THE  POWER  OF  PEOPLE

 

地域や社会を変える「働き方」 


「協同労働の協同組合」の法制化と「新しい働き方」の可能性


                        池田晴男


 函館闘争団が学んだ菅野正純さんが急逝


 年が明けてすぐの1月11日、協同労働の実践と理論を「協同労働の協同組合法」(案)へとまとめあげる中心的な役割を果たされてきた日本労働者協同組合連合会(労協連)の前理事長・菅野正純さんが急逝された。


 1047名採用差別事件を20年を超えて闘い続けている私たち国労函館闘争団にとっては、闘争団闘争を地域の課題と結びつけながらたたかうことの意義や意味を見いだしていくうえで、多くの示唆を与えてくださった方であった。

 闘争団が起ち上げた労働者協同組合・道南ネットや障がい者の共同作業所がかかげている理念や指針は、菅野さんが熱く語ってくれた「協同労働」や「非営利・協同」の思想に依るところが大きく、これによって解雇撤回・権利回復を直接的な課題としてたたかう闘争団闘争はより積極的な社会的意義付けを獲得することができたのである。


 射程距離に入った「協同労働の協同組合」の法制化


 2008年に入って「協同労働の協同組合法」制定に向けた動きが急速に高まりつつある。「『協同労働の協同組合』法制化をめざす市民会議」(会長 笹森清)などによる法制化をめざす市民集会などが全国各地で開催され、去る2月20日には制定実現をめざす超党派の国会議員による「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」(会長・坂口力元厚生労働大臣)が結成された。

 早ければこの五月にも法制化が実現するのでは、との見通しも語られている。


 近年、「人と地域に役立つ、働きがいのある仕事を行い、それなりの報酬を得て、人生の見通しをひらいていこうとする働き方」が注目されてきた。働く人びと・市民が主体となって、自ら出資し、経営して、地域に役立つ仕事をおこしていく「新しい働き方」と呼ばれる働き方である。労働者協同組合やワーカーズコープあるいはワーカーズコレクティブ、NPOなど「協同労働」という概念で括ることのできる働き方である。

 この「協同労働」は日本労働者協同組合連合会(労協連)が実践の中から理論化し豊富化してきた概念でもある。雇用労働ではなく協同労働という概念は、これまでの資本主義社会の無政府的な競争原理が自然環境や地域を破壊し、働く者の健康と人間性を傷つけながら働く権利さえ奪い取っていることに対する、地域を根拠としてのオルターナティブでもある。「労働者協同組合は、何よりもまず、労働者が主人公となって労働の意味を問い返し、労働を全人格的な営みへとつくりかえる運動である」(永戸祐三労協センター事業団理事長)と規定するように、人間らしく働き、働く喜びを取り戻すことであり、労働の人間化をめざす取り組みである。

 労働者協同組合運動の意義や意味が多様な実践例とともにさまざまに語られ、また、全国各地でNPOやワーカーズコレクティブなどの活動が盛んになるにつれ、「協同労働」がもつ新たな社会を開く可能性への期待と関心も高まってきた。このような「協同労働」の広がりと「協同労働」をベースとした仕事起こしのなかで、「協同労働の協同組合」法制化を求める運動は、労協連を軸とした幅広い全国的な運動として広がり、今、法制化を目前とするところまで前進してきたのである。


 「協同労働」は「労働の人間化・社会化」をめざす


 労働者協同組合やNPOなど非営利・協同の活動が注目されてきた背景には、経済のグローバル化の下で資源の浪費と環境破壊が深刻化し、企業倒産、リストラ、失業が常態化していることがあげられる。

 市場経済万能主義の下で、働く者は資本によって使い捨てにされてきた。とりわけ、国鉄分割・民営化にともなっておこなわれた国家権力による国労つぶし攻撃は労働組合を無抵抗状態に追いやり、バブル経済崩壊以降の企業のリストラ・首切り攻撃に拍車がかけられた。「働き方の多様化」を口実とした労働法制の改悪によって労働者は正規雇用から非正規雇用へと大量に切り替えられていった。こうして日常的ともなった失業不安と、その裏返しとしての長時間・加重労働の蔓延の中で、他方では、不安定就労やワーキングプアと呼ばれる層が増大しつづけているのである。今やこの国では、8年連続して、3万人を超える自殺者を生み出しつづけている。うつ病の発症や過労死で倒れていく労働者も後を絶たない。


 日本における協同組合運動のあらたなページを開きつつある労働者協同組合運動は、労協連に代表されるように労働者自らが出資し、経営・管理し、労働するという新しい働き方を通じて「協同労働」の概念を豊富化させてきた。

 「協同労働」とは、自発的で自立的な働き方とは何かや人と地域に役立つ働き方とは何かを問い返す、いわば「労働の人間化」「労働の社会化」へ向かうことを必然とする。労協連などの労働者協同組合運動の実践は、「非営利・協同」の視点から「市民と地域と自治」の関係、「市場」「人と人との結びつき」など生きている社会と社会関係のありようから「働く」ということの意味をリアルに問い続けてきたとも言える。

「人に雇われ、人の命令に従って、人をもうけさせるために働く以外にない仕組み」を変えるための取り組みは、今さまざまなかたちで始まっている。そしてこれらは当然のこととして持続可能で人間的な発展を前提とするものである。またこのような挑戦は、「市場原理」が切り捨ててきた人と人の結びつき、社会的なつながりの回復をもつくりだしながら社会的連帯へと向かう可能性を予見させてくれている。


 闘争団闘争を通じて出会った「協同の思想」と「協同労働」の実践は、「働く者が大切にされる社会」へ向かうための多様で豊かな経験を私たちに与えてくれている。

 「協同労働の協同組合」法制化を実現し、地域や社会を変える「働き方」をこれまで以上に、そしてさまざまに追求していきたいものである。