R研究所がたいへんだ


博士「実験場まで車の運転頼むよ」
助手「了解しました」

「ところで第10惑星の直径が発表になったね」
「ええ、先を越されましたね博士」

「あれにはその先があると思うんだ、重力波の測定によるとあの直径だとつじつまの合わない点があるんだ
例えば第11惑星があるかあるいはもっと遠くにブラックホールがあるかしないと今回の数値にはならない」
「それってすごい発見じゃないですか、どうして発表しないんですか」

「いやそこまでは他の人も気が付いていると思うんだが証明ができないんだ、アインシュタインだって相対性理論の構想は高校生の時から
あったそうだ、しかしそれを証明するのにあれだけ時間がかかったんだ、証明できなければただの思いつきに過ぎない、
思いつきだけならアインシュタインの完成しなかった統一場の理論の答えだってわかっている」
「えっ本当ですか、ノーベル賞ものじゃあ無いですか博士!」

「だから思いつきだけだって、理論として完成させるには何年かかるか、いやできないかも知れない
アインシュタインだって例のメモによるとすべてがわかったと書いてあったそうじゃないか、わかってはいたが数式までは完成しなかっただけじゃないのか」
「なるほどそういうものですかね」

「あーっ」
「どうしました、謎がとけたんですか?」

「屁が出た」
「わっくさい、車の中でしないでくださいよ、うわーなんだすごいにおいだ、昨日にんにく食べたでしょう?」

「ごほっごほっ!たまらん窓をあけろ!」
「なっなんの話でしたっけ」
「....」

お後がよろしいようで。

えっ落ちがわからない?




博士「いやーこの前はすまなかった、会話の内容も飛んでしまった」
助手「私は記憶も少し飛んでしまいました、屁が出るのは仕方がないけど車の中や狭いところでは遠慮してください」

「以後気をつけるよ、いま我慢をする練習をしている」
「ところでスーパー宇宙線の事が話題になっていますが、うちの研究所では観測やらないのですか?」

「....」
「死んだふりはやめてください」

「屁落ちができないのでなにかギャグを考えているんだ、なになにスーパー宇宙線?いまそんなものが話題になっているのか」
「博士は芸人かい!  あーいやー つっこみの練習です。地球の大気に飛び込む前の宇宙線を一次線宇宙線とよび、大気に飛び込んで変化し新たに生まれた宇宙線を二次宇宙線と呼ぶ
そうですが、現在は二次線宇宙線の観測が行われていますね。私たちは一次線宇宙線の方の観測をしませんか」

「どこからそのお金が出るの金(かね)、一次線宇宙線の観測は地球上ではできないと思うのだが」
「今度はだじゃれかよー!  れっ練習です、」

「確かビックバン電波がじゃまをしているはずだったような倖田來未がじゃまをしていたような」
「博士!どさくさに紛れて別のこと言ってませんでした、倖田來未がノーブラだとか、ノーブラで歌ってどこが悪いんですか、ってテレビ見ない博士がどうして倖田來未知っているのか、その方が謎だ」

「ノーブラなんて言っていないよ、エロかっこいい大歓迎だよ、そんなことより本当にスーパー宇宙線すなわちGZKカットオフを超えたエネルギーの宇宙線が存在するのか、それを考えると夜も眠れないよー」
「博士、昼間居眠りしてますよ、夜も寝ないで昼寝してってか! あくまでもつっこみの練習です、ところでそのGZKカットオフってなんでしたっけ」

「相対性理論上の宇宙線の限界エネルギー10^20 eVの値のことだったような、昨日の夕食にまたにんにくが入っていたような。」
「後半無視ってまたニンニク食べたんですかいだんな!」

「旦那じゃない、博士と呼べって、こんどはこっちがつっこんじゃった、練習練習」
「屁を我慢する練習ですか博士」

またしてもつまらない落ちですいません。お後がよろしいようで




博士「今日はスポンサーのR氏が来るそうだ。何か聞きたいことがあるらしい。案内があったらこちらにお通してください。今回はお嬢さんも来るそうだ。」
助手「了解しました。ますます臭いのは無しですよ博士っ。お嬢さんは初めてですよね、おっ早速お見えになったようです。あの車でしょう!お迎えに行って参ります」
しばらくして助手のJが二人を案内して研究室に現れた。

R氏「やあ今日は他でもない、娘のFが博士の研究室の見学を兼ねて聞きたいことがあるそうだ、よろしく頼むよ、私は忙しいのでこれで!」
といってさっさと帰ってしまった。

助手「あっ相変わらず忙しい人ですねR氏は。会社を300も持っていると当然でしょうね」
なんだか助手のJは落ち着かない様子

博士「いつの話をしているんだね、今は確か600だったはずだ」
F「さすがに博士は耳が早いですね」
助手「そ、そうなんですか、すごいですね、ところで今日はなにをお見せすればよいのでしょうか?」
F「実は父がこのような研究所を持っているので宇宙に興味がわいてきて、一度研究所を見てみたいと思ったのですが、それよりもビックバンについてお聞きしたくて」

博士「ビックバンですか、簡単に説明するのは簡単なのですが、詳しく説明するとややこしい。どちらがよろしいですか。」
F「ではまずは簡潔に一言でお願いします」
博士「では簡単に、せーの 現在物理学者の間で考えられている宇宙誕生の瞬間の事です、おわり。」
助手「博士、はーかせ、いくら何でも簡単すぎます、Fさんはわざわざ遠いところを先生のお話を聞きに見えてくれたのですよ」
博士「歯ー貸せと言っても貸さないよ」

助手「お客さんの前でくだらないだじゃれはやめてください、私まで品位が落ちます。」
しかしこのやりとりをFは楽しんでいる様子であった。
F「確かにJさんのおっしゃるとおり簡潔過ぎますね、もう少し詳しく説明して頂けませんか?」

博士「ではもう少ーし、せーの この理論によれば、宇宙は百数十億年前に凝縮した火の玉のような状態から爆発を起こし、それ以来膨張を続けて現在に至り、現在も膨張を続けているというものである。おわりっ、ふー。」

助手「あのー私もちょっと口挟んでいいですか、たしかに博士の言うとおりですけど、このことは遠い宇宙の星を観察すると、すごい勢いで遠ざかっていることがわかったことが事の発端なんです。ところで博士一言と一息間違えてませんか、途中で呼吸してもいいんですよ」

博士「何だそうなの?」
F「なるほど、じゃあ遠ければ遠いほど高速で遠ざかっていると言うことですね」
助手「その通り、さすがですね飲み込みが早い。今度はジュースでも飲みますか?」
博士「ええい、その飲み込みじゃ無い」
助手「そうすると少し前は今より宇宙は小さかったことになり、もっと前はもっとちいさかったことになる、で計算すると百数十億年前に宇宙は小さな点になってしまうと言うわけです」

F「とても信じられません、ではビックバン以前の宇宙はどうだったのですか」
助手「そっそれは!」
博士「小さな点であった宇宙の始まりは、百数十億年前と考えられており、その時の宇宙は、いわば火の玉のようなエネルギーのかたまりのような高温高密度の状態であり、物質は存在しなかったと考えられる。
単に物質が存在しないだけでなく空間も存在しなかったと考えられる、しかし空間の存在しない場所を私たちはどのように理解し説明したら良いのだろうか。それを考えると夜も眠れない。」

助手「博士!またあれを言わせるんですか。」
博士「夜も寝ないで昼間寝て、へへっ」
F「私帰ります。帰って今のお話瞑想して、イメージしてみます。ではありがとうございました。また来ます」
と言ってさっと帰ってしまった、一番知りたいことがわかり少し興奮していたように見えた。

博士「帰り際がR氏そっくりだ。ところでいつもと君、感じか違うがどうしたのかね、まさか彼女に一目惚れでは無いだろうね。」
助手「そのまさかですー、博士どうしましょう、今度は私が彼女のことを思うと夜も寝られそうにありません。」
博士「昼間寝なさい」




博士「いやあ新聞に地球の近くで宇宙誕生の記事が載っていたね」
助手「そうですね。これでいくつかの重力波の説明が付く事になりませんか。」

「そうだね。可能性としては考えていたんだが、ほかの可能性もあったし、これで1つ解決した、ところでFお嬢さんからお誘いを受けているそうじゃないか。」

「そうなんですよ、なんでもビックバンのイメージは何とか浮かぶんだけど、それ以前の宇宙のイメージが浮かばないとかで、一緒に食事を取りながら話し合いましょう、って誘われたんです、どうしましょう、実は私も同じでビックバン以前の宇宙イメージなんて浮かばないんです」
「ビックバンデートか、いっそのこと二人でビックバンしちゃったらどうだ。わっわっいたたっギャグだよ、ギャグ、痛いよいいかげんにやめないと屁をかけるぞっ、何だっけ、ええと、そもそもビッグバン説以外にも宇宙誕生説はいろいろあるしそれぞれ一長一短あるが実際の所、私も良くわからんのだ。浮かばないならその通り話せばいいんじゃないか。いくら科学者だからって分からないものは分からない、だからこそ研究を続けているとも言える。うん我ながら良いことを言った。メモしておこう。...ぶつぶつ..屁をかけるぞと」

「わかりにくいギャグを言うと読者から苦情が来て作者が困りますよ、親分。って屁をかけるぞまでメモしたんかい!親分はR邸宅へ言ったことがあるんですか」

「ええい親分じゃない、博士と呼べ、呼んでくれ、読んでください、呼んでくださいませ、ほほう外ではなく自宅へ呼ばれたか、私は何度もいっておるぞ、広いから迷子にならんようにな!R邸の料理はレストランよりうまいかもしれん。」

「それがどうも彼女の手料理らしいのです。料理の勉強をしているので味見をしてほしいとも言われました。信じられません。」

「そうか、そうか、それは良かったじゃないか。彼女なら君にぴったりだ、趣味が合う。案外彼女の方も君に一目惚れかも知れんぞ。」

「親分、じゃなかった博士、趣味が合うだけでぴったりは無いでしょう、だいたい身分が違いすぎる。それに今まで女性にもてたことがありません。まあ博士と同じで研究ばかりしていてあまり女性の事など考えていたことなどありませんでしたが。どうすれば良いのか分かりません。ビックバンの話はすぐ終わってしまいそうですし、その後何を話せばよいのか分かりません。博士替わりに行ってくれませんか」

「バカ、誘われたのは君だ。君が行かなくでどうする。それに今は身分制度は無い。」

「じぁあ一緒に行ってください、博士。」

「断る、お邪魔虫になるだけなのは分かっている。」

「手料理食べたくないんですか?」
「食べたい。じゃあこうしよう、私は食べたら直ぐ帰る。ただし彼女に事前に私が行って良いか聞いてみて、良いと言ったらだぞ。」

「ではさっそく電話してみます。あーもしもしゴジラはじゃなくてこちらはJです、今日の件ですが博士がどうしても一緒に行って手料理を食べたいって言うので、うわーくっくさい、いえこちらの話です、うわー死ぬ!いっしょにいってもいいですか、うぐっ、がちゃん」

「おい!話がだいぶ違うんじゃあないかい。まあ良い、でどうだった。」

「OKです。笑っていました。こちらで何が起きたのかわかっている様です。」
「それじゃあまるで私が屁をしたみたいじぁあないか」
「したんだから仕方がないでしょう。」
「それは君がうそをつくからだ。一緒に行ってほしいと頼んだのは君の方だ」
「じゃあ行くのやめますか」
「行く」

「博士!たいへんです」
「なんだ、今度は君が屁をしたか」
「違います。終わりなのに落ちがありません。博士いそいで屁をしてください」
「それは大変だ、しかしさっきしたのでもう出ない、つづくにしてしまおう
つづく




F「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
通された部屋は博士が知っている大広間ではなく、プライベートダイニングのようだった。既にテーブルの上には料理が並んでいた。

J助手「うわーっこれみんなFさんが作ったのですか」
F「ええ、それより今日は大切なお話があってお呼びしたんです。」
博士「私はお邪魔では無いのかな、なんなら席を外しますよ。」
F「いえ、博士もぜひ聞いてください。」
J助手「あのービックバンの話では無いのですか?」

F「要約すると3つあります。1つめはビックバンの話、2つめはあなたとの交際の話、3つめは研究成果が外部に漏れている話です。まずはスープからどうぞ。」
重大なことをさらりと言ってのけたF嬢は二人の前にスープを並べた。

J助手「ええっ!2つめと3つめにびっくりです。1つめのことでしたらビックバン以前の宇宙観については、実は私も博士もよくわかっていないんです。私なんてイメージがわかないどころかそんなこと今まで考えたことも無くて!」
F「なるほどね、博士は?」
博士「ずずーっ」
J助手「博士、スープを飲むときは音を立てると失礼ですよ。」
F「夜は長いからゆっくり食べてくださいね、決してじゃまだなんて思っていませんから、それより3つめの件は博士の協力なしには捜査できないと思っています。」
博士「シュルシュルー、ずずー」

博士はスープが飲み終わり1枚のメモを取り出し読み始めた。
「いくら科学者だからって分からないものは分からない、だからこそ研究を続けているとも言える。うん我ながら良いことを言った。メモしておこう。...ぶつぶつ..屁をかけるぞ」
J助手「メモしておこうまでメモしておいたんですかい、親分、屁をかけるぞも余分だし」
F「ふふっ親分じゃあ無いんですよね博士、わかりました。私だけがイメージできないのでは無いことが分かって安心しました。この話もっとゆっくりお話ししたいんですが次が控えているので今はこれくらいにしましょう、では2番目のあなたとの交際の件ですが、私の希望をかなえていただけますか?」
助手「しっ信じられません、私の方こそ密かに好意を寄せていたのに、こんなかたちでしかもあっさりと事務的に、ビックバンの話と研究成果漏洩の話と一緒に言われると、どうしたら良いか」
博士「もぐもぐ」
F「だめですか」
J助手「こちらからお願いします」きっぱり
F「良かった、他の2つはどうでもこれだけがうまくゆけば今日の食事会は成功です。」
博士「ぱくぱく、うまい」

F「では3つめの件ですが、実は先日研究所に行ったとき、センサーを使って隠しマイクが無いか調べたんです、結果は無しでしたが、となるとスパイがいるのでは無いかと思って今調査をしているのですが、あっ言い忘れましたが父に頼まれて内密に調査しているのですが博士とJさんは心配ないので何でも相談するようにと言われています。」
博士「現在までの登場人物は4人だ。私と助手それにR氏とF嬢。私は確かに犯人では無いしJ君も信頼の置ける人間だ。R氏はスポンサーだしFさんは調査しているひとで除外して良いだろう、この中に犯人がいないとなると5人目を登場させなければ行けない。」
J助手「博士、なにを言っているんですか、それでは安っぽい推理小説みたいじゃあ無いですか。それにFさん、2番目の話もっとしたいんですけど」

博士「その話は私が帰ってからにしてくれないかね、すぐ帰るから、わたしはその話すごくじゃまをしている気がする、ぱくぱく、ごくごく、うーんうまい」
F「博士は3番目の話が終わったら帰るとおっしゃっているので、二人きりになってからゆっくりするというのではだめですか」
助手「了解です、Fさんがそうおっしゃるのなら。では話を戻しますが、どんな風に研究成果が漏れているんでしょうか。その辺りからお話ししてください。そもそも最近の研究成果は新しい発見は無いし、様々な宇宙観測のデータが並んでいるだけだったと思います。」

F「ネット上にそのデータが発表されているんです。しかも当研究所の名前で、これです。」
Fは1枚の印刷物を見せた。
博士、助手「えーっ!」
F「おどろいたでしょう」
助手「そっそれは以前R氏の指示で公開して差し支えないデータはなるべく公開するようにと」
博士「R氏のジョークだな、お嬢さんいっぱい食わされたんですよ。それは私たちが公式に発表しているものです。」負けずにきっぱり
F「そうでしたか、とするとこれはどういう事でしょう、父は確かにジョークが好きですが、父のジョークにしては手が込みすぎていると思います。私だけならまだしも博士や、Jさんまで巻き込むなんて。」
5分ほど沈黙が続いた。博士は何かを考え込んでいた様子だったが、とつぜん何かがひらめいたようだった。
博士「キャピーン」
F、助手「何ですか、何か分かったのですか?」
博士「まだ分かりませんか。」博士は助手に目配せした。
助手「えー、まさか」
F「私とJさんを会わせるため?だとしたら博士には大変ご迷惑をかけてしまいました。」
博士「それしかありませんね、じぁあ私はじゃまなようなので引き上げます。J君また明日、あっ明日は休みだった、Fさんおいしかったです。ごちそうさま。私の妻もR氏の紹介だし迷惑だなんて思っていませんよ。」
と言い残して帰ってしまった。

やっと二人きりになった。
J「R氏になんて言われて研究所へ行ったのですか?」
F「父が珍しく早く帰って来て『どうも研究所のデータが盗まれているらしいから調査してほしい』と言って来たのです。で、このプリントを見せられて、『今度研究所に連れて行くからこのセンサーで隠しマイクの調査をしてくれないか、博士と助手のJ君は安心だが、他の人の目もある、行った時は誰にも内緒にしてほしい』それで以前から気になっていたビックバンの話を聞きに行くと言う理由で案内されました。」
J「博士はそのことを知っていたのでしょうか」
F「分かりません。たぶん知らなかったと思いますが。父の無礼を許してくださいね。」
J「とんでもありません感謝したいくらいです、これが本当ならR氏公認と言うことになりますし、ところでFさん」
F「二人きりの時はFと呼んで!」
こういう時アルファベットだけだと雰囲気が出ない。
J「じゃあF、Fが名Rが姓だとフルネームはFRですか」
F「はい、そうです」
J「まるで車のフロントエンジン、リアドライブみたいだ」
F「あーん!それだけは言わないで!」





博士「J君このデータを解析してくれたまえ。なんだかいやな予感がする。」
助手「博士の感は当たりますからね、心配です。」

博士「もし隕石だったら金メダルの記念としてイナバウアー隕石と名付けよう。」
助手「イナバウアー隕石かー、いいですね。おやっ地球に近づいてから減速していますね。」
博士「うーむ、やはりただの隕石ではないな、グラフにしてくれ!」
助手「了解」
博士「おおっこの動きは、明らかに人工的なものだ。」
「異星人でしょうか」
「異星人を疑う前に地球に帰還予定の宇宙船の確認だ。」
「了解」

「発表されている範囲では帰還予定の宇宙船はありません。」
「そうか、では地球到達までの推定日数を出してみよう。」
「速度に変化があるので難しいですね。このままの速度だとあと6日ほどでしょう。」
「うーむ、確かに難しいな、異星人かどうかは分からないが、未確認飛行物体には違いない、R氏を通じて政府に連絡だ。機密区分レベル3に該当する。」
「了解」

助手「完了しました。」
博士「しかしこの分だと明日には光学望遠鏡でも見えるかも知れない。今夜から泊まり込みだ。」
「了解です。あのーちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだ、富豪刑事みたいだな。」
「Fさんに話してもよろしいでしょうか、実は今日、デートの約束がありまして、断るのに事情を説明したいのです。」
「レベル3は関係者以外に情報を漏らしてはいけない事になっている、F嬢はR氏の特別秘書の仕事もしているので関係者と見なされる、よって話してもよろしい。しかしそれより、彼女の得意分野かも知れない、一緒に手伝ってもらった方がいいんじゃないか?デートをキャンセルするものでは無い。私が恨まれる。」
「えっ、来てもらってもよろしいんですか?」
「ただし、いちゃいちゃするんじゃあないぞ、あくまでも仕事を手伝ってもらうんだ。」
「もっもちろんです。それに彼女とはここでの見学を含めて2回しか会っていません。いちゃいちゃなんて、そんな楽しそうなこと。ではさっそく電話してみます。」
「もしもし、Fさん、実はこれかくかくしかじかでイナバウアー隕石ではなさそうなんです。今夜から交代で観測することになると思うので手伝ってはいただけませんか?」
「どうだった?」
「OKです、いつもながら飲み込みが早いです、夜食を持って7時頃来てくれるそうです。あっ博士の分も持ってくると言っていました。」
「ぐうぐう」
「博士!なに寝ているんですか」
「今夜に備えて先に寝ておこうかと、なにしろ交代だからな。夜食の件は了解した。ではおやすみ。」
と言ってまた寝てしまった。
「他の研究機関はまだ動いてないようだなー、気がついていないのだろうか。いちゃいちゃか、この前はあやしげな雰囲気になったところで帰って来ちゃったからな。こんどはもっと女性のこと研究して、逃げないようにしないと。そうだフロントエンジン・リアドライブのこと言わないように博士に言っておかなければ危険だ。あのあと怪しい雰囲気になったからな。」


7時ちょうどに博士は目覚めた。と同時にF嬢がやってきた。
F「なんだかうきうきしますね、Jさん」
J「隕石ならいろいろなものを観測しているのですが、こういうのは初めてで、ひょっとしたら緊急事態になるかも知れませんよ。博士の感は当たるんです。覚悟してください。」
F「分かりました、で私は何をしたらよろしいのですか、博士」
博士「今のところまだ最新のデータを解析しながら待っているしかない。地道な作業だ。まずはこちらの画面を見てださい。これがその物体です。」
F「ただの数字にしか見えませんけど。」
博士「そうだった、初心者にはこちらの方が良いですね。ちょっとタイムラグがありますが数値を映像化したものです。」
F「まだなんだか分かりませんね。」
J「これがこの○くらいの大きさになると光学望遠鏡でも見えるようになるんです。普通なら計算して地球までの到達時間が割り出せるんですが、この物体の動きは予想できなくて」

博士「それより今の内に食事にしよう。先は長いしさっきからいいにおいがして気になる。」
F「そうですね、ではスープからどうぞ」
出されたスープを口にした博士は
「いやあいつもながら、おいしい、いつもといっても2回目だけど。ところでフルネーム...」
助手「うわっぷっぷ」
博士「どうした、だいじょうぶかJ君」
助手「だっ大丈夫です、スープの骨がのどに引っかかったみたいです。」
博士「スープに骨は無かったと思うが、大丈夫ならよかった。ところで何の話だったっけ」
助手「それよりあの物体、何ですかね」
博士「残念だが、宇宙船の可能性が高い、おそらく公開されていないどこかの国のものと思うが、地球のものでは無い可能性も無いではない。」
F「トリプル無いですね、博士、というと異星人がいると言うことですか。」
博士「否定はできない。いずれにしても数日の内にははっきりするだろう。他の宇宙機関も観測を開始したと思うので、もう少しで何か分かるかも知れない。」
博士と助手「ごちそうさまでした。」

助手「交代というと博士はさっき仮眠したから、最初は博士ですね。」
博士「ぐうぐう」
助手とF「寝てるよ!」




その頃宇宙船では異星人がこんな事を話していた。
α「あの星からこちらを見ている生物がいるな、どうやら気づかれたらしい。超小型偵察艇を転送して調べなさい。」
β「何を調べますか」
α「会話の内容と偵察艇本来である大気の採取だ。1qfに3回採取してくれ。」
β「了解しました。すぐ作業にかかります。」
1qfと言うのは約1時間の事である。
5分ほどして超小型偵察艇が宇宙船から転送された。
生物の乗っていないものは転送可能らしい。
そしてその超小型偵察艇は博士のいる研究所の排気口に音もなく現れた。

ちょうどその時博士が自分の屁で目覚めた。
博士「うわーくさい、これじゃあ寝ていられない。さてそろそろ交代の時間かな。」
助手「ひどいですよ博士、仮眠した博士が最初に観察が普通でしょう、しかもくさい。今日はFさんもいるんですから、くさいのは控えてください。」
F「電話で聞いていて想像はしていましたけど、確かにこれはたまりませんね。夜空の観測は退屈しませんが、このにおいには参ります。換気扇を最強にしましょう。」
そしてしゅっと静かな音がして1回目の大気が採取された。しかしその音は換気扇の音にかき消され誰も気づかなかった。
博士「すまんすまん。起きているときは我慢する練習をしたんだが、寝ているときは我慢のしようがなくてな。しかも満腹になったら眠くなってしまった。じゃあつぎはFさん休んでください。」

Fは仮眠室へ行った。
助手「今のところ変化はありません。」
博士「そうかごくろうさん、ところでふたりきりで楽しかったろう。」
助手「いやですね。ずーとまじめに仕事してましたよ。」
博士「何なら一緒に仮眠室へ行ってもいいぞ。」
助手「やっやめてください。どきどきしていっしょの部屋で寝られる訳が無いじゃないですか。いちゃいちゃするなと言ったのは博士でしょう。そうだ今の内にこれだけは言っておきます。博士、FさんにフルネームはFRだからフロントエンジン・リアドライブみたいだなんて言わないでくださいよ。彼女気にしているみたいですから。」
博士「なるほど、了解した、それで君は食事の時わざとむせたんだね。」ブッ
助手「うわっまたですか!今日は屁が多いですよ。」
博士「いや、Fさんが寝ている間になるべく出しておこうと思ってね。」
その時2回目の大気が採取された。
博士「これが私が寝ている間のデータか、スピードは遅いままだな。引き続き観測しよう。」

約20分後
ブッ
助手「またですか、少し離れていよう。」
その時3回目の採取が行われた。


α「偵察艇が戻ってきた。さっそく分析しろ。」
β「了解しました。大気は直ぐ結果が出ますが、会話はサンプルをもっと採取しないと翻訳不能です。」
α「そうだな。では大気だけで良い。」


β「大変です。こっこの星の大気は猛毒です。我々は船外服なしで1qもいられません。」
1qは約1秒である。
α「なにっ、そうか、では仕方がない、この星はあきらめて次の星に向かおう。」


約2時間の仮眠からFが目覚めた。
F「お待たせしました。実は夢を見ました。聞いてくれますか?」
博士と助手「どんな夢ですか。」
F「簡単に言えばあの物体はやはり異星人のもので植民地を探しにこちらへ来ていました。そこでこの地球に目を付けたのですが、大気が合わなくてあきらめて帰って行くというものでした。博士が何か活躍したような気がするのですがそこの所の記憶ががぼやけていて良く分かりません。」

博士「おおっあの物体が進路を変更して遠ざかってゆくぞ。その夢と合致する。その夢が案外事実かも知れないぞ。あと数日観測を続けてふたたび現れなければこの任務完了だ。」

助手「Fさんすごいですね。ほかに何か覚えていませんか?」
F「そこの換気口になにか小さな物が潜んでいました。」
博士「J君、念のため調べてくれないか?」
助手「了解しました。」


助手「何もありません。」
博士「何か痕跡は無いか?」
助手「そういえば1箇所妙にほこりが無くなっています。不自然ですね。さっきまでここに何かあったかのようです。」

F「5cm位ですか?」
助手「はいそうですFさん、それでは夢のとおりと言うことですね。」
博士「やはり私の目に狂いは無かった。Fさんは夢で透視することができるんだ。」
助手「博士そんなことまで考えてFさんを呼んだんですか。」
博士「実は今考えたんだ。本当は1回や2回では証明することはできないが、なんとなくFさんが今回の任務に必要だと直感したのだ。」
助手「やはり博士はすごい人ですね。しかしそれが本当なら悪い方の予感は外れたようで良かったです。今は悪い予感がしていますか?」
博士「それが不思議でFさんがここへ来てからその感じは消えているのだ。」
助手「しかしまだ観測は続けるんですよね。」
博士「その通りだが、今は遠ざかってゆくので光学望遠鏡の出番は無いようだな。」
助手「そうですね、そうなるとひとりでも充分な気がしますが、順番では次は私の仮眠の番でしたね。なんだか今の話で眠れそうにありませんが、横になっているだけでも休まります。」
博士「お休み。私の様にここで寝るかね。」
助手「暗い方が良いので仮眠室に行きます。では!」
F「ゆっくり休んでくださいね。」

仮眠室にはベッドとその上にFがたたんだと思われる毛布があった。
助手「さっきまでFさんが寝ていたベッドだ。」そう考えるだけでドキドキした。
毛布を掛けた。ほのかにFの残り香がした。
「いいにおいだ。Fさんの香りだ。」
眠れないと思ったが疲れていたせいかその香りのなかですぐに眠ってしまった。

こうして地球は救われたのだった。
F嬢だけが博士のおかげで救われたような気がしていた。
しかしそれが博士の屁によるものだとはさすがに気がつかなかった。





助手「博士大変です。」
博士「何かね。」
「Fさんが3日後にヨーロッパへ行ってしまうそうです。」
「彼女はR氏の秘書なのでしょっちゅう海外へ行っているそうだが、それがどうかしたのかね」
「それはそうですが2週間も会えないんですよ。どうしたら良いでしょう。それで2週間会えないから明日か明後日丸1日デートしましょうって誘われたんです。」

「君は誘われてばかりだね。2週間位すぐに過ぎる。あの若くてすてきなF譲と交際しているだけで充分幸せ者だよ、それに君はここへ来てから一度も休んだこと無いじゃないか。わたしは君もたまには休んだ方が良いと思っている。1日と言わず2日間続けてデートしたらどうだ。」

「今までは休んでいるよりここへ来ている方が楽しくて休みませんでした。そういう博士だって葬式以外休んで無いじゃないですか。博士がそうおっしゃるならそうします。」

「私もこの仕事が3度の飯より好きな方かな。でもFさんの料理は別格だ。」
「たまにはこちらから誘った方が良いですかね。」

「普通はそうだが彼女の場合、どちらかと言えば男性的な性格と言うか、自分で何でもテキパキとやる方の様だから、君のようについて行く男が合うのかも知れないな。
そういえばR氏から以前そんな相談を受けたことがあった様な気がする。確か実業家の青年と見合いしたのだがF嬢が断ってしまったと、どうも自分のペースで動かないと気が済まない所があるようだと言っていた。その点君は相手のペースで動くのが好きみたいで、それで結構相性が良いのじゃないか。」

「そうですか、そういう人の方が確かに私にぴったりだとおもいます。実はどうしたらよいか分からなかったんです。デートといっても何をしたらよいか...博士、貴重な情報有り難うございます。じゃあ明日から2日休んで良いですね。」
「ゆっくり楽しんできたまえ。」

「では電話してみます。もしもし、Jです。デートの件、明日大丈夫です。博士から休みの許可もらいました。2日続けて休んで良いと言われてます。で、もしよろしかったら2日間続けてデートと言うのはどうでしょうか。はい泊まりですか、ええっ泊まりですか、あの、日帰り2回を考えていたのですが、本当ですか?はい、お任せします。」

「良かったじぁないか。今度はデートだからいちゃいちゃして良いのだぞ。ただしその報告はするな。聞きたくない。それにそういう話を他の人にしている事を知ったら彼女が気を悪くする。君は私と同じで女心がわからなそうなので、忠告しておく。」

「明日はひとりで大丈夫ですか?」
「君の大学時代の後輩がちょうど研修にくるっと言っていたのを忘れていたかね。君に面倒見てもらおうと思っていたのだが、私が替わって面倒を見よう。」

「ああ、あれ明日でしたね。忘れていました。ではよろしくお願いします。」

次の日R邸の門をくぐり玄関までF嬢を迎えに行った。F嬢がJのマンションに来たいと言ったが、散らかっているのでと何とか断って迎えに来る事にしたのだ。

チャイムを押した。
ドアが開き執事らしい初老の紳士が中へ招き入れてくれた。
「J様ですね、お待ちしていました。こちらへどうぞ。」

前回来たときは誰も居なかったように感じたが、表に出てこなかっただけだろう。
R氏は居ないのかな、居ないんだろうな。

すぐにF嬢が現れた。
F「時間ぴったりですね。では行きましょう。」
J「行きましょうってどこへ」

F「行き先は内緒よ、それとも私の部屋で朝まで過ごす方がいいかしら?」
J「からかわないでください。どこへでも行きます。」
F「では乗ってJさん。それとも運転してみる?」

スポーティーではあるが品の良い車が玄関のそばにいつの間にか置いてあった。
J「いえ、助手席で結構です。私は助手ですから。」
F「あはは、それおもしろい、今度博士の前で言ってみましょう、では、出発!」

F「ところで、宇宙誕生説はビックバン説の他にあるってどこかで聞いたことあるんですが、ご存じですか。」
J「ええ一応。有名なのではインフレーション理論、と量子宇宙論というものがありますが、インフレーション理論はビックバンの延長上にあると言って良いでしょう、量子宇宙論はやや難解で宇宙はなにもないところから生まれたり消えたりしていると言うのが結論になります。これは量子力学を使って説明しようとしているものです。」
F「量子力学の世界では物質は存在そのものがあやふやだというあれですか。」

J「そうです。しかしFさんはおもしろい女性ですね。こういう事に興味があるとは。」
F「女らしくなくてごめんなさいね。わたしってあまり友達がいないの。女同士ではなかなか話しが合わなくて。男性も同じで父に紹介された見合い相手もすべてだめだったわ。今回も父の策略だったみたいだけど、きっと博士にJさんの事を聞いていたのね、わたしにぴったりみたいだわ。わたしあなたに逆らう気は無いけど頑固なところもあるのよ。もうわかっているかも知れないけど。」

J「今日ほんとに一緒に泊まるんですか。」
F「あれっ任せるって言ったわよね。ホテル予約しておいたけどいけなかったかしら?」
J「実は女性とお付き合いしたことなくて、1泊どころか二人だけのデートも初めてなんです。」
F「心配しないで、わたしだって見合いはしたけど結局ちゃんとお付き合いしたこと無いし、それにあなたのいやがることを無理強いするつもりもありませんから。それともわたしって魅力無いかしら。」

J「とっとんでもありません。とても魅力的です。それにFさんのしたいことでいやがる事なんてありません。」きっぱり、ちょっと期待。

F「着いたわ。」
J「ここって水族館ですよね。」
F「普通すぎておどろいた?私魚見るの好きなのよ。嫌いでしたか?」
J「いいえ、ただ子供の頃しか見たこと無いです。食べるのは好きです。」
F「こらっ、わたしつっこみはだめなのよ。あまりボケないでね。」
2時間ほど見てまわり外へ出た。
Jにとって過去最高の楽しい時間だった。

F「次はどこだと思う?」
J「とっても普通だったから次も普通で動物園か遊園地。」
F「当たり。じゃこれ当たったごほうび。」ちゅ!
J「うわっ!」
F「ふふっそんなに驚かないで、さっき私のしたがることでいやがることは無いと言ったので思い切ってしてみました。それとも唇が良かった?」
J「もっもちろん嫌では無いです。あまりに急でびっくりしただけです。くっ唇にもしてみてもらいたいです。」
F「じゃああなたからしてみて!」
J「そっそんな、いやふつうそうですよね。宇宙船の件があったので、時間が無くて調べられなくて。やっぱり唇は夜に取っておきませんか?」
F「いいわよ。でも必ずあなたからしてね。もうすぐ着くわ。でも最初に食事にしましょう。」

