両思いの睦言
豪華な調度品の並ぶ一室に、切なげな吐息が響いている。
時折、パチパチと炎が揺れる暖炉の前。
激しく降り続く雨が、窓を叩いていた。
ソファの背もたれに、すがりついている白い腕は、何かに耐えるように力をこめて弾力のある表皮に爪を立てている。
「どうした? 言ってみろ……」
ソファの前に立ち、屈みこんでヒロインのうなじに唇を寄せたシンが、色の含んだ囁きを落とす。
「んっ…はっ……」
口を開いたヒロインの身体から、甘い声が漏れた。
「ほら、お前の中に入っているのは何本だ?」
クチュリ、と差し込まれた指が中で蠢き、ヒロインの身体がビクリ、と反応する。
「本当に、当てるまで、このままだぞ?」
「ゃあんっ……」
温かな粘液が蠢くシンの指に絡み、奥に誘うかのように指を咥えこんだ部分が収縮を繰り返す。
「嫌? 身体はイイと言ってるぞ? ほら、ちょっと抜こうとしただけで、行くなとこうやって俺の指を締め付けているからな……」
シンの長い指が、蠢きながら出口へ去りかけ、再び奥へと潜り込む。
「やぁ…シンさん………ぃじわ…」
恥ずかしそうに言葉を紡ぐヒロインの肩へキスを散らしながら、シンがククッと愉しげに笑う。
「無駄口たたいてないで、ほら、言ってみろ。何本入っている?」
中に入り込んでいるシンの指が、ある場所を強く撫であげ、ヒロインは悲鳴のような声をあげて背中をのけぞらせた。
冷え切った体を温めてやるとシンがヒロインの身体に刺激を与え始めてからどれほどの時間が経ったのか、外は暗くなっている。
ヒロインは何度かシンの指だけでイかされて、肌を薄桃色に上気させ、ソファの背もたれにしがみついて呼吸を乱していた。
「…仕方ないな、ヒントをやるか」
片手の指は差し込んだまま、シンの両腕が、ヒロインの身体を抱え上げ立ち上がる。
「やっ…あ、あぁぁっ…」
身体の重みが、より深くシンの指を招き入れ、捕まる場所を奪われたヒロインは、背後にあるシンの肩へ必死ですがりつく。
「見てみろ、なかなか面白い眺めだぞ?」
壁に飾られた金縁の鏡の前。
シンに抱えられて足を広げ、まるで胸を誇張するかのようにシンの肩に手を回して背中を反らした自分の姿が目に入り、羞恥に染まっって視線をそらすヒロインの耳元
にシンの声が響く。
「ほら、よく見てみろ。お前の中に入っているのは何本だ?」
尋ねると同時に、再びヒロインの中でシンの指が巧みに動いて刺激を繰り返す。
「あっ…はっ………」
呼吸を乱しながらも、そろそろと視線を鏡に戻したヒロインが、シンの指を確認した。
「ぇっ…あっ…………さ、…さんほ…ん?」
するり、と。
それまで中に入り込んで散々刺激していたシンの指が無くなり、やっとあてたか、とシンが呟く。
そのまま、身体を鏡に押し付けられ、火照った内腿や胸に触れる鏡面の冷たい刺激にビクリとした身体に、先ほどの指よりもずっと熱のあるものが入り込んできて、ヒ
ロインは言葉にならない声をあげた。
「あぁぁっ…くぅぅぅっっ………」
奥まで貫いたシンが、ヒロインの膝を抱え、鏡から数歩離れて嗤う。
「お前の痕がついてるぞ」
「?」
鏡には、ヒロインの上気した肌と呼気が残した、足を広げた女体の輪郭を形作る曇り。
そしてシンとつながった部分の粘液が、鏡面にこびりついている。
「やっ…」
ヒロインが恥ずかしげに身を捩ろうとすると、シンが再びその身体を鏡面に押し付けた。
「なっ…シンさ…」
「このまま続けて、後で見るのも面白そうだぞ?」
「やっ…」
抗議しようとしたヒロインの身体をシンが揺らす。
「あっ…うっ……。やぁっ…」
