一茶発句全集(5)・・・春の部(4)

最終補訂1999年9月7日

 

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動物(2)

 

帰る雁(行く雁、雁の別れ、雁の名残)

    夕暮の松見に来しをかへる雁        享和二句記 享2    (異)同句日記 中七「松見に来れば」
    雨だれの有明月やかへる雁          享和句帖   享3    (出)『完来歳旦帖』
             (異)『文化句帖』(化1)中七「有明や」同句帖(享3)上五中七「雨だれは月よなり」
    行灯で飯くふ人やかへる雁          享和句帖   享3
    一度見度さらしな山や帰る雁        享和句帖   享3
    小田[の]雁一[つ]となりて春いく日  享和句帖   享3
    かへる雁駅の行灯かすむ也          享和句帖   享3
    帰る雁何を咄して行やらん          享和句帖   享3
    帰る雁北陸道へかへる也            享和句帖   享3
        鴻雁
    帰る日も一番先や寡雁              享和句帖   享3
                                     (異)『文化句帖』(化1)上五中七「立時もおくれはせじな」
    門口の行灯かすみてかへる雁        享和句帖   享3
                                                   (異)『文化句帖』(化1)中七「灯かすみて」
    草の雨松の月よやかへる雁          享和句帖   享3    (異)同句帖(享3)下五「十五日」
    行雁や更科見度望みさへ            享和句帖   享3
    朝雨を祝ふてかへれ小田の雁        文化句帖   化1    「ふ」→「う」
    跡立は雨に逢ひけりかへる雁        文化句帖   化1    「跡」→「後」
    いたづらに日は人にかへる雁        文化句帖   化1
    近江のや雁のかへりも松の月        文化句帖   化1
    かへる雁翌はいづくの月や見る      文化句帖   化1
    帰雁見知ておれよ浮御堂            文化句帖   化1    「お」→「を」
    帰る日もしらぬそぶりや小田[の]雁  文化句帖   化1
    門の雁立日となりぬ日となりぬ      文化句帖   化1    (出)『七番日記』『発句鈔追加』
    是式の窓にも雁のなごり哉          文化句帖   化1
    叱られてそらから直にかへる雁      文化句帖   化1    「そら」→「そこ」
    立雁のぢろ 〜 みるや人の顔        文化句帖   化1    「ぢ」→「じ」
    田の雁のかへるつもりか帰らぬか    文化句帖   化1
    田の人の笠に糞してかへる雁        文化句帖   化1
    兀山も見知ておけよかへる          文化句帖   化1
    一つでも鳴て行也かへる雁          文化句帖   化1
    人よりも朝きげん也かへる雁        文化句帖   化1
    三とせ見し梢の雨やかへる雁        文化句帖   化1
    行雁に呑せてやらん京の水          文化句帖   化1
    行雁やきのふは見へぬ小田の水      文化句帖   化1    「へ」→「え」
    行な雁廿日[も]居れば是古郷        文化句帖   化1
    我恋はさらしな山ぞかへる雁        文化句帖   化1
    菜の花がはなれにくいか小田[の]雁  文化句帖   化2
    げつそりと雁はへりけりよしづ茶屋  文化句帖   化3    「づ」→「ず」
    玉川や臼の下よりかへる雁          文化句帖   化3    (出)『七番日記』遺稿 真蹟
    見知られし雁もそろ 〜 立田哉      文化句帖   化3
    行は 〜 江戸見た雁が見た雁が      文化句帖   化3
    〓苣のつや 〜 しさを帰雁          文化句帖   化4    〓は草冠に「不」
                                                         「苣」→草冠に「官」の下部
    雁立てさば 〜 したる浦辺哉        文化句帖   化4
    雁行て人に荒行草葉哉              文化句帖   化4
    立雁が大きな糞をしたりけり        文化句帖   化4
    藪蕎麦のとく 〜 匂へかへる雁      文化句帖   化4
    行雁がつく 〜 見るや煤畳          文化句帖   化4
    行雁や人の心もうはの空            文化句帖   化4
    雁にさへとり残されし栖哉          文化句帖   化5
    便りない我家を捨てかへる雁        文化句帖   化5
    のう 〜 と山も立らんかへる雁      文化句帖   化5
    雁立た迹を見に行小松哉            化五六句記 化6
    雁立て青くも成らぬ垣ね哉          化五六句記 化6
    大切の廿五日やかへる雁            化五六句記 化6
    木母寺の明り先より帰る雁          化五六句記 化6
    行雁や我湖をすぐ通り              化五六句記 化6
    有明や念仏好の雁も行              七番日記   化7
    いかに人雁も別は告るぞよ          七番日記   化7
    いざゝらば 〜 と雁のきげん哉      七番日記   化7    (出)『浅黄空』『自筆本』遺稿
    帰雁我をかひなき物とやは          七番日記   化7
    雁行な今錠明る藪の家              七番日記   化7    「明」→「開」
    念仏をさづけてやらん帰雁          七番日記   化7
    はんの木のはら 〜 雁の別哉        七番日記   化7
    卅日なき里があるやら帰雁          七番日記   化7    (異)『我春集』中七「所があるやら」
    京をばかれも嫌ひか帰雁            七番日記   化7
    夕暮や雁の上にも一人旅            七番日記   化7
        閏二月廿九日といふ日、雨漸をこたりなれば、朝とく[頭]陀袋首にかけて、足ついで角田堤にか
        ゝる。すでに東はほの 〜 しらみたれど、小藪小家はいまだ闇かりき。しかるに近 〜 ならせ給
        ふにや、川の方幽に天地丸赤 〜 とたゞよひ、田中は新に道を作り、溝川こと 〜 く板をわたし
        て、おの 〜 御遊をまつと見えたり。まことに心なき草木も風に伏して、目出度御代をあふぐと
        も覚へ侍る。                       「をこたりなれ」→「おこたりぬれ」「覚へ」→「覚え」
    五百崎や御舟をがんで帰る雁        七番日記   化8    (出)『文政版』(前書きに小異あり)
    三月や卅日になりて帰雁            七番日記   化8    (出)『発句集続篇』
    青柳も見ざめ[の]してや帰る雁      株番       化9  (異)『浅黄空』『自筆本』上五「青柳に」
    有明の雁になりたや行雁に          七番日記   化9    (出)『浅黄空』『自筆本』
    帰雁人はなか 〜 未練也            七番日記   化9
    雁行や迹は本間の角田川            七番日記   化9    (異)同日記(化9)上五「行雁や」
    さつぱりと雁はいなして姫小松      七番日記   化9
    行がけの駄ちんに鳴や天つ雁        七番日記   化9
                                     (異)『株番』下五「けさの雁」『版本題叢』下五「小田の雁」
    行雁や迹は野となれ山となれと      七番日記   化9    (異)同日記(化9)下五「花となれと」
    思ふさま寝てはこして帰雁          志多良     化10
    (出)『浅黄空』『希杖本』(異)『句稿消息』中七「鳴てはこして」真蹟 中七「寝てはこをして」
    帰雁あれも一人はなかりけり        七番日記   化10
    かしましや江戸見た雁の帰り様      七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』
                  『発句題叢』『浅黄空』『自筆本』『文政版』『希杖本』真蹟 前書き「中山道板橋」
    善光寺も直ぐ通りして帰雁          七番日記   化10
                   (出)『志多良』『句稿消息』『浅黄空』『自筆本』『発句鈔追加』『希杖本』真蹟
    それがしも連にせよやれ帰雁        七番日記   化10    (出)『句稿消息』
    人丸の筆の先より帰雁              志多良     化10
                                         (出)『希杖本』(類)『七番日記』(化12)下五「時鳥」
    又かとて鹿の見るらん帰雁          志多良     化10    (出)『句稿消息』『希杖本』
    行な雁どつこも茨のうき世ぞや      句稿消息   化10
    辛崎の松はどう見た帰雁            七番日記   化11    (出)『希杖本』
    金りんざい来ぬふりをして雁立ぬ    七番日記   化11
    武蔵北なし 〜 とや帰雁            七番日記   化11
                                           (異)『八番日記』(政2)「雁行や武蔵北なし 〜 と」
    行雁や夜も見らるゝしなの山        七番日記   化11
    我顔にむつとしたやら帰雁          七番日記   化11    (出)『希杖本』
    朝もやの紛に雁の立にけり          七番日記   化12
    小田の雁長居はおそれ 〜 とや      七番日記   化12
    かしましき雁はいに風立にけり      七番日記   化12
    立際に花を降らして帰雁            七番日記   化12
    釣人のぼんの凹より帰る雁          七番日記   化12    (出)『浅黄空』『自筆本』
    どこへなと我をつれ[て]よ帰雁      七番日記   化12
    泣な 〜 なそれ程まめで帰る雁      七番日記   化12    (出)同日記(化12)『浅黄空』
 『自筆本』『発句鈔追加』『希杖本』『栗本雑記五』書簡(異)『詩宇耳隣通』中七「それほど無事で」
    念仏がうるさいとてや雁帰る        七番日記   化12
    はや立は親のありてや帰雁          七番日記   化12    (出)『発句集続篇』
    帰らねばならぬうき世か一つ雁      七番日記   化13
    帰雁浅間のけぶりいく度見る        七番日記   化13
    帰雁花のお江戸をいく度見た        七番日記   化13
    雁ども[も]帰る家をば持たげな      七番日記   化13
                       (異)『希杖本』前書き「雲水にありし時」中七下五「帰る家をぞ持たぬやら」
    雁よ雁いくつのとしから旅をした    七番日記   化13
    立際になるやさつさと帰雁          七番日記   化13
    連もたぬ雁もとぼ 〜 帰りけり      七番日記   化13
         (出)『発句鈔追加』(異)『句稿消息』上五「連のない」上五中七「連のない雁もさつさと」
                         『浅黄空』中七「雁くつくと」『自筆本』上五中七「連のない雁ややつさと」
                          『随斎筆紀』中七「雁がさつさと」真蹟 上五中七「連のない雁がとぼ 〜 」
    どこでどう正月をした帰雁          七番日記   化13
              (出)『浅黄空』『自筆本』『発句鈔追加』(異)『句稿消息』真蹟 中七「正月をして」
    名所[を]けつちらかして帰る雁      七番日記   化13
                                               (異)『希杖本』上五中七「名所の田を蹴ちらして」
    一組は千住留りか帰雁              七番日記   化13
    一つ雁よ帰らでもすむ事ならば      七番日記   化13
    一つ雁よ行でかなはぬ事なるか      七番日記   化13
                                           (異)同日記(化13)「一つ雁よく 〜 行でかなはぬか」
    まてしばし御供申さん帰雁          七番日記   化13
    夫婦雁話して行ぞあれ行ぞ          七番日記   化13
    木母寺の念仏さづかりて帰雁        七番日記   化13    (出)『浅黄空』『自筆本』『希杖本』
    我家を置ざりにして帰雁            七番日記   化13
    我門やおぞげふるつて帰雁          七番日記   化13
                                                 (出)『浅黄空』(異)『自筆本』上五「我門に」
    わやくやは若い同士よ帰雁          七番日記   化13    (異)『句稿消息』中七「若い同士か」
             『浅黄空』『自筆本』中七「若い同士や」『あつくさ』上五中七「わや 〜 と若い同士の」
    けふ迄はようし[ん]ぼした門の雁    七番日記   化14
                           (異)『浅黄空』「けふ迄のしんぼ強さよ帰る雁」『発句鈔追加』中七下五
                    「よく辛抱した雁よ雁よ」真蹟 前書き「庵前」中七下五「よくしんぼして帰る雁」
    恥かゝぬうちについ 〜 帰雁        七番日記   化14
    夜伽してくれたる雁も帰りけり      七番日記   化14
        外ケ浜
    雁鳴や今日本を放るゝと            七番日記           「放」→「離」
              (出)『自筆本』『発句鈔追加』遺稿 真蹟(異)『浅黄空』上五中七「鳴雁や大日本を」
    大雨やずつぷり濡て帰雁            七番日記   政1
        高梨むら
    帰り度雁は思ふやおもはずや        七番日記   政1    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
                   前書き「墨坂新十郎といふものゝ工みなる雁鴨の牢屋にて」、『浅黄空』『自筆本』
    帰雁細い烟を忘るゝな              七番日記   政1
    雁にさへ袖引雨は降にけり          七番日記   政1    (出)『発句集続篇』
    雁行な小菜もほち<ち>や 〜 ほけ立に七番日記   政1
    こんな日も旅立よしか帰雁          七番日記   政1
    しよぼ濡の雁が帰るぞ九十川        七番日記   政1
    尻くらへくわん音山や帰雁          七番日記   政1
    松の木を置去[に]して帰雁          七番日記   政1
    行雁やおえどはむさしうるさしと    七番日記   政1
    我村はいく日に通る帰る雁          七番日記   政1    (出)『浅黄空』前書き「下総にありて」
    雁行やためつすがめつ角田川        八番日記   政2   (異)『発句鈔追加』真蹟 上五「行雁や」
    小社を三遍舞て帰る雁              八番日記   政2    (異)同日記(政3)上五「辛崎を」
    寝た迹の尻も結ばず帰雁            八番日記   政2    (出)『嘉永版』
    早立は千住泊りか帰る雁            八番日記   政2
    足元の明るい内やかへる雁          八番日記   政3
                               (出)『浅黄空』『自筆本』(異)同日記(政3)中七「明るい月や」
    江戸方も先上首尾か帰る雁          八番日記   政3
    親と子の三人連や帰る雁            八番日記   政3
    追るゝを入にかへるや門の雁        八番日記   政3  (異)『梅塵八番』中七「入りにかゝるや」
    門の雁追れ序に帰りけり            八番日記   政3
    雁行や人のやれこれいふうちに      八番日記   政3
    すつぽんも羽ほしげ也帰雁          八番日記   政3
    闇の夜も道ある国や帰る雁          八番日記   政3
    我跡につき損じてや帰る雁          梅塵八番   政3    「跡」→「後」
                                                         (異)『八番日記』下五「帰る蝶」
    あきらめて別を鳴な門の雁          八番日記   政4
    なくな雁いつも別は同じ事          八番日記   政4    (出)『自筆本』
    大組の迹やだまつて帰る雁          文政句帖   政5
    大組は雁も幡して帰る也            文政句帖   政5
    此国のものに成る気か行ぬ雁        文政句帖   政5
    折角に居馴んでからかへる雁        文政句帖   政5
    なく[な]雁とても一度は別れねば    文政句帖   政5
    何事ぞ此大雨に帰る雁              文政句帖   政5
    ひとり身やだまりこくつて雁かへる  文政句帖   政5
    満月の図を抜しとや帰る雁          文政句帖   政5
    行かずともよくば帰るな小田の雁    文政句帖   政5
    雪の降る拍子に雁の帰りけり        文政句帖   政5
    行雁の下るや恋の軽井沢            文政句帖   政5    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    行雁や子とおぼしきを先に立        文政句帖   政5
    夜伽した雁もけふこそ帰るなれ      文政句帖   政5
    夜伽して鳴たる雁よなぜ帰る        文政句帖   政5
    江戸の[水]呑みおふせてやかへる雁  文政句帖   政6    「ふ」→「ほ」
                                                       (異)同句帖(政5)中七「呑んだ声して」
    朝雨や雁も首尾よく帰る声          文政句帖   政7    (出)『発句集続篇』
    立際の上きげん也小田の雁          文政句帖   政7
    痩雁や友の帰るを見てはなく        文政句帖   政7
    みちのくの田植見てから帰る雁      希杖本
    行たいか雁伸上り 〜               浅黄空

