THE  POWER  OF  PEOPLE

 

「反省とお詫び」のあり方を問い続ける後藤正次


理性とヒューマニズムに生きようとする人々の

「美しさと清々しさ」に共鳴して生きる


 隣の国、韓国では、暴虐の限りをし尽くした日本の植民地時代に対する今日までの日本の「反省とお詫び」に対して、「それが反省の姿勢なのか」「それがお詫びのし方なのか」と問い続けてきた人々の闘いが、韓国内の裁判所や政府そして企業をも動かし始めた。

 「日本の反省とお詫び」に対して「人としてのあり方としてそれで良いのか」と訴え続ける韓国の人々の「声」や「行い」は、その人々の高齢化や、日米韓の共同軍事行動や、経済成長至上主義の資本財界の風圧に、ともすればかき消されてしまいそうになりながらも、天皇制日本によって虐げられた韓国の人々の胸の奥底の琴線に共振して、今、韓国でうねりを起こしている。

 「虐げられた人々」「傷つけられた人々」「辱められた人々」が、その元凶であった者たちの、「ごまかし」や「いなおり」や「すりぬけ」を許しておくことは、人間の社会に求められているはずの「理性とヒューマニズム」に反することになり、そればかりか反理性、反ヒューマニズムに加担してしまうことになるという「思い」がそこにある。

 それは「理性とヒューマニズム」の普遍性を追い求めていく人類の歴史をまっとうな方向に向かわせようとする力なのだ。そのうねりは「理性とヒューマニズム社会主義」への道に通ずる石積みであり敷石の一つなのだと心底思える。そしてそれは塗炭の苦しみの中にあっても決してあきらめない人々の根性によって生み出されている。

 私たち「人民の力」はその塗炭の苦しみの中でも決してあきらめない人々と共にありたいと思うし、苦しみの中にある「美しさと清々しさ」を感じとることができる人間でありたいと思う。


「居直りは許さない」と

三菱女子勤労挺身隊の賠償請求権は有効と韓国最高裁が判決


 その韓国内のうねりの一つが、日本の植民地時代に強制連行された元徴用工の女性たちが三菱重工業と新日本製鉄に損害賠償を求めた韓国内の訴訟の上告審判決で、韓国の最高裁が「個人の賠償請求権は消滅しておらず有効」との判断を初めて示した(5月24日)というニュースである。

 この三菱重工・新日鉄の元徴用工の女性たちの闘いは「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟」として日本でも99年に提訴され9年に渡って裁判で争われた。私たち「人民の力」も東海の同志たちが、その闘いの支援の一員として加わり、裁判の動向や品川駅前・三菱重工本社前の街宣行動などの闘いを幾度となく本誌にも報告してくれたが、日本での裁判は、個人の請求権を意図的に消滅させた1965年の「日韓請求権協定」を根拠に、2008年に最高裁によって退けられてしまっている。日本の裁判所は、「人倫にもとる不当行為が行われた」と述べ、原告の勤労挺身隊ハルモニ(おばあさん)たちの青春を踏みにじり人権を蹂躙したことや人道的責任があることを認めておきながら、「協定により個人の請求権は消滅している」として切って捨てたのである。

 この裁判の過程では、当該のハルモニや韓国民衆の怒りの炎に油を注ぐことになったいわゆる「99円問題」も発生した。裁判の過程で解決の糸口を見つけるために、当時彼女たちが実際に働いていた証としての年金記録を調査した折に、一部の年金記録が見つかり、彼女たちの就労の事実が認定されたのであるが、日本の社会保険庁は、最高裁の棄却判決後の2009年11月に彼女たちに「厚生年金脱退手当金通知書」を送付した。その金額が「99円」だったのである。1945年当時の月額報酬を200円と認定し、これに基づいて算定した結果、脱退手当金は「99円」だというのである。

 この侮辱的な金額は、韓国内の民衆の憤激を呼び、韓国内マスコミも総動員でこれを報じ、「人としてそれで良いのか」と、天皇制日本によって虐げられた人々の琴線を大きく共振させたのである。ハルモニたちは戦時中に日本に行っていたことを理由に、日本の協力者であったとか、性的純潔を失った女性ではないかなどなどのレッテルを張られ、ともすれば白眼視されていた状況であったが、この「99円問題」と「最高裁棄却判決」に対して、韓国内で13万5000名もの市民の怒りの署名が集まった。最高裁の不当判決から2年経過した2010年にその署名を携えて三歩一拝の行進でハルモニと支援者たちは三菱重工に迫り、最高裁判決がありながらも三菱重工に「話し合いに応ずる」と言わしめるところに現在来ている。しかし、その話し合いはなかなか進展していないという。


