はじめに     

私とコダーイとの関わり

 私がコダーイと初めて関わりを持ったのはご多分に漏れず、オーケストラの組曲「ハーリー・ヤーノシュ」のLPでした。この頃はプロコフィエフの「キージェ中尉」とのカップリングが多く、私の購入したのも、エーリッヒ・ラインスドルフの輸入盤の1枚でした。(学生の身にとっては、何よりも安いというのが購入の条件でした。)その後オーマンディ・フィラデルフィアの1枚を購入してその音質・演奏の素晴らしさに感銘を受けたことは今でもはっきりと覚えています。ツインバロンの響きとともに、明るく楽しい音楽ではあってもどこかやるせないところのあるハンガリー音楽に強く引き寄せられたものです。

 この頃もう既にバルトークはRCAからライナーの「弦楽器とチェレスタのための音楽」や「オーケストラのための協奏曲」が廉価版で販売されていて、それなりに感銘を受けていたのですが、バルトークは現代作曲家バルトークとしての印象が強く、身近なハンガリーの音楽とは感じることはできませんでした。エネスコといえば「ルーマニア狂詩曲」といったように、その国・その民族独特の響きをハンガリーに、若しくはハンガリーの作曲家に、求めていたような気がします。

 又、この頃、ハンガリーの室内楽オーケストラ(含ツインバロン)も田舎にもよく来ていて、お寺の本堂で聞いた覚えもあります。(教会ではなくてお寺の本堂ですよ、何かいいでしょう、これ。)

 さて、その後、私自身も合唱をやっていて、岡谷合唱団に入り、一般の部で合唱コンクールの全国大会に出場するようになりました。(岡谷合唱団自体は全国大会11回出場の経歴があります。)岡谷はもっぱらブラームスの曲を演奏するのが多かったわけですが、全国大会ではコダーイの曲がよく取り上げられ、演奏されていました。まさにこの頃(1970年代後半〜1980年代前半)が、日本におけるコダーイ・ブームのピークだったような気がします。ア・カペラによる様々なその響きはコンクールにおいてもまさに圧巻でした。

 その後、岡谷合唱団は常任指揮者に関屋晋先生を迎えることになり、松原混声合唱団湘南市民コールと同じく晋友会のメンバーとなるわけですが、同時にコンクール出場はやめることになりました。

 この頃、長野県県民文化会館とウィーン・ムジークフェラインとの姉妹ホール提携の話が持ち上がり、合唱コンクール全国大会の審査員でもあったウィーン・コンセルバトワール前学長、エルビン・ヴァイス教授を仲立ちとして話しが進められ、ムジークフェライン事務総長のアルベルト・モーザ氏の来県等もあっていよいよ姉妹提携実現の運びとなりました。

 その姉妹提携調印記念演奏会がウィーン・ムジークフェラインのブラームス・ザールで行われることになり、それに伴ってウィーンのカール教会でのミサに参加(演奏)、ハンガリーはブダペスト、マチアス教会での演奏会ももたれることとなりました。(ウィーンでの話は又別の機会に譲るとしてここではハンガリー、コダーイを中心に話を進めていきたいと思います。)


カルロス・クライバー
ウィーンフィルの
ベートーベン Symphony第4番
                     第6番「田園」
と並んで
CHORKONZERT(合唱コンサート)
OKAYA-CHOR
SHIN SEKIYA
の文字が!!


ブラームス・ザールでの調印記念演奏会演奏会
T.ブラームス作曲「四つの四重唱曲op.92.1-4」
O schöne Nacht おお、美しい夜よ
Spätherbst 晩秋
Abendlied 夕べの歌
Warum? なぜ?
U.石井歓作曲/中村千栄子作詩 混声合唱組曲 「花の伝言
V.ブラームス作曲「ドイツ民謡集」より
Sankt Raphael 聖ラファエル
In stiller Nacht 静かな夜に
Abschiedslied 別れの歌
Der englische Jäger 天使のような狩人
W.日本童謡集
1.赤とんぼ 2.待ちぼうけ 3.荒城の月 4.しょじょ寺の狸囃子 5.汽車ぽっぽ 6.浜千鳥

カール教会とその内部、オルガンは上部にあり、それが更に天井に反響してミサでは音は上から降ってくる形になる。


カール教会ミサ演奏
パレストリーナ作曲 ミサ「エテルナ・クリスティ・ムネラ」
キリエ/グローリア/クレド/サンクトウス/アニュス・デイ
  筆者(昔)は右写真真ん中蝶ネク


