THE  POWER  OF  PEOPLE

 


 人民の力結成37周年によせて 岩田菊二


 殺伐とした社会病む日本

 人、ひとがつどう共同力創造へ


              一

 7月15日は、「人民の力」結成記念日である。いまから37年前の1971年7月15日に人民の力は、高尾山のふもとで産声を上げた。その3年前には私たちの機関誌「人民の力」が発行されており、今年の6月1日で創刊40周年を迎えた。社会党民同派の権威主義、組合主義、議会主義の思想と路線に限界を感じ、新しい社会主義の思想誌、理論誌、実践誌としての「人民の力」を発行しながら、3年後に社会主義にむかって変革をめざす政治同盟としての人民の力日本労働者階級解放闘争同盟を誕生させてきた。結成に携わった同志ひとり一人が、37年間の歳月を振り返ってみたとき、けっして平坦な道ではなかったことは言うまでもないし、その後に人民の力に入った私のようなものでも、その歳月の重みをあらためて感じている。特に、人民の力の多くの同志が経験した国鉄レッドパージは、最大最高の試練であった。歴史的な激変と、ともなう苦痛に耐えながら反人活闘争、反解雇闘争、絶食闘争をはじめ、国鉄労働運動の献身的活動家として少なからず闘いぬいてきた。国鉄闘争21年、人民の力史の半分以上はこの国鉄闘争を闘ってきた歴史とも重なっている、がこの激動と苦痛の時はまだ終わってはいない。5月に開催した人民の力の全国的な会議では、組織の結成とその存在の価値をあらためて確認し、社会主義の情熱と運動を積み上げる人民の力へと成長を誓い合った。

 人力結成37年、いま、その結成に携わった同志たちも、60歳を超えて新たな職場や地域で活動する状況が生まれている。関連企業に再就職をしたり、また農業や林業に携わりながら人力活動を進めている。シルバー人材センターに登録して仕事をしたり、求職活動をしながら活動している同志もおり、60歳という節目は、人民の力に新たな場を提供して運動領域を広げさせている。


                二


 先日、その60歳からが最も多く「自殺」に追いやられているという実態が明らかになった。昨年の自殺者は3万3千人を超えて、過去2番目に多い統計となった。3万人以上が10年連続したというから、10年で30万人、名古屋市の7人に1人が消えたことになる。なかでも60歳以上の自殺率が過去最高で、全体の三分の一を超えているというから、けっして同年齢の人たちには他人事ではないだろう。その動機と原因を見てみると、病気や介護への不安、就職難、社会的・経済的悩みによるうつ病、生活苦・孤独感などが原因となっている。現在、約1億2千万人の総人口に占める60歳以上の割合は、約30%を超えており、中でも一人暮らしが増えている。その1人暮らしの生活実態は厳しく、「平成18年版高齢社会白書」によると、収入は月15万円以下が5割を超えており、体力の衰えと共に収入増はなく明日の生活もままならない状況下にある。また、日常生活での心配ごとは、「心配がある」と「多少心配がある」の計で、一人暮らし高齢者世帯は63・0%(全高齢者世帯は58・3%)となっており、毎日何らかの不安を抱えて生活していることが伺われる。一人暮らしの世帯数は2020年には夫婦のみ世帯数と逆転し、34・4%に達する見込みであり、高齢期を一人で暮らす姿はより一般的なものとなると予測されている。

 医療の窓口負担の増加、増税と物価高、介護保険給付の引き下げなどが高齢者の家計をますます圧迫している。先日、結成された「あいち悠々労働組合」が駅頭で「後期高齢者医療制度」廃止に向けた署名と宣伝活動を行ったが、あいにくの雨ではあったが市民の関心が高いのには驚かされた。若い人でも、気軽に署名をしてくれた。

 政府の高齢者対策の現状がいかにお粗末であるかは、この自殺の統計からも明らかであり、一人でも安心して暮らせる社会、病気になっても安心して治療に専念できる社会を強く考えずにはいられない。誰でも、年を重ねていくのであり、老若男女が共同してつくりかえる力をつくりあげなければならない。


