月剣


三日月は、季節によってその形を微妙に変化させる。
春の三日月は、月舟の名にふさわしく、横たわるように天空に浮かぶ。
一方、秋の三日月は、月剣の名にふさわしく、鋭い切っ先を突き刺すように天空にかかる。
「夜見、その剣…作ったのか?」
僕が手にしている輝く剣。
供物を持ってきた真樹は、何に使うのか聞きたいところをあえて言葉を選んだ、といった様子だ。
「真樹に危害を加えるつもりは無いから、安心しろ。剣舞がしてみたくなってな」
「剣舞…………。夜見、剣舞なんてできるのか?」
できるから、やりたくなったのだ。
「できれば、一緒に踊る相手が欲しいところだな。…真樹…」
失礼な言葉を僕に告げてくれた次期斎主に、僕は意図を含んだ視線を投げかけた。
この国には、『目は口ほどに物を言う』ということわざがある。
僕の視線を受け止めた瞳。
あきらめを吐き出すような、ため息。
「……わかったよ。…俺に教えてくれるわけだ。由緒正しい剣舞ってのを」
悟った真樹が、僕の創り出したもう一振の剣を受け取った。
「なんだ、コレ軽いんだ。羽みたいだ…」
神気で形作られた剣。驚いている真樹へ、僕は忠告する。
「僕が作った剣だからね。でも、その気になれば、人くらい簡単に切り刻める剣だ。せいぜい、怪我をしないように気を付けろよ」
「それは、教えてくれる師匠の技量にかかっていると思うな、俺は」
真樹の返答を静かに受け流す。
「はじめるぞ。まずは、受ける構えから」
真樹が持つのは、僕が作った剣。
彼に舞踊の心得がなくとも、そこそこには踊れるよう、剣が導いてくれる。
「……がんばって剣についていけよ」
早速、剣の動きに翻弄される真樹へ、僕はささやかな声援を送った。




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