THE  POWER  OF  PEOPLE

 

起ち上がれ労働運動 篠崎浩和


尖閣諸島問題・沖縄反基地闘争・APEC反対闘争


ストライキで、街頭で闘う日本労働運動へ



歴史の歯車を逆転させる

反動的な「頑張れ日本!全国行動委員会」


 10月2日、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件をめぐり、「中国の尖閣諸島侵略糾弾」と銘打った集会やデモやチラシ配布が全国で一斉におこなわれたと言われる。行動を呼びかけ、主催したのは「頑張れ日本!全国行動委員会」(代表・田母神俊雄)なる組織で、東京会場では代々木公園で集会が行われ、その後のデモも含めて主催者発表で1500人が参加したと云う。ネットで配信されている画像を見るかぎり、「日の丸」が林立するデモの一団のなかに多くの若者たちの姿が見られる。

 「頑張れ日本!全国行動委員会」なる組織が結成されたのは今年2月。結成大会の「決議文」では天皇主義を色濃く打ち出し、「保守の立場にたった政治勢力の結集」と「機動的な国民運動を展開する全国規模の大衆組織をめざす」としている。急務の課題としては、「外国人地方参政権は、国家の主権や独立を脅かしかねない日本解体法案であり、断固とした法案阻止の戦いを全国展開する」という。そして自らを草の根(草莽)の国民であるとして、「全国の日本草莽よ崛起せよ」と呼びかけている。

 田母神俊雄を代表としていることから、軍国日本の侵略戦争を美化し、歴史の真実を歪めながら軍拡と核武装路線にたった「日本社会の変革」をめざしているであろうことは容易に想像がつく。「救国」を掲げた決起集会(今年6月)では、安倍晋三や平沼赳夫(たちあがれ日本・代表)など、多くの自民党保守反動の国会議員が顔を揃えて登壇している。

 外国人地方参政権を「日本解体法案」としてその阻止を前面に打ち出し、ナショナリズムを煽りながら政界再編を含めた保守反動の側からの「奪権闘争」のための組織なのである。しかもこの組織は街頭での直接行動を武器とし、全国に運動の拡大を図ろうとしている。強権的、金権的、官僚主義的に民衆を支配し、腐敗堕落して崩壊した自民党政治を、より右の側から復活させようとする行動を「草莽崛起」として呼びかけるなど、まさに茶番でしかない。この組織と運動を後押しする勢力は、反動的旧支配権力にこそほかならず、封建支配としての「徳川幕藩体制」を打倒した「草莽崛起」の革命性などは微塵もない。

 天皇主義につらぬかれ、排外主義と軍国主義を基調に歴史の歯車を逆にまわそうとする、こうした勢力の台頭を断じて許してはならない。

 しかし同時に、ナショナリズムに糾合されながら、こうした街頭行動に多くの若者たちが参加していることも事実である。将来に希望を見いだせない若者たちに対して、その不安を巧みに煽りながら保守反動の側が組織しようとしているのである。新たな排外主義の動きとして登場してきた「在特会」(在日特権を許さない市民の会)もそうであるが、増大する貧困と格差の拡大のなかで、雇用不安や身分不安をかかえ、職を失い職に就けない若者たちをナショナリズムと排外主義がとり込んでいこうとしている。


反動に対決し

新しい社会づくりのために起ち上がれ労働運動


 こうした危機の時代であるからこそ、私は労働者階級のひとりとして「労働運動よ、頑張れ」と叫びたい。

 すでに完全失業率は5%をはるかに超え、400万とも500万とも言われる人々が職に就くことができていない。さらに金融危機がはじまった2008年10月から今年12月までに、解雇や雇い止めで職を失う非正規社員が30万人と言われる。多くの労働者が職を失い、路頭に放りだされる現実のなかで、労働運動は一人ひとりの労働者に思いを寄せ、労働者にとっては「死刑宣告」にも等しい首切りをおこなう企業に、怒りをもって闘っていっただろうか。競争主義と職場専制支配につらぬかれた労働現場で、非人間的に働かされ続けている労働者のために、労働運動は闘いを組織しただろうか。労働者を非人間的に落とし込め、失業者を不可避的に生みだす資本主義社会と、天皇制的排外主義とナショナリズムをもって「戦争のできる国」日本へと国民統合をはかろうとする帝国主義的保守反動に対してこそ、労働運動は闘わなければならないはずである。一人ひとりの労働者を階級的に組織し、国家や民族をこえた階級的連帯と搾取され抑圧された労働者こそが社会の主人公となる、新しい社会づくりのためにこそ労働運動は起ち上がらなければならない。


