THE  POWER  OF  PEOPLE

 

社会主義考165「竹島と尖閣諸島」問題常岡雅雄


「非武装」「非暴力」「戦争放棄」の「9条国家」

その創造の「心と力」は「普通の人々」こそ持っている

「国民主義」を打ち砕く「民衆主義」を


(一)国民主義の波浪いよいよ高し—東アジア三国


記録的な酷暑のつづく8月—いよいよ、東アジアの波高し。

韓国・中国・日本という東アジア三国が掻きたてる8月の波浪をざっと拾ってみよう。


(イ)国民主義の争闘を深める日韓関係


(1)野田民主党政権が閣議決定(7月31日)した『二〇一二年版防衛白書』(森本敏防衛相)が「竹島」(韓国名・)を「わが国固有の領土」と明記したことに対して、韓国外交通商部は7月31日、「竹島」は「歴史的、地理的、国際法的にも私たち固有の領土」であり「日本のいかなる領有権主張も決して容認しない」—日本に対して「強力に抗議し、直ちに是正を求める」という報道官声明を発した。

(2)8月9日の読売新聞が次のように伝えている—韓国が占拠する竹島の上空が、韓国の軍事訓練空域に指定されていることが外務省や海上保安庁への取材でわかった。外務省は今年に入って「我が国固有の領土である竹島に、韓国が軍事訓練空域などを設定できない」として、韓国政府に指定取り消しを要求しているが、韓国は拒否しているという。(中略)韓国は今月中旬にも、竹島近海で陸海空軍と海洋警察の合同訓練を計画している

(3)同じく同日の読売新聞によれば玄葉外相は8日の記者会見で、韓国政府が7月発行の2012年版の外交白書で竹島を韓国の領土と記述したことに対し、外務省として抗議したことを明らかにした。

(4)8月10日、韓国の大統領は専用ヘリで「竹島」を訪問し、竹島に常駐する警備隊員らに「独島は私たちの領土であり、命をささげて守る価値がある」と述べ、実行支配を国内外にアピールした。(東京新聞8月11日)

(5)韓国大使に外相が抗議首相「極めて遺憾」「毅然とした対応を取っていかなければならない」日本政府は強く抗議するため、武藤正敏駐韓大使を帰国させた(前同)

(6)日本政府は8月17日、李明博大統領の「竹島」上陸への対抗措置として、日韓両国による国際司法裁判所(ICJ)への共同付託を韓国に提案した。これに対して韓国政府の当局者は「独島は紛争地域ではなく明々白々な韓国領土。訴訟に応じる義務も必要もない」と韓国政府の立場を、玄葉外相の11日の「提訴検討表明」時点で、すでに強調していた(東京新聞、8月11日)。

(7)韓国政府与党セヌリ党は、日本政府の提訴検討の動きに対して「ICJ提訴は居直り」と反発して日本政府のICJ提訴をけん制した。そしてセヌリ党報道官は「日本は残酷な植民地支配に真の反省どころか、根拠のない領有権主張で韓国民を怒らせている」と述べた(東京新聞、8月13日)。同じ東京新聞の伝えるところによれば、「独島はわが民族の領土」と主張する北朝鮮の朝鮮中央通信によると、南北共同宣言実践北側・南側・海外側各委員会は十二日、「国内外の民族全員に送る共同アピール」を発表」し、竹島問題にも言及し、「日本は領有権主張をはじめ対朝鮮侵略の企図を即刻中断すべきだ」と訴えた。


(8)更に、東京新聞8月18日号によれば、民主党の城島光力、自民党の岸田文雄両国会対策委員長は「17日、国会内で会談し、韓国の李明博大統領の竹島上陸を非難する国会決議を衆参両院で採択する方針で合意」し「今後各党に呼びかける」とした。また、「竹島を管轄する島根県の溝口善兵衛知事」は17日の記者会見で、ICJへの提訴は「我々が長年要望してきたことで、問題解決に向けた大きな一歩だ。高く評価したい」と述べた。

(9)読売新聞は、同18日の「社説」で「日本領有の正当性を発信せよ」と大見出しして、「竹島」提訴について「竹島に関する日本の領有の正当性を広く国際社会に訴え、認知させる意義は大きい」と、政府の「竹島」提訴を積極評価した。

(10)李明博大統領は、8月10日の「独島(日本名・竹島)上陸」に続いて14日、忠清北道・清原で開催された教員セミナーで「独島訪問の所感」を尋ねられて「(天皇は)韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさいと(日本側に)言った」と述べた。(朝日新聞、8月15日)

