歌番号

51

作者

志貴皇子 (しきのみこ)

ひらがな

うねめの そでふきかえす あすかかぜ みやこをとおみ いたずらにふく

万葉歌

采女の 袖吹き返す 明日香風 都を遠み いたずらに吹く  

原文

采女乃 袖吹反 明日香風 京都乎遠見 無用ニ布久 

志貴皇子は万葉歌人のなかでも、歌の数は少ないが、できばえの良さはトップクラスである。今は廃墟となった明日香を訪ねて、その変容ぶりに驚いたのだろう。その当時の流行であった裾の広い、ひらひらした衣装を纏った采女が小高い丘の上に佇んでいる。それは日本画のモチーフのような印象を与える。高貴で秀麗な人であったのだろう。その淡い衣が微風にたなびくさまは、そこはかとなく色気までも漂ってくる。
この歌の秀歌たる所以は前半もさることながら、後半の2句が非常に優れていると思う。色采的なイメージから一転して動的なものに変わり、そのフレーズから受ける印象はあくまでも軽やかで優雅な感じだ。そこには廃墟である明日香がよけいに痛々しく胸に迫ってくる。