車をレストランの駐車場に入れ、レストランの中へ入った。
F「不謹慎かも知れないけど、この間の宇宙船観測本当にワクワクしたわ。それにあなたのそばで仕事できるのもいいわね。」
J「普段は地味な仕事ですよ。あんな事は私も初めてです。あのあと結局あの宇宙船はどこかへ行ってしまいました。地球の物ならそんな動きはしないはずですから、やはり異星人だったのでしょうね。」

F「ところで時間が無くて何を調べられなかったの?これおいしいわ。」
J「女性をどうやったら喜ばせることができるかとか、デートコースはどうだとかです。」
F「そう?私はあなたといられれば、それで充分だけど、できればおもしろいところがいいわね。男女にこだわらないで人間として分かり合えればいいと思うわ。
そうあなたも次はどこかへ連れて行ってくださいね。期待しているわ。
そうだ、あなた泳げる?」
J「300m位なら学生時代泳ぎましたけど今は分かりません。
沈みはしないと思いますが。」
F「じぁあ決まりね。次は海へ行きましょう。」
J「海ですか?」

二人は食事が終わって遊園地へ向かった。
Jは高速で回転するものや、ジェットコースターのたぐいが苦手だったが、一生懸命Fに付き合った。

J「いやー疲れました。最初怖かったけどだんだん慣れるものですね。」
F「初めてにしてはすごいわ。さて次はホテルよ。」
J「えっあれっもうこんな時間だ。」
F「さっきの約束忘れていないでしょうね。期待しているわよ。女はできるだけいい雰囲気でキスされたいものなのよ。」
J「がっがんばります。」
F「なんだかワクワクしますね。」
J「あまり期待しないでください。キスの仕方なんて、なにしろ研究していないんですから。」
F「本やネットで研究しなくていいのよ。私で研究して。」
J「しかし、Fさんは女性にしてはすごいこと平気で言いますね。」
F「そう、それが私の女としての欠点ね。分かっているのだけれど、性格は変えられないわ。こういう性格大丈夫?」
J「大丈夫、...だと思います。」

二人はホテルへ着いた。
その夜二人が結ばれたのは言うまでもない。





K「今日から1ヶ月間よろしくお願いします。」
博士「君の専門は宇宙鉱物学だったね。」
K「はい宇宙工学と宇宙鉱物つまり隕石の調査をやってきました。」
博士「私はJ君の後輩と言うからてっきり、若いへんてこな男が来るものと思っていた。」
K「すいません女で。男と思ってきびしく扱って結構です。」
博士「実はちょうどR氏の会社から隕石の調査を頼まれているんだよ。もう既に掘り出して、まもなくその一部が届くことになっている。準備をしてくれたまえ。」
K「そうですか、では分析装置を見せてください。」
博士「隣の部屋だ。こちらへ。自由に見ていてくれたまえ。」
事務員「博士荷物が届いています。」
博士「やあ隕石が届いたようだ。」

K「博士、いい感じに切り取られていますね。さっそく取りかかってよろしいですか?」
博士「もちろんだ、しかしなんだか良い予感がする。これはすごい隕石かも知れない。」
K「わたしR研究所へ行って日本で有名なH博士の知識をいっぱい吸収してくるように言われてきたのですが、予感とはどの様に吸収したらよいか分かりません。科学者にとってひらめきは大切だと教わったのですが。」
博士「J君も最初そんなことを言っていたが、最近は別な物を吸収して少し感が働くようになった。おやこれは見たこと無いな、地球には無いものだろうか。」
K「すごく透明ですね。反射が無ければ、見えないくらいです。早速分析してみます。Jさんと言えば今日はお休みですか?」
博士「今日と明日休みだ。ここへ来て始めての休みだ。この部分を切り取って電流を流してみよう。最初は弱く徐々に電圧を上げて。」
K「電流ですか?了解しましたが、装置はどこにあるのでしょう?」
博士「そうだな。それは用意しよう。それとレーザー光を当ててみよう。」


博士「まるで発光ダイオードだな。僅かな電流で効率よく発光する。しかも色が変化する。それが発光ダイオードと違うところだ。」
K「電圧で色が変化するなんて聞いたことありませんよ。これはすごい発見です。」
博士「分析してこれと同じ物が作れれば、新方式のディスプレーができる可能性がある。」
K「レーザー光の方もやってみます。」
博士「レーザーが屈折しないな。透明度の高い石英にも見えるが性質はまるで違う。分析は君の専門だ。そっちは頼むよ。」
K「はい、始めています。ところでさっき別の物を吸収とかおっしゃっていましたが、何のことですか?」
博士「言えん。君が男なら言っても良いが、君のように若い女性には私の口からは言えない。J君が来たら聞くんだな。」

次の日
K「まだ全部ではありませんが結果が出ました。例の透明な物質は確かに地球には無いものですが、分子レベルでは地球にたくさん存在する物質で生成は可能です。」
博士「やはりそうか、では続きはお願いすることにして、これまでのデータを保存しておいてくれたまえ。私は報告書の作成に入る。」
K「あのー」
博士「何かね」
K「博士はこのことをはじめから分かっていたような雰囲気ですが、どうしてですか。」
博士「そうかな、だとしたら単なる感だ。」
その日は分析と報告書の作成で1日が終わった。

そしてその次の日助手のJが帰ってきた。
博士「よくもどった。もうこないと思ったよ。」
助手「ひどいですよ博士。他に行く所なんて無いの知っているくせに。こちらがKさんですね、初めましてJです。」
K「Kです。お待ちしていました。実はJさんにお聞きしたいことがあって。」
助手「何でしょう?」
K「博士が教えてくれないんです。ひらめきというか思いつきと言うか博士には鋭い感が働くようですが、どうすればそれを、吸収し自分のものにできるかを。」
助手「それは私にも分かりません。無理な領域だと思いますよ。第一、科学的じぁあ無い。」
K「博士がおっしゃるには、Jさんは何かを吸収して、感が鋭くなったとの事です。」
助手「はて、私にも分かりませんが。」
しかしJはひらめいた。まさか!
屁だ。

博士を見た。
博士「私の口からは言えん。Kさんも1ヶ月いることだしその間には自然と吸収すると思うが。」
K「Jさんなにやら気がついたという顔をしていますね。教えてください。」
助手「そっそれは博士と長時間いっしょにいると自然と吸収するもので、博士のオーラと言うかエッセンスと言うか、とにかく科学的では無いものです。当てになりません。」
化学的生成物ではあるのだが。

しかし、しばらくして、それはやってきてKさんもしっかりと吸収と言うか、吸入し理解した。
後に博士の予想したとおり新型のディスプレーは完成し、R氏の会社はまた大いに儲かることになる。


10

助手「博士、やはりFさんに2週間も会えないとつらくて死にそうです。しかも仕事をしていれば、気が紛れるのにKさんに仕事取られてしまって、頭の中がどうにかなりそうです。」
博士「それは予想されていたことだろう。仕事ならある、これをまとめてくれ。」
助手「有り難うございます。うわっこれ今度発表する論文じゃないですか。」
博士「骨子はここにまとめてある。これを文章にしてくれれば良い。」
助手「こんなの私に任せていただけるのですか?」
助手「なになに私の屁には不思議な作用があり、助手のJ及び外部から来て研修中のKは屁を嗅ぐたびに感が鋭くなっている。...何ですかこれは?こんなの発表するつもりですか?」
博士「わっそれは表紙と中身が入れ違った。これだこれだ。」

助手「なになに、最近の重力波の測定結果と超新星の誕生についての...なるほど。でも先ほどのは何ですか。」
博士「彼女は美人なのに科学者になるくらいだから、多少変わっているのだろう、わたしのそばにいると本当に感が鋭くなると思っているようで屁を一生懸命吸い込んでいるようなのだ、そこでいろいろなテストをしてみたんだが、これがその結果だ。まだ12日しか経っていないが、この3択問題など当たる確率が飛躍的にあがっている。そのほかのものも同等にあがっている。馬券を買わせたい位だ。」

助手「本当ですね。信じられません。」

K「博士R氏から緊急連絡です。」
博士「はい、そうですが、ええっなんですと。本当ですか、Fさんが誘拐された!J君には内緒ですと!、って目の前で聞いているし。J君聞かなかったことにしてくれ、どこでですか?はいっ、はいっ、もしもし、切れた。」
J「Fさんが誘拐ですって!聞かなかったことになんて無理です。うわーっ!どうしよう。明後日帰国予定なのに。うわーっ!そうだ携帯だ。」くるくるポン
「だめだつながらない。」
博士「予定より早く帰って今日成田に着いたそうだ。それでJ君にここでしか買えない落ちない飛行機のおみやげを買うと言って、一人になった隙をねらわれたらしい。これからR氏は自宅へ帰るそうだから私もR邸へ向かう。君も行くか?」
J「もちろんです。」
K「私はどうすれば良いでしょう?」
博士「君は定時までここに残って留守番を頼む。なにかあったらここへ連絡をくれ。」
K「了解しましたが、博士にひとつだけお願いがあります。おならを一発このビンにいただけませんか?」
博士「そんなものをどうするんだね。」
K「博士のおならを嗅ぐとインスピレーションがアップするのは博士もご存じだと思いますが、今日は特にその力が数十倍アップする予感がするのです。それでF嬢を探す手がかりがつかめるかも知れません。」
博士「分かった、ちょうどいま出るところだ。J君そのビンを私の尻に当ててくれ。準備はよいか。」ブッブッブー
K女史がそのにおいを嗅ぐ姿は想像したくない。

30分後博士と助手の二人はR邸にいた。警察が既に逆探知の設置を始めていてあわただしい。

しばらくしてR氏が自家用ジェットヘリで到着した。
警察としばらく打ち合わせをしていたが、30分ほどで博士たちの所へ来た。
R「困ったことになった。私の携帯に一度脅迫めいた内容が掛かってきたので、単なる行方不明で無いことは確かだ。その内容は『娘は預かった、後で連絡する』と言う簡単なものだった。航空警察に連絡して周辺を封鎖して検問してもらったのだが、今のところ引っかかっていない。博士のするどい感は何か訴えていないかね。」

博士「それが、私の感は研究に関することには働くのですが、犯罪にはいままでヒットしたことがないのです。しかしK女史ならひょっとして...」

その頃K女史はビンのふたを開け、まともににおいを嗅いで気絶していた。

11

R「K女史?確か隕石が専門の。」
博士「そうです、ご存じでしたか。ところで奥様はどちらですか?」
R「今日中にはここへ来ると思うが、沖縄の店に行っている。K女史は教授に頼まれてR研究所へ入ってもらおうと思っているんだ。もちろん君の賛成が得られればだが。今君の所へ研修に行っているのではないか。」
博士「R研究所が大所帯になるのは歓迎です。しかし本人の希望を優先してあげませんと。」
R「本人は何かいっていなかったかね。」
博士「こちらへ来たいかどうかは分かりません。ただ..」
その時電話が鳴った。

刑事「打ち合わせ通りお願いします。では出てください。」
R「...はい、そうだが、はい、娘は無事か?もしもしっ。だめだ切れた。」
刑事「どうやらプロの様だ。逆探知できないよう考えている。」

J「なんて言ってきたのですか?」
刑事「録音してあります。再生しましょう。」

再生「R氏だな、明日までに旧札で10億円用意しておけ、受け渡し方法は、追って連絡する。現金を確認しだい娘は返す。」
R「どうしましょうか。こういった場合受け渡しの時が犯人逮捕のチャンスと思いますが、犯人は現金を確認後娘を返す、と言っています。」
刑事「明日までに10億円用意できますか?」
R「すぐに用意します。」R氏はすぐにどこかへ連絡した。

J「Fさんが心配です。」
R「心配してくれて有り難う、私も身を切られるような思いだ。ところでこんな時なんだが、君は私の娘と結婚する気はあるかね?」
J「はいっもちろんです。Fさんのいない宇宙なんて考えられません。」
R「そうか、それは良かった。念のため言っておくが私の会社の事は考えなくて良い。こんな苦労を子供に引き継がせる気は無いからな。」
J「博士、犯人逮捕に良い方法は無いでしょうか?」
博士「残念だがこういったことには我々は素人だ。専門家にまかせるしか無い。」
J「逆探知ができないようですが1秒で電話が切れても逆探知する方法は無いですか?」
博士「私にはわからない。君の若い脳では何か浮かばないかね。」
J「うーん、うーん、浮かばない。」

定時になり事務員が帰り支度をしていたら、倒れていたKに気づいた。
「大丈夫ですか?いったいどうしたのですか。」
K「うーん、...大丈夫です。そうだR邸に行かないと。」博士に連絡を入れてみよう。
「もしもし、博士、これからそちらへ向かいます。」

渋滞のため50分かかってR邸に着いた。

K「Kです。Rさんたいへんなことになってしまいましたね。私にできることがあったら何なりとお申し付けください。」
R「ありがとう。今のところ思い付かない。....そうだ博士がK女史ならと言いかけていたようだったが」

博士「そうそう何かひらめきませんでしたか。」
K「残念ながら、今のところは何も。しかし博士がそばにいればひらめくかも知れません。」
博士「そうですか。」

そのときまた電話が鳴った。
刑事「どうぞ」

「...はい。R4ビルの屋上明日7時?娘は無事か?声を聞かせろっ、なに、フラフープにアドバルーン?せめて娘と引き替えにしてくれないか。もしもし、切れた。」
J「なんて言ってきたのですか?」
R「要約すると現金を丈夫な袋に詰めて、ひもで結び上にワイヤーをフラフープ状にしたものを付けアドバルーンで、ワイヤーがあがるようにしろと。」
J「博士どう思います?」
K「おそらく小型飛行機で引っかけて持ち去ろうとしているのでしょう。」
博士「その可能性が高い。Kさん鋭いじゃないですか。」
J「刑事さん、もしそうだとしたら追いかけられますか。」
刑事「セスナ機だったら、警察のヘリでも追跡可能です。今日はもう犯人からの連絡は無いと思います。皆さんは休まれたらいかがですか。」

R「そうですね、皆さんには食事が用意してあります。こちらへどうぞ。」
J「私は食欲がありません。」
R「それは私だって同じだ。しかし今日の夜は長い、私ひとりでは心細いのだ。たのむJ君、最後まで付き合ってくれる気があるのなら、食事も付き合ってくれないか。」
J「わかりました。Fさんが帰ってくるまで是非付き合わせてください。」
博士「しかしFさんが戻るまでは犯人を刺激するわけには行かないのでは無いか、ヘリで追いかけては危険だと思う。」
J「そうですね。」
R「せめて現金と交換ならな。わたしは娘さえ帰ってくれば10億など、どうでも良い。」
K「お金の中に発信器を仕掛けるのはどうですか。Fさんが無事戻ってから犯人逮捕をすれば良いのでは。」
刑事「おそらく犯人はそれも想定して、警戒しているでしょうが、絶対に気づかれない方法でやってみる予定です。」


12

Jは「みんなそろって何やっているの?」とF嬢か今にも帰ってくるような気がした。

ふいにデートの思い出がよみがえった。
あはは、それおもしろい、今度博士の前で言ってみましょう、では、出発!
じゃああなたからしてみて

今どこにいるのだろう。つらい思いをしていないだろうか。
こらっ、わたしつっこみはだめなのよ。
あの声を聞きたい。

料理が目の前にあったが、目は料理を見てはいなかった。
手が自動運搬機のように料理を口へ運んだ。

明日もずっといっしょよ。
ヨーロッパのおみやげはなにがいい?えっ成田の飛行機のおもちゃ?
眠いの?大丈夫?
ねえもっとこっちへ来て!
好きな人とこうして抱き合っているのって、いいわね。

J「あぁー!あの時、飛行機のおもちゃなんて言わなければ。」

K「もしもし、大丈夫ですか?」
J「はあ、食事中でしたね。すいません、大丈夫です。」

執事「奥様がお帰りになられました。」
O「あなた、どうしましょう、娘は無事でしょうか?刑事さんお願いします。娘を取り返してください。」
R「今日の所はどうしようもない。眠れる人は寝てください。客室にベッドを用意しました。」
O「私は眠れないけど別室に失礼するわ。あなたは?」
R「ここにいる。」

K「博士、来てます。来てます。」
博士「どうした。インスピレーションかね?」
K「そうです。博士もう1発でませんか?そうすれば映像が見えそうです。それとF嬢の写真があればもっと良いです。」
R「なんのことかわかりませんが、写真ならここにあります。」
博士「そういわれても、さっきみたいにタイミング良くはでないよ。」
J「私ではだめですか?たぶんでますけど。」
K「だめです。」きっぱり
K「研究所で嗅いだことありましたが、さっぱりでした。」
博士「Rさん芋はありませんか?さつまいも、できれば焼いも。」
R「たぶんあると思う。すぐ焼いて来させよう。」

10分ほどで焼き芋が出された。
博士は早速それを食べ、さらに20分後そのときが来た。
K女史は直接嗅いで気絶してはいけないと思い少し離れてにおいを嗅いだ。

K「見えました。暗くは無いです。窓が無く地下室のようですが、部屋の中はホテルの一室のように快適そうです。Fさんは元気です。縛られてはいませんが、見張られています。食事も済んだようで食器がまだそのままです。」

刑事「そこがどこかわかりませんか?」
K「オフィスビルの様です。周りの状況から見て都会です。ただ私の知っている風景ではありません。看板が読めれば良いのですが。そこまでは見えません。」
刑事「スケッチできますか?それと犯人の顔はわかりますか?」
K「はい。スケッチはできます。犯人の顔まではわかりません。」
Kはさらさらと風景を描き始めた。

しかしこの中でその風景から場所を特定できる人はいなかった。
J「場所はここから遠いですか?」
K「待ってください、たった今都市のわかる看板が読めました。γ市です。」
J「Rさんネットをやりたいのですが、ネットでγ市の衛星写真を片っ端から調べて、この場所を探そうと思います。」
K「Jさん今おならをしませんでしたか?映像が消えました。」
J「えっ、わたしの屁はマイナス効果ですか!FさんKさんごめんなさい。確かにでました。」
R「これを使ってくれたまえ。」
Jは検索を開始した。Kも画面を眺めていたがJの屁でインスピレーションは吹っ飛んでしまって、なにも感じない。

2時間ほど経過した。
博士「ちょっと待て、ここを拡大してくれ。どうた、似ていないか?」
K「さっきならわかったと思いますが、今はさっぱりピンと来ません。でもこの形、似ていますね。」
刑事「捜索してみましょう。」
J「ここに居ますように。刑事さん、私も行ってはだめですか?」
刑事「車で待機ならかまわないでしょう。それ以上はだめです。」


13

J「あのビルですね。」
夜だと言うのに都会は明るい。
刑事「ではここで待っていてください。」
J「どうするんですか?」
刑事「まだ招集した警官が、来ていません。そろってから聞き込みを開始し、犯人が居たら説得します。」
J「Fさんに危険は無いでしょうか。」
刑事「今考えられる最良の手段です。」

J「私がスーパーマンならいいのに。こんな時何もしてやれない。」

ふいにまたデートの思い出がよみがえった。
本やネットで研究しなくていいのよ。私で研究して。
私があなたを研究して、あなたが私を研究するの。
いま何考えた?エッチなことでしょう?

お風呂上がりのFさんのまぶしかったこと。
すぐそばに居るかも知れないと思うと居ても立ってもいられなかった。

冷静にならなければ、私が行っても足手まといになるだけだ。

私が危険な目にあったら助けに来てくれる?
もちろんです。

そうだ、あの時約束したんだ。

Jは車から降りて刑事を捜した。
J「刑事さん、やはりじっとしていられません。何かさせてください。」
刑事「だめです。安全な場所にいるのが、一番の手伝いです。Fさんを助けたくないのですか?」
警官「そろいました。配置に付きます。」
刑事「よろしい、では聞き込みに行く。」
Jは置き去りにされ、二人の刑事はビルの中へ消えていった。
Jは刑事にさからってだいぶ後ろから付いていった。

夜なので警備室を通過しなければならない。
刑事たちは、警察手帳を見せていたようだ。
警備員「何でしょうか。」
J「ちょっと遅れたが警察だ。」
警備員「どうぞ。何かあったのですか。」
J「捜査上の秘密で言えないが、ひょっとすると危険かも知れない。注意するように。」
警備員 「了解です。あそこにいるのは警官でしょう?なにかあったら逃げますよ。」
かんたんに通り抜けられた。

刑事がドアをノックした。
ドアが開けられすぐまた閉められた。と思いきやさすがに手慣れていて、刑事は靴を挟んでドアを閉めさせなくしていた。

「たすけて!」Fの声だ。ここに間違いなかった。
中の犯人がひとりなら何とかなる。
そう思ったJは急いでドアに駆け寄った。銃声が響きひとりの刑事か撃たれた。
もうひとりの刑事が銃を構えて部屋に踏み込んだ。
Jも危険を顧みず部屋に飛び込んだ。
F「Jさん!来てくれたのね。」
J「Fさん。大丈夫ですか?」
F「今のところは大丈夫です。」と言いながらも、犯人に拳銃を向けられていた。
J「私が来たからにはもう大丈夫と言いたいけど、この状況では期待しないでください。」
犯人「近寄るな!近寄るとこの女を撃つぞ。銃を捨てろ。」
刑事は迷っている。
刑事「この建物は包囲されている。絶対逃げられない。絶対にだ。今なら誘拐罪と殺人未遂、拳銃不法所持罪で済む。その女性を殺してみろ、殺人罪で死刑か、一生ブタ箱行きだ。」
この刑事はひとり刑事が撃たれたのを忘れている。それとも知っていてわざと言っているのだろうか。
それに誘拐罪は相当重い罪だ。このことを教えてやるべきだろうか。と真剣に考えていたJであった。
しばらくその緊張状況が続いた。

ふいにFがJの後ろを見た。銃声を聞きつけた警官達が駆けつけてきたのだ。
もうちょっとこの状態が続けば、Jは犯人に飛びかかっていたかも知れない。
さすがに大勢の警官に囲まれ犯人は、あきらめたようだ。

犯人「今回は負けだ、しかしひとつ教えてくれ、そうすればおとなしく、捕まってやる。どうしてこんなに早くここがわかったのだ。」

刑事「教えてやろう、日本の警察も、犯人逮捕のため超能力者を使うことにしたのだ。
だからもう悪いことはできない。わかったか。」

犯人がこんな言葉を普通素直に信じられるわけがない。だとするとおとなしく、捕まらないだろう。

犯人「なんとそうだったのか?。」拳銃を刑事の方に放り投げて、手を挙げた。

JはFに駆け寄った、FもJの方へ駆け寄ってきてしっかりと抱き合った。

犯人に撃たれた刑事は一命をとりとめた。従ってもうひとりの刑事のセリフは真実となった。

少しして連絡を受けたR夫妻が駆けつけた。
R「いろいろ話したいが疲れているだろう、夜も遅いし今日は帰って休もう。」
F「はい。心配かけてごめんなさい。私なら大丈夫。」
O「無事で良かった。」
J「博士達は?」
R「無事の知らせを聞いて帰ったよ。君は明日休んで娘といてやるようにと、伝言を頼まれた。」

F「Jさん明日休むのならもう少し一緒にいて!」
R「もし良かったら家に泊まっていってやって欲しい。今の娘には君が必要なようだ。」

3人はRの車でR邸へ向かった。



14

R邸に着いたFはすぐに入浴をすませ、待っていたJの所へ来た。
R夫妻はFの無事に安心して別室へ消えた。

F「今日は私が眠くなるまでそばにいてね。」
J「はい、喜んでそばにいます。」
F「明日は警察に呼ばれてるの。一緒に行ってくれる?」
J「もちろんです。二週間近くも離れていてつらかったです。」
F「そう言ってもらうと、うれしいわ。私だってあなたに逢いたかった。だからいそいで仕事を済ませて、帰国したのよ。でもあなたへのおみやげ買いそびれちゃった。ごめんなさい。」
J「何言っているんだ、君が無事なのが何よりだよ。」
F「ね、抱いて!」
J「え!」
F「ぎゅってするだけでいいのよ。」
J「こうですか?」
F「そう、あなたとこうしていると安心するわ。」
J「私はちょっと興奮したりして。」
F「ごめんなさい。今日はその気になれないの。」
J「冗談ですよ。」そう言いながらもなぜか腰が引けていた。

次の日二人は警察へ行きFは簡単な事情聴取を受けた。
Jは別室で待っている間、博士に電話した。

J「もしもし、博士、ええ、今事情聴取を受けているところです。すぐ終わるそうです。R氏は自宅です。えっ気絶していたんですか?Kさんが?はあ、どういう事ですか。」
博士「事務員が発見してくれたらしい。まあ何事もなかったそうだが。
Kさんに聞いたら、例のビンのにおいを嗅いだら意識を失ったらしい。私だって気絶するにおいだ。しかし今回はKさんが大活躍した。R氏はKさんをこの研究所へ入れたいと言っているが君の意見はどうかね。」
J「私は別に問題ないと思いますが、隕石の調査に関しては頼もしいですしね。」
博士「それもあるが彼女の超能力は、半端じゃない。私の専門ではないが、一緒にいて、いろいろ実験してみたいんだ。」
J「私も協力します。」
博士「君はこれからR邸へ行くのかね。もしそうだったらR氏にKさんの件、私も、本人も喜んで承知したと、伝えてくれたまえ。」
J「了解しました。」

F「博士に電話してたの?」
J「はい、じつはKさんが、かくかくしかじかで、気絶したり、犯人の居場所を透視したりと、大活躍だったんです。」
F「刑事さんからも彼女の透視のことは聞きました。今からお礼に行きましょう。」
J「これからですか?」
F「私はまだ彼女に会ってもいないのよ。お礼を言うのに早すぎることはないわ。」

20分後二人はR研究所へ着いた。
博士「なんだ、来たのか?」
助手「なんだは無いでしょう。FさんがKさんにお礼を言いたいそうです。Kさんは?」
F「博士、博士にも心配をかけてしまってごめんなさい。」
博士「Kさんはあっちの部屋だ。私はなにもしていないよ。あっ屁を2発ほどしたかな。私の屁が役に立ったのは初めてだ。とにかく無事で良かった。」実は2回目である。

二人は隣の実験室へ行った。
Kさんがなにやら熱心に実験をしていた。
J「Kさん、こちらがFさんです。」
F「初めまして、今回は、気絶してまでがんばってくれたそうで、ありがとうございます。あなたがいてくれなかったら私はまだ、犯人に捕まったままだったと思います。」

K「わたしも、自分にこんな力があるなんてちっとも知りませんでした。ここへ来て、博士に会って自分の能力が開花したのです。で先ほど聞いたのですが、これから正式にこちらでお世話になることになりました。これからは研究所のためにこの力を利用したいと思います。」
J「すごい能力ですね。どんな研究に役立つのか楽しみです。」
F「では、父と話をしなければいけないのでこれで失礼します。」

J「博士、じゃあ明日はちゃんと来ますから、今日はまたR邸へ行きます。」
博士「どうやら君よりKさんの方が優秀らしい。君はずーと休んでいてかまわないぞ。」
J「ひどいですよ博士。他の人が聞いたら真に受けますよ。」
そのあと博士に別室に呼ばれた。
博士「J君、君はR氏から結婚の話をされて、そのつもりだと言っていたね。彼女はおそらく君の口から結婚の話を聞きたいだろうから、R氏が言い出す前に言った方がいいと思うよ。」
J「そうですね。有り難うございます。がんばります。」

F「ずーと休んで良いなんて相変わらずですね、博士は。わたしもこんなところで働きたいわ。」
J「えっ、まじっすか?」
F「こらっ、今度はそういうボケをはじめたの?似合わないからやめなさい。」
J「はい。」
F「なんだかうれしそうね。」
J「そりゃあそうです。会いたくて仕方がなかった人と、こうしていっしょにいるんですから。」
F「私も同じよ。ところでひとつ教えてほしいことがあるんだけど。」
J「何でしょう?」
F「宇宙ってどこまで広がっているの。果てはあるの?」
J「それを一言で説明するのは難しいです。」
F「じゃあ一息で言いなさい。」
J「博士のボケのまねですね、では乗らせてもらいます。せーの、宇宙に果てがないとすると、宇宙が無限に大きいことになっておかしな感じがしますし、かといって果てがあるとするとその果てのむこうは何なのか、宇宙ではないのか?ということになって、どちらにしてもおかしな感じがします。はあはあ、だめだ。とても一息では言えません。」
F「そうね、確かにどちらもおかしい気がするわね。これはビックバン以前の宇宙をイメージするのと似ているわ。」
J「その通りです。しかし現在の物理学では、一応の結論を出しています。それは。」
F「それは?」
J「地球で地平線よりも向こうが見えないように、宇宙でもあるところより向こうは見えないという境界があります。つまり,見かけ上の「果て」があります。宇宙には始まりがあるので、光は無限に遠くまで進めるわけではなく、進める距離に限界があるからです。それは100億光年以上も向こう側なのですが、その外側がどうなっているのか、地球の人間にはわかりません。」
F「結局分からないと言うことですか?」
J「はっきり言ってしまえばその通りです。しかし、その「果て」は見かけ上のもので、理論的には、その外側にも同じような宇宙が広がっていると考えられています。その先に宇宙が無限に続いているのかどうかは、いまのところよくわかっていません。ただ、宇宙は有限だけれど果てがないという可能性も考えられています。それは、地球の表面みたいなもので、地球の表面というのはどこにも果てがないのに、面積は有限ですね。宇宙もそれと同じように、果てがないのに体積は有限なのかもしれません。いまのところ、宇宙が全体として無限か有限かよくわかっていないので、まだどちらの可能性もあります。
果てのない宇宙というのは想像するのは難しいと思いますが、だからといって必ず果てがあるはずだということにはなりません。果てがあるとすればそれは我々の想像力の方かもしれませんね。」



15

R「おかえり、J君ご苦労だったね。まあ座りたまえ。」
J「少しでもお役に立てればうれしいです。早速ですが、Fさん、ご両親のいるこの場で、お話があります。」
F「はい、何でしょう?」
J「いますぐで無くても良いです。私と結婚してください。それにRさん彼女がOKだったら娘さんを私に下さい。」
F「あらっ!今回は先を越されたわね。でもうれしいわ。喜んでお受けします。」
R「それは良かった。私からも祝福しよう。」
J「有り難うございます。」博士のおかげだ。
博士の言葉がなかったら、こうはいかなかったろう。

R「ところで、良い話の後で恐縮だが、今回の事件で私もいろいろ考えた。是非君たちの意見も聞かせてほしい。私は今まで通りボディーガードを付けるから良いとして、娘の安全をどう守るか、ということだ。私の秘書をやめてもらおうかとまで、考えている。あまり外回りのない仕事に変更してもらうか、ボディーガードを別に付けるか。どうだろう。」
F「私R研究所のお手伝いをしたいわ。もちろんその方面の勉強していないから、足手まといになりそうだけど。」
R「それも選択肢の1つだな。だが、あそこは技術者の集団だから博士の意見も聞かなければ何とも言えん。それにKさんにも手伝ってもらうことになったからな。ふたりも一度に増えて面倒を見切れないとも言い出しきれない。」
J「博士から、宇宙船の報告は聞いていると思いますが、Fさんの活躍は聞いていないですか?」
R「ちょっと聞いてはいるが、博士も私も半信半疑なのだよ。それに公にするつもりもない。」
J「彼女は予知夢の能力があるようです。間違いありません。これはきっと研究の役に立ちます。」
R「博士はギャグ好きのへんなおじさんだが、すばらしいひらめきを持っている。そこへKさんの透視能力と、娘の予知夢か?すごい研究所になるな、まるで超能力研究所だ。科学者というのはひらめきが大切だと言うからな。ではこの件は博士に一任することにしよう。」
R「それと私の気持ちが落ち着くまで、やはり娘が外出するときはボディカードを付けたいのだが、それはどうだろう?」
J「デートの時もですか?」
R「もちろんだ。たぶん1ヶ月もすれば気持ちが収まる。今は不安でしようがないのだ。分かってほしい。」
J「それは仕方ないですね。確かに私一人で暴漢を防ぎきる自信はありません。了解しました。Fさん良いですか?」
F「はい。未来の旦那様。」

O「Jさんのまえでは信じられないくらい、素直な娘になるのね。良いカップルだわ。こんな事がなければ、婚約披露パーティーをしたいくらい。せめてみんなで食事をしましょう。用意はできているわ。」

最初にJがFから招待されたプライベートダイニングへ案内された。
R「J君は好き嫌いはあるかね。私は海外へ行くといろいろなものを出される。中にはどう見てもゲテモノとしか見えない珍味があり、見た目で遠慮してしまうんだ。そこへ行くと妻は何でも食べる。フランス生まれだからヨーロッパの料理は好きなようだが、妻がうまそうに食べているのを見て、おそるおそる食べてみると、中にはとてもうまいものもある。」
J「今のところ、ありません。ただ珍味と呼ばれるものはほとんど食べたことがないです。」
R「そうか。好き嫌いがないのは良いことだ。ところでひとつ教えてほしい。実は博士には今更聞きづらくて、聞けないことがあるのだ。宇宙の構造についてだ。はたしてずーと向こうはどうなっているのだろうか。」
F「それならさっき聞いた所よ、私から説明するわ。Jさんフォローしてね。」
と先ほど車の中で説明した事を見事に要約して説明した。
F「....ということで、よろしかったかしら?」
J「はい、完璧です。補足することはありません。相変わらず飲み込みが早い。」
R「そうか、早速J君の影響を受けているという訳か。それは頼もしい。これからはこういう質問は娘にしよう。」


ここで登場人物の整理をしておきます。
H博士 Hは博士のイニシャルです
J助手 助手だからJ
R氏 RICHのRです
O 奥さんだから
F 前述したとおりでRが二人になるので女性を意味するFにしました。
K 研修生でスタートしたので
その他ちょい役には名前はありません。



