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 郵政民営化1年、いま郵政労働運動は 高橋扶吉


 労働の場に存在感のある郵政労働運動を


 ユニバーサルサービスが低下する日本郵政会社


 「構造改革の本丸」は郵政民営化と位置づけて、政府系金融機関の整理統合など「官から民へ」の改革を推し進めた小泉首相は、役目は終ったとばかりに政治の表舞台から退場をすることを表明した。

郵政民営化1年、地域密着サービスの簡易郵便局の閉鎖が相次いでいる。民営化を前にして、人的依存の高い郵便事業で集配拠点の再編と2ネットなどの合理化によって全国1048特定郵便局で集配業務を廃止してきた。更に民営化当初は簡易郵便局の閉鎖は433局であったが、今年の5月末には454局に増した。全国で簡易郵便局4033局のうち1割の簡易郵便局が閉鎖されている。

 郵便・小包を集荷する郵便事業会社と郵便会社に分社化された結果、運送免許を持たない郵便会社は持ち込まれた小包以外は扱えず、顧客に出向き小包集荷をすることができずサービスが低下している。

 郵政民営化は利益優先を推し進めるがゆえに、少子高齢化が進む地域にサービスの低下をまねき、地域との密着が薄れ、全国の郵便局ネットワーク維持、ユニバーサルサービスの先行きが不透明になってきている。


 中期計画を足踏みさせる3月決算


 民営化で独立採算制が採用され2008年3月決算は、郵政グループとしての事業計画・純利益予測の123・9%の2772億円であったが、郵便会社は14・3%の46億円、郵便事業会社は87・6%、ゆうちょ銀行は117%で1521億円、かんぽ生命は95%で76億円の実績であった。しかし、ゆうちょ銀行は預金残高176・1兆円から174・6兆円に減少させている。

 郵便事業は、事業領域である宅配事業からメール便の幅広い分野で競争にさらされ、通常郵便部数は、2001年の262万通をピークとして減少傾向に歯止めをかけることができていない。受託料収入に依存する郵便会社と郵便事業会社はきわめて厳しい現状におかれている。

 ゆうちょ銀行の預金残高は、1999年度の261兆円をピークに毎年約10兆円ずつ減少、民営化以降もその傾向は変わらない。西川社長は預金の減少に歯止めをかけるため、「普通の銀行」を目指して民営化直後から住宅ローンや金融機関が協調融資するシンジケートローンなどに新ビジネスとして着手をし、スルガ銀行との提携をしてきた。

 かんぽ生命保険の新契約保険金額は、平成5年度の176兆円をピークに平成18年度には75兆円までに減少し、保有保険金額は、平成8年度の1698兆円をピークに平成18年度には1183兆円まで縮小をしている。日本郵政グループ各社の経営不振が、中期経営計画を足踏み状態に陥らせている。

 『日本郵政と傘下にあるゆうちょ銀行、かんぽ生命は早ければ10年度、遅くも11年度の株式上場を目指す。だが市場関係者は「早期の上場など無理」との見方が大勢。西川社長も「今後の出来いかんによる」と語る』(『毎日新聞』10月2日)。


  組織再編と地域密着した

   公共サービスの原点に郵政民営化の見直しを


 郵政会社は自由競争と市場原理の荒海に舟を漕ぎ出して1年、郵政民営化の見直しが政治の表舞台に登場をしてきた。衆議院解散総選挙という政治状況の中で、自民党の民営化に反対をした議員連盟「郵政研究会」の総会で次期衆議院選挙の公約にするため、①郵便局(窓口)、郵便事業2社を一体化経営。②過疎地のサービス提供の確保など緊急決議を固めた。

 民主党・国民新党両党は、政府が保有する持ち株会社「日本郵政」などの株式売却を3年間凍結する法案を参議院へ提出した。郵政民営化の見直しの気運が高まりつつあるが、「票獲得」で終らせず、地域密着した公共サービスという原点に戻って見直すべきである。


 金融資本のための郵政民営化


 「日本郵政民営化は、1995年に誕生したドイツポストバンクを先行事例として参考にしてきた、そのドイツポストバンクがドイツ国内銀行最大大手のドイツ銀行に株29・75%取得され、今後、3年以内にポストバンク株の残り20・25%と1株をドイツ銀行に売却する権利が設定された(独郵貯銀子会社化も)。ドイツ銀行はサブプライムローン問題で投資銀行分野に巨額な損失を出している」(『毎日新聞』9月13日)。

