THE  POWER  OF  PEOPLE

 

  洞爺湖サミット(主要国首脳会議)        井戸孝彦


  議長国日本の姿勢を問う

    G8は全地球的問題に応えよ


 北海道洞爺湖において、7月にG8サミット(主要国首脳会議)が開催される。この会議の議長国である日本政府が、どのような役割を果たすのか注目されている。この会議において、日本政府は地球環境問題の解決にむけて環境問題の先進国(?)として、地球温暖化問題で、世界をリードするとたびたび表明している。果たして、温暖化問題で日本が本当に世界をリードすることが可能なのか。おおいに疑問がある。

 なぜなら、深刻化する環境問題、地球温暖化の原因の温室効果ガス排出は、その排出には多様な要素あるが、日本は、相変わらずCO2の大量排出国であり1997年の京都会議での削減目標6%を達成どころか、更に増加させている。

 21世紀の最大の課題として、環境破壊の解決が大きな課題になっている。地球温暖化をはじめ様々な環境破壊が急速に進行し、生物の生存、地球の存亡が危ぶまれている。環境破壊には様々な要因がある。19世紀から20世紀にかけて急速に環境破壊は進んだ。このままのスピードで進んだら21世紀には地球の存続は破滅的な危機的状況になると言われている。環境破壊問題は人類共通の課題として、取り組まなければならない最大の課題になっている。

 地球は46億年前に誕生した。そのなかのわずか150年の間に、地球環境破壊は急速に進んだ。その原因は西欧の産業革命以降の科学技術の進歩、技術革新による大量生産、大量消費、大量廃棄の、西欧の物質文明がもたらしたものである。

 西欧の物質文明が、多くの人類に与えた物質の豊かさが、他方では負の遺産として環境破壊を生み出した。石油、石炭などの化石燃料消費が生み出す二酸化窒素の温室効果ガスによる地球温暖化、天然林の大量伐採による喪失、砂漠化、水不足、乱獲による生物の絶滅化などである。生態系の破壊が急速に進み、循環機能が失われたからに他ならない。

 地球温暖化に影響もたらす温室効果ガスの排出量は、G8参加国はいずれも経済大国で莫大な排出国である。日本はそのなかで第4位に位置し、世界では第5位を占めている。

 1997年に京都で開かれた、国連気候変動枠組み条約の第3回会議(COP3)で、先進国全体で1990年と比べ温室効果ガスの排出量を、今年から2012年までの5年間の平均で先進国全体では5%削減、日本は6%の削減を約束した。しかし、その目標達成にはほど遠いのが現状で、削減どころか90年比2006年は6・4%の増となっている。地球温暖化に大きく影響する温室効果ガス排出で、世界に約束した削減目標の達成もままならない状況の中で、日本政府は環境問題でどのように世界をリードしようとしているのだろか。


 日本政府の「エコ」ではなく「エセ」環境対策


 環境問題での日本政府の目論みは、大量生産、大量消費、大量廃棄の日本の社会経済構造は変えないで、

 一つには、先端技術を駆使した生産、商品の開発で排出量を抑制する。

 二つには、日本のエコ技術の輸出、お金で排出枠を買う排出量取引。

 三つには、化石燃料に依存したエネルギーを、CO2を排出しない(?)といわれる原子力に国内のエネルギー依存度を高める。併せて、日本の企業の原子力発電の高い日本技術力と発電所建設事業の外国輸出を担う、というものである。 

 G8洞爺湖サミットで日本政府がいう「環境問題で世界をリードする」とは経済商業ベースの「金儲け」でしか考えられておらず、しかも、排出量取引など環境をお金で売り買いするなど、根本的な解決を目指すものではない。日本政府の姿勢は、地球の将来、命運のかかった環境問題の解決に向けた、まともな姿勢などとはいえない。そんな姿勢で世界をリードすることなどできない。


