異)同句帖(化3)中七「げに 〜 萩の」
        岩に添ふて過ぐれば、ハルナの神の社ありて、神楽所    「ふ」→「う」
        の刃の舞など、所がらすゞ吹く風もかみさびて見ゆ。
    夕立にとんじやくもなし舞の袖      草津道の記 化5    「じ」→「ぢ」
    今来るは木曽夕立か浅間山          化五六句記 化6
    夕立にすくりと森の灯哉            化五六句記 化6
    夕立になでしこ持たぬ門もなし      化五六句記 化6
    夕立の枕元より芒哉                化五六句記 化6
    夕 〜 夕立雲の目利哉              化五六句記 化6(異)『七番日記』(化12)上五「寝並んで」
    宵祭大夕立の過にけり              化五六句記 化6
    いかめしき夕立かゝる柳哉          七番日記   化7
    小祭や人木隠て夕立す              七番日記   化7    (出)『希杖本』書簡
    夕市や夕立かゝる見せ草履          七番日記   化7
    夕立に大の蕣咲にけり              書簡       化7    「大」→「犬」
    夕立や下がゝりたる男坂            七番日記   化7
    夕立に打任せ[た]りせどの不二      七番日記   化8    (出)『我春集』前書き「浅草反甫にて」
    夕立や芒刈萱女郎花                七番日記   化8    (類)同日記(化10)上五「陽炎や」
    夕立や辻の乞食が鉢の松            七番日記   化8    (異)『我春集』中七「乞食どのゝ」
    三粒でもそりや夕立よ 〜           七番日記   化9
                 (異)『株番』前書き「当日探題」『発句集続篇』中七下五「そりや夕立といふ夜哉」
    夕立が始る海のはづれ哉            七番日記   化9    (異)『株番』上五「夕立の」
    夕立に鶴亀松竹のそぶり哉          句稿消息   化9
    夕立の天窓にさはる芒哉            株番       化9
    夕立のとんだ所の野茶屋哉          七番日記   化9    (出)『句稿消息』
        十二日即題
    夕立の日光さまや夜の空            七番日記   化9
    夕立やかみつくやうな鬼瓦          七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    夕立やけろりと立し女郎花          七番日記   化9    (出)『株番』『発句集続篇』
                     (異)同日記(化13)中七「すつくり立る」『発句鈔追加』中七「すつくり立し」
    夕立や天王さまが御好とて          七番日記   化9  (異)同日記(化14)下五「御好げな」『株
 番』『句稿消息』上五下五「夕立を・・・御好げな」『八番日記』(政3)上五下五「夕立は・・・御好やら」
    夕立や貧乏徳利のころげぶり        七番日記   化9
    迹からも又ござるぞよ小夕立        七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』
    草二本我夕立をはやす也            七番日記   化10
    ござるぞよ戸隠山の御夕立          七番日記   化10
    是でこそ夕立さまよ夕立よ          七番日記   化10
    小むしろやはした夕立それもよい    七番日記   化10
             (異)『志多良』『句稿消息』下五「是も又」『希杖本』上五中七「小むしろを干た夕立」
    真丸に一夕立が始りぬ              七番日記   化10
                                                   (異)『志多良』『句稿消息』中七「一夕立の」
    身にならぬ夕立ほろり 〜 哉        七番日記   化10
    夕立に椀をさし出る庵哉            七番日記   化10    「る」→「す」
    夕立やかゆき所へ手のとゞく        七番日記   化10
                                     (異)『文政句帖』(政8)中七下五「かゆい所へ手がとゞく」
    夕立や名主組頭五人組              七番日記   化10
    夕立や弁慶どのゝ唐がらし          七番日記   化10
    須磨村の貰ひ夕立かゝりけり        七番日記   化11    「村」→「寺」
    竹垣の大夕立や素湯の味            七番日記   化11
    とかくしてはした夕立ばかり哉      七番日記   化11
                   (出)『発句題叢』『希杖本』(異)『嘉永版』『発句鈔追加』下五「ばかりなり」
    西からと北と夕立並びけり          七番日記   化11
    夕暮の一夕立が身に成りぬ          七番日記   化11
                                                 (異)『句稿消息』「夕暮や一夕立も身になるぞ」
    夕立や三文花もそれそよぐ          七番日記   化11
    夕立や一人醒たる小松島            七番日記   化11
    夕立は是功とぱらり 〜 哉          七番日記   化11    「功」→「切」
    足ばやの逃夕立よ 〜               七番日記   化12
    お汁桶一夕立は過にけり            七番日記   化12
    夕立を鐘の下から見たりけり        七番日記   化12
    白雨がせんだくしたる古屋哉        七番日記   化12
    夕立と加賀もぱつぱと飛にけり      七番日記   化12
    夕立の迹引にける今の世は          七番日記   化12    (異)同日記(化13)中七「迹引にけり」
    夕立もむかひの山の贔屓哉          七番日記   化12
    夕立や臼に二粒箕に三粒            七番日記   化12
    我[恋]のつくば夕立 〜 よ          七番日記   化12
    浅間から別て来るや小夕立          七番日記   化13
                                 (出)『発句集続篇』(異)『八番日記』(政3)上五「向ふから」
    あつさりと朝夕立のお茶屋哉        七番日記   化13
    てん 〜 に遠夕立の目利哉          七番日記   化13
                                                (異)『おらが春』上五下五「寝並んで・・・評義哉」
    一つ家や一夕立の真中に            七番日記   化13
        日和乞
    やめ給へ御夕立といふうちに        七番日記   化13    (出)『文政句帖』(政7)