沖縄の闘いを自分の闘いとする労働運動へ


 2010年「政治の秋」を迎え、その課題はいっそう鮮明になってくる。

米軍普天間基地の撤去をめぐり、沖縄の反基地闘争は11月28日の県知事選を頂点に熱く燃えていく。10月2日、宜野湾市長の伊波洋一氏は知事選出馬への決意を「保守県政下で失われた12年に終止符を打ち、新しい沖縄への挑戦をスタートさせる」とし、「県民によって明確に県内移設反対の結果を出し、アメリカ本国への移設実現を求めていく」と語った。そして尖閣諸島をめぐる対応では、「軍事的緊張を高めることはよくない」として、周辺諸島や沖縄への自衛隊の配備や増強の必要性を否定し、仲井真知事が南西諸島へ自衛隊を増強する国の方針に賛意を示しているのとは、明確に一線を画した。

 また、9月の選挙で辺野古への新基地建設に反対する勢力が圧勝した名護市議会では、日米共同声明の白紙撤回を求め「海にも陸にも新しい基地をつくらせない」との文言を入れた決議を、定例議会終了後に提出可決すると伝えられている。

 さらに沖縄県内で基地のない自治体の首長も行動を起こし、豊見城市、南風原町、与那原町、西原町、中城村の5市町村長が10月4日、「米軍基地の所在しない市町村連絡協議会」を発足させ、騒音などの被害に対して声をあげた。

 今年4月、9万人が読谷村へとつどって県民大会を成功させ、5月には普天間基地を「人間の鎖」で包囲し、沖縄民衆は島ぐるみで「辺野古に新基地はつくらせない」とする揺るぎない闘いと決意を示してきた。そのたたかいは県知事選を頂点にさらに燃え広がっていこうとしている。それは基地の固定・強化と構造的沖縄差別に対する沖縄民衆の怒りであり、「基地なき平和沖縄」への願いであり、「帝国主義アメリカへの隷従日本」という、戦後保守反動の道からの克服のためのたたかいである。そしてそれは日本の労働者・民衆一人ひとりの主体的な政治実践として切りひらかれていかなければならない。

 同時に労働運動は、労働者階級総体の「総がかりの政治行動」として、沖縄民衆のたたかいと思いを等しくして起ち上がらなければならない。社会の動脈であり、新しい歴史を切りひらく推進力としての労働運動こそが、その先頭に登場しなければならない。

 また「政治の秋」は反APECの闘いも大きな課題として労働者階級の前に突き出している。

 11月13、14日横浜でおこなわれる首脳会議を頂点に、貿易と投資の自由化をめざして具体的な協議がすでに始まっている。神奈川県警は8億円の予算をかけて警備訓練をおこない、横浜市では会場付近の住民約7000名を対象にして身分保障カードを配布したといわれる。APECがいかに民衆に敵対しているかを物語る。

 今回の協議の中心は「成長戦略」と「地域経済の統合」と「人間の安全保障」であるとされる。「成長戦略」は民主党政権も経済政策の柱にかかげ、大企業を代弁しながらAPECを通してリーダーシップを発揮し、アジア太平洋地域へのさらなる経済侵略をはかろうというものである。


アジア太平洋に「反資本主義労働者連帯」の旗を


 「成長戦略」に名をかりたグローバル資本の世界への拡大は、産業の空洞化を生み、国内の中小製造業を経営危機に追い込んできた。また合わせて労働市場をグローバルに拡大したことから、企業間、労働者間の熾烈な競争によって労働条件の悪化や不安定雇用や失業を急速に拡大してきた。それに対して国内やアジア太平洋地域で闘われる労働運動への弾圧も、APEC協議の重要な柱とされる。

 「破壊」と「格差」と「貧困」と「弾圧」をもたらす「成長戦略」と、それをアジア太平洋へと広げていく「地域経済の統合」に対してこそ、労働運動は対決しなければならない。アジア太平洋に労働者連帯の旗を高くかかげ、街頭でストライキで起ち上がらなければならない。

 社会を切りひらき、歴史を切りひらく自覚した階級としての主体を、いまこそつくり出していかなければならない。