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伝統構法で造る土壁の家

手に持つ道具で木を刻み、金物に頼らずに組み上げた骨組みに土壁を塗ってつくる、昔ながらの工法で建てた、伝統工法で造る土壁の家です。
寒冷地の信州において、調湿性や蓄熱性に優れた土壁の機能を生かすために、断熱性能を高め、健康で快適な環境の住まいをつくりました。

大きな屋根に覆われた腰の低い佇まい。
土間からつながる日常生活の場。
懐の深い小屋組の大空間。
力強い骨組みと大黒柱。
田の字型の単純で開放的な間取り。
自然素材でつくられ自然に還る循環する建築。
いにしえの民家の魅力と、未来の暮らしを結ぶ住まいです。


玄関は、土を突き固めて造ったタタキの土間床です。
全く段差無しで、写真右手の生活空間へつながります。
写真手前は客間の座敷。

玄関引戸は、腰に換気用の無双窓を仕込みました。
玄関をはじめ、家中の出入り口は全て引戸です。
必要に応じて、閉じたり開け放したりしながら暮らします。

玄関を入ると、暮らしの中心の吹抜空間につながります。

2本の尺角(30cm)の大黒柱が5寸巾(15cm)の棟木を直に支えます。
掘こたつを設えた茶の間は腰掛けの高さの段差を付けて、暮らし方に変化が生まれるつくりにしました。
この空間に面して全ての部屋を配置し、薪ストーブで家中を暖房します。

食卓の囲炉裏テーブルとベンチは、地元産の赤松の板を使い、住まいの雰囲気に合わせて、大工工事でつくりました。

茶の間と二間続きでつながる座敷。
床の間の脇の壁には、土壁の下地の木舞をそのまま現した下地窓を設えました。

台所は大工工事でつくりました。
木の板のワークトップにステンレスシンクをはめ、IHヒーター、電気オーブンレンジを組み込みました。

太い柱や梁がダイナミックに現れる空間と、建具枠や手摺りなどの造作部材や家具などのインテリアとのバランスには、ずいぶん神経を使いました。
仕上がりは、繊細すぎず、粗くなく、ちょうど好い感じに納まって、気持ちがいいです。


寝室。
土壁の環境性能が発揮され、健やかに睡眠できるそうです。

暖房設備は、薪ストーブのバックアップに全館パネルヒーターを設置しています。

吹抜空間の2階。
床はメンテナンス用のキャットウォーク。

棟木を直に支える大黒柱の丈20尺(6m)で棟の高さが決まり、その結果、高さが抑えられた美しいプロポーションと、吹抜の心地よいスケール感が生まれました。

2階の個室。
天井は杉の縁甲板、床は3cm厚の杉フローリング、桧の構造材と共に、根羽産の木材です。

土壁は細かく振るった仕上用の土で仕上げました。

洗面所。
左手に脱衣所〜風呂、右手がトイレにつながります。

水回りの壁は漆喰で仕上げました。

風呂。
桧板の壁と天井、十和田石の腰壁と床、そこにコウヤマキの風呂桶が納まります。

土壁の中に風呂をつくるにあたり、防水や防湿に工夫し、十分に対処しました。
長く気持ちよく使っていただけるように、換気や採光もたっぷり採り入れました。
風呂桶の正面は、開け放てられる引き込み仕様の窓で、高塀に囲まれたバスコートにつながります。

トイレは2箇所、それぞれに小便器を設置しました。

夜の雰囲気。
天井面や壁面を照らす照明はありません。
吹抜の高い天井を闇にして、夜ならではのしっとりした雰囲気をつくります。

柱と柱を通し貫でつなぎ、土壁の下地になる木舞を掻きます。
中信地方では、葦の木舞が一般的です。数本ずつ束ねた葦を藁縄で編むように縛ります。そこに一定量の壁土を塗ることで、1.5倍の耐力壁になります。ここでは、耐震上必要な壁の量を、スジカイ等の他の構法を使わずに土壁だけで満たしています。

壁一面に編まれた木舞(こまい)の隙間から光が漏れる様子は、壁土を塗ってしまうのがもったいないくらい、美しい空間でした。

屋根はいぶし瓦、外壁は上部が漆喰、腰壁が杉の押縁下見板です。
単純な形の切妻屋根と、漆喰と板壁でつくる外観は、素朴で美しく上品な表情を生み、田園風景の中に据わりよく佇んでいます。

敷地は道路から60cm低い田圃でした。
田圃に家を建てる場合、敷地境界を擁壁で囲い道路と平らく造成することが一般的ですが、それだと周囲の地形との馴染みが好くありません。
ここでは現況の地盤を活かした計画をしました。
安定している元々の地盤に基礎を造ることができ、造成の費用も抑えられるなど、経済的なメリットも大きいです。


>>  計画案


施工・宮澤建築・宮澤郁夫棟梁
竣工・2011年11月
場所・北安曇郡松川村
掲載・信州の建築家とつくる家第9集

ブログ・安曇野建築日誌
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2013年夏、
越屋根が載りました。

前年は、ピロティ式の駐車スペースを、雪の吹き込み対策で囲いました。

2回の改築を経て、より暮らしやすくなりました。

越屋根は2間(3.6m)の長さ。
室内側はスリット状に開口しました。

越屋根は、暖まって上昇した室内の空気を天井のてっぺんから抜くことで、一階の窓から涼しい外気を導く、自然換気の装置の役割を担います。