    夕立を逃さじと行乙鳥哉            七番日記   化13
    夕立に大行灯の後光哉              七番日記   化13
    夕立のよしにして行在所哉          七番日記   化13
    夕立やおそれ入たり蟾の顔          七番日記   化13
    夕立の月代絞る木陰哉              七番日記   化14
    夕立や祈らぬむらは三度迄          七番日記   化14
    さればこそ本ん夕立ぞ松の月        七番日記   政1
    夕立を三日待たせて三粒哉          七番日記   政1
    夕立に拍子を付る乙鳥哉            七番日記   政1
                                                 (異)『あつくさ』上五中七「夕立の拍子に走る」
    夕立や今二三盃のめ 〜 と          七番日記   政1
    夕立や大肌ぬいで小盃              七番日記   政1
    夕立や上手に走るむら乙鳥          七番日記   政1
    夕立の拍子に伸て葎哉              八番日記   政2
    夕立や行灯直す小縁先              八番日記   政2    (出)『嘉永版』
    夕立や樹下石上の小役人            八番日記   政2
    夕立やはらりと酒の肴程            八番日記   政2    (異)『発句集続篇』上五「夕立の」
    夕立はあらうかどうだかへる殿      八番日記   政2
    言訳に一夕立の通りけり            八番日記   政3
    今の間に二夕立やあちら村          八番日記   政3
                                  (異)『文政句帖』(政5)上五下五「見るうちに・・・むかふむら」
    風許りでも夕立の夕かな            八番日記   政3    (出)『嘉永版』
    夕立に昼寝の尻を打れけり          八番日記   政3
    夕立やあんば大杉大明神            八番日記   政3
    今の間にいく夕立ぞ迹の山          八番日記   政4
    かくれ[家]の眠かげんの小夕立      八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「隠れ家や」
    門掃て夕立をまつ夕かな            八番日記   政4
    葎にも夕立配り給ふ哉              八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「葎へも」
    夕立を見せびらかすや山の神        八番日記   政4
                                                  (出)『発句集続篇』(異)真蹟 下五「山の水」
    夕立がどつと腹立まぎれかな        八番日記   政4
    夕立に足敲かせて寝たりけり        八番日記   政4
                                       (異)『文政句帖』(政8)中七下五「足を打せてごろ寝哉」
    夕立に迄にくまれし門田哉          八番日記   政4
    夕立のうらに鳴なり家根の鶏        八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「裏に鳴けり」
    夕立のつけ勿体やそこら迄          八番日記   政4
    夕立の取て帰すやひいき村          八番日記   政4    「帰」→「返」
    夕立のひいきめさるゝ外山かな      八番日記   政4
    夕立の真中に立頭座かな            八番日記   政4    「頭座」→「座頭」
    夕立や赤い寝蓙に赤い花            梅塵八番   政4
    夕立や大いさかいの天窓から        八番日記   政4    「かい」→「かひ」
    夕立や髪結所の鉢の松              八番日記   政4
    夕立や芝から芝へ小盃              八番日記   政4
    夕立や塚にもて立そばの膳          八番日記   政4    「塚」→「縁」
                                                         (異)『梅塵八番』中七「縁へもてたつ」
    夕立や寝蓙の上の草の花            八番日記   政4
    夕立のとりおとしたる小村哉        文政句帖   政5    (異)同句帖(政7)下五「出村哉」
    夕立の裸湯うめて通りけり          文政句帖   政5
    夕立の二度は人のそしる也          文政句帖   政5
    夕立や追かけ 〜 又も又            文政句帖   政5
    夕立や両国橋の夜の体              文政句帖   政5
    夕立や〓て諷ふ貧乏樽              文政句帖   政6    〓は手偏に「卩」
    夕立や登城の名主組がしら          文政句帖   政6
    夕立や枕にしたる貧乏樽            文政句帖   政6
    夕立や蓑きてごろり大鼾            文政句帖   政6
    門掃除させて夕立来ざりけり        文政句帖   政7
    青がへる迄も夕立さはぎ哉          政八草稿   政8
    図に乗て夕立来るやけふも又        文政句帖   政8
    始るやつくば夕立不二に又          文政句帖   政8
    降りどしや夕立も図に乗来た[る]    政八草稿   政8
    夕立にこねかへされし畠哉          文政句帖   政8
    夕立のおし流したる畠哉            政八草稿   政8
    夕立のすんでにぎはふ野町哉        文政句帖   政8
    夕立のて[き]ぱきやめもせざりけり  政八草稿   政8
    夕立や象潟畠甘満寺                文政句帖   政8    「甘」→「蚶」
    夕立や十所ばかりも海の上          政八草稿   政8
    夕立やしやんと立てる菊の花        文政句帖   政8
    夕立や裸で乗しはだか馬            文政句帖   政8
    夕立や藪の社の十二灯              文政句帖   政8
    門畠やあつらへむきの一夕立        政九十句写 政9
   (異)『発句鈔追加』中七下五「あつらひ通り小夕立」『希杖本』中七下五「あつらへむきの小夕立」
    縁なりに寝て夕立よ 〜 よ          あつくさ
    夕立の又来るふりで走りけり        希杖本
    夕立や二文花火も夜の体            真蹟           (異)『七番日記』(化14)上五「よい雨や」
                                    『文政版』上五「縁はなや」『発句集続篇』上五「すゞしさや」

