2007 . 12月号      原稿は2ヶ月位前に提出することとなっているのでタイミングづれることがある。

『 朝青龍とモンゴル 』  

 横綱・朝青龍(本名ドルゴルスレン・ダグワドルジ)が治療のためモンゴルへ帰った。大変な愛国心を持っており、モンゴルの貧しい人々に支援をしているが、日本の伝統や礼儀などが教育されていないと言われている。相撲協会は朝青龍が横綱になってから今日までの身勝手さとわがまま我儘、そして協会の伝統やルールが軽視されていることで堪忍袋の緒が切れたとのことだが、外国から日本に来て大変な苦労をして横綱まで登りつめたことについて、短期間で強くなる人間には目的以外のことをあまり考えずそのことだけに集中するという集中力が並でないものがある。そしてトップになってしまうと伝統無視やルールをはずれても許される。
このことが長く続くと本人はその筆法でいけると思っているが、周りはいつか何とか日本の伝統を守らせようと思って、その機会を伺うようになる。そのことが今回の相撲協会の処分となったのだろうか。

 三年前に朝青龍の母国モンゴルを訪れた。モンゴル農業協同組合連合会(NAMAC)との交流でドンド・ゴビ県のアミドラリン・ツグ農協を訪問した。
飛行機の窓から見下ろす風景は、草原と木の無い山、また強風のため一側面だけに植林された木が残っている山であった。
 ウランバートル空港から二百四十キロ、ドンドコビ県の村までは、時々低い岩山もあったりするがほとんどは三百六十度草原で、草の密度は細かい石混じりの土にまばらに草が生えているといった状態。雨は少なくあまりに乾いているため、一度雨が降るとしみ込まず大地に川となって流れて溝が出来、道も至るところ溝だらけといった状態。韓国製のエアコンが壊れたマイクロバスで六時間、尻が飛び上がるのをこらえての移動だが、その時の腰痛が今も続いている。
 モンゴル農家の家「ゲル(中国語ではパオ)」は、ウランバートル郊外から二百四十キロの間に十数戸あるだけで、草の少ない草原を一定期間同じ場所に留まり移動して生活している。
 アミドラリン・ツグ農協では組合長のヘンへ氏が大変な歓迎をしてくれ、八畳間くらいの会議室でいきなり馬乳酒とウォッカ、羊肉入り餃子、羊肉入りスープを出していただいた。
 馬乳酒はドンブリで出され、全部飲まなければ失礼だということで酒が好きでない私も無理して飲んでしまった。
歓迎に対する御礼を申し上げた途端に、トイレに行きたくなった。トイレは昔の山小屋のトイレと同じで、用を済ませて下を見たら、トイレの入り口にいた性格の良さそうな大きな犬が来ていて、頭が黄金色になっていた。
「ごめん」と一声かけてきた。
二軒目の視察先で、ナーダムに入賞したという毛並みも艶やかな素晴らしい馬をプレゼントされた。持ち帰るのは難しいので預けていた。その後どうなったか。
 
モンゴル国の農業は、牧畜が主で耕作農業は少ない。社会主義の一九八〇年代、野菜、小麦は完全自給であり、ソ連へ輸出していた。しかし一九九一年市場経済導入後、十年間で四分の一までに生産高は減少し、不足分をロシア、中国から輸入。さらに日本や米国からの食料援助で補っている。自給率はわずか三〇%。国内生産が激減した理由は、@米国の経済学者とIMFが指導した急激な市場経済化策による国営農場の無計画分割・私有化により、農業機械、施設、技術者が分散してしまったこと。A国の農政施策が、農業支援援助を外した後の代替施策を講じなかったこと。
公的関与を外し、市場原理を導入すれば経済が発展するという今の日本と同じ考え方であったが、実態は市場経済導入から十年で、日本の三九%より更に低い自給率にまで落ち込んでしまった。
 日本からはJAICAによる大学や研究機関、そしてモンゴル政府とが共同により適地作目の研究・開発、蒔いた作物を守るための防風林の植林など進められている。また気候的に類似する北海道との農業技術交流も検討され、秋蒔き小麦、ばれいしょ、野菜、地力培養用、豆科緑肥を組み込んだ四年輪作体系確立、節水栽培、保水性土壌管理法、堆厩肥活用の土づくりなども提案されてきている。
農業分野への市場原理導入は、日本でもここ何年かにわたり経済合理性一辺倒の学者や財界人によって推し進められてきた。バイオエネルギーの生産や地球温暖化、中国・インドなどの経済発展の影響等々により、食料不足の時代が来るといわれている今日、少なくとも農業では改革の名のもとでの市場原理導入は考え直す時がきていると思う。



2008 . 4月号  

『 安い豆腐が消えた!』  


善光寺の近くで自炊生活をしているが、先日近くのスーパーへ行っていつもの三個一〇〇円の豆腐を買おうとしたが、売り切れで、あるのは私が買わない高い豆腐ばかり。
高いという基準は、今まで買っていた価格からくるイメージや相場観であるが。
中国やインドなど世界人口の四割から成る新興国の経済発展と食生活の変化、燃料消費の爆発的増大、オーストラリアなど農産物輸出国での旱魃、ヘッジファンドや金余り産油国、中国など政府系ファンドとオイルマネーなどが関係する原油価格の高騰。そしてブラジル、アメリカなどトウモロコシ輸出国のエタノール生産の拡大、大豆畑からトウモロコシ畑への転換など、こう考えてくると豆腐の価格が上がるのは当たり前だが、現状ではスーパーの目玉商品で値上げは抑えられ、今価格を上げられない零細な豆腐屋さんの店じまいが相次いでいる。
 また大国中国の経済発展により、中国湾岸部から内陸部まで海の魚を食べるようになった。そして日本へ来るマグロの量は減り、値段は段々と高くなっている。そういえば我が家はいつマグロの刺し身を食べたか? 安全性の疑われる輸入うなぎについては ここ一年くらいは食べてないような気がする。
 原油も穀物も資源も高騰し、穀物の争奪戦が始まり 国内の食料インフレを避けるため輸出関税をかけて輸出抑制をする時代                  


