THE  POWER  OF  PEOPLE

 

オスプレイの配備は戦争の戦略 小林栄一


戦争のための武器も基地もいらない


求められる絶対平和主義の実体化と

アメリカ隷従体制からの脱却


「新帝国主義」へと向かう野田政権


 会期を大幅に延長し、自民・公明を取り込んで消費税増税関連法案などを可決・成立させた通常国会は、9月8日の会期末を前に休会状態となった。民主党が衆院選挙制度関連法案と公債発行特例法案を、野党欠席のまま強引に衆院採決を行い、今国会での衆院解散・総選挙をめざしてきた自民党が8月29日、野党7会派が提出した問責決議にのって参議院本会議で可決したことなどがその要因である。

 野党各党は内閣提出の法案の審議には応じず、野田首相も内閣総辞職や今国会での衆院解散は行わないこととしたため、消費税関連法案成立に向けた民主・自民・公明の3党合意にいたる党首会談での「近いうちに信を問う」(衆院解散・総選挙を行う)は、10月召集が見込まれる臨時国会以降となった。

 そして、いまは9月10日告示、21日投開票の民主党代表選挙と、9月14日告示、26日投開票の自民党総裁選挙の「ダブル党首選」へと政局は移っている。明日(7日)正式に立候補を表明する民主党の野田首相の代表再選は確実視されている中で、乱立状態となりそうな自民党総裁選挙はふたを開けてみるまで誰が総裁になるかわからない。ただいえることは、衆院解散・総選挙が行われるまでは民主党政権が続くのであり、その代表が首相になる—すなわち野田佳彦政権が継続(内閣改造はあるであろうが)することがほぼ確定しているということである。

 その野田政権は9月2日、発足して1年を迎えた。庶民宰相、ドジョウ宰相と自己アピールして低姿勢で泥臭いイメージでスタートした野田首相。所信表明演説では「正心誠意」を強調したが、その実際は庶民の味方でも庶民の立場でも「正心誠意」でも決してなかった。その全てを列記することはできないが、主なものだけでも貧困者をさらに苦しめる消費税増税路線への転換と関連法案の可決・成立、「原子力規制委員会設置法」の衆院可決にあたっての「付則」における「原子力基本法」の根本的変質—「原子力の平和利用」から「核武装国家」への道を明確にした。

 また、福島原発崩壊から1年6ヶ月が過ぎたいまでも、放射能はいまだに垂れ流されているし、多くの避難者が故郷へ帰るあてはたっていないにもかかわらず、関西電力の大飯原発3号機、4号機の再稼働を認めた。福島原発崩壊をグローバル化する原発の海外輸出への道も開いた。

 そして、沖縄の普天間飛行場の「移設」に名を借りた、辺野古への米軍新基地建設のための環境影響評価(アセスメント)の評価書を、沖縄県民の反対を押し切って昨年末未明に沖縄県庁に運び込んだ。今また、沖縄県のみならず全国知事会や多くの国民が反対しているオスプレイの普天間配備を容認し、岩国基地への強行搬入を認めた。3年前に政権交代を実現した政権公約(マニフェスト)を次々と反故にし、遂には新帝国主義への道を歩み始めた野田政権。その野田政権がすすめる「(アメリカにとっての)日本の浮沈空母化」、沖縄普天間基地への戦争のためのオスプレイの配備を絶対に許してはならない。


戦争をまねくオスプレイ


 アメリカは去る7月23日朝、岩国の米軍基地に民間輸送船「グリーンリッジ」によって運ばれてきた垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機を陸揚げした。岩国の地元住民はもちろん、オスプレイ配備先の沖縄や多くの国民が反対し、抗議する声や行動を無視して、アメリカ隷従を深める野田民主党政権は、「オスプレイの配備は、事前協議の『装備の変更に』にあたらず、日本側から配備そのものについて口出しはできない」と言い逃れしてその搬入を認めたのである。

 私たちは、危険極まりないオスプレイの搬入を強行したアメリカと、それを容認した野田政権に強い怒りをもってその行いを糾す。そもそも、オスプレイはアメリカ国内でもその安全性が疑問視されている。オスプレイの開発期間は今年で30年になるそうだ。そして試作段階だけで「4回の墜落事故を起こし30人の死者を出した」という(「信濃毎日新聞」8月2日)。2007年からはイラク戦争などで実戦投入されたが、2010年にはアフガニスタンで墜落事故を起こし、今年4月にはモロッコで、6月にはフロリダで相次いで墜落事故を起こし多くの死傷者をだしている。