指よりもずっと質量のある熱に刺激され、抗うこともできずにヒロインは欲情に突き上げられていった。
毛布に顔をうずめるヒロインを、珍しく困ったようにシンが見下ろした。
「いいから、こっち向け」
「嫌ですっ」
キスマークの残る背中が、必死の拒絶を表していた。
まるで、小動物が毛を逆立てて敵わぬ相手に必死に立ち向かっているようで、これはこれで可愛いと内心思いながらも、ベッドに腰をおろしたシンはため息をつく。
「は…恥ずかしくて、もうシンさんなんか、見れませんっ」
シンが初めての相手で、性に関してはまだ未熟なヒロインをからかい過ぎたかと、シンは情事の跡を残したままの鏡を見遣る。
「なら、見なくていい。目を閉じて、こっち向け」
「閉じてますっ 私は、もう寝ますっ」
一生懸命にシンを拒絶している様子が、やたらと可愛らしくて抱きしめたくなる。
「わかった。なら、寝ていろ」
そう囁いて、ヒロインの背中に指を這わせると、ぴくん、と身体がかすかに反応するのが伝わる。
毛布に隠れきれていない耳は、先ほどより赤みを増している。
鏡の前で貫かれて絶頂を迎えた後、ひどく恥ずかしいという意識が先行する程度に欲情から覚めはしたが、まだ身体の中には熱が燻っているのを見つけて、シンは微笑
した。
シンの手が、なだめるように優しく裸の背中を撫で、頭を撫でる。
「こんな恰好で寝るつもりか?」
「寝ますっ」
真っ赤な耳にキスをして、シンは背中を撫でる手を臀部へ滑らせる。
「……っ…」
「しかし、こんな無防備な姿で寝ていたら、俺にもう一度抱いて欲しいと言っているようなものだろう?」
「そ、そんなこと、言ってませんっ」
慌てて、身体を起こし、それまで抱えて顔を隠していた毛布の中に逃げ込もうとするヒロインの腕を、シンが捕えた。
「嫌ですっ、放してくださ…」
一生懸命抗議しようとする口を、シンの唇が塞ぐ。
力の抜けたヒロインの腕を放し、優しく身体を抱きよせ、あやすように背中を撫でる。
「さっきは苛め過ぎたな……」
そっと囁いたシンが、再び唇を重ね舌を差し込むと、ようやくヒロインが応じて腕をシンの首に絡ませた。
唇を離してシンが間近からヒロインを覗き込む。
まだ恥ずかしげに、それでもそっと目を開いてシンを見返したヒロイン。
「一度しか言わないから、よく聞いとけよ」
「?」
シンの言葉に、少し不思議そうにヒロインが小首をかしげた。
一瞬、シンの視線が逡巡する。
「…俺は、お前の全てを独占したいし、お前に独占されたい。抱きしめたいし、抱きしめられたい。ずっと傍に居たいし、傍に居て欲しい。いつでも見ていたいし、見ら
れていたい…」
言葉を切ったシンが、視線をそらしてヒロインの髪に指を絡める。
「そんなお前に、抱いた直後に拒絶されるのは、さすがに傷つくぞ? 本気で恋した女の扱いは、俺も初めてだからな…」
「えっと……あの…」
突然、シンはヒロインの首から鎖骨にキスを繰り返し始める。
言われた言葉をよく理解できていないヒロインの視界からその表情を隠すように、キスを下へと移動していくシン。
「えっと…ちょっと、待ってください。シンさん?」
シンの動きを留めるようにその頬に手を伸ばしたヒロインの指先に、いつになく熱をもった肌が触れる。
まるで、頬を染めて照れているような…。
「も…もしかして、シンさん……」
「うるさい。もう忘れろ」
シンの熱い息が、胸の突起を含んで転がす。
「んっ…」
ヒロインの身体の奥でまだ灯っていた熱が、シンの舌と指先で簡単に呼び起される。
「ふ…、んっ……」
シンの手がヒロインの膝を捕え、両足の奥へ舌を這わせる。