16

博士「Fさんのことは私に一任された。」
助手「知っています。」
K「是非Fさんに来ていただきたいわ。なんだかかっこよくて女の私でもあこがれてしまいます。」
博士「ここは仕事場だ。研究所なので利益の追求はされないが、支出を増やすのも慎重にしないと。スポンサーであるR氏が決めてくれれば気が楽なのに。」
助手「R氏曰く博士の発明で現在のところ、信じられないほどの黒字だと言っていました。ここでの発見や発明がグループ企業によって製品化しているものがたくさんあるそうです。」
博士「そうなの、そんなこと全然知らなかった。どおりでどんな設備でも揃えてくれる訳だ。ではFさんには私の発明の製品化を手伝ってもらうことにしよう。どうもその辺が苦手なのだ。R氏はどんどんお金を使ってくれてかまわない、と言っていたが社交辞令かと思っていた。」
助手「じゃあ来てもらうと言うことでいいんですね。」
博士「一つ条件がある。」
助手「分かっていますよ、博士。博士の前でいちゃいちゃするなって言うんでしょう?約束します。博士の前ではいちゃいちゃしません。」
博士「F嬢にも良く言っておいてくれ。」
助手「了解です。博士大好き!だあーいすき!」
博士「気持ち悪いあっちへ行け。私はそういう趣味は無い。」

F「博士はなんて言ってたの?」
J「私の発明の製品化を手伝ってもらうことにしよう、と言ってました。」
F「じゃあ、一緒に働けるのね。うれしいわ。」
J「一つだけ条件があるそうだ。」
F「なあに?」
J「博士の前でいちゃいちゃしないこと。」
F「なーんだ。私はまた、あのにおいを嗅がされるのかと思った。」
J「えっ、しまった。博士の屁のことを忘れていた。Fさんに二度とあのにおいを嗅がせたくない。」
F「部屋は幾つかあったわよね。」
J「そうか、博士と別の部屋で仕事すればいいのか。」
F「でもあなたのそばがいいわ。」
J「そうすると必然的に博士のそばになる。うわーどうしよう。」
F「私我慢する。」
J「どっちを?私のそばをあきらめるのか、あのにおいを我慢するか」
F「わかんないけど、なんとかなるわよ。でも今の仕事の引き継ぎがあるから新しい職場は来週からね。じゃあその前に今度の休日は、海へ行く約束だったわね。」
J「そうでした。しかしFさんはパワフルですね。」
F「二人だけの時はFと呼ぶ約束でしょ!あなたと遊ぶためには一生懸命になれるのよ。でどんな水着が好き?」
J「えっ水着になるんですか?全然考えていなかった。」
F「あなたらしいわ。まずはビキニでしょ、それにハイレグのセパレート、私、露出の多いのが好きなの。今はスカート付きが多いわね。」
J「あっあまり露出は多くない方が...」
F「じゃあ最新のにするわね。でもなぜ露出の少ないのがいいの?男の人って露出の多い方が好きかと思った。」
J「自分の彼女を人に見られるのはちょっと。」
F「ふつう見せびらかしたいんじゃないの?それとも私を独り占めしたいって言う気持ち?なら許してあげる。女はおしゃれ好きなのよ。誰かに見てもらいたいの。じゃあ特別にあなただけに、露出の多いの見せてあげる。こっちへ来て!」
奥の部屋へ行き観客ひとりだけの水着ファッションショーが始まった。
スタイルが良いのでほんもののモデルのようだ。
F「これなんかどう?すごいでしょ。わたしモデルにスカウトされたこともあるのよ。」
それは良く分かる。Jは目のやり場に困った。
F「あなたは用意してあるの?」
J「無いです。」
F「じゅあ明日いっしょに買いに行きましょう。」
J「現地調達ではだめですか?」
F「そうねその手もあるわね。あなたがそういうなら、そうしましょう。それでは明日は別な用事を入れちゃうわよ。いい?」
J「はい、私は暇ですが、Fさんは忙しいでしょうから仕方ないです。」
F「また『さん』付けした。じゃあ明日は仕事が終わったら、まっすぐ自宅へ帰ってね。」
J「外食もしないでですか?わっわかりました。」
F「あとでメモを渡すからそれを買って帰って!」
J「いいですよ。F...の頼みなら何でも言うとおりにします。」
F「ふふ、今危うく言いかけたでしょ『さん』って。で今日はこれからどうするの?ねっ!」
きわどい水着のまま言われても困るセリフである。しかも、腕を絡めてきた。



17

K「この隕石をカットしたら真っ黒な物質が出てきました。すべての光を吸い取るまるでブラックホールのような黒です、それを分析してみたら、この前の透明の物質と分子レベルでは同じなのに、ちょっと配列が違うだけだと分かりました。やはり電流を流してみましょうか?」
博士「いやそれはひょっとすると、電流を流すより、光を当た方が良いような気がする。J君やってみてくれ。」
助手「このままではだめですね。ちょっと加工しないと。」
さすがに阿吽(あうん)の呼吸で、隕石の黒い部分に線状に加工、光を当てるとともに、電極をセットした。この辺は日の浅いKには、まねできない。丁寧に説明してもらわないとわかるはずもない。しかしJは博士の一言でここまで読み取っていたのだ。
博士「やはりそうか、これは一種の太陽電池だ。光を太陽標準レベルにしてみてくれ。」
助手「今やっています。おおっこれはすごい。電気への変換効率が抜群ですね。」
博士「Kさん大量生産は可能かね。」
K「可能です。例の透明物質と同じです。」
博士「そうか、では製品化の手続きはF嬢に任せよう。我々はそれまで耐久性や、大量生産の方法を検討しよう。Kさんは、耐久性のテストだ。J君は製造方法の確立を頼む。」
J「了解です。Fさんの初仕事が決まりましたね。」
その日は博士の指示どおりの作業で研究所での一日が終わった。

帰る途中、昨日の言葉を思い返した。
F「仕事が終わるまでメモは見てはだめよ。」
封を開けメモを見た。
なになに、牛肉にタマネギ、それから、...これは食材ではないか!と言うことはFさんが家に来て料理を作ってくれると言うことではないか?
たいへんだ、急いで買い物をすませ、家の中をかたづけなければ。
「別な用事を入れちゃうわよ。」って言っていたからてっきり、デート無しかと思った。「まっすぐ自宅へ帰ってね。」というのは、作ってくれるということだったのか。」
急いで買い物を済ませ、マンションに着いた。鍋やフライパンも買った。なにしろキッチンはあるものの、料理なんてしたことが無いのだ。

まるで後を付けられていたかのように、すぐチャイムが鳴った。
J「うわっもう来た。」ドアを開けるとFと見知らぬ、いかつい男が立っていた。

F「うふっ!来ちゃった。この人はボディーガード、空気だと思ってね。」
F嬢は慣れているかも知れないがJにはとても空気には思えなかった。
J「メモを見て、ここへ来ることは想像してましたけど、早すぎますよ。男のひとり暮らしですから、部屋はひどい状態です。幻滅されるとこまるのでちょっと待っててください。」
F「あらっ幻滅なんてしないわ、ありのままのJさんを好きですから。片づけるのなら手伝います。」
J「部屋の片づけはやりますから、じゃあキッチンをお願いします。あのー彼は?」
F「彼はドアの外で待っています。気にしないでください。」
J「私は慣れていないのですごく気になっちゃいます。どこかで時間をつぶしててもらって、帰るとき呼ぶって言うのはだめなんですか?」
F「言ってみますけど、言うこと聞くかしら?父が頼んでいるので。」

Fが、なにやら英語で説明していた。
F「この部屋の見える場所で待機しているそうです。」
J「それだけでもずいぶんと気が楽です。彼も仕事だから一生懸命なんですね。」

F「さてと、じゃあやっつけちゃいますか!」
Fの仕事ぶりはとてもお嬢様とは思えない、手際の良さだった。見る見る片づいて行く。Jはその辺のものを片っ端から納戸へ放り込むのが精一杯だった。

F「では、片づいたので料理を開始します。あなたも暇だったら手伝ってね。」
J「はい。でもひどいですよ。いきなり押しかけてくるなんて、もう少し時間が欲しかったです。」
F「何言っているのか?こうでもしないと、いつになってもこの家に上げてもらえないでしょう?わたしだって一生懸命考えたのよ!それとも、私に来られてはまずい事でもあるの?これ皮剥いて。」
J「ないですよ。部屋が散らかっているだけです。タマネギですか?」
F「あの天体望遠鏡はなに?向かいのマンションでも覗いていたんじゃない?つぎはこれ。」
J「ちっ違いますよ、家でもひとりで暇だから天体観測をしていたんです、本当です。剥きました。」
F「分かっているわよ、あんまり嫌がるから、ちょっとからかっただけ。ごめんなさい。これで許してね」チュッ
J「うわっ、唇にいきなりっ!」
F「だからそんなに驚かないで。二人きりの時はいちゃいちゃするものよ。お鍋は?」
J「はい。がんばります。あっ買ってきました。」
F「じゃあ。それでお湯を沸かして。お米は買ってきた?」
J「はい、無かったら買うように書いてあったので、買ってきました。」
F「いいところに住んでいるわね。ひとりにしては広いし、寝に帰るだけではもったいないわ。」
J「Fって結構普通の感覚なんですね。Fの家はすごく広いから、せまいって言うと思った。」
F「そうね、私の家は確かに広すぎる。そして両親とも1週間の半分はいないし、私兄弟がいないから、あの家にひとりのことが多いの、そりゃあメイドや執事はいるけど、寂しいわ。お皿はどこ?」
J「食器はあるにはあるけど、ここにあるので全部です。」
F「これだけあれば大丈夫。じゃあ後はちょっと待っていてね。あっコーヒーは?」
J「持ってきます。」
手伝うことが終わったらしいので、テーブルを拭いたりしながら待った。
掃除もしたいところだが、食事の支度と同時というのも良くないと思い、Fを見た。
F「ねえ、私のどこがすき?」
J「全部です。」
F「じゃあ質問を替えるわ、どこが一番好き?」
J「どこって言われても、....」
F「顔と体ではどちら?」
J「どちらかと言えば顔かなあ。」
F「わかった。じゃあ1分間じっくり顔を見て!」
Jはじっくりその端正な顔を見つめた。そしてその唇にキスをした。
J「もし体といったら?」
F「じっくり体を見てもらおうかと思ってた。」
J「やっぱり。では食後に同じ質問をしてください。」
F「いいわ。あなたも言うようになったわね。」
しまった。浴室が汚れたままだ。あっトイレもだ。きっと雰囲気が台無しになる。どうしよう。
F「ところで、宇宙の遠くの星ほど光速で遠ざかっているって以前言ってたわね。そうすると、とっても遠くの星は、光の速さを超えることになりはしないかしら?」
J「言いました。確かに遠くの物は光速よりも速く遠ざかっています。相対性理論をすこし知っていると、光速よりも速いものはないはずなのに、それはおかしいと思うかもしれませんが、これは相対性理論と矛盾してはいないんです。
相対性理論で禁止されているのは、ある出来事の情報が光速以上で他の場所に伝わって何らかの結果を及ぼすようなことで、このようなことがありえないことを「相対論的な因果律」といいます。
この原則が破れると相対性理論では時間を逆行することができることが示され、結果が原因の前に来るという、全くおかしなことになります。
現在の物理学では、基礎原理として因果律は破れてはならない原則とされています。
しかし、もし、光速以上のスピードを持つ物体があっても、その物体が光速以下の物体となんの相互作用もしないのであれば、この物体は相対論的因果律に矛盾せずに存在することができます。このような粒子はタキオンと呼ばれ、物理学の基礎原理に矛盾せずに存在してもかまわないことが知られています。」

F「ちょっと難しいけどタキオンって聞いたことある。」

J「膨張宇宙では遠くの天体はそこまでの距離に比例した速度で遠ざかっています。すると十分遠くの宇宙の速度はどうしてもいずれ光速以上になる必要があります。そうでなければ宇宙全体が一様に膨張することはできません。
ここで、時空間が全く静止した状態で銀河の相対速度だけが光速を越えるならば、上述の相対論的因果律に矛盾するのですが、膨張宇宙とはそういうものではなく、時空自身が膨張しているのです。単に銀河が相対的に遠ざかるということと、時空そのものが膨張するということとの間には大きな違いがあり、時空の膨張の場合、距離の膨張率が光速を越えてしまうような遠方の場所からはどのような方法によっても信号が届くことがなく、全く観測不可能な場所になることが示されます。
これは一種のタキオン状態であり、我々と相互作用のない物体がたとえ光速を越えていようがいまいが物理学の基本原理である相対論的因果律にはなんの問題もない、ということになります。

光速を超えるものは存在しない、という言葉は啓蒙書によく書かれているのですが、これは非専門家向けにやさしく解説した言い方であって、実は正確さに欠けた言葉であると考えておいてください。正確には、光速を超えて情報が伝わってはならない、という言い方の方がより正しいのです。この正しい理解をしていれば、遠方の銀河までの距離が光速を越えて増えていると言われたからと言って、驚く必要はありません。」
F「なるほど、よく分かったわ。光より速いものがあってもおかしくないと言うことね。話している間に料理ができたわよ。食べましょ!」
J「盛りつけ手伝います。」
FとJ「では、いただきます。」
J「本当にFって料理上手ですね。」
F「ありがとう。料理は確かに習っていたけど、好きなのよ。特にこうして食べてくれる人がいると最高よ。」
J「ところで海行くのって2日後でしたね。」
F「母がまた沖縄のお店に行っているの。お店のすぐそばが海だからそこへ行きたいけど、1泊以上無理よね?」
J「ええっ、沖縄!1泊ではきついし、って言うかFも、来週研究所来るんでしょう?」
F「そうね、もちろん、あなたといられれば近くでもいいわよ。今回は1泊だし、次の日は初出勤だし、近くにしますか?じゃあ7時に、迎えに来て!」
J「あのー、明日は逢えないんでしょうか?」
F「もちろん逢えるわよ。うれしい、あなたから言ってくれて。そうだ7時に迎えに来るんじゃなくて、明日から私の家に泊まって!」
J「いいんですか?」
F「もちろんよ、そうだ休日の前の日はどちらかに泊まりましょう。」
J「ここはだめです。汚いしベッドは1つしかない。」
F「任せて。私が何とかするわ。それまでは私の家へ来てね!ここの鍵を1つ頂けません?」
J「しかし...」
F「見られて困るものがあったら、1週間時間をあげますから何とかして!その次の週に掃除と模様替えをします。メイドをここへ入れてもいい?」
J「はい、いいです。キスしていいですか?」
F「いいけどあなた口の周りが汚いわ。私に拭かせて。」
Fは丁寧にJの口の周りを拭いた。
Jは拭いてもらっている途中でFを抱き寄せキスをした。
F「音楽をかけて」
J「えっラジオしか無いです。」
F「ラジオでもいいわ。」
しかしその日は運悪くお笑いと、スポーツしかやっていなかった。
F「後で音楽を聴けるもの一緒に買いに行きましょう。」
J「はい。」Jはラジオを消しキスを続けた。
F「だいぶうまくなったわね。私はどう?」
J「最高です。」
F「また宇宙の話聞かせてね。」
J「はい。」二人はしばらくキスを続けた。
F「ね、私の顔と体ではどちらが好き?」
J「今は体」

ボディーガードが呼ばれたのはそれから2時間後であった。



18

次の日の夕刻R邸に向かった。
チャイムを鳴らすといきなりFが出てきた。
F「待っていたわ。どうぞ。今日は両親ともいないのよ。」
J「うわっ短いスカート!」
F「マイクロミニって言うのよ。明日これなんかどうかしら。海は開放的だから。」
J「そうですね。しばらく海に行っていないので忘れていました。」
F「先におシャワーを浴びていて!明日は6時に出発しましょう。その間に夕食を用意するわ。」
J「えっ昨日は7時って言ってませんでした?」
F「少しでも渋滞を避けたいの。それともヘリを使う?」たぶん冗談なのだろうが、彼女の場合あり得るので、つっこむところかどうかが分からなかった。
J「それはちょっと、分かりました。早寝早起きで行くのですね。」
Jはシャワーを浴び、夕食の席に着いた。
F「ではいただきましょう。」
J「いただきます。着替えたんですね。」
F「ええ、ミニの方が良かった?それから明日の宿泊先なんだけど。」
J「いえ、それも素敵です。宿泊先?」
F「別荘があるんだけどいいかしら。」
J「別荘ですか、じゃあプライベートビーチもあったりして。」
F「いけなかった?最近は家族で行くんだけど、二人だけじゃちょっと寂しいわね。急だったので良いホテルがとれないのよ。あそこなら駐車場の心配もないし、ボディーガードもそんなにそばにはいなくて済むわ。」
J「そうですね、今からの予約では普通取れないですよね。それに二人きりは寂しいどころかうれしいです、ところで、仕事の引き継ぎは済んだのですか?」
F「ええ、一応は、でも軌道に乗るまでは今度の人と連絡取り合うと思うわ。正確には特別秘書って無くなるの。私、父の私的な部分も任されていたから。」
J「それはなかなか他の人には、できないでしょうね。」
F「それに公表はしてないけど、父は少しずつ会社を人に任せたいらしいの。」
J「えーっ、まだ引退するには、若いですよね。」
F「なんでも、私が小さいとき遊んでやれなかったから、孫と遊びたいって言うのよ!まだ私たち、結婚もしていないって言うのに。」
J「結婚かー、早く結婚はしたいけど具体的に考えていなかった。結婚すれば毎日一緒にいられるんでしょうね。いっしょにいるときはいいんだけど、離れていると、Fの事ばかり頭に浮かんでしまって会いたくなってしまうんだ。仕事に熱中しているときは何とか平気なんだけど。」
F「うれしいわ。私だって同じよ。でもこれからは職場もいっしょで、帰ってからもいっしょにいられるから平気でしょ?」
J「なんだか飽きられるような気がして、それはそれで不安なんです。」
F「大丈夫よ。飽きないから、安心して。私だっていつ嫌われるか不安なのよ。私にも安心させて。」
J「そっそんな!絶対に嫌いになることはありません。安心してください。」
F「結婚についての具体的なスケジュールは、まだ交際を始めて少ししか経っていないから、もう少し先でも良いと思っているの。ごちそうさま。明日は早いからもう寝ましょう。」
J「了解です。ぐうぐう。」
F「こらー、博士のまねするなー!」
J「つっこみ有り難うございます。」
F「ねえ、あなたと博士っていつもこんな感じなの?」
J「そう言えばそうですね。でもなぜか仕事ははかどる。これでうまくいっているんですかね。」
F「私もうまくとけ込めるかなー、ちょっと不安よ。」
J「Fならだいじようぶ。私がフォローします。」
F「お願いね。ところで寝るんなら、あなた着替え持ってきたの?パジャマなら用意してあるけど。」
J「あっパジャマは用意してないです。」
F「じゃあ先に寝ていて、私はまだ用事があるから、もう少ししてから寝るわね。」
J「お休みなさい。」


19

F「おはよう、起きたみたいね。よく眠れた?」チュ!
J「おはよう。あれっいつの間に寝たんだろう?なんだかなかなか寝付かれなくて。」
F「朝食の用意ができているわよ」
J「えっもう作ってくれたんですか?」
F「ごめんなさい。朝食は私が作ったんじゃないの。」
Fはもう化粧もすませ、昨日のミニをはいていた。
F「朝食すぐ食べますか?」
J「食べます。」なかなか寝付かれなかった割にはすがすがしかった。天気のせいかもしれない。
二人は食事を済ませ、玄関を出た。
玄関先には運転手付きの後部座席のゆったりとした車があった。
F「運転手兼ボディーガードなの、残念ながら二人きりじゃないのよ。」
J「約束ですから仕方ないです、すべて安全の為です。それに海の帰りは確か疲れるんですよね。運転手がいると安心です。」
F「じゃあ後ろの席へ乗って、まさか助手だから助手席なんて言わないでね。」
J「もちろんFの隣がいいですよ。どのくらいかかりますか?」
F「2時間位かしら。確かお魚食べるの好きって言っていたわね。」
J「ええ、好きですけど。」
F「昼食は取れたてのお魚を用意する予定よ、楽しみにね。これも私が作るんじゃないけど。今日は思いっきり遊びたいの。」
J「海って、いるだけで楽しいですよね。Fは肌が白いからきっと焼かないんでしょう?」
F「もちろんあなたに日焼け止め、塗ってもらう予定よ。いい?」
J「ええっ!いいですけど、いつもどうしてるんですか?」
F「そんなこと聞かないでよ、ひとりで塗っていました。ところであなた、もぐれる?」
J「ちょっとなら。」
F「競争もしましょう。」
J「こんなに毎日楽しくていいのかな?」
F「私といると楽しい?」
J「もちろんです。それだけになんか、この前みたいに突然いなくなりはしないかと不安です。」
F「これからはずっと一緒よ。あなたもひとりでどこかへ行かないでね。明後日からは昼間も一緒。」
J「一緒にいると落ち着きます。」
F「ねっ、また宇宙の話聞かせて。」
J「今度はどんなことですか?」
F「以前ビックバン前のこと聞いたけれど、私にイメージできないところまでは分かったの。でもまだなんだか釈然としないのよ。もうちょっと掘り下げられないかしら?」
J「理論上は少し説明できるんですが、前に言った様に私もイメージできないので、うまく答えられないんですよ。でも一応知っている範囲で言うと、宇宙が始まる時、空間だけでなく時間すらもそこから始まったので、その前には時間が無いと言うことになっています。時間がなければ「前」もないと言うことです。時間のない状態をイメージすることはできないでしょうが、おそらくそんなことができる人間はいないでしょう。人間の思考は時間順序にしたがって行われるものだからです。宇宙の始まる前にはまさになにもないのです。「前」もなければ「ない」という状態もない、なにもかも徹底してなにもないのです。わかったようなわからないような答えかもしれませんが、これ以上端的な答えはないでしょう。般若心経に色即是空という言葉がありますが、まさにそれです。」
F「色即是空?聞いたことはあるわ、この世のすべてのものは、空(くう)である、と。でも空の意味が分からないわ。」
J「ブッタは宇宙の原理を知っていたんでしょうかね?それは分かりませんが、素粒子で言うところの不確定性理論に妙に当てはまるんです。物質はあると言えばある、しかし次の瞬間は無いとも言える。でも私にはあるものはあるとしか思えませんけどね。Fのいない宇宙なんて考えられません。」
F「最後のはちょっと別の話の様な気がするけど、うれしいわ。ねえ、あなたは私に一目惚れしたの?それとも私から交際を求められ、特に付き合っている人がいなかったので、OKを出し、好きになっていったの?」
J「言っていませんでしたっけ?一目惚れです。こんな事初めてなので自分でもよく分からないんですけど、あれからあなたにもう一度会いたくて、仕方ありませんでした。そこへあなたからお誘いがあって、天にも昇るような気持ちでした。Fはどうなんですか?」
F「最初に逢ったとき博士の説明をフォローしてくれたでしょ、いいなって思ったの。」
J「ほんとうですか?あっ海が見えてきましたね。もうすぐですか?」
F「すぐだけど先にショップへ行かないと。あなた、はくもの無いんでしょう。」
J「そうでした。ビーチサンダルも買わないと。」
F「ねっ私に選ばせて!」
店に到着した二人は中へ入った。
店員「F様いらっしゃいませ。お久しぶりです。別荘の方へおいでですか?」
F「しばらくね。そうよ、今日はめずらしく二人で来たの。ちょっと見せてね。」
店員「ごゆっくりどうぞ。」
F「ねっこれこれ、これにしましょう。はいてみて!」
J「いいですね。」
F「それと、サンダルね。これはどう?。私もおそろいの買うわ。サングラスも持ってきてないんでしょう?これがいいわ。それにこの水中3点セットね。」
J「決めるの速いですね、10分も経っていない。」
F「もっとゆっくり見たかった?」
J「いえ、すぐ海に行きましょう。」

そこから20分ほどで別荘に到着した。

二人はすぐに着替えて、ビーチへ出てきた。
プライベートビーチは入り江になっていて、他の人はまったくいない。両側が崖になっていて、海を伝って他の人が来ることが困難な地形になっていた。

J「いいところですね。建物も広いし、海もきれいだし。あれっ!あそこに小さな陸地がありますね。」
F「干潮の時は無いのよ。少し経ったら、あそこまで競争しましょう。」
J「200m位ありますよ。泳げるかなあ!」
F「途中深いところでも、水深1.5m位しか無いはずよ。おぼれる心配は無いわ。」
J「そうですか」
F「じぁあ約束の日焼け止め、お願いね。あなたにも後で塗ってあげる。」
J「はい。」
Jは人に塗ったことが無いながらも、何とか塗ってみた。ちょっと妙な気分になった。
F「ありがとう、うれしいわ。じゃあ今度は私が塗ってあげる、そこに寝て」
Fの手が体に直接触れて気持ちよかった。
F「あなた、肩がこっているわね。マッサージしてあげる。」
J「良く分かりますね。気持ちいいです。」
F「でも泳ぐと肩こりは少し治るのよ。」
J「ちょっと潜ってみます。日焼け止め平気ですか?」
F「大丈夫でしょう。」
水中ゴーグルを付けて、海のなかを覗いてみた。
さすがに浅いので魚はいない。
後ろをみたらFが後に付いてきた。
なにやら笑顔で指さしている。
その先を見るといないと思った小さい魚がいた。
そのまま少し泳いだり歩いたりしながら沖の方へ行った。

F「準備体操は終わった?じゃああそこまで競争よ。」
まだ100m以上はある。泳いだ方が速いが、疲れて途中少し歩いた。水が胸くらいになり歩きにくい。Fは10m位先にいって立ち上がり、こっちを見ている。
F「大丈夫?ギブアップなら私の勝ちよ。」
J「大丈夫、すぐに追いつくぞー」
と言ったものの、結局追いつかず。10m差のまま陸地に着いた。
そこは陸地と言っても砂地だけで、幅20m、長さ50m位しか無かった。
ここから建物を見ると、ボディーガードらしい人物が見えた。

J「いやあ、ふだん運動不足なので、疲れます。」二人は浜辺に寝そべった。
F「ねえ、二人でジムに通わない?できれば護身術も。最終的にはボディガードがいらなくなるくらい強くなりたいわ。」
J「そうですね、いつもデートのたび、付いてきてもらうのも、なんだか申し訳なく思えてしまいます。でもジムにも付いてくるんでしょうね。」
F「じゃあ自宅にジムを作って、護身術は、先生に来てもらうって言うのはどう?」
J「続く自信が無いので、そこまではどうかと。しばらく通いましょう。」
F「了解。じゃあ、私が新しい職場に慣れたら始めましょう。それまで待っていてね。」
J「ジムは分かるけど、護身術って何をやりたいのですか?」
F「できればカンフーね。近くに教えてくれるところあるかしら?」
J「太極拳なら、看板見たことありますけど。」
F「後で探してみるわ。ほらっ飛行機雲。」
J「本当だ。おやっあっちの雲、真っ黒だ。もうじき雨が降りますよ。」
F「そうね、じゃあそろそろ戻りましょう。」

それから浜辺でしばらく遊んでいたら、昼食の用意ができたとの知らせがあった。
食堂に入ると見たことのあるメイドが5人ほどいて、世話をしてくれた。
F「あなたの好きなお魚よ。たくさん食べてね。」
J「ええ、頂きます。」
F「ねえ、一つお願いがあるんだけど。」
J「何ですか?あらたまって。」
F「私に対して言葉が丁寧すぎるの、二人だけの時はもう少し、友達に話しするみたいになれないかしら?私の方が年下なんだし。」
J「ええ、実は多少思ってはいたんです。でも自然に任せるのが一番かと。徐々に慣れて行くつもりです。でもFにさんづけはしなくなったでしょう!」
F「そうね。それはほめてあげる、徐々にね。自然に任せるのもいいかもね。タコも好き?」
J「好きです。でも一番好きなのはFです。」
F「私を食べてみる?」
J「冗談ですよ。」
F「じゃあ嫌いなの?」真顔だったのでドキドキした。

昼食をとっている間に雨が降ってきた。
F「午後は、浜にでられないわね。部屋の中で遊ぶか、洞窟探検しましょう。」
J「洞窟ですか?怖くないんですか?」
F「ひとりでは怖いわ、だからあなたと行くのよ。あなたがいれば怖くない。」
J「ボディガードが許してくれるでしょうか?」
F「聞いてみるわね。」

F「どう、ふたりであそこの洞窟へ行っても平気かしら?」
ボディーガード「お嬢様が行くのなら私も中に入ります。それにあそこは中がどうなっているか分かりません。あと数人呼ぶことになるでしょう。」
F「そう、いつか行って見たかったのだけれど、今回はあきらめましょう。そうだ、善は急げ、午後はこの人に稽古を付けてもらいましょう。」
J「えっ、ボディーガードの人に?」
ボディーガード「それなら喜んでお教えします。ただし私たちの武術は実践的です。覚悟してください。」

その日は武術の稽古で半日が終わった。
何回も休憩をとったものの、とても疲れ、その夜はぐっすりと眠れた。



20

F「一泊だと早いわね、午後には帰らなくちゃいけないわ。それにしても今日は良い天気ね。」
二人は午前中浜辺で遊び、昼食後帰路についた。
F「楽しかったわ。また来ましょうね。ところで今朝夢を見たの。」
J「ひょっとして、予知夢ですか?」
F「分かりません。父が亡くなる場面でした。」
J「ええっ、R氏がですか?」
F「心配しないで。亡くなるって言っても、ずっと先の事みたい。私たちの子供が今の私たちより年を取っていて、孫もいたわ。たぶん後30年以上先ね。」
J「あーびっくりした。Fの夢は当たりそうで怖いです。」
F「でも良かった。当たっているとしたら、あと30年は私たち一緒にいるって事だから。」


次の日
博士「今日から勤務する事になったFさんです。仲良くしてやってください。」
F「みなさんFです、できることは何でもやります。よろしくお願いします。」
K「私も来たばかりです。こちらこそよろしくね。」
J「早速ですが、懸案事項が1つありまして、それを担当して下さい。ここに資料はまとめてあります。」
F「了解しました。」
資料に目を通すと、博士の了解を得てすぐに数ヶ所に連絡をした。
耐久テストと製品化に向けての製造方法の研究、その後商品の販売方法、広報活動など、それぞれ得意分野の関連会社を選び、担当者会議を開く手配をした。
こういったことは、今までの秘書の仕事が役立った。また、関連会社でFを知らない人はいないと言うことも手伝ったようだ。
F「この耐久テスト1年と言う中にその後も継続テストとありますが、どのくらい継続すればいいんですか?」
博士「私の希望は30年と思っている。この太陽電池は安く供給できそうなので、一般家庭での普及が多いと考える。従って電池としての性能>屋根材としての性能が理想なのだが、30年持てば許されるかなと思っている。まあ材料としてみる限りそれ以上持つような感じがしているので、安心はしているのだが、商品となると念には念を入れないとな。」
F「なるほど、分かりました。」

博士「これで、一件落着だ。いやあ私の不得意分野をやってくれる人ができて助かったよ。後は販売開始まで、情報が漏れないようにすることだ。」

J「博士、大変です。警察から電話です。」
博士「何だろう?もしもし、はいそうです。...はあ?、そう言う事なら、仕方ありませんね。」
J「何でした?」
博士「K女史を貸してほしいと、私の屁付きで。なんでもこの前のF嬢誘拐事件の黒幕が分かったとかでそのグループを一網打尽したいと言うことで、分かるかな?」
J「Kさんの透視能力を借りたいと言うことですね。」
博士「そうだ、そう言うことなのでKさん、迎えが来たらこのあと警察へ行ってほしい。」
K「了解しました。博士、例のビンをお願いします。」
博士「ちょっと待ってくれたまえ。出かけるときまでには何とかする。」
F「例のビンって?」
J「驚かないでください。博士が以前屁を2発ほどした、と言っていたのを覚えていますか?私の屁が役に立ったのは初めてとか。」
F「はい、その様なことを聞いたような気がしますが、それが何か?」
J「説明しよう、Kさんの透視能力は、博士の屁を嗅ぐことによって、その能力が最大限に発揮するのです。」
F「それが、気絶の原因だったのですか?Kさん大変でしたね。それで能力が開花したとは、信じられません。」
J「信じがたいことですがそうとしか思えません。」
F「もしそれが本当なら、博士のおならを分析して、有効成分だけを取りだし、においはカットすることができるのでは無いでしょうか。」
J「さすがFさん。今までだれもそのことに気がつきませんでした。やってみる価値はありそうですね、博士。」
博士「うむ、確かにやってみる価値はある。しかし効果がはっきりしているのは、K女史だけだ、J君も効果があるような気がするが、K女史ほどはっきりしていない。有効成分を、見つけ出すには大変な努力がいるのでは無いだろうか?それに特定の人にしか効果がないとすると、商品化は難しい。」
F「いろいろな人のおならを集めて、博士のものと成分を比較、その違いが分かれば、それが有効成分じゃ無いかしら?」
J「すごいですね、Fさん。それやってみましょう。博士!どうでしょう?」
博士「その通りかも知れない。その方法なら、いちいちにおいを嗅がなくて済むから、K女史に負担がかからない。ただし今日の警察への協力までには間に合わない。」
K「それはしかたありませんわ、私大丈夫です、慣れましたから。」
J「あのにおいに慣れたのですか?それもすごい、私は何年経っても慣れない。」
博士「おっ出るぞ、ビンの用意だ!」

ビンを持ってK女史が警察へ向かった。



21

刑事「何かイメージが浮かびますか?」
K「はい、はっきり見えます。4人が部屋の中にいます。この近くではありません。」
刑事「どこか分かりますか?」
K「見えました。○○市です。」


帰り際何の約束もないままJは帰宅した。
1時間ほど経ち、理由のない不安に駆られFに電話をした。
J「もしもし、Fですか?」
F「よかった。すぐ来て!」
J「はい、すぐに行きます。」
そう言えばいままでFからの誘いに答えてきただけで、こちらからのアプローチが無かった事に気がついた。
珍しくRが出迎えた。
R「やあJ君、娘がお待ちかねだよ。なんだか元気が無い様だったが、けんかでもしたのかね。」
J「いいえ、けんかなんてしていません。元気が無いんですか、心配です。」
急いでFの部屋へ行きノックをした。
F「どうぞ。」
確かにいつもと違う。
J「どうかしましたか?」
F「あなたから電話もらえて良かったわ。自分からする気になれなかったの。実は今日失敗しちゃったような気がしているのよ。それで元気がでないの。」
J「何を失敗したのですか。初日にしてはうまく行ったと思っていますよ。担当者会議の件も順調だし、例の研究の件だって。」
F「それが私の中では問題なのよ。おならの分析は誰がするの?」
J「私とKさんになると思います。それがなにか?」
F「やはり、そうよね。私が思いつきで変なことを言ってしまったばかりに、あなたやKさんにとんでもない仕事を押しつけてしまったと思っているの。R研究所は『宇宙』と言う名前こそ付いていないけれど、宇宙を研究する所でしょう、それなのにおならの研究なんて、自分で言っておきながらなんて言うことを言ってしまったのだろうと、今すごく後悔しているの。」
J「後悔なんてしないで下さい。すばらしい発想だと思っていますよ。確かにR研究所は宇宙に関することが多いですが、それ以外の研究もいままでしてきました。H博士が宇宙の専門なので当然ですが、必要に応じて化学の専門の人に来てもらったこともあるんですよ。それに私たちはプロの科学者です。おならの研究だろうと、宇宙の研究だろうと、あるいは鯨の研究だろうと、みな同じように大切に思っています。」
Jを見つめるFの目から涙が一筋こぼれ落ちた。
J「泣かないでください。あなたは最高です。」
F「悲しくて泣いているんじゃないの、あなたのフォローがうれしくて。今日は私だめね。」
なんだか急に愛おしく思えてFを抱きしめたJであった。