 

夏の雨

    着ながらにせんだくしたり夏の雨    八番日記   政4    (異)『梅塵八番』上五「着ながらも」
    門川に足を浸して夏の雨            八番日記   政7
    辛崎は昼も一入夏の雨              八番日記   政7    (異)同句帖(政7)上五「辛崎や」
    鍬枕かまをまくらや夏の雨          八番日記   政7

 

雲の峰

    しづかさや湖水の底の雲のみね      寛政句帖   寛4
    雲の峰外山は雨に黒む哉            寛政句帖   寛6    (異)遺稿 下五「黒みける」
    雲のみね見越 〜 て安蘇煙          寛政句帖   寛6    「安」→「阿」
    青柳や雲のみねより日のとゞく      西紀書込   寛中
    いかな事翌も降まじ雲のみね        西紀書込   寛中
        湖水
    おもふ図に雲立ひらの夕べ哉        与播雑詠   寛中
    雲のみね翌も降らざる入日哉        西紀書込   寛中
    川縁[は]はや月夜也雲の峰          享和句帖   享3
    雲の峰いさゝか松が退くか          享和句帖   享3
    雲の峰下から出たる小舟哉          享和句帖   享3
    しばらくは枕の上や雲の峰          享和句帖   享3
    雲の峰小窓一つが命也              文化句帖   化1
    雲の峰立や野中の握飯              文化句帖   化1
    どの人も空腹顔也雲の峰            文化句帖   化1
    ひだるしといふ也雲の峰            文化句帖   化1
    湖に手をさし入て雲の峰            文化句帖   化1
    葎家は人種尽ん雲の峰              文化句帖   化1
    虫のなる腹をさぐれば雲の峰        文化句帖   化1
    すき腹に風の吹けり雲の峰          文化句帖   化2
    峰となる雲が行ぞよ笠の先          文化句帖   化2
    片里や米つく先の雲の峰            文化句帖   化3    (異)同句帖(化3)上五「山里や」
    切雲の峰となる迄寝たりけり        文化句帖   化3
    寝返ればはや峰作る小雲哉          文化句帖   化3
    心から鬼とも見ゆる雲の峰          七番日記   化8    (出)『我春集』
    ちさいのは門にほしさよ雲の峰      七番日記   化8
    ちさいのは皆正面ぞ雲の峰          七番日記   化8    (異)『我春集』中七「真正面なり」
    よい風や中でもちいさい雲の峰      七番日記   化8    「ちい」→「ちひ」
    雲の峰草一本にかくれけり          七番日記   化9    (出)『句稿消息』『発句集続篇』
    雲の峰草にかくれてしまひけり      七番日記   化9    (出)『株番』
    祭せよ小雲も山を拵る              七番日記   化9    (異)『句稿消息』中七「小雲が山を」
    三ヶ月に逃ずもあらなん雲のみね    七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    むさしのや蚤の行衛も雲の峰        七番日記   化9
                            (出)『株番』(異)『句稿消息』上五「草原や」書簡 上五「起しなや」
    いかさまにきのふのか也雲の峰      七番日記   化10
    たのもしや西紅の雲の峰            七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』
    伝馬貝吹なくすなよ雲の峰          七番日記   化10
    投出した足の先也雲の峰            七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』『文政版』
    昼ごろや枕程でも雲の峰            七番日記   化10
    水およぐ蚤の思ひや雲の峰          七番日記   化10
    むだ雲やむだ山作る又作る          七番日記   化10
                               (出)『志多良』『句稿消息』(異)同日記(化11)下五「けふも又」
    稲葉から出現したか雲の峰          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    順 〜 にうごき出しけり雲の峰      七番日記   化11
                                                 (異)『八番日記』(政4)中七「ずり出しけり」
    涼しさは雲の大峰小みね哉          七番日記   化11    (異)同日記(化11)上五「米出来る」
    富士に似た雲よ雲とや鳴烏          七番日記   化11    (出)『句稿消息』
    青垣や蛙がはやす雲の峰            七番日記   化12
                                         (異)『文政句帖』(政6)上五中七「梢から蛙はやせり」
    けふも亦見せびらかすや雲の峰      七番日記   化12