一度、後ろ側からシンを受け入れて押し開かれた襞が、再び愛蜜を潤ませてゆく。
襞を舐めた舌が、それより少し上にある、小さな真珠のような芽をつつく。
「ひゃん……や…あ……。シンさん…ばかり……ずるぃ…」
「ずるい?」
荒い呼吸で訴えるヒロインに、シンがふと顔をあげて応じる。
「わたしだって…同じ……なのに…」
「同じ?」
「したい…されたい…って……」
ヒロインの言葉を聞いて、シンが上体を起こす。
「………。エロいことを言う奴だな。それは、俺を舐めたいってことか? 俺のどこを?」
「……」
途端に黙り込んだヒロイン。
シンは苦笑してヒロインの身体を自分の上に持ち上げた。
「舐めたきゃ好きにしろ」
シンは、再び舌を狭間の襞に這わせる。
期待も強要もしてはいないが、導いた体位は、シックスナインと呼ばれるもの。
微かに期待した、けれど期待していなかった、たどたどしい刺激。
縋るように舐めてくるもどかしい刺激。
好きな女が、自分を求めてくる。そんな些細なことで、目眩がするような悦びを得る我が身に驚愕しつつ、シンはヒロインに与える刺激を強めていった。
ふと眼を覚ましたヒロインは、間近にあったシンの顔を見て、慌てて身じろぎした。
「……お前な……もう少し大人しく眠れないのか」
その身じろぎで目覚めたらしいシンが、苦笑しながら少し離れたヒロインの身体を抱き寄せる。
「あ…あの……」
「うるさい。静かに寝てろ」
囁くような、でも、どこか叱りつけるような声音に、ヒロインはチラリと視線をシンの表情に向ける。
シンは、眠そうに目を閉じて囁いた。
「お前は、本当に馬鹿でどうしようもないやつだからな……」
「…そんな……」
大人しく抱き寄せられていたヒロインだったが、苦笑交じりのシンの言葉に、不満気な声を漏らした。
途端に、シンがクククと、喉の奥で笑う。
「なら、どうしようもなく素直で純粋で困った奴、の方がいいか?」
「……褒めてませんよね? それ…」
言われている意味を測りかねたヒロインの返答に、再びシンは喉の奥で笑った。
「おかげで俺は、どんなに寝像が悪くて歯ぎしりがうるさくても、捕まえていないといけない」
「? そんなに煩かったですか? 歯ぎしりって…自分ではよくわからないんですけど……」
申し訳なさそうなヒロインに、シンは再び楽しそうにクククと笑い声を洩らす。
「この俺をここまで必死にさせるのは、お前くらいだろうな」
「??? シンさん?」
ますます、告げられているシンの言葉の意味が分からずに、ヒロインはクククと自嘲的な笑みを続けるシンを見ようとした。
けれど、シンの腕が、ヒロインの頭を胸に抱え込むようにして、視界を遮ってしまう。
「シンさん?」
「まったく…故意ならまだマシなものを。無自覚だから、始末が悪い」
「?」
抱え込まれ、シンの鼓動が響いてくるような気がして、ヒロインは目を閉じた。
「今、お前が他の男にさらわれる夢を見た。こんな夢を見るのは、おまえがいけない」
心地よさに、うとうとしかけたヒロインの耳へ、シンの苦笑交じりの声が届く。
「え?」
まどろみの中で聞き返そうとしたヒロインの声はひどく曖昧で。
「だから、今度はずっとここにいろ」
ヒロインの身体を抱き寄せていたシンの腕に力がこもる。
「俺が納得する夢を見るまで、離れるなよ?」
そんな無茶な、という反論はすでに言葉にならずに、うとうとと、ヒロインは眠りの世界に落ちていった。
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