               三


 その「自殺」の統計の中で、60歳以上に次いで自殺率が増えているのが30歳代の自殺である。その動機は、うつ病、借金、仕事疲れ、職場の人間関係など、仕事にまつわることが引き金となっている。特に「ネット難民」「ワーキングプア」を生み出している派遣労働は、20代、30代の若者たちをやり場のない気持ちへとおいこみ死を選択させるという現実である。東京・秋葉原の無差別殺傷事件で逮捕された加藤智大容疑者も派遣社員であった。彼の行った行為は、絶対許されるものではないし、被害者及びその家族の方々の心情を思うと居たたまれない。犯行動機から事件の契機、いざ事件に向かう「実況中継」まで携帯サイトの掲示板に書き込んでいたので、加藤容疑者の行動は特異なものとして扱われぎみだがけっしてそうではない。龍谷大学の脇田滋教授は、インターネット上で「派遣労働者」の実態をこう指摘する。「歪んだ犯罪に走った犯人を正当化するわけではない。だが、今回の犯行に犯人の仕事の環境は大きく影響していると思う。日本の派遣労働者の現状の厳しさは、4つのキーワードがある。1つは、いつクビを切られるか分からない『雇用の不安』。2つめは、最低賃金ギリギリだったり、正社員に比べて各種手当てもつかない『差別』。3つめは正社員に名前も覚えてもらえなかったり、同じ派遣の人たちが仲間として受け入れてくれない、つまり人として対応してもらえないという『孤立』。4つめは仕事の提案をしたり、年休など権利に定められた休みを取ったりすると、生意気だと正社員にクビにされたり損害をこうむる『無権利』だ」。


                四


 この派遣労働の中でも日雇い派遣を、政府は原則禁止する法案を、秋の臨時国会に提出する意向を示している。日雇い派遣は、派遣会社に登録し、仕事があるときにだけメールで連絡を受け働くが、次の日に仕事があるのかもわからず、あっても違う場所で違う仕事につくことも多々あるというから明日の見通しさえままならない。当日交通費を使って仕事に行き、ドタキャンとなっても一切の保障もない。派遣労働とは、社会・労働保険、時間外労働、安全衛生、教育、労災補償、未払賃金の立替払い、団体交渉、雇用責任等について無権利の状態にあり、派遣元がうたっている賃金も表向きで、何かにつけて天引きされ、実際にもらえるのは5、6割だという実態である。最近では、大手派遣会社の偽装請負や二重派遣、そしてそれにまつわるいじめや暴力等の違法行為が次々と明らかになってきて、派遣労働見直しの声が大きくなっている。だが政府の今回の「日雇い派遣禁止」の見直しは、この実態に大きくメスを入れようというようなものではなく、①対象業務がはっきりしていないこと、②低賃金・無権利状態を解消できないこと、③派遣契約期間の規制があいまいなことなど問題ばかりである。日雇い派遣の禁止は当然であるが、人身売買のような派遣制度そのものの禁止こそするべきだ。86年に労働者派遣法が施行されるまでは、労働者を物のように扱う労働者供給事業を禁止していた。それが規制緩和と共に労働者派遣事業の業種制限を緩和し、原則自由化へと法改正を進めていったことにいまの問題性が表れている。若者は働けば働くほどばかばかしくなり、将来への希望も夢ももてなく、派遣会社の使い捨てとなっているのである。現在派遣労働者は、06年で321万人といわれているが、こうした実態にこそメスを入れ、派遣労働そのものを禁止し、正規雇用を原則とした労働のあり方を見直すことこそ重要である。いま若者は、正社員への可能性があったり、先が見通せて希望と夢のもてる環境なら、少なくとも理性を見失うことはないだろう。


               五


 グローバル社会、新自由主義の全面展開の中にあって殺伐とした社会に病む日本は高齢者、若者問わず自殺、格差、偽装、破壊の犠牲者を無限に生み出している。それに追い討ちをかけるように、原油高と食料価格の高騰、そして税の引き上げや福祉切り捨てなどこれはもはや一企業の問題というより、日本社会そのもののあり方の問題となっている。全漁連が、政府に対して今日(7月15日)燃料費高騰の対策を要求して約20万隻の漁船を休漁する闘いをつくり出す。韓国では、アメリカ産牛肉自由化反対闘争を学生、市民、宗教団体、労働組合、学者、文化人が共同して闘いをつくり出し、いまや、李明博政権を追い詰める全国民的闘いへと発展している。わたしたち人民の力が37周年を迎えたいま、殺伐とした社会、病む日本社会をつくりかえるために、生きる場から韓国民衆のように、人、ひとがつどう共同力をどのようにつくっていくのか問われている。生活の中からにじみでる思いを、共同力の創造へとつなげていかなければならない。