 

鳥雲に入る

    雲に鳥人間海にあそぶ日ぞ          寛政句帖   寛5

 

引き鶴

    涼しさは閏三月の鶴の声            西紀書込   寛中

 

田鼠化して鶉と成る

    田鼠鶉人は白髪と化しけり          八番日記   政3
    とぶ鶉鼠の昔忘るゝな              八番日記   政3
    念仏せよ田鼠鶉に成たくば          八番日記   政3
    田鼠よ鶉にならば花の雲            八番日記   政3

 

地虫出づ

    地虫出よ出よゆり花さゆり花        化五六句記 化6

 

蛇穴を出づ

    あなう世としらでや蛇の出て歩く    文政句帖   政7
    穴を出ておがまるゝ也神の蛇        文政句帖   政7    「お」→「を」
    穴を出る蛇の頭や猫がはる          文政句帖   政7
    大蛇やおそれながらと穴を出る      文政句帖   政7
    苦のさばや蛇なのりて穴を出る      文政句帖   政7
    けつこうな御世とや蛇も穴を出る    文政句帖   政7
    人鬼や蛇より先に穴を出る          文政句帖   政7

 

蟇穴を出づ

    今穴を出た顔もせず引がへる        文政句帖   政7    「引」→「蟇」

 

蛙(初蛙、夕蛙)

