THE  POWER  OF  PEOPLE

 

JR1047名採用差別事件 池田晴男


鳩山政権は与党案を受け入れ

今こそ政治の責任での解決を決断すべき!


 1047名採用差別事件を闘っている国労闘争団は、この2010年4月1日をかつてない思いで迎えた。採用差別との闘いを「23年のうちに解決を!」と位置づけながらも実現せず、24年目へと踏み込んでいるからである。2度目の解雇となる1990年4月1日の国鉄清算事業団解雇からでも丸20年を経過することとなった。闘い続けて23年。かくも長きにわたっているJR採用差別事件であるが、直近の状況は、3月18日の与党3党と公明党による政府への解決案提出によって、政治の責任で解決をはかるべき段階へと到達している。

 与党3党と公明党による解決案の内容は、一人平均2406万5千円の和解金、JRへの200名の雇用を含む総額228億9900万円プラス雇用助成金相当額となっているが、官僚や一部の政治家の抵抗もあり4月3日現在、政府内での調整はついていない。

 政治が採用差別事件の責任を自覚し、政治の責任で解決を果たそうとしていることは、遅すぎたとは言え当然のことであり、今日までの闘いの大きな成果である。


 1047名採用差別は国家的不当労働行為である


 国鉄分割・民営化とは、単に国有鉄道という一国有企業体の経営改革の問題ではなかった。

 国鉄解体攻撃の真の狙いは、「国労をつぶせば総評がつぶれるとの狙いを持って分割・民営化を推進した」と臆面もなく語る中曽根元首相の言葉にすべてが言い表されている。強行された分割・民営化とは、国鉄労働組合や国鉄労働者にとっては、時の自民党中曽根政権による団結権や生存権を否定し闘う労働組合を解体しようとする体制側の総体重をかけた攻撃としてあった。

 言うならば、企業や国の政策に反対し異議を唱える労働組合、労働者を、立法、行政、さらに司法も加わって解体・排除しようとしたのが国鉄分割・民営化における国労つぶし攻撃なのであった。

 1986年11月に強行成立した国鉄改革法策定に当たっては、現職裁判官をメンバーに加えて労働組合つぶしやレッドパージを可能とする仕掛けをもたせた。どのように不当労働行為を働いてもJRに責任追及が及ばないよう不当労働行為を免罪する抜け道を改革法23条として加えたのである。この悪名高い改革法23条こそ、「国鉄方式の首切り」策としてその後の民間企業における労働組合対策にまで悪用されることとなった。

 われわれが国鉄解体攻撃を体制側の戦略的攻撃と位置づけたのは、国労つぶし攻撃がそのような国家の意志と行為によって貫かれていたからである。

時の中曽根政権の意志をバックにした国鉄当局による国鉄からの追い出し攻撃は、国鉄労働者一人ひとりに対して、職場や地域、果ては家庭の中にまで入り込んで執拗におこなわれた。

 その結果、1987年2月16日までの一年の間に実に7万6千人を超える国鉄労働者が国鉄改革の名の下に鉄道の職場を追われ、あるいは清算事業団送りとなったのである。この大リストラを可能にしたのは、連日繰り返されたマスコミによる反国労キャンペーンであり、職場の内外を問わず陰湿に繰り返された国労や全動労に対する差別・選別・脅しをもちいた脱退工作であった。その人間性まで否定する苛烈な労働者攻撃の中で、実に200名を超える国鉄労働者が自ら命を絶っていったのである。

 国鉄分割・民営化攻撃のなかで労働組合に問われたのは、体制側の攻撃に屈し労働者を犠牲にして権力の意図に加担する道を選ぶのか、それとも抵抗し闘う道に立つのかという、最も大切な労働組合としての存在意味にかかわるものであった。

 嵐のような組織破壊攻撃の中で国労は、苦しくとも不当に首を切られた組合員を守り、解雇撤回と団結権の回復を求めて闘う道を選んだ。1990年4月以降、全国36カ所に闘争団を組織し、解雇撤回・JR復帰の闘いを全国的につくり出すためのオルグ体制を確立した。闘争団は全国連絡会議を組織し、今日まで107次に渡る上京行動を取り組み政治の責任での早期解決を訴え続けてきた。JR内では、少数になりながらも国労組織を守り抜いてきた組合員が、差別や不当な配転、恫喝の中でも闘争団を支援し共に闘い続けてきたのである。