 米サブプライムローン問題の長期化は、米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻し、金融危機は世界に広がっている。サブプライム問題で株安・ドル安が進み、金融市場から流出した資金が原油価格を高騰させ、企業業績を悪化させ、倒産や失業者を増大させ世界同時不況が現実味を増してきている。

 「金融危機の原因は、世界に膨張し過ぎた、投資が収縮し、リスク性資産から資金が流出していることが危機の本質だ」(『毎日新聞』10月29日)。

 米国格付け会社が、欧米だけでなく、アジアや世界の新興市場に広汎に活動を展開するようになったのは、1997年のアジア通貨危機以降である。格付け会社だけでない、アメリカのコンサルタント、アメリカの会計事務所、投資銀行、保険会社等々が相次いでアジアに進出をしてきた(金融権力P7)。

 金融資本のグローバル化に向けて、日本の金融機関が金融当局の管理下での棲み分けを「護送船団方式」と批判されてきた。英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権の「小さい政府」による規制緩和、民営化などを柱に金融機関の自由化を求められてきた。日本の金融機関は、「もの作り」から「ファンド投資」へ傾斜した。そして郵便貯金は、政府系特殊法人に資金提供をする諸悪の根源だと批判され、(株)ゆうちょ銀行へと民営化され、収入源を海外資産で運用する投資信託に求めつつある。西川社長の言う「普通の銀行」とは「もの作り」から「投資信託」へと資金の流れを変え、地域密着サービスの基盤を大きく揺るがしかねない。

 一方、自由競争と市場原理を拡大してゆく新自由主義政策は、規制緩和の名の下に正規労働者を削減し、非正規労働者を拡大させ、ワーキング・プア(働く貧困層)作り出してきた。貧困と格差拡大の中で、労働者破壊、労働者の権利剥奪・労働者の生活破壊する新自由主義政策との闘いと、郵政民営化の見直し問題を捉えて職場からの運動を追求することが郵政労働運動に問われている。


 企業主義路線に抗し闘う労働運動を


 民営化から1年、職場からの存在感のある労働組合が問われている。今、正規職員が退職をしても正規社員の後補充されず、非正規社員の雇用の年齢65歳制限基準にして非正規労働者が雇用をされている。

郵政の職場で20万人を超える非正規労働者が、雇用不安を抱えながら将来見えない職場環境で働いている、いくら働いても年間所得は200万前後であり「働く貧困層」が増大をしている。

 「厚生労働省のまとめによると、派遣労働者は1999年度の約107万人から、2006年度は3倍の約321万人に急増した。総務省の調査では、正規社員の占める割合は、1999年度の75・1%から2007年度は66・5%に減った」(『毎日新聞』9月30日)。この調査から読み取れることは低賃金で不安定な労働条件が、あらゆる年代層に広がってきている。

 郵政内の最大労組JPは、北海道で開催された第1回定期全国大会で「生産性運動」を基本理念して、三つの視点に立脚した運動の展開とし「改革の視点」・「事業人の視点」・「労働組合の視点」を決め、第2回中央委員会(8月8〜9日)を開催して、当面する諸課題への対応を決めた。その特徴は、(1)新たな人事・給与制度実現に向けて、①「仕事への積極的な取り組みが評価される新たな制度」の視点、②「生産性向上につながるインセンティブの構築」の視点と(2)30万人組織建設に向けて、①単一組織としての、一体性確保による健全な労使関係の発展を通じて、②達成プロセスは、ユニオンショップ制導入を展望した拡大戦略を基本とする。③30万人組織建設は、2010年度を達成年度にする。

 この方針の根底に流れていることは、事業人がいても労働者がいない、そして、労働者の差別と格差を拡大し非正規労働者を固定化させて行く。また組織拡大のプロセスのユニオンショップ制の導入は、労働者の思想信条の否定であり、他労組を否定し、互いの意思を尊重してゆく共同行動をも否定をし、労働組合が労働者を管理する何物でもない。それは、企業主義と労使一体化路線そのものである。いつか来た道ではないが、幹部請負的運動ではなく、郵政労働者を主体とした郵政労働運動に向けて郵政労働者が力を注いでゆかなければならない。

 10月5日明治公園に、非正規労働者が増える中、生活に困窮している若者達が増えている現状を知ってもらおうと「全国青年集会」に、若い派遣労働者4600人が参加した。「生活が出来る仕事を」「人間らしく働きたい」と訴えてデモ行進に参加している、労働者に連帯と共同行動が取れる郵政労働運動が問われている。

 人間らしく働きたいと訴え、闘い続けている派遣労働者たちに目を向けて、「非正規労働者」問題を重視して、そのために労働運動に力を注いでゆかなければならない。    (11月1日)