    雲の峰行よ大鼓のなる方へ          七番日記   化12    「大」→「太」
    ちよぼ 〜 と小峰並べる小雲哉      七番日記   化12
    目通りへ並べ立たよ雲の峰          七番日記   化12
    赤 〜 と出来揃けり雲の峰          七番日記   化13
    大雲や峰と成てもずり歩く          七番日記   化13
    先操におつ崩しけり雲の峰          七番日記   化13    「操」→「繰」(出)『希杖本』
    相応な山作る[也]根なし雲          七番日記   化13
    山と成り雲と成る雲のなりや        七番日記   化13
    大の字に寝て見たりけり雲の峰      七番日記   化14
    うき雲の苦もなく峰を作りけり      七番日記   政1
    寝むしろや足でかぞへる雲の峰      七番日記   政1
                             (出)『八番日記』(政2)(異)『梅塵八番』(政2)下五「雪の峰」
    夕鐘や雲もつくねる法の山          七番日記   政1
    よい程に塔の見へけり雲の峰        七番日記   政1    「へ」→「え」
    蟻の道雲の峰よりつゞきけり        八番日記   政2    (異)『おらが春』『梅塵八番』
           『文政版』下五「つゞきけん」『文政九・十年句帖写』(政9)『希杖本』下五「つゞく哉」
    風有をもつて尊し雲の峰            梅塵八番   政2
                                   (出)『おらが春』『発句鈔追加』『希杖本』『発句集続篇』書簡
    小さいのもけふ御祝義や雲の峯      八番日記   政2    「義」→「儀」
                                                         (異)『梅塵八番』中七「けふの祝儀や」
    山人の枕の際や雲の峯              八番日記   政2    (出)『発句集続篇』
    湖へずり出しけり雲の峯            八番日記   政3    (出)『嘉永版』
    雨雲やまご 〜 しては峰と成        八番日記   政4  (異)『梅塵八番』中七「まん 〜 しては」
    おとらじと峰拵る小雲哉            八番日記   政4    (出)『発句集続篇』
    大将の腰かけ芝や雲の峰            八番日記   政4
    旅人のこぐり入けり雲の峰          八番日記   政4    (異)『梅塵八番』中七「むぐり入けり」
    小さいのも数に並ぶや雲の峯        八番日記   政4
    始るや明六つからの雲の峰          八番日記   政4
    走り舟雲の峰へものぼる哉          八番日記   政4
    山国やある[が]上にも雲の峰        八番日記   政4
    あの中に鬼やこもらん雲のみね      文政句帖   政5
    雲切や何[の]苦もなく峰作る        文政句帖   政5
    暮日やでき損ひの雲の峰            文政句帖   政5
    米国や夜もつゝ立雲の峰            文政句帖   政5    (異)同句帖(政5)中七「夜立さらぬ」
    造作なく作り直すや雲の峰          文政句帖   政5
    手ばしこく畳み仕廻ふや雲のみね    文政句帖   政5
    松の木で穴をふさぐや雲のみね      文政句帖   政5
    湖水から出現したり雲の峯          文政句帖   政6    (出)『文政版』『ほまち畑』
    そば屋には箸の山有雲のみね        文政句帖   政6
    田の人の日除になるや雲のみね      文政句帖   政6
                                                   (出)『だん袋』『発句鈔追加』『発句集続篇』
    羽団扇で招き出したか雲の峰        文政句帖   政6
    夕なぎにやくやもしほの雲の峰      文政句帖   政6
    うき雲や峰ともならでふらしやらと  文政句帖   政7
    海見ゆる程穴ありて雲の峰          文政句帖   政7
                 (異)『文政九・十年句帖写』(政9)『希杖本』上五中七「湖見ゆる穴もありけり」
    てつぺんに炭をやく也雲のみね      文政句帖   政7
    走り帆の追ひ 〜 出るや雲の峰      文政句帖   政7
    目出度さはぞろりと並ぶ雲の峰      文政句帖   政7
    炭竈の細くけぶるや雲の峰          政八草稿   政8
    田よ畠よ寸馬豆人雲の峰            文政句帖   政8
    雲に山作らせて鳴蛙かな            政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    野畠や芥を焚く火の雲の峯          政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    人のなす罪より低し雲の峯          政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    峯をなす分別もなし走り雲          政九十句写 政9    (出)『希杖本』
    夕飯過に揃ひけり雲の峯            希杖本