 丸20年の歳月を積み重ねてきた解雇撤回闘争であるがすでに53名の闘争団員を失った。当事者1047名全体では61名もの仲間が解決の日を迎えることなく他界している。このように多くの犠牲と長い歳月を費やしながらも、国労闘争団を始め1047名の当事者と国労、全動労などは司法の場での責任追及も合わせて政治の責任での解決を強く求め続けてきたのである。


 与党3党と公明党の「和解案」が示す政治の責任


 3月18日、民主党、社民党、国民新党の与党3党と公明党が政府に対して示した雇用・年金・解決金を含む「和解案」は、そのような政治の責任を意識し、当事者の今日までの思いに応えようとした内容となっている。新聞などが伝える与党3党と公明党がまとめた「和解案」の付属文書は、政府には出さなかったとはいえ次に記すように、時の自民党中曽根政権と国鉄当局が行った不当労働行為を真っ向から断罪するものであった。

 ①国鉄改革の過程で、国鉄によって国労組合員らにあからさまなJRへの採用差別がなされた。②前代未聞の規模の国鉄の不当労働行為が救済されない原因は国鉄改革法23条の仕組みにある。③23条が採用名簿作成は国鉄、採用行為はJRと権限を分けたため国鉄はほしいままに権限を行使、不採用とした。④裁判所が認めた損害は微々たるもので、採用差別を償うには程遠い。⑤法律を提案した内閣、可決した立法府、権限行使を指導しなかった行政当局に責任がある。⑥問題解決は政治解決でしかなしえない。

 与党と公明党の「和解案」提示を受けて国労は、「本解決案は、この間私たちが求めてきた『雇用・年金・解決金』を柱とする具体的要求を満たす内容といえるものであり、国労は『4者・4団体』とともに本解決案を真摯に受け止め、政治的に和解できる内容であることを評価する」との声明を発表した。

 参議院では社民党・又市征治副党首が政府に向かって「政治が犯した過ちは、政治が是正すべき」と要求したし、多くのマスコミ報道も政治解決を求めた。救済にあたって「法律の壁があるなら、法律をつくった政治の力で救済するしかない」(信濃毎日新聞)など、国会の内外から「政治はその責任を果たすべき」との声が急速に高まってきてもいる。

 にもかかわらず、年度内に政府案は示されなかった。ここに来て、政治解決への道のりは「抵抗勢力」の巻きかえしもあって混沌としているのである。解決水準を引き下げようとの働きかけも活発だという。JR会社だけではなく、一部の政治家や国交省、財務省の官僚の抵抗も根強い。さらには、1047名採用差別事件を「労・労問題」だとして政治が責任を取ることを阻もうとする動きも強まっている。

 与党案が示されて以降、解決に対する抵抗や妨害が激しくなっている背景には、「和解案」をとりまとめるにあたっての裏付けともなっている「付属文書」が国労や国鉄労働者の闘いに正当性を与えるからでもある。


 鳩山政権は毅然として政治の責任を果たすべき


 しかし、どのような抵抗をもってしても、「政治が責任を果たすべき!」との声を押しとどめることはできない。

 国労解体攻撃は、明確な政治的意図を持って行われた攻撃である。それゆえ政治の責任での解決を求め続けてきたのであるが、時には政治解決が政治依存に傾き、その時々の政治の動きに翻弄されてきたことも否めない。政治に責任を果たさせることと政治依存とは違うことをわれわれはしっかり自覚しなければならない。その上で、これ以上政治の都合によって解決を遅らせないためにも、あらためて「和解案」の付属文書が断罪するように、政治の責任をあらゆる場で明確にしなければならない。

 解決を妨害する勢力は国家的不当労働行為によってなしえた「成果」の上でしか国鉄改革を語ることができない。彼らには、一片の正義も正当性もない。国鉄分割・民営化から23年を経て、分割・民営化を推進した彼らの土台が政治解決の進展によって揺らぐことを恐れての抵抗であり、政治解決に向けた動きはそのことをますます明確にしつつある。

 民主党・社民党・国民新党の3党連立により誕生した鳩山連立政権は、生活と雇用を破壊され使い捨て同様の扱いを受けてきた非正規労働者のかつてない怒りを背景とし、小泉構造改革以降の規制緩和路線がもたらした格差の拡大と自公政権に対する全国民的な怒りの現れの結果として登場してきた。

 鳩山連立政権には、自民党政権によって奪われ形骸化された働く者の権利と踏みにじられた民主主義を回復させることが求められている。与党3党と公明党が政治の責任を認め、政治の責任での解決を提示した今、鳩山政権は躊躇することなく与党案を受け入れ、毅然として政治の責任での解決を決断すべきなのである。(4月3日)