THE  POWER  OF  PEOPLE

 

農業再生への道  島田英希


21世紀世界を農主工副への大転換の時代へ



(一)アメリカを変え

世界を変えるオバマ新政権に期待する


 「オバマ讃歌」(前号・巻頭言)と謳うように、オバマ新大統領が誕生した。それは奴隷解放令以降100年余の苦難なたたかいの歴史のうえに出現した黒人初のアメリカ最高指導者の誕生である。アフリカも中南米も、ヨーロッパも、そしてアジアも、全世界が「変化」・「約束」・「希望」を熱く語るオバマ新大統領の就任演説に熱く注目し耳をかたむけた。それはアメリカの転換、世界の転換への「夢」を強く抱かせるものであった。

 新政権発足から一週間、その「変化」への第一歩がはじまった。オバマ新大統領がまず最初にあきらかにしたのが、イラクからの撤収と悪名高きグァンタナモ収容施設の閉鎖・テロ容疑者への過酷な尋問の禁止である。それは「ブッシュの戦争」の幕引きを真っ先に着手し、新時代の幕あけを世界に告げるものである。

 さらに注目すべきことは、「経済の発展に支障をおよぼす」として京都議定書から離脱したブッシュ前政権とは異なり、地球温暖化対策でも一転して積極的な姿勢を示している。その具体的な政策が省エネ・排ガス規制であり、目下の経済危機下のもとで提唱したグリーン・ニューディール構想である。

 日々にすすむ地球温暖化。それは地球と人類の危機を象徴するものである。その世界最大の温室ガス排出国アメリカ。その大国アメリカが、「京都議定書」など世界の地球温暖化防止対策の流れに逆行する恥ずべき役割を果たしてきた。しかしいまその大国アメリカは変わろうとしている。オバマ新政権のもとに、この地球的大問題である地球温暖化対策に積極的なとりくみ姿勢を示している。このことは21世紀人類世界に大きな「変化」を予感させる画期的な意義をもつものである。

 オバマ新大統領が就任したその“晴れの日” にアメリカでは解雇旋風が吹き荒れた。500万人の解雇が予想され、昨12月の7・2%の失業率も二ケタに迫ると予測されている。

 オバマ新政権の前途は厳しく難題も山積している。いまその歩みをはじめたばかりである。その「果実」は、その「変革」への永い道程のなかで生みだされてくるものであろう。

 自ら掲げる「理性」と「変革」への意志はアメリカを変え、世界を創り変えてゆくことを期待して止まない。


(二)農業を破壊するWTOから脱却し、

新世紀を世界の風土に密着した多様な農業の再生と創造への道へ


 日本と世界農業のゆくえを大きく左右するものが、WTO(世界貿易機構)交渉である。開発支援を目的にドーハラウンドとして立ちあげたWTO交渉はすでに8年目に入り、いまだ対立と決裂のままの状態にある。合意を砕いているのは二大新興国といわれている中国とインド。米国の狙うその巨大市場開放に「国益」をかけて抵抗し一歩も譲らない。まさに弱肉強食(市場原理)の妥協なき対立にほかならない。

 このことは、「成長」する二大新興国などの台頭によって、「超大国のアメリカでさえ痛みなしに合意できない」状況になってきていることを象徴的に示すものであり、アメリカの体制であるWTOがその根本からゆらぎはじめていることを意味する。

 WTOとはポスト冷戦の新しい世界が生みだしたアメリカの体制であり、新自由主義の道にたった巨大独占資本の体制にほかならない。それは市場原理を農業分野にも押しつけ、世界の先住民や小規模農業を滅ぼしてゆく大国の侵略的な本質をもつものである。

 日本はもとより隣の韓国でも、またタイなどアジア諸国もこのWTOのもとで農民は苦しめられ、農業は破壊されてきた。だからこそWTOへの世界農民の怒りは深く激しい。その怒りはいまから10年前(1999年12月)シアトルで爆発した。国境をこえて結集した10万余の農民・労働者のデモがシアトルの街を埋めつくし、WTO会場を幾重にも包囲した。それはまさに「現代の百姓一揆」と言われるものであった。

