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社会主義考139 菅直人政治の明と暗 常岡雅雄



新成長主義を掲げて逆行し始めた民主党政治


求められる価値観の自己変革

脱「成長主義」と脱「アメリカ隷従」へ


 菅直人首相の6月11日の所信表明演説と18日の閣議決定「新成長戦略」によって、鳩山政権にかわった菅直人政権のめざす政治の姿が明らかになってきた。そこでまずは、6月11日の所信表明のなかで前向きと評価できるところに耳を傾けたい。

 まずは、貧しいサラリーマン家庭に育って市民運動に参加して「否定論理からは何も生まれない」「あきらめないで参加民主主義をめざす」という「参加型の民主主義」の信念をもって国政活動へと進んで、遂に、総理大臣にまでのぼりつめてきた自分自身の政治家としての出自を語りながら「真の国民主権の実現をめざす」として、菅首相は次のように語っている。

▼「私の基本的な政治理念は国民が政治に参加する真の国民主権の実現です。その原点は、政治学者である松下圭一先生に学んだ『市民自治の思想』です。従来、我が国では、行政を官僚が仕切る『官僚内閣制』の発想が支配してきました。」「(この)官僚主導の行政を変革しなければなりません。広く開かれた政党を介して、国民が積極的に参加し、国民の統治による国政を実現する。この目標に向け邁進いたします。」

 この誓いは、傲慢で腐敗堕落した自民党長期政権に対する国民の圧倒的反発の追い風を受けて新しい政権の座についた国政の最高責任者の誓約として前向きに評価されてよい。従って、菅民主党政権はその「市民自治の思想」「参加型の民主主義」「真の国民主権の実現」の実際の政治展開が厳しく問われていくことになる。

▼続いて具体的な「政策課題」のなかで、「改革の続行戦後行政の大掃除の本格実施」を「第1の政策課題」とするとして「無駄遣いの根絶と行政の見直し」「地域主権・郵政改革の推進」を強調している。

▼「閉塞状態の打破経済・財政・社会保障の一体的建て直し」を「第2の政策課題」にあげながら、その中で次のように語っていることは、前向きに受け止めながら、その具体化が厳しく注目されていかなければならない。

 「第1には『グリーン・イノべーション』には鳩山前首相が積極的に取り組まれ、2020年における温室効果ガスの25%削減目標を掲げた地球温暖化対策も含まれます。そのほかにも、生物多様性の維持や、人間に不可欠の『水』にかかわる産業など、期待される分野は数多く存在し、その向こうには巨大な需要が広がっています。運輸部門や生活関連部門、原子力産業を含むエネルギー部門、さらには、まちづくりの分野で新技術の開発や新事業の展開が期待されます。」(ここの「原子力産業」には私たちは賛成できない)

▼「第2には『ライフ・イノべーション』による健康大国の実現です。子育ての安心や老後の健康を願う思いに終着点はありません。こうした願いをかなえる処方箋を示すことが、新たな価値を生み、雇用をつくり出します。」

▼「農山漁村が生産、加工、流通までを一体的に担い、付加価値を創造することができれば、そこに雇用が生まれ、子供を産み育てる健全な地域社会が育まれます。農林水産業を地域の中核産業として発展させることにより、食糧自給率の向上も期待されます。特に、低炭素社会で新たな役割も期待される林業は、戦後植林された樹木が成長しており、路網整備等の支援により林業再生を期待できる好機にあります。戸別所得補償制度の導入を始めとする農林水産行政は、こうした観点に立って進めます。」

▼「地域の活性化に向け、真に必要な社会資本整備については、民間の知恵と資金を活用して戦略的に進めるとともに、意欲あふれる中小企業を応援します。」

▼「第6に『雇用・人材戦略』により、成長分野を担う人材の育成を推進します。少子高齢化に伴う労働人口の減少という制約を跳ね返すため、若者や女性、高齢者の就業率向上を目指します。さらに、非正規労働者の正規雇用化を含めた雇用の安定確保、産業構造の変化に対応した成長分野を中心とする実践的な能力育成の推進、ディーセント・ワーク、すなわち、人間らしい働きがいのある仕事の実現を目指します。女性の能力を発揮する機会を増やす環境を抜本的に整備し、『男女共同参画社会』の実現を推進します。」

