THE  POWER  OF  PEOPLE

 

  核空母と軍事支配を許さない   篠崎浩和


   瓦解する資本主義を

      労働者の闘いで迎え撃とう

                        

 「横須賀を核の軍港にするな!」のシュプレヒコールがこだまするなか、9月25日朝8時すぎ、米海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」が東京湾へと姿を現した。今年5月には、チリ沖の太平洋上で火災事故を起こし、アメリカは当初の8月配備計画を断念せざるをえなかった。しかし、この事故についても何ら詳しい説明がないまま、原子炉2基を搭載した巨大空母は、ついに横須賀へと入港を強行したのである。

 横須賀はアメリカ海軍の一大拠点である。基地は第7艦隊の艦船11隻の母港となっており、全世界にまたがって部隊を展開している。アメリカの領土以外で、戦闘艦船の母港となっているのは横須賀と佐世保だけである。

 91年の湾岸戦争では、横須賀を母港とするミサイル巡洋艦バンカーヒルからトマホークが発射された。またイラク戦争では、横須賀基地から五隻の艦船が参戦し、イージス艦カウペンスが真っ先にイラクへと巡航ミサイルを打ち込んだ。さらに空母キティーホークの艦載機は、イラク全土を破壊するために最大の攻撃回数を記録した。

 アメリカはこんにちまで、日本における米軍基地の再編強化をおしすすめてきた。日本の自衛隊とも共同作戦の司令部を新設しながら、世界を軍隊の力で押さえ込むために、軍事覇権体制の強化をめざしてきたのである。横須賀における原子力空母の配備も、まさにその一環にほかならない。

 アフガニスタンやイラクへの侵略戦争も、在日米軍基地がその出撃拠点となっている。それは数百万人にのぼる難民や戦争犠牲者をうみだしながら、いまも泥沼の戦闘状態をつづけている。日本もまた平和憲法を踏みにじり、アメリカのおこなう侵略戦争に加担し、10次にわたって陸上自衛隊をイラクに派兵するとともに、米兵の輸送をはじめ補給活動をおこなってきた。

 戦後60年以上にわたって、日本はアメリカの軍事戦略に組み込まれながら、沖縄をはじめ国内には数々の基地をおかれ、「日米同盟」とは名ばかりの、まさにアメリカに隷属する日本、アメリカに支配された日本となっているのである。

 在日米軍基地は、アメリカが日本やアジアや世界を支配するための戦略的拠点にこそほかならない。それがいよいよ原子力空母の配備という形で、「核」をともなって強化されようとしているのである。

 日本やアジアが、そうしたアメリカの軍事支配から解放されないかぎり、私たちの暮らしに、真の平和と真の自由をつくり出すことはできない。基地と軍隊という、この支配のための暴力装置こそを日本とアジアから追い出してゆかなければならない。日本をアメリカの軍事覇権と世界侵略のための「不沈空母」にしてはならないのである。

 このアメリカの軍事覇権と基地の強化に反対するたたかいが、いま多くの自治体を巻き込みながら、市民や労働者のなかにひろがりはじめている。

 横須賀では、「原子力空母の配備および安全性を問う」住民投票条例の制定運動が、住民のたたかいによって二度にわたって成功をおさめている。議会は自民党や公明党などの数の力で条例請求を否決したが、市議会は全会一致で「原子力空母の配備に対し多数の市民が危惧していることの証左として、署名の重みは真摯に受けとめる」との意見書を採択せざるをえなかった。9月25日の「ジョージ・ワシントン」の強行入港には、早朝のうみかぜ公園に300人の労働者・市民が集まって抗議のシュプレヒコールをあげ、夕方のヴェルニー公園では平和フォーラムなどが主催し、4,000人以上の人々が集会とデモをおこなった。アメリカ海軍の一大拠点である横須賀にも、確実に新しい風が吹きはじめているのである。

 また沖縄では、名護市辺野古への新基地建設計画に対して、県や市が大枠では受け入れたものの、V字型の二つの滑走路をもつ現計画には、いまなお反対を表明している。それは新基地建設計画が、普天間基地の「移設」などではなく、まさに海兵隊の巨大出撃拠点としてつくられようとしているからにほかならない。

 辺野古を中心とした住民たちのねばり強いたたかいは、新基地計画発表以来10年が経とうとしているいまも、「クイ一本」打たせていないのである。

 こうした闘いは、基地に苦しむ各地の人々にも大きな勇気と希望をあたえている。

 この9月には、基地の爆音に苦しむ、嘉手納、普天間、小松、岩国、横田、厚木の爆音訴訟原告団が集い、大和市で交流集会を開いている。

 このように、日本各地で在日米軍基地の強化に反対し、日米軍事同盟による世界的軍事覇権に反対するたたかいがつくられていっている。そしてそれは、さらに地域ぐるみ、自治体ぐるみのたたかいへと発展してゆこうとしている。いまこそ日本各地から、この帝国アメリカへの隷従と軍事支配に対するたたかいを大きく育ててゆかなければならない。

 

  アメリカ経済を呑み込む投機マネー


 帝国アメリカの軍事覇権を支えてきたもの、それは世界に突出したアメリカの経済力であった。それがいま、破綻の危機に直面している。

 サブプライムローン問題から始まったアメリカの金融危機は、証券大手のリーマン・ブラザーズの経営破綻へと直結した。もちろんそれだけではない。アメリカでは今年7月だけでも五千件をこえる倒産が報じられている。そしてその波は全世界に波及し、日本や欧州の主要株式市場だけではなく、中国や中南米や南アフリカなどの新興株式市場も軒並み値を下げているのである。

 このアメリカ経済をも呑み込み、世界の金融市場を恐怖に落とし込んだもの、それは資本主義が自ら生み出し、誰も制御することができず、つねに獲物を求めて膨張する「巨大投機マネー」にこそほかならない。

 2000年はじめに、アメリカは「ITバブル」が崩壊し、株式市場は軒並み急落した。この衝動を和らげるために、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、金利を引き下げ大量の資金を投入した。この資金が不動産市場に流れ込み、不動産価格を押し上げた。そしてそこに新自由主義が進めてきた金融緩和によって、世界中に溢れ出した「カネ」が一挙に流入し、「不動産バブル」が始まったのである。しかし、こうしてつくられた「バブル」が長続きするはずもなかった。アメリカの住宅価格は、2006年6月頃をピークに下落をはじめ、「投機マネー」が一斉に手を引き始めると、今度はサブプライムローンの焦げ付きが急増し、それが一挙に不良債権化してきたのである。そして「住宅バブル」をつくり出した「投機マネー」がつぎに向かった先が、原油や穀物などの先物市場であり、それによって原油をはじめ大豆、小麦、とうもろこしなどの価格が急騰したのは周知の通りである。

 アメリカはこの金融危機を乗り切るためと称して、最大七千億ドル(約75兆円)の公的資金を投入し、不良資産を買い取ろうとしている。しかしそれは「ITバブル」が崩壊したときと同様に、「投機マネー」をさらに膨張させてゆくことにほかならない。しかも世界では「ドル売り」がはじまり、基軸通貨としての「ドル」の信用も揺らぎはじめ、ドルが一挙にアメリカ国内に還流すれば、アメリカ経済は巨大なインフレに陥ってゆくことが予想される。

 資本主義がつくりだした、この「投機マネー」は、儲かりそうな獲物をねらってハイエナのように群がり、「利ざや」だけを稼いでゆくのである。資本主義世界に突出した経済力を誇ってきたアメリカでさえ、そこから逃れることはできない。

 アメリカでは、この1月から9月の九ヶ月間で、80万人近い就業者数の減少が報告され、失業率も6%を超えるという高い水準が続いている。アメリカ社会もいよいよ大量失業時代に突入したのである。

 資本主義はその危機をつねに労働者に転化してくる。格差はますます広がり、物価は急上昇し、労働者を解雇し、労働条件を切り下げることでその危機を乗り切ろうと躍起になってくる。しかもコントロール不能な「投機マネー」が世界を覆い、その危機の深化は極限へとむかっている。資本はいつも労働する人間の上にたち、労働する人間を搾取・支配し、その成果を収奪してきた。この資本主義世界を変革する以外に、人類にも労働者にも本当の未来はおとずれない。

 資本による支配と破壊が極限へと向かう労働現場に、われわれは今こそそれと闘う組織と力をつくってゆかなければならない。