 その闘いの波は2003年10月のメキシコ・カンクンでの2万余の抗議行動に繋がってゆく。その主役はアメリカの侵略的な農業に痛めつけられているメキシコ先住民であった。またこのカンクン闘争で韓国農民イ・ギオン氏が生命をかけてWTOへの抗議自殺したことは記憶に新しい。

 さらに2年後(2005年秋)の香港での反WTOの闘い。この香港闘争で中心的な役割を果たしたのが韓国農民であった。海を渡って結集した1000人余の韓国農民は、地面にひざまずいて拝むという韓国農民が生みだした「三歩一拝」の抗議デモを整然と展開し、香港市民に大きな感動と影響を与えた。

 シアトルから始まる反WTO・反グローバリゼイションの闘いは、(1)人間の理性にたつ徹底した非暴力主義を貫くものであり、(2)WTOからの脱却・反グローバリゼイションの道にたち、破壊から農業の新たな再生と創造をかけた世界農民の決死の闘いにほかならなかった。

 WTOには農業の未来はない。いま日本も世界も、WTOから脱却して各々の地域の風土に根ざした多様な農業の共存と創造への道を探求すべき新しい時代にむかわなければならない。

世界の農業と食糧に大きな力と影響力をもつアメリカ。新たに誕生したオバマ新政権が、人類世界のあり方が根本から問われるこの農業問題に対してどのような姿勢と対策をとるのか。「農主工副」の新しい人類世界の創造へと大きく転換してゆくことを期待したい。


(三)株式会社の農業参入を許すな!

いま一度、農地法の精神と大原則を蘇えらせよう


 日本農業の現実に眼をむけよう。破壊され衰退する日本農業のなかで、いま最も注目し、厳しく批判してその克服をはかってゆかなければならない問題は、株式会社(企業)の農業への参入である。

 昨年12月、農水省は「農地改革プラン」を発表し、それに基づき今国会で農地法などの改正案を提出する。その改正案の目玉は株式会社の農業参入をさらに大幅に緩和しよとするのもである。いかに「厳格なチェック体制」をその条件にしようとも、それは株式会社の農地「所有」の原則自由化に道を開くものとなる。

 ふりかえって見ると株式会社の農業への参入は、(1)深刻化する農業の担い手不足(2)広がる耕作放棄地などを背景に農地法の規制を緩和してきた。そして1999年制定した新農基法では、「多様な担い手の育成」と称して「株式会社の農業参入」への道を開いた。

 昨年5月に発行された「食料・農業・農村白書」(平成20年度版)によると、リース方式の全国展開をはかった2005年以降、株式会社の農業参入は急速に増加し、2004年に比べて2008年では約4倍に増加していると公表している。

 急増する株式会社の農業への参入。高齢化がすすむ農業構造。こうした背景のもとにいま提案されている株式会社の農業参入への大幅緩和。このまま事態がすすむならば、食料を育む農地は農地でなくなる。農地がなくなれば百姓も消える。農地は「企業の価値」へと変質する。それはまさに日本農業の死滅を意味する。

 戦後の歴史をふりかえってみよう。「耕す者に農地を」のもとに戦後の農地解放が行われた。それは農民に明日への希望を与えるものであった。農民は農地を大切に耕し、農業技術と生産性を高め、日本の風土にあった自然循環型の小規模家族農業を豊かに発展させてきた。

 そこには「農地は農民のために耕作されてこそ価値をうみだす」とする農地を大切にする「耕作者主義」の精神と大原則が貫かれていた。こうした日本農業の世界に誇れる精神と大原則とがいま骨抜きにされ解体されようとしている。株式会社の農業への参入を許してはならない。厳しい規制を加え、いま一度農地法の精神と原則を蘇らせなければならない。

 いま国が成すべきことは金融資本への支援ではけっしてない。社会(国)の根幹である農業へこそその血税(公的支援)をそそぎこまなければならない。そのことによって世界に誇れる日本の小規模家族農業を蘇らせ、日本農業の新しい再生の道をすすむことができる。農業の永い道程をかけた社会構造の創り変えである。

 そして、それは「農主工副」の新時代の創造への道である。

                         (1月30日)