 

    雲の峰の中にかみなり起る哉        寛政句帖   寛4
    雷をしらぬ寝坊の寝徳哉            文政句帖   政8

 

夏の月

    最う一里翌を歩行ん夏の月          霞の碑     寛2    (異)『題葉集』中七「翌をあゆまん」
    寝せ付て外へは出たり夏の月        寛政句帖   寛4
    夏の月明地にさはぐ人の声          寛政句帖   寛5    「は」→「わ」
    翌ははや只の河原か夏の月          遺稿       寛中
    夏の月翌[は]糺へ人の引ける        遺稿       寛中
    夏の月河原の人も翌引る            遺稿       寛中
    家陰行人の白さや夏の月            遺稿       寛中
    あれ程の中洲跡なし夏の月          享和句帖   享3
    乞食せば都の外よ夏の月            享和句帖   享3
    夏の月と申も一夜二夜哉            享和句帖   享3
    夏の月中洲ありしも此比や          享和句帖   享3
    夏の月二階住居は二階にて          享和句帖   享3
    なりどしの隣の梨や夏の月          享和句帖   享3
    痩松も奢がましや夏の月            享和句帖   享3
    うら町は夜水かゝりぬ夏の月        文化句帖   化1
    汁なべも厠も夏の月よ哉            文化句帖   化1
    夏の月柱なでゝも夜の明る          文化句帖   化1
    一人見る草の花かも夏の月          文化句帖   化1
    水切の騒ぎいつ迄夏の月            文化句帖   化1
    目の砂をゑひし吹入夏の月          文化句帖   化1
    あさぢふや夏の月夜の遠砧          文化句帖   化2
    象がたや能因どのゝ夏の月          七番日記   化9
    さほ姫の御子も出給へ夏の月        七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    小便に川を越けり夏の月            七番日記   化9
    蝶と成て髪さげ虫も夏の月          句稿消息   化9
    戸口から難波がた也夏の月          七番日記   化9  (出)『株番』『句稿消息』『発句集続篇』
    夏の月無きずの夜もなかりけり      七番日記   化9
    萩の葉のおもはせぶりや夏の月      七番日記   化9
    穴蔵に一風入て夏の月              七番日記   化11
    大川や盃そゝぐ夏の月              七番日記   政1
    小むしろや茶釜の中の夏の月        八番日記   政2    (出)『嘉永版』『発句集続篇』
    芝でした休み所や夏の月            梅塵八番   政2
     (異)『八番日記』(政2)『おらが春』下五「夏木立」『希杖本』中七下五「腰懸茶屋や夏木立」
    なぐさみにわらをうつ也夏の月      八番日記   政2
                                           (出)『おらが春』(異)『嘉永版』中七「腹を打なり」
    二番火の酒の騒ぎや夏の月          梅塵八番   政2
     (出)『発句集続篇』(異)『七番日記』(化12)『八番日記』(政2)『希杖本』下五「夏木立」
    寝むしろや尻を枕に夏の月          八番日記   政2
    子は鼾親はわらうつ夏の月          文政句帖   政6
    寝せつけし子のせんだくや夏の月    文政句帖   政6    (出)『文政版』
    小乞食の唄三絃や夏の月            文政句帖   政7
    山門の大雨だれや夏の月            文政句帖   政7
    捨ておいても田に成にけり夏の月    文政句帖   政7
    どの門もめで田 〜 や夏の月        文政句帖   政7
    本堂の長雨だれを夏の月            発句集続篇

 

夏の雲

    夏の雲朝からだるう見えにけり      題葉集     寛12

 

青嵐

    青あらしかいだるき雲のかゝる也    書簡       寛10    「い」→「ひ」
    青あらし我家見に出る旭哉          書簡       寛10    (異)『与播雑詠』上五「青捲」
    青あらしかいだるげなる人の顔      与播雑詠   寛中    「い」→「ひ」
    草刈の馬に寝て来る青あらし        西紀書込   寛中
    青嵐吹やずらりと植木売            七番日記   化12
    行灯を虫の巡るや青あらし          七番日記   化13 (異)『発句集続篇』中七「虫のまはるや」