 ポジティブリスト制の影響等

 ポジティブリスト制になってから、中国の危険な薬品を使った残留農薬が検出される野菜の輸入や、危険なうなぎの輸入も減り、中国産野菜の価格への影響は減っている。
 代わりに調理済みの冷凍食品の輸入が増えた。昨年の冷凍食品の輸入量は三十一万五千トン 内二十満トンは中国から残りはタイから輸入している。先日千葉兵庫で中国から輸入された冷凍餃子を食べた十人が食中毒症状を訴え一人は一時意識不明の重体となった。
 餃子からは日本では使用されない有機リン系殺虫剤メタミドホス検出された。
 それにしても死亡者が何人も出るほどの中毒は怖い。昨年四月にはハルピンの病院食堂で食事した二百三人が食中毒で一人死亡 十一月には湖北省の工場でだんごを食べた八人が腹痛を訴え内六人が死亡 十二月には雲南省の小学生四人が殺鼠剤の混入したカップラーメンを食べて口から泡を出して死亡 同省で十日後には中学生二十人が食中毒となり二人が死亡 それにしても人口十三億人の中国でも 口から泡を出して鼠や虫のように亡くなるのはどうかと思うが。
 日本へ輸入されて怖いのはジェイティーフーズも味の素も加ト吉もグリコも同じ工場から原料仕入れもしくは製造委託し日本で検査もなく大量に売られることだ。またそれも美味しくて安くて中には毒も入っているものもあるということだから。
 私も何年も前に中国の西安で水餃子を食べて大変な下痢となり もれないよう尻を高くして一日半寝ていたことがあったが、もっともそのときは美味しく飲んだ白酒『楊貴妃』四十度のせいと思っていたが。      

 
 農業への影響

 農政対策で原油や飼料の価格高騰についての対応を国へ要請したが、国の施策だけでは価格高騰に追いつかない状況となってきている。
 重油等を消費する施設園芸や輸入トウモロコシ等を消費する畜産は、価格の高騰が収支を圧迫。施設園芸については、農業用軽油等を中心に全農県本部の支援も行われているが、価格の高騰には追いつける状況になく、加温時期の変更や被覆の二重化、堆肥や稲藁ぺレット等施設・資源や生産体系の変更等で様々な対応が行われている。
大規模メーカー加工食品についてはこの一年値上がりが続き、大手スーパーも消費者もこれを受け入れざるを得ない。
取り引きで価格が決まり生産コストの上昇をいくらかでもカバーする値上げは、一部牛乳等を除き実現できていない。
畜産についても、県下一三〇〇戸の農家が飼料の高騰による大きな経営収支の影響で苦しんでいる。
 県が中心となり、農業会議やJAグループで情報連絡会議を立ち上げた。生産者の立場に立って、将来を見据えた経営の方向を中心としたコンサルが需要になっている。

 畜産・循環での新たな研究

 二〇〇八年、全農のS氏が中心となり、畜産農家や、リサイクル業者、食品加工会社、豆腐メーカー、乳業会社、Aコープ、生協、県、JAなどが集まってリサイクル循環の研究会を始めた。
 メンバーは事業家や取組み農家であり研究内容は即実践に移され早い段階で次へ向けての取り組みが行われる。また併行してエコブランド等のコマーシャルも検討されている。
リサイクル会社が、スーパーや食品メーカーから弁当の売れ残りや食品残渣を集めエコフィードとして畜産農家へ供給し、生産した豚肉等をスーパーへ納入する。食品残渣はリンゴの絞りカスや茶カス、トマトの絞りカス、オカラなどであるが、オカラは養鶏飼料としても供給され、糞尿は堆肥として供給。生産された野菜はエコブランドとして販売し循環する体系を作る。
 原油穀物の高騰が構造的となっている中で、食品残渣のリサイクルからの広がりだけでなく国内での飼料の生産から始まり循環出来る体系が一刻も早く実現することを期待し、実現に関係者の支援を求めたい。



2008 . 8月号

遠い大陸アフリカ

アフリカ開発会議が、5月28日から3日間横浜で開催され、アフリカ各国の大統領が日本へ集まってきた。来日したケニアのキバキ大統領は、ナイロビから成田まで、日本は大変遠いと言っていた。それでも今の飛行機は速いのだろう。
かつて、私がアフリカへサファリをやりに行った頃は、10日間で旅費が60万もかかった。今の倍の旅費だ。為替相場もまだ1ドル320〜330円位の頃だろうか。農業が産業の中心であり、外国農産物の影響なども少なかった。当然、グローバルなんてことはなく、為替相場でいけば今の3倍の競争力があり、逆に考えれば、ドルは今の3倍の価値があった。
アフリカまで、20時間はかかったであろうか。羽田→香港→セイロン→セイシェル(当時フランス領)→ダルエスサラーム(タンザニア)→ナイロビ(ケニア)へというブリティッシュエアウェー180人乗り位の飛行機だったか。インド洋上空でエアポケットで数秒落ち止まるときの衝撃も大きく、機内が騒然となったこともあった。
タンザニアの治安は悪く、ダルエスサラームでは、通りの反対側は命の保証が出来ないといわれた。その点、当時のナイロビは落ち着いており、そんなに危険を感じることはなかった。
サファリは、ケニアのナイロビから、マサイマラ・テレビでおなじみのセレンゲッティ国立公園を回り、ンゴロンゴロクレータを通り、キリマンジェロの麓を経て、ダルエスサラームへ戻ってきた。途中、槍を持ったマサイ族の村を通り、「先週、ドイツ人観光客が写真を撮ってチップをケチって槍で刺されて亡くなった」話などを聞いた。また、山小屋でエレファントミートをいただいたり、草原で焚火を囲んでテントに泊まったり、四国規模の面積の国立公園を写真を撮りながらジープに揺られて旅をした。
ンゴロンゴロクレータでは、湖水から何千何万羽もの赤いフラミンゴが一斉に飛び立ち、川の溜には、じっとしているカバの背中で鳥が休んでいた。車の周りは360度の草原。黒い胡麻粒のようにトムソンガゼルが散らばっている。雑木地帯に入るとキリンがスローモーションの映画のように走っていく。草原の木陰でライオンのハーレムに近づき、愛の営みを覗いたり写真を撮ったり、地平線から地平線まで続くヌーの群れの走りを観たり、早朝、朝日に光る草原の中でシマウマの美しい走りやライオンの食事を見たり、世界にこんなに広く美しい自然が他にあるのだろうかと思ったものだ。

