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社会主義考131オバマ大統領と「普天間沖縄日本」常岡雅雄



来日するオバマ大統領に求められる


チェンジの心を徹底させる道


 オバマ大統領が11月12〜13日に来日する


 コロンブス以来500年、建国以来250年のアメリカ史に画期的な初の黒人大統領であるオバマ氏はアメリカ国内においても全世界からも絶大な歓迎と期待のもとに世界の政治舞台にあがりました。そのオバマ大統領は自分自身の世界政治に首尾一貫性を持たせることができるのであろうか今、訪日に当たって、オバマ大統領に鋭く問われています。

 ソ連崩壊による冷戦体制終焉後の今日世界に唯一の覇権国家アメリカ、世界最大最強の核武装国家アメリカ、世界最初の核爆撃国家アメリカその最高の責任者であり権力者であるアメリカ大統領が、それまでの独善的で傲慢な反テロ戦争政治であったブッシュ政治からのアメリカ政治の方向転換をしめすものとして、「核なき世界」実現にむかって「核廃絶を訴える」プラハ宣言は、全世界の人びとから大きな歓迎と期待をこめて迎えられました。覇権国家の独善的単独主義をもって戦争屋政治に暴走した傲慢なブッシュ政治とは真反対の「核廃絶と人道と平和」「対話と協調」の政治への大転換にみちびくものとして、私たちもこのオバマ政治の出現に深い感動を覚えて心から歓迎しました。

 ところで今、訪日を目前にしてオバマ政権が、沖縄日本にむかって行っている言動には私たちは感動も喜びも感じることができません。(一)世界平和をきりひらいていく見地からも(二)憲法9条「非武装戦争放棄」を国是とする日本人の願いを実現していく見地からも、目下のオバマ政権の対日政治は、「協調と平和と人道」の政治から遠くかけ離れてしまっているのではないでしょうか。

 その当面の焦点はもちろん沖縄問題であります。

オバマ大統領は全世界にむかってプラハで稀有の格調と決意をこめて宣言した「核廃絶の心」をもって「沖縄の人びとの心」と「日本国是9条の心」とを理解しようとしているのでありましょうか。理解しようとしているのであるならば、あのおぞましきブッシュ政権までのような旧態依然とした独善的で傲慢な姿勢で対日政治を行うことはできないはずであります。


 ゲーツ国防長官の言動はオバマの心か?


 今朝(10月22日)の読売新聞によれば、オバマ大統領に先立って20日に来日したゲーツ米国防長官は、沖縄の普天間基地の移転とその代替基地の名護市沿岸部(辺野古崎)への新建設問題について、当日の岡田外務大臣との会談で、問題解決の「期限は日本自身が考えることだ」としていたこれまでの態度を一変させて「(普天間返還に関する日米合意から)もう13年間も議論してきた。議論は尽くされている」として「11月のオバマ大統領訪日までに普天間問題を解決してもらいたい」と「期限を明示」して鳩山政権に態度決定を迫ったということです。更に翌21日の記者会見で、ゲーツ長官は「(名護市の)代替施設なしでは(沖縄の米海兵隊の)グアム移転もない。沖縄での兵員の縮小と土地の返還もない」と語って「鳩山政権が普天間移設を進展させなければ、米軍再編の目玉の一つである沖縄からの8000人の海兵隊のグアム移転や、嘉手納以南の基地返還といった負担軽減策を実行しない、という『公の場での脅し』(政府筋)に等しい」態度をとったということです。

 これはまた、何という一方的な政治姿勢でありましょうか。

 歴史的な政権交代をとげて「暗から明へ」「保守から革新へ」「反動から進歩へ」と日本政治の大転換を模索しつつある鳩山政権の厳しい現況などは意にも介しない、なんと強行的で非情な政治姿勢でありましょうか。このゲーツ米国防長官の姿勢と言動がそのままオバマ大統領と等しいものだとするならば、オバマ政権の対日政治は、あの全世界を深く感動させたオバマ「核廃絶宣言の心」からなんと遠く距離を置いてしまっていることでありましょうか。

