THE  POWER  OF  PEOPLE

 

春闘を取りかえす人力北海道代表 池田晴男


春闘は労働者の闘いだ

資本のための経済対策ではない


これ以上解雇をしやすくしてはならない

労働基準法の改悪を許さない!


 1955年にスタートした春季闘争は今年で60年を迎えた。春闘方式は、賃上げや労働時間短縮などの労働条件改善を勝ち取るために、多数の労働組合が集中して経営側と交渉し要求を勝ち取るための統一闘争である。労働者の生活や労働の実態から要求を集約し、組織的な力を集中して賃上げや労働条件の改善を勝ち取るのが春闘であるはずだ。労働者・労働組合の統一した力、連帯の力で春闘の相場は形成されるのであり、そのために労働組合の総掛かりで闘う体制を必要とするのである。

 3月20日、連合は2015年春闘の3月20日までの集計結果を発表した。それによると、回答を引き出した労組数は前年に比べ307増え798。平均回答額が7497円。賃上げ率は2・43%で、中小、非正規の回答も昨年を上回る額で好調だったという。

連合の古賀伸明会長は記者会見で「賃上げを実現した昨年に続き、継続的に、より一層の賃上げをしていく流れへの道筋が付いた」と評価した。


労働者こそ春闘の主役だ


 だが、この「闘い」がはたして労働組合の春季闘争と呼べるのであろうか。今年も「官製春闘」と呼ばれ、安倍首相ら政府や経団連などの経営陣ばかりが主役であるかのように目立つのである。その「官製春闘」は、闘いらしい闘いもないまま3月18日統一回答日を迎え、自動車や電気などの大企業で前年を上回るベースアップ回答となった。連合などから「2015春闘における底上げ・底支え、格差是正に向けた闘いはこれからである」「次は非正規の番」の声が上がりながらも、「山場を越えた春闘」「春闘は終盤へ」と報道されるに至っている。

 いつからであろうか、春闘から主役であるべきはずの労働者・労働組合の姿が見えなくなっている。自動車や電気産業などの労組の名がマスコミに登場はするが、実態としての労働者・労働組合の姿や闘いが見えなくなっているのである。代わって登場しているのが安倍首相であり、経団連などの経営陣である。

 春闘の構造は根本から変わったように見える。昨年から「政労使会議」の場で政府が賃上げを要請するパターンとなり、安倍政権が労働者の賃上げを経営陣に要請するという所謂「官製春闘」に取って代わられている。労働者・労働組合は後景に押しやられている。労働者・労働組合が春闘の主役ではないようにさえ見える。


アベノミクスの破綻を繕うための春闘にしてはならない


 安倍政権は、アベノミクスが格差を拡大しただけに過ぎなかったことに危機感を持っている。アベノミクスは一部の輸出企業をもうけさせただけであり実態経済に効果がないことが明らかとなった。そこでデフレ脱却のために経営側が許す範囲での賃上げで個人消費を伸ばし、経済の下支えをするということなのである。経済の循環さえうまくいけば労働者の生活や格差の拡大は二義的問題と言うのが彼らの本音である。

 安倍首相が前面に出てきた昨年からの「官製春闘」は、「デフレ脱却」や「経済の好循環」を実現するために賃金を上げようと言うのであり、政労使ともにアベノミクスの破綻を繕うための「経済対策」として賃上げの是非を論じ合っているに過ぎない。

 改めて確認しなければならない。安倍政権は徹底して反労働者的である。「官製春闘」に甘んじていては組織率2割を切った労働組合への信頼は失われていくばかりである。

春闘は働くもの全ての賃上げや労働条件、生活改善につながる闘いとしてつくりなおされなければならない。反労働者的性格を露骨に打ち出している安倍政権の下で、労働組合・労働運動への信頼獲得は何としてもやり抜かなければならない課題だからである。

 連合は、2015年春季生活闘争で「『働くものを犠牲にした経済成長』を許さない」とする次のような方針を掲げた。「引き続き『底上げ・底支え』『格差是正』の実現を通じ、『デフレからの脱却』と『経済の好循環実現』に向けて、継続して賃金の引き上げを求めていくこととする。とりわけ、大手と中小の賃金格差の是正や社会全体の底上げ・底支えを実現させる運動を展開する」。