ケニアについては、昨年12月、大統領選挙で今回来日したキバキ大統領票の不正集計が問題となり民族紛争にまで拡大したが、やっと旅行できるようになってきたところだ。
アメリカ民主党の大統領候補オバマ上院議員の祖母(86歳)は、ケニアの西部、世界でいちばんフラミンゴの多い湖、ビクトリア湖近くのニャンゴマ村に住んでいる。民主党指名候補戦の勝利を、歌と踊りで祝福したそうだ。イラク人でも猫でもないが、名前は、サラ・オニャンコ・フセイン・オバマという。

アフリカ会議
アフリカ53ヶ国中40ヶ国が、アフリカ会議に参加した。日本は国連安保理常任理事国入りをねらっての開催とのことだったが、今回は、食料高騰を受け、農業改革が中心となった。原油高騰・資源高騰の中で、原油・資源を産出するアフリカ各国の経済成長は著しく、10〜20%台の国が多くなっているとのこと。
食料高騰と増えつづける人口増加の中で、かつては金銭支援と食糧支援を求めていたアフリカ各国が、今回は、自国で食料を自給するための農業技術開発支援や関係するインフラ整備支援を求めてきている。
現在、原油・資源産出国に対して政府施設と労働者75万人を移して支援している中国が、アフリカに対する最大の支援国とのこと。アフリカ人は、9億数千万、将来中国華僑がアフリカでも力を持つ時代が来るかもしれない。
一方、日本のアフリカに対する食糧支援は、短期的には緊急食糧支援と新たな資金の支援、中長期的には、土地や水管理灌漑施設や農業技術支援などであり、特に、10年間で米生産を倍増するためのネリカ米の品種改良と普及対策が中心だという。
当県労農会議で米を送っている農業支援のモデル地区であるマリ国においては、オランダのODA等の支援により、種油の作物やジャトロファ栽培とバイオディーゼル油を生産し村が豊かになった例や、日本のネリカ米普及指導による成功例などいくつかある。


将来の食料危機は避けられるか
アフリカ会議に同行したアパルトヘイト時代後の大統領マンデラ氏と同じ貧民衛育ちで獄中のマンジェラ氏からも手紙をもらい嬉しかったが危険を感じて食べてしまったというアフリカを代表する歌姫、イボンヌ・チャカチャカが言っていた。
「求めているのはお金ではない。トレイドだ。」と。
アフリカの一般国民が自立して生活できるようにするための安定した食料生産と、それを売って収入を得るための仕組みや条件整備を言っているのだと考えられる。要するに、生産性を高める支援をして採れたものは買ってくれということだろう。
食料不足の中、人口が増えつづけるアフリカ、輸出補助金を出してでも輸出したいアメリカ、自国の食料不足とインフレを抑えるために輸出抑制をする国々。オイルマネー政府系ファンド、ヘッジファンド、年金基金ほか投機マネーが、食料の高騰に拍車をかける。そして、日本は!食料は生産コストの安い国から輸入すれば良いという。

食料価格高騰と食料の輸出抑制、そして、毒入り餃子でやっと見直されてきた食料自給率。平成20年、穀物高騰で穀物作付面積は最大となる。穀物価格はどうなるかわからないが、喉元過ぎれば何とかで、自給率を高めるための農業改革の見直しが忘れられないようにしたい。




2008 . 12月号


日中友好河北省農業研修生受入事業

先日、日中友好河北省農業研修生受入事業で研修生の受入れをお願いしている野辺山と海ノ口の4軒の農家を訪問した。
 この事業は、1982年から始めた事業だが、今回訪問したNさんやHさんには当初から受入れをお願いしており、何人もの中国人研修生がお世話になっている。始めたころは、地方行政の技術員等が研修に来ていたようだが、近年は、稼ぎも目的とする研修が中心になってきているようだ。ただし、研修制度のため残業は認められず、一日8時間研修となっている。昨年までは、朝6時前の研修は認められていなかったが、本年は、野菜地帯の出荷業務の特殊性が認められ、朝5時からの研修ができることとなり、朝の出荷に一定量の荷が間に合うようになった。

 一昨年、テレビで川上村の朝採り野菜の作業が放映され、朝3時半頃から電灯つけて中国人研修生が働いている実態が明らかとなり、入国管理局から研修時間の適正化が求められた。
 研修制度は、20日間の集合(非実務)研修の義務付けや残業深夜の禁止など研修時間が厳しく制限されている。
 今年からは、新たに設立した外国人農業研修生受入機関である事業協同組合へお願いし研修生受入を行っている。
 研修生としては、短期間での(4月に来て10月に帰る)研修であり、残業深夜もやってしっかり稼いで帰りたいところだが、残業深夜なしの一日8時間で物足りないようだ。お金を沢山稼いで帰りたいという研修生の希望と、早朝深夜の作業もお願いしたいという受入農家の希望と、両者の希望は一致していても、国の外国人研修生受入制度とは全くの目的ちがいで一致しない。なぜならば、そもそも、この研修制度は、研修生受入れにより栽培方法や技術を学ばせることが目的であり出稼ぎが目的ではないからだ。

 アメリカやドイツ、フランスにおける労働者の受入れは、稼ぐための労働が目的であり、永住することも可能な受入れであるから、日本の研修制度とは全くちがうものだ。   
 移民の国では労働人口に占める外国人労働者の比率は高く(シンガポール27.9%スイス17.8%アメリカ13.0%ドイツ8.8%フランス6.0%日本は1.0%)少子高齢化の中での経済の縮小防止や社会保障システムの破綻防止・産業空洞化防止の面からも理解されている。

 平成20年の外国人農業研修生が10月に帰国したが、JA長野八ヶ岳管内での受入れ研修生は、中国吉林省418人、河北省8人、フィリピン66人、そのほか畜産19人とのこと。大変な数の研修生だが、時間外労働がないため、夏場、南牧村や川上村の川辺では頑丈な体格をした若者が何人も集まって涼んでいるようだ。中には、鹿が多いからと罠をかけて鹿をとり、鹿肉料理を作った研修生もいたようだ。
 河北省から来た研修生は皆まじめで一生懸命に仕事をしているが、気候風土も異なり日本語も話せない中での生活や研修作業、体調を崩す場合もあるだろうし大変な苦労だと思う。反対に要領の悪い研修生に、受入農家が苦労しているケースもあるようだ。
 かつては、土建や工場の仕事に外国人労働者が多く、不法就労者も多かったようだ。仕事をよくするインドネシア人や、言葉もよくわかるバンクラディッシュ人がいたこともあったようだが、不法就労者は入管が来れば、コップとフォークだけもって仕事先から消えたりもしたようだ。もちろん、農業研修生ではなく、他の企業の話だが。
 失踪は、他企業ではあたりまえのようだが、現在の送り出し機関から来ている研修生では、失踪者は一人も出ておらず、吉林省の送り出し機関も相当にしっかり面倒見ているようだ。

