見えない部屋
シンは腕の中に抱きかかえたヒロインを見下ろして、ため息をついた。
次の港で、一緒にナギの誕生日プレゼント選びをして欲しいと言われ、即却下した。
いつもならそれで大人しくなるはずのヒロイン。なのに、今回はやけに食い下がってきた。
仲間であるナギのプレゼントを買いたいという気持ちは、判る。
シンと一緒に選びたいという発想も、悪くはない。
却下されて、いつものようにすぐに肩を落として諦めるようなら、仕方ないと言って希望に沿ってやるのも悪くなかった。
けれども今回は、簡単に諦めなかったのである。
相手がナギだからなのか、たまたまなのか知らないが、かなり面白くない状況。
その挙句、船長の部屋に連れ込まれて、酔いつぶれていたのだ。
相変わらず、恋人の自覚がないというか、男心が判らないというか、困った女である。
甘く誘うような酒の匂いを纏った身体を自分たちのベッドに降ろし、シンは部屋の鍵をかけた。
愛しい想いと、怒りと欲望が入り混じった複雑な表情で、シンは眠る恋人の服へそっと手を伸ばした。
「…ふっ…ぅん……」
呼吸もままならない、痺れるような快感が背筋を駆け廻る。
苦しくて切なくて、思わずあげた声で、ヒロインは目を覚ました。
目の前が暗い。
いや、目が開けられない。
何かで目隠しをされている。
「……え?」
しかも自分は全裸で、後ろ手に縛られて手の自由がない。
それどころか、足を大きく広げて硬く熱を持ったモノを受け入れている。
「…ふっあっ……やっ…誰?」
淫らな音を立てて出たり入ったりしていた硬い物の動きが止まった。
声を殺して笑う気配がする。
「…なんで……」
と、突然乱暴に、ヒロイン口に布が押し込まれた。
「んんんーっ」
そのまま、口に噛ませるように布が巻かれ、言葉が奪われる。
力強い掌が、両膝をベッドへ押さえつけるように押し広げ、再び硬く熱いモノが出入りを再開した。
頭の上で、身体が揺さぶられる度に、チャリチャリと硬貨が重なり合って揺れる音がすることにヒロインは気付いた。硬貨が、ベッドの上に置かれているらしい。
「んーーーっ」
腰の奥では痺れるような快感が膨らみつつ、ヒロインの心に不安が膨らむ。
今、自分に快感を与えているのは…シンだと思いたい。
シンの筈だ。
けれど、シンらしくない。
今、ヒロインが目を覚ましたと気付いたはずなのに、言葉がない。シンの声が無い。
押し殺した息遣いと、強引に貪るように繰り返される刺激だけで。
キスも優しさも見えない。
そこでふと、ヒロインは自分の記憶が船長室でお酒を飲んでいたところで途切れていることに思い当った。
ということは。
ここは、シンの部屋ではないかもしれない…。
今、無理矢理ヒロインの身体を押し開いて淫らな音をさせながら深く突いてくるモノは、シンではないかもしれない。
自分たちのベッドに硬貨が置かれているなんてことがあるだろうか…。
無造作に金貨が散らかっているのは、船長の部屋だけだ…。
そう気づいた途端に、ヒロインの身体は快感とは別の感情で震えはじめる。
身を捩り、逃れようとすると、頭上から硬貨が揺れて崩れ落ちる音がして、頭や耳に冷たい硬貨が触れた。
まだココは船長室で、相手は…。
不安がヒロインの身体に広がる。
ところが、押し殺した笑いと共に、より激しく責め立ててくるモノは、ヒロインが敏感に感じる部分を的確に突いて、強引に高みへ引っ張り上げていく。
「…んっ…んんーっ」
感じたくない。
反応したくないと思うのに、的確な刺激に、ヒロインの腰は求めるように動き始める。
(嫌だ……シンさん…助けて……)
縛られて開くことができない目の渕から涙が溢れて、目隠しを濡らした。
「…んーっ、んーっ」
(シンさんっ……シンさんっ……)
必死にシンに助けを求める。
と、胸を噛むチリッと甘い痛みと共に、擽るように肌に触れる柔らかな髪の感触と、ふわりと嗅ぎ慣れた匂いがヒロインに触れた。
「………っ」
(あぁ…シンさんだ…)
そう確信した途端に、それまで不安と恐怖で留めていた快感が一気に背骨から全身へ駆け廻る。
「…っっっ!」
ヒロインが全身を強張らせて奥へ入り込んでいる刺激を締め上げると、胸の突起を含んだ口から、苦しげなシンの声がわずかに漏れた。
「…くっ……」
脈打つようにヒロインの中に温かな液体が満ちる。
(…よかった……シンさんだった……)
満たされたまま、ヒロインは意識を手放した。
「おい…こらっ」
シンは安心して幸せそうな表情で寝るヒロインを見下ろした。
「……もう一回犯すぞ…ったくお前は…」
頬を軽く抓るが、目覚める気配はない。
懲らしめるつもりで目隠しをして、強引に抱いた筈なのに。わざわざ硬貨をベッドに置いて、別の場所を演出したのに。
絶頂を迎えて弛緩したヒロインの戒めを解いてやれば、やけに幸せそうで満ち足りた表情をしていて。
この安心しきった表情を見る限り、相手がシンだと気づいていたことは明白で。
「…いつ気づいた?」
乱れた髪を指先で梳いてやりながら、問いかけるように囁く。
すっかり眠り込んでいるヒロインが返事をするはずがないのは承知で。
不思議だった。
ヒロインにシンだと気付かれるような抱き方をしたつもりは無かった。
唯一、イッたヒロインが思いの外きつく締めつけるのでわずかに声が漏れてしまったが、あの瞬間にそんな冷静な判断ができる状態ではないだろうと思う。
「……まさか、相手が船長でも、そういう顔をするんじゃないだろうな?」
シンは眉根を寄せてヒロインのおでこを指先で弾く。
「……ぅん…」
煩わしそうにヒロインが寝返りをしてシンに背を向けた。
「…俺に背を向けるとは……もう一回おしおきだな。また目隠しをしてやろうか?」
「んー…」
寝入っているヒロイン。
シンの唇が意地悪な笑みを浮かべた。
Triangle againへ戻る