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戦争する国家へと突き進む安倍政権 小林栄一


集団的自衛権行使閣議決定は許さない


国のあり方を変える

安倍政権に一人ひとりがノーを


 6月29日、私は九州の大牟田市労働福祉会館で開催された「有明海漁民・市民ネットワーク第13回総会(2014年度)」に出席した。漁民、市民、弁護士、研究者など50人ほどが参加した同総会は、「手の届くところまできた『開門』がまた遠くなってしまった」(菅波完事務局長)諫早闘争の現状をふまえ、甚大な漁業被害がつづく漁民たちの救済と、2010年12月の「(3年間の猶予=準備期間を経て)排水門の5年間にわたる常時開門」を命じた福岡高裁確定判決を、国にいかに履行させるか、がその中心的テーマであった。

 また、2013年12月の「開門」期限を経ても開門しない国に対して、有明海漁民49人が佐賀地裁に起こした「間接強制」を求める裁判で、「1日一人1万円の制裁金を支払う」よう国に命じた佐賀地裁判決(4月11日)が、福岡高裁でも維持され(6月6日)、2ヶ月の猶予期間を経た6月12日より同制裁金が国によって支払われている中での総会であった。

 総会は、1年間の活動経過と今後の闘争方針の確定、熊本保健科学大学の高橋徹教授の講演—「有明海蘇生のラストチャンス」(調整池のアオコの毒素ミクロシスチンが生物を殺し、農業用水には使えない実態を明らかにし、調整池に海水を入れて干潟を蘇生させることの必要性を訴えた)、そして訴訟や国会関係、地元漁民の状況などの報告が夫々なされた。

 諫早湾締め切りによって甚大な被害を受けている漁民たちの厳しい生活実態が浮き彫りになり、「早期開門」を求めて国に対して闘いを強めていくこと、とりわけ多くの漁民や一般市民に諫早問題を知ってもらう活動の強化(署名活動やキャンペーンの実施など)や生活維持のための具体的な要求を国に対して行なっていくことを決めた。また、漁民ネットを立ち上げた原点にかえり、「正しいことが通る社会」の構築と、干潟と有明海の再生のために引き続き奮闘していくことを確認して終了した。

 国営諫早湾干拓事業反対の闘いを切り拓いたのは故山下弘文さんであった。闘いの半ばで「闘死」した山下弘文さんの遺志をついで連れ合いの山下八千代さんが、日本の自然保護運動の柱であり、干潟・湿地再生の重要なシンボルである諫早闘争の前進のために孤軍奮闘されてきた。いまは体調を崩して闘争の前面に立ってはおられないが、そのまなざしは鋭く諫早湾に向けられ、排水門の常時開門はもとより、潮受け堤防の大幅な開放による干潟と有明海の再生を強く求めておられる。亡き山下弘文さんの志をつがれる山下八千代さんらしい原則性と闘志である。

 「法治国家日本」を自認する安倍政権であるなら、福岡高裁確定判決を直ちに履行し、排水門の常時開門による有明海再生と漁業被害救済の道をとるべきである。「制裁金」を支払って済む問題では決してない。私も微力ではあるが「早期開門」にむけて引き続き支援・連帯していく。


集団的自衛権行使を閣議決定した—安倍政権を許してはならない


 九州から帰った翌7月1日、安倍自公政権は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定—「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を行なった。「法治国家日本」を謳い、「憲法の理念を堅持」していると嘯きながら、一方では確定した福岡高裁判決を履行せず、「制裁金」を支払う「異常事態」をひき起こし、被害に苦しみ困窮している漁民たちを見捨て、もう一方では、立憲主義や主権在民を根底から覆す「解釈改憲」を平然と行なう安倍自公政権に怒りをもって抗議する。

 7月1日は、憲法違反の自衛隊が発足してから60年。「平和の党」を謳い、集団的自衛権に慎重・否定的でありながらも、「連立離脱」を封印した公明党の弱腰と政権主義を見透かして、若干の字句修正をもって与党合意を引き出し、憲法9条を否定する閣議決定を行なった安倍自公政権は、日本が新しい帝国主義政治の水路に、さらに深く入っていっていることを明らかにした。

 安倍首相は、「解釈改憲ではない」、「海外派兵は一般に許されないという従来の原則は全く変わらない」と語っているが、その内容は時の政権の判断で海外派兵や武力行使が可能となる。すなわち国と国、人と人が殺し合い、「血を流す」戦争への道に明確に踏み込んだものであり、憲法9条を「破壊」するものである。

 とりわけ「憲法9条の下で許容される自衛の措置」では、「従来の政府見解における憲法9条の解釈の基本的な論理の枠内で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くための論理的な帰結を導く必要がある」として、あたかも1972年の政府見解を踏襲しているかの装いを取りながら、真逆の結論(集団的自衛権行使容認)を導き出すペテン的手法を使っている。

 そして、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段が無いとき、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として憲法上許容される」(信濃毎日新聞7月2日)として、政府の判断と解釈で行使が可能となる「武力行使3要件」(歯止めにはならない)と、集団的自衛権を「自衛のための措置」とアクロバット的論理展開をもって、その正当化を図っているのである。

 もし、本当に「国際協調主義にもとづく『積極的平和主義』の立場」から、「わが国の平和と安全を維持し、その存立を全うするとともに、国民の命を守る責務」のための措置(閣議決定)であるなら、言葉遊びとすり抜けによる姑息な手段ではなく、堂々と「憲法改正」を行うか、選挙によって国民にその真を問うべきである。一昨年の衆議院選挙と昨年の参議院選挙で巨大与党の出現を許してしまったが、しかし、国民世論の多数は「集団的自衛権行使容認」に反対している(「毎日新聞」の世論調査によれば「反対」が58%、「賛成」が32%で、政府・与党の説明が「不十分だ」とする人は8割を超えている)。

しかも、安倍首相をはじめとする国会議員や公務員には「憲法遵守義務」が課せられている(99条)。時の政権のご都合主義によって、憲法の解釈を勝手にかえる「解釈改憲」は絶対に認められないし許さない。


一人ひとりが安倍自公政権にノーを!


 安倍自公政権は、昨年末の臨時国会で日本版NSC設置法案や特定秘密保護法案を強行成立させ、そして集団的自衛権行使容認を閣議決定した。その行使を可能とする「法整備」のための「関連法案作成チーム」を立ち上げ、来年の通常国会に全ての関連法案を提出するという。巨大与党がその法案をごり押ししていくことは目に見えている。

 また、集団的自衛権閣議決定に賛意をしめしたアメリカとの「米軍と自衛隊の役割を定めた防衛協力指針(ガイドライン)の年内改定」作業を加速させるという。日米軍事一体化はさらに進んでいくであろう。TPP推進、原発輸出と再稼働、「武器輸出3原則」の全面改訂、沖縄辺野古への新基地建設、消費税増税、福祉の切り捨てなど安倍自公政権が進める新しい帝国主義政治は、さらにその幅と深度を拡大していくであろう。

 私たち一人ひとりは非力ではあるが、しかし、その反動的な帝国主義政治に向き合い、声をあげ、ノーを突きつけていこう。(7月10日)