THE  POWER  OF  PEOPLE

 

オバマと国連 篠崎浩和


 国際社会と地球的課題への挑戦


 国連は人類の進歩と発展の道に立て


 アメリカのオバマ大統領が「単独行動主義」からの決別を宣言した。

 9月下旬、ニューヨークで開催された国連総会で就任後はじめての一般演説をおこない、「地球規模の課題」に挑戦するため、すべての加盟国が「責任を分かちあう時が来た」と呼びかけた。

 温暖化問題に象徴されるように地球環境の悪化や森林伐採などの環境破壊、多国籍化する金融独占の世界支配と貧困の増大、さらには地域紛争や核問題など、人類が直面している課題は日々グローバルに山積していっている。それは宇宙船「地球号」に乗り込んでいる私たち一人ひとりの問題でもある。国際社会が力を合わせ、人類の進歩と発展の道にたって、すなわち全人類的な理性の道にたって、その解決の方向を探り出してゆく以外に、この宇宙船「地球号」を死の漂流から救い出してゆくことはできない。

 またオバマ大統領は「アメリカの単独行動主義的な振る舞いが反米感情を呼び」「民主主義を押し付けようとした行為は行き過ぎだった」と前ブッシュ政権を批判した。そしてアメリカが世界の国々と力を合わせ、地球規模の課題に取り組んでゆく姿勢を強調し、「世界はもはや、単に待っているだけであってはならない」と行動への参加を呼びかけた。

 前ブッシュ政権は2003年3月、国連をはじめ国際社会の圧倒的反対を押し切って「イラク戦争」を開始した。国際法を無視し、「自衛のため」との詭弁を弄してイギリスや日本などの同盟国を力で従わせ、イラクを侵略した。国際社会は「アメリカ単独行動主義」との批判を強めたが、この非道極まりない暴挙を止めることはできなかった。冷戦体制の崩壊とともに一極支配を強めるアメリカに対して、国連も国際社会もそれを止める術を失っていた。また地球温暖化問題に対する国際的な枠組みを設定した「京都議定書」の批准や、NPT体制(核拡散防止条約)のなかで核保有国に突きつけられた核軍縮の大きな柱であるCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准にも、アメリカは背を向け続けてきた。

 国連の権威は失墜し、その機能は限りなく低下し、平和機構としての存在意義を失い地球的・人類的課題に対処してゆくことは、もはや国連には不可能ではないかと思わせた。

 国連は第2次大戦後、国際の平和と安全の維持を目的に、多国間主義にたつ平和機構として創設された。国連憲章は戦争を違法化し、自衛の場合を除くすべての武力行使を禁止している。しかしその国連憲章さえも有効に機能してはこなかった。冷戦時代は米・ソ両陣営の対立によって、国連は資本主義と現存社会主義(国家資本主義)のイデオロギーが衝突する場と化し、米・ソによる新たな帝国主義戦略にほんろうされていった。冷戦体制崩壊後は、一極支配を強めるアメリカによって国連の機能は無力化させられ、戦争や貧困や核拡散や環境破壊など、地球規模でひろがる人類的課題に、国連は有効に対処する術を失っていた。

 その瀕死の国連に、いま新しい息が吹き込まれたのである。


 国連を動かすオバマ大統領の情熱


 国連気候変動サミットの開会式で演説した日本の鳩山首相は、米中などの削減努力を前提に「90年比で25%」という20年までの日本の温室効果ガスの削減目標を打ち出し、「これは政権公約だ。政治の意思として、あらゆる政策を総動員して実現する」と国際社会に約束した。また中国の胡錦濤国家主席も、温室効果ガスの排出量を05年と比べ「大幅に減少させる」と述べ、20年を視野に新たな中期目標を打ち出す考えを初めて明確にした。

 中国はこれまで「先進国の努力が先決」という態度を崩さず、自国の取り組みについては明言してこなかった。しかし世界最大の温室効果ガスの排出量をもつ中国が、削減にむけて目標を明確にしてゆく姿勢を示したことは、京都議定書に続く今年12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)での合意にむけて、大きな一歩を踏み出したと言える。

 さらには国連安全保障理事会では、核軍縮・核不拡散をテーマにした初の首脳級会合が開催された。議長をつとめたのは、半年前のプラハ演説で「核のない世界」への行動を約束したオバマ大統領だった。

 全会一致で採択された決議では、核保有国の軍縮、包括的核実験禁止条約の発効、兵器用核分裂物質の生産禁止条約の交渉開始を促すとともに、朝鮮民主主義人民共和国とイランへの制裁決議も再確認された。核保有国でもあり、安保理で拒否権をもつ5常任理事国のすべての首脳が出席し、「核廃絶」への行動を約束した意義はきわめて大きい。鳩山首相は演説の冒頭で「世界の指導者にぜひ広島、長崎を訪れて核兵器の悲惨さを心に刻んでほしい」と呼びかけた。

 プラハ演説に端を発したオバマ大統領の「核なき世界」に向けた情熱と行動が、国連の場でも国際社会を大きく動かしはじめたのである。


 資本主義の転換と農主工副路線へ


 国際社会が国連を舞台に人類的課題の解決に向けて、取り組みを開始したことを歓迎したい。大国の思惑にほんろうされ、「おしゃべりの場」でしかなかった国連が、行動する国連として、人類がかかえたさまざまな問題の解決に向けて、英知をしぼって挑戦してゆく道に立つことを心から期待した。

同時に国連の限界もハッキリとしている。

 それぞれの国が国家の利益と資本主義の利益を追い求めながら、経済成長優先の基本戦略の延長線上でしか、問題の解決に対処することができないからである。

 たとえば地球温暖化問題の取り組みに対しても、銀行や年金基金などでつくる投資家グループは、国連環境計画とともに独自の温暖化対策を打ち出したが、それは投資先を温暖化被害から守ることによって、地域での自らの投機と資本を保護し、その投機と資本によって新たな開発(破壊)を推し進めようとする観点でしかない。まさに資本のための温暖化対策なのである。

 アメリカもオバマ大統領がめざす地球温暖化対策法が、下院は通過したものの、企業の反発などによって上院での可決は難しい情勢といわれる。

 また国連総会と合わせておこなわれたG20サミットは、アメリカが巨額の借金をくり返しながら消費と投資を続け、一方でたまったカネをアメリカに貸し込んできた中国と日本といった、現下の世界経済の「不均衡」の問題が取り上げられただけで、その根っこにある資本主義のグローバル化と、多国籍化した金融独占資本の世界支配と、資本主義の原理主義である新自由主義の暴走については何も語られず、そのもとで日々進行している失業や生活破壊に対しても、国際社会としての取り組みを話し合うことはなかった。

 中国や日本や新興国の内需を拡大し、さらなる経済成長路線を突きすすむ道が、「持続可能な経済の枠組み」であろうはずがない。それこそ資本の膨張と投機を加速させ、地球環境と労働と生活を破壊する道でしかない。

 労働する人間を支配・搾取し、労働した成果を収奪する資本主義のグローバル化こそを阻止し、資本主義社会そのものを変えてゆかなければならない。

 地球温暖化問題に象徴されるように、地球環境を守るだけではなく、さらに人類が自然を豊かに創造してゆくために、産業構造そのものを転換してゆかなければならない。それこそが「農主工副」路線である。

 国連をはじめ新たな転換点にたった国際社会のとりくみが、こうした方向に大きく舵を切ってゆくように、私たちはさらに努力してゆかなければならない。