    青梅に手をかけて寝る蛙哉          寛政三紀行 寛3
    岩が根に蛙の眠る真昼哉            寛政句帖   寛5
        道連に豊前の僧の二人あれば、未明に出立して途中吟
    蛙鳴き鶏なき東しらみけり          西国紀行   寛7
    よひ闇の一本榎なくかはづ          享和句帖   享2
    畔ひとへ西の蛙のきこえけり        水の音     享3
        著
    かりそめの娶入月よや啼蛙          享和句帖   享3
        天風〓
    つるべにも一夜過ぎけりなく蛙      享和句帖   享3    〓は女偏に「后」
    鳴ながら蛙とぶ也草の雨            享和句帖   享3(異)『文化句帖』(化1)上五「気軽げに」
    油火のうつくしき夜やなく蛙        文化句帖   化1
    蛙なくや始て寝たる人の家          文化句帖   化1
    鍋ずみを目口に入てなく蛙          文化句帖   化1
    初蛙梢の雫又おちよ                文化句帖   化1
    あさぢふや目出度雨になく蛙        文化句帖   化2    (異)同句帖(化4)中七「臼の中より」
    芦の鶴又おりよかし夕蛙            文化句帖   化2
    入相は蛙の目にも涙哉              文化句帖   化2
    片ひざは月夜也けり夕蛙            文化句帖   化2
    蛙とぶ程はふる也草の雨            文化句帖   化2
    草蔭にぶつくさぬかす蛙哉          文化句帖   化2
    草かげや何をぶつくさゆふ蛙        文化句帖   化2
    なく蛙此夜葎も伸ぬべし            文化句帖   化2
    菜の花にかこち顔なる蛙かな        文化句帖   化2
    葉がくれに鳴ぬつもりの蛙哉        文化句帖   化2
    膝ぶしへ鳴つきそうな蛙哉          文化句帖   化2    「そ」→「さ」
    古草のさら 〜 雨やなく蛙          文化句帖   化2    (異)遺稿 中七「はら 〜 雨や」
    痩藪も己が夜也なく蛙              文化句帖   化2
    蛙なくやとりしまりなき草の雨      文化句帖   化3
    影ぼふし我にとなりし蛙哉          文化句帖   化4
    なく蛙夜はあつけなく成にけり      文化句帖   化4
    能因が雨もはら 〜 蛙哉            文化句帖   化4
    葉隠に年寄声の蛙哉                文化句帖   化4
    葉隠の椿見つめてなく蛙            文化句帖   化4
    昼比はくつともいはぬ蛙哉          文化句帖   化4
    むさい家の夜を見にござれなく蛙    文化句帖   化4
    夕蛙葎の雨に老をなく              文化句帖   化4
    我門のしはがれ蛙鳴にけり          文化句帖   化4
    梅の木を鳴古したる蛙哉            化五六句記 化5
    浦人のお飯の上もかはづ哉          文化句帖   化5
    ちる花を口明て待かはづ哉          文化句帖   化5
    昼顔にうしろの見ゆるかへる哉      化五六句記 化5
    山の鐘蛙もとしのよりぬべし        文化句帖   化5
    我を見てにがひ顔する蛙哉          文化句帖   化5    「ひ」→「い」
    正月を 〜 とやなく蛙              七番日記   化7
    花びらに舌打したる蛙哉            七番日記   化7
                           (出)『浅黄空』『発句鈔追加』書簡(異)『自筆本』中七「舌打をする」
    藪並や仕様事なしに鳴蛙            七番日記   化7
    夕陰や連にはぐれてなく蛙          七番日記   化7
    浅ぢふや歩きながらになく蛙        七番日記   化8
                   (出)『我春集』(異)『文化三―八年句日記写』『発句集続篇』上五「むら雨や」
    象潟や桜を浴てなく蛙              七番日記   化8    (出)『我春集』(異)『版本題叢』
             『文政版』『希杖本』『あをたづら』中七「桜をたべて」『発句題叢』中七「桜もたべて」
    我庵や蛙初手から老を鳴く          七番日記   化8
             (出)『我春集』『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』(異)『希杖本』上五「我門や」
    かゝる世に何をほたへてなく蛙      七番日記   化9
                                               (出)『株番』『浅黄空』『自筆本』『発句集続篇』
    からさきの松真黒に蛙かな          七番日記   化9
    草陰に蛙の妻もこもりけり          七番日記   化9
    さく花のうちに仕まへよ鳴蛙        七番日記   化9    (異)『株番』上五「花の咲く」
    小便の滝を見せうぞ鳴蛙            七番日記   化9    (類)同日記(化12)下五「来よ蛍」
    づう 〜 し畳の上の蛙哉            七番日記   化9
    掌に居りさうなり蛙哉              七番日記   化9
    どち向も万吉とやなく蛙            七番日記   化9    (出)『株番』『発句鈔追加』
    逃足や尿たれながら鳴蛙            七番日記   化9
    橋わたる盲の迹の蛙哉              七番日記   化9
    花[の]根へ推参したる蛙哉          七番日記   化9
    蕗の葉に片足かけて鳴蛙            七番日記   化9
    ふんどしのやうなもの引蛙哉        七番日記   化9
    山吹の御味方申蛙かな              七番日記   化9
    夕空をにらみつけたる蛙哉          七番日記   化9
    夕不二に尻を並べてなく蛙          七番日記   化9
    浅草の不二を踏へてなく蛙          七番日記   化10    (出)『志多良』『句稿消息』『希杖本』
    狗に爰迄来いと蛙哉                七番日記   化10
                                                 (異)『志多良』『希杖本』中七「爰迄ござれと」
    おぢ甥よいとこはどこやなく蛙      七番日記   化10    「お」→「を」
    川かげや大続松をなく蛙            七番日記   化10
    草の葉にかくれんぼする蛙哉        七番日記   化10
                                             (出)同日記(化12)『浅黄空』『自筆本』『希杖本』
    柴舟に鳴 〜 下る蛙かな            七番日記   化10
    ちる花に腮を並べる蛙哉            七番日記   化10
    なの花に隠居してなく蛙哉          七番日記   化10    (異)『句稿消息』上五「なの花へ」
    のさ 〜 と恋をするがの蛙哉        七番日記   化10
    疱瘡のさんだらぼしへ蛙哉          七番日記   化10
                                         (異)同日記(化15)上五中七「いも神のさんだらぼしに」
    むき 〜 に蛙のいとこはとこ哉      七番日記   化10
                                       (出)『文政版』(異)『浅黄空』『自筆本』上五「車座に」
    むだ口は一つも明ぬ蛙哉            七番日記   化10    (出)『発句集続篇』
    木母寺の花を敷寝の蛙哉            七番日記   化10
                                 (出)『志多良』『句稿消息』『浅黄空』『自筆本』『希杖本』遺稿
    ゆうぜんとして山を見る蛙哉        七番日記   化10    「ゆ」→「い」
       (出)『おらが春』『句稿消息』『浅黄空』『自筆本』『希杖本』『文政版』『発句鈔追加』遺稿
    世[の]中は是程よいを啼蛙          七番日記   化10
    我杖としるやじろ 〜 なく蛙        七番日記   化10
    うす縁[に]ばりして逃る蛙哉        七番日記   化11
                                     (出)『句稿消息』(異)『浅黄空』『自筆本』上五「花蓙に」
    草陰につんとしている蛙かな        七番日記   化11    「い」→「ゐ」
                                                         (出)『句稿消息』『浅黄空』『自筆本』
    ちる花にのさばり廻る蛙哉          七番日記   化11    (出)『希杖本』
    菜畠に妻やこもりて鳴蛙            七番日記   化11    (出)『発句鈔追加』
    一つ星見つけたやうになく蛙        句稿消息   化11(類)『七番日記』(化11)下五「きじの鳴」
    我一人醒たり顔の蛙哉              七番日記   化11    (出)『発句鈔追加』
    御地蔵の手に居へ給ふ蛙かな        七番日記   化12    「居へ」→「据ゑ」
    亀どのに負さつて鳴蛙哉            七番日記   化12    (出)『浅黄空』『自筆本』
    炬をはやし立てや鳴蛙              七番日記   化12    (異)『浅黄空』上五「山焼を」
    ちる梅をざぶりと浴てなく蛙        七番日記   化12
    天下泰平と居並ぶ蛙かな            七番日記   化12
    人を吐やうに居て鳴く蛙            七番日記   化12
                                   (出)『浅黄空』(異)『自筆本』中七下五「所存か口を明く蛙」
    目出度の烟聳へてなく蛙            七番日記   化12    「へ」→「え」
                                                         (出)『浅黄空』『自筆本』『文政版』
    山吹[に]引くるまりてなく蛙        七番日記   化12
    亀どのに上座ゆづりて鳴蛙          七番日記   化13
    来かゝりて一分別の蛙かな          七番日記   化13
    車座に居直りて鳴く蛙哉            七番日記   化13    (異)『発句集続篇』中七「居直つて鳴」
    小仏の御首からも蛙かな            七番日記   化13
    ことしや世がよいぞ小蛙大蛙        七番日記   化13    (出)『句稿消息』
    西行のやうに居て鳴蛙              七番日記   化13
    笹の家の小言の真似を鳴蛙          七番日記   化13
                                                   (出)『浅黄空』(異)『自筆本』下五「夕蛙」
    叱てもしやあ 〜 として蛙哉        七番日記   化13
                               (出)『八番日記』(政2)『自筆本』(異)『浅黄空』下五「居蛙」
    上人の口真似してやなく蛙          七番日記   化13
    小便を致しながらもなく蛙          七番日記   化13
     (異)『浅黄空』『自筆本』中七「いたしながらや」『希杖本』中七下五「しながらもなく蛙かな」
    順 〜 に座につきてなく蛙哉        七番日記   化13
    住吉の神の御前の蛙哉              七番日記   化13
    同音に口を明たる蛙かな            七番日記   化13
    長の日を脇目もふらでなく蛙        七番日記   化13    (異)『浅黄空』『自筆本』
                 「長の日に脇目もふらぬ蛙かな」『発句鈔追加』「永の日に口明きくらすかはづかな」
