記念の贈物


「ん…」
 寝苦しさを感じてぼんやりと目を開けたヒロインは、目の前にいるシンをなんとなく見つめた。
「やっと起きたか」
 自分を見下ろす優しい二つの目。
「?……」
 まどろみの中で、大好きな優しい顔に微笑みかけて、ヒロインは再び目を閉じる。
「おいっ…」
 なんだかちょっと困ったようなシンの声。
「寝かせてやりたい気もするが、日付が変わったからな。ちょっと目を覚ませ」
「うぅーん…」
 眠い。
 毛布を引き上げようと動かした手が、シンに捕まる。
「…シンさん?」
「それとも、まず抱いてからにしてやろうか?」
 毛布の代わりに抱っこ?
 まどろみの中にいるヒロインの思考は、正常に言葉を受け取れていなかった。
「…シンさん……」
 半分眠っているような、眠そうな、でもどこか甘えた声で、ヒロインが両手をシンに差し出す。
 シンを求めるように。
 欲しいと、誘うように。
「………」
 驚いたように、両手を差し出すヒロインを見返したシンが、唇に笑みを浮かべた。
「……おまえ…それ、絶対に他のヤツにするなよ?」
 まだ夢の中にいる様子のヒロインに、シンが優しく口づけた。
「んっ…」
 衣服を脱がすシンの指に、ヒロインの緩慢な吐息が反応する。
 それはやたらと甘ったるくもあり、眠そうでもある。
 いや、実際、眠りの淵に漂っているような状態なのだ。
「ふっ……」
 眠りの水に浮かんでいるヒロインの肌へ、夢の魚がつついたかのようなキスを、シンが降らせる。
「ぅん……」
 優しい優しい刺激に、心地よく再び目を閉じていったヒロイン。
 心地よい刺激に、身を任せる。
「きゃ…ひっ…」
 突然、胸の色づいた二つの突起を強く抓まれて、ビクリと背が反り返る。
 一気に眠りから引き上げられて、はっと目を開けたヒロインが、呆然とシンを見た。
「え? きゃあっ。シンさんっ。なんでっ…??」
 明かりの