▼「私は湯浅さんたちが提唱する『パーソナル・サポート』という考え方に深く共感しています。様々な要因で困窮している方々に対し、専門家であるパーソナル・サポーターが随時相談に応じ、制度や仕組みの『縦割り』を超え、必要な支援を個別的・継続的に提供するものです。(中略)『寄り添い・伴走型支援』であるパーソナル・サポート(中略)により、雇用に加え、障害者や高齢者などの福祉、人権擁護、さらに年間3万人を超える自殺対策の分野で、様々な関係機関や社会資源を結びつけ、支え合いのネット・ワークから誰一人として排除されることのない社会、すなわち、『一人ひとりを包摂する社会』の実現を目指します。」

 これらの政策への裏付けはあるのか。その実現が本当にできるか。そもそも、その政策遂行についての菅首相の政治意志がどこまで徹底しているのか。未だ未知数であるが、菅所信表明演説の中のこうした諸点については前向きに評価できる。


 許せない消費増税・法人税軽減・辺野古基地建設

 韓国哨戒艦沈没事件での菅政権の非理性政治


 他方、この菅首相「6・11所信表明」を受けて、その後6月18日に菅政権が閣議決定した「新成長戦略」の思想と政策に対しては全く評価できない。それの転換や打破を目指して厳しく闘っていくことが労働者民衆に求められる。

 第一には「強い経済」と「強い財政」の実現をめざすと称して打ち出してきた「法人税の引き下げ」と「消費税の10%への引き上げ」である。この二つの政策は「閉塞状況の打破経済・財政・社会保障の一体的建て直し」と菅首相自ら表明しているように菅「成長戦略」において「不可分の一体」をなす。すなわち、菅政権の「成長戦略」は(一)「消費税アップ」という「労働者民衆収奪の強化」と(二)「法人税引き下げ」という「独占資本優遇の強化」をもって国家財政の危機と経済の停滞、そして社会の閉塞状況を打破できると称して、その強行を固い覚悟をもって遂行しようとしているのである。

 菅民主党政権は、「市民運動出自の市民派政治家を首相」にすえた政権にふさわしく前向きの政策を掲げてはいる。しかし、それは実際には全面的でも徹底的でもなく部分的な改善策にとどまっている。しかも、それらさえ、その実現性はきわめて不確かである。

 その政策展開の根本的な価値観は「深い人間主義」にあるのでも「徹底した労働者民衆主義」にあるのでもない。「まず国家ありき」の「国家中心主義」と「まず独占資本ありき」の「独占資本中心主義」でしかない。

この「労働者民衆を苦しめ」「独占資本を助け喜ばせる」反人間的政策の遂行に「覚悟を決めて」打って出ようとしているところに、菅民主党政権が鳩山「末期政治」から更に大きく姿勢転換させて「逆行」政権へと転じはじめたことを見てとることができる。

 さらに第二には、鳩山政治が「アメリカの壁」と「官僚の抵抗」の前に「挫折した」結果としての普天間基地問題での「日米合意」を、さらに「日米同盟の深化」「日米同盟は国際的な共有財産」路線へとまでその意味を深化拡大させて、これまた、その路線展開を「覚悟を決めて」遂行しぬこうとする政治姿勢を固めていることである。菅民主党政権は「普天間基地の撤去!」「辺野古新規地建設を許さない!」を不屈に闘いぬいてきた沖縄の人々の当然で正当で人間的な叫びと願いに対して敢えて「響きあう心」も「聞く耳」ももたずの姿勢で対決して行こうとしているのである。

 この「日米同盟の深化」=「日米同盟は国際的共有財産」路線は、「韓国哨戒鑑沈没事件」での鳩山政権末期からの真相不明確なままでの日米韓「北朝鮮非難」合唱にも符合する。未だ真相不明にもかかわらず、そして「北朝鮮」説への強い疑問と真相解明の声が国際的にも様々な方面からあがっているにかかわらず、所信表明で「北朝鮮については、韓国哨戒艦沈没事件は許し難いものであり、韓国を全面的に支持しつつ、国際社会としてしっかり対処する必要があります」と一方的で独断的で非理性的な態度を露骨に明らかにした菅首相の政治姿勢には、菅民主党政権の国際政治が反動的で非理性的で帝国主義的な方向へと向いていっていることが如実に現れている。


 「調和と協調」国際主義と「自立自主と9条平和」主義へ


 国民の圧倒的な期待のもとに登場した新しい民主党政権でさえも急速に陥っていく逆行政治と、更にその民主党政権に交代能力ある政党の不在や政党分立という日本政治の混迷状況の真っ直中にあるとき、労働者民衆に求められることは、(一)「国民主義的」価値観と「成長主義的」価値観から国際「調和と協調」主義への転換と(二)「アメリカ隷従国家」主義から「自立自主と9条絶対平和」主義への価値観の自己変革その探求へと進路を大きく定めていく決意と生き方である。(10・07・01)