(11)この李明博大統領「天皇謝罪」要求に対して、読売新聞8月18日「社説」は今回の李大統領の行動(「竹島上陸」—筆者)は、その後の「天皇謝罪」要求発言と合わせて格段に罪深い。韓国側はそれを自覚すべきだと、韓国側に対して高飛車な断罪と威嚇を行った。

(12)なお、5日前の8月19日には、韓国政府は、「竹島(韓国名・独島)」に李明博大統領直筆のハングル文字での「独島」という石碑を設置し、閣僚参加のもとに除幕式を行った。石碑の裏面には「大韓民国」、側面には「2012年夏 大統領 李明博」と刻まれている。(朝日新聞、8月20日)


(13)一昨日(8月22日)の日本経済新聞「社説」は「竹島問題提訴を韓国の猛省促す機会に」と大見出しして、竹島問題の歴史的経過を日本の立場から一方的に概述しながら、ことを荒立てたのは韓国の李明博大統領だ。竹島に大統領として初めて足を踏み入れ、天皇陛下への「謝罪」要求発言までした。対日外交への配慮を欠いた無責任な言動で、日本も対処せざるを得ない政治環境を招いてしまったと李大統領を非難しながら(国際司法裁判への共同付託を)韓国が拒否するのは確実で、裁判が実際に開かれる可能性はほとんどない。それでも、領土問題の存在を国際社会にアピールし、日本の主張を世界に広める意味で、有効な措置といえるだろうと野田政権のICJ提訴を積極評価し日本としてはICJへの提訴にとどまらず、あらゆる機会を利用して領有権の正当性を内外に唱えて行くべきだろう。超党派で結束し、領土問題の対応を真剣に議論していくことも大切だと領土問題への超党派取組みの必要なことを強調した。

(14)今日(8月24日)の東京新聞によれば韓国政府は野田佳彦首相が李明博大統領に送った親書を送り返したとしたうえで、次のように説明している。

野田首相の親書は島根県・竹島(韓国名・独島)の領有権で国際司法裁判所に韓国と共同提訴するよう提案するとともに李大統領の竹島上陸や天皇陛下への謝罪要求発言に遺憾の意を示した。これに対し、韓国政府は信書に「極めて不当な主張がある」として在日大使館を通じて返送しようとしたが、外務省は受け取りを拒否した。双方の首脳や閣僚が相手国に発言の撤回や謝罪を求めるほど対立が深まっている。

(15)9月1日号作成中の今朝(8・25)の『信濃毎日新聞』が第一面トップで伝えるところによれば、野田佳彦首相は24日夕、官邸で記者会見し、島根県・竹島(韓国名・)と沖縄県・尖閣諸島は日本固有の領土と強調した上で、韓国や中国による領有権の主張に対し「毅然とした態度で冷静沈着に不退転の覚悟で望む」と決意表明した。

「首相会見ポイント」は次の通り。

一、島根県・竹島と沖縄県・尖閣諸島は日本固有の領土。

一、日本の主権を守るため、毅然(きぜん)かつ冷静沈着に不退転の覚悟で臨む。

一、竹島をめぐる韓国の領有権の主張は明確な根拠がない。法と正義に基づき、国際司法裁判所での決着が王道。

一、尖閣諸島は解決すべき領有権の問題は存在そない。

一、海上警察権を強化する海上保安庁改正案の今国会成立が必要。

(16)野田首相が17日に韓国の李明博大統領に送った親書「李大統領は謝罪と撤回を」について韓国政府は23日、日本側へ返却する方針を正式に表明したと朝日新聞8月24日(金)朝刊が伝える。

(17)『信濃毎日新聞』8月24日夕刊が伝えるところによれば、①当日の衆議院本会議は韓国の竹島占拠を「不法占拠」と位置づけて「一刻も早く停止することを強く求める」と要求。大統領の発言を「極めて非礼」と厳しく批判して「撤回を求める」と明記した。②尖閣上陸をめぐっては活動家らの行為を「厳しく糾弾するとともに厳重に抗議する」として、日本政府には再発防止に向けて中国側への「厳重な申し入れ」と「警備体制の強化を含め、あらゆる手だて」を尽くすことを求めた。参院でも同様の決議を来週採択する方向で調整が進んでいる。〉なお、これらの「抗議決議」は民主、自民、公明三党などの賛成多数で採択した。共産、社民、新党大地・真民主の各党は反対した。