 黒人でありながらも「チェンジ!」を掲げ米国民の願いを糾合して政権を獲得したオバマ大統領は、実際に踏みだした「チェンジ!」政治の厳しい悪路に難儀をきわめているでありましょう。他方、この日本においても、保守合同いらい半世紀にもわたって反理性と反人間性と反平和の悪政と腐敗を極めてきた自民党の「保守反動の権力主義政治」からの大転換をめざして鳩山政権も、これまたオバマ政権とひとしく厳しく苦しい旅立ちをはじめています。この鳩山政権にたいして、オバマ政権が、仮に、これまでブッシュ政権の敷いてきた日米間政治の継承が避けがたいものではあっても、いや、そうであればあるほど、その実際の進め方は「協調と協議と理解」の姿勢と政治であるべきなのではないでしょうか。新発足したばかりの鳩山政権に納得のいくだけの十分な時間が約束されてもいいのではないでしょうか。


 オバマ大統領の心は

 沖縄の心に響きあう心であって欲しい


 しかも、白人帝国アメリカ下の奴隷出身階級の一人として、黒人階級の一員として、抑圧され苦難の境遇を強いられつづけてきた「奴隷や黒人の心」がオバマ大統領の心の奥深くに流れているのならば、天皇制下のヤマトによって国を奪われてきたし、そのヤマト敗戦後の米軍占領と米軍基地下に苦難の人生を送らされつづけてきた「沖縄の人びと」の「心の奥底」が分からないはずはないと思います。

 ウチナー(沖縄)の人びとの心の奥底に流れている願いは、現沖縄県知事の仲井真政治次元のことでも、普天間基地の辺野古への移転やその見直し程度のことでもなく、普天間基地はもちろん一切の米軍基地(自衛隊基地も当然)を沖縄から一掃した「基地なき沖縄」であることは間違いありません。そして、それは平和を願う沖縄の人々であれば当然にも、全ての米軍基地の「日本からの撤退」=「米軍基地なき日本」の実現であることも間違いないことだと思います。そうであるからこそ、例えば太田昌秀知事いらいの懸案であり当面の焦点である普天間基地問題にしても、沖縄の人々の「胸中の真実」とは、移転先は「辺野古か県外か?」とか「辺野古移転の微調整」とかいった程度のことではなく、「全ての米軍基地」の「沖縄と日本全土からの撤去そのもの」であることは間違いないと思います。

 辺野古海岸にテントを張って「普天間基地の撤去」を求めつつ同時に「辺野古海岸への新基地建設を許さない」座り込み闘争を夏も冬も雨の日も風の日も不屈に行い続けて延々2000日を超えている沖縄の人々の心こそが「本当の沖縄の心」なのであります。抑圧されつづけてきた奴隷と黒人の苦難の境遇とその血をひくオバマ大統領ならば、この米軍占領と米軍基地下に苦難の道を辿りつづけてきた「沖縄の人々の本当の心」と「心が響きあう」ことができるはずだと思います。その沖縄の人々が今求めていることは、傲慢で独善的に戦争政策を強行した戦争屋ブッシュ政権が沖縄に押しつけた、そして、他方の日本側からは自民党以下の保守反動勢力がその勢力に戦後伝統的な対米「奴隷根性」をもって政治的に協力した結果である「既存の日米合意」(05年10月29日)の遂行でも微々たる変更でもなく、その「既存の日米合意」そのものからも根本的に「チェンジ!」を遂げた「沖縄からの全ての米軍基地の撤去」にほかなりません。

 「チェンジ!」を掲げて米国大統領の座につくことのできたオバマ大統領ならば、その「チェンジ!」政治は首尾一貫させられるべきものだと思います。日本にもまた及ぼされるべき「チェンジ!」政治でなければならないはずであります。先ずは、対沖縄政治を「既存日米合意の遂行や微調整」程度の低次元政治から方向を大きく根本的に「チェンジ!」させた「普天間基地の海外撤去」「辺野古海岸への新基地建設の撤回」「一切の米軍施設の沖縄からの撤去」にむかって政治することによってオバマ「チェンジ!」政治に首尾一貫性もたせるべきなのではないでしょうか。対「沖縄日本」政治から更に対「東アジア」政治にあたっても、オバマ大統領はその「チェンジ!」政治を「徹底させるべき」でありましょう。

 11月12〜13日の訪日は、その「チェンジ!」政治を「沖縄日本」に対する政治にも押しひろげて徹底させる「熱い心と深い理性」の旅であってこそ、歴史的な黒人大統領オバマ氏に、今日世界に最大の政治責任を負い最高の政治権限を有する青年大統領オバマ氏に相応しい「変革の政治」なのではないでしょうか。