 何回もTV・ラジオを通じて宣伝してくれたようで、当日のマチアス教会は満席。補助イスも沢山用意され、それでも座れない人は教会入り口の階段のところに腰掛けていました。我々は関屋晋先生の棒の元、コダーイは「フェサロッタ、パーボ。ダルメ、ハジャーラ」で始まる「孔雀は飛んだ」、「エスティ・ダル」(夕べの歌)ホラティウスの「歌章」第2巻第10章「汝はさらに正しく生くるならん」、「トランシルベニア人の嘆き」の4曲をを歌いました。このコダーイのステージでは地元のモンティベルディ・カンマ・コア(合唱団)も賛助出演してくれました。この合唱団の滅法うまいこと。発声から歌声、ハーモニーまさにしびれる演奏でした。(事前にウィーンの楽友協会合唱団、それにエルビン・ヴァイス教授の主催するウィーン地元の合唱団(ブルー・ダニューブ)とも合唱交歓会を持ったのですが、楽友協会合唱団はプロなので兎も角、ウィーンのアマチュア合唱団はあまり誉めたものではなかったので、余計にこのブダペストの合唱団は素晴らしいと感じたものです。)この演奏会は翌日ハンガリーの新聞に写真入りで大きく掲載されました。当日のプログラム(但しハンガリー語)

 この後、我々の宿舎であるマチアス教会隣のヒルトン・ホテル(国賓待遇でした\(^_^)/)で交歓会がもたれましたが、これの楽しかったこと。自分たちの歌を歌うだけでなく、ともに楽譜を覗きあったりして歌い、言葉本来の意味でのcommunion(交歓)を持つことができたように思えます。

 

  総じて、ハンガリーのみならず、東欧の合唱のレベルは遙かに高く、それが以前テレビで放映されたことのあるバルト3国同様、生活における音楽と人の関わり方が、合唱と生活が全く一つのものになっているような気がします。実に羨ましく感じたものでした。ちなみに「孔雀は飛んだ」はハンガリー建国の歌であり、国民の歌でもあります。「孔雀変奏曲」はそれを元にしているものです。

  合唱曲において典型的に示されるように、コダーイの音楽は、つつましく普遍的な民衆の音楽であり、コダーイは正に文字通りの国民的作曲家だと思います。それぞれの曲が分かり易く、取っつき易く、しかしそれでいて精緻で微細な色合いのハーモニーを持っていて、それが堪らない魅力となっています。又、コダーイの教育に対する情熱がコダーイメソッドに結実し、その成果がハンガリー国中に広がり、又、コダーイの人間性が、又その音楽が、ハンガリーから遙か遠く日本へと渡り、戦後25年位を経て日本の合唱界、教育界にも伝搬し、それを動かして来たことは紛れも無い歴史上の事実だと感じます。日本の合唱のレベルが現在世界のTOPにあるものとしても、まだまだ学ばなければならないもの、忘れてはならないものとして、東欧の音楽、ハンガリーの、そしてコダーイの音楽があることは確かだと思います。今、合唱界はコダーイからもう次の世代に入っているようですが、これ又世界でもTOPクラスにある吹奏楽の世界では「孔雀変奏曲」「ハーリー・ヤーノシュ」はまだまだ現役のようで今年の全日本コンクールで、何校か演奏します。

このコダーイに対して心より「有り難う」という感謝の気持ちを含めてこのHPを立ち上げることにしました。

さて、私のところにはブダペストで購入してきたコダーイのLPが10枚ほどあります。このうち7枚が合唱作品ですが、Choral Works として各々、混声、男声、女声、児童合唱の作品が収められています。総てが Hungaroton 盤です。日本ではあれだけ合唱が盛んであったにも関わらず、コダーイの合唱作品のCDの数は多いとは言えません。少しでも参考になればと思い、ディスコグラフィーにつけておきました。ディスコグラフィーは更に充実させていかなければならないと思いますが、個人ではなかなか思うに任せません。皆さんのご協力も宜しくお願いしたいと思います。

 ハンガリーは、リスト、バルトーク、コダーイ。それにジプシー音楽。ニキシュ、ライナー、セル、ショルティ、フィリッチャイ、ドラティ、オーマンディ、フィレンチェク等々、職人芸を見せる名指揮者列伝にと話題に事欠かないような気がします。というわけで徐々にコダーイからハンガリー音楽へと話も広げていければと思っています。いや、これで話がホラになったらまるでハーリー・ヤーノシュ。ということで以後宜しくお願いします。m(__)m


ハンガリーはウイーンと同じくその後もう1回訪れました。バッシュ県はソンボトヘイという田舎の方まで行って来ました。非常に好きな国です。又、いつか訪れたいと思っています。

尚、このHPは招き猫のコダーイのスレッドをきっかけに生まれました。そんなことも無ければこのHPも生まれなかったと思っています。スレッドの皆さんに感謝すると同時に、ここにそのスレッドを記しておきたいと思います。

招き猫のコダーイ過去スレッド1
招き猫のコダーイ過去スレッド2

現在、全日本合唱コンクール、又は全日本吹奏楽コンクールでのコダーイの演奏記録を記すべく、探索中です。ご存じの方、おられましたら、ご連絡下さい。(地方コンクールまではとても探索できないのでご容赦下さい。m(__)m。)

参考文献:The New Grove Dictionary of Music
       平凡社:音楽事典
       音楽之友社:音楽事典