 私もヨーロッパ一人旅のときに思ったものだが、旅行中に夜行列車の中でバックやお金やパスポート盗られてしまったときどうやって家まで帰れば良いか考えておかないと何が起こるかわからないからと思ったものだ。外国へきて失踪するということ大変な勇気がいることだと思う。
 パリからローマへ向かう夜行列車のクシェットで、美人のスペイン娘の3人と私と同室になったことがあった。持っていた荷物(ショルダーバッグ1つのみ)を鎖で柱に巻きつけ、鍵をして休んだが、変な東洋人のおっさんと同室で彼女達の方が無用心と思っていたであろう。もっともその頃は、私も少し男前だったが。
 事業協同組合の話では、パスポート切れは、強制送還だそうだ。他企業での失踪や不法就労も多く、一定人数になったところで強制送還となるとのこと。

 労働人口がどんどん減少している。国もそうだが、農業もいま中心は65歳以上、後継者の減少は著しい。
 いま日本で働いてくれる中国の若者も、中国の一人っ子政策のもと、彼らも夫婦に一人の子供、中国も急速に少子高齢化社会へ入っていくと思う。
 川上村を中心としたレタス早朝出荷での要望も、今の研修制度運用の中で入管が午前5時を認め、不十分だが一定の対応が可能となり、改善要望も少しトーンダウンしたように思う。法は守り、必要な法改正や運用の改善などを要請しながら、労働力を確保することがいっそう重要になりそうだ。ただし、今の制度では、目的が研修であること忘れてはならない。



2009 . 4月号

酒の酒菜

 私は今まで長野市善光寺の近くの寮で自炊生活をしていたが、早く帰った日は、芋焼酎で晩酌をやることにしている。つまみはジャガ芋で、昨年我家の減反水田で作ったジャガ芋で、播くとき堆肥と元肥を入れただけで、追肥も土寄せもしなかったので、十月になって収穫したときには小芋しか無かった。家で食べるジャガ芋は、母がまともに作ったジャガ芋で普通の大きさのジャガ芋であるが、自分で作ったジャガ芋は小芋だけであり、一人暮しのいとこに送ってやり、あとは洗って寮へ持ってきて晩酌のつまみにしている。あまりの小芋のため、洗う時は束子に小芋をこすり付けて洗い、小皿に五〜六個載せて電子レンジで五分、程よく焼き芋になっている。

箸の先で二つに割ってバターを箸の先につけて芋を食べる。ほっかほかのジャガバタでこれが美味しい。皮は食べないが、少し強くなった皮を歯で剥く時の感覚も何とも言えない感覚でこれがつまみの美味を更に感じさせる。

 ロシアのダーチャ

何年か前に友達とウラジオストク(ウラジオ、ボストーク「征服せよ、東を」)へ遊びに行った。遊びの目的は、日常から離れただぼうっとして楽しく過ごすことであったが、新潟から飛行機で一時間半で韓国へ行くのと同じ時間だが、日本に一番近いアジアのヨーロッパを強く感じた。港には軍艦が停泊中であり、町は西ヨーロッパの美しい街並と比べると荒れた田舎町といった感じであり、四月、郊外は根雪が融けた後、これから木々が芽吹くまだ風の冷たい季節といったところであった。そけでも町を歩く若い女性は何故か美人ばかりであり、道端のスタンドで日向ぼっこしながら食べる串焼きも一本六十ルーブル。ビールも二十二ルーブル。(一ルーブル、三.七五円) 風が少し冷たいだけで味は結構な味をしていた。レストランでは、他人の食べているのを見て同じ物を頼んで食べるので、何を食べたか良く覚えていないが、牛肉ジャガだけは旨かった。別なレストランでカニも頼んだが、冷蔵庫で寝かせてあるカニか、ウエイトレスが美人の割にはパサパサしていて旨くなかった。

 ウラジオストク駅からシベリア鉄道で郊外へ出たが、土曜日の朝、黒っぽいジャンパーや外套を着たお年寄りでいっぱい…何か異様な雰囲気。少し古い車両で昔の向かい合って四人座る座席で、年輩の大きなおばさんやおじさんでいっぱい。白髪の私が若く見えるくらい、隣に座ったおばさんが、日本語で話しかけてきた。彼女は極東国立大学東洋学部一期生で、東京オリンピックの年、日本に来ていた。今はご主人と二人とも六十歳過ぎて年金暮らしに入っているが、安い年金で日本へもう一度行ってみたいが、旅費が大変である話をしていた。電車に乗っている人々は皆郊外のダーチャ(農場付作業小屋)へ出掛けるところであり、週末は皆郊外の自分のダーチャへ行き、食料生産を行うとのことであった。その中心は、寒さに強いジャガ芋やカボチャなど自家用野菜作りであった。ダーチャは国から借りた約二反歩の農場付であり、郊外の高台にいくつもの豪邸といえるダーチャがあるが、マフィアの所有するダーチャであった。

   モスクワもジャガ芋

 モスクワも暖冬の年に行ったが、成田から十時間、シュレメチヴォ空港でタクシーを頼んでモスクワオリンピックで選手村として使われたホテル、イズマイロヴォへ行った。空港から二時間、どこか引き回されてチップを請求されて、帰りは空港まで三十分、悪い運転手に一時間半もどこか引き回されて着いたホテルは違うホテルへ連れて行かれ、スーツケース引いてイズマイロヴォを探して歩いた。ホテルからモスクワの中心まではメトロで駅六つ、大きな人々の間で小さくなって観光に出掛けた。モスクワではあまり美人は見なかった。食事は行き当たりばったりで、トレチャコフ美術館の食堂、ビュッフェ形式でフルーツパフェを食べてみた。ホテルの食堂では、サーモンステーキとビールとポテトチップスを食べていた。モスクワの屋台で食べてみたかったのは、ロシアのファーストフード「カルトーシュカ」。ジャガ芋のホイル焼きにソーセージやマッシュルーム、チーズ等のソースをかけたものだが、小雨降る中、こうもり傘を差してクレムリンや美術館を徒歩で回り、ジャガ芋はポテトチップスを食べただけで終わってしまった。

