
私が子供の頃、アメリカの自動車産業は全盛期にあり、アメリカ車のカタログのイラストを描くイラストレーターは「デトロイド・アーティスト」と呼ばれ時代の寵児でした。写真よりもドラマチックな構図やイメージを描くその技法は、そのまま日本の若いイラストレーターに刺激を与え、当時の日本の絵本はデトロイトアーティストのコピーであふれ返ったのです。 | |

そうした素敵な時代の絵本に感化されて絵やクルマが好きになった少年達は、今、もう一度クルマに魅入られています。今の若い人たちがクルマに魅力を感じないのも現代では魅力的な子供のためのクルマの絵本が少ないからではないでしょうか。構図で言うなら、手前あおりのS字カーブなど、クルマの絵本の常套手段はいくらでもあるのですが、幼くしてそういう魅力に接することなく育った人たちの中にクルマに対する愛情は芽生えるはずもありません。「写真絵本」などではクルマの魅力は伝わりませんから。
クルマのイラストレーションに興味のある方は、How
to Drawのページにカーイラストレーションの参考図書をいくつか紹介していますので、そちらもご覧下さい。 | |

私の持っていた絵本の中には、クルマの絵ではありませんが、夜の羽田空港の絵がありました。それも雨降りの!濡れた滑走路にライトで照らし出されたジュラルミン製の機体が映り込んでいる画面。子供心に「美しい」と感じるその絵は、私の潜在意識の中にインプリンティングされ、大人になってもそうしたモチーフを描きたいと思ってしまう原因を作り出しました。光と、影と、写りこみ。私が未だに追いかける絵本の魅力です。
左は映画「マイ・フェアレディ」のポスターで有名なボブ・ピークの作品。スーパーリアリズムではなく、イラストレータ独自のタッチを残していることがデトロイド・アーティストの魅力である。 | |

クルマに対する愛情は時としてクルマを擬人化して扱ったりします。子供の頃読んだ絵本にタイトルは失念してしまいましたが、こんなのがありました。小さな黄色のセダンが道路を走っていくと、スポーツカーが追い越して行きます。「速くてかっこいいなぁ」さらに新幹線も追い越して行きます。山道にかかるともっと高い空をセスナが飛んで行きます。いろんな乗り物に出会って劣等感を持つそのセダンが、最後に、自分にとって大切なのはその家族4人を乗せてどこへでも出かけて行かれることだと気づいて自信を取り戻すといった内容だったと思います。これこそクルマに対する愛情がなくては読めないストーリーではないでしょうか。
左は石田通氏の「のりものスピードくらべ」より。簡略化された背景の中で乗り物が生き生きと描かれており、速い乗り物が次々に追い越していく構成で、必ず左方向に追い越していくレイアウトなど、最近はこうした完成度の高い絵本が少ないと思います。 | |

ならば、私もクルマを主人公とした絵を描きたい。
シトローエンユーザーの方は、人一倍クルマに対する愛情(偏愛)が強いと思われますので是非そういう人たちに読んでもらえるような絵本を描きたい。
難しいことは要らない。複雑なストーリーや演出も要らない。でも、忘れかけていた子供の頃の大切なものをもう一度形にしてみたい。
シトロ絵本「僕はドジ坊」はこうして生まれました。
左はカロリーヌ絵本の「たのしいドライブ」より。私をクルマ好きにさせた決定的一枚である。シトロ絵日記のTOPはこの絵を参考にしている。 | |