    なむ 〜 と口を明たる蛙かな        七番日記   化13
    逃しなに何をぶつくさ夕蛙          七番日記   化13    (出)『浅黄空』『自筆本』
    女房を追なくしてや鳴蛙            七番日記   化13    (出)『浅黄空』『自筆本』
    能因の雨をはやして鳴蛙            七番日記   化13
    のゝ様に尻つんむけて鳴蛙          七番日記   化13    (出)『希杖本』
    花蓙や先へ居りている蛙            七番日記   化13    「い」→「ゐ」
        蛙たゝかひ見にまかる四月廿日也けり
    痩蛙まけるな一茶是に有            七番日記   化13  (出)『浅黄空』前書き「たゝかひを見て」
       『希杖本』前書き「むさしの国竹の塚といふに蛙たゝかひありけるに見にまかる四月廿日也けり」
        真蹟 前書き「蛙たゝかひを見にまかる四月廿日也けり」「蛙たゝかひ」『句稿消息』『自筆本』
    山吹や先御先へととぶ蛙            七番日記   化13    (異)『自筆本』『文政版』真蹟 上五
                             「玉川や」『浅黄空』前書き「深川芭蕉庵の跡拝見して」上五「古池や」
    夕やけにやけ起してや鳴蛙          七番日記   化13
                 (異)『浅黄空』上五中七「夕やけややけを起して」『自筆本』中七「やけや起して」
    我庵に用ありさうな蛙哉            七番日記   化13    (異)『自筆本』『希杖本』中七下五
                       「用ありさうに来る蛙」『句稿消息』『浅黄空』「我庵や用ありさうに来る蛙」
    我門へしらなんで這入る蛙哉        七番日記   化13
    足下の月を見よ 〜 鳴蛙            七番日記   政1
    有明や火を打まねを鳴蛙            七番日記   政1
    庵崎や亀の子笊になく蛙            七番日記   政1    (出)『八番日記』(政2)
    江戸蛙一寸も迹へ引ぬかや          七番日記   政1
    大蛙から順 〜 に座どりけり        七番日記   政1
                                             (異)同日記(政1)「座どりけり大蛙から順 〜 に」
    江州に片手をかけて蛙哉            七番日記   政1
    散花を奪とりがちになく蛙          七番日記   政1
    爪先は夜に入にけり鳴蛙            七番日記   政1
    名乗かや是から田子の蛙とて        七番日記   政1
                                             (異)同日記(政1)中七下五「是より田子の蛙ぞと」
        寅ノエド大火
    火の粉追ふ声のはづれや鳴蛙        七番日記   政1
    蕗の葉を引かぶりつゝ鳴蛙          七番日記   政1    (出)『浅黄空』『自筆本』
    降る火の粉のり越はね越鳴蛙        七番日記   政1
    弁天の御前に並ぶ蛙哉              七番日記   政1
                                               (異)同日記(政1)中七下五「前に並んでなく蛙」
    三ヶ月を白眼つめたる蛙哉          七番日記   政1(類)『八番日記』(政3)下五「とんぼ哉」
    夕不二[に]手をかけて鳴蛙哉        七番日記   政1    (異)『文政九・十年句帖写』(政9)
                                 『発句鈔追加』『発句集続篇』前書き「諏方湖」中七「片足かけて」
        独座
    おれとして白眼くらする蛙かな      梅塵八番   政2    (出)『おらが春』『浅黄空』『自筆本』
                            『文政版』書簡 真蹟(異)『八番日記』(政2)中七「かゞみくらする」
    親分と見へて上座に鳴蛙            八番日記   政2    「へ」→「え」(出)『嘉永版』
    蛙鳴や狐の嫁が出た 〜 と          八番日記   政2
    小高みに音頭とりの蛙かな          八番日記   政2
    鶺鴒の尻ではやすや鳴蛙            八番日記   政2
                                                   (類)『七番日記』(政1)下五「せ[つ]き候」
    其声で一つおどれよなく蛙          八番日記   政2    「お」→「を」
                             (出)『嘉永版』(異)『梅塵八番』上五中七「其声一つ一つおどれよ」
    塔の影莚かすりてなく蛙            八番日記   政2
    初蛙来りやしかも夫婦連            八番日記   政2    (異)『梅塵八番』上五「初蝶の」
    木母寺の鐘に孝行かはづ哉          八番日記   政2
    産みさうな腹をかゝいて鳴蛙        八番日記   政3    「い」→「へ」(出)『嘉永版』
    江戸川にかわづもきくやさし出口    八番日記   政3    「わ」→「は」
     (異)同日記(政3)中七下五「さし出て鳴蛙かな」同日記(政4)中七下五「さし出口きく蛙哉」
                                             『浅黄空』『自筆本』「江戸川へさし出口きく蛙かな」
    榎迄春めかせけりなく蛙            八番日記   政3
                             (出)『発句鈔追加』『希杖本』(異)『嘉永版』中七「春めかせたり」
    蛙らや火縄ふる手の上を飛          八番日記   政3    (出)同日記(政4)
    小蛙もなく也口を持たとて          八番日記   政3
    元の座について月見る蛙哉          八番日記   政3
                     (出)『浅黄空』『自筆本』(出)同日記(政3)中七下五「直りてなくや親蛙」
    山吹に差出口きく蛙哉              八番日記   政3
                       (異)同日記(政4)上五「江戸川に」『浅黄空』『自筆本』上五「江戸川へ」
    夕暮に蛙は何を思案橋              八番日記   政3    (異)『梅塵八番』上五「夕暮や」
    赤蛙皮むかれても飛まはる          八番日記   政4    (異)『梅塵八番』下五「飛歩行」
    梅の花笠にかぶつて鳴蛙            八番日記   政4    (出)『自筆本』
    つめびらきする顔付の蛙哉          八番日記   政4    (出)『浅黄空』『自筆本』
    一理屈いふ気で居る蛙哉            八番日記   政4
                                 (出)『浅黄空』『発句鈔追加』(異)『自筆本』上五「一理屈も」
    雨降と鎗が降とも鳴かわづ          文政句帖   政5    「わ」→「は」
    入相の尻馬にのる蛙哉              文政句帖   政5
    かり橋にそりの合ふてや鳴蛙        文政句帖   政5    「ふ」→「う」
    御座の面<ん> 〜 のうしろに蛙哉    文政句帖   政5
    田堺やひの図をよつて鳴蛙          文政句帖   政5
        古戦場真ゝの井                                   「ゝ」→「間」
    散花をはつたとにらむ蛙哉          文政句帖   政5    (出)『浅黄空』『自筆本』『花百句』
    とは申ながらとや又とぶ蛙          文政句帖   政5
    鳴出して五分でも引かぬ蛙哉        文政句帖   政5    (出)『浅黄空』『自筆本』
    なむ 〜 と蛙も石に並びけり        文政句帖   政5
    なむ 〜 と田にも並んでなく蛙      文政句帖   政5
    向合て何やら弁をふる蛙            文政句帖   政5
                       (出)『浅黄空』前書き「田堺を争ひて久しく出て居し村を通りて」『自筆本』
    芦の家の仏に何か夕蛙              文政句帖   政7
    五百崎や庇の上になく蛙            文政句帖   政7    (出)『浅黄空』『自筆本』
    いぼ釣てあちら向たる蛙哉          文政句帖   政7
   (出)『浅黄空』前書き「信濃言」『自筆本』(異)『方言雑集』「大蛙いぼを釣るやらあちらむく」
    大形をしてとび下手の蛙哉          文政句帖   政7
    親蛙ついと横座に通りけり          文政句帖   政7
    仙人の膝と思ふか来る蛙            文政句帖   政7
    そこらでも江戸が見ゆるか鳴蛙      文政句帖   政7    (出)同句帖(政8)
    散花に首を下る蛙哉                文政句帖   政7
    掌に蛙を居るらかん哉              文政句帖   政7
    天文を考へ顔の蛙哉                文政句帖   政7
                                 (出)『浅黄空』『自筆本』(異)同句帖(政8)中七「心得顔の」
    鳥井からえどを詠る蛙哉            文政句帖   政7    「井」→「居」
                                                         (出)『発句集続篇』前書き「三廻」
    野仏の手に居へ給ふ蛙哉            文政句帖   政7  「へ」→「ゑ」(出)『浅黄空』『自筆本』
    昼過や地蔵の膝になく蛙            文政句帖   政7
    蕗の葉にとんで引くりかへる哉      文政句帖   政7    (出)『浅黄空』
    名 〜 に鳴場を座とる蛙哉          文政句帖   政7    「名」→「銘」
    吉原やさはぎに過て鳴かはづ        文政句帖   政7    「さはぎ」→「さわぎ」
    じつとして馬に鼾るゝ蛙哉          文政句帖   政8    「鼾」→「嗅」
                       (出)『浅黄空』『自筆本』『発句鈔追加』『梅塵抄録本』『発句集続篇』遺稿
    ちさ蛙こしやくな口をたゝく也      文政句帖   政8    (出)『発句鈔追加』
    どつさりと居り込だる蛙哉          文政句帖   政8
        三巡り
    傍杭に江戸を詠る蛙哉              文政句帖   政8    「傍」→「棒」
                                                         (異)『自筆本』上五「きつとして」
    豊年の図にのつてなく蛙哉          文政句帖   政8
    山吹へ片手で下る蛙哉              文政句帖   政8
     (異)同句帖(政9)『文政九・十年句帖写』上五「山吹に」『発句鈔追加』中七「片手でぶらり」
    芦の葉に達磨もどきの蛙哉          文政句帖   政9
    じくなんで茨をくゞる蛙哉          文政句帖   政9
    今の間に一喧嘩して啼かはづ        希杖本
    薄縁やどさり居て鳴く蛙            浅黄空             (出)『自筆本』
    大榎小楯に取て啼かはづ            希杖本
    御地蔵の膝にすはつてなく蛙        発句鈔追加         「は」→「わ」
    御社へじくなんで入るかはづ哉      浅黄空             (出)『自筆本』
    けふ明し窓の月よやなく蛙          遺稿
    供部屋にさはぎ勝なり蛙酒          発句鈔追加         「は」→「わ」
    鳴蛙花の世の中よかるべし          遺稿
    寝た牛の頭にすはるかはずかな      発句鈔追加         「すはる」→「すわる」「ず」→「づ」
    星の歌よむつらつきの蛙哉          書簡               (出)『自筆本』