(ロ)時を同じくして国民主義的波浪高まる日中関係


(A)まだ記憶も生々しいが、昨年9月7日、尖閣諸島沖のいわゆる「日本領海」内で漁をしていた中国漁船に対して日本の海上保安庁の巡視船が「領海外に出る」ことを求めると、その中国漁船は海上保安庁の巡視船に激突してきた。日本側は中国人船長を逮捕した。尖閣諸島の「領有権」を主張している中国政府は、これを「不法だ」と反発して大臣級交流中断や貿易制限などに踏み切った。

(B)今年4月16日には、例の石原慎太郎東京都知事がワシントンでの講演で、唐突に、「尖閣諸島を東京都で買い取る」という「仰天方針」を明らかにした。

(C)香港の反日団体「保釣行動委員会」(代表・陳妙徳主席)の活動家たちが「抗議船」で8月12日に香港を出航し8月15日夕方、尖閣諸島の魚釣島に上陸し中国旗と台湾旗を掲げた。島に待ちかまえていた日本の海上保安庁職員、沖縄県警の警察官、入国管理局職員などが退去警告に従わなかった5名を出入国管理法違反で逮捕した。「抗議船」にいたほかの9名を海上保安官が乗り込んで逮捕した。

(D)この14人を日本政府は上陸から僅か二日後の17日に空路(7人)と「抗議船」(残る7人)で強制送還した。

(E)8月17日、北京の日本大使館前で10人以上の集団が3日間連続で「釣魚島は中国のものだ」などと叫んで「抗議行動」を行った。

(F)8月15日に尖閣諸島にメンバーを上陸させた香港の民間反日団体「保釣行動委員会」はその上陸行動を「十数年の活動の歴史で最大の成果」と自画自賛している(読売新聞、8月18日)。

(G)読売新聞(8月18日)によれば中国のインターネット上では「保釣(尖閣防衛)は愛国運動だ」との意見が広まり、「共産党は日本に遠慮せず、すぐに軍艦を派遣しろ」「活動家が命を懸けて上陸したが、共産党は何をしているのか」—など政府批判も吹き出しており、当局は削除に追われている。反日デモの呼びかけは当局の制御が及びにくいとされる内陸部の都市にも拡大。(読売新聞、8月18日)

(H)翌8月19日、東京都議など10人が中国側の動向に対応して尖閣諸島に上陸し日本国旗「日の丸」を掲揚した。

(I)他方、18日、西安市では香港の活動家を逮捕したことなどに抗議し、中国人数百人が反日デモを実施した。(東京新聞 8月19日)


(ハ)日本における危険な国民主義


(ⅰ)なお、取りあげるのはほんの一部にすぎないが、日本の週刊誌を取りあげてみるならば、8月30日付の『週刊文春』は総力特集「驕れる韓国・中国をしめ上げろ!」「天皇謝罪要求」・「竹島上陸」妄言大統領「暗黒の履歴」として徳岡孝夫「日本人よ、反原発より領土問題に声を挙げよ」〈山田吉彦「尖閣諸島 自衛隊駐留までの防衛シナリオ三橋貴男「経済制裁発動で中国韓国を兵糧攻めにせよ」をはじめ「反韓国・反中国」排外主義の悪罵のかぎりを尽くしている。

(ⅱ)8月31日付の週刊朝日は火を噴いた領土問題愛国という名のエゴを許すな!と大見出ししてロンドン五輪のお祭りムードから一転、お盆の日本列島はやっかいな隣人たちの振る舞いに悩まされることとなった。領土をめぐる中韓の挑発に、韓国大統領による天皇陛下への侮辱的発言—それでも、これが日本の置かれた現実。いまこそ彼らと堂々と渡り合い、国際社会にアピールする知恵と勇気が必要だと、歴史認識欠落と天皇主義丸出しの傲慢かぎりない煽動に浸っている。

(ⅲ)一般の市民は、いとも簡単に、国民主義や拝外主義の波浪に呑み込まれてしまう。例えば、東京新聞が読者に開いている『発言』の昨日欄(8・24)に「不法上陸に厳しい罰を」と表題して語っている、40代初めの会社員の見解は、人間的・政治的には進歩的で、体質的には明確に日本国民主義的で、時局的には危険であるが、普通の日本国民に一般的な心情であるだろう。