  地球環境問題は全人類課題


 地球の環境問題は、全人類が地球の命運を考えて、目先の利害にとらわれず、領土や資源の奪い合いをやめ、生態系の破壊を食い止め、地球の保全に努めなければならない全人類共通の課題なのである。

 20世紀が「人殺しと破壊」の世紀といわれるのは、物質文明の市場主義経済が、領土、資源、市場の獲得をめぐる、争奪の激しい戦争と環境を破壊した世紀だったからである。地球の環境問題の根本的な解決のためには、環境破壊をもたらした産業革命以来の西欧文明の転換なくして解決の道はない。

 先端技術、テクノロジーの進歩により環境問題は解決できるというのは、人間の驕りでしかない。自然界には人間の手では解決できない問題は山ほど存在する。人間の手で自然を破壊することは意図もたやすくできる。しかし、破壊された自然を元に戻し、再生するには大変な年月と努力がいる。人間が生命体として地球とともに生存しようとすれば、自然との共生しかない。自然から恵みをいただいたら、その分を「お返し」するという循環が必要である。


  「核」開発、平和と環境破壊の原発


 20世紀は、戦争と工業化そして核開発によって、地球環境破壊がもたらされた。その中でも最も深刻な問題は「核」問題である。広島、長崎に落とされた原子爆弾に象徴される核は、巨大な武器であり、人間の手では安全に管理することも、元に戻すこともができない極めて危険な物質であり、人類の生存にとってまったく不必要なものである。その核を、日本政府は国策としてCO2を排出しないエネルギーの平和的利用と称して原子力発電の推進、さらに使用済みの核燃料を再利用するプルサーマル計画を強力に推し進めている。日本の「核」開発、原発計画は世界のどの国よりも、エネルギー源のない国として原発に依存し強力に進められている。日本政府の「核」開発を平和利用、CO2を出さないクリーンなエネルギーとして推し進める。原発は、クリーンどころか、人類の生存にとってもっとも危険なものなのである。チェルノブイリ事故にみる大惨事を招き、すざましい環境破壊をもたらした。原発で作られたプルトニウムはいつでも「核」爆弾にすることができる。世界の軍縮、核廃絶の道に逆行し「核」拡散を招き、世界の不安定要素を助長し平和が脅かされる。


  自然と共生で地球環境保全の世紀に


 人類、地球の命運をかけた今世紀最大の課題、環境問題で日本政府が世界をリードするとたびたび提言している。本当に環境問題で世界をリードしたいのであれば、明治維新後の日本の社会構造を問題にしなければならない。日本資本主義がなぜ今日の事態を作り出したのか、キチッと総括しなければならない。生態系の破壊、環境破壊をもたらし地球存続を危うくした社会経済構造を問題にしなければならないのである。その総括と反省のうえに、あらたな環境に優しい循環型の社会経済構造に変えなければならないのである。日本の社会経済構造の大転換が求められているのである。

 大転換とは、どの様な転換なのでしょうか。

 一つには、自然生態系を生かした自然との共生、自国の領土、資源を保全活用し、外国に80%依存した食料の自給自足の道への転換。

 二つには、産業構造の工業生産を主としたことから、農業を主とした構造への転換をはかり「農が主で工が副」の産業構造に転換すること。

 そして、人類自らも生態系のなかの一員として、自らも自然を大切にし、共生していかなければならない。


  G8は全地球的問題に応えよ


 G8はまさに、主要国の集まりの首脳会議だが、世界の中の大国の会議だ。この会議にそれぞれの国の思惑でこの会議に臨み、G8の参加国間の調整の会議として、また、大国による世界支配について議論されるであろう。G8を大国による世界の支配の場にさせてはならない。

 世界中で、平和は脅かされ、環境は破壊され、人権は侵害されている。地球的、世界的規模で問題が拡大している。G8がこうした全地球的規模で拡大する問題に応えることができるかどうかが問われる。同時にこの会議の議長国日本の姿勢と提案が問われている。

                        (5月3日)