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地理

 

富士の雪解け

        寄不二恋
    打解る稀の一夜や不二の雪          寛政句帖   寛4

 

夏山

    夏山に洗ふたやうな日の出哉        書簡       寛10 (出)『題葉集』(異)書簡 上五「夏山の」
    夏山のゝしかかつたる入江哉        与播雑詠   寛中
    夏山や片足かけては母のため        享和二句記 享2
    暮れぬ間に飯も過して夏[の]山      享和句帖   享3
    たま 〜 に晴れば闇よ夏の山        享和句帖   享3
        羔裘
    夏山の膏ぎつたる月よ哉            享和句帖   享3
    夏山や一足づゝに海見ゆる          享和句帖   享3
    親の家見へなくなりぬ夏[の]山      文化句帖   化1    「へ」→「え」
    夏山や京を見る時雨かゝる          文化句帖   化1
    夏山やつや 〜 したる小順礼        文化句帖   化1
    柱拭く人も見へけり夏の山          文化句帖   化1    「へ」→「え」
    夏山や目にもろ 〜 の草の露        草津道の記 化5
        廿七日会題
    夏山や一人きげんの女郎花          七番日記   化7  (出)『嘉永版』『青かげ』『比止理多智』
    雲見てもつい眠る也夏の山          七番日記   化10
    夏山に花なし蔓の世也けり          七番日記   化11
    夏山や仏のきらひさうな花          七番日記   化11
    夏山やばかていねいに赤い花        七番日記   政1
        越後の選明といふもの、おのれを訪ひに出て、行衛しらざるとて、其子尋ねて来りしを
    夏山やどこを目当に呼子鳥          文政句帖   政5
    夏山や鶯雉ほとゝぎす              文政句帖   政6

 

夏野(夏野原)

    空腹に雷ひゞく夏野哉              享和句帖   享3
    弓[と]弦なら弓を引け夏の原        八番日記   政4

 

清水(苔清水、山清水、磯清水)