企業も戦争被害者救済の支援金拠出を決めた韓国


 日本のそうした状況を充分に認識しながら、韓国最高裁は「日本の判決は植民地支配が合法との前提で出されたもので、強制連行を違法とする韓国の憲法の核心的価値と真っ向から対立する」として「個人の請求権は消滅していない」との判断を示したのである。

 韓国政府は今日まで、戦時性暴力被害者のいわゆる「従軍慰安婦」と「サハリン残留韓国人」そして「韓国人被爆者」の問題は、請求権協定の対象外であるが、強制徴用の被害補償は協定による日本からの経済協力に含まれており請求権は消滅しているとの見解であったが、虐げられた人々の非痛な叫びに突き動かされた韓国最高裁は、「消滅していない」と言い切ったのである。

 この判決が確定した場合、三菱などのいわゆる被告企業側の韓国内の財産を差し押さえることも可能になるという。この韓国最高裁の判断を受けて、三菱重工業の軍需工場などで働いた元朝鮮女子勤労挺身隊の韓国女性ら9人が三菱重工業を相手取って訴訟を起こす方針であると伝えられている。

 さらには、韓国鉄鋼界の最大大手企業であるポスコが、日本の植民地時代に強制徴用された被害者支援のために、韓国政府主導で設立される財団に100億ウォン(約7億円)を提供することが5月25日に報道された。韓国では昨年、強制徴用された被害者を支援する特別法が成立しておりそれに基づき財団を設置するが、その財団にポスコが支援金を出すというのである。

 ポスコは日本に強制徴用された人々によって慰謝料を求めた裁判を起こされた経緯がある。1965年の日韓請求権協定に基づいて日本が行った経済協力の資金を韓国政府が被害者に分配せずに経済成長のために使うなどという名目でポスコなどに回してしまったとして慰謝料を求められたのだ。2009年に結審をしてポスコは勝訴しているが、今次、そのポスコが支援金を拠出することを決定したのである。いうなればポスコは虐げられた側の立場で三菱重工に「反省とお詫び」のあり方を突き付けているのである。


国を超えて被害者たちと共に闘う人たちに学んでいく


 白眼視されられながらも、辛抱強く闘い続けた人々が、ようやく韓国社会を動かし始めている。そして「いなおり」や「すりぬけ」でことを済まそうとしている日本「国家」がその前に横たわっている。そんな日本の中にも国を超えて韓国の人々に寄りそい、ともすれば折れそうになる被害者たちを支える人たちがいる。名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟でも彼女たちの問題を取り上げたのは、日本の愛知の市民グループであった。彼らは「女子勤労挺身隊が働いていた三菱道徳工場跡地にある『東南海地震被害者の慰霊碑』に日本人被害者の名前だけが刻まれているのはおかしい、なぜ朝鮮女子勤労挺身隊員たちの名前がないのか」という疑問から、様々なつてを辿って韓国在住の元挺身隊員たちを一人づつ探し出す取り組みから始めたという。

 その「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会」の総会が去る3月18日に開催されたが、その総会資料を東海の同志が送ってくれた。そこには韓国の「勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会」が連帯の挨拶文を寄せている。それにはこう書かれていた。

 「・・私たちは『名古屋の訴訟を支援する会』に出会うまで、日本に対する根深い不信と敵対感を持っていました。しかし私たちは『名古屋の訴訟を支援する会』の会員を通じて初めて私たちの知らなかった日本の姿を見ることになりました。反戦、平和、人権の価値の前では、国籍や国境などは大きい障壁になりませんでした。皆さんが夢見る世の中と、私たちが見る世の中が決して違わないことを私たちは知ることになったのです。・・・何の縁故も無く、温かいご飯一杯すら接待してくれる人のいない光州まで訪ねて来られた・・(皆さんは)ハルモニたちの心を慰めてくれただけでなく、海を渡って光州にいる私たちの目をハッキリ開かせてくれました。そして私たちが未来に向かって走っていけるようにして下さいました」と。

 あらためて「自分のこと」として考え「行い」をする人たちと共に進む「自分」でありたいと思う。

(6月2日)