 

蝶(胡蝶、初蝶、春の蝶、黄蝶、白蝶、浅黄蝶)

    舞蝶にしばしは旅も忘けり          五十三駅   天8
    窓明て蝶を見送る野原哉            寛政句帖   寛6
    蝶と共に吾も七野を巡る哉          西国紀行   寛7
        天王寺に詣
    蝶一つ舞台せましと狂ふ哉          西国紀行   寛7
        道後温泉のあたりにて
    寝ころんで蝶泊らせる外湯哉        西国紀行   寛7
    草のてふ昼過比とみゆる也          斗入句帖   寛中
           (異)遺稿 前書き「吾妻離已十歳」中七「八過比と」「七つ下りと」書簡 中七「昼寝比と」
    草の蝶大雨だれのかゝる也          享和二句記 享2
    辻風の砂にまぶれし小てふ哉        享和二句記 享2
    むら雨やきのふ時分の草のてふ      享和二句記 享2
    八つ過の家陰行人はるの蝶          享和二句記 享2
    あたふたに蝶の出る日や金の番      文化句帖   化1
    今上げし小溝の泥やとぶ小蝶        文化句帖   化1
    うそ 〜 と雨降中を春のてふ        文化句帖   化1
    片扉おのれとあきぬ春の蝶          文化句帖   化1
    門川の飯櫃淋しや草の蝶            文化句帖   化1
    川縁や蝶を寝さする鍋の尻          文化句帖   化1
        橘侯の別業なる太郎稲荷
    蝶とぶや春日のさゝぬ石に迄        文化句帖   化1
    ちり紙に漉込るゝな風のてふ        文化句帖   化1
    手のとゞく山の入日や春の蝶        文化句帖   化1
    通り抜ゆるす寺也春のてふ          文化句帖   化1
    とぶ蝶や溜り水さへ春のもの        文化句帖   化1
    初蝶のいきおひ猛に見ゆる哉        文化句帖   化1
    春のてふ山田へ水の行とゞく        文化句帖   化1
    吹やられ 〜 たる小てふ哉          文化句帖   化1
    懐へ入らんとしたる小てふ哉        文化句帖   化1
    又窓へ吹もどさるゝ小てふ哉        文化句帖   化1
    湖の駕から見へて春のてふ          文化句帖   化1    「へ」→「え」
    目の砂をこする握に小てふ哉        文化句帖   化1
    行人のうしろ見よとや風のてふ      文化句帖   化1
    葭簀あむ槌にもなれし小てふ哉      文化句帖   化1
    糸屑にきのふの露や春のてふ        文化句帖   化2
    簀のへりにひたとひつ[ゝ]く小てふ哉文化句帖   化2
    すりこ木の舟にひつゝく小てふ哉    文化句帖   化2
    蝶とぶや二軒もやひの痩畠          文化句帖   化2
    蝶とぶや夕飯過の寺参り            文化句帖   化2
    とぶ蝶に追抜れけり紙草履          文化句帖   化2
    鳥もなき蝶も飛けり古畳            文化句帖   化2
    二三本茄子植ても小てふ哉          文化句帖   化2
    のり柴に安堵して居る小てふ哉      文化句帖   化2
    文七とたがひ違ひに小てふ哉        文化句帖   化2
    町口ははや夜に入小てふ哉          文化句帖   化2
    豆程の人顕れし小てふ哉            文化句帖   化2
    身一つをいきせいはつてとぶ小蝶    文化句帖   化2
    我庵は蝶の寝所とゆふべ哉          文化句帖   化2
    あだしのに蝶は罪なく見ゆる也      文化句帖   化3
    跡のてふ松原西へ這入なり          文化句帖   化3
    市姫の神ゑみ給へ草のてふ          文化句帖   化3
    うつゝなの人の迷ひや野べの蝶      文化句帖   化3
    かつしかや雪隠の中も春のてふ      文化句帖   化3
    門 〜 を一 〜 巡る小てふ哉        文化句帖   化3
    杭の鷺蝶はいきせきさはぐ也        文化句帖   化3    「さはぐ」→「さわぐ」
    草の蝶牛にも詠られにけり          文化句帖   化3
    すい 〜 と蝶も嫌ひし都哉          文化句帖   化3
    蝶とぶや狐の穴も明るくて          文化句帖   化3
    蝶ひら 〜 仏のひざをもどる也      文化句帖   化3
    太山辺や蝶とぶ方の人留り          文化句帖   化3
    みよしのは蝶のためにも都哉        文化句帖   化3
    蝶おり 〜 馬のぬれ足ねぶる也      文化句帖   化4    「お」→「を」
    蝶とぶや小草見ても一人口          文化句帖   化4
    蝶飛で鼠の栖荒にけり              文化句帖   化4
    とぶ蝶に騒し比のともし哉          文化句帖   化4
    はつ蝶にまくしかけたる霰哉        文化句帖   化4
    あか棚に蝶も聞かよ一大事          文化句帖   化5
                                           (出)遺稿(異)『花見の記』『文政版』上五「花桶に」
    仇し野や露に先立草の蝶            文化句帖   化5
    門の蝶朝から何がせはしない        文化句帖   化5
    紙漉にうるさがらるゝ小てふ哉      文化句帖   化5
    酒好の蝶ならば来よ角田川          文化句帖   化5
    〓かけよ臼の目切よ門のてふ        文化句帖   化5    〓は草冠に「輪」、正しくは竹冠に「輪」
    蝶飛んで箸に折るゝ藪の梅          文化句帖   化5
    とぶ蝶の人をうるさく思ふらめ      文化句帖   化5
    初蝶の一夜寝にけり犬の椀          文化句帖   化5
    初蝶もやがて烏の扶食哉            文化句帖   化5
    春の蝶牛は若やぐ欲もなし          文化句帖   化5
    文七と同じ日暮や草の蝶            文化句帖   化5
    山鳥のほろ 〜 雨やとぶ小蝶        文化句帖   化5
    蝶とぶや此世に望みないやうに      化三―八写 化6    (出)『発句題叢』『文政版』『希杖本』
                     『いなのめ抄』『祇空九十回忌』『花鳥文庫』(異)『五とせ集』上五「飛蝶や」
    蝶とんでかはゆき竹の出たりけり    化五六句記 化6
    入相を合点したやら蝶のとぶ        七番日記   化7
                                             (異)同日記(化7)中七下五「合点してやとぶ小蝶」
    木曽山[や]蝶とぶ空も少[の]間      七番日記   化7
    暮ぬぞよ小てふ三井寺鑓かつぎ      七番日記   化7
    蝶とんで我身も塵のたぐひ哉        七番日記   化7    (出)『発句集続篇』
    つい 〜 と常正月ややもめ蝶        七番日記   化7
    とぶ蝶[の]邪魔にもならぬけぶり哉  七番日記   化7
    塗顔は乞食もす也てふす也          七番日記   化7
    はづかしや蝶は暮行春もなき        七番日記   化7    (出)『文化三―八年句日記写』
    はづかしや蝶はひら 〜 常ひがん    七番日記   化7
    はづかしや卅日が来ても草のてふ    七番日記   化7    (出)『文化三―八年句日記写』
    馬びしやくの御紋に暮る小蝶哉      七番日記   化7
    簑虫はそれで終かとぶ小蝶          七番日記   化7
    蝶とぶやしなのゝおくの草履道      七番日記   化8
    むつまじや生れかはらばのべの蝶    七番日記   化8
                                 (出)『我春集』『発句題叢』『嘉永版』『発句鈔追加』『希杖本』
    世[の]中や蝶のくらしもいそがしき  七番日記   化8
    庵の蝶とてとぶなり西方へ          七番日記   化9
    起よ 〜 雀はおどる蝶はまふ        七番日記   化9    「お」→「を」
                                                         (異)同日記(化9)上五「なまけるな」
    かせぐぞよてふの三夫婦五夫婦      七番日記   化9
    糞汲が蝶にまぶれて仕廻けり        七番日記   化9    (異)『株番』上五「一大名」
    小むしろや蝶と達磨と村雀          七番日記   化9
    猪ねらふ肱にすがる小てふ哉        七番日記   化9    (出)『株番』
    蝶が来てつれて行けり庭のてふ      七番日記   化9    (出)『発句集続篇』(異)『八番日記』
                 (政4)中七下五「連て行也門のてふ」『浅黄空』上五中七「蝶のきて連ていにけり」
    蝶と鹿のがれぬ中と見ゆる也        七番日記   化9    「中」→「仲」(出)『株番』
    蝶とぶ[や]伊予の湯桁の左り八      七番日記   化9
    蝶の身もうろ 〜 欲のうき世哉      七番日記   化9    (異)『株番』上五「蝶どもも」
    蝶まふや鹿の最期の矢の先に        七番日記   化9
    鉄鉋の三尺先の小てふかな          七番日記   化9    「鉋」→「砲」
                                                       (異)同日記(化9)中七「先ともしらぬ」
        廿日日ぐらし[の]里
    寺山や児[は]ころげる蝶はとぶ      七番日記   化9
    夜明から小てふの夫婦かせぎ哉      七番日記   化9
    うら住や五尺の空も春のてふ        七番日記   化10
    けさの雨蝶がねぶつて仕廻けり      七番日記   化10    (出)『浅黄空』『自筆本』
    するがぢは蝶も見るらん不二の夢    七番日記   化10
    茶の淡や蝶は毎日来てくれる        句稿消息   化10    (異)『希杖本』真蹟 上五「一人茶や」
    茶のけぶり蝶の面へ吹かける        七番日記   化10
    蝶来るや何のしやうもない庵へ      七番日記   化10    (出)『句稿消息』『浅黄空』『自筆本』