F「ねえ、もう一つ甘えていい?」
J「どうぞ、お嬢様。」
F「それよ、それ、私自分のことも自分でできないお嬢様と、思われるのが嫌なの。」
J「ごめん、私はそんな風に思っていません。」
F「あなたさえ分かってくれればいい、と言う気持ちもあるけど、実際は違うの。あなたは徐々に私のこと分かると思うからまだいいのよ。初対面の人にも、そういう風に見られたくないの。でもそれをあなたに言っても無理よね。だからやっぱりあなただけが、分かってくれればいい。私だって苦労をしているってこと。確かにお金に困ったことは無いけど、秘書の仕事をしていて、裏切られた経験もあるのよ。」
J「そうですか、どんな風にですか?」
F「名前は言えないけど、父が信頼していた人に、会社を乗っ取られたり、だまされたり、ろくに仕事もできないのにたくさん給料をもらっていると陰口されたり。事務所の引き出しにネズミの死骸が入っていたこともあるのよ。」
J「たしかに、ねたみややっかみはあるでしょうね。でもそれは気にする事はありません。あなたはすばらしい人です。何でも自分でしようとしているでは無いですか、人任せにしているのは私の方です。デートプランだって、全部お任せだった。」
F「あなたにそう言ってもらうと、元気が出るわ。それと宇宙の話を聞いていると、くよくよしている自分がばからしくなって来るのよ。」
J「そうでしたか。わたしで良かったらいっぱい甘えてください。」
F「ありがとう。人に弱みを見せるのは嫌いだけど、あなたには、すべて分かってほしいわ。お願い、もう少しこうしていて、今日は、本当にだめなの。」



22

K「博士、大変です。」
博士「犯人は無事捕まったそうじゃないか。なにが大変なんだね?」
K「半日、研究所空けているのに、結局僅かの報奨金しかくれないんです。ですから次は来ませんって言ってきました。」
博士「なんだそんなこと。Kさんがいないのは、痛いけど、お金の事は別にいいですよ。」
J「こんど頼む時は、懸賞の掛かっている大物に限るって言っておけばどうでしょう。」
K「言いました。」
J「えっ本当に言っちゃったんですか?冗談のつもりだったのに。」
K「私だって雇われている身ですから、それなりの事をしないと気が済みません。」

J「博士、この前の刑事さんから電話です。」
博士「はい。ふんふん、へえへえ、もしもし、えっ、ハロー、フンフン、ハーイ、グッバイ。」
J「何でした?」
博士「これからFBI捜査官が来たいそうだ。何でも千万単位の懸賞金がかかった大物の捜査に協力してほしいと、言うことらしい。しかしなぜここへ来るのだろう。」
J「途中でFBI捜査官に変わったのですね、英語だったんですか?」
博士「日本語。」小声でぽつり。
F「Kさんの言ったことが、通ったのですね。その大物って国際テロ集団と関係している人物では無いでしょうね。」
J「その可能性が大きいですよ。しかし場所はどうしましょう。ここは今回の機密書類があるし。会議室を片付けましょうか?」
博士「どこも散らかっているが、あそこが一番片付けやすい。じゃあ3人で、たのむよ。私はちょっと出かけてくる。」
J「どこへ行くんですか?」
博士「博士はちょっと焼き芋を仕入れに、そこまで。みなさんもいかがですか?」
J「それなら私が行きますよ。」
博士はジロッと助手をににらんだ。
博士「自分で選びたいんだよー、へっへっへっ。」と言い残して出て行ってしまった。

F「私を拉致したグループを捕まえてくれたことは、うれしいです。しかし今後もこんな事が続くのでしょうか?」
J「毎回うまく行けば、次から次へと依頼が来るでしょうね。みんなこの段ボールに詰めてください。」
K「博士は、許可するでしょうが、私は本来の仕事で役に立ちたいです。」
J「それには、透視能力を徹底的に分析し、機械でできるようにすることです。」
F「それよ!どうも引っかかっていて、思い出せない夢があったの。必ずできるようになるわ。」
J「自分で言っておきながらすごく難しい気がする。それに悪用されると危険な感じもする。」
今度はFがJをふざけてにらんだ。
J「おーこわ。」
K「確か、ここでいちゃいちゃしてはいけないんでは無いですか?」
J「残念でした。博士の前ではとの約束です。」
K「ずるい!」
F「なんかいいました?」
K「いいえ、何でもないです。わー!わたしも彼氏ほしいナ。」
F「あのー彼氏ほしいって聞こえましたけど。1日くらいなら貸しましょうか?」
J「俺は物か!」
K「タイプじゃない。」
F「どんな人がタイプなの?」
K「このあいだの刑事さん。」
F「そう、男っぽい方が好きなのね。じゃあまた依頼が来るといいわね。」
K「でも本来の仕事で役に立ちたいです。」
J「ふざけてごめん。Kさんは、本来の仕事がしたい。しかし刑事さんにも会いたい、と言うことですね。」
K「わたしこそ、ふざけすぎました。会いたいと言うのは、まあそうです。でもあんなかたちでは嫌です。なんか私は霊媒みたいで、たぶん女として見てくれていません。感が鋭くなるだけだったはずなのに、何でこんな事になってしまったのでしょう。」
F「でもおかげで、素敵な男性を発見できた。ちがう?」
K「それはそうです。お願いです、Fさん何とかしてください。」
F「あなたは私の命の恩人です。できる限りの事はしましょう。Jさん協力してくださいね。」
J「はい。これで全部ですね。後はちょっと拭いておけばいいでしょう。」
F「任せて。」家ではこういう事はやっていないと思うのだが、手際が良かった。
F「ねえKさん、私なら直接交際を申し込むけど、あなたの気持ちはストレートに伝えていいの?それとも遠回しにそういう場面を作った方がいい?」
K「実は私、あなたたちを見るまでは、男性に興味は無かったの。だからどうしたらよいのか全く分からないんです。すべてお任せします。気持ちを自分で伝える勇気は無いんですが、伝えてくれるなら、大丈夫だと思います。」

博士が戻ってきた。
博士「さあ芋パーディーだ。飲み物も買ってきたぞ。」
ちょうど昼食時だったので、みんなで焼芋を囲んで、食事にした。
と言っても芋をメインに食べたのは博士だけで、他の人はデザートとして食べただけだった。
博士はビンを用意した。
博士「よし、準備OKだ。」

休憩時間が終わった頃その人たちがやってきた。
刑事「紹介します。こちらがFBI捜査官のBです。」
B「初めまして。日本の警察から紹介いただきまして、やってきました。アメリカでは超能力者の協力でたくさんの犯罪者を検挙しています。しかしこの犯罪グループは、どういうわけか、捕まらないのです。私たちの知っている超能力者は、お手上げだと言っています。」
博士「私たちもうまく行くか分かりませんが、彼女が日本警察が紹介したというKさんです。」
K「Kです。私は最近偶然身につけた力なので、どうなるか分かりません。用意をしますから少し待っていてください。それと犯人につながる品物はありますか?」
B「これが写真です。」
Kは刑事をチラッと見てから部屋を出て、例のビンのふたを開けた。
戻ってきたKはいきなりスケッチを始めた。
B「すごい!分かりやすい地図だ。」
5枚のスケッチをまるで自動書記の様に描き上げた。
いままでよりさらに磨きが掛かって能力がアップしたようだった。
1枚目はアジア大陸に印をしたスケッチ
2枚目は少し拡大したスケッチ
3枚目はさらに拡大したスケッチ
問題は5枚目だった。どうやら地下経路図の様だった。
K「犯人グループは地下に複雑な経路を造り、住居にしています。
地下からは微弱な、霊波しか届かないので、このどこにいるかまでは分かりません。」
B「そうだったのか、地上ばかり探していた。あなたはすごい。」
K「すごいかどうかは、犯人グループを捕まえてみるまでは分かりません。」
もっともだ。
BはスケッチをどこかへFAXして、さらに電話していた。

K「ところで刑事さん」
刑事「はい、何でしょう。」
K「前にもいったとおり私は、ここの研究員です。こう連日だと本業の方ができなくて困ります。」
刑事「それは失礼しました。今度は懸賞金付き以外はだめって言っていたので、紹介したのですが、やはりだめでしたか?」
K「博士と良く話し合っていないので分かりませんが、私の考えでは月1回位にしていただきたいのです。」
刑事「そのこともあって、今日はこちらへお邪魔したのです。博士、どうでしょう、私も通常は月1回でちょうど良いと思います。」
博士「F嬢のこともあるし、なるべく協力したいと思っている。特に命に関わることは待ってくれないだろうし。急ぎで無いものは月1回、でも緊急の場合は、仕方ないのではないかな。」
刑事「有り難うございます。犯人が捕まり次第懸賞金を手配します。Kさんもよろしいでしょうか。」
K「博士がそういうのなら。了解しました。」
Fが小声で言った。
F「この刑事さんよね。」
J「そうです。」
F「刑事さん、ひとつお聞きしたい事があります。」
刑事「はい、何でしょう?」
F「耳を貸してください。」
刑事「えっ耳ですか?汚いですよ。」本当に汚い耳だった。しかたなくFは紙を丸めて耳にあてて話した。
F「あなたは独身ですか?」
刑事「はい。」
F「彼女はいますか?」
刑事「いません。」
F「じぁあ決まりね。Kさんは、あなたのことを好きです。あなたも好きなんでしょう?Kさんを彼女にしてください。」
刑事「えっ、ほんとうですか?ええっ」
Fは紙を外してみんなにも聞こえるように言った。
F「男ならはっきりしなさい。」
刑事「いいんですか。刑事って危険な仕事で忙しくて、結構女性に嫌われるんですよ。」
F「逮捕するわよ。」
刑事「わっわかりました。私もKさんの事は気になっていました。ただ私の職業が、じゃまをして、言い出せませんでした。事件に巻き込みたく無かったんです。」
K「もう充分巻き込んでます。」
J「どうして、刑事さんの気持ち分かったんですか?」
F「見ていれば分かるわよ。今日の彼の目はずーとKさんを追っていたもの。」


23

F「博士大変です。」
博士「どうしたんだ、君まで。博士大変です、で始まることが多すぎる。」
F「タイトルですから。と言うのは冗談で、先日の犯罪グループが捕まりました。Kさんのスケッチが手がかりで、懸賞金が出るそうです。」
博士「そうか?でももう、そういうことでは驚かない。なんか当たるのが当然の様な気がしてきた。」
F「彼女の能力は本物です。」
博士「そのようだね、しかし『屁』と言うのもな。公表するのは彼女に気の毒すぎる。」
F「そこで、考えたんです。夢も見ました。その能力を分析し機械化するのです。」
博士「うん確かに可能性はある。J君からも聞いた。しかし言い出したJ君は、どこから手を付けたら良いか分からないと言っている。」
F「私は完成されたシステムを夢で見ました。」
博士「えっ本当か?うむ、なるほど、で、どんなだった?」
こんどはFがスケッチを描いた。
博士「ふむふむ、これは何かのセンサーじゃ無かろうか?夢の中で、何か説明していなかったかね?」
F「センサーで思い出しました。人間も固有の電位がありそれをセンサーで測定できる、とかできないとか。」
博士「ふむ、確かに暗闇に、人がいるかいないかを当てさせると70%の人が当てることができる。それは人が発生する高圧電流を感知するからだそうだ。それを機械にさせれば100%当てることは可能だ。しかしそれは機械の数メートルの所に、人がいる場合であって、日本のどこかにいる人を見つけることはできないはずだ。いや待てよ、Kさんの脳波を測定し、私の屁を.....ふむふむ、これはひょっとするとひょっとするかも知れない。」
J「何か思いついたんですか?」
博士「わー、今いいところだったのに、おまえがチャチャ入れるから、わからん様になってしまった。」
J「げっ、ひどい、自分の非力を人のせいにするなんて、こうしてやる。」
Jは博士の足をおもいっきり踏んだ。
博士「負けないぞ、こうだ。」
博士も足を踏み返した。
J「えいっ」
博士「たあ!」
Fは二人の光景を楽しそうに眺めていた。
一方Kは、熱中していた仕事の手を休めて、真剣に見ていた。
K「これは、きっと何かの儀式なんだわ。こうやってリラックスして、新たな発想が生まれてくるに違いない。」Kは儀式に参加すべきかどうか考えていた。しかし突然儀式は終わった。
J「いたた!参りました。降参です、博士にはかないません。」
博士「当たり前だ、28年早いわ!はあはあ!ぜいぜい!」
K「博士、なにか思いつきましたか?」
博士「ぜんぜん。」Kはずっこけた。

F「こんどは私たちがやってみましょう。」
K「えっ、つきあってくれるんですか?やりたかったんです。」
F「えいっ」
K「いたっ、それっ!あっ、よけた。」
こんどは博士とJが、二人を楽しそうに眺めていた。
K「はっ」
F「いたっ!それっ」
二人は反射神経がいいらしく、ほとんどよけていた。

しばらくして、博士が突然立ち上がった。
博士「そうだ、これだ。」
J「成功です。二人とも、ご苦労さん。博士のひらめきが来ました。」
F「はあはあ!いつもこうなんですか?」
J「いろいろです。でも仕事の話をしているときより、別のことをしているときの方が、良い結果が出ていますね。」

博士の頭の中でめまぐるしく何かが動いていた。
こういうときは他の人はどうしようもないので、通常業務に戻ってその日は終わった。

F「ねえ、カンフー道場が見つかったわ。今日見に行きましょう。」
J「はい、いいですよ。遠くですか?」
F「それが、すぐ近くなのよ。裏通りなので気がつかなかったけど。」

F「ここよ。」
J「静かですね。なんだか入りづらい。」
J「たのもう!」
F「道場破りじゃないんだから。こんにちはで、いいんじゃない。」
J「ここにチャイムがあった。」Jはチャイムを押した。
チャイム「タノモー、タノモー、タノモー」JとFはずっこけた。
奥から誰か出てきた。

F「カンフーを習いたいのですが。」
K2「私が館主のK2です。ケーツーと呼んでください。けっして短くケツと呼んではいけません。こちらへどうぞ。今時めずらしいですね、先月で生徒が来なくなったので、閉めようかと思っていたところなんです。」
J「教えていただけないんですか。」
K2「生徒二人ですか?まあいいでしょう。今日から始めますか?」
F「できれば、すぐにでも。体操着でいいですか?」
K2「いいです。では入会前に注意事項を言っておきます。月謝は毎月始めにキャッシュで納めてください。そちらの都合で休んでも返しません。また休むときは必ず連絡を入れてください。連絡が無い場合は罰金を徴収します。二人しかいないので私はここでずっと待っていることになりますから。誓約書を用意しますから、良く読んで問題なければサインして下さい。コースは3コースあります。最初は初心者コースが良いでしょう。週1回2時間です。といっても今は暇なので、毎日でもいいです。毎日と言っても週5日です。」
J「どうしましょう?」
F「最初は毎日来ましょう。」
K2「毎日の場合最初は1時間くらいが良いでしょう。体が慣れてきたら2時間にします。この場合はこの金額になります。」
その金額はFはもちろんJにとってもたいした額ではなかった。
誓約書は、けがをしても責任はとらない、という簡単なものだった。

生徒がいない割に指導はすばらしく、特にFは天性もあってか、メキメキ上達した。
Fは毎日が楽しくて仕方がなかった。自宅でもトレーニングを欠かさず。Jと組み手の練習をしたり、Jのいない時はボディーガードにも相手をしてもらった。

Rは1ヶ月もすればと言っていたが結局3ヶ月の間ボディーガードを付けていた。
後半は主にFのトレーニングの相手であった。

博士もあれから3ヶ月掛かってやっと機械の設計図を書き上げた。
しかしKとJは博士の屁の分析に、行き詰まっていた。

K「Fさんカンフーを習っているんですって?」
F「ええ、Jさんもいっしょよ。Kさんもやってみる?」
K「ここでやって見せて!」
F「いいわよ。Jさん!こっち来て。」
二人の組み手を見て、Kが一緒にやりたいと言った。
しばらく、3人で組み手をしていると、とつぜんKの意識の中にある考えがやってきた。
考えが浮かぶというより、外からやってきたという感じなのだ。

Kは今まで使っていなかった、電子顕微鏡の準備をした。
K「これよ。これを見て。」
J「なんじゃこりゃー、博士の顔みたいな組織だ。」
K「これが、博士のおならの秘密よ。合成してこれと同じものを作れるかしら?」
J「分析してみましょう。」

JとKは分析に取りかかった。
Fは博士の書いた設計図を、実際に作ることのできる技術者の選定を始めた。
博士はつづけて、センサーから受け取ったデータを分析するプログラムの設計に取りかかった。
どうやら頭の中にはできているらしく、すらすらと書いてはいたが、膨大な量らしく、終わる気配は無かった。なにやら絵も描いていた。

今日も仕事と、カンフーの稽古が終わった。明日は休日なので、買い物を済ませ今日はJのマンションに来た。
Fが最初に来たときとはまるで別の部屋になっていた、最初の掃除や片付けはメイドに来てもらったが、後のデザイン変更や家具類の配置は二人で少しずつ行った。
調理器具や、食器類もそろい新婚さながらの部屋になった。

F「今日も楽しかったわ。いよいよ博士のおならの研究も次の段階に来たわね。」
J「でもあの組織は笑っちゃうよね、博士そっくりで。しかし君はすごいな。まるでカンフーの達人だ。」
F「あなただって、先生がほめていたわ。最初はひ弱だったのにぐんぐん力を付けてきたって。あんな形の細胞なら誰が見たって、あの博士のだって分かるわ。でもなぜ今まで顕微鏡で見ることに気が付かなかったのかしら?」
J「屁は気体だから、普通じゃ見えない。だから、思いつかなかったんだと思う。」

トイレや浴室も最新のものに取り替えた。
テレビやオーディオもそろえた。
Jはいままで、マンション代と食べること以外、ほとんどお金を使っていなかったので、貯金は結構ある。実際は管理していないので、いくらあるかさえ知らなかった。
貯金の管理もFがしてくれるようになりその額の多さにJは驚いた。

Fの料理は相変わらずうまい。それでいてカロリーもコントロールされていて太らない。Fはもともと太る体質ではなかったので、その心配は無かったが、カンフーをやることによって筋肉質になることを恐れ、そちらを心配していた。
JもFが今の色っぽい体を維持して欲しいと思っていた。

F「見て!」Fが浴室で呼んでいる。
F「ほら、ちょっと筋肉が付いちゃった。」しかしまだ充分色っぽい体だった。
J「どこ?」
F「ここよ、ここ。」腹部をさすってみると見た目はなめらかなのに、結構しまっていた。しかし、その手はさらに下へ伸びた。
F「ああん!」

翌日が休みであることもあり、長い夜になりそうだ。



24

J「博士大変です。1億円も振り込まれていました、どうしましょう。」
博士「どうしましょうって、ほとんどKさんのやった事だし、一応R氏とも相談してみるが、Kさんが仕事に穴を空けた分を差し引いて、後はKさんへのものになるのが妥当だろう。」
J「なるほど、そうですね。」
K「私の希望を言っておきますと、少しボーナスとしていただければありがたいですが、勤務中の仕事の一部と考えまして、研究の為に使っていただきたいと思います。」
博士「わかった。一応それも考えておく。」

F「彼とはあまりうまく行かないみたいね。」
K「そうなのよ。顔は好みなのだけれど、滅多に会えないの、趣味も違うし。会えないと会いたくなるのが普通だけど、そうでもないのよ。仕事が乗っているからかしらね。いい人はいい人なんだけど。それより私もカンフーを習いたいわ。」
F「じゃあ今日の帰りいっしょにいらっしゃい。稽古着は私ので良かったら貸してあげるわ。」
博士「なになに、みなさんカンフーを習っているのか?どおりでJ君も帰りが早いと思った。それになんだか、たくましくなった。ところで仕事の話で恐縮だが、私の屁についてだいぶ分かってきたようじゃないか。」
K「ここは職場です。仕事の話をするのに恐縮しないでください。そうなんです、変わった組織をしていました。あとはもう少し、成分を分析して、合成方法を考える予定です。」
博士「私の方も、山は越えた。あと1週間でプログラムの設計が完了する予定だ。残っているのはエラー処理だけになったよ。Fさん実際のプログラミングには外部の人に手伝ってもらった方が早いので、適当な人を見つけてくれないか。あっ秘密厳守だ。」
F「了解しました。ちょうど良い人を知っているのですぐ手配します、秘密を守れる人ですね。」

帰りは珍しく3人で並んで歩いた。
K「わたし、運動は得意だったのよ。でも社会人になってからは、なにもしていなかったので心配だわ。」
F「だいじょうぶよ、ここよ。」
K2「いらっしゃい。こちらの方は?」
K「Fさんと同じ職場のKと言います。わたしもカンフーを習いたいんです。」
K2「おおっあなたがKさんでしたか。」
K「ご存じでしたか?それともFさんから聞いたとか。」
K2「あなたが先に登場したために私はきっとK2なのです。Fさんから聞いたわけではありません。それと決して短くケツと呼んではいけません。では注意事項を...」
K「注意事項と、月謝はFさんから聞きました。あと誓約書でしたね。」
K2「それは話が早い。はい、ではこれを良く読んでサインしてください。サインと言っても崩さないで、楷書ではっきりと書いてください。」
K「あのー、それ笑うところですか?」
K2「いいえ、ギャグではありません。Jさんのサインが崩してあったのです。」
J「ええっサインって今までデザインして書くものと思っていました。」

K2「ところで、FさんとJさんは護身のために、カンフーを習い始めたのでしたね。でしたら、今日からヌンチャクの指導に入りたいと思います。ヌンチャクは三節棍ほど攻撃力はありませんがうまくなれば、相手を気絶するくらいには成ります。それと来月からは中級を卒業して、上級コースになります。上級コースの金額はこれです。ヌンチャクはここでお貸ししますが、販売もしていますので、興味があったらご覧下さい。」
F「是非買いましょう、ねっJさん。」
J「はい。ヌンチャクは小さい物だし、護身用に持ち歩くのにも1つ自分用を持っていてもいいですね。」
K2「小さいと言っても、このくらいはありますから普段持ち歩くのは目立ちます。しかし目立つことによって返って相手をひるませる効果はあります。では、お二人はいつもの基礎練習をしていてください。Kさんは、着替えたらこちらへおいで下さい。」

今日はFの部屋へ帰った。
J「来月から上級コースだそうだね。予定では各コース3年くらい掛かるって言っていたような気がするけど。」
F「二人とも上達がとても早いからって言っていたわ、私たちが通い出してから、少し生徒さんも増えたみたいだしね。」
J「Fが上級なのは分かるけど、私は大丈夫なのかな?そうそう、先生に呼ばれて何話してたの?」
F「道場のポスターに、私の写真を使わせてくれないか、って頼まれたの。どうしましょう。」
J「それは複雑な心境だ、君が有名になるのは、身の危険が増える気がするし、カンフーの達人だと言うことが分かれば、ちょっと安全の様な気もするし、逆に、より強いプロの暴漢が現れるような気もする。」
F「暴漢の件はこっちに置いておいて、彼氏としてはどうなの?」
J「それも複雑で、ポスターの前を通るたびに『この人が自分の彼女なんだ』と優越感に浸れるような気もするし、人に見られたくないような気もちょっとする。こっちの方が少ないかな。君の気持ちはどうなの?」
F「私は、お世話になっているんだし、頼まれれば、何とかしてあげたいわ。それにあの先生、副業して生活しているらしいの。生徒さんが増えれば副業もしなくて済むんじゃないかしら?あなたが嫌でなかったらモデルになるわ。」
J「君の気持ちが一番だいじだ。一応R氏にも話して反対されなかったら、そうしよう。さっきいたよね。」
F「夕食でいっしょになるから、じゃあその時話すわ。」

R氏の了解が得られポスターの撮影が行われた。
K2は自分の知人のスタジオで撮る予定だったが、Fの希望で別の所での撮影になった。
カメラマンも一流の者が呼ばれ、Fの考えた以上の出来映えだった。

ポスターは10枚程度しか貼られなかったが、徐々に効果が現れ見学者が後を絶たなくなった。
ポスターのモデルが単にモデルだけではなく、実際習っていたのも手伝っていたようだ。
Fへの交際の申し込みも殺到した。
F「私は現在交際相手がいるので、おつきあいはできませんが、ここへ入ればいっしょに稽古はできますよ。」
この言葉に7割が反応した。

しかし稽古はきびしく単にF目的の軟弱な生徒は脱落する者も多かった。
それでも週1回の生徒が毎日50人ほど残り、K2のFとJへの直接指導が減ってしまった。

K2「あなた方のおかげで生徒がたくさん増えました。上級を卒業すると私の教えることは終わりです。予定より10倍の速度でマスターしているので、この分だとあと2ヶ月で卒業です。その後のことは幾つか方法がありますが、やめてしまうとレベルが下がってしまいます。私が教えることはありませんが、半額で通い続けることができます。もう一つは、生徒さんが多くなり私一人では大変になってきました。少しですがお金をお支払いしますから師範代として、教えていただく方法もあります。特にFさんは人気があり、あなたから教えてもらいたい人は、たくさんいると思います。」

Jは、またしても複雑な気持ちだったが、Fの思うとおりにしてやりたかった。
Fは自分を信頼してくれている。まだ2ヶ月先のことだし、ゆっくり考えればいい。

K2「もう一つ二人にお願いがあります。」
J「何でしょう?」
K2「Kさんの事です。自分の気持ちが徐々に彼女に惹かれている事に気がつきました。彼女に交際を申し込もうと思うのですが、可能性が無いのに申し込んで、稽古がやりにくくなっても、彼女に申し訳が無い。それとなく聞いてもらえませんか?」
F「それなら私が聞いてみます。」



25

博士「Kさん大変だ。」
K「どうしたんですか、博士まで。」
博士「私も一度言ってみたかったんだよ。ああ昨日の1億円の件ね。やはり経費を抜いてほとんど君のものだ。」
K「本当ですか?どうしましょう?」
F「もらっておけばいいのよ。お金はいくらあってもじゃまじゃないわ。」
K「Fさんに言われると、納得するわ。」
F「ところで、K2さんのこと、どう?」
K「どうって、素敵な先生ね、私強い人好きなの。刑事さんを断って、取り替えたい位よ。」
F「刑事さんを断って平気なの?」
K「ええ、まだ何度も会っていないし、会えないし。今ならお互い傷つかないわ。例の件でもうすぐ来ると思うけど。それより先生がどうかしたの?」
F「どうもあなたのこと気に入っているらしいのよ。それで探りを入れてほしいって頼まれたの。だめなのに交際を申し込んで稽古の妨げになるのも悪いって。」
K「そう、それは良かったわ。でもあの人も忙しそうね。」
F「そうでもないわよ。8時までが道場で、それ以降は空いているそうよ。それに週2日休みだし。」
K「そうね。ではたぶん大丈夫と伝えて、先に刑事さんに話しするから。それがはっきりしてから聞きたいわ。」
F「了解。でも今日も稽古来るんでしょう?」

どれにするかいろいろ悩んだ末FとJは結局先生お薦めのヌンチャクを購入した。
K2「彼女に聞いてもらえましたか?」
F「ええ、たぶん大丈夫だと思うけど、もうちょっと待ってね。彼女にも都合があって。」
K2「有り難うございます。それを聞いてちょっと安心です。いつまででも待ちます。ヌンチャクも入荷まで2日ほどお待ち下さい。それまでは道場のものを使ってください。では行きますよ。」

ヌンチャクを使った稽古もすごい速度でマスターしていったふたりであった。

ちょっと遅れてKがやってきた。K2とちょっと目が合った。
好意を持っていてくれると思うとちょっとうれしかった。

2日後刑事がやってきた。
刑事「今回はこの男です。」
K「すっかりここへ来るようになったわね。」
刑事「はい、ここの方がじゃまが入らないし。Kさんにも時間の節約してもらいたいし。」
Kはいつもの様にスケッチを描き。刑事はそれを受け取った。
K「仕事中申し訳ないのですが、お話があります。」
刑事「なんでしよう?」
K「私たちの交際の件ですが、時間のこともあり、終わりにしたいのです。」
刑事「そうでしたか。私も今の状態ではだめだと思っていました。私がもうちょっと、何とかしないと、だめでしようね。すいません、至らなくて。了解しました。これからも仕事の方ではお世話になります。」
K「こちらこそ、先日たくさん振り込みがありました。最後に一度ごちそうさせてください。」
刑事「いいんですか?わたしも別れを惜しみたいのでできれば、そうしたいです。今日なら早く帰れると思います。100%ではありませんが。」
K「帰りに電話します。」
Kの仕事は順調で、博士の屁の有効成分の合成のめどもたった。一般の人が使うものでは無いので大量生産の必要は、無いだろう。

K「Kです。こちらは終わりました。どうですか?」
刑事「私も大丈夫です。これから迎えに行きます。」
K「分かりました。では後ほど。」

K「Fさん、道場休みますから、先生にその旨伝えてください。刑事さんと最後のデートです。別れる話は伝え、了解してもらいました。」
F「分かりました。デートの件は言わないで、明日交際を申し込む様にと言っておきましょう。」
K「お願いします。では行ってきます。」
J「刑事さんがなんだかかわいそうな気がする。」
F「そうね。でも会えない人とつきあっているのも辛いのでしょう。それに二人ともちょっと冷めていたわよ。あなたは大丈夫?」
J「わっわたしはずーとFに夢中です。Fこそカンフーに夢中じゃないですか。」
F「そうね、でもあなたといっしょだからだと思うわ。私一人では、きっとこうは、いかないわ。ねっ世界武術選手権大会の話聞いたでしょう?」
J「まずは地区予選。そのうち3人が全国大会って言っていましたね。Fなら地区予選優勝に間違いない。」
F「あなたも出るでしょう?」
J「Fが出るなら出ますよ。」

その日も猛練習が続いた。
K2「休憩です。」
F「K2さん明日、Kさんに交際申し込んでみてください。」
K2「えっ!ついにその時が来たんですか?了解しました。がんばります。」
たぶん大丈夫と言われていてもK2は不安であった。

刑事「ごめんなさい、今まで仕事の事しか話が無くて、趣味は無いし仕事も細かい話はするわけにいかないし、本当にいっしょにいてどうしていいか分からないんです。」
K「もうお別れだから、今までのことは仕方ないわ。私も甘えたい方だから、甘えさせてくれる人探すわ。とりあえず今日は楽しみましょう。例の懸賞金があるから何でも言ってね。」



26

K「Fさん大変です。」
F「どうしましたか。昨日は予定どおりうまく行きましたか?」
K「一応お別れしたんですが、お互いどうしても嫌いになれなくて、だって彼もかっこいいんだもの。なんだか引きずりそう。」
F「そうね。でも新しい人ができれば、忘れるわ。そうしなくちゃいけないのよ。」
K「彼も新しい人見つかりそうって言ってた。同じ職場の婦警さんで親切にしてもらっているんだって。」
F「良かったじゃない。一方的だと悪い気がするけど、お互い様なら少しは気が楽よね。」
K「このままK2さんの申し込みを受けるの、悪い気がするわ。」
F「いい、人は生まれ、そして育ち、やがて年老いて死んでゆくものなのよ。ぐずぐずしていたらおばあちゃんになってしまうの。今すべきことを今しないと後悔するわ。私はそうやって生きてきた。私の生き方を強要する気は無いけれど、一応忠告しておくわ。」
K「Fさんかっこいい。」
J「男の私でもついて行きたくなるよ。」

博士「試作機ができたそうだ。そろそろ名前を考えなければならない。今日は4人で考えようじゃないか。」
J「これが博士と私は一番苦手なんですよね。でも今回は、4人もいる。」
博士「一人最低1つは出してほしい、できればたくさん。わたしは、Titan。」
J「では私は、日本語で犯人突き止め機松風1号」
F「まさか1回で、決めるんじゃ無いでしょうね。思いつかないわ。」
K「私も思いつきません。」
博士「堅く考えないで、とにかく思いついた言葉をを言ってみることだ。」
K「じゃあH’S POOH!」
F「じゃあボーグ」
博士「それにしよう。それがいい。」
F「ええっ頭に浮かんだものを適当に言っただけで意味はないのよ。だめよっだめっ。」
J「いつもこんな感じですよ、響きだけで決まる事が多いんです。決定ですね。意味は後で私がこじつけます。H’S POOHも捨てがたいですね。」
博士「うむ、それも別なところで使うとしよう。女性二人はなかなかセンスがいいらしい。今までは1日掛かりだったのに今回はたったの3分だ。今日はこれで終わりにしよう。一日分の仕事をした。」
K「博士がそうおっしゃるなら、ってまだ午前11時ですけど。」
博士「たまにはみんなで外食しようじゃないか。二人の歓迎会もしていない。」
J「そうか、そう言えばそうですよね。」
F「普通、歓迎会と言えば、夕食を兼ねた宴会じゃないですか?」
K「私お金はらいます。」
博士「二人の歓迎会だ。私もたくさん給料をもらっている。たまにはみんなのために使ってみたい。私に払わせてくれ。それに君たちはカンフーの稽古があるんだろう。夕食では間に合わない。ましてKさんは告白が待っているとさっき話していたんじゃ無いかね。」
J「なんだか、この中では私が一番貧乏みたいですね。私も結構貯金ある事がわかったんですけど。」
K「ちょっと前までは私が一番お金無かったですよね、きっと。でも博士のおかげで急にお金持ちになっちゃった。昨日も懸賞金の掛かった人だったんですよ。当たったらどうしよう。私大金の使い方わかんないんです。」
F「使い道が無いのなら貯金しておいて、お金のことは忘れていればいいのよ。無駄遣いはしなくなるわ。」
K「本当にこういう事は、Fさんに言われると納得します、分かりました。お金は無いものと思います。」
J「なるほど、そう言えば私もずーとお金の事は忘れていました。」
F「あなたのはただのズボラだと思うけど。」
K「本当に仲がいいのね。」
J「おっと博士の前だった。では参りましょう。」