 今、寮ではジャガ芋にバターだけでなく、マヨネーズとケチャップを混ぜたソースも付けて食べていて、結構旨いがちょっとずくを出して、カルトーシュカを作って食べてみようかとも思っている。

   ジャガ芋生産

 世界でジャガ芋の生産量の多い国は、中国、ロシア、インド、ポーランド、アメリカ、ウクライナ、ドイツ、ベラルーシ、フランスといった国だが、ロシアや東欧諸国の一人当たり年間消費量は世界平均(三十三キロ)の四倍とのこと。イギリス、百十二キロ。ドイツ、七十二キロ。そしてロシアのジャガ芋生産九割はダーチャで生産されているということ。

   貧者のパン、ジャガ芋

 ロシアでの今日までの社会混乱、社会主義体制崩壊と市場経済導入の中での人々の貧困。ここ数年オイルマネー、資源マネーで潤ったが、ここへきて急激な経済の減速。いつの時代もダーチャのジャガ芋や野菜は人々の生活を守ってきた。

 日本でも過疎地域と遊休農地+ジャガ芋は失業者が増える中、人々の生活を守る手段となりうる。



2009 . 7月号

若手酪農家に期待する

日本国内の政局も見えてこないが、先頃の新聞に欧州の相次ぐ政権崩壊について掲載されていた。内容は世界的な金融危機も影響し、国の経済が破綻状態となったアイスランドでは首相が辞職し、通貨が急落したこと。ラトビアでは内閣が総辞職。ハンガリーでは経済が悪化し首相の支持率が急落、国会で不信任案を可決し、4月20日には、バイナイ新内閣が発足した。そして、チェコでも下院が連立政権の不信任案を可決し、首相が辞任したといった記事であった。

特に気になったのはハンガリーである。2007年麻生外務大臣が訪問しているが、その前年、JA役員OBと連合会OB等6名でハンガリーを経由し、ウイーンへオペラを聴きに行こうと出掛けたときのこと。成田からアリタリア航空でミラノへ。ミラノからは小型飛行機でアルプスの上空を飛んでハンガリーのフェリヘジ空港まで。そしてハンガリーの首都ブタペストでは、地下鉄と市街電車と地図と磁石を頼りに朝早くから夜中まで歩き回り、今でも思い出すゲッレールトの丘へ登って見た世界遺産の夜景、大変な美しさだった。

翌日、特急電車ユーロシティーでウイーンまで移動したが、ウイーンまでの3時間、車窓から見える風景は地平線まで続く農場であり、何回か停まった駅で見えたのは近くにあるサイロや畜舎だった。ハンガリーは酪農国だが、2004年EUへ加盟し、EU域内貿易自由化により酪農品の輸入額は1年で前年比24.%も増加し、牛乳の輸入も年3〜6倍も増加していった。2006年では輸入の拡大と1人当たりの牛乳消費量の減少により牛乳卸価格は20%下落し、零細農家を中心に酪農家の1/3が事業閉鎖を考えている状況ということであった。

振り返って日本を見た場合、生乳の輸入については賞味期限や冷蔵コンテナでの空輸等莫大な経費の問題もあり、現在は輸入されていないという。逆に現在は、中国産牛乳のメラミン混入問題で、LL牛乳(ロングライフ牛乳=賞味期限が60〜90日の滅菌牛乳で、40日位必要とする輸送・通関手続にも対応する。)の輸出が台湾や中国で伸びているというが、上海のスーパーで265円の牛乳が日本から輸出のLL牛乳387円でどこまで、いつまでいけるか心配のあるところだ。

合わせて明治乳業が中国・上海向けに取り組んだ冷蔵牛乳(常温長期保存のLL牛乳ではない一般的な冷蔵牛乳)は、中国に近い福岡で生産し、通関手続の特例措置を受け賞味期限内に上海の店頭に並べるということだが、その逆もあり得ることであり、乳業メーカーの良識ある事業展開を望みたい。

国内での酪農経営は昨年、飼料の高騰により何人もの酪農家が経営から撤退した。今年は飼料の価格は一時より下がってきたが、まだ高止まりしている中、3月からの値上げの影響もあり、牛乳消費が大幅に減少し、メーカーからは乳価引下げの話も出てきているという。酪農家の気持ちになれば飼料高騰で苦しめられ、飼料価格が幾分落ち着いてきたら牛乳消費大幅減で生乳の販売価格引下げではとてもたまらない。それも消費者の低価格指向が強いので、生乳から脂肪分を除いて作った成分調整牛乳(副産物として生クリームができるので小売価格安目に設定)は伸びているということだから、消費拡大努力とともにメーカーにもコスト削減で頑張っていただき、生産者手取確保と国内生産基盤維持に努めてもらいたいものだ。

県下の酪農経営については、2008年570戸。乳用牛は23300頭。1980年4900戸、55600頭であり、農家戸数は大きく減少したが、経営規模は拡大してきた。県のM氏によると、今までの畜産経営は、成長を前提とした経営モデルで、拡大することにより売上げを伸ばし収益も確保したが、市場が成熟した現在は、資源の投入と産出を厳密にコントロールし、より生産効率の高まる経営、収益の確保できる経営を行うことが重要という。そのためには自給飼料(特に稲の利用)の確保に努め、ET技術や乳量と乳質を向上させるため牛群検定も活用し、地域の農家とも連携して資源循環型畜産を行うことが重要だという。

酪農振興で一番の課題は新たな担い手の酪農経営への参入だが、JA信州諏訪地区で昨年3名の酪農家が経営から撤退し、新たに3名の若い酪農経営者が参入した。29歳O氏、2008年高齢で酪農経営から撤退された方から牛22頭と畜舎、農機具を買取り、6haの牧草地を確保して経営を始めた。1年後の現在、乳牛45頭、肉牛7頭、売上2900万以上、純益600万以上の確保へ向けて努力されている。木曽郡大滝村のM氏、北海道やカナダ等の牧場で研修、かつて草地であった雑木林4haと24頭の乳牛を導入し、経営を始めた。日本草地畜産種子協会等のアドバイザーとも相談し、放牧を中心とした牛の健康を重視した飼育方法により、直売も含め酪農経営を目指す。また、松本市梓川や山形村でも、30歳代の方が新たに酪農経営へ参入した。それぞれ農協の技術員や県外県内の牧場で酪農を経験してきており、県のM氏のいう経営効率の良いバランスのとれた資源循環型畜産を新しい感覚で実現されることを思い、期待したい。