 ところが、「オスプレイの10月運用開始」を変えようとしないアメリカは、「オスプレイは安全だ」との「神話」をつくりあげ、4月のモロッコでの墜落事故は「強風と操縦ミスによるもの」との報告書をまとめ、6月のフロリダでの墜落事故も「先行機から受ける気流への対応を誤った操縦士らによる人為ミス」であり「機体に問題はなかった」との報告書を発表した。そして、日本政府は「米側調査を原則容認し、9月中旬にも国内の飛行を認める〝安全宣言〟を出す方向で調整に入ったという(「信濃毎日新聞」9月1日)。

 しかし、沖縄平和市民連絡会の真喜志好一氏によれば、「操縦ミスと追い風による墜落の危険性は、2003年に米国防総省に提出された報告書で予見されていた」のであり、ともに「転換モードでの墜落事故であった」ことなどをあげながら、「実用の飛行機としては完成することは永久にない飛行機」だとその欠陥性を指摘している(「オスプレイ配備の危険性」・七つ森書館)。また、アフガニスタンでの墜落事故も「操縦ミス」でかたづけられているが、それも「空軍上層部から、事故原因を操縦ミスとするよう圧力がかかった」からだという(同)。人が操縦する以上「人為的ミス」は想定したうえで、安全が確立されなければならない。地上60メートルから150メートルの超低空飛行訓練を日本の上空で行うオスプレイであってみれば、いかなる要因であれ墜落事故をおこしてはならないのである。風の影響を受けやすく、僅かな「人為的ミス」が大事故につながるのであれば、それもまた構造的欠陥にほかならない。

 また、防衛省は今年6月13日に、米軍が作成した文書を翻訳した「MV—22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー最終版(仮訳)」を沖縄県などに提出した。それによれば、「ピンク」「グリーン」「オレンジ」「ブルー」「イエロー」「パープル」の6ルートが設定され(さらに、「ブラウン・ルート」もあるという)、日本全国で超低空飛行訓練を行うというのだ(これらのルートはすでに今日まで戦闘機の訓練飛行などで使われていたが公式にアメリカが明らかにしたのは初めて)。

 世界一危険な普天間飛行場へのオスプレイの配備は、基地の縮小・廃止を願う沖縄県民の心と願いに逆行する普天間基地の固定化と、沖縄の軍事基地強化に他ならない。しっかも命の危険にさらされる沖縄県民への人権侵害であり著しい差別である。もちろん。オスプレイ配備は沖縄だけの問題では決して無い。まさに日本の問題であり、私たち一人ひとりの問題として提起されている。


アメリカの戦略に追従する野田政権

問われる隷米体制からの脱却


 沖縄普天間基地に配備される(そして岩国を始め日本の多くの基地に配備されるであろう)オスプレイは、「危険だから反対」ではない。仮に「安全性」が担保されたとしても絶対に認められない。

 アメリカは、財政危機のなかで軍事費などの削減を余儀なくされながら、その戦略を「アジア重視」へと切り替えてきた。「新しい帝国主義」として経済的にも軍事的にも世界第2の大国となった中国を視野にいれながら、アジア・太平洋にその覇権を確立しようとしている。経済的にはTPPを「アメリカのTPP」へと変質させてアジアでのイニシアチブを握ろうとしている。

 そして、オーストラリアに空母を寄港させ、韓国の済州島カンジョン村への米海軍基地建設、沖縄の辺野古への新基地建設や高江のヘリパッド建設などを、その戦略にもとづいて進めている。オスプレイ配備もその一環にほかならない。日本は、かつて中曽根が言った「アメリカの浮沈空母」へと向かっているのだ。森本敏防衛相がオスプレイに試乗して「想像以上に飛行が安定していた」「全体として市街地に大きな影響を与えないであろう」と述べているが、そんな次元では決してない。

沖縄は9月9日に「オスプレイ配備反対」の県民大会を開く。私も8月6日には長野駅頭で、「脱原発社会をめざそう」「核も基地も戦争もない社会の実現を」「オスプレイ配備は許さない」と仲間とともに声をあげ、チラシを配布した。隷米体制からの脱却は簡単に成し遂げられるものではないが、絶対平和主義を実体化し、自主・自立した日本をつくっていくために、ささやかであれ先ずは自らが行動し、小さな流れを創っていこうではないか。

(9月6日)