4人は予約の要らないレストランへ行き、仕事のことや他愛のないことを話し、大いに盛り上がった。しかし昼時でもあり2時には解散となり、博士は自宅へ帰った。
J「どうしましょう。まだ2時です。」
F「道場は開いているはずよ。今は子供もいるし午後1時から8時までが、営業時間。大会も近いし少しでも稽古しましょう。」
K「なんだかドキドキするわ。」

K2「おや、今日は早いですね。今の時間は空いています。じっくりできますよ。」
F「お願いするわ。休憩を入れて4時間稽古付けてちょうだい。」
K2「4時間ですか、本来なら別料金ですが、Fさんには多大な協力をしてもらっています。サービスします。」
J「と言うことは私は別料金でしょうか?」
K2「あなたの承諾無しには、Fさんの協力は得られませんでした。もちろんサービスします。それとFさん、ポスターはいくら貼っても、すぐ盗まれてしまいます。1000枚印刷して10枚づつ貼っているのですが、もう100枚くらいしか残っていません。また追加注文していただけませんか?」
J「そんなにすぐ無くなるんですか?では思い切って10000枚印刷した方が安いかも知れませんよ。」
F「そうね、盗まれるのはいいのか悪いのか分からないけど、習いに来る人が増えるのは良い事よね。思い切って10000枚印刷しましょうか?たぶんそんなに値段は変わらないわよ。それとKさんに話があるのだったら先に済ませてね、気になって稽古に身が入らないわ。」
K2「じゃあ10000枚でお願いします。Kさんの件も了解しました。私も同じ心境です。ではKさん、お話ししたいことがあるので、こちらへよろしいですか?気にはなると思いますが、後で結果報告しますから、二人はいつもの準備運動をしていてください。」
K「じゃあ、ちょっと待っていてね。あートギドキする。でもこういうドキドキ嫌いじゃないけど。」

二人は別室へ消えていった。

K2「お話は分かっていると思いますが、あなたのことが気になって仕方がないのです。最初は、あなたがKだったから、私がK2になったらしいので、そのことが気になっていたのですが、だんだんそれだけでは無いことに気がつきました。私の状況をもう少し理解していただいた上で、それでもよろしかったら交際をお願いしたいのです。」

K「あなたの状況と言うと何でしょうか?」

K2「もう聞いているかも知れませんが、Fさんたちが来るまでは、開店休業状態で、お金がありませんでした、従って私には借金があります。今はお陰様で余裕がありますが、借金返済まではまだ2年はかかると思います。Fさんがいるうちは繁盛していると思いますが、先のことはどうなるか分かりません。私はこんな事しか能が無く、副業で生活はしていましたが、たいしたことはできないのです。ですからできれば、今のように道場1本で、やってゆきたいと思っています。カンフーには自信があるのですが、商売は下手で、いままで、儲かりませんでした。そのことを伝えたかったのです。」

K「良かった、たいしたことじゃ無くて。交際はお受けします。では私も条件を伝えます。いいですか?まず、仮に、仮にですよ、結婚すると成った場合、可能な限り今の仕事を続けたいのです。お金のことは気にしていません。最小限の生活ができれば充分です。それともう一つ、私もFさんみたいにカンフーをうまくなりたいと思っています。彼女のように才能は無いですが、時間外でもいいですから特別に教えてくださいね。」

K2「ええっいいんですか?特別に教えるのはもちろん了解です。休日でも、深夜でもいつでも教えます。では約束なのでFさんたちに報告してきます。」

K「待って、私から言うわ。特別コーチの件はしばらく秘密よ。」

F「うまく行ったみたいね。顔を見ればわかるわ。」
K「ありがとう。毎日デートできそうよ。彼曰く道場が再起して感謝しているそうよ。Fさんずーといてほしいって。」

J「私は?」
K「ごめんなさい。Jさんの話は出なかったわ。」
J「F、今すぐやめよう!」
K2「わっJさんにも感謝しています、すいません。、やめないでください。」
J「冗談ですよ。Kさんの事うまく行って良かったですね。でもKさんだけ特別扱いはだめですよ。少しはいいけど。」

K2「はい、時間内は平等にするように勤めます。」
F「今、時間内って行ったわね。つまり時間外があるって言うことね。」
K2「えっどうしてばれたんだろう?」

K「デート中のカンフーもありってことよ、カンフーデート。」

J「K2さん今のは誰でも分かりますよ。デート中は二人の時間です。誰も、とやかく言いませんよ。Fも苦手と言いながらたまにつっこむんです。許してやってください。」

K2「そうでしたか。さっき特別コーチの件はしばらく秘密って約束したばかりなのに、もうばれてしまって、早速頭が上がりません。」

K「いいわよ、許してあげる。過ぎてしまったことは仕方ないわね。さあ稽古しましょう。」



27

次の日ボーグの試作機が来た。1m位の機械で、人の力では持ち上がりそうもない。
カセットタンクが付いていた。
博士「H’S POOHを充填だ。」
助手「了解、充填しました。」どうやら、ガスの方にH’S POOHの名前が付いたようだ。
博士「ではテスト開始だ。探したい人の写真を用意。」
助手「セットしました。」
博士「スイッチオン」
助手「オンしました。」
画面にある場所が出てきた、見覚えがある、R邸だ。
F「誰の写真を使ったのですか?」
博士「成功だ、実はR氏の使用人のを拝借した。」
K「確かプログラムは完成していないんじゃないですか。」
博士「だいたいは完成している、後はエラー処理だけだ。トラブルが起きると暴走するかも知れん。それとまだ画面の拡大縮小ができないそうだ。」

F「すごいですね。これでKさんの力を借りなくても、犯人を捕まえることができる。」
博士「それだけではない。R氏と相談したんだが、ここに別棟でDetective Agencyを、開設することになった。初代所長はFさん君を推薦しておいた。警察の依頼はもちろんだが、一般の人も殺到するかも知れない。」

Fは突然涙ぐんだ。
F「ええっ私、博士やJさんと離れて仕事するのは嫌です。」
博士「J君は分かるが私はおまけだろう?」
F「いいえ、二人のやりとりを見ているのが好きなんです。」
博士「私たちは、芸人かい!」
J「心配はいりませんよ。建物は別ですが隣だし、実務は、あなたの選んだ別な人にさせればいいんですよ。重要な決定だけFさん本人がして、通常はこちらでいっしょに仕事ができます。」
F「分かりました、それでしたら大丈夫です。」
博士「いやーびっくりした。Fさんがいやがるなんて思っても見なかった。さすがJ君、良いフォローだ。確かに所長とは名ばかりで、毎日仕事があるとは思えない。重要な決定と、要人には挨拶に顔を出すことくらいかな。ところで、警察の依頼はともかく、一般の人の依頼は注意が必要だ。依頼があったからと言ってむやみに探し出しては、人権問題に関わる可能性がある。」
K「どんなことでしょう?」
博士「例えば借金の取り立てが怖くて、逃げ回っている人がいたとする。その人を取り立て屋が探してほしいと言ってきた場合は、断らなければいけない場合が多い。」
助手「中には嘘を言ってくる人もいるでしょうね。」
博士「その通りだ、だから依頼者の話をよーく聞いて、必ずウラをとる必要がある。」
助手「そうすると依頼から、実際の捜索まで数日かかるかも知れませんね。」
博士「弁護士に頼んで規定を作ってもらった方が良いな。Fさんには今日から、建物の設計をはじめとするDetective Agencyの設立の仕事に関する一切を任せるから、そちらに専念してくれ。J君やKさんも何かアイデアがあったら出してほしい。」

F「この機械は大量生産はしないのですか?」
博士「しない。このボーグは、すごいだけに使い方を誤ると危険な、一種の両刃の刃だ、業務用1台と故障したときの予備を1台、計2台の予定だ。ただし、処理がぜんぜん間に合わない場合は再検討の余地はある。さてわれわれは、さらにテストを繰り返す。他の人のデータを用意してくれ。」
助手「了解です。」
その後居場所の分かっている100人ほどのテストをしたが、すべて合っていた。途中プログラムが暴走して何度かリセットをする必要があったが100人を2時間ほどで処理した。
助手「居場所の分からない人もチェックする必要がありませんか?」
博士「そうだな、それもやってみよう。しかし居場所の分からない人をどうやって、確認するんだね。」
助手「電話ですよ、電話。」
K「写真があって電話番号が分かっていて、居場所の分からない人ですね。そんな人いるかしら。」
F「今日の父の居場所は分からないわ。やってみましょう。事前にテストの報告も兼ねて、言っておきましょう。」
博士「電話に出たら替わってくれないか。」
F「もしもし、おとうさん、わたし、今例の機械のテストをしているの、博士と替わります。」
博士「Rさん、今のところ順調です。100人のテスト約2時間で完了しました。それと居場所の分からない人のテストをしたいので、結果が出たらまた電話しますから、その時当たっていたか教えてください、では。」

写真をセットしスイッチを入れた。
都会を画面が移動している。縮小できないので、場所の特定ができなかったが、この速度だと車で移動中に違いない。
止まった。R氏の会社の一つに入ったようだ。

博士「電話だ。」
F「もしもし、私、車をおりて今会社に入った所ね。」

博士「どうだった。」
F「当たっていました、怖いくらい。これじゃあ個人のプライバシーなんて無いも同然ね。」
博士「そのとおりだ。ひょっとしたら造ってはいけないものを造ってしまったかも知れない。」

F「困っている人を助けることができるのも確かです。正しく使いましょう。」
博士「科学者はいつもそう言って悪魔にもなる道具を造ってきた。しかしFさんがいるうちは大丈夫。製造方法は絶対秘密だ。ボーグだけでは動作しない。H’S POOHは、KさんとJ君しか作れない、プログラムは別の人間だ。一同が会する事は無いだろう。」

次の日一同が会し博士はずっこけた。
プログラマー「博士、エラー処理のすべてに画像やアニメが付いていて、重いのですが、本当に必要なのでしょうか?」
博士「なにを言っている、エラーが出たらアニメで優しく教えてくれた方がいいじゃないか、それにこの写真、腰のくびれがたまらん。」
助手「また博士の悪いギャグだ。」
プログラマー「アニメーションや画像表示をしなければすぐにでも完成します。」
博士「仕方がない、画像はあきらめて次のバージョンにするか。」
助手「それ、あきらめたって言わねーつーの。」

博士「ボーグの方は今のところ快適に動いている。1ヶ月ほどテストしてから、予備機の製作に入ってくれたまえ、なお、前にも言ったとおり設計図は厳重管理だ。」
助手「博士、こちらはギャグは無いんですか?」
博士「しまった、考えていなかった。」

Fはいろいろな人に電話してDetective Agencyの設立の準備を開始した。中でもデザイナーにはこだわって数人に会った。
その中でようやく一人を選ぶことができた。
その他は関連会社だけで、順調に準備が進んだ。
R研究所の敷地は広いので、大きな建物も造れたが、200人程度がゆったり待ち合わせできるスペースを確保して、建物を設計した。
駐車場は、それより少し多めに設計した。

J「今日はどうしたんだい、急に涙ぐんだりして。」
F「だって博士が、一緒に仕事したくないって、聞こえたんだもの。ねえ抱いて!」
J「そんなはずは無いじゃないか、ずーと一緒にいられるよ。そうだ、今度造る建物に関係者だけ行き来できる内部通路作ったら。」抱きしめながら言った。
F「もう考えてあるわ。所長室を研究所の一番近くにして、そこから廊下に出ないで行き来できるようにしてある。それより今日あなたのフォローうれしかった。」
J「さすかFだ。そういうことは抜かりがないね。そりゃあ私だって一緒にいたいよ。」
F「本当?もう飽きたんじゃない?私ね朝から晩までずーと一緒にいたいのよ。」
J「以前言ったように飽きるなんてことはたぶんないよ、私は朝から晩までと晩から朝まで一緒にいたい。」
F「ずるい私だって同じよ、ん?たぶんがついてた。ところで私たちカンフーのおかげで体か軽くなったわよね」
J「えっ体重は変わらないけど。」
F「そういう意味じゃないっつーの。」
J「わかっている、それで?」
Jはキスをした。
F「こんな事ができるようになったわ。」
バク宙、片手の逆立ちなどを披露した。


28

助手「博士大変です。」
博士「またいつものたいへんか、今度はなにかね。」
助手「通常業務が滞っています。」
博士「それはたいへんだ。おおっデータが山のようにたまっている。3人で急いで処理しよう。」
助手「Fさんは?」
博士「忙しいんじゃないかな?聞いてみて、手伝えたら手伝ってもらってくれ。」
助手「おーい、Fさーん、どこだー、おっいたいた。手伝えたら手伝ってほしいんだけど。」
F「ちょっと待ってね、すぐかたづけちゃうから。午後は一人お客さんがくるのよ。午前2時間、午後3時間くらいならなんとかなるわ。」
助手「了解、待ってる、Kさんもね。」
K「もう始めています。」
博士とJとKの3人でたまっていたデータの処理をしていると、1時間ほどでFがやって来た。
F「お待たせ。何をすればいいの?」
助手「このデータを入力して、次にこれ、それからこれとこれ、おやっ、これはいらない。」
F「今日中にこれ全部しなければいけないのですか?」
博士「そんなことはない。君はDetective Agency優先でかまわないよ。今どんな状況だね。」
F「建物の設計は手配しました。それに弁護士さんによる規定作りも順調、あとホームページを開設して、予約できるようにしたいのです。でも状況を詳しく聞くのは、実際に会ってからだし、ウラを取るってどうしたらよいか、分からないで困っています。」
博士「君に任せると言ったが、全部抱え込まなくていいじゃないか?ウラを取るにはそちらの専門の人がいる。建物の設計だって、専門の人に頼んだんだろう。君には多くの知り合いがいる、私も詳しくはないが、どうしても分からなかったらR氏に相談してみるといい、適当な人を紹介してくれるんじゃないかね。」
K「刑事さんならそういう人知っているかも知れない。」
F「そうね。早速当たってみるわ。でもこの入力やってからにしましょう。」
博士「刑事さんか、なるほど、それなら私から電話しておこう。近くへ来たら寄ってもらおう。ピッピッパッと、イフイフ、ハロー、じゃなかった、もしもし、刑事さん?ちょっと頼みたいことがあるのでついでの時でかまわないから、寄ってください。はい、2時頃ですね、了解。」
F「どうでした。」
博士「今日2時に来るそうだ。確か午後のお客さんは1時だったね。」
F「そうです。たぶんちょうど良いと思います。」

刑事「頼みたいこととは何でしょうか。」
F「紹介してほしい人がいます。今準備しているDetective Agencyが完成すると、ひとつ困ったことが予想されるのです。現在の計画では、警察への協力を第一と考えていますが、行方不明の人を探す一般の方の受付も開始されます。しかしこれには危険が伴うと思っています。つまり探す方は探したいのでしょうが、行方不明者の中には探してほしくない人もいると思うのです。ですからそういった情報収集のプロを探しているのです。」
刑事「分かりました。ちょうど良い人がいます。警察に何度も協力してもらっていた探偵です。Kさんの活躍後仕事が無くなったとぼやいていました。これからも無いでしょうからちょうど良いと思います。ところでセンターが完成すると、現在は月1回に絞っている、透視の回数を増やせるのでしょうか?」
F「正直なところ始まってみないと分かりませんが、今は1日10件位と思っています。」
刑事「そんなに、たくさんできるのですか、それはすごい。」
F「実験段階では能力的に、もっとできるのですが、現在のところどうなるか、はっきりしていません。」
刑事「ところでKさんと個人的にお話がしたいのです、会えませんか。」
F「聞いてみます。」

しばらくしてKがやってきた。
K「しばらくね、うまくいってる?」
刑事「仕事の方は、うまくいっています。彼女のほうもまあまあです。」
K「私も同じね。仕事はうまくいっているし、彼ともうまくいっている。」
刑事「それは良かった、それが気になっていたんだ。それとDetective Agency開設までしばらくかかりそうだから、またKさんのお世話になると思いますけど、その時はよろしく。」
K「今実験段階なので、そちら警察側の都合は分からないけど、もう犯人を捜すことはできるわよ。実際の犯人でテストできたらいいと思うので、博士を呼んできます。」

少しして博士が来た。
博士「Kさんの言うとおり、そちらがかまわなければ、実際の犯人でテストしてみたいという気持ちはあるんだ。どうかね?」
刑事「たぶん問題ないと思いますが、上司とも相談して、問題なかったらデータを持ってきます。で、場所はどのように分かるのですか?」
博士「まだ完成していないんだが、最終的には地図を印刷可能だ。技術的にはメールでやりとりもできるのだが、あまりにも危険な情報なので今のところ考えていない。今日現在は画面で見るだけだ。」
刑事「それはすごいですね。」
博士「なにしろまったく新しいものなので、取り締まる法律が無い、このデータが盗まれたり、悪用されるのが怖いのだ。しかし上手に使えば、より良い社会になると思う、警察内部でも是非話し合ってほしい。犯人を捕まえることだけが正義では無いことを、犯罪を未然に防ぐことこそが大切なんだと。この機械が世に出れば、悪いことをすれば必ず捕まるという図式ができあがる。それがうまく作用して犯罪が減少してくれることを祈っている。」
そこへ助手が入ってきた。
助手「どうしたんですか、博士、珍しく宇宙以外で語っていますね。しかもギャグ無しで。」
刑事「博士もFさんが誘拐されたとき、とても心配していました。ギャグを言う所では無いのでしょう。」
助手「そうか!このボーグが発表されうまく認知されれば、誘拐の心配も減るのか。博士はそこまで考えて、造っていたんですね、それをギャグがどうのと言っていた自分が恥ずかしいです。」
博士「いや、刑事さんに言われて今気づいた。しかも君に言われてギャグも考えていた、しかし、いいのが思いつかないで困っていたところだ。」
刑事「ではいったん帰ります。署内で相談して早ければ明日また伺います。」
博士「ばいちゃ」
助手「なんだそりゃ」
博士「ギャグ」
助手「さてアホはほおって置いて仕事が山のように残っているので戻ります。」
博士「まて、私を置いてゆくな。私も行く。そして応接室は誰もいなくなった、まる。」


29

F「こうして3人で道場へ通うのも、もう10日目ね。」
K「私は相変わらず、基礎訓練だけ。二人のように早く宙を舞いたいわ。」
J「今日もいっぱいみたいですね。もう車ではこられないですね。」
F「ここまでの往復も訓練のうちよ、そうだ今度からは走ってきましょう。」
K2「お待ちしていました。Kさんはこちらへ、FさんとJさんお願いがあります。今日は、私の替わりに少し組み手の稽古をつけて頂きたいのです。いよいよわたし一人では追いつかない状況になってきました。それに人に教えるのもとても勉強になるはずです。とりあえず今月から月謝は要りません。謝礼は様子を見て考えます。」
F「謝礼なんて要らないわ。ちょっと相談するから待っていてください。」
F「私はかまわないけど、どうする?」
J「きっと、あそこにいる君ねらいの人と組み手するんだろうね。でも断れる状況でもなさそうだ。カンフーだからそんなに体に触れることは無いと思うけど、あまり君の体を触るようなら、私が文句を言うから言ってください。」
F「あなたはあっちの女性たちかもよ。もしそうだったらあなたもべたべたさわらないようにね。私だっていい気はしないんだから。」
J「わかった。」

F「とりあえず今日はやってみます。明日からのことは状況によって考えさせてください。」
K2「お願いします、では二人はこちらへ。」

K2「ではみなさん、今日は特別に先輩のJさんとFさんが、稽古を付けてくれます。まずはお手本として二人で組み手の見本をしますから見ていてください。ではお願いします。」

J&F「お願いします。」
F「はっ」Fが宙を舞った。Jもそこへ向かい拳を出した。Fは宙でそれをかわし、逆方向へ飛んだ。
見ていた生徒たちから歓声があがった。
時に激しく、時に微妙な間が空く
二人の見事な組み手は芸術を見ているようでもあった。

二人の礼で組み手は終わった。
あまりの見事さに生徒たちは息をのんでいる。

K2が沈黙を破った。
K2「みなさんも、早くこの先輩たちのようになってください、それでは二手に分かれて組み手の指導をしていただきます、だいたい一人5分です。では並んでください。」
男性がどどっとFの方へ我先に並んだ、必然的に女性はその後ろになった。
圧倒的にFの方へ列ができ、女性数人がJの方に並んだ。
K2「ここから後ろの方はこちらへ並んでください。」
K2が約半数になる様に振り分けた。
想像したとおりF側には男性100%、J側には女性90%となった。
後ろ半分をJに振り分けたのでこんな結果になってしまったのだ。

Jは最初Fの事が気になったが、稽古が始まるとそれどころではなかった。
相手は5分でもこちらは休み無しである、技術的には余裕だったが、全力でぶつかってくるので、5人目くらいで少し疲れてきた。
ちらっとFを見たらまだ余裕の表情だった。
J「はい、次の人」

K2は少し離れた場所で、Kをはじめとする初心者に指導していた。
入ってしばらくは、K2師匠と組み手ができた。それがだんだん減ってきて今では教える立場になってきた。
しかしJにとってF以外の女性と組み手をするのも悪くはなかった。
結局約1時間半休まず組み手をし、さすがに疲れた。



30

F「また夢を見たの。4人であの洞窟探検に行く夢。あそこはきっと何かあるわ。KさんK2さんを誘って一緒に行ってくれない?」
J「それはかまわないけど、あの二人も行くかな?それに何かあるって危険って事じゃないの?」
F「分かりません。でも夢の中では4人で行って、ちゃんと無事帰ってきたのよ。途中が分からないんだけど、とにかく行かなければならないような気がして仕方がないの」
J「K2さんがいれば安心感がありますね。誘ってみましょう。」
F「私はKさんを誘ってみるわ。」


3日後4人は洞窟へ向かっていた。
F「わたし子供の時から、いつかこの洞窟へ来るような気がしていたの、そして機が熟した感じがするのよ、今こそ洞窟へ行く時だって。」
K2「あなたがそういうのなら、きっと良いことが起こりますよ。」
4人は洞窟の入り口に立った。
J「ちょうど人が入れるくらいの大きさだ。」
K「熊とかいないでしょうね。」
K2「熊だったら私が何とかします。」
K「こういう事にはK2さん心強いわ。」
中はそれほど複雑では無かったが、分岐点にさしかかった。
F「左へ行きましょう。」
念のため分岐点に目印をおいた。
突然何かがたくさん飛び出してきた、コウモリだ。「キャー!」KがK2にすがりついた。
ライトに反応して飛び出してきたらしい。
4人はびっくりして、立ちすくんだがすぐに気を取り直して前に進んだ。

しばらくすると天井の高い広場の様なところへ出た。
F「ここよ、ここへ来たかったんだわ。」
K2「おおっ!ここは、ひょっとして。」
J「ひょっとして、何ですか?」
K2目を閉じ何かに浸っている様子だった。
K2「間違いありません、ここは霊場です。」
J「レイバ?」
K2「霊といっても幽霊が出るわけではありません。中国では、風水が盛んですが風水で言うところの修行に適した場所の事です。よく山の中にお寺があり、なぜこんなへんぴなところにと思うかも知れませんが、そこが修行に適しているからそこへお寺を建てたのです。おそらくここは私が経験するもっとも高いレベルの霊場です。」
F「カンフーにも関係あるんですか?」
K2「カンフーというより、本来修行僧に向いているんでしょうね。しかし今Fさんに、教えようとしている気合いの訓練にはもってこいです、早速やってみましょう。」
あれから2日間の訓練で少しの進歩はあったものの、自分で気のスイッチを開くことはできないでいたのだ。K2がFの額に手を当てた。
F「簡単に開いた。」
K2「手を放します。」
F「自分でできるわ。それでどうするの?」
K2「それを前へ送り出すのです。私に向かって出してみてください。」
F「はい、こうかしら。」手のひらをK2に向け気が放出された。
K2の体が僅かに揺らいだ。
K2「成功です。それを体で覚えればあとは、ここで無くてもできます。少し一人で練習してみてください。私はJさんにも教えます。ここでならJさんもできると思います。」
J「本当ですか?それはすごい、是非お願いします。」
しばらくK2の補助を受けながらJもどこの力を使うのか分かってきた。
Fはかなり自由にコントロールできるようになった。
K2「Fさんのパワーは強力です、力をセーブする練習もしてみてください。」
F「分かりました。」
K2「Kさん次はあなたです。」
K「えっ私もできるんですか。」
K2「この力はカンフーとは直接関係ありません。この場所ではできる様になると思います、Kさんはここを出ると元に戻ってしまうかも知れませんが、何回かここを訪れて練習すれば身につくと思います。私も実は中国の有名な霊場へ行って修行したのです。」

4人はしばらく訓練を続け結局全員気の放出を覚えたのだった。
K2「今日はこのへんで帰りましょう。Fさんすばらしい場所を教えていただき有り難うございます。できればまた修行に使いたいのですがこの場所の所有者は誰ですか?」
F「父です。何度も利用するのでしたら、もう少し使いやすいように通路を作ったり明かりを付けたりしたいですね。」
K2「そうですね、自然の中と言うのもいいですが、通路と明かりくらいは、あった方が良いことは確かです、あなたのお父さんが所有者とはすごいですね、あの別荘もですか?」
K「実は口止めされていたけどFさんのお父さんはR氏なのよ、知っているでしょう。」
K2「ええっそうでしたか、そうとは知りませんでポスターのモデルの話や微々たる謝礼の件など恥ずかしい限りです。R氏はよく存じています。」
F「何を言っているのですか、K2さんは私の師匠です。師匠の役に立つのは弟子の勤めです。恥ずかしいことなんてありません、これからも今までと同様何でも言ってください、できることでしたらやらせていただきます。」
K2「有り難うございます。」

4人は別荘で少し休んでから帰路についた。
J「なんだか楽しみですね、私にこんな事ができるとは思っても見ませんでした。10年かかると言われていたのに。」
F「この力は、人間にしか効果無いのかしら?」
K2「私は武道家なので詳しくは分かりませんが、気功師は気の力で人間の治癒能力を高めることができるそうです、ただし今日教えたものと同じとは思わないでください、私の知っていることは武術としての気合いだけです。気功師の気の使い方は分かりません。以前カンフーの武術大会に出たとき、この力を知らずに簡単に負けてしまったことがあります。それでいろいろ調べて中国の霊場へ行って修行しました。動物をすべて試したわけではありませんが、私の知る限り人間にしか効果は無い様です。また生物ではない物体を動かすことはさらに無理です。」
F「そうでしたか。」
K「じゃあ私たちはここで。」
K2「また明日お待ちしています。」

JとFはR邸に着いた。
J「早速訓練の成果を見てみよう。」
部屋にはいると二人は構えた。
F「お先にどうぞ。」
J「えいっ!」
F「すごいわ、できてる。今度は私。」
J「軽く頼むよ。」
F「了解、はっ!」
J「うん、うまくコントロールされているみたいだ。」
F「大会にはこんな事ができる人が大勢いるのかしら?」
J「確かにこつさえつかめば、私でもできることだ。中国には霊場を知っている人たちがたくさんいるだろうから、いままで知らなかっただけで大勢いるんじゃ無いだろうか。」
J「しかしあの場所だから、何とかなったけど、これって人に教えたくても教えようがないよね。」
F「そうねK2さんはすごいわ。」



31

助手「博士大変です。」
博士「はいはい、まさか君まで例の気合い術をマスターしたと言うのでは無いだろうね。」
助手「そのまさかです。」
博士「まさか!」博士は口をあんぐり開けた。
K「博士っ、私もちょっとだけできました、今はできませんけど。」
博士「なっなんとKさんまで、それはすごい。さあ仕事がまだ山のように残っている。気合いを入れてやってくれたまえ。といってもその超能力みたいな気合いじゃないぞ。」
助手「分かっています。残念ですがこの力でデータは片付けられません。」
博士「私の見た範囲では特に変わったデータは無かったが、そっちはどうかな?」
助手「無かったです。」
博士「変化の無いのは退屈だが、あまり変化があってもついて行けない。今はDetective Agency準備中なのでしばらく何事も起きない方がいいな。」
助手「今日当たり警察から連絡があるかも知れませんね。」
博士「そうだった、そうだった。機械での捜索テストして見るんだった。連絡が来ないうちに、いつもの仕事を片付けよう。」
K「博士、警察から電話です。」
博士「やはりそのパターンか?『来ないうちに』と言うと来ると思ったよ。もひもひ、じゃなかったもしもし、はい、2件ですか、了解です。一人は写真が無い、ええ無くても大丈夫です、関係する何かがあれば、なんとかなるはずです、まあやってみましょう、午後ですね。」
助手「午後来るんですね、じゃあ準備はできているから、午前中は仕事ができるって事ですね。」


午後になり警察がやってきた。
刑事「ではまず写真有りの案件です、これをお願いします。」
約1分ほどで、画面に地図が現れた。
助手「これで分かりますか?よろしければ印刷します。」
刑事「これもほしいですが、もうちょっと全体の分かるものは出ませんか?」
助手「了解、このくらいでどうでしょう。」
刑事「おおっ分かりやすい、印刷お願いします。」

刑事「では写真無しの案件です。髪の毛でよろしいですか?」
助手「これは犯人のものですか?」
刑事「現場に残されていたもので、我々はそうにらんでいます。」
先ほどよりちょっと時間がかかったが2分と待たずに、画面に地図が現れた。
助手「この髪の毛の持ち主はここにいると思いますが、犯人かどうかは分かりませんよ。」
刑事「分かりました、ではこれを手がかりに捜索してみます。有り難うございました。」

助手「要件が分かっていると早いですね。刑事さんが来てからまだ10分と経っていない。」
博士「一般の人はこうは行かないだろうね。話を聞くのが大変だ。それに警察の場合も犯人の遺留品が無い場合は難しそうだね。」
F「カウンセラーを5名確保しました。内容によってはウラをとって後日結果を書留等で送る予定です。博士、その遺留品が無い場合はだめなんですか?」
博士「何もないとだめだろうね、テストの結果指紋はOKだった。ところでそっちは順調のようだね。」
F「はい、今日の打ち合わせは終わったので後は、データ整理手伝わせてください。」
助手「助かります、お願いします。」
Fはこういう仕事も合っているようで、あっという間に勤務時間が終わった。

J「さて、今日も練習だ。」あれからFの提案で走って道場へ向かった。車は研究所に置いてあるので、練習が終わってからも走る事になるが、体が軽くなったので苦にはならない。
K2「道場へようこそ。」
K「こんどそう言う挨拶にしたの?デニーズじゃないんだから。」
K2「だめですか?」
Jは聞こえないように言ってみた「道場へどうじょ。」
F「なんか言った?」
J「いいえ、たくさん生徒がいるんだからわざわざ出迎えなくてもいいのかなと思ってます。」
K2「それはそうですが、昨日のお礼もしたかったし3人の姿が見えるとつい出迎えたくなってしまうんですよ、それと今日も師範代お願いします、みなさん待ちかねています、帰りに昨日のおさらいしましょう。」
本当に大勢が待ちかまえていた。

Fは大勢との組み手稽古が終わり、K2にも昨日のおさらいをしてもらった。
Jはまだ、2人ほど残っていた。
Fは気のパワーが大きいのでセーブの仕方と、相手の気合いの受け流し方を練習した。
K2「これをマスターしなければ、大会で上位にはあがれないでしょう。Fさんのスピードと技はすでに他の選手と同等かそれ以上です。肉体的パワーは残念ながら中くらいです。後はこの気合い術を上手に使いこなすことです。それと大変残念ですが、私にはもう教えることが無いのです、それだけあなたの上達がすばらしかったのですが、後は自分独特の技を一つ編み出してください、何か思いつけば協力は惜しみません。どうしてもと言うなら他の棒術もあるのですが、大きなものになってしまい、現代ではあまり現実的では無いと思います。」
F「自分独自の技を編み出すのですか?考えられません。」
K2「それと1つ考えていることがあるのですが、現在カンフーフィットネスというのがはやっています。カンフーを武道としてとらえないで、もっと気軽にできるようにしたものです。もともとカンフーは太極拳の流れをくんでできた比較的新しいものなので、この動きをフィットネスに応用するのは適しているのです。」
F「それで?」
K2「まずそのカンフーフィットネスの希望者を女性に限り募りたいと思います。どのくらい集まるかにもよりますが、当面曜日で分ける事を検討しています。そして相談なのですが、Fさんにはそちらをメインに教えていただけないでしょうか?そうすれば相手は女性ですし、Jさんも気が楽になると思うのです。」
F「もう少しどういう状況になるのか考えてみないと分かりません。例えば月曜日フィットネスだったとしますね、私はここへ来て指導するのでしょうが、Jさんは稽古できないことになるのですか?」
K2「お二人は毎日熱心に稽古していますから、それは続けられるよう配慮します。私が直接指導しようと思いますから、今よりJさんにとっては良いかも知れません。」
F「でも私といっしょにはできなくなりそうですね。」
K2「やはりそのあたりはこだわる所でしょうか?ではこういうのはどうでしょう?お二人でフィットネスを担当していただき、別に稽古する時間は用意します。」
F「私の中ではフィットネスと言うと女性指導者のイメージがありますが、大丈夫でしょうか。Jさんにも聞いてみましょう。」
ちょうどその時Jも組み手が終了した。
K2はJに説明した。
J「当面と言うことなら良い考えだと思います、しかしずっととなると考えてしまいます。カンフーがおもしろくなってきたところですし、大会までは全力で稽古するつもりですが、その後やめるつもりは無いまでも、指導者になりたいわけでも無いですしね。」
K2「もちろんずっとと言うわけではありません。あなた方に続く生徒さんもいますから、いずれその中からこれはと思う人を、選ぶつもりです。」
F「それならいいわ。」
J「了解しました。」
K2「ではJさんも昨日のおさらいをしましょう。」



32

カンフーフィットネスの内容が発表されると大反響で、約半数の女性からフィットネスへ移動希望が出された。
また、新規の希望者も口コミで増え、K2の読みが正しかったことが証明された。