2009 . 11月号

 今回はまいった 9月14日に提出した原稿が 情勢が明らかになってきて そのままでは使えなくなってしまった 最終校正で一部修正入れたが 毎日新たな情勢出てくるので 情勢に関することは書かないことだ。

農政が変わる    9月14日提出分

民主党政権が誕生し、政策マニフェストで示された農業者戸別所得補償制度法案が来年の通常国会提出に向けて検討される。この制度は、米、麦、大豆などの販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を販売農家に実施するもので、規模、品質、環境保全、主食用米からの転作に応じた加算も行い、畜産・酪農業、漁業に対してもこの仕組を導入することとしている。この制度は、2011年からの実施に向け、必要とする財源1兆4千億確保の見通しから始まり、助成単価や規模拡大に対する助成の仕組、農家への交付方法ほか具体的に検討される。米の所得政策についてはモデル的に2010年先行実施についても検討したいとしている。

米価を維持するための生産調整は、目標達成に向け水田農業推進協議会はじめ関係の皆さんに大変な努力をいただいているが、過剰作付けの解消はできていない。生産調整に参加する者と不参加者で不公平感がある中、昨年石破農水大臣の下、生産調整の選択制について提案されたが、生産拡大による価格の下落と生産調整参加者への充分なメリット措置の財源確保面の不安から多くの批判が出された。民主党マニフェストの農業者戸別所得補償も内容は近いものと思うが、比較的わかり易く、EUの直接支払に匹敵する内容で実現されればと期待される。生産資材の高騰や農産物価格低迷で農業所得が減少する中、生産者が希望のもてる制度として確立されることを期待したい。

制度確立に向けて財源の確保はどうするか、現在の農業政策のどの部分をどう見直していくか、予算規模も戸別所得補償にどうシフトさせ予算の減らした重要な事業はどうしていくか、支払の条件とする農家ごとに設定する品目別の生産目標数量をどう設定し、どこがその厖大な事務を担当するのか。今後のWTOやFTAとの関連もどう位置付けて対応していくのか。規模加算や担い手育成面からの制度設計はどうするのか。畜産・酪農、漁業での組立はどうするのか、多くの課題があるが、できれぱシンプルかつ合理的で手間のかからない生産者の所得が確実に補償される制度を期待したい。一部補償金単価についての考え方として、「全国平均の生産費(労働報酬分含む)」から「全国平均の販売価格」を控除した価格に「全国平均の反収に対するその地域の反収倍率」を乗じた額とするなど出されているが、制度全体の設計について官僚の能力も発揮された、将来ビジョンにも合ったしっかりした組立が必要であり、また長野県下農業所得の中心である野菜・果樹の安定経営にもつながる制度としての確立も期待したい。当面の制度設計は、米からということだが、財源はどれくらい必要か、制度設計が進まないと見えてこない。マニフェストでは1兆4千億とされているが、制度の対象とする品目について生産量、販売価格、生産費を構成する資材費や労務費がどう変動したときどれ位の所得補償が必要となるか、またWTOやFTAの方向からどれ位の所得補償財源が必要となるか、農政全体の方向によって必要財源は大きく変わってくる。必要財源としては、今回の民主党マニフェスト農業者戸別所得補償制度とは直接関係しないが、東京大学大学院の鈴木教授が行った試算がある。この試算は、日本の主張がWTO農業交渉で認められず、高関税の重要品目を4%以内とするため、たとえば米を重要品目からはずして一般品目にした場合、輸入米との差額を補填するためどれ位の財源を必要とするか試算したもので、米については、現行関税341円/sを7割削減し、102.3円/sで約6,000円/60sとなり、中国米が3,000円で港に着くとすると9,000円の米価と競争になり、生産費(3ha以上)12,000円との差額を全生産量について補填するとすれば、4,500億必要となる。更に上限関税の75%が導入されたとすれば、それによるところの国際需給逼迫をプラスしても、約5,000円/60sであり、12,000円/60sとの差を全生産量補填するとすれば、1.3兆円の財源を必要とすることとなる。

農業者戸別所得補償制度でも生産費をどうみるか、生産調整選択制になったとき、販売価格がどこまで下がるか、そして大きな要素として、WTO農業交渉の結着をどのレベルで付けれるか、その状況によって財源は大きく変わることとなる。ましてや農産物輸出国大手のアメリカやオーストラリアとFTAを締結して、所得補償で対応することとなれば大変な財源が必要となる。

農業者戸別所得補償制度については、国の税金も大きく使うこととなるが、一般の国民に浸透している見方、「日本の農業政策は、他の先進国に比べて大変な過保護」の誤解は解いておきたいものだ。特に保護の程度は、OECD(経済協力開発機構)の指標%PSE(農業保護率)は、内外価格差(国産プレミアム)のウエイトが高く、実態は然程でないこと。農業所得に占める国の直接支払は、欧州諸国では90%以上に達していること。農産物平均関税率も日本11.7、タイ34.6、ブラジル35.3、韓国62.2、インド124.3など日本は低いこと。国内補助金も日本は6,400億円、EU4兆円、米国1.8兆円(小額申告であり、正直な申告でない)といったことなど。


農政が変わる    10月20日一部修正提出分

民主党政権が誕生し、政策マニフェストで示された農業者戸別所得補償制度法案が来年の通常国会提出に向けて検討されている。この制度は、米、麦、大豆などの販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を販売農家に実施するもので、規模、品質、環境保全、主食用米からの転作に応じた加算も行い、畜産・酪農、漁業に対してもこの仕組を導入することとしている。漁業も含め、2011年からの実施に向け、必要とする財源1兆4千億円。助成単価や規模拡大に対する助成の仕組、農家への交付方法ほか具体的に検討される。米の所得補償についてはモデル的に2010年先行実施される。