                                             (異)『志多良』『希杖本』中七「何のしや 〜 りも」
                                              (類)『文化句帖』(化4)上五下五「鶯や・・・門に」
    てふ小てふ小蝶の中の山家哉        七番日記   化10    (異)『句稿消息』上五「蝶にてふ」
    蝶[々]や猫と四眠の寺座敷          七番日記   化10
    手枕や蝶は毎日来てくれる          七番日記   化10    (出)『浅黄空』『自筆本』『希杖本』
                  真蹟 前書き「閑座」(異)『発句鈔追加』『多羅葉集』前書き「独座」上五「肱枕」
    寝るてふにかしておくぞよ膝がしら  七番日記   化10
    のら猫よ見よ 〜 蝶のおとなしき    七番日記   化10
    一あばれ 〜 て去し小てふ哉        七番日記   化10
    べつたりと蝶の善光寺平哉          七番日記   化10
    まふ蝶にふりも直さぬ茨哉          七番日記   化10
                                     (出)『句稿消息』『希杖本』(異)『志多良』下五「野猫哉」
    丸く寝た犬にべつたり小てふ哉      七番日記   化10
    天窓干すお婆ゝや蝶も一むしろ      七番日記   化11    (出)『希杖本』
    大雨の降て湧たる小てふ哉          七番日記   化11    (出)『浅黄空』『自筆本』『希杖本』
    かい曲りかくれんぼする小てふ哉    七番日記   化11
    さをしかの角をも遊ぶ小てふ哉      七番日記   化11
    蝶小てふあはれ疲れて帰るかや      七番日記   化11
    蝶とぶや上野ゝ山門明たとて        七番日記   化11    「ゝ」→「の」
    蝶とんでくわら 〜 川のきげん哉    七番日記   化11    (出)『希杖本』
    蝶べたり[あ]みだ如来の頬べたへ    七番日記   化11
    ちる花にがつかりしたる小てふ哉    七番日記   化11
    とぶ蝶に追[立]ら[れ]つゝ寺参り    七番日記   化11
        卅三間堂
    とぶ蝶も三万三千三百かな          七番日記   化11
    とぶ蝶は罪も報も菜畠哉            七番日記   化11
                                                   (異)『浅黄空』『自筆本』上五「まふてふは」
    泥足を蝶に任せて寝たりけり        七番日記   化11
                                   (出)『句稿消息』『浅黄空』前書き「旅昼はたご」、『自筆本』
    菜よ梅よ蝶がてん 〜 舞をまふ      七番日記   化11
    ばら 〜 と目をつく程の小てふ哉    七番日記   化11
    春のてふ大盃を又なめよ            七番日記   化11    (出)『希杖本』
    べつたりと蝶の咲たる枯木哉        七番日記   化11    (出)『発句集続篇』
    まふ蝶のこぼして<や>行や鳩の豆    七番日記   化11    (異)『浅黄空』前書き「浅草寺」
             『自筆本』上五中七「はつ蝶の舞こぼしけり」『希杖本』上五中七「蝶どもが舞崩しけり」
    麦に菜にてん 〜 舞の小てふ哉      七番日記   化11
           (出)同日記(化11)『浅黄空』『自筆本』(異)『句稿消息』『文政版』上五「田に畑に」
    やよかにも二世安楽か草のてふ      七番日記   化11
    犬と蝶他人むきでもなかりけり      七番日記   化12    (出)書簡(化12)
    寝るてふ鼠の米も通りがけ          七番日記   化12
    桟を歩んで渡る小てふ哉            七番日記   化12
    がむしやらの犬とも遊ぶ小てふ哉    七番日記   化12
    此方が善光寺とや蝶のとぶ          七番日記   化12
    鹿の角かりて休し小てふ哉          七番日記   化12
    笛役は名主どの也蝶のまひ          七番日記   化12
    舞賃に紙をとばすぞのべの蝶        七番日記   化12
    藪中も仏おはして蝶のまふ          七番日記   化12(異)『浅黄空』『自筆本』下五「蝶がまふ」
    石なごの一二三を蝶の舞にけり      七番日記   化13
    馬の耳一月なぶる小てふ哉          七番日記   化13    「月」→「日」
    門畠や烏叱れば行小蝶              七番日記   化13    (出)『浅黄空』『自筆本』
    門莚小蝶の邪魔をしたりけり        七番日記   化13
    鹿ねらふ手を押へたる小てふ哉      七番日記   化13
    銭の出た窓きらふてや行小蝶        七番日記   化13    「ふ」→「う」
    たのもしやしかも小てふの若夫婦    七番日記   化13    (出)『句稿消息』『発句鈔追加』
    蝶とぶや草葉の陰も湯がわくと      七番日記   化13
    蝶とぶや夫仏法の世[の]中と        七番日記   化13
    蝶とぶや茶売さ湯うり野酒売        七番日記   化13
    蝶とぶや横明りなる流し元          七番日記   化13    (出)『希杖本』真蹟
    蝶とまれも一度留れ盃に            七番日記   化13
                                               (異)同日記(化13)『句稿消息』下五「草もちに」
    毒水を咒ふやうな小てふ哉          七番日記   化13
    猫の子の命日をとぶ小てふ哉        七番日記   化13
    はつ蝶の夫婦連して来たりけり      七番日記   化13
    はつ蝶やしかも三夫婦五夫婦        七番日記   化13    (出)『浅黄空』『自筆本』
    ひざの児の頬べたなめる小てふ哉    七番日記   化13
    目黒へはこちへ 〜 と小てふ哉      七番日記   化13
    やよや蝶そこのけ 〜 湯がはねる    七番日記   化13
                                   (異)『浅黄空』『自筆本』前書き「田中裸湯」上五「蝶小てふ」
    湯入衆の頭かぞへる小てふ哉        七番日記   化13
    世にあれば蝶も朝からかせぐぞよ    七番日記   化13    (出)『句稿消息』
    よは足の先へも行ぬ小てふ哉        七番日記   化13    「は」→「わ」
    桶伏の猫を見舞やとぶ小蝶          七番日記   化14    (異)『発句集続篇』下五「庭の蝶」
    蝶の身も業の秤にかゝる哉          七番日記   化14    (異)『浅黄空』前書き「閻魔堂」下五
  「かかりけり」『自筆本』上五「蝶が身も」『文政句帖』(政6)上五下五「蝶が身も・・・かゝりけり」
    ぬかるみに尻もちつくなでかい蝶    七番日記   化14
    春の蝶平気で上座いたす也          七番日記   化14
    祝ひ日や白い僧達白い蝶            七番日記   政1
    うつくしき仏になるや蝶夫婦        七番日記   政1
                                                   (異)『浅黄空』『自筆本』中七「仏となるか」
    大猫の尻尾でじやらす小てふ哉      七番日記   政1
                           (異)『八番日記』(政2)『おらが春』『嘉永版』中七「尻尾でなぶる」
    かいだんの穴よりひらり小てふ哉    七番日記   政1
    神垣や白い花には白い蝶            七番日記   政1
    小莚や蝶と小銭とたゝき鉦          七番日記   政1
    それがしが供する蝶よ一里程        七番日記   政1    (出)『浅黄空』『自筆本』
    それ 〜 や蝶も白組黄色組          七番日記   政1(異)『八番日記』(政4)上五「陣どるや」
    てふ 〜 やなの葉に留る与次郎兵衛  七番日記   政1
    蝶とぶや大晴天の虎の門            七番日記   政1
        善光寺
    蝶行やしんらん松も知た顔          七番日記   政1    (異)書簡 上五「蝶とぶや」
    虎の門蝶もぼつ 〜 這入けり        七番日記   政1
    はづかしやくつとも云ぬ蝶夫婦      七番日記   政1
    初蝶もやつぱり白い出立哉          七番日記   政1
    一莚蝶もほされておりにけり        七番日記   政1    「お」→「を」
    ふり上る箒の下やぬる小蝶          七番日記   政1
    舞は蝶三弦流布の小村也            七番日記   政1
    まへや蝶三弦流布のあさぢ原        七番日記   政1
    てふ 〜 のふはりととんだ茶釜哉    八番日記   政2
                                               (出)『おらが春』『発句鈔追加』前書き「茂林寺」
    蝶とぶや煮染を配る蕗の葉に        八番日記   政2
    蝶ひら 〜 庵の隅 〜 見とゞける    八番日記   政2
    初蝶の来りやしかも夫婦連          梅塵八番   政2    (異)『八番日記』(政2)上五「初蛙」
    びんずるの御鼻をなでる小蝶哉      八番日記   政2    「ず」→「づ」
    葎からあんな小蝶が生れけり        八番日記   政2    (出)『おらが春』『浅黄空』『自筆本』
                               『文政版』真蹟(異)『八番日記』(政2)上五「芥から」「塵塚に」
    浅黄だけ少ぢみ也とぶ小蝶          八番日記   政3
    迹になり先になる蝶や一里程        八番日記   政3    「迹」→「後」
    大笊に伏せられはくる小てふかな    八番日記   政3    「は」→「に」
    黄[色]組しろぐみてふの出立哉      八番日記   政3    (出)同日記(政3)下五「地どりけり」
    気の毒やおれをしたふて来る小てふ  八番日記   政3    「したふて」→「したうて」