        南道老人、みちのくへ行といふに
    飛ぶことなかれ汲ことなかれ山清水  寛政三紀行 寛3
    牛車の迹ゆく関の清水哉            寛政句帖   寛4
    櫛水に髪撫上る清水哉              寛政句帖   寛4
    賤やしづ 〜 はた焼に汲め清水      寛政句帖   寛4
        一日三つ四つの友どちと共に、高師の浜[伝]ひしてゆくに、三光
        松、此辺りより葛城山は東南に連けり。真砂にめづらしき泉湧く。
    磯清水旅だんすほしき木陰哉        西国紀行   寛7
    姨捨のくらき中より清水かな        十家類題集 寛11
                                       (出)『うきおり集』(異)『花月集』中七「くらき方より」
    浅ぢふも月さへさせば清水哉        文化句帖   化1
    かくれ家や月さゝずとも湧清水      文化句帖   化1
    清水湧翌の山見て寝たりけり        文化句帖   化1
    茨ありと仰おかれし清水哉          文化句帖   化1
    二筋はな[く]てもがもな清水湧      文化句帖   化1
    二森も清水も跡になりにけり        文化句帖   化1
    松迄は月もさしけり湧清水          文化句帖   化1
    湧清水浅間のけぶり又見ゆる        文化句帖   化1
    鶯も鳴さふらふぞ苔清水            文化句帖   化2    「さふ」→「さう」
                                                         (異)遺稿 中七「鳴さむらひぬ山清水」
        岩のしたゝりをとく 〜 と落つる谷をへだてゝ、石の不動の像を彫りて、けふ
        開眼行ふとて、わざ 〜 登山の人も有けり。幸に来かゝるこそ本意なれ。誦経
        の筵に逢はんと思へど、無縁の者は坊に一夜をゆるさず。ちからなくもやみぬ。
    芒から菩薩の清水流れけり          草津道の記 化5
                            (異)『文化六年句日記』前書き「日滝流月亭 皐雨同道」上五「松風に」
        行くこと五十町にして八本松といふ茶屋有。汗をさましてをり。
    なでしこの折ふせらるゝ清水哉      草津道の記 化5
    蜂の巣のてく 〜 下る清水哉        化五六句記 化5
    山清水木陰にさへも別けり          化五六句記 化5
    山清水守らせ玉ふ仏哉              草津道の記 化5    「玉」→「給」
        長沼呂芳にやどる。此寺はより 〜 寝馴れし寺なれば、
        来し方の咄などに心伸して我家のやうにはらばふ。
    唐がらし詠られけり門清水          七番日記   化7
    昔 〜  〜 の釜が清水哉            七番日記   化7
    観音の番してござる清水哉          七番日記   化9
    苔清水さあ鳩も来よ雀来よ          七番日記   化9    (出)『株番』『句稿消息』
    さゝら売三八どのゝ清水哉          七番日記   化9
    なむ大悲 〜 [ 〜 ]の清水哉        七番日記   化9    (類)遺稿 下五「桜哉」
    古郷や厠の尻もわく清水            七番日記   化9
    放下師が鼓打込清水哉              七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    夜に入ればせい出してわく清水哉    七番日記   化9    (出)『句稿消息』
    鶯が果報過たる清水哉              七番日記   化10
    かい曲寝聳るたしのし水哉          七番日記   化10
    居風呂も天窓を頼る清水哉          七番日記   化10
    つゝじから出てつゝじの清水哉      七番日記   化10
                                               (異)『志多良』『句稿消息』中七「出てつゝじへ」
    ほの 〜 と蕣がさくし水哉          七番日記   化10
    三ヶ月[の]清水守りておはしけり    七番日記   化10
    やこらさと清水飛こす美人哉        七番日記   化10
    山里は馬の浴るも清水哉            七番日記   化10    (異)同日記(化11)『句稿消息』中七
                             「馬に投つける」『八番日記』(政2)『嘉永版』中七「馬にかけるも」
    わる赤い花の咲けり苔清水          七番日記   化10
                     (異)『志多良』『句稿消息』中七「花のごて 〜 」『希杖本』中七「草花咲ぬ」
    我宿はしなのゝ月と清水哉          七番日記   化10
    売わらじ松につるして苔清水        七番日記   化11    (出)『発句鈔追加』
    有も 〜 皆赤渋の清水哉            七番日記   化12
    大の字にふんばたがりて清水哉      七番日記   化12
    挑灯を木につゝかけて清水哉        七番日記   化12
    毒草の花の陰より清水哉            七番日記   化12
    人の世の銭にされけり苔清水        七番日記   化12    (出)『句稿消息』『随斎筆紀』
    古郷や杖の穴からわく清水          七番日記   化12
    小むしろや清水が下のわらぢ売      七番日記   化13
    常留主の門にだぶ 〜 清水哉        七番日記   化13
    山本や清水の月の座敷迄            七番日記   化13    (異)同日記(化13)中七「清水の月が」
    我庵や左<り>は清水右は月          七番日記   化13
    倦く段になればいくらか山清水      八番日記   政2
                                       (異)同日記(政2)上五中七「倦てか[ら]いくらかあるぞ」
    くはう 〜 と穢太が家尻の清水哉    八番日記   政2    「は」→「わ」「太」→「多」
    此入は西行庵か苔清水              八番日記   政2
                           (異)同日記(政2)上五「此おくは」『おらが春』中七「どなたの庵ぞ」
    笹つたふ音ばかりでも清水哉        八番日記   政2
    清水見へてから大門の長さ哉        八番日記   政2    「へ」→「え」
        戸隠山
    水風呂へ流し込だる清水哉          八番日記   政2  (出)『発句鈔追加』前書き「戸隠山院内」
                       (異)『おらが春』『希杖本』『発句鈔追加』『発句集続篇』上五「居風呂へ」
    母馬が番して呑す清水哉            八番日記   政2
    (出)『おらが春』『発句題叢』『文政版』真蹟 前書き「小金原」『希杖本』前書き「小金原にて」
    松の木に御礼申て清水哉            八番日記   政2    (異)『発句集続篇』上五「松の下に」
    山守の爺< 〜 >が祈りし清水哉      八番日記   政2    (異)『おらが春』上五「山番の」
    観音の足の下より清水哉            八番日記   政3    (出)『発句集続篇』
    てつぺんの雪や降らん山清水        文政句帖   政5
    人里へ出れば清水でなかりけり      文政句帖   政5    (出)『発句集続篇』
    山清水人のゆきゝに濁りけり        文政句帖   政5
    寝ぐらし[や]清水に米をつかせつゝ  文政句帖   政6
    山里は米をつかする清水かな        文政句帖   政6
                         (異)『だん袋』中七「米をも搗かする」『発句鈔追加』中七「米も搗する」
    夕陰や清水を馬に投つける          文政句帖   政7
    戸隠の家根から落る清水哉          文政句帖   政8
    一里程迹になりけり山清水          真蹟
    人立を馬のまつてる清水哉          発句集続篇
    姫ゆりの心ありげの清水哉          真蹟
    義家の涙の清水汲まれけり          真蹟
    わらぢ売木陰の爺が清水哉          希杖本

 

青田(青田原、田青む、稲青む)

