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大飯原発の再稼働を許さない 井戸孝彦


原発の再稼働は許さない


原発の運転に「絶対安全」などない


 4月13日野田政権は、関係3閣僚会議で大飯原発の「安全性」が確認されたとして再稼働を決定した。政府の決定で大飯原発が再稼働すれば、2011年3月11日東日本を襲った大震災以来、停止中の原発最初の稼働になる。政府は福井県や大飯町の地元説明に訪れ了解を求めた。しかし、4月26日、福井県議会は全会一致で早期稼働反対決議を採択した。福井県議会は関西電力が示した安全対策行程表(対策の完成年度が来年度以降)の不十分性、また原発行政を規制する原子力規制庁が未設置であることなどを理由としている。大飯原発から100㎞圏内の京都府、大阪府、滋賀県、兵庫県も早期再稼働に懸念を表明し、政府に幾つかの指摘と回答を求めた。

 共同通信の世論調査でも大飯原発の再稼働に対して、反対59・5%、賛成26・7%、無回答13・8%で国民の多くが大飯原発の再稼働に反対していることが明らかにされている。


 福島原発は広島原爆の470発分


 日本の原発は保守自民党政権のもとで、化石燃料の石油がほとんどない日本のエネルギー政策として、「作られた安全神話」のもとにすすめられてきた。2009年、政権交替した民主党政権のもとでも、エネルギーの50%まで原発に依存度を高める政策がすすめられてきた。そのさなか今回の事故が発生した。何重にも安全対策が施され、絶対安全と言われたその原発が、地震の津波で原子炉を冷却する電源を喪失し、原子炉の冷却ができず、暴走し1号機〜3号機が水素爆発とも水蒸気爆発ともいわれる大爆発を起こした。原子炉の炉心溶融で大量の放射能が、大気に放出され大きな放射能被害をもたらした。政府がIAEA(世界原子力機関)に報告した内容は「大気に放出した放射能量は広島型原発の470発分」と報告した。セシウム137は170発分、セシウム134は300発分の量に達した。被害地域は福島県、宮城県、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、東京都の一部など、大変広大な地域が放射能汚染にみまわれた。海の汚染も土壌汚染も農産物への影響も深刻である。福島原発事故はチェルノブイリ原発事故に相当するレベル「7」の大事故で世界中を震撼させる大事故であった。


 「死の街」と化した原発立地


 原発事故から1年過ぎたが、事故の収束の目途はいまだたたない。事故の原因解明もいまだ明らかにはされていない。避難を余儀なくされた人々への生活の保障も損害賠償も全く不充分である。福島第一原発1〜4号機の廃炉は決まった。しかし、廃炉処理には30年というとてつもない永い年月が必要という。その間も放射能汚染は続き、汚染された土壌の洗浄と処理には何年もかかる。福島原発から25㎞圏内は何十年もの間、立ち入ることもできない。

 地震津波の被害を被った地域の復興は可能だが、地震津波に加えて福島原発事故での放射能汚染に見舞われた地域は、人間が近づくこともできず復興は絶望で「死の街」とするしか方法はない。福島原発事故による被害を被った人々への保障や事故の責任は、誰がとるのであろうか。原子力政策を国策として進めてきた国が取らなければならないのは当然である。次に商業として原子力発電を行なってきた東京電力が負わなければならない。放射能汚染にまみれた地域の一次産業、二次産業、三次産業の賠償と保障、避難を余儀なくされた人々の生活補償と賠償に一体どれだけの税金と金がかかるかわからない。おそらく天文学的な費用と時間を要することは避けられない。さらに付け加えて福島第一原発の1号機〜4号機の廃炉にどれだけの費用と時間を要するだろうか。また炉心溶融という世界的にも経験したことのない事故の処理が安全にできる保証があるのだろうか。


 原発に「安全」などない—脱原発社会へ!


 財界と企業は福島原発の事故の収束も事故原因も明らかにしていない。しかも今回の事故の責任を誰もとろうとしない。先の見えない中で、原発の再稼働と原発事業の推進、原発の海外輸出のもくろみ、国民の脱原発の流れを再び原発依存へと戻そうと政府に働きかけている。

 「今回の福島原発事故は想定外の地震と津波がもたらしたもので、地震や津波対策をしっかりすれば日本の原子力は安全だ」と彼らは言う。人間の能力や科学技術で人体に甚大な被害をもたらす核分裂による原発に安全な操作・運転・制御など不可能だ。その原発に「絶対事故はない」「絶対安全だ」などあろうはずがない。いくら事故を起こさないために細心の注意を払い、安全に努力しても事故は防げない。とりわけ近代科学技術を駆使しても、一度原発で爆発事故など起きたら、福島原発事故で証明されたように、どうにもできないのである。