                                             (出)『嘉永版』(異)『梅塵八番』上五「何の気や」
    来る蝶に鼻を明するかきね哉        八番日記   政3    「す」→「せ」
    咲中に少じみ也浅黄てふ            八番日記   政3    「じ」→「ぢ」
                               (異)同日記(政4)上五「狂ふのも」『梅塵八番』上五「狂ふにも」
    白黄色蝶も組合したりけり          八番日記   政3
    菅莚それ 〜 蝶が汚んぞ            八番日記   政3    (異)『だん袋』下五「汚るゝな」
    草庵の棚捜しする小てふ哉          八番日記   政3
    蝶寝るや草引むしる尻の先          八番日記   政3
                                             (出)『嘉永版』(異)『梅塵八番』上五「てふ飛や」
    はつ蝶よこんな莚に汚るゝな        八番日記   政3     上五「初蝶や」
    引うける大盃に小てふ哉            八番日記   政3
    扶持米や蝶なら一つ遊ぶ程          八番日記   政3
                                 (出)同日記(政4)(異)『浅黄空』『自筆本』上五「捨ぶちや」
    枕する腕に蝶の寝たりけり          八番日記   政3
    まり唄に一緒に蝶の舞にけり        八番日記   政3
    道連の蝶も一人や安達原            八番日記   政3
    我迹に付損じてや帰る蝶            八番日記   政3    「迹」→「後」
                                                         (異)『梅塵八番』下五「帰る雁」
    浅黄てふあれば浅黄の桜哉          梅塵八番   政4
    石なごの玉にまつはる小蝶哉        八番日記   政4(異)『文政句帖』(政6)中七「玉下通る」
    うかるゝもうちはなりけり浅黄蝶    八番日記   政4    「は」→「わ」
    生れでゝ蝶は遊を仕事哉            八番日記   政4    (出)『発句集続篇』
    おとなしや蝶も浅黄の出立は        八番日記   政4
    欠椀が流れても行く小蝶哉          八番日記   政4
    こつそりとしてあそぶ也浅黄蝶      八番日記   政4
    参詣のつむりかぞえる小蝶哉        八番日記   政4    「え」→「へ」
    善の綱しつかり蝶がすがりけり      八番日記   政4
    蝶折 〜 頭痛をなめて呉る也        八番日記   政4
    蝶書ばてふがとまるや画の具皿      八番日記   政4
                                                 (出)『浅黄空』前書き「画工春甫家」『自筆本』
    蝶もふや馬<腹>の下腹をもしらで    八番日記   政4    「もふ」→「まふ」「を」→「と」
    蝶まふやしやしやんさ馬の下腹に    八番日記   政4
    蝶見よや親子三人寝てくらす        八番日記   政4
    寝仲間に我も這入るぞ野辺の蝶      八番日記   政4
    寝並んで小蝶と猫と和尚哉          八番日記   政4
    野ばくちの銭の中より小蝶哉        八番日記   政4
    風ろ水の小川へ出たり飛小蝶        八番日記   政4
    宿引が鬮の邪魔する小蝶哉          八番日記   政4
                                                 (出)『自筆本』(異)『浅黄空』上五「宿引の」
    湯の中のつむりや蝶の一休          八番日記   政4
                                           (異)『梅塵八番』前書き「裸湯」中七「つぶりや蝶の」
    世の中を浅き心や浅黄蝶            八番日記   政4
    穴のおく案内がましき小てふ哉      文政句帖   政5(異)同句帖(政5)中七「見とゞけて出る」
    負さつて蝶もぜん光寺参かな        文政句帖   政5
    笠取て見ても寝ている小てふ哉      文政句帖   政5    「い」→「ゐ」
    菓子盆を辷りおちたる小てふ哉      文政句帖   政5
    狂へてふ狂て腹のゐるならば        文政句帖   政5
                              (異)同句帖(政6)『浅黄空』『自筆本』真蹟 中七「くるふて腹が」
    蝶 〜 のおつけい晴た夫婦哉        文政句帖   政5
    蝶とぶや石の上なる笠着物          文政句帖   政5
    根の糞をばひあふ小てふ哉          文政句帖   政5
    野談義をついととりまく小蝶哉      文政句帖   政5
    人穴を見とゞけに入る小てふ哉      文政句帖   政5
    浅黄蝶浅黄頭巾の世也けり          文政句帖   政6    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    出舟にから一見の小てふかな        文政句帖   政6
    御座敷の隅からすみへ小てふ哉      文政句帖   政6    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    籠の鳥蝶をうらやむ目つき哉        文政句帖   政6    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    菓子盆に山盛りにつく小てふ哉      文政句帖   政6
    菓子盆の足らぬ所へ小てふ哉        文政句帖   政6    (出)『だん袋』『発句鈔追加』
    菓子盆やはしの先よりとぶ小てふ    文政句帖   政6
    草の蝶何をすねるぞ小一日          文政句帖   政6
    蝶[々]立とは吹かざりしたばこ哉    文政句帖   政6
    蝶とぶや児這ひつけばつけば又      文政句帖   政6
    蝶一つ仲間ぬけしてすねるかよ      文政句帖   政6
    ちりひぢの山より上へ小てふかな    文政句帖   政6
    とが人を打つ手にすがる小てふ哉    文政句帖   政6
    とぶや蝶ひら 〜 金ぴら大権現      文政句帖   政6
    湯の中や首から首へとぶ小てふ      文政句帖   政6
                                           (異)同句帖(政7)前書き「田中」中七「人から人へ」
    おんひら 〜 蝶も金比羅参哉        文政句帖   政7    (出)『浅黄空』『自筆本』『文政版』
    おんひら 〜 金比羅道の小てふ哉    文政句帖   政7
        かはい男の声すれば
    笄の蝶を誘ふやとぶ小蝶            文政句帖   政7  (異)同句帖(政8)中七「蝶にひら 〜 」
    さをしかや蝶を振て又眠る          文政句帖   政7  (出)『自筆本』『文政版』『発句鈔追加』
    酒くさい芝つ原也とぶ小てふ        文政句帖   政7
    さらにとしとらぬは蝶の夫婦哉      文政句帖   政7
    棚捜してついと行く小てふ哉        文政句帖   政7
    蝶[々]やひら 〜 紙も藪の先        文政句帖   政7    (異)同句帖(政8)上五「蝶とぶや」
    塵の身のちりより軽き小てふ哉      文政句帖   政7
    鳥さしの竿の邪魔する小てふ哉      文政句帖   政7
    はつ蝶[の]つかみ込れな馬糞かき    文政句帖   政7
                                           (異)『発句集続篇』中七下五「掴みこまるゝ馬糞かな」
    ふごの[子]や小蝶のせゝる鼻の穴    文政句帖   政7
    振袖のもやうにしばし小てふ哉      文政句帖   政7
    ほつとして壁にすがるや夕小てふ    文政句帖   政7
    藪陰や蝶[と]休[む]も他生の縁      文政句帖   政7
             (出)真蹟 前書き「てふといふ娘山路の案内しけるに」(異)同日記(政8)真蹟 前書き
           「小娘の山路の案内しける、一むら雨のさと降りければ」上五「木の陰や」『文政版』前書き
     「てふといふ娘山路の案内しけるに俄雨はら 〜 とふりければ」上五中七「木の陰やてふと宿るも」
    山盛り[に]蝶たかりけり犬の椀      文政句帖   政7    (出)『発句集続篇』
    過去のやくそくかよ袖に寝小てふ    文政句帖   政8
    菓子盆の菓子をけこぼす小てふ哉    文政句帖   政8
    香せんをけ[こ]ぼして行く小てふ哉  文政句帖   政8
    草庵にそれ汚れな蝶小蝶            文政句帖   政8
    つぐら子をこそぐり起す小てふ哉    文政句帖   政8
    つぐら子の鼻屎せゝる小てふ哉      文政句帖   政8
                                                 (異)『浅黄空』『自筆本』中七「口ばたなめる」
    湯の滝のうらをひら 〜 小てふ哉    文政句帖   政8
    湯の滝を上手に廻る小てふ哉        文政句帖   政8
    筆の先ちよこちよこなめる小てふ哉  文政句帖   政9
        田中
    湯けぶりのふは 〜 蝶もふはり哉    文政句帖   政9    (出)『希杖本』『発句集続篇』
    門にまへ尻やけ小蝶又どこへ        自筆本
    田の人の内股くゞるこてふかな      浅黄空             (出)『自筆本』
    庭のてふ子が這へばとびはへばとぶ  浅黄空
                     (出)『自筆本』『梅塵抄録本』真蹟(異)『文政版』『希杖本』上五「門の蝶」
    はつ蝶や会釈もなしに床の間へ      浅黄空             (出)『自筆本』
    鞠歌の真似して遊ぶ胡蝶哉          あつくさ
    飯炊もそまつにせぬや蝶とまる      浅黄空             (出)『自筆本』
    夕暮にがつくりしたよ草のてふ      浅黄空             (異)『自筆本』中七「がつくりしたぞ」
    世の中は蝶も朝からかせぐ也        浅黄空             (異)『自筆本』下五「がつ 〜 と」