米の農業者戸別所得補償制度モデル事業

米の所得補償制度については、モデル事業として実施するため2010年度予算概算要求再提出の中で、その内容が明らかにされた。

<事業内容>

1.米戸別所得補償モデル事業「3,371億円」米の「生産数量目標」に即した生産を行った販売農家(集落営農含む)に対して所得補償を直接支払により実施する。

@標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)と販売価格との差額を全国一律単価として交付。

A交付金のうち標準的な生産に要する費用(過去数年分の平均)と標準的な販売価格(過去数年分の平均)との差額は定額部分として価格水準にかかわらず交付。

2.水田利活用自給力向上事業「2,167億円」

@自給力の向上を図るため、水田を有効活用して、麦・大豆・米粉用米・飼料用米等の戦略作物の生産を行う販売農家に対して、主食用米並の所得を確保し得る水準を直接支払により交付する。また、従来の助成金体系を大幅に簡素化し、全国統一単価の設定などわかりやすい仕組とする。10a当り単価、麦・大豆・飼料作物35,000円。新規需要米(米粉用・飼料用・バイオ燃料用・WCS用)80,000円。そば・なたね・加工用米20,000円。その他作物、地域で単価設定可能10,000円。他に二毛作助成10a 15,000円。

A米の「生産目標」に即した生産の如何に関わらず、すべての生産者を助成対象とする。

米の生産調整

 米価を維持するための生産調整は、目標達成に向け多くの皆さんに大変な努力をいただいてきたが、過剰作付の解消はできず、生産調整参加者と不参加者で不公平がある中、昨年石破農水大臣の下、生産調整の選択制も提案された。

今回モデル事業の所得補償は、「生産数量目標」に即した生産農家への補償であり、実質の選択制が採用された。課題は選択性によって生産量がどうなるか、それにより販売価格がどう変動するか、標準的販売価格がどうなるか、標準的生産費の中、家族労働費は8割をみるとしているが、生産費水準はどうなるのか、そして自給率向上の主食用米並所得確保の転作が、インフラ整備によって、有効に拡大できるかどうか。今後の制度設計で生産者が納得できる所得補償制度を期待したい。

農業者戸別所得補償に必要な財源

当面の制度設計は、米からということだが、財源はどれくらい必要か、制度設計が進まないと見えてこない。マニフェストでは1兆4千億とされているが、制度の対象とする品目について生産量、販売価格、生産費を構成する資材費や労務費がどう変動したときどれ位の所得補償が必要となるか、またWTOやFTAの方向からどれ位の所得補償財源が必要となるか、農政全体の方向によって必要財源は大きく変わってくる。必要財源としては、今回の民主党マニフェスト農業者戸別所得補償制度とは直接関係しないが、東京大学大学院の鈴木教授が行った試算がある。この試算は、日本の主張がWTO農業交渉で認められず、高関税の重要品目を4%以内とするため、たとえば米を重要品目からはずして一般品目にした場合、輸入米との差額を補填するためどれ位の財源を必要とするか試算したもので、米については、現行関税341円/sを7割削減し、102.3円/sで約6,000円/60sとなり、中国米が3,000円で港に着くとすると9,000円の米価と競争になり、生産費(3ha以上)12,000円との差額を全生産量について補填するとすれば、4,500億必要となる。更に上限関税の75%が導入されたとすれば、それによるところの国際需給逼迫をプラスしても、約5,000円/60sであり、12,000円/60sとの差を全生産量補填するとすれば、1.3兆円の財源を必要とすることとなる。

赤松農水大臣には、WTO農業交渉やFTAでも日本農業を守るための活躍を期待したい。



2010年   1月号



■農業経営最大の課題

国内においてデフレが止まらない

政府は11月の月例経済報告で、日本経済は緩やかなデフレ状況にあるとした。所得雇用を蝕み、経済を縮小させるデフレの影響。

農業では、野菜にも果実にも畜産物にも消費不況の影響が表われ、10月の東京市場で果実は4年ぶりに1キロ210円台の低水準を記録。野菜は1キロ平均177円で前年比14%安となった。畜産では、豚肉は調整保管発動と大手加工メーカーの買い支えで相場の回復をはかり、肥育牛では牛肉販売価格低迷で補完マルキン発動は連続し、マルキンの肉用種補てん財源減少で、1頭当たりの掛金が引き上げられた。農畜産物の価格は、天候や災害、各産地の生産状況によるところの入荷量、外国からの輸入量、様々な要素によって変動するが、今回の価格低迷は、消費低迷が大きく影響していると思う。ちなみに10月の長野市の消費者物価指数(生鮮除く総合)前年比マイナス2.2%、毎月勤労統計で「決まって支給する給与」はマイナス4.1%とのこと。

デフレの背景 経済情勢見通し

農中総研の経済見通しでは、09年度はGDP成長率前年比マイナス2.7%、10年度は先進国経済持ち直しでプラス1.4%、09年春から国内景気は回復が始まっているが、需給バランスは大きく崩れたままで、設備投資や雇用の悪化懸念が残っており、物価は11年度まで下落が続くと予測している。国際通貨基金はデフレを「2年以上続く物価の下落」と定義しており、日本の物価変動は、08年後半を除いて10年間マイナス基調で需給不足が続いており、日経新聞の調査では物価下落が12年前後まで続く見方が大半としている。デフレ継続の中では、国の政策だけでなく農業経営についても構造的な対応が必要となってくる。

景気低迷 食品スーパーへの影響

景気低迷によるところの消費不振はスーパーマーケット業界の経営にも大きく影響を与え、各社とも低価格販売を強化したため、売上高と営業利益を減少させた。農業新聞の調査によれば、イオン、平和堂、ユニーは8月前年同期比で客単価5〜6%減、イトーヨーカ堂も4.8%減となり、客数も前年同期より減少した。低価格路線を中心とした販売競争の消耗戦の中で、スーパー各社は小型食品スーパーの出店、格安スーパーの出店など食品を重視した展開を計画し、仕入面でも商品数削減や農業生産法人立上などで、生産、仕入、販売を一体化し、利益を確保しようとしている。