    憎るゝ稗は穂に出て青田原          寛政句帖   寛6
                                       (異)『文化句帖』(化1)「悪まれし草は穂に出し青田哉」
        空見つ倭の名処一見せばやと、河内の国ゆ山ごえしてやす
        らふ折から、此国中眼下にみゆれば、忽炎日の眠気散じて
    遠かたや青田のうへの三の山        吐雲句画帖 寛7
    青田原箸とりながら見たりけり      与播雑詠   寛中
    箸持てぢつと見渡る青田哉          与播雑詠   寛中    「ぢ」→「じ」「る」→「す」(出)遺稿
    父ありて明ぼの見たし青田原        終焉日記   享1
    木がくれに母のほまちの青田哉      文化句帖   化1
    柴門も青田祝ひのけぶり哉          文化句帖   化3
    手枕におのが青田と思ふ哉          文化句帖   化3
    隠坊がけぶりも御代の青田哉        文化句帖   化4
    見直せば 〜 人の青田哉            文化句帖   化4
    けいこ笛田はこと 〜 く青みけり    七番日記   化7    (出)『発句題叢』『発句鈔追加』
                               『嘉永版』書簡(異)『希杖本』『発句題叢』中七「田がこと 〜 く」
    朝 〜 のかすみはづれの青田哉      七番日記   化8
    柴門や天道任せの田の青む          七番日記   化8
    灯ろうの折ふしとぼる青田哉        七番日記   化8
    夕飯の菜に詠る青田哉              七番日記   化8  (異)『発句集続篇』中七「茶にも詠める」
    しんとして青田も見ゆる簾哉        七番日記   化9
    朝 〜 の心におがむ青田哉          七番日記   化10    「お」→「を」
    行灯にかぶさるばかり青田哉        七番日記   化10
    門先や掌程の田も青む              七番日記   化10
    ちぐはぐにつゝさす稲も青みけり    志多良     化10    (出)『句稿消息』
    一人前田も青ませて夕木魚          七番日記   化10
                                   (出)『文政句帖』(政7)(異)『発句集続篇』上五「二三枚」
    ほまち田も先青むぞよ 〜           七番日記   化10
    惜るゝ人の青田が一番ぞ            七番日記   化11
    三人が枕にしたる青田哉            七番日記   化11
    四五本の青田の主の我家哉          七番日記   化11
    たのもしや青田の主の這出しぬ      七番日記   化11
    君が田も我田も同じ青み哉          七番日記   化12
    青田からのつぺらぼうの在所哉      七番日記   化13    (異)同日記(化13)下五「草家哉」
    柴の戸の田やひとりでに青くなる    七番日記   化13
    そよ吹や田も青ませて旅浴衣        七番日記   化13
    田が青む 〜 とやけいこ笛          七番日記   化13
    茶仲間や田も青ませて京参          七番日記   化13    (出)『発句集続篇』
    露の世をさつさと青む田づら哉      七番日記   化13
    人真似に庵の門田も青みけり        七番日記   化13
    よい風や青田はづれの北の院        七番日記   化13
    りん 〜 と凧上りけり青田原        七番日記   化13
    我植た稲も四五本青みけり          七番日記   政1
    青田中さまさせて又入る湯哉        八番日記   政2    (異)『梅塵八番』上五「青い田に」
    起 〜 の慾目引ぱる青田哉          八番日記   政2
                 (出)『おらが春』『発句鈔追加』『発句集続篇』(異)『嘉永版』上五「起 〜 に」
    其次の稈もそよ 〜 青田哉          八番日記   政2    「稈」→「稗」
    そんぢよそこ爰と青田のひいき哉    八番日記   政2    「ぢ」→「じ」(出)『おらが春』
    寝並びておのが青田をそしる也      八番日記   政2
    けふからは乾さるゝ番ぞ青田原      八番日記   政4
    番日とて蜘手に割し青田哉          八番日記   政4
    見す 〜 も乾れて居たる青田哉      八番日記   政4
    見たばかも腹のふくるゝ青田哉      八番日記   政4
    夕風や病けもなく田の青む          文政句帖   政5
    青い田の露を肴やひとり酒          文政句帖   政6
    草稲も一つくねりの青田哉          文政句帖   政6
    灯の際より青む田づら哉            文政句帖   政6
    稗の穂に勝をとられし青田哉        文政句帖   政6
    白妙の土蔵ぽつちり青田哉          文政句帖   政7
        本行寺泊
    刀禰の帆が寝ても見ゆるぞ青田原    文政句帖   政7
    軒下も人のもの也青田原            政九十句写 政10    (出)『希杖本』
        柏原大火事、壬六月也。
    焼つりの一夜に直る青田哉          政九十句写 政10    (出)『希杖本』
        田家
    夕飯の膳の際より青田哉            政九十句写 政10    (出)『希杖本』
    下手植の稲もそろ 〜 青みけり      希杖本          (異)『希杖本別本』中七「稲もそよ 〜 」

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