本腰を入れて非正規労働者に連帯する闘いを


 連合は広がりすぎた格差に目をつぶるわけにはいかず非正規労働者の賃上げ、労働者全体の底上げを要求として掲げた。一部では非正規労働者の賃金引き上げの動きも出始めている。政府はここぞとばかりに賃上げの成果を強調し、マスコミは「非正規も賃上げ拡大」「非正規も昨年上回る」などと報道する。しかし、2000万人を超えた非正規労働者の平均年収は168万円である。働いてもまともな生活が保証されない現状はそのままである。連合などが「働くものを犠牲にした経済成長を許さない」との方針を掲げるのであれば、2015年春闘は「非正規春闘」として本腰を入れて取り組むべきである。「デフレからの脱却」「経済の好循環実現」のためにも賃上げを!、は「経済対策」としての賃上げ要求でしかない。賃上げ要求は労働と生活の実態に根ざしたものであり「経済対策」として置き換えられるべきものではないのだ。

 圧倒的多数の非正規労働者や中小の厳しい2015年春闘はこれからである。連合を始め労働組合は、自らの賃上げのみで春闘を終わらせてはならない。正規との格差解消こそ重要であり、賃上げや労働条件の改善を政府頼みにしていては労働者・労働組合の主体性は失われていくばかりである。全労働者の8割以上を占める未組織労働者の生活改善に連合など労働組合は本気で取り組むべきである。

 そのためにも非正規労働者の置かれている現実を直視し、非正規労働者の生活と労働条件の改善を労働組合が自らの要求として掲げ・闘い取る決意こそ必要である。非正規に連帯する春闘・「非正規春闘」として真剣に追求してこそ圧倒的多数の労働者の信頼をつくりだすことができると考える。

 安倍政権の反労働者性は今や全面展開となっている。なかでも派遣法改正案や労働基準法改正案など雇用制度改革案のなかにその本性がはっきりと現れている。労働者派遣法改正案は、昨年の通常国会と臨時国会に2回提出されたが雇用の不安定化につながるとの反対の声でいずれも廃案となった。また「高度プロフェッショナル制度」は、働いた時間ではなく、成果で賃金を決めるという、所謂残業代ゼロ制度である。これは時間の規制を気にせずに労働者を働かせたいという資本の強い要請によるものである。加えて解雇の金銭解決制度の導入である。これらは、全てが経営側の要求であり都合でしかないのだ。


労働者を「使い捨て」にする派遣法改正案

「金銭解雇」・「残業代ゼロ制度」を許さない


 労働者が求めているのは「多様な働き方」などではない。格差の解消であり、安心して働くことのできる雇用制度なのだ。安倍政権のすすめている制度改革の狙いは、資本の〈都合のよい雇用形態で〉〈都合のいい時間だけ働かせることができ〉〈必要がなくなればいつでも解雇できる〉、会社側が裁判で負けても〈金さえ払えば労働者をクビにできる〉という徹頭徹尾資本の論理に貫かれた制度なのである。

 政権側の反労働者的攻勢が強まる中で労働者は生存権さえ脅かされている。労働組合の存在意義が待ったなしで問われているのだ。減少を続けてきた労働組合の組織率は2014年6月末で17・5%となっている。正規雇用から非正規への置き換えと共に組織率が減少しているのだが、労働組合に対する信頼の度合いを現しているとも言える。

 各種の統計によれば非正規労働者の9割が年収300万円以下で、40歳以下の非正規労働者では57%が自活できない収入のままである。過重労働の下で将来への夢や生活の見通しが全く持てない労働者が増え続けている。労働組合は組織、未組織を問わず労働者の置かれている現実にしっかりと立脚しなければならない。非正規の格差解消を自らの課題として真剣に取り組むべきである。徹底して労働者の立場に立ち労働者の拠り所としての役割をあらためて自覚すべきである。

 労働者の雇用と生活を守り抜く立場から安倍政権の反労働者的政策ひとつ一つにしっかり反対し闘い抜くことは、労働組合への信頼回復につながる道である。厳しい道のりであるが、ひとり一人がうまずたゆまずの精神で取り組む決意を固めあいたい。