 アラブの春は各国の国民にとって民主化であったが、それに関係した諸外国の思惑の根底は「石油」であったことは明白である。今回の竹島には新しい海底資源、尖閣諸島には石油が埋蔵されているといわれる。これらは調査結果から明らかになっている。日本の石油依存度は100%に近い。これは領土問題というよりも、「海底資源争奪戦」なのである。日本は貴重な資源を死守すべきである。今までの政府の対応では生ぬるい。領土への不法侵入に対してこんな甘い対処法でいいのだろうか?国内で民家に不法侵入すれば明らかに「罪」である。国内法で毅然と対処して、今後は不法上陸者は裁判にかけ刑事罰を課すべきである。


(二)国民主義を削ぎ落とし絶対平和主義の9条国家へ


「9条国家」創造の「心と力」は「普通の人々」こそ持っている


 一昨年10月1日号の本誌巻頭言(社会主義考142)は、当時の政治焦点「尖閣諸島=釣魚島」問題に当たって、「脱国家」世界への全人類的道=類的正道にたって」領土的紛争地帯を超国家的な共同管理へと大きく方向付けしたうえで、「領土問題」を「愚の骨頂としての領土問題と明言しながら次のように語った。

 そもそも、「領土」問題ほど人類世界において「愚かな問題」はない。人類世界には歴史的にも今日的にも無数の愚かなことがある。それらの中でも「最たるもの」が「領土問題」である。人類は自分自身の生成と発展の過程で「領土」問題を発生させ抱え込んだまま今日に至っている。その根本的な打開の思想も方策も構造も生み出すことができていない。あたかも「領土」とは「人類の発生いらい存在」してきて「人類が存続するかぎり存在」しつづけていく「人類に固有で不変の問題」出あるかのように信じ込んだままである。そして、その領土をめぐって憎みあい争いあい破壊しあい殺しあってきた。まさに、領土問題とは「愚の骨頂」そのものである。

 2010・10・01巻頭言(社会主義考142)は「領土」問題についてこのように語りながら、その「領土」根元をなす「国家なるもの」について次のように語った。

 国家とは、人類史上に原初的なものでもなければ、今後さらに永遠に存続するものでもない。国家とは人類の形成発展の或る時期に発生して発展してきたものであり、そして、これからのいずれかの時期に消滅して存在しなくなっていくものである。国家とは、人類世界に「原初的な存在」でも「永遠の存在」でもない。幾百万年の人類史の尺度でみるならば、国家とは「一瞬の存在」でしかない。これからも永続し続けてゆく人類史上の「過渡的な存在」でしかない。国家はその本質を暴力としながら人類世界に必然的に登場してきた。即ち、「人類史上に必然的な存在」であった。したがって、今日直ちに国家をなくすことはできない。また、国家は未だなくなりはしない。国家はその本質を、暴力として登場し、暴力として存在しているが、人類が今日までに登場させた社会関係のなかでは、もっとも「合理的な社会関係」である。国家は本質的に暴力でありながらも、人類の英知(先覚的な人士たちの辛苦の努力と苦難の闘いなのであるが)は、国家を合理的な社会関係として構成し発展させようとしてきた。そうであればこそ、今日の人類の英知は、その「必然的存在としての国家」の「国家間—関係」を、より「合理的に構築し展開してゆく」ところの「理性的な政治」に努めなければならない。この「理性的な政治」のもっとも問われるところ—それが「領土問題」である。「領土と領土」がぶつかり合い、錯綜し合っているような関係国家相互間において「領有」関係が「不明なところ」—即ち、相接する諸国家間で「領有」主張の「対立しあう」ところについては、それらの国家がお互いに「譲り合う」政治を行うべきである。

このように語った上で、超国家的で超民族的な人民連帯の前進へとして労働者・民衆こそが事態の主人公(推進者)となるべきことを次のように語って巻頭言を結んだ。

 日本はもちろん中国(そして台湾)の労働者階級・民衆は、この「領土紛争」の渦中にあって、偏狭な国家主義・民族主義に惑わされず、自分自身の思想的・政治的な主体性と自立性をしっかりと確立しなければならない。このような帝国主義的で覇権主義的な政治に対抗して、国家と民族を超えた「超国家的で超民族的な人民連帯」の流れを築きあげて行くことを目指さなければならない。「国家という魔性の蟻地獄」に陥らず、国家主義的・民族主義的な狂信狂騒にに幻惑されず、労働者・民衆こそが「全人類的な正道」を切り拓いてゆくのである。「尖閣諸島=釣魚島」問題への唯一つ正しい対処の道はここにある。

 現下の「韓国・竹島(韓国名・独島)」をも論述対象として加えながら、現下の事態に当たって、今一度、2010・10・01巻頭言(「社会主義考142)の思想と論理を確認したい。(2012年8月25日記)