そんな中、いよいよ大会地区予選が開かれた。
K2の道場のあるブロックから10名、そのうちK2の道場からFとJ、2名が出場した。
10名の内3名が全国大会へ出場できることになっている。
日本でのカンフー人口が少ないので、かなり高い確率で全国大会に出場できるのだ。
F「お願いします。」
K2から小柄ながらかなりの強敵であることは聞いている。
出方を伺っていたら、待ちきれなくなったらしく相手から攻撃を仕掛けてきた。
素早い攻撃だ。
うまくかわしカウンターを決める事ができた。
相手は後ろ宙返りをして足を着くとそのままジャンプして攻撃してきた。
連続技だ。Fはうまくしゃがみ込み、下からキックをお見舞いした。
審判「場外!」相手は外へ飛び出した。
場外は3回で1本となり3本の内先に2本先取した方が勝者となる。
人数が少ない関係もあるのか、トーナメント方式では無く、総当たりもどき、で予選は行われる。勝ち進んでゆけば全員と試合することになり、3回負けた時点で終了、全国大会の出場資格は無くなる。
従っていずれはFとJも戦うことになるかも知れないのだ。

しかし次の瞬間誰もが予想しない事態が起きた。
相手が何か技をかけた瞬間Fが消えてしまったのだ。
すぐに観客の後ろからFが飛び出してきた。

あまりのすごい技に審判もどうして良いか分からず、試合は中断された。
しばらくして審判の間で相談され、技は有効「場外」と言うことになった。

さすがのK2も今の技は初めてだった。
もっと遠くに飛ばされていたら試合放棄で負けになっていたかも知れない。

試合は続行されF優位のまま進みFのキックが決まり、何とか勝つことができた。
どうやら先ほどの技は、続けてはできないようだ。

K2「こんな技は初めてです、どうなったのか見ていて分かりませんでした、どうなったのですか?」
F「私だって分かりません、突然別の場所に移動したのです、幸いなことに驚いただけでダメージはありませんでした。」
J「まるでテレポーテーションだ、SFみたいですね、よける方法はあるでしょうか?」
K2「やはり手をかざして技をかけたようなので、それを察したらすぐに横移動するか同時に気合いを発すればなんとかなるかも知れません、しかし最初からすごい選手に当たったものですね、彼は前回も出場していますがあんな技は使いませんでした。」
J「そろそろ私の出番です。」

Jの相手は特別変わったことはなく、順当に勝つことができた。
Fは次々に試合をこなして行き1位、Fの最初の相手が2位、JはFとその相手に負け3位となった。

K2「全国大会出場が決まりました、大会は二週間後です、また稽古に励みましょう。」
F「いまだ自分独自の技が思いつきませんでしたが、先ほどの技をかけられて思いついたことがあります。」
K2「何でしょう?」
F「気合いで相手を投げ飛ばすのではなく、自分の攻撃しやすい位置へ移動させるのです。」
K2「失敗すると逆に相手に攻撃されそうですね、でもまずは練習してみましょう。」
K「地区予選と言ってもあまりのレベルの高さにびっくりです。」

4人は道場にもどり話し合った。
J「あのテレポーテーションみたいな技を場外ではなく、さっきFが言ったように相手の攻撃しやすい場所へ移動されたら確実に1本取られてしまいますね。」
K2「あれだけの選手です、たぶんそのことは気がついているのかと思いますが、異動先の場所まで自由にコントロールできないのでしょう、それと全国大会は人数が多いのでトーナメント方式で戦われます、従って最初の相手に負けるとその時点で終了です。今日のFさんの時の様に最初に強い相手に当たらないことを祈るしかありません、では相手を気合いで自分の攻撃しやすい場所へ倒れさせる練習を始めましょう。」

JとFは交代に技をかける練習をした。最初はできなかったものの、徐々にこちらからは攻撃しやすく、相手からは攻撃しにくい位置に相手を倒れさせる事に成功した。

一方KとK2は本来の稽古の日では無いが、Kの希望で初歩的ないつもの稽古をしていた。
K「だめ!全部よけちゃ、たまには愛嬌で倒れてよ!」
K2「無茶言わないでください。その速度ではよけるなという方が無理です。」
K「まったくまじめなんだから...」

K2「少し休みましょう、おや?Fさんだいぶ完成しましたね。しかし全国大会に出場する人はレベルが高いので同じ技は何度も使えないことを覚悟してください、どうしてもあと1本取りたいときに使った方が良いでしょう。」
J「ええっそうなんですか?今のFの技、私は何度やってもよけられない位になっていますけど。」
K2「おおっそうですか、Jさんがよけられないと言うことは、約半数の選手には通用すると考えて良いでしょう、でもやはりあまりむやみに使うと研究されてしまいますから、なるべく取っておいてください。」
F「奥の手という感じですね。」



33

博士「昨日は私も研究会に呼ばれて試合を見に行けなかった、どうだったんだね?」
J「Fが1位、おいらが3位で全国大会出場だい、どんなもんだ。」
博士「そりゃすごい、カンフー大会の予選はテレビや新聞で大きく報道しないから分からなかったよ、ところでおいらんて誰だ?」
J「げっ!ボケをボケでつっこまれた。」

K「今日も警察がお願いしたいそうです。」
F「Detective Agency 開設前なのにもう報道され話題になっています。」
K「デマも飛び交っているそうですね。警察は『誰がどこにいるか全てお見通し』だとか。」
F「でも犯罪は減ってきているそうよ。今まで隠れていた犯人を次々に検挙していますから当然と言えば当然ね。」

博士「犯罪が減ってくれるのは結構だが、ここの警備を強化せねばならんな。ボーグを壊しに来る人や盗みに来る人がいるかも知れない。昼間は君たちがいるから安心だ、もしそうなったらカンフーでやっつけてくれたまえ。」

博士が言い終わった瞬間本当に来た、玄関に警備員が2人いたが縛られてしまった。
体格のよい二人組が玄関からハンマーとナイフを持って入ってきた。
賊1「今話題の機械はどこだ、言わないと痛い目に遭うぞ。」どうやらピストルは持っていないようだ。
一瞬のうちにFとJがひとりづつハンマーとナイフをたたき落とし遠くへ放った。
F「Kさん縛るものを見つけてきて!しっかりしたロープがベストなんだけど。」
K「了解!」
FとJが二人組と戦っている隙にロープを探しに行った。
博士はわくわくしながら見物していた。
二人組もFとJがただ者ではないとわかり、手が出せないで間合いを取っていた。
Fはロープを待っていた。
Kさんが戻ってきた。
K「警備員さんが縛られていたものでいいかしら。」
人間の力ではとうてい切れそうもない。
F「ええいいわ、それを貸して、後は仕事に戻っていいわ。」
K「了解でーす。博士、仕事しましょう。」
博士「わー、もっと見ていたいのにー!しょうがない仕事にもどるか。」
二人組「なんて言う連中だ。」
FとJはロープを受け取るとあっという間に二人組を縛り上げ警備員に引き渡した。

F「午後までちょっと待っていてね、刑事さんが来ることになっているから。」
J「一応電話しておきます。もしもし刑事さん、ええ予定通りでいいんですが実は先ほど二人組が押し入りまして、今捕まえて縛っておきましたから、引き取りに来てください。ああそうですか、近くの警察官ですね。はい、じゃあお願いします。」

10時頃刑事から連絡を受けた警察官が来て犯人を引き取っていった。
事情聴取には最初警備員、途中からは博士自らが応対した。なにやらおおげさな身振り手振りで、FとJの活躍ぶりを説明していた。

午後になって刑事もやってきた。
刑事「大変でしたね、けがが無かったのが何よりです。」
博士「いやー二人の活躍を見せたかった、ナイフにもまったくひるまないで、敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げあっという間に縛り上げてしまった。その間僅か0.1秒」
J「縛り上げたのは本当ですが後は博士の作り話です。」
F「別にちぎっても投げてもいませんが、博士の目にはそんなイメージなのでしょう。」
博士「そう、イメージなのだ。」
刑事「その話はそのくらいでよろしいでしょうか?よろしければいつもの件に移りたいのですが。」
博士は不服そうだったが渋々話を切り替えた。
博士「今日は写真があるのですか。」
刑事「はい、ちょっと古いのですが、これです、約20年前のものです。」
博士「顔で判断するわけでは無いので、大丈夫ですよ、J君頼むよ。」

J「ここです、どうぞ、どうやら近くにいるみたいですね。」
刑事「なんと、うちの管轄内だ、どうも有り難うございます。あと1つお願いします。」

ボーグはあと一つもあっという間に地図を表示した。
刑事「犯人が何か残している場合は何とかなるようですが、なにも無いと無理でしょうか?」
博士「これは一種の超高感度センサーなので、元になるデータは必要で、データは遺留品から作成する、従って何もないと無理ですな。」
刑事「やはりそうですか、じゃあ帰りますが、くれぐれもご注意下さい。」
博士「すぐに警備を強化することにしたので大丈夫でしょう。」

F「いい?明日例の洞窟へ行くわよ。いっしょに来てね!」
J「えっ、ええ、K2さんは?」
F「来てくれるかしら?誘ってみましょう。Kさんも来てくれる?」
K「私は大丈夫、たぶん彼も来てくれるわ、私から聞いてみる。」

K2「その話待っていました。Fさんのことだからきっと何か思いついたのでしょう?全国大会は一週間後に迫っています、急がないと間に合いません。」
F「ええ、試してみたいことがあるんです。」

入り口にはドアがあり鍵もかかっていた。
K「あの穴はなあに?」
F「コウモリの出入り口よ。」
J「なるほど、人間は出入り出来ないがコウモリなら出入り可能な大きさだ。」
中へ入りスイッチを入れると通路に明かりが付き前来たときよりずっと歩きやすくなっていた。
K「足下も平らになったし手すりもついて快適ね。」
例の広場も最低限、足下が、ならされ平らになっていた。
J「これなら組み手も出来ますね。」
K「照明もまぶしくないし良く出来ているわ。」

F「ではK2さんお願い、前回と同じようにやってみて。」
K2「はい、やってみます。」K2はFの額に手を当てた。
F「そうね、気合いの場合はそこだけど、ちょっとずらしてみて、たぶんもっと奥だと思うんだけど、ほんのちょっとね。」

JとKはFが何をしようとしているのか解からなかった。
F「たぶんそこだったと思う。ちょっと押してみて。」
突然K2が消えた。
K2「どうやら成功みたいですね。」
Jの後ろからK2の声が聞こえた。
F「自分でもやってみます。Jごめん、実験台になって!」
J「了解、いつでも...」
言い終わらないうちに移動していた。
J「...どうぞ、ってもう移動してるし。すごいじゃないか、連続2回も」
F「1回目はK2さんの力よ、でもここでなら何度でも出来そう、もう1回お願い。」
J「ほーい。」次もうまくいった。
K2「たぶんFさんほどの人なら何度でも可能ですよ、力に無駄がなく出来ています、予選試合2位だった彼は、全力でこの力を使っていたのでしょう、だから1回しかしなかった、それとも使えたけれど場外で勝つのは惜しい相手と思ったのかも知れません。」
F「疲労感は全くないわ、ただどこへ移動させるかのコントロールが分からないの、それが出来れば技をかけやすい位置へ移動させることも出来るんだけど。」
K2「1日でそこまでは無理かも知れません、でもFさんなら時間をかければきっと出来ます。」
F「全国大会は今度の休日だし間に合わないわね、でも移動だけはできるからいざというときには使えるかも知れない、カンフーの大会なのでなるべくカンフーで勝ちたいけれど、他の人もいろいろな技が飛び出してくるのかしら?」
K2「その通りです、私が最初に出場したときにカンフーだけなら勝てたかも知れないのですが、気合い術で投げられてしまって負けたのです。それで気合い術をマスターしようと勉強したり稽古したり、結局中国まで行ってしまったのです。よほど卑怯な技で無い限り失格にはなりませんから、時間があれば他の選手の試合をよく見ておくと良いでしょう。」
F「と言うことは外の選手にも見られていると言うことですよね。」
K2「そして研究され、技をよける方法に気がつけば、その相手には通用しなくなる、まあ、お互い様なので仕方ありません、ではもう少し練習してください。」

Fは新しい技の練習に、Jはその相手をし、Kは気合い術の稽古をしばらく行ない、別荘に戻ったのは夕刻だった。

別荘に戻ってから最初にFの異変に気づいたのはKだった。



34

K「Fさん、どうかしました?」
F「どうもしていませんわ、どこか変かしら?」
歩き方が妙に女らしくて、いつものさっそうとしているFとどこか違うのだ。
いつもはJと腕を組むにしてもFの方がリードしているように感じるのに、今は違う。
ぴったりと寄り添う様子がJについて行く感じなのだ。

Jも様子がおかしいのに気づいたが、そのことには触れず大会の話しをした。
J「全国大会は少し遠いので今度は4人で一緒に行きましょう。」地区大会はJとFは一緒だったが、K2達は別に会場に向かったのだ。
F「私カンフーの大会には出ませんわ、それよりあなたとどこかへ遊びに行きたい。」
それを聞いた3人はびっくりした。
J「ええっどうして?いままで一生懸命稽古したのに!」
F「どうしてって、私そういうの好きじゃないし、いままでカンフーをしていたのが不思議なくらい。」
K「Fさんらしく無いわ、一緒に行きましょうよ。」

Fがどうかしてしまった。

しばらくやりとりを見ていたK2が口を開いた。
K2「ひょっとしたら、...」
K、J「ひょっとしたら?」

K2「ひょっとしたら、さっきの特殊訓練で別人格が現れたのかも知れません。」
J「ええっ別人格?」
K2「そうです。わたしも詳しくは解かりませんが、普通は幼児期の虐待などによって多重人格が起きるそうですが、さっき脳のある場所に刺激を与えたのがいけなかったのかも知れません、やはり禁断の技だったのでしょうか。あの強力な気の力も感じません。」

J「直せませんか?」
K2「やってみないと解りませんが、またあの洞窟に戻るしかありません。」
F「話を聞いていると確かに私はいままでと違うような気がしてきましたが、こちらが本来の自分のような気がしています、このままじゃいけないかしら?今の私はカンフーをするよりJさんとこうして一緒にいたいわ、そして出来るだけ早く結婚して子供を産むの、だめ?」
J「だめでは無いけれど、やはり今までのFの方が好きだ。そう今までの記憶はあるんだね。」
F「じゃあ今は嫌いになったの?絶対嫌いにならないって言ってくれたのに。記憶はしっかりしているわ。」少し涙ぐんでしまった。
J「嫌いになんかなりません。それは約束します。女らしいFも素敵だけど、いつものFはもっと素敵だって言いたかったんだ。」
F「今までの私は、苦労知らずのお嬢様って思われるのがいやでつっぱってきたのよ。今の私が一番素直な自分なの、解って!」
そう言われるとそんな気もしてくる。

K2「どうしましょう。むりやり洞窟へ連れて行くのも、人権無視みたいだし、このままではFさんは大会に出たくないと言うし....」
K「私も今までのFさんが好き、なんとか元に戻らないかしら?」
F「洞窟へ行ってどんなことをするのかしら?また額に手を当てて頭のさっきの場所を今度は押すのでは無くて引っ張るの?私が変わったのは、たぶんあのときの事だと思うけれど、引っ張っても、元には戻らないと思うわ。私は今のままがいいけれど、みんながそう言うんだったら、洞窟には行ってもいいわよ、以前の私はみんなに愛されていたのね。」
K2「そう言われるとどうして良いか解からなくなります。確かにさっきと逆の事をするか、別な場所を押してみるくらいしか方法が浮かびません。」
J「本人が行ってもいいって言うなら行きましょう。ここでは元に戻す方法が解からなくても、洞窟の中なら何か良い方法が浮かぶかも知れません。」

4人は洞窟に戻った。
K2「ではまずさっきの部位を引っ張ってみます、いいですか?」
K2はFの額に手を当てた。
F「なんだか疲れが取れる感じで気持ちいいわ。」

3人はFを見つめ反応を待った。しかし最初に口火を切ったのはJだった。
J「どう?戻った?」
F「なんだかすっきりしたけど、まだ大会に出たい気分じゃないわ、でも体を動かすのは好きよ。ここへ入った時から体を動かしたくなってきたのよ。」

K2「当てずっぽうに他の部位に刺激をするのも危険な気がしてきました。体を動かしたいなら、体を動かすことによって、体が覚えているFさんを呼び戻す、ことは出来ないでしょうか?」

J「やってみましょう。F、組み手をやらないか?」
F「そうね、あなたとならいいわ。」

二人の組み手が始まった。
素早い動きはFそのものだったが、やはりどこか違う。
ほんの僅か鋭さに欠けているようなのだ。
その違いはいつも相手をしているJだからこそ解かる程度で、端で見ている二人には気が付かない程度だった。
とりわけKは元のFに戻ったと錯覚した。
K「Fさんよね、紛れもなくFさんだわ、Fさんが戻ってきた。」
K2「私にもそのように見えますが、まだ解かりません、もうちょっと様子を見ましょう。」
10分ほどでFから組み手の終了を告げた。
F「疲れたわ、でも体を動かすのは気持ちのいいものね、もっとやってもいいけれど、少し休ませて!」

K「Jさんはどう感じた?私はFさんが戻ったように思うんだけど。」
J「確かに依然のFみたいだ、でもほんのちょっとだけ鋭さが足りない気がするんだ、たぶん見ていただけでは解からないと思う。」

K2「私にも良く解かりませんでした、ここへ来れば何とかなると思ったのは期待はずれだったかも知れません、いったん戻った方が良さそうですね。」

K「私おなかすいた。」
F「そういえば私も、夕食の時間だいぶ過ぎているわね、食事にしましょう、みなさん私のこと心配してくれてありがとう、私はこのままでも大丈夫ですから安心してください。」

4人は別荘にもどり、用意してきた夕食をすませた。
K2「明日は大会前最後の休日です。本来なら有意義な練習をしたいところですが、Fさんの大会辞退の希望は変わらないようですから、明日はもう一度洞窟で打開策を検討しましょう。」

最初FはJにぴったりくっついて寝た、しかし少しすると眠りについたらしく自然と離れていった。
Jはこんなにくっついていられてと妙な気分になったが、今は別人だと思うことにして我慢した。

KとK2はFの事が心配でしばらく寝付けずにいたが、いつの間にか意識が遠のいていった。

夜が明け最初にベッドから起きたのは他ならぬFだった。
F「みなさんおはよう、朝食の用意ができましたよ!」
昨日の出来事は夢だったと、思いたかった。
J「この元気の良さは元に戻ったような錯覚を起こすね。どうお加減は?」
F「あなたと寝られたから絶好調よ、でも大会に出たくはなっていないわ、ごめんなさい。」

K「これ全部Fさんが作ってくれたの?すごいわ、片付けは手伝うわね。」
K2「私も手伝います。」
F「ありがとう、食事と後かたづけが済んだら洞窟へ行き、結果はどうあれ、午後には帰りましょうね。」
J「ええ、あまり無理しても良くないでしょうからそのくらいのペースで行きましょう。」

洞窟では残念ながら、これと言った成果は無く、途中昼食をとり帰宅した。



35

J「博士大変です。」
博士「またいつもの大変かね、今度はどうしたんだ。」
J「Fさんが別の人になってしまったみたいなんです、どうしましょう!」
博士「どういう事かね、もう少し詳しく話してくれないか?」
JとFはそれぞれの立場でいきさつを説明した。
博士「それは確かに大変だ、じゃあ以前の記憶は全てあるんだね、とりあえず仕事には支障が無い訳だ。」
J「博士っ!それは冷たすぎます、少しは心配してくれたっていいじゃないですか!」
博士「心配はしているが、私にはどうしようもないよ。それに今までの仕事をしていれば、元に戻るかも知れない、それとも専門の医者に行ってみるかい?」
F「今日は1日仕事をして、明日お医者さんに行って見ますわ、Jさんに付き添いを頼んでいいかしら?」
博士「確かに以前より女性らしい。もちろんかまわんとも、Kさんがいれば仕事は問題ない。」

J「そうか、医者は思いつかなかった、確かにこういった専門の医者はあるんだった、行ったことがないので気がつかなかった。」

その日は1日仕事をしたが、言われたことをする分には何の問題もなかった。

カンフーの稽古は休んだ。
その夜もJのマンションに泊まったFはやはりJにぴったりくっついてきた。
Jは軽く抱きしめるにとどまった。

次の日は調べておいた医者へ二人で行った。
医者ではひととおりいきさつを聞くと、心理テストのようなものを行った。
あらかじめFにJがいる前でテストを行って良いか確認された。
また子供の時の様子や、仕事を始めてからのことや、好き嫌い、友達の事とか海外での事、Jも初めて聞く事が多かった。

医者「私の見たところテストの結果もそうですが、多重人格に見られるほとんどの要素が無いことと、特に変化してから以前の記憶を持っていると言うこと、また育ってきた環境等を考えて多重人格では無いと診断します。幼児期の虐待もありませんし、学生時代のいじめは多少あったようですが、きちんとご自身の力でこれを乗り越えています。しかし確かに性格が変わったのは事実で、私の知る限りではこのような例は見たことがありません、一番近いものは多重人格を自ら演出している場合がありますが、これとも違うようです、可能性としては洞窟内での気の力で脳を刺激したことによるものが一番ですが、残念ながら私にはこの分野はさっぱり分かりません。」

J「直らないのですか?」
医者「現在のFさんが以前のFさんを好きで、認めていることは大きな救いになります。もしこれが多重人格ならば、このままでも統合して行くケースがあります、しかし多重人格ではなさそうですし、過去に似た例が無いか調べてみますが、いまの私はこのまま様子を見るしか考えられません、何かのきっかけで直ることはあります、調べて何か分かったら連絡しますから、連絡があったらもう一度来てください、じゃあ今日はいいですよ。」

大会まであと4日、だめだ間に合いそうもない。
医者を後にした二人は研究所へ行き、結果を報告した。
J「...と言うことで多重人格では無いらしいと言うことと、しばらく様子を見るしか無い、と言うことです。」
博士「そうだったか、何となくそんな予感はしたんだか、どうすることも出来ない。そうだ、Kさん、Kさんなら何か分かるかも知れない。」
K「早速H’S POOHを吸入してみます。」
H’S POOHは博士の屁の有効成分を含んでいるが臭いは無い、安全な気体だ。
Kは携帯用ケースのふたを開けそのH’S POOHをほんのちょっとだけ吸入した。

1分ほどしてF嬢と向かい合い、KはFの手を軽く握った。
さらに1分が経過しKが口を開いた。
K「だいたいの様子は分かりました。確かに今のFさんと、今までのFさんは別の人格ではありません。ちょっと考えられませんが、もともと今のFさんは、心の中の相談相手として、生まれたときから存在していました、人格というより潜在意識のようなものでふだん表には出ないものです。それが今回Fさんの意識レベルが下がって、少し近いものでは、酔っぱらったとき本音が出るように、意識下にいるはずの意識がやむなく登場したのです、彼女が登場しないと体を保つことが出来ない、あるいは気絶状態、または長い睡眠状態になってしまうおそれがあるようです。
本来潜在意識には理屈は通用しません、感情や記憶をつかさどる所だからです、幼児に理屈を言っても無駄で、ほしいものはほしい、嫌なものはいや、とはっきりしていますがそれと同じです、大会は彼女にとってプレッシャーだったのではないかと思います、最初カンフーもしたくないと行っていましたが、実際に体を動かしてみて、体が覚えていた筋肉の動きが心地よかったのでしょう、Jさんとの組み手は楽しそうでした。」
J「それで、肝心の直す方法は?」
K「残念ですが、そこまでは分かりません。しかしFさんの意識レベルが低下していると言うことは、起きているようであり、眠っているようでもあると言うことですから、目を覚まさせれば良いわけです、大きな音をたてるとか、びっくりさせるとか、寝ている人を起こすことを考えれば良いのでは無いでしょうか?童話で言えば王子様がキスをするとか!」
博士「すると、本来なら眠っている状態に近いのに、起きていると言うわけだ、うわっ!」
J「どうしました、まさか屁でもしましたか?」
博士「すまんすまん、そのまさかだ。」
J「うわっ相変わらず強烈ですね、換気扇は回っている?」
K「回っています。」

その時Fにまた異変が起きた。
ちょっとふらついたかと思うと、今度はしゃきっとした。
F「みなさん心配かけてごめんなさい、たった今復活しました。」

J「まさか、博士の屁で、復活ですか?それは思いつかなかった。」思いつくわけがない。
F「さっきのKさんの説明を補足します。皆さんの会話は聞こえていました、それに意識もいくらかあり記憶は、はっきりしています、しかし自分の体を動かすことや、会話は出来ませんでした、なんとも不思議な気分です、原因はやはりあの洞窟での訓練です、体は自分の意思で動かせないけれど、洞窟での訓練と同じ事は出来ました、自分の気で脳の一部に刺激を送る訓練です。それではっきりとしたことがあります、瞬間移動の部位と今回の意識レベルの低下を招く部位は別のものだと言うことです。いろいろさぐる時間があったので自信があります、しかし自分の力で直すことは出来ませんでした。」
博士「いやあ、皆さんにはたいへん申し訳なかったが、結果としてFさんが戻ってきて良かった。」
K「ほんとうに。じゃあカンフーの全国大会は出場と言うことでいいんですね。」

J「わっ!私の言いたかったこと言われた。」
F「もちろんです、今日から特訓しましょう、ちょっと試してみていい?」
とたんにJが消えた。
博士「うわっJ君どこだ、君は忍者か?」
J「ここです。」博士の後ろから声が聞こえた。
J「博士は初めてでしたね。これがFさんの新しい技です。」
博士「信じられない、まるでアニメか小説の様だ。」
J「博士の屁の力も相当不思議ですよ。それに比べたらこの力は、ぜんぜん、いや、同等と言うべきか!」
F「ところで職場でこんな事言うのも申し訳ないんですが、Jさんにすぐにでも結婚したいと、言ってしまいましたが、今の私はカンフーの大会が終了してDetective Agency が軌道に乗ってからと考えています。」
J「了解です。」



36

K2「こんどの大会は完全なトーナメント方式です、最初に強い相手に当たって負けてしまえばそれで終わりです、運も実力の内と心得てください、また日本から世界大会へ行ける人数は残念ながら4名だけです、中国の20名に比べると少ないですが、今までの実績から言って仕方がありません、私の時は3名でしたからこれでも増えたわけです、お二人が世界に進出して活躍すれば出場枠が増えるかも知れません。」

J「わかりました、最初に強い相手に当たらないことを祈ります。」
K「しかし博士がこういうところ来るってめずらしいですね。」
博士「うふっ来ちゃった。」
J「気持ち悪いギャグ言わないでください、普通に応援してくださいよ。」
博士「あんなやつら、私の屁の敵では無い。」
J「屁もやめてください、それに博士の出番はありません。」

F「博士がいると緊張がほぐれて実力が発揮で出来そうです。」
J「私はリラックスしすぎて力が抜けて行きそうです。」

二人はくじをひいた。
Fが6、Jが35だった。
16人づつの4ブロック計64名での戦いでFはAブロック、JはCブロックである。

二人ともくじ運が良かったのか順当に勝ち進んでブロック代表になった。
待ち時間は他の選手の観察も怠らない。
数人、気合い術を使う者はいたが、それを予測してよける者も多く、さすがに高い水準だと思った。

地区予選二位の瞬間移動男はDブロックなのですぐには当たらない。

そしてブロック代表4名が確定した。
Fは適度な緊張の中、実力を出し切っていた感じだ。
今のところ瞬間移動も気合い術も使っていない様に見えた。

Jは二度ほど気合い術で相手を倒した、それでもカンフー技だけで倒せないと判断したときだけ使ったのだ。

博士「いやあ、こんなに高い水準の試合とは思わなかった。」
K2「さすが博士です、良くわかりますね、年々水準が上がってきています。」
博士「いや、言ってみただけ、本当はわからないんだよ。」
K2「ギャビーン、へろへろへろ」
K「K2さん、ギャグが古いわ。」
博士「いやあJ君に聞いたところK2さんはまじめすぎる男と言っていたが、おもしろいじゃないか?」
K2「実はおもしろいこと好きなんですけど、弟子たちの前ではまずいと思って、まじめにしているんです。」
博士「なるほど、カンフーの先生だからな、あまりギャグばかり言っていては威厳が無くなる、良い考えだと思いますよ。」

K「私なんか二人だけの時と、道場でのギャップがおもしろくて、まじめな時笑っちゃうことがあるんですよ。」
K2「皆さんには黙っていてくださいよ。」
博士「了解、ところで例の瞬間移動男はどうしてますか?」
K2「やはりDブロック代表になりました、例の技は使ったかどうか見ていません。」

博士「ところでブロック代表になった時点で、世界大会出場の4名が確定したように思うが、なぜ決勝までするのかね。」

K2「良いことに気がつきましたね。実は本当のところはわからないんです。」
博士「なにっわからないんかい!」
K2「わからないんだよ!って、つっこみにつきあっちゃった。試合ですから一応順位を決めるのでしょう、ちなみに三位決定戦も行います。」

FとJが博士たちのところへ戻ってきた。
F「さすがに疲れたわ、Jさんも勝ったみたいね。」
J「世界大会出場はこれで確定したんですよね、でもなぜまだやるのでしょう?」
博士「良い質問だ、それは武術の試合は最後まで戦うものと昔から決まっておる、一位を決めたくなるのは闘う者の宿命だ。」

J「K2さん、本当ですか」(うそっぽい)
K2「ええ、まあ。」(ふらないでくれよ)
J「博士!さすがですね、どうして知っているんですか?」(えっほんとだったの)
博士「話題を替えよう、君たちの相手はどうだった、強かったかね?」
J「ごまかそうとしていると言うことはいい加減に言ったのですね。」(やっぱり)
博士「あのう、そのう、土嚢(どのう)」(これでごまかせた)
J「なんじゃそりゃ!」

F「みんなすごかったけど最後の相手は、特にすごかったです、技もスピードも力も私より上でした。」
博士「ええっじゃあ君は、自分より強い相手に勝ったと言うことではないかね、どういう事なんだ、運が良かったのか、私の屁が効いたのか?」

J「試合中にくさいのやったのですか、屁はやめるように言っておいたはずなのに!」
F「実はほんのちょっとだけ瞬間移動使ったんです、相手をほんの数センチ移動しただけなので、見ていた人はたぶん気づいていないと思います、相手の選手もすばやい拳をよけられたように見えたかも知れません、K2さんに事前に新しい技は他の選手に研究されると聞いていたので、研究されない方法を採ったつもりです。」

K2「それはすごい技ですね、正直言って私より強いように思えてきました、しかし試合はまだ終わっていません、気を抜かず次の試合を楽しんでください、あと10分ほどで次の試合が始まります。」



37

アナウンスが流れた。
「ただいまより、AブロックからDブロックまでの勝者による決勝試合を開始します、関係者は試合会場に集まってください。」

博士「言われなくても集まっているわい。」
K「場所はここでいいのかしら?」
K2「大丈夫ですよ、私が付いていることを忘れないでください。」
F「では行ってきます。」
K2「健闘を祈ります。」

戦いが始まった、みんな世界大会が決まっているだけにリラックスしているようで、のびのび戦っているように思えた。
Bブロック代表はFと同じく女性で気合い術が得意らしく、しかもFの考えたのとほぼ同じで場外ねらいではなく、相手をそばに寄せカンフー技を決めていた。
コントロールについてはFの方が上の様だ。

Fとの戦いでも早速同じ手を使ってきた、気合い術をよけるのは難しいのでFも同時に同じ技を使い相手のコントロールを奪い、相手より早く立ち直って拳を放った。
2度同じ技を使い、効果が無いと悟ったようで、しばらく間が空いた。
Fが攻撃をしようとした瞬間、相手がまたなにか別の技をかけたらしく、体の自由が奪われた。
F「なにこれ?体が動かない。」
相手は間空けず攻撃してきた。
けりが決まって1本取られてしまった。
体の自由が奪われたのはほんの一瞬ですぐに元に戻ったが、カンフーは一瞬で勝負が決まるのだ。
Fはパニックになりどう対処して良いかわからず、さらに続けて2本とられ、負けてしまった。
技をよけようとして横や、上に飛んだが、その技は追いかけてくるようで逃げることが出来なかったのだ。

K2「どうやらまた、新しい技に出会ったようですね、見ていただけではわかりませんでしたが、どうなったのですか?」
F「一瞬体が動かなくなるのです、しかもよけようがない、恐ろしい技です。」

K2「なるほど、そうでしたか、それではすぐに良い方法は考えられませんね、勝負は終わったのでじっくり考えましょう、Fさんは次の次に3位決定戦があります、それまで休憩してください、Jさんは次に勝てばさっきの女性と対戦です。」

J「うわーなんか勝てる気がしなくなってきた。」
博士「その技はやはり気合いの一種ではないかな、気合いを投げ飛ばす方では無く、固定する方に使った様に感じる。」
K2「さすが博士、あり得ますね、よけようが無いとするとこちらも気合い術で対抗するしかなさそうです。」

J「やってみます。」
K「瞬間移動は使わなかったの?」
F「彼女に瞬間移動を使うと危険な気がしたの、たぶんすぐ技を盗まれる様な。」
K「なるほどね、あんなすごい技を使う人だもの、あり得るわね。」

K2「しかし、気を放出して相手の自由を奪うなんて考えても見なかった、ちょっとやってみましょう、Fさんそこへ立って下さい。」
F「いいですよ、いつでもどうぞ。」
K2が気を放った。
K2「こんなかんじですか?」

F「ええ、こんな感じです、でも逃げても追いかけてくるのは?」
K2「ではよけて見てください、こうですか?」K2は気を放出しながら動くFに手をかざし続けた。
F「そうです。この感じ、一瞬動けなくなります、と言うことはやはり博士の言うとおりで気合い術の応用ですね。」

K2「そのようですね、ではJさん、この技にやられない方法を考えておきますから、試合に行ってきてください。」
J「では行ってきます。」
F「がんばってね!」

Jは信じられないことに割と簡単に勝ってしまった。
J「どうしたんでしょう、以前の瞬間移動男と思えないくらいスピードが無かったです、瞬間移動も使わなかったし。」
博士「本当のところはわからんが、世界大会だけがねらいなのか、ひょっとしたらF嬢と3位決定戦をしたくてわざと負けたのかもしれんぞ、しかも寝技に持って行ったりして。」

