THE  POWER  OF  PEOPLE

 

人間主義に立つ社会主義 後藤正次


「人を人として尊重」する人々や

行いに響きあう自分になる



 ・・・「いかにして清を戦に引きずり出すか、が焦点なのだ。宗光はまず朝鮮在住の日本公使、大島圭介に電報を打った。「行きがかり上開戦は避くべからず。よってこちらの責任にならない限りいかなる手段をとってもよい。なんとしても開戦の口実を作るべし」・・・。

 本誌に連載されている金重明さんの「甲午の年の蜂起」の一節であるが、物語はいよいよ日本帝国主義が牙をむいて侵略国家として朝鮮半島の覇権を握ろうと画策しはじめた段にさしかかっている。

 清に戦争をしかけるために、欧米列強が納得する戦争の大義名分を創り出そうと外務大臣の陸奥宗光と伊藤博文総理大臣らが策を巡らす様が、今ちょうど描かれている。その画策たるや、気の弱い私などは、本を閉じたくなるほどである。「よくもまあ、そんな無茶苦茶な論理をひねり出して、公文書として送り付けることができたものだ。」と思うが、陸奥宗光たちは無理難題を百も承知で、いや、むしろ全知全能を使って策を弄していったことを金重明さんは描写している。

 他国や他人に対して策をめぐらして陥れ、その間隙を突いて戦争へ・・。日本が欧米列強に肩を並べようと、冷酷残忍に朝鮮・中国・太平洋へと侵略をして行き、「天皇制軍国日本」へ落ちて行った日清戦争の発端は、「力の論理」を背景にした「狡猾な陥れや仕向け」などの暴虐が、権力についている人間の手によって行われていったのである。

 こうした「狡猾な陥れや騙し」は、何も、日清戦争のあの時代の特有のものではない。「普通の人間」にすれば目や耳を覆いたくなるような「策を弄した出来事」が、今でもあちこちで行われている。


 身のまわりにある「人間性を否定する画策」の数々


 ◎近くは、国鉄分割民営化がそうであった。総評の中核であった国鉄労働組合をつぶすために「JRという船に乗りたければ国労を脱退せよ」と迫り、首切りの恐怖を浸透させるために全国に「人材活用センター」なるものを作り、ペンキ塗り、廃屋壊し、文珍作りなどの仕事をさせ、あたかも「お前は余剰人員でありJRには採用されない」と首切りの恐怖を煽ったのだ。そして「助かりたければ国労を脱退せよ」と迫り、挙句は7628名の国鉄職員の首を問答無用に切ったのである。

 JR発足後も、恐怖で人を支配する気風は変わらず、少しのミスにも重い懲罰を加え、来る日も来る日も反省文を書かせたり、一般利用客が行きかう中で大声で反省を唱えさせるなどの「見せしめ日勤」なるものを考え出して職場を恐怖で支配した。その大きなツケとして起きてしまったのが107名もの命を奪ったJR尼崎脱線事故であったのだ。

 ◎原発も然りである。原発が日本に導入され始めた時、「原発は危ないと発言したら、その翌日に『婦人会の役員たる者があんな発言をして良いのか』と、電力会社の社員が家にまで押しかけて来て恫喝されたことが今でも忘れられない」という投書が某新聞に載っていたが、そうしたことが全国各地で行われたことは想像に難くない。

 反原発の学者として名高い小出裕章さんを教授コースには乗せないという昇進差別が取りざたされたが、まさに、原発推進に向けてあらゆるところで差別と排除と恫喝の策が弄されてきたのだ。

 ◎未曾有の地獄を生み出してしまった3・11の福島第一原発事故後も、政府や電力会社は性懲りもなく醜い策を弄した。いわゆる「やらせ」だ。民主党政権は昨年7月に原発比率公聴会を全国各地で開いたが、仙台では9人の発言者の内、何と、2人も東北電力関係の人間が「原発は必要」と発言し、名古屋でも中部電力の社員が発言した。限られる発言者に何で2会場とも電力会社の人間が選出されるのか。九州電力に至っては玄海原発の運転再開に向けて「再開支持のメールを投稿せよ」と社員や関係会社に命じていたことが暴露された。