 読売・日経・朝日がみせる理性の衰え


 ところで、今朝の「普天間沖縄鳩山政権」問題にたいする幾つかの新聞社説に目を向けてみましょう。

 読売新聞は「普天間問題を先送りするな」と題して「鳩山首相は・・・12日のオバマ大統領来日までに、現行計画への支持を決断することが求められよう。普天間飛行場を県外か国外に移設させるという、非現実的な民主党の衆院選前の政策に何時までも固執すべきではない」と鳩山政権に説いています。

 日本経済新聞は「日米同盟の危機招く『安保摩擦』を憂う」と題して「(鳩山政権は)給油の実質的継続と一日も早い普天間基地移設の実現に向けた具体的行動を示す必要がある。でなければ、日米同盟は名存実亡となり、緊急事態に機能しなくなる。首相、外相、防衛相に危機感が足りない。それが同盟の危機だ」と、これもまた鳩山政権に日米合意の早期実施を迫っています。

 朝日新聞は「新政権の方針を詰めよ」と題して「首相は来年1月の名護市長選の結果を見極める意向を示している。地元の民意を尊重するのは大事にせよ、迫られているのは新政権の決断であり、国民を説得できる結論であることを忘れてはなるまい。」と、自分自身の不確かな態度をさらさないように言葉巧みに言い繕いながら、結局は、鳩山政権に既存の日米合意の早期実行を迫っています。

 日本の世論をリードし全世界に日本の心を伝えなければならない位置にある大新聞としては、何とも情けないことではないでしょうか!

 どれ一つとして、本当の「沖縄の心」と「日本の国民の心」を代表できる深みも気概も持ってはいません。沖縄と日本からの「一切の米軍基地の撤去」という「沖縄の人々の願いと日本国是9条の実現」を、鳩山政権はオバマ政権に「はっきりと示すべきだ」「新政権らしい気概をもってオバマ政権に当たるべきだ」とはどこにも説いていません。これこそ、思い込みの欺瞞的「日米同盟」論を振りまわしながら、その実は「対等の同盟」どころか、覇権国家=帝国アメリカに「心と頭を垂れて隷従しつづけてきた日本マスコミ」の哀れな理性衰退の姿ではないでしょうか。

 真に対等な「日米同盟」とは、先ずは、「一切の米軍基地(そして帝国アメリカによって創設された自衛隊の存在)が日本から無くなった」ところから始まるのではないでしょうか。明治以降の侵略戦争の平和主義的人間主義的な反省のうえにたつ国是9条「非武装戦争放棄」が厳然として存在しているにもかかわらず、その国是に違反する(一)軍隊=自衛隊と(二)帝国アメリカの世界支配のための「浮沈空母化日本の誓い」にほかならない日米安保体制とにたいして、異議申し立てを行うどころか、その異常を不思議とさえも思わなくなってしまった日本マスコミ次元の心と頭脳の頽廃を超えたところからしか「真の日米同盟」(即ち、占領も被占領もない、軍事基地の強制も受容もない、自立して主体的なもの同志の同盟)は始まらないのではないでしょうか。


 理性の復活と9条奪還と安保破棄なしには

 真の「日米同盟」は築きあげられない


 そして、これらの大新聞社説のような「気概なき隷米マスコミ」次元や、日本の「国のかたち」などという「まやかしの日本」論の域をこえて、日本の国是=憲法9条「非武装戦争放棄」の「実体的奪還にむかう理性」に日本国民の心が達したとき、その「日米同盟」は「真の意味」をもつことができるのだと思います。

 アメリカの支配に気付かず、自覚せず、それにひたり、それに身も心も頭脳も隷従してしまっていながら、それを「対等の同盟」と思いこんでしまっている「まやかしの日米同盟」論や、世界支配や戦争のための「侵略的戦争的な同盟」ではなく、「絶対平和主義=憲法9条の実体的奪還をめざす心」=「国のこころ」(「国のかたち」ではなく)に日本の国民と政治が達したとき、日米関係は「戦争の防止と克服と世界平和のために尽くす本当の日米同盟」へと向かうスタートラインに立つことができるのではないでしょうか。したがって、もっとも究極のところで問われているのは、私たち日本人の理性的な主体性であり、その総合としての日本という国の「国のこころ」だと思います。

(09・10・22)

(註)なお、駐日米大使のジョン・ルース大使への人民の力全国委員会としての要望書は別途13頁に掲載した。