J「バカバカ博士、なんてこと言うんですか、柔道じゃああるまいし、寝技なんてありません。Fと闘いたいのならきっと地区予選の時負けたので、再度勝負をしたいという気持ちなんですよ、きっと。」
博士「だから本当のところはわからんと言っているだろうが、わしはあくまでも可能性を言ってみただけだ、それより、勝ったのだから次の試合まで時間が無いのじゃないかね。さっきの技を防ぐ練習をしたほうがいいと思うぞ!」

J「そうだった、K2さんお願いします。」
K2「ではまず技をかけて見ます、感じをつかんでください。」
K2が技をかけるとJは一瞬身動き出来なくなった。

K2「では、私が技をかけると同時に同じように気合い術をかけてください。」
K2「そうです。」Jは言われるとおりやってみた。
J「でもやはり一瞬身動き出来ません。」

K2「大丈夫です、こちらもすぐに攻撃には移れませんから、ではもう一度練習です。」
K2とJは数回これを繰り返して、なんとか手応えをつかんだ。

決勝戦の前に3位決定戦だ。
瞬間移動男とFの因縁の戦い。

瞬間移動男は、Jとの戦いで実力を出し切らず、力を温存しているので、さほど疲れてもいないようだ。

いきなり瞬間移動の技をかけてきた、Fは同時に気を放出した。
Fは場外ではなく敵のそばに現れた、本来なら男が攻撃する予定だったのだろうが、気合いの力で自分が予定した位置にいない、スピードはFの方が勝っていた。

あまりの早い打ち合いで博士は目を回していた。
博士「こりゃたまらん、動きが見えん、目が回る、立っていられない。」
K「さっきから座っていると思いますけど。」
博士「そうだった。」
K2「それにしても良い戦いです、さっきのJとの時とはまるで別人です。」
J「なんか良かったような、損したようなそれとバカにされたような、複雑な気持ちです。」

瞬間移動男は続けて瞬間移動の技が使えないのか、後は普通のカンフー技だけで攻撃してきた、Fもその後、特殊技は使っていない。
技スピードともにFの方が上で、少しして勝負がついた。
F3位、瞬間移動男4位が確定した。

K2「さあいよいよ優勝候補Jさんの出番です、さっきの練習を忘れずにすぐ技をかけてください。」
博士「相手は女性だ、寝技に持って行け。」
J「まだ言ってる。」

なっなんとJが優勝してしまった。
Jは相手の攻撃をすべて封じることが出来た。
相手の女戦士はいままで、よけられたことのない必殺技をすべてよけられて、動揺したらしく急に技のキレが無くなった。
K2「必殺技が封じられて動揺していた様ですね。」
博士「ふむ。」博士が急に童謡を歌い始めた。
K「その童謡じゃない!」
K2「それってどうよぅ。」Fに聞こえないように言ってみた。

K2「しかし毎度の事ながら予想しなかった展開です。私の見たところJさんよりFさんの方が優勝に近い所にいると思っていたのに、でも私の道場から二人も日本代表が選ばれるなんて光栄です。」
K「ますます生徒さんが増えそうね、これを機に道場を建て直さない?」
K2「立て直したいのは山々ですがお金の事を考えると.....」
K「どうせ来月結婚するんだし、お金は私がなんとかするわ。」

博士、F、J「ええっ来月結婚?聞いてないよー」
K「あれっ言ってませんでしたっけ。」

K2「この大会が終わってから発表するつもりでした。」
K「へへっそうでした。そんなわけで祝い金たんまりとよろしく。」

F「一億くらいでいいかしら?」
K「わーっFさんが言うと冗談に聞こえないよー。」
F「もっもちろん冗談よ、でも道場建設には、なにか協力したいわ。」

F「ねえJどうやって協力したら喜ばれるかしら?」
J「そうですね、Fは顔が広いから建築に関係する人で信頼の置ける人を紹介してあげるとか。」
F「そうね、有り難う、後で提案してみるわ。」



38

 TOSさんのイメージするF嬢

博士「いやあ昨日の戦いはすごかった。可能なら私もカンフーを習いたいくらいだよ。」
J「可能ですよ、博士ならくさい必殺技があるから来年出場すれば優勝するかもしれません。」

博士「やっぱり、やめとく、そういうと思ったよ。見ているだけのほうがいいな、しかしもうじきKさんがK2夫人になるのか。」
F「そうね、K2夫人か、思ったより早かったわ。」
K「彼ったら早く子供を作って、カンフーを習わせたいんですって。」
J「それは楽しみですね、私たちは後1年くらいかな?やっぱりカンフーを習わせるのかな。」
F「そうね、そのくらいだとおもう。それとカンフーは本人次第ね。結婚するときは式を父が仕切りたいって言っていたから、そうなるとそっちが大変そう。」
J「大げさなのはいやだな、うちの両親は、田舎者だから何百人もゲストがいると卒倒するか萎縮しちゃうよ。」
F「わたしからジミ婚にするように父に頼んでみる。」

博士「いいなーみんな結婚の話が出来て、私なんかもうずっと昔の話だ、さて仲間に入れないから仕事でもしよーっと。」
J「ここは職場です。私たちも、仕事、仕事。」
K「先週見つけたんだけど....」
J「なんですか?」
K「ここにこんな惑星ありましたっけ?」
J「ああこれは小惑星の大きいやつだと思いますよ。確かパラスという名前です、冥王星が惑星ではなくなってしまったけれど、ケレスやカロンそれに2003UB313などが原因の1つですね、なんか寂しいですね、冥王星そのものは消えたわけでは無いけれど。」
博士「惑星の定義を変えただけで、冥王星が惑星では無くなってしまうんだからな、でも確かに冥王星は惑星としては特殊だった。」

J「水金地火木土天海ってひびきはつっこみを入れているみたいで変ですね。」
F「確かに冥が最後にあった方がいい響きだわ。」
K「確か冥海の時もあったわね。」
博士「冥王星は楕円軌道なので、順序が入れ替わったんだな。今度はどってんかい!確かにつっこみを入れているように聞こえる、漫才ブームが起こるわけだ、どってんかい!どってんかい、はあーどってんかい。」
J「あ、よいよい。」

F「博士、Detective Agencyの1室だけあと3日で完成です。」
博士「そうか、そこで仮OPENするんだったな。応募状況はどうなっている?」
F「今のところネットだけの応募を受け付けているんですが、こんな感じです。」
博士「こりゃあすごいな、おっまた増えた、これはボーグを追加注文しないとだめかもしれないな、J君どう思う?」
J「本格オープンになったら2台で稼働出来るように、今から注文すべきですね。」
博士「どってんかい!どってんかい、はあ、どってんかい」
J「あ、よいよい。」
博士「スタッフも増員する必要があるかもしれないな。」
F「そうですね、そちらはお任せください。」
博士「どってんかい!どってんかい、はあ、どってんかい」
J「あ、よいよい。博士このフレーズが気に入ったのはわかりますがもうやめましょう!」
博士「わかった、もうやめよう、君もつられて、よいよいと言うな。しかし癖になるな。どってんかい!どってんかい、はあ、どってんかい」
J「あ、よいよい。あっ、つられて言ってしまいますよ。」
博士「どってんかい!どってんかい、はあ、どってんかい」
J「あ、よいよい。だめだ、どうしても言ってしまう。」
博士「これが最後だどってんかい!どってんかい、はあ、どってんかい」
J「あ、よいよい。本当にもうやめてください、夢に出てきそうです。」

K「つきがーでたでーたー、つきがーでた」
J「さーのよいよい、Kさんまでやめてくださいよ、どうしたんだ今日は!」
K「Jさんておもしろい人ね。」
F「博士といるときは特別みたい。」
K「二人きりの時は違うの?私がJさんといるときは必ず博士かFさんがいるからわからないわ。」
F「それはどうかしらね。」
K「こんど二人きりで会ってみようかしら?」
F「私はかまわないけど、K2さんが気を悪くするわ。」
K「Jさんを信用しているのね。」
F「もちろんよ。KさんはK2さんを信用していないの?」
K「しているわ、だから結婚するのよ。」



39

その日は3日ぶりにR邸へ行った。
R「やあいらっしゃいJ君、実は待っていたんだよ、Fこれを見てくれ!」
居間へ通されるとコンサート会場にありそうな新しいピアノが置いてあった。

F「買ったの?誰が弾くの?」
R「実は今猛烈な勢いで私の仕事を減らしている、もう8割ほど引き継ぎが済んだんだ、
それでまたピアノを弾きたくなってね、これでも二十歳まではレッスンを受けていたんだぞ、まあ才能が無いのがわかったのであきらめたけどね、また習い始めようと思って買ってみた。Fだってしばらく弾いてなかったけど、まだ私よりは弾けるんじゃないかね。」

F「以前のピアノはどうしたの?私ちょっと気にいってたんだけど。」
R「そうだな、骨董価値のあるピアノだからな、別に壊れたわけじゃあないので別室にあるよ、じゃまなら今度のピアノより高く引き取ると言っていたが君の意見を聞かないとね、良かったよ取っておいて、1曲弾いてくれないかね。」

J「Fのピアノなんて聞いたことがありません。」
R「なかなかの腕前なんだよ、でも演奏家のプロにはなれそうも無いって、君と会うちょっと前にやめてしまったんだ、まあ私の子供だからね、それほどの才能は期待してなかったけど。」

Fがピアノに向かった。
F「英雄ポロネーズでいいかしら、この曲なら楽譜無くてもなんとかなると思うんだけど。」
R「ショパンだね、是非頼むよ。」

Fが弾き始めるとJはあまりのうまさにびっくりした。さっきまで博士の「どってんかい」が頭にこびりついて夢にまで出てきそうだったが、ショパンの美しいメロディー、と時に
激しい演奏にすっかり酔いしれる事が出来た。

演奏はさらに高まり怒濤のごとく終了した。
しかし驚いたのはJよりむしろR氏だった。

二人ともしばらく口がきけなかった。
すっかり演奏の中に入り込んでしまったのだ。

すこしして閉じていた目をあけるとR氏が口を開いた。
R「これはうまいなんてものじゃない、おそらくショパンコンクールでも優勝しそうな演奏だ。」

J「何ですか?そのショパンコンクールって。」
R「私は演奏はいまいちだが、演奏を聴く耳だけは持っていると自負している、Fの演奏は以前もうまかったが、それはあくまで素人の領域での話だ、しかし今の演奏はそうではない、どこへ出してもプロとして通用する領域だ、いったいいつの間に練習したんだね。そうそうショパンコンクールね、それは事実上世界最高峰のピアノコンクールなのだ。このコンクールで優勝すれば将来の演奏家としての未来は約束されたと言っても良い、あまりの高水準なため一位無しと言うこともあるくらいだ、しかも5年に1度しか開かれないからコンクールで一位なると言うことはたいへんなことなのだ、このコンクールに優勝するにはただうまいだけではだめだと聞いている。音楽を良く理解していることは言うまでもないが、さらに演奏家としてのオーラの様なものまで持ち合わせている必要があると。」

F「そうね、自分でもこんなにのめり込んで弾けるとは思わなかった、あれから練習はしていないのよ。」

J「練習をしていないのはたぶん事実です。私と会う前にやめたとすると、私と会うようになってからはいつも一緒にいたし、ピアノの練習はおろか、話題に出たことも無かった。」

R「それは不思議だね、念のためもう1曲弾いてくれないか?ちょっと難しいかもしれないが幻想ポロネーズをリクエストする。」

F「幻想ポロネーズは練習はしたことあるけど、楽譜がないと無理よ。」
R「そうか、では出来るところまででいい。」

F「はい、やってみるわ」

しかしFがピアノに向かうと、最後まで弾いてしまった。
やはりしばらくの間音楽に酔いしれて口が開けなかった。

少ししてR氏が口を開いた。
R「すごい、この曲は難曲中の難曲なんだ、テクニックもそうだが、音楽としての内容がとても難しい、しかし今の演奏は見事としか言いようがない、私だけでは心配なので来週に予定しているパーティーで弾いてくれないかね、プロの演奏家のA氏が来ることになっている。」

J「A氏ってあのNオーケストラの常任指揮者のですか?」
R「さすがに君も知っているのか、その通りだ、彼はピアニストでもあるんだ。」

J「そうだったんですか、すっかり指揮者かと思ってた。」
F「そんなすごい人の前で私なんかが演奏できないわ。」

R「いや、是非お願いしたい、ピアノで成功するのは君の若いときの夢では無かったかね?」
F「確かにそういうときもあったけど、今はとても毎日が充実しているの。カンフーの世界大会も、あと1ヶ月を切ったし、3日後には、Detective Agencyの仮オープンだし、もし演奏が認められて演奏旅行なんてことになったら、Jさんと離ればなれになってしまうわ、私はいまのままがいい。」

R「そうか、無理強いはしないが、カンフーの方は、大会が1ヶ月後には終わってしまうんだろう。それにDetective Agencyは、毎日出勤しなくていいい、場合によっては副所長の人選を始めた方が良いかもしれないな。演奏旅行は楽しそうだが、当面は地元だけの音楽活動だっていいんじゃないかな?」
F「なるほど、Jはどう思う?」

Jはいまの演奏ですっかり博士の「どってんかい」が頭から消えていた。
J「私も今の演奏がすばらしいことはわかります。Rさんのように専門的なことはわかりませんが、確かにプロ並みかも知れません。しかし今の私はなぜそうなったのか、そちらの方に興味があるんです、しばらく練習していない、とつぜんピアノを弾いたらうまくなっていた、そんなことは普通にはあり得ません。原因がはっきりしないと音楽活動を開始したとたん、また元にもどってしまった、なんて事もあるかもしれないので、原因をはっきりさせ、今の状態が安定している保証をつかむことが先決だと思います。」

R「ほほう、さすがにFの選んだ男だ、そのとおりだ、私はあまりにも浮かれすぎていたようだ、ではこうしよう、うまくなった原因は調査しつつ、パーティーまでに元に戻らなかったら、演奏する、元に戻っていたらあきらめる、どうしても今の演奏を専門家に確認したいんだ。音楽活動は原因がはっきりしてからFのやりたいようにやればいい、今やっていることに、じゃまらならない程度の活動だって出来るんじゃないかな?」



40

Detective Agencyの1室だけ完成した。
ボーグをはじめ受付用カウンターなどが運び込まれた。
J「いよいよ明日から、OPENですね。」
F「そうね、スタッフの訓練も完了したわ、いつでもOKよ。仮OPENなのでセレモニーはしない予定なのに、明日は警察の偉い人が、挨拶に来たいって言っていたんですけど、どうしましょうか?」

博士「たぶん、それは個人的に調べて欲しいことがあるんじゃないか?」
J「事件ではなくて、個人的な頼みなら順番は守ってもらいましょう。」
F「そうね、最初から毅然とした態度で臨まないと、待っている一般の人たちに申し訳ないし、悪い噂がつきまとうことになりかねない。」

博士「この機関が本当に世の中の役に立ってくれるなら、噂は気にしないがね、でも悪い噂より良い噂に越したことはない。」

J「そうだ、博士たいへんです。」
博士「おおっめずらしいな、20行目近くにその言葉は、...んで何だね、たいへんなこととは。」

J「Fさんが突然ピアニストになってしまうんです。」
博士「何だねそれは、さっぱりわからん。」

J「Fさんが昨日久しぶりに、ピアノを弾いたんです。」
博士「ふむふむ、それで?」

J「そうしたら、プロの演奏家の領域に突然なっていたんです。」
博士「もともとうまかったのじゃなかったかな。昔、発表会で聞いたことがあるぞ、発表会の中ではダントツにうまかったと思う。」

J「それはアマチュアレベルでのうまいなんですよ。わたしも、プロの領域とアマチュアのうまいのと、どう違うのかわからないのですが、R氏が言うのだから間違いないと思います、それに私はFがピアノを弾くのは昨日知ったくらいですから、しばらくピアノにさわってもいなかったと思うんです。」

F「そうなの、別に嫌いになったわけじぁないんだけど、毎日が忙しく充実していたし、カンフーのこともあって、さわってもいなかったし、話題にもしなかったわね。」

博士「下手になったのなら困るかも知れないが、うまくなったのなら良かったじゃないか。」
J「博士、なにのんきなこと言っているんですか、来週のパーティーでピアニストでもあるA氏の前で演奏するんですよ。そして彼に認められれば、演奏旅行に行ってしまうかも知れないんです。」

博士「しかし、突然理由もわからず、うまくなったのなら、突然また元に戻るかも知れないぞ、迂闊に演奏旅行は勧められない、と思っているんだろう?」
J「おおっ良く言ってくれました、その通りです、ですから私たちでその原因を確かめたいんです、今の私にはさっぱりわからないんです。」

博士「そうか、そうだろうな、原因はあれだ、あの時の洞窟での訓練が原因だ、しかし私たちは科学者だから、それを実証するためにいろいろ確認することがあるな。」
J「ええっ博士には、原因がわかっていたのですか?さすがです。」

F「どうしてわかったのですか?」
博士「昨日の夢の通りなんだよ。君に影響されたのか、予知夢を見たのかも知れん。昨日は『どってんかい』が頭の中でぐるくる回っていたので音楽を聴いてから寝たんだが、眠ってからも音楽が鳴っていた。そして演奏しているのはF嬢で、しかもコンサート会場だった。いつの間に演奏家になったのかと聞いたら、洞窟での訓練が原因でこうなったと言っていた。」

K「わたしも、寝始めたら最初博士の『どってんかい』に悩まされていました、でFさんが夢に登場して救ってくれたんです。」

博士「君もそうか。私の考えではこの状態は安定している。しかしそれを実証するためにいくつか確認しておきたいんだ、いいかね。」

F「どうぞ、でもどうすればいいんですか?」
博士「まずは今の状況を説明しよう、あくまでも仮説と言うことで聞いてくれたまえ。」

J「あまり難しいことを言うと読者の方がいやになりはしないかと。」
博士「そうだな、では簡単に説明しよう。心理学で言うと表層意識、潜在意識、深層意識、脳生理学でも、ほぼそれに対応した部位が解明しつつある、現在音楽に関する部位は右脳が大きく関係していることがわかっている、記憶に関する意識は、表層意識よりむしろ潜在意識の方が大きく関わっている事もわかっている。」

J「わあ、博士いきなり難しいですよ。」
博士「そういうな、ここからが問題だ、ものを忘れると言うことは、この潜在意識と表層意識の伝達がうまくいっていない時に起きることになっている。また忘れたことを突然思い出すこともある、つまり忘れたと思っていても、完全には忘れていないと言うことだ。」

J「確かに、関連したことを行っていると思い出すことがありますね。」

F「洞窟の訓練がどう関わって来るのかしら?」
博士「そこでだ、あの訓練のあと、意識下の意識、潜在意識もどきの人格が現れたな。」

J「普通は意識が薄れると眠るか、気絶するはずですよね。」
博士「それが、あの時の訓練の特殊性だ。脳のある部位を気の力で開花させたのだ。昔から人間は脳のほんの一部しか使っていないと言われているが、このことは普通よりちょっと、脳を使うことができる様になったに過ぎない。元々人間の持っている能力なのだ。たまにこの力を生まれつき、使える人がいる、その人は天才と言われたりする。」

J「なるほど、するとFは訓練によって天才になったわけですか?」
博士「一言で言うとそうだ。」

その後博士がいくつかFに質問したがそれは、すべて博士の仮説を裏付ける結果となった。



41

いよいよDetective Agencyの仮オープンの日となった。
仮なのでセレモニーは無く、いきなり予約客の応対が始まった。

しばらくして、予定通り警察の偉い人も来た。
ボーグを見たいと言うので、防弾ガラスの外から見てもらった。
博士の予想通り個人的にも頼みたいことがあるそうだが、順番を守ってほしい旨を伝えると、快く承知して、1ヶ月後の予約をした。

ほとんどの人が大きな期待を寄せ、ボーグでわかった場所へ向かった。
しかし予想されたことだが中にはボーグに反応が無く、既にこの世にはいないことが、判明した例もあった。

この時のお客さんの反応はまちまちで、悲しむ人が多い中、亡くなっていることがはっきりしてむしろほっとした人もいた。

Fは所長としてトラブルがないか、受付や待合室を見て廻ったが、スタッフは良く訓練されていて、トラブルは無い様に見えた。

1つあるとすれば、予想通りすぐ結果を教えられない事例を持った人だった。
ボーグでの透視はすぐに行い、その後事情調査し問題が無ければ、結果を郵送等で教える方法をとった。納得する人もいたが、抗議する人もいた。

まあ、それでも今まで何年も、行方のわからない状態を過ごした人ばかりで、期待を持って待つということで了承してもらった。

初日は予約300人の内298人が予定通り来て、ほぼ予定通りの時間に終わった。

博士もJも数回見に来たが、順調な様子を見て安心した。
博士「予約と実際に透視できる人数のバランスがやはり合わない様だな。」
J「ボーグの性能とすればもうちょっとだけ出来そうですが、まあ一台ではこんな感じでしょうね。」

F「今は1室なので、これ以上は無理です。全館完成したらボーグが二台ほしいです。」
博士「既に注文はしたので、間に合うと思うよ、しかしプログラムのエラー処理の画像とアニメーションがまだ完成していない、こちらの方が心配だ。」
J「まだ言ってる、やはりあきらめていないんですね。」

博士「当たり前だ、今回私がもっとも力を入れたところだ、もう一度催促しておこう。」
F「明日は警察の犯人捜しを10人予定しています。こちらは受付が簡単なので、すぐ終了する予定です。」

J「さてそろそろ帰りましょう。カンフーの練習もあるし今度はピアノのレッスンもあるんだろう?」

いつものとおり3人で道場に向かった
F「あんまり気が進まないけど、父の強い要望だしパーティーではなにか弾かなくてはならないわ。」

J「うまくなった原因もはっきりしたし、弾かない理由はないよ。」
K「私もFさんのピアノ聞いてみたいわ。」
F「ではあなたもパーティーに出席して!父に話しておくわ、もちろんK2さんもいっしょね。」
K「ええっいいんですか?私なんかが出席して。」
F「もちろんよ。」
J「あのー私は呼ばれているんでしょうか。」
F「あなたは呼ばれなくても来るのよ、そう言えば、あなたは初めてだったわね、こういうの。」

J「そうなんだ、着ていくものがわからない。」
F「そう言えば持っていないみたいね、困ったわ今から注文して間に合うかしら?」
J「えっお店に売ってないの?」
F「レンタルなら間に合うと思うわ、あっそうだ、父の若いときのがあると思うわ、帰ったら探してみましょう。」

3人は道場に着きいつも通りの稽古をした。
稽古終了後K2にパーティーの事を話した。
K2「おおっパーティーなんて久しぶりです、それにFさんのピアノが聴けるのですか?それは楽しみです。しかしFさん世界大会もあるし、大忙しですね。」

F「そのとおりよ、4日後がパーティー、約3週間後がカンフーの世界大会、それに仕事の方も今日から所長で大変。3ヶ月後には建物も完成するし、そうそう、その前にあなたたちの結婚式もあるんだったわね。」

K2「そんなに多忙でよく覚えていてくれました。まあ結婚式と言っても、20人くらいでやる本当に身内だけのものです。もちろんJさん、Fさん、博士はお誘いしますが。」
F「来月と言うと、ほんとに世界武術大会が終わってすぐですね。」

K「すいません、私たちはそのあとすぐオーストラリアに新婚旅行の予定なんです、その日しかとれなかったので、それに合わせて式の日取りを決めたの。」

F「別に謝る事なんてないわ、あちらはもうすぐ夏ね、泳ぐの?」
K「泳ぐって言うより、海辺でくつろぐ程度だと思うけど、この人は体を鍛えるのが趣味だから、私を一人にして泳ぎに行ってしまうかもしれないわ。」

K2「心配ご無用、新婚旅行でKさんを一人にしてどこかになんて行きませんよ、それに私、中国語は勉強しましたが、英語はぜんぜんだめなんです。」

F「それなら大丈夫、普通の観光地だけなら日本語が通じるわよ。」
J「そろそろ帰ってピアノのレッスンでは?」

F「そうね、何を弾くか決まらないのよ。じぁあお二人ともまた明日ね。」
K2「お気を付けて。」



42

R「やあ待っていたよ、A氏に話したら小編成のオーケストラを連れてきてくれると言うんだよ、それで彼のリクエストで、チャイコフスキーのコンチェルトを弾いてくれないかって言うんだがどうかね、ちょっと長い曲なのでパーティーの挨拶を減らさなければならんがな。」

F「第1番?練習はしたことあるけど、コンチェルトって合わせる練習をしなければうまく合わないんじゃないかしら?」
R「そこで、CDを預かってきた、これに合わせて練習してほしいそうだ、A氏の指揮しているコンチェルトの最新録音だ、まだ市販されていないと言っていた。」

F「あと4日しか無いのに間に合うかしら、とりあえず一度聴いてみるわ、Jもつきあってね。」
J「ええ聴くだけなら、私でも出来ます、でも何の役にも立ちませんよ。」
F「そばにいてくれるだけでいいのよ、あなただってそうでしょう?」
J「ええ確かに。」

しかし、CDの音が流れ始めるとFは自分だけの世界に入ってしまったようで、目を閉じてじっとしている。

曲が終わって静かになった、最初に口を開いたのはJだった。
J「いい曲だ、でもなんだか難しそう。」
F「今度は、合わせて弾いてみるわ、聴いていてね。」
R「私も聴いているよ。」

CDに合わせてFのピアノが鳴っている、CDにもピアノの音が入っているので、ずれればすぐにわかる。それに指揮は無いので合わせるのは、相当訓練を積んでも難しいはずだ。
しかし、Fの弾くピアノは強弱は多少ちがったものの、テンポはぴったりでとても一度聴いただけで演奏したとは、思えなかった。

F「自分でも不思議だわ、演奏を始めるとさっきのCDの音が頭の中によみがえるのよ、まるで映像を見ている様だわ、本番では指揮が加わるのでこの感じだと大丈夫みたい。」

J「すごい、まさに天才だ。」
R「今の演奏は、CDの演奏とぴったり合っていた。しかしこの前の演奏は、誰かのまねではなく、君自身の演奏の様に感じた、この差はいったい何だろう?」

F「この曲に限らず1つの曲にはいろいろな演奏があり、時に新しい解釈が生まれてびっくりすることもあるわね、今の演奏は、確かに私のイメージで演奏したものではないわ、本番ではピアノは私だけでしょうから、もう少し自分の解釈を入れてみます。」

J「そうですよ、CDにはピアノも入っているので、合わないとずれて聞こえるじゃ無いですか。」

R「なるほど、コンチェルトの練習は一人では確かに難しい、本番前に一度でもそろって練習したいところだな、しかし一度聴いただけであそこまで合わせられるのは驚異としか言いようがない。」

F「あの多忙のA氏ではそれは無理ね、私も忙しいし。」
R「ああ、無理なのは、わかっている、言ってみただけだ。Detective Agencyも動き始めたしな。」

F「そうそう、言い忘れる所だったわ、KさんとK2さんもパーティーに招待したいの、博士はもともと来るって言っていたわね、それにJにお父さんの服を貸してくれないかしら?」

R「もちろんいいとも、服は執事に言ってみてくれ、わたしもよくわからないんだ、たぶん10年くらい前のサイズが合うんじゃないかな、もう私は着られないから、もし丁度いいのがあったらJ君に進呈するよ。」

F「だいたいの場所はわかっているから、私とJで探してもいい?」

R「かまわんよ。」

F「Jいらっしゃい、こっちよ!」
Jが慌ててついて行くと、クローゼットと言うより、洋服ばかりの大きな部屋といったところへ、案内された。

J「確かにこれじゃあ、わからない。」
F「大丈夫、子供の頃ここで良く遊んだのよ、ほら、ここ、これなんかどう?、着てみて!」

Jが着てみるとサイズはちょうど良い。
J「ちょうどいいね、これでいいと思うけど。」
F「待って、こっちも着てみてよ。」

そんなことを繰り返して10着くらい着替えて、やっとFのOKが出た。
F「気に入ったのがあったら、みんな持って行って!」

J「ええっ、それはちょっと。置くところもないし、必要なときはまた、ここへ来るのじゃだめかな。」
F「そうね、じゃあそうしましょう、ねえそれよりこんなところへ2人で入ると隠れんぼしたくならない?」

J「私もそう思ってたんだよ。」
F「気が合うわね。じゃあ、私が先に隠れる、あっち向いてて、いいって言うまで振り返っちゃだめよ。」

J「10数えるんじゃなかった?」
F「そうだったっけ!」

J「いい?数えるよ、いーち、にー、さーん...」
Fはもう隠れたようで、洋服の擦れ合う音が聞こえなくなった。
J「....きゅう、じゅう!」

Jは探し始めたが洋服が上や下にあり見通しがきかない、端から順に探すより方法は無い。

Jはこれは無理かなと思ったがかすかに、Fの香水の香りに気がついた。
目を閉じても手探りで洋服をよけることが出来たので、Jは目を閉じ嗅覚だけを頼りに進んだ、物音はしない、Fは移動していないようだ。

しばらくすると、香りが途絶えわからなくなってしまった。
Jは向きを変え、すこし待っていたらまたかすかに香りがした。

少し進むと不意に香りが強くなった。
なにか柔らかいものに触れた。

目を開けるとFの胸だった。
F「思ったより早かったわね、どうしてわかったの?」

J「香水の香りを追いかけてきたんだ。」
F「なるほど、それは気がつかなかったわ、今度はJが隠れて!いちにーさん」

J「わっずるい、数えるの速いよ!」
あわててJも隠れたが、数えるのが速く遠くには行けなかった。

Fが近づいてくる音がする。
このままではすぐ見つかってしまう。
Jはどきどきした、そっと移動した。

ちょっとFが別の方向に行った。
Jの腹「ぐうー」
聞き逃すはずは無い。
すぐにFに見つかってしまった。

Fがすぐそばに近づいて来たので、抱きしめて言った。
J「夕飯食べるの忘れてないか?」



43

パーティの日がやってきた。
本来は新社長就任の為のパーティーだったのだが、挨拶は短くしてもらって、すぐにA氏が紹介されFもピアノの前に座った。

オーケストラは小編成というものの、この曲は管楽器が無ければ始まらない、20人近くの人数だった。

演奏が始まるとみんな熱心に聞き入っている。
冒頭の印象的なメロディーや中間部、時に優しく、時に激しく、クラシック初心者のJにもCDに合わせて弾いていた練習とは別物だとわかった。

A氏の指揮にも熱が入っているのがわかる。
オーケストラの華やかな和音を受けてFの指がきらびやかな音階を駆け上がる。
さらに透明感のある高音を細やかに重ねて会場の空気を一気に引き締めた。
緊張感のあるピアノを柔らかく受け止めたオーケストラ。
繊細さと迫力でめりはりが利いた演奏で主題を繰り返しながら、高揚感を増幅、鍵盤から勢いよく指をはなしたFからゆだねられたA氏が、鮮やかに結びを決めた。

演奏が終わった。
Jの知る限りあれから練習した様子は無い。
辺りは静まり返って誰一人、口を開こうとしない。

中にはまだ目を閉じている者さえいた。

みんな演奏の余韻に酔いしれているのだ。
A氏が、最初に拍手をした。

つられてみんなも拍手を始めた、徐々に観客は総立ちになりいつまでも拍手が続いた。

A「みなさん、ピアノ界のスーパースターの誕生です。」

拍手は一段と激しくなった。

R氏もずいぶんパーティを開いたが、今回はまるでミニコンサートだった。
ビックバンドを呼んでダンスを踊ったりしたことはあるが、こんなのは初めてだった。

A「Fさん、みなさんが、アンコールを要求しているようですよ。」
F「せっかくオーケストラがいるけれど、合わせられる曲はありませんわ。」

A「もちろんソロでいいですよ、R氏から英雄ポロネーズの事聞いています、ちょうど良い長さだと思いますけど...私も聞いてみたいし。」
F「わかりました。」

Fが再びピアノの前に座ると拍手はぴたりと鳴りやんだ。
息をのむ音が聞こえた、それほど静かになったのだ。

演奏が始まった。
A氏も静かに聞き入っている。
演奏は徐々に激しさを増してきた。

聞いているR氏も鼓動が激しくなってきた様に感じた。
すっかり音楽にのめり込んでしまった。
きっと他の観客も同じに違いない。

終わった。
今度はオーケストラの団員が拍手で沈黙を破った。

博士もびっくりしていた。
博士「こんなに本格的とは思わなかった。」

R氏はA氏に感想を聞きたかったが、R氏が聞く前にA氏が口を開いた。
A「Rさんのおっしゃるとおりです、いやそれ以上です、CDでの練習だけでここまで合わせられるとは、驚きました、こんな感じの天才は私も過去に一人知っているだけです、またテクニックはもう少し訓練を要しますが音楽表現は一流です。」

R「そうですか、私の耳に狂いは無かった、自分の娘なので欲目で見ている可能性があったから、ちょっと心配していたんですよ。」

A「私の所属しているオーケストラの定期演奏会は、今年いっぱい、もう曲目が決まっているので無理ですが、あくまでも私だけの考えで述べさせてもらうと、来年の定期演奏会に是非ゲストとしてお招きしたいと思います。」

F「その件は後でゆっくりと考えさせてください、幸い来年はなんとかなるような気はしているのですが、まだどうなるかわからないので。」

その後はいつものパーティーとなったが、話題はFの演奏に関する事が多かったのは言うまでもない。

K「私もびっくりしました、上手なのはすばらしい事だけれど、Fさんがなんか遠くの人になってしまいそうで、ちょっと寂しいです。」
K2「あれだけの腕をお持ちなら、こちらの道へ進まれても仕方ありません。しかし私としてはカンフーの道を忘れないでほしいです。」

F「まだわからないのですが、父との間では、今の状況をあまり変えずに演奏活動してみたらどうかと言うことになっています。」
K2「普通の人では、両立は無理だと思いますが、Fさんなら出来るでしょう。」
F「これと言うのも洞窟での訓練のおかげらしいので、K2さんの功績が称えられるべきだと、思っているのですよ。」

K2「その話は他言無用です。大変危険な訓練でしたし、他の人に同じ訓練をするつもりはありません、是非内密にお願いします。」

F「そうでしたか、それもそうですね、私も博士のおならが無ければ、まだ元に戻っていなかったかもしれません。」

博士「うむ私もその方が良いと思う、しかしこうなるとR氏の言っていた副所長を選任する件は、急いだ方がいいようだ、J君は複雑な心境だろうな、もしFさんが演奏旅行に遠くまで行くなら君もついて行っても良いぞ!」

J「そうなんです、カンフーまでは一緒に出来ますが、音楽関係はまったくだめなんです、博士のお言葉はありがたいのですが、足手まといになりそうで、もし本当にそうなったらどうしようかと思ってしまいます。」