 「核廃棄物の処理の方法がない」「事故が一旦起きたら核物質の拡散で人体へ多大な被害をもたらし、人間の手に負えない」「高濃度放射性廃棄物の廃棄方法も捨てる場所もない」など原発がかかえる問題が明らかになった。さらに、電源三法で原発立地市町村への莫大な交付金、原子力関係学者への電力会社からの不透明な寄付金が配られていたことも明らかになった。国民に今まで知らされなかったことが次々に明らかとなり、国民は「作られた安全神話」と隠された日本の原子力政策に疑問と危機感を持ち、日本の原子力依存のエネルギー政策の見直しと脱原発へと動き出したことは当然の流れである。


 42年ぶりに原発「ゼロ」に—原発の再稼働許すな!


 政府は国民の60%を超える脱原発の声を無視して、大飯原発3・4号機の再稼働に向けて「安全性は確認された」「必要性がある」として財界、企業と歩調を合わせ拙速にも再稼働に向けた動きをしている。5月5日に北海道電力泊原発3号機が定期検査のために停止する。これにより1970年以来、42年間日本で稼働してきた商業用原子力発電所の50機全てが停止する。国策として、電源三法で莫大な税金を注ぎ込み、「安価」な原発エネルギーに依存し、高度経済成長をつづけ、財界・企業は莫大な利益を上げてきた。今回の福島原発の事故で明らかにされたように、こうした原子力政策は、事故が起きたら甚大な被害をもたらすリスクをかかえた原子力エネルギー政策であったのだ。しかし、引き続き原発に依存しようとする政府や財界・企業は、原発運転が「ゼロ」になり、原発に変わる代替エネルギーの使用で、多少の経済産業活動が減速し、燃料費高騰で物価が上ったとしても、原発に「安全」などない、事故が起これば人体に多大な被害をもたらし、制御も収束もできない放射能被害の恐ろしさを知った多くの国民が原発の実態を知り、脱原発が国民的な流れになることを恐れているのだ。民主党政権は福島原発事故以降、菅政権のもとで「脱原発」方向を打ち出した。運転開始から40年経過した原発は段階的に廃止するというもので、徐々に廃止していく道筋である。世界の脱原発の流れはドイツもスイスも今回の福島原発事故を機に早期に運転を止める事を明らかにした。イタリアは国民投票を実施し脱原発をきめた。世界は国のエネルギー政策を再生可能な自然エネルギー政策への転換を求めて、開発、推進、利用拡大へと舵をきった。

 日本の原発が全て停止する中で、今年の電力需要見込と不足電力計算を盛んに、政府や電力会社が行っている。政府や電力会社の計算では原発の依存度の高い関西電力16%、北海道電力3%、九州電力3・7%程度不足するとの予測が示された。これは一昨年のような猛暑が続くという前提での机上の計算に過ぎない。

 東京電力管内、昨年の夏場の一番電力需要の多い時期でも少しの計画停電で乗り切れた。勿論これには電力会社以外の発電所からの供給、さらには大企業をはじめ中小企業者節電自家用発電設備の活用、家庭での節電など利用者の節電意識、無駄な電力は使わないなど電力需要意識の高まりなどの協力が得られたことによる。

 原発への依存度が高い関西電力は、一番電力が不足すると言いながら、原発への依存を少しも減らそうとはしない。原発に変わるクリーンな代替エネルギーによる発電への取り組む姿勢も弱い。関西電力と大阪市との話し合いの場で、関西電力は電力が足りても「大飯原発は稼働させる」と公言したと言われている。関西電力の本音が表れている。原発に対する各電力会社の姿勢は、関西電力と同様である。国民の血税でエネルギーを安く手に入れてきた財界・大企業にとって、代替エネルギーで電気料金が高くなると経営が苦しくなり、日本の経済産業活動に大きな支障がでる。国民生活に影響が出るなどの理由をつけ、原発の再稼働を政府・関西電力に働きかけている。

 福島原発事故以来、国民の多くは、これまでの原発に依存してきた生活の在り方、産業生産の在り方、社会の在り方、人間の生き方など、これまでの在り方が本当に良かったのか見つめなおす機会にという人々が増えてきた。脱原発の流れを大飯原発の再稼働で止めてはならない。再稼働を許してはならない。

 大量生産、大量消費、使い捨ての西欧文明の見直し、限りある化石燃料・環境破壊の化石エネルギーの無駄使い、スピード競争、便利さの追求、何でもナンバーワンを求める社会から心の豊かさと健康な社会につくりかえよう。

(5月5日 脱原発記念日)