県下JA営農担当部署と県営農センターの持続的農業経営支援のための取組

08年1月、毒入餃子事件以降国内産にシフトしてきた農畜産物も景気低迷により、加工・業務用を中心に輸入農畜産物が大幅に増えるところとなった。このことは、国産農畜産物が業務加工用のニーズ(安目の価格で一定品質、一定量を安定して供給を続ける)に応えられない状況であり、価格低迷の時代、せっかくの加工業務用需要を輸入農産物に譲る結果となっている。県営農センターのT氏によれば、従来の生産販売手法だけでは手取確保は難しい時代となった。業務加工用については求められる品目の提案と注文に応じられる生産体制をしっかり確立したい。手取確保のためには収益性の高い品目で、労働生産性を高める技術の普及(施設化、新わい化など)をしたい。現状、りんごをみれば、日本は10aで2t、イタリア 南チロルでは5〜7t生産している。施設トマトでも日本10a当り10tに対し、オランダ30〜100tを密植で栽培している。先進国は収益性で日本の1.5倍、労働生産性では3倍以上となっている。また、温暖化を踏まえた長期作型の誘導と主要品目の適正生産、生産・流通の効率化によるコスト低減も提案していく。JAみなみ信州のT氏によれば、価格低迷は生産者の我慢できる限界を超えた。果実では売先を特定できるものは、オープンケースやコンテナほかで出荷経費500円位を下げ、生産性の高い生産者が我慢できる体制をつくりたい。階級についてもシンプルでコストの下げられる売り方を工夫したいとしている。09年の農産物価格低迷の中、従来であれば避けたい安値の契約取引で一息ついた法人経営もでている。市場の安値は市場への入荷量の減少で回復するが、今回の消費不況は全体の価格レベルを一段引下げてしまった。農家所得確保のため関係者の一層の努力と支援をお願いしたい。




2010年   5月号


今、注目される「水」

水の話題

最近、新聞テレビ等で水のビジネスについての報道が増えている。2月には、東京都水道局が民間企業と提携して海外の水ビジネスに進出することが報道された。内容は、東京都水道局は今まで国際貢献の一環として、海外研修生の受け入れを行ってきたが、海外の水不足に直接貢献するため民間企業と連携して、局のもつ水道技術や運営ノウハウを提供するというものだが、その実は世界の水メジャーに対応できる日本型の水ビジネスを育成することにあるとのこと。

水ビジネス

2010年世界の人口は68億人を超え、水の需要は食料生産の農業用水増大と併行し、中国、インドなど新興国の経済発展により工業用水、都市の生活用水と大幅に増え、今も20億人の生活用水が不足し、水不足は深刻な課題となっている。こうした中、水ビジネスは、2005年60兆円市場が、2025年には、100兆円ビジネスに成長するとみられている。昨年は国を挙げた検討として、「水の安全保障戦略機構」「水ビジネス国際展開研究会」など設置され、検討が始まった。水ビジネスでは、日本は海水の淡水化と排水の再処理におけるイオンを通さない逆浸透膜技術で世界をリードし、シェア70%を占めている。膜は単品でありプラント建設から管理運営までのノウハウを持った企業は日本になく、欧米の企業が元請けとなっている。そして最大の水ビジネスの上下水道の管理運営は、フランス、イギリスの水メジャーが独占するところとなっている。そこで世界一の水管理ノウハウのある東京都水道局(職員数4千人、水供給680万世帯、漏水率3%<ロンドンなどは漏水率30%>1日440万?もの飲料水供給、水道料金徴収100%に近く、断水もない)が、民間企業と提携し、最大の環境ビジネスである水ビジネス進出が検討されることとなった。

日本の水源地が狙われた

一昨年中国の企業が日本の水源地の買収に入った。三重県大台町宮川ダム湖北1000ヘクタールの仲介を町に持ちかけ、長野県天龍村でも森林組合に話があり、岡山県真庭市でも話があったが、売買契約は成立しなかった。世界中で水源地争奪戦が始まり、特に中国は、国土の1/3が酸性雨の被害、そして河川の半分が汚染、安全な水が飲める人は、人口の1/4、砂漠化が進行し、18.2%が砂漠となり、北部で、工業用水不足が慢性化し、内陸部でも旱魃などの影響で、農業用水不足が深刻化し、さらに最近の中国国際放送では、雲南省や貴州省など大変な旱魃で中国全体で2千万人以上が飲料水不足に直面していることが伝えられた。

日本の水

日本の水利用は生活用水が10%(1人1日300リットル)、工業用が15%、残り75%が農業用だという。農業、食料生産にとって、水源確保は最大の課題であるが、日本では、年間通して雨も多く、雨水を蓄える森林も国土の67%と、中国企業やロシア企業が狙いたくなるほど水に恵まれている。溜池や灌漑施設、ダムも多く整備され、生活用水も工業用水も農業用水も世界中で最も恵まれた国だという。問題は、これだけ水に恵まれた国が、21世紀気候変動や人口増で水資源確保紛争が繰り広げられるとき、食料を世界中から輸入し、これを水に置き換えたバーチャルウォーター、年640億tを輸入し続けていて良いかということ。

世界各国の水不足

世界の人口、1950年25億、2010年68億、2025年地球が養える人口80億を超えるという。食料不足は当然だが、それ前に水不足が更に深刻になりそう。今、ドナウ河、メコン河、チグリスユーフラテス河など国際河川周辺国間で、水確保問題が起こっており、日本の穀物輸入先であるアメリカの巨大な穀倉地帯、オガラ帯水層(日本の面積に匹敵する水源)はすでに1/4が消費されてしまい、アフリカのサヘル地方で砂漠化が進み、かつて世界4位のアラル海は、農業用の灌漑で80%以上の水が失われ、お隣の中国では、国内河川、地下水ともに汚染が拡大し、黄河も季節によって水が涸れてしまい、南の長江から3本の水路で北へ水を送る巨大プロジェクトを進めている。

農業と水

世界経済不況や資源枯渇問題は然る事ながら、一番の問題は世界人口の急増問題であり、もっと取り上げられるべきと思うが、それはそれとして、日本は水不足の国から、食料輸入を通じて640億tものバーチャルウォーターを輸入し、食料安全保障の立場から中国や韓国(海外に数千万haを確保、農業投資を増大)などと同様に海外農業投資を増大させようとしている。日本の長期的な食料確保に必要なのは、海外農業投資よりも農業用水も含めた国内農業生産基盤維持整備が必要であり、農業農村整備事業予算(22年度用排水施設整備保全<前年比52.4%>)もしっかり確保しながら取組むことが必要だ。