F「大丈夫よ、今のところ遠くには行く予定はないし、どんなことがあっても足手まといにはならないわよ、そうだ!もし演奏活動をする事になったら、マネージャーになってくれないかしら?私、あなたがいいわ。」

J「そんなのやったこと無いし無理だよー」
F「平気、もしそうなったらだし、そんなに依頼は無いはずよ、クラシックの世界もたくさんの演奏家がいるはずだもの。」



44
J「博士大変です。」
博士「おおっその言葉は、久しぶりに聞いた気がする、演奏旅行の事だろう、いいぞ、行ってこい、行ってこい、いや、君は行ったら帰らなくていい。」

J「博士ひどいです。でもそうなんです、よくわかりましたね。実はFさんがまた夢を見たんです。それによると、私がマネージャーになっていて、日本を数カ 所廻ったんですがコンサート会場は満席で、大変だったんです、いや、だったそうです、でもすぐ帰って来るそうです。」

F「ほんの数カ所だけなので1週間くらいで、帰りますし、たぶん来年の事だと思います。」
K「この近くでも、あるのかしら、あったら行きたいわ。」
F「場所はわからないけれど、近くがあったら招待するわね。」
博士「私と妻の分も頼むよ。」
F「ええ、もちろんです。」

J「それよりもうすぐ『世界武術大会』なので明日から4日ほど休むことになります。」
博士「君は通常業務だけなので、問題はないしFさんも、今日から副所長が来ることになっている、なんでもR氏と一緒にもうじき来るそうだ。」

F「私と同じで元秘書だった女性で、こういう仕事には私以上に向いていると思います。」
博士「そうか、それは楽しみだな。」

F「私はDetective Agencyの時間なのでそちらへ向かいます。」
J「R氏が到着したら案内するよ。」

F「お願いね。」

FがDetective Agencyへ行ってから10分ほどでR氏と新任の副所長予定者がやってきた。
R「やあ、先日のパーティー以来だね、紹介するよこちらが副所長をやってもらうSさんだ、Fはもうあちらかね。」
博士「ええ、10分ほど前に向かいました、J君案内を頼むよ。」
Fとは違うタイプのまろやかな美人だ、年齢は少し上の様だ。

J「了解です、ボス。」
博士「ボスと呼ぶな、初めての人もいるんだから、ここではそう呼ぶと思ってしまったらどうするんだ。」
J「今度から気をつけます、親分。」
博士「親分もやめろ。」
R「相変わらず元気そうだね、博士もJ君も。」

J「ではこちらです、ついてきてください。」

J「この研究室と接続する予定の所長室は、まだ未完成なので一度外へ出なければなりません。」

R「副所長室はあるのかね。」
J「それが、なぜか予定に入っているんですよ、まだ出来てませんけどね。」
R「Fはこのことを予想していたんだろうか?」

J「それは聞いてみないとわかりませんが、他に予備室が3つありますよ、そのうち1つは大きいので、おそらくボーグが2台になることを想定しているんじゃないでしょうか。」

S「ここがそうなんですね、もうずいぶんの人が来ているんですね。」
J「予約制なので、もっと少ないと思ったら、遠くから来る人が結構早くに着くらしくて、多いんですよ。」

S「完成しているのはこの待合室と、ボーグのある部屋だけなんですね。」
J「ええ、あっいたいた、紹介します、こちらが所長のFさん、って顔見知りだったんですよね。」
F「そうよ、あなたと出会う前から知っていたわ、仕事も一緒にしたことあるのよ、久しぶりね。」
S「JさんがFさんの彼氏だって聞いているけど、本当?」
F「そうよ、婚約もしているわ。」

S「Jさんすごいわね、こんなすてきな女性とつきあえるなんて、どうやって口説いたの?」
J「それより、私とFさんは二人とも明日から4日間、休日も入れると6日間、留守にするので仕事を聞いておいた方がいいと思いますよ。」

F「そうね、もう軌道に乗ってきたからあまりすることは無いのだけれど、窓口でのトラブルは多少あるので、他のお客さんに対して、処理が遅れてたりして迷 惑そうだったら、別の係へ連絡をするくらいかしら?それも普通は窓口で処理出来るので、本当に1日に1回あるかないかね。それと警察の犯人捜しにも協力し ているのだけれど、こちらはなるべく顔を出すようにしているわ、今日は1時半に来るのでその時に紹介するわね、でどうしてもわからないときは、博士に指示 を仰いで。最後にどうやって口説いたかはJさんからは言いにくいでしょうから私が言うけど、いい?」
J「どうぞ。」
F「わたしから、口説いたのよ。」

S「なるほどね。ひょっとしたら、そうかなって思っていたのよ。」
R「私も一役買ったんだがね、まだ誰も気づいていないと思うが、実は....」
F「気づいているわよ、博士が最初に気づいて、聞きそびれちゃったけどやっぱりお父さんが、セッティングしたのね。」

R「そうか、知っていたのか、今まで黙っていて済まなかった、だんだん言いにくくなってしまってな、言い出すいい機会が無くなっていった。」
J「私は感謝しているくらいです。」

F「そうね、実は私も感謝しているわ、それまでの見合い相手とは大違いで、私にぴったりだわ。」

S「良かったわね、もやもやが解決したみたいで、じぁあ早速仕事を教えてください。」
FはS副所長を職員に一人ずつ紹介しながら、各部署を廻った。
お客さんがいなければ一堂に集めて紹介できるが、正式には始まっていないものの、たくさんの人が待っているのでこの方法をとった。

そして今日も問題なく仕事は終わった。
Sに任せておけばDetective Agencyは問題なさそうだ。

3人は道場に向かった。
道場はいつもどおりで、生徒がたくさんいたが、大会が近いので、今日はK2がFとJに
特に力を入れ最後の仕上げをした。
その間は、古い生徒が他の生徒を指導する方法をとった。



45
いよいよ世界武術大会が始まった。
ここへ来るまでにJはパスポートを探しまくった。
前もって用意しておくべきだったが、K2に言われるまで気がつかなかったのだ。
期限が切れていなくて良かった。

Fは海外慣れしていて、ちょっとした国内旅行でも行くように素早く用意した。
今回会場にはKの姿が無い、海外だしJとKが4日間休んでは仕事が止まってしまうので、やむなく日本に残ったのだ。

K2「いよいよですね。たぶん強い選手ばかりでびっくりすると思いますが、がんばってください、二人ともここでも充分通用すると思います。」

試合のルールは全国大会と同じトーナメント方式だ。最初に負けてしまえばそこでおしまい。くじ運も勝負の内と言えそうだ。

今回はくじと言っても実際にくじを引くわけでは無く、あらかじめ決められた番号をコンピュータによってランダムに並べ、トーナメントの順番を決めてゆく方式がとられた。

それによるとJが1番Fが5番つまり両方が勝ち進んだ場合JとFは3試合目には、戦わなければならない。
二人が1位と2位を独占することは不可能となった。もっとも世界のレベルでは元々それは無理だと3人は思っていた。

F「J、あなたと戦えるかもね。」
J「私は正直戦いたくない。」
F「そんなこと言わないで勝ち進みましょう。」

そして試合は始まった。
Jの最初の相手は中国人であまりにも強くJはあっけなく負けてしまった。
力が強く、スピードも速いのだ。
一度気合い術で、場外をとったが、同じ手は2度と通用しなかった。

J「いやあ、負けてしまいました、力が強くて太刀打ちできません。」
K2「たぶんあの人は今回の優勝候補の一人です、私も初めて見ますが、中国では話題になっている人だと思います、Jさん運が悪かったかもしれませんね。」

Fの最初の相手も中国人だった。
こちらも強い相手だったが、いくつかの特殊技を組み合わせて使ったらしく、勝つことが出来た。

しかしJと戦った相手は、試合の合間にFの戦い方を1〜2分であったが見ていた。
そして3試合目が始まった。

Fとその優勝候補とされる二人の戦いは目をみはる試合だった。
スピードではFが僅かに速く、力では押されていた。
相手の拳はすべてよけていたが、こちらの拳もほとんど効果が無い。
敵が宙を舞った、すかさずFも宙を飛び足を払った。しかし攻撃出来ないまでもさすがにバランスを取り戻し、見事に着地した。

どんな攻撃をするつもりだったかはわからないが、不利な体勢をしてまでの攻撃だ、必殺技に違いない。

Fも特殊技を使うか迷ったが、このままでは負けてしまう。気合い術で相手の動きを一瞬止め、けりを放った。
これは見事にきまり1本とることが出来た。
Fは同じ手は通用しないかもしれないと思ったが、2本目もとることが出来た。
あと1本取れば勝ち進むことが出来る。

今度こそ同じ手は通用しない、と思ったが一応やってみた。なんと技が決まり勝ってしまった。

そして瞬間移動を使うまでもなく次々に勝ち進み優勝してしまった。
この動きを一瞬止める技は、今まで見たことも無くみんなどうして良いかわからないようだった。

去年も若い女性が優勝し話題となったが、今年は日本人と言うこともあって、日本でも話題になるかもしれない。
K2の道場はさらに生徒が増えるに違いない。

3人は日本に帰り、博士とKに報告した。
博士「そりゃあ良かった、日本の1位がJ君で、世界の1位がFさんとはすごい、他の日本代表はどうしたんだね。」
F「それが二人とも1回戦で負けているの、二人とも強いはずなのに、相手がよほど強かったのね。」
J「私も1回戦で負けてます。」

K「日本では放送されないので見ることが出来なくて残念だわ。」
K2「来年は一緒に見に行きましょう。」
K「そうね、仕事の都合もあるけど、見に行きたいわ、ところで博士今度の休日が結婚式で、その後新婚旅行なので今度は私が休みます。」

博士「ああ、ゆっくりと行ってらっしゃい、J君と二人だけというのも寂しいが、まあ一生に一度の事だ、仕事のことは忘れて行ってらっしゃい。」
F「博士、私を忘れないでください、来週は私はいますよ。」

博士「そうか、副所長のSさんがいるから、Kさんの留守はFさんにずっとこっちにいてもらおう、これでJ君と二人地獄は見ずに済む、うむ。」

J「なんですか、その二人地獄と言うのは?」
博士「いやあ、ギャグの応酬が始まって止まらなくなって仕事が進まないことだよ。」



46
K「ねえパスポート忘れてない?」
K2「大丈夫だよ、K」

K「すてきな結婚式だったわね。」
K2「私としてはFさんにピアノを弾いてもらいたかったな、どうして弾いてくれなかったんだろう?」

K「結婚式にちょうど良い曲で弾ける曲が無いって言っていたけど、本当は主役の私たちより目立つのがいやだったのだと思うわ、Fさんはいるだけでも、私より目立つのに、あのピアノを弾いたら、私たちがかすんでしまうわ。」
K2「なるほど、それは俺っちがアジャパーだったなー。」

K「でもあなたとJさんのカンフーの組み手は、すごかったわ。みんな大歓声ですごく喜んでた。」
K2「本職だからな、しかも世界大会の優勝者もいて私も鼻が高いよ、どうだ!」
K2は鼻を引っ張って見せた。
K2「いてて!引っ張りすぎた。」

K「Fさんがいるうちは、きっと生徒さんも減ることはないと思うけど、彼女がピアニストになってしまったら、どうなるか心配ね。」
K2「新婚旅行に行くのに、不吉なこと言うなよ、唯一の心配事思い出しちゃったじゃあないか、でもあのピアノの腕を埋もれさせるのは犯罪だ、俺っち逮捕されちゃう。」

K「何一人で言ってるの?Fさんはカンフーも仕事も、ピアノもすごすぎよ。正にスーパーレディーね、それにあの美貌でお金持ちなんだから、私と接点があるのが不思議なくらい。」

K2「同感です、銅噛んじゃった。」K2は10円玉を噛んで見せた。
K「あなた、今日はずいぶんハイね、まだお酒が残っているの?」

K2「いやそんなことは無いよ。ところで今日からのこと、よろしくお願いします。」
K「ほんとに、道場でのあなたとぜんぜん違うんだから、何をよろしくなの?」

K2「とりあえず、今回の旅行を楽しく過ごしたいのと、帰ったらおいしいご飯を作ってほしいのと、早く子供を作ってほしいのと、ええと....」
K「最初の2つは大丈夫だけれど、最後のはあなたの協力が必要よ、それに私妊娠しにくい体質かも知れないし。」

K2「もちろん協力します、毎日でも大丈夫です。」
K「あなた、体力だけはあるからね、でも本当にすぐに子供がほしいの?ただでさえ交際期間が短いのに二人だけで遊ぶ時間が無くなるわよ?」

K2「そうか、でも子供もほしい、成田に到着だ。」

K「搭乗手続きが混んでいるわね。」
K2「以前は一人で乗ったので飛行機の中が退屈だったけど、今日は君がいるから退屈しないぞ、うん、退屈なときは体育つわりしよう。」

K「おいおい、それ体育座りでしょう?すっごいすっごい無理があるわ。まだ時間があるから手続きが済んだら、中のお店を見ましょうよ。」
K2「了解です、親方様。」
K「だめっ!他の呼び方はいいけどそれだけはやめて!」

K2「それではハニー。」
K「なーにダーリン。」

K2「やっぱやめよう、K。」
K「それに落ち着くわねK2。」

K2「おっとやっと順番が来た。」
手続きはすぐに済んだ。

K「じゃあ2階へ行くわよ。」
K2「お供します、あのー。」

K「わかっているわよ、お腹空いたんでしょう」
K2「よくわかりましたね。」

K「私を誰だと思っているの?R研究所のK様よ。」
K2「K様、これいいね、気に入った、これからK様と呼ぶことにしよう。」
K「あのねえ!」
K2「じ、冗談冗談、おっ和食の店だ、ここにしよう。」

二人はしばし食事や、ウィンドショッピングを楽しんだ。

次の日二人は海辺に寝そべっていた。
K「きれいな海ね、日本ではこうはいかないわね。」
K2「それに広い、水平線が見える。」
K「ねえ、それはつっこんでほしくて言ってるの?海の広さは日本と変わらないと思うけど、あなたのギャグは時々わからないからなあ、初対面の時K2を短く ケツと言ってはいけませんって言ったでしょう、あれには、まいったわ、この人まじめに言っているのかしら、それともつっこんでほしくて言っているのかし らって、初対面だと、はあ!って感じよね。」

K2「はあ!」
K「それもギャグ?」

K2「いや、それより、そろそろ泳がないか?」
K「いいわよ、でもちょっとだけよ!」

泳ぐといってもKは大きな浮き輪でぷかぷか浮いているだけで、K2は浮き輪を中心にあっちへ行ったりこっちへ行ったりと泳いでいた。そのうちKは腕にはめていた小さな浮き輪を投げてみた。
K2はそれに気づき、すぐに泳いで取りに行った。
またKが投げる。
K2が取りに行く、まるで犬の調教の様でもあっておかしかった。

でもK2は体を動かすのが好きで、そんなことが二人にとってとても楽しい時間だった。
しかしK2はいくら泳いでも疲れを知らないようで、本来楽なはずのKが先に疲れてしまった。
K「ねえ、私を浮き輪ごと押して、あそこまで連れて行って!」
K2「よしゆくぞっ!」あっという間に着いた。

K「ねえ、あなたって本当に疲れないの?」
K2「ああ、このくらいなら100往復できるよ。」
Kは言ったとたんにUターンした。
K「っておい!まさか本当に100往復する気かい!」
K2「じっ冗談冗談。」
と言いながらも実は本当に100往復するつもりだった。

K2「ふう!あぶなかった、100往復してほしいのかと思ってしまった。」
K「なんか言った?」

K2「独り言独り言。」
K「帰ったら、道場立て直す準備をするんでしょう、今の場所だと1階を駐車場にして2階を道場にするしかないわね。」

K2「隣の人がちょうど引っ越すので土地を売ってくれるそうだ。道場は出来れば1階がいい。」
K「隣って確か、今の道場よりずっと広いわよね、あれだけあれば1階に道場が建てられるわ、なんかついているわね。」

K2「でも土地代も用意しなければいけない。」
K「心配しないで、お金はなんとかするって言ったでしょう?私を誰だと思っているの?」

K2「こういうときはK様。」
K「だいたいあっているけど正確には、R研究所のK様よ。」

K2「やっぱR研究所がつかないとだめ?」
K「そうなのよ、私の超能力は博士たちのおかげなんだから、それに私のお金も博士やR氏のおかげなの!」

K2「ふーんそうなの、じゃあ子供が出来てもR研究所はやめないのかい?」
K「そこが問題よ、子供もいっしょうけんめい育てたいし、R研究所もやめたくない。だからできてから考える。でもたぶん1年位はお休みするんだろうなあ。」




47
J「今日はF遅いですね、Detective Agencyには、いるみたいだけど。」
博士「君と一緒に来たんだろう、忙しいんじゃないかな。」
J「いいえ今日は別々です。」

そこへFがあわただしくやってきた。
F「今警備会社に人数の追加を要請してたんです、女性の警備員。で、博士から警察へも頼んでもらえないかしら、爆弾処理の出来る人。」
J、博士「爆弾?」

F「ごめんなさい、ちゃんと説明しないとわからないわよね、警察って事件が起きてからでないと原則動いてくれないでしょう、でもいつも世話をしている博士からなら来てくれると思って言ってみたんです。」

J「じゃ無くってなぜ爆弾処理が必要かって事。」
F「聞いてくれる?」
J「もちろん。」
F「夢。」

Jも博士も夢と聞いただけで理解し、急に慌てだした。
J「それはたいへんだ、博士いそいで警察に電話を!」
博士「ああそうする、で、爆弾はこれから持ち込まれるのかね?それともすでに持ち込まれているのかね?」

F「これからです、犯人は見ればわかりますから、爆弾を持ち込んだところで現行犯逮捕してほしいのです、ところで博士の持っているのって受話器では無くて「とうもろこし」ですけど。」

博士「あっほんとだ、なんでこんなものがこんなところに。」

J「犯人がここへ入り込む前に逮捕できたらいいのだけれど、ボーグではそれは無理だし、Kさんは海外だし、すると一般のお客さんをどうするかだね。」
F「一般のお客さんに迷惑がかからないように、犯人は別の場所へ通すわ。」
J「なるほど、それはうまい手だ。」

博士「30分ほどで爆弾処理班が到着するそうだ。」
F「たぶん間に合うわ、いけない、そろそろ一般のお客さんが来る時間だわ、じゃあ処理班到着したら教えてください、こちらで待機してもらおうと思っているけど。」
博士「了解した。」

Fが出て行った。
J「なぜ女性警備員なんだろう?」
博士「たぶん女性用トイレに爆弾を仕掛けるのだろう。」
J「なるほど、しかしDetective Agencyの仕事は危険な仕事だったんですね、Fに予知夢の能力がなかったらとんでもないことになるところだ。」

博士「これからは手荷物検査も行わなくてはいけないようだ。」二人ともFの予知能力を微塵も疑っていなかった。

しばらくして女性警備員と、警察の爆弾処理班、いつもの刑事、それに警官数人がやってきた。
JがFに連絡をした、すぐにFがやってきた。

F「まず警備の人は私が合図をしたら、女性用トイレへいって何か置いてあるものはないか探してください、このくらいの大きさです、見つけたら決してさわらずに爆弾処理班にその場所を伝えてください、さわらなければ危険はありません
次に爆弾のほうは爆弾処理のかた、後はお願いします、犯人は私が一般の人のいない工事中の部屋へ通しますから、警察の方は爆弾持ち込みの確認が出来たら逮捕してください。
それから刑事さん、今言った方法でよろしいでしょうか?」

刑事「見事だ、すっかり仕切られて私の出番が無い。あっと今のは独り言、犯人の顔がわかるのならそれでよいと思いますが、心配なのはトイレです。一般の人がトイレに入らないようには出来ませんか?」

F「やってみます、Sさんいるかしら。」
S「ここにいます、なにかたいへんなことが起きるかも知れないんですって!」
F「詳しくは後で話しますが、女性用トイレへ行こうとする人を制限したいの。」
S「具体的にはどのようにしましょうか?」
F「私がこのように合図をしたら、その人になにか話しかけて時間を稼いで、犯人が到着してからトイレに向かうまでのわずかな時間だから何とかなると思うわ。それでこっちの合図は犯人だからそのまま通してかまわないわ。」
S「了解です、Fさん、やっぱり頼もしい。」

J「犯人に声をかけたとたんに、逃げ出したり攻撃してきた場合はどうするんだい?」
F「その時は私とJでなんとかするしかないわね、J、協力お願いね。」

J「がってんだ、その言葉を待っていたよ、なんだかわくわくしてきた、腕が鳴る。」
博士「おいっ、こういう事でわくわくするな、ってわたしもなんだかわくわくしてしまった、早く犯人こないかな。」博士は目を輝かせた。

刑事「本当に出番が無い、せめて犯人が逃げようとしたときくらい、私にも出番をいただけませんか?」

F「相手は女性だけど、武闘の訓練を積んでいるらしいの、たぶん刑事さんでは無理よ、それより表に車で待っている一味がいるはずだから、そっちを捕まえ て!大きな外車で出口に一番近いところへ止まっているはずよ、こちらは弱いけど拳銃を持っているわよ。」

刑事「ありがとうございます、防弾チョッキを着ているからだいじょうぶ、がんばります。」




48
犯人が来た、玄関から中へはいると部屋を見渡しトイレの位置を確認したらしく、まっすぐにトイレに向かった。
すらりとした女性二人だ。
女性にしては少し大きなバッグを持っているが不自然と言うほどの大きさでは無い。
遠くから来ている人もいるし、もっと大きな荷物を持っている人は幾らでもいる。

Fはすぐに犯人に気づいて、女性の警備員に、合図を送った。
犯人がトイレに入った後すぐに中年の女性がトイレに向かってしまった。
それに気づいたSが先にFに確認を取りその女性に話しかけた。

少しして犯人二人が出てきた。トイレの別の個室に待機していた警備員が爆弾らしいものを確認しすぐに出てきてFに合図を送った。

F「こちらへどうぞ。」
犯人は怪しまなかったようで素直に着いてきた。

爆弾処理班はすぐトイレへ向かい、処理を開始した、幸い珍しいタイプではなく数分で解除できた。中年の女性はその後無事にトイレに向かうことが出来た。

犯人二人は通された部屋に制服の警官がいたので、すぐに自分たちの状況を理解したらしく、逃げようとした。

警官は拳銃を構えたが犯人は、警察がすぐに直接攻撃はしないことを知っているらしく、ひるまずに部屋を飛び出そうとした、そこへJが登場した。

J「女性に暴力はふるいたくないんだけど、たった今あなたたちが爆弾をしかけたと言う確認がとれたので、残念だけどこのまま帰すわけにはいかないんですよ、どうしてもというなら私が相手をすることになります。」

F「J、とりあえずひとりでなんとかなるかしら、わたしよく考えたらスカートだったので戦いにくいのよ。」
J「えっ!聞いてないよー。」

犯人二人は今の会話ににやりと笑い二人で目配せをした。
ふたり同時にJに襲いかかった、素早い攻撃だ。
2対1ではさすがのJも苦戦している様に見えた。

二人の繰り出す拳や、けりをよけるのが精一杯で、Jから攻撃することは出来ないでいた。
警官は拳銃を構えたままでいる、いざとなったらいつでも発射できる体勢だ、がJに当たるかも知れないので撃つわけにはいかない。

警官の後ろで博士がふたりの戦いを、眺めていた、博士はどう見ても安心しきっている。

このままだとJが負けてしまう、徐々に押されて出口付近まで来てしまった。
その時Fが動いた。

犯人が一瞬止まった。Jはなんなく隠し持っていた手錠を二人にはめ、警官に引き渡した。
犯人は何が何だかわからなかった。

警官にも何が起こったかわからなかった。
しかし博士には、どうやらFとJの芝居が、ばれていたようだ。

博士「私を楽しませようとわざと芝居までしてくれたのかい?それにしてもいつの間にそんな打ち合わせをしたんだ?」

J「打ち合わせはしてないけど何となく、わかったって感じかな。」
F「これって阿吽の呼吸って言うのよね。」

博士「実行犯は捕まえたけど、きっと黒幕がいるに違いない。」
F「駐車場の方はどうなったかしら?」

S「外で拳銃の撃ち合いが少しあった様ですが、どうやら逃げられたみたいです。」
そこへ刑事が入ってきた。
刑事「心配ご無用、追尾用発信器を取り付けました、こういう事件は実行犯以外にも犯人がいる場合がほとんどなので、そちらも捕まえたいと思ってわざと泳がしたんです。」

S「そうでしたか、それは失礼しました、では必ず犯人グループを捕まえてください。」
博士「発信器はあまり遠いと追跡出来なくなるんじゃないかね、すぐに追いかけた方が良いぞ。」

刑事「そうでした、では失礼。」
刑事は急いで出て行った。

翌日の新聞には、事件の事が小さく載っていた。
どうやら犯人グループ全員が逮捕されたようだ。



49
K達も新婚旅行から帰って、しばらく研究所はいつも通りに動いていた。
FはDetective Agencyと研究所の仕事をバランス良くこなしていた。

そして約2ヶ月後ついにDetective Agencyの本格オープンの日を迎えた。
警察関係の偉い人や地元市長なども参加してセレモニーが開かれた。
もちろんR氏もいた。

新聞でも大きく取り上げられ、歓迎ムードではあるが、行きたくても遠くて行けない人のコメントや、順番待ちが数ヶ月であることも書かれていた。

挨拶の中でR氏は一年以内にDetective Agency全国六カ所に増やす計画を発表した。
これには場内から歓声があがった。

ボーグも今日から二台稼働し、より多くの人たちの役に立つことが出来る。
あれから手荷物検査も行われるようになり、一般の人には迷惑な話だが、安全のためには仕方がない、その後事件は起きていない。

博士「こまった。画像の動くプログラムがまだ完成しない。」
今日はそのプログラマーも来ている。

プログラマー「あの、博士すいません、今日に間に合わせようとがんばったのですが、アニメーションの指示が細かくて、そんでもって多くて、間に合いません でした、残っているプログラムの一部を実写のモデルの画像を使ってはだめでしょうか?そうすれば1、2ヶ月で完成しますが。」
博士「わーっ!何で早くそれを言わんかった。そうかその手があったか。」

プログラマー「ピロピロピロ。」
博士「何だそれは。」

プログラマー「速く言えと言われたのでさっきの実写モデルの件を早口で言ってみたんですけど。」
博士「その速いじゃない!でもおもしろい、録音するからもう一回頼む。」

プログラマー「えっ録音機をなぜ持ってきているんですか?では録音の準備いいですか?ピロピロピロ。」
博士「よし、ではゆっくりと再生してみよう。」

機械「ピーロピーロピーロ」
博士「おいっ!だましたな。」

J「博士、Detective Agencyオープンだというのになにやってんですか!」
プログラマー「あっJさん、いいところでつっこんでくれました、博士のギャグについて行けなくで困っていたんですよ。」
J「いや、あなた既に充分ついていっている、博士が録音機を用意しているのが何よりもの証拠だ。」

さらに二ヶ月後JとFの結婚式が行われた。
R氏からすれば、かなり小さくしたつもりだったが、Jからしてみれば300人は多い。
F「いよいよね、これからはずっと一緒にいられるわね。」
J「今までも一緒だったからあまり生活は変わらないと思うけど、Fの住所が変わるくらいかな、でも本当に最初はR邸に住まなくていいのかい。」

F「最初の一年はあなたのところで暮らしたいのよ。子供が出来たら私の実家へ戻りましょう。」
J「実家か、そういうことになるんだね。」

R「いやあ、ついにこの日が来たね、おめでとう早く孫を頼むよ。」
O「Fをお願いね、強そうに見えるけど、本当は弱いのよ、まああなたは知っていると思うけど、本当にお願いね。」
F「おかあさん、そんなこと言われてもJが困っているでしょう!Jごめんなさい。」
J「いつかは私たちもこんな立場になるんだろうな、そしたらきっと同じ事言いそうだよ。」

結婚してからFの演奏活動が本格的に始まった。
依頼は殺到したが、当面はA氏と同行するコンサートだけに絞り、月二回くらいにした。Jはコンサートにはいつも同行し、舞台のそでから見たり客席から見たりした。

研究所の仕事もDetective Agencyの仕事も順調だ。
そんな中Fが妊娠した。

Fは演奏活動をさらに減らし、スタジオ録音を中心にした音楽活動に移行した。
Fの演奏するCDはクラシックとは思えないほどに売れた。

博士「J君喜んでくれ、ついに例のプログラムが完成した、見てくれ。」
J「まさかほんとうに作ったんですか?。」
博士「何を言うんだ、これを見て同じ事が言えるか?」

博士はテスト用にわざとエラーを起こすようなデータを入れた。
入力画面が切り替わり、スレンダーな水着の女性が現れた。
「ごめんなさい、このデータではわからないの、別なデータを入れてね、お・ね・が・い・」
J「おおっすばらしい、博士のやろうといていたことがやっとわかりました。」
博士「どうだ、参ったか!」
J「まいった、って最初からこんな事だろうと想像していました。」

博士「そっそうだろうな、実はそれもわかっていた、これでどうだ!」
博士がOKボタンをクリックした。

「正しいデータを入れてくれたら、もしかしたらいいことが起こるわよ!」
博士が正しいデータを入力した。
画面がさらに過激になって行く。
そこへFがやって来た。
F「プログラムが完成したんですって!私にも見せて!」
博士はEmergencyボタンをクリックした。

画面が切り替わりツーピースを着た女性が現れた。
「では引き続き入力してください。」

博士「と言うことで、エラーを起こすと女性が現れて、問題解決へと導いてくれるんだよ。」
F「博士、じゃあさっきの水着の女性はなんなの?」
博士「わっ見ていたのか。」

博士は観念して最初からFに見せることにした。
しかしその画像に一番喜んでいたのは他ならぬFだった。

F「モデルに私を使ってくれたら良かったのに、でも妊娠しているからだめね。」
博士、J「ええっ」

その後JとF子供はJ2と言う名前ですくすくと育ち博士号を取得した。




ではない。



50
あれから46億年経った。
博士「おおっ大スペクタルだ、見ろJ君、太陽系銀河とアンドロメダが衝突して、次々に星が消滅し、また新しい星たちが生まれている。かつてのアンテナ銀河を見ているようだ。」
J「すごいですね、でもこれが終わるまで何億年かかるのでしょう、それを考えると気が遠くなる。」
博士「かまわんじゃないか、何億年かかろうと、わしらには時間はいくらでもある。」

F「博士の発明のおかげで、退屈しないわね、しかも年を取らないばかりか、若返ることも出来て快適だわ。」
K「今年もカンフー大会出るの?」
F「また一緒に出ましょうよKさん。」
K「いいわよ、あなたが出るなら私に優勝は無いけどね。」

J「F、そろそろ時間だ、みんなが待っている。」
F「今日は私たちの子孫がたくさん来ているみたいね。」
J「しかしFほどのピアノの達人はいないようだね。」
F「ピアノに達人はおかしいわ、カンフーならわかるけど。」
J「そうかな、じゃあピアノの才能を持った子孫。」
F「それもちょっと長いわね。」
二人はコンサート会場に到着した。

Fがステージに現れると割れんばかりの拍手がわき起こった。
ピアノの前に座った。
とたんに静かになる。

ゆっくりとした曲が始まった。
今日は即興演奏のようだ。
即興なのにコンピュータのバックオーケストラが、ピアノの旋律を解析して巧みにメロディーを盛り上げてくれる。
Jが聞いたところによるとテーマは先ほど見た銀河同士の衝突だと言っていた。
演奏が進むにつれ壮大な曲になりJには先ほど見た、アンドロメダの映像が頭に浮かんだ。
徐々に近づく銀河、そしてついに衝突が始まる、あちこちで生命の終わりが起こり、こちらの世界にやってくる。Fのピアノでは生命の終わりは決して悲しみで はなく、それが宇宙の自然の営みであると伝えているようだ。新しく生まれた星たちにやがて生命の息吹が感じられ、徐々に進化を遂げる。生き物たちは生死を 繰り返しあるものは繁栄し、やがてまた滅びるものも出てくる。

しかし宇宙はそれでもふくらみ続け変化してゆく。
衝突の時など激しい演奏となったが、やがてまた安らかな演奏となり、聴衆たちが穏やかな気分になったところで終了した。

と思ったらすぐさま軽やかな音楽が始まった。
Fの気分がいいようだ、初めて聞くのになぜか懐かしい感じのするメロディー。
アレンジが徐々に複雑になり、聴いている人たちを魅了して行く。
Jも今日は客席でゆったりと聴いていた。
こちらの世界では、すべてが無料なのでマネージャーの仕事も少し楽になっている。
人出はたくさんいるので、会場の準備もみんなでしてくれる。
時間は永遠にあるので、今回聞けなかった人は、5年でも10年でも待っている。
モーツァルトやベートーベンが会場にいることもある。
彼らも精力的にコンサートを行い、何度かJ達も聴きに行った。

J「博士、また若返ったね。」
F「奥さんとまた恋愛するんだって!」
J「げっあの顔で恋愛!」

F「ねっ私たちもまた出会った頃に戻って楽しみましょうよ!」
J「はいっ喜んで。」

古い住人1「しかしあの博士達が来てから痛がっていた人も、直る様になったし、高齢になってからこちらに来た人も好きな年齢になれるし、快適になりましたね。」

古い住人2「ああ、元々はインドから来た聖人がこの世界は空(くう)であると説いて、実際に彼のずば抜けた念力で、痛みを永遠に取り去ったり、老人を若返 らせたりしたのが始まりだ、なんでもその説によると、私たちの世界は実態は無く想念で出来ているのだそうだ、従って強く思いこめばその通りになる、と言う のだ。でも実際にはそのように出来るのは彼だけで、それを機械化したのがあの博士と言うわけだ。」

古い住人1「そうでしたね、それまではこちらに来た人は、ずーっと死んだときの状態のままで、胃ガンで死んだ人はずーと痛いままでたいへんだった、大昔 あっしも学習リモコンで痛みを取る機械を考えましたが、博士の作った機械は永久に痛みが無くなるだけでなく好きな年齢になれるのがいいですね。」

古い住人2「ああ、人生何度でもやり直せる、私もまた17歳にもどった、若返ると記憶はそのままなのに気分も若返るところがいいねえ、もう誰にも長老とは呼ばせない。」

古い住人1「長老!」
古い住人2「おいっ!」

空はどこまでも青く続いている。
時々白い雲が流れる。


−完−