 

蚕(蚕飼ひ、桑摘み)

    桑つむや負れし柿も手を出して      享和句帖   享3
    細腕に桑の葉しごく雨夜哉          享和句帖   享3
    二三日はなぐさみといふ蚕哉        文化句帖   化2
    大蚤の中にばた 〜 蚕哉            七番日記   化11
    さまづけに育られたる蚕哉          七番日記   政1
           (出)『だん袋』『文政版』『自筆本』真蹟(異)『八番日記』(政3)中七「育て上たる」
    たのもしや棚の蚕も喰盛            七番日記   政1
    人並に棚の蚕も昼寝哉              七番日記   政1
    村中にきげんとらるゝ蚕哉          七番日記   政1
                         (出)『だん袋』(異)『自筆本』上五「内中に」『文政版』上五「惣々に」
    家うちして夜食あてがふ蚕哉        七番日記   政1
    蚕医者 〜 はやる娘かな            八番日記   政3    (異)『梅塵八番』中七「蚕医者する」
    末の子も別にねだりて蚕かな        文政句帖   政5
    門 〜 に青し蚕の屎の山            文政句帖   政7

 

    虻蜂やよしさゝれても京の山        七番日記   化10
    それ虻に世話をやかすなせうじ窓    七番日記   化14    「せ」→「しや」
                                                         (異)『文政版』真蹟 下五「明り窓」
    又虻に世話をやかすぞ明り窓        七番日記   化14
    此方が庵の道とや虻がとぶ          八番日記   政3
    道連の虻一つ我も一人哉            八番日記   政3
    山道の案内顔や虻がとぶ            八番日記   政3
    山道や斯う来い 〜 と虻が飛        八番日記   政3    (出)『発句鈔追加』
    草の葉に虻の空死したりけり        梅塵八番   政4
    虻おふな花を尋て来たものを        文政句帖   政5
    馬の虻喰くたびれ[て]寝たりけり    文政句帖   政5
    馬の尾にそら死したり草の穴        文政句帖   政5    「穴」→「虻」
    神風や虻が教へる山の道            文政句帖   政5    (出)『文政九・十年句帖写』前書き
                          「奉納」真蹟 前書き「是より東大日本国」『浅黄空』『自筆本』『文政版』
    斯来いと虻がとぶ也草の道          文政句帖   政5
    とぶ虻に任せて行ば野茶屋哉        文政句帖   政5
    山虻や人待てとび待てとび          文政句帖   政5    (出)『浅黄空』

 

蜂(蜜蜂、山蜂、熊蜂、蜂の巣)

    藪の蜂来ん世も我にあやかるな      文化句帖   化4
    巣の蜂のくつとも云ぬくらし哉      七番日記   化7
                                                   (異)同日記(化7)『浅黄空』上五「軒の蜂」
    山住や蜂にも馴て夕枕              七番日記   化7
    山蜂も軒の主はしりにけり          七番日記   化7    (異)『浅黄空』上五「熊蜂も」
    山蜂や鳴 〜 抜る寺座敷            七番日記   化10
                                                 (異)『志多良』中七下五「鳴 〜 通る大ざしき」
    夜 〜 や荒熊蜂も子に迷ふ          七番日記   化10
    一畠まんまと蜂に住れけり          七番日記   化11    (異)『句稿消息』上五「むまい菜は」
    みよしのへ遊びに行や庵の蜂        七番日記   化11    (出)『文政句帖』(政5)『句稿消息』
       (異)『発句鈔追加』上五「吉野まで」『浅黄空』前書き「下市に泊りて」中七「かせぎに行や」
    大蜂の這出る木の目袋哉            七番日記   化13    「目」→「芽」
    隠家を蜂も覚て帰る也              七番日記   政1
    辻堂の蜂の威をかる雀哉            七番日記   政1
    野みやげや風呂敷とけば蜂[の]声    七番日記   政1
    蜂鳴て人のしづまる御堂哉          七番日記   政1
    蜂の巣[や]地蔵菩薩の御肱[に]      七番日記   政1
    屎虫や蜂と成てもきらわるゝ        八番日記   政3    「わ」→「は」
    熊蜂も軒端を知て帰りけり          八番日記   政3
    いくたり[も]役介も[の]や夫婦蜂    八番日記   政4    「役」→「厄」
    親蜂や蜜盗まれてひたと鳴          八番日記   政4
    子もち蜂あくせく蜜を[か]せぐ也    八番日記   政4
    蜂の声をふささうじや合点坂        八番日記   政4    「をふ」→「おう」「じ」→「ぢ」
    蜂の巣の隣をかりる雀哉            八番日記   政4
    蜂の巣に借しておいたる柱哉        文政句帖   政5    「借」→「貸」
    蜂の巣のぶらり仁王の手首哉        文政句帖   政5
    蜂の巣やぶんともいはぬ御法だん    文政句帖   政5
    山蜂もしたふて住や人の里          文政句帖   政5    「ふ」→「う」
    我にによ 〜 とて蜂のおせは哉      文政句帖   政5    「は」→「わ」
    正直の門に蜜蜂やどりけり          文政句帖   政7
    蜂逃て狙はきよろ 〜 眼哉          文政句帖   政7
    蜂の巣にかしておくぞよ留主の庵    文政句帖   政7
    みつ蜂や隣に借せばあばれ蜂        文政句帖   政7    「借」→「貸」

 

花見虱

    うつるとも花見虱ぞよしの山        七番日記   化8
    おのれらも花見虱[で]候よ          七番日記   化12
                                              (出)『栗本雑記五』(異)遺稿 上五「おのれさへ」
    痩虱花の御代にぞ逢にけり          七番日記   化12
                                             (異)『発句鈔追加』上五中七「やよ虱花の御代にも」
    のさ 〜 とさし出て花見虱かな      文政句帖   政5

 

白魚

    白魚のしろきが中に青藻哉          西国紀行   寛7
    白魚と申もしばし角田川            文化句帖   化1
    白魚に松の旭のいら 〜 し          文化句帖   化1
    白魚舟一つへりてもおぼろ也        文化句帖   化1
    江戸川に気づよく見へぬ白魚哉      文化句帖   化5    「へ」→「え」
    白魚に大泥亀も遊びけり            文化句帖   化5
    白魚のどつと生るゝおぼろ哉        文化句帖   化5    (出)遺稿
    白魚やきのふも亀の放さるゝ        文化句帖   化5
    白魚や蝶が立てもおそはれし        文化句帖   化5

 

若鮎(小鮎、小鮎汲み)

    入相や桜のさはぐ鮎さわぐ          七番日記   化7    「は」→「わ」
    心して桜ちれ 〜 鮎小鮎            七番日記   化7
    笹陰を空頼みなる小鮎哉            七番日記   化7
    ちる花の足を詠る小鮎汲            七番日記   化7
    花の散る拍子に急ぐ小鮎哉          七番日記   化7
    花の世や親は滝とび子は小鮎        七番日記   化7
    わか鮎は西へ落花は東へ            七番日記   化7
    鮎迄もわか盛也吉の川              七番日記   化12
                             (出)『発句集続篇』(異)『浅黄空』『自筆本』中七「わか盛りぞよ」
    いざさはげわか盛りぞよ吉の鮎      七番日記   化12    「は」→「わ」
    逃るやら遊ぶやら鮎小鮎哉          七番日記   化12
    わか鮎やとらるゝ穴を逃所          七番日記   化12    (出)『浅黄空』『自筆本』

 

身寄虫

    首出して身寄虫見るらん巣なし鳥    文政句帖   政7
    捨家に大あんどする身寄虫哉        文政句帖   政7
    住みづらい里はないとや身寄虫どの  文政句帖   政7
    すめば住む世とや身寄虫の拾ひ家    文政句帖   政7
    一寸寝てするべつたりの身寄虫哉    文政句帖   政7
    一寸寝るふりをしている身寄虫哉    文政句帖   政7    「い」→「ゐ」

 

蟹(平家蟹)

    うたかたや淡の波間の平家蟹        寛政句帖   寛4
        旧懐の俳諧して、浦辺を逍遥して
    にな蟹と成て女[に]嫌れな          西国紀行   寛7
    平家蟹昔はこゝで月見船            西国紀行   寛7
    蟹となり藻となり矢島守かや        享和句帖   享3

 

田螺

    海のなき国をおもひきる田にし哉    西国紀行   寛7
    三ヶ月や田螺をさぐる腕の先        文化句帖   化2
    青芝ぞ爰迄ござれ田にし殿          七番日記   化9
    大山も作るべう也田にし殻          七番日記   化9
    小盥や今むく田螺辷あそぶ          七番日記   化9    (異)『発句集続篇』下五「辷り合」
    さゞ波や田螺がにじる角大師        七番日記   化9
    尋常に引つかま[る]ゝ田にし哉      七番日記   化9
        六道
    鳴田螺鍋の中ともしらざるや        七番日記   化9
    寝たり 〜 天下大平の田にし哉      七番日記   化9    「大」→「太」
    木母寺や花見田にしとつくば山      七番日記   化9
        地獄
    夕月や鍋の中にて鳴田にし          文政版             (出)『ほと拍子』『九日』

 

    蛤の芥を吐する月夜かな            七番日記   化7
    蛤や在鎌倉の雁鴎                  自筆本

 

    蜆さへ昔男のゆかりにて            文化句帖   化2
    鳩の藪雀の垣やから蜆              七番日記   化13    (異)『自筆本』下五「蜆殻」

 

浅蜊

    陽炎にぱつかり口を浅蜊哉          七番日記   化11
                              (出)『句稿消息』『浅黄空』(異)『自筆本』中七「ぱつくり口を」

 

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