 ◎韓国済州島カンジョン村に建設されようとしている海軍基地をめぐっても軍部による画策が行われた。2002年、韓国国防部・海軍は済州島に海軍基地を建設しようとしたが、候補に挙がった村々から次々に拒絶されてしまい、2007年4月26日にカンジョン村で1050人の村人中87人を集めた村民総会を急襲的に開かせ、軍艦と民間船が共用する観光美港という甘言で建設を承諾させてしまったのである。18人が決起して村民総会をやり直し、「94%が反対」という住民投票を勝ち取ったが、先般5月10日に行政区の西帰浦(ソキボ)市が、反対派の籠城テントを強制撤去する時に弄した策は、そこに「花壇を作る」というものであった。

 ◎石川一雄さんが50年間も無実を訴えている「狭山事件」もそうだ。先般5月23日には日比谷の野音で「不当逮捕50年糾弾・再審実現決起集会」が開催されたが、仮釈放中の石川さんは壇上から「犯罪人のレッテルが張られているうちは両親の墓参りはしない。晴れて無罪となった暁に墓の前に立つ。私の年齢から言ってその時間が極めて限られてきている」と訴えた。

 識字能力がない石川さんは脅迫状は書けない。何度も家宅捜査した際には見つからなかった万年筆が突如として見つかった。そして、その万年筆は被害者のものでもなかった。

 こんなつじつまが合わないことばかりのこの事件。「お前でなければお前の兄を逮捕する。自白すれば10年で(牢獄から)出してやる」と、取調官は当時の石川青年を誘導したのだ。部落差別が根底に横たわっているこの事件。「全ての証拠を開示せよ」と多くの人々の手によって再審請求が闘われている。

 ◎採用する時から、労働者を使えるだけこき使い、その労働者が潰れてもかまわないとする、いわゆるブラック企業も人間性のかけらもないものだ。大企業の人減らしのための「追い出し部屋」たるや人間の尊厳を粉々にさせるという、悪らつな意図を持つものに他ならない。

 ◎「日本の原発の安全は世界で最高水準」などと、3・11事故の放射能の汚染実態や、収束には程遠い事故現場の様子や、将来おこるであろう健康被害などには全く触れずに、世界を行脚して原発輸出にやっきな安倍首相などは、悪魔の原発であっても世界に売らなければ日本の資本・財界が持たないという確信犯として行動しているのだ。


 人の心をもって生きる人々に学び響きあう


 しかし、力のある者たちが人間性を蹂躙している中にあって、人を人として大切にする心根を持って生き、その心根をエネルギーに闘っている普通の人々もたくさんいる。

 ◎分割民営化反対を掲げて「誰であっても一人の首切りも許さない」と国労で踏ん張り続けた者たちが4万人もいたのだ。そして24年間も不当解雇をアルバイトと物販で闘い続けた者たちがいたのだ。

 ◎自分の昇進よりも原発の恐ろしさを訴える方が人間として生きる道だと考える人がいるのだ。そして、福島では恫喝を恐れず原発事故現場で働く労働者の健康被害を守るために闘っている人がいる。

 ◎「歴史に残る人物など望んでいない。一刻も早く基地建設を諦めさせ、みかん畑の手入れをしたい」と籠城テントに体を鎖で縛って闘う闘志がカンジョンにいるのだ。

 ◎自分の免職をも恐れず、字の書けない石川青年に字を教えて、無罪を訴える手段をさずけた刑務官がいたのだ。再審請求を求めて闘う弁護士をはじめ多くの支援者がいるのだ。

 ◎自分の体がへとへとになりながらも、疲弊した労働者に寄り添って共に闘う人々が全国にいるのだ。長野でも「労働組合LCCながの」が、愛知でも「あいち悠々労働組合」が必死で活動しているのだ。


 「人間主義」を再確認した人民の力第99回全国委員会


 そうした「人間の心」を持つ人々と共に進むことを私たち「人民の力」は5月18日・19日の全国委員会であらためて確認しあった。常岡代表から提起された「人力社会主義」の「究極の精神(原理)」は「人間主義」である・・という以下の提起を確認し合った。


 人はみな「人の心をもって生まれる。生まれたとき人はみな「やさしい心」をもっている。「他者を侵す」などという「反人間的な心」をもってうまれてくる者はいない。人はみな「人間主義者として生まれてくる」のである。我々「人民の力」の全ての同志は「その生まれたときの人の心」を「人として最も大切なもの」と心得ている。その「自分自身の原初」に帰り、その「原初を強め、豊かにするために生きてゆきたい」と願って生きている。だから人を「人として尊重する」。人を手段や道具として見たり扱ったりしない。人を利用したり操ったり騙したりしない。人を「人として尊重」する。「その人」を「その人そのもの」として認める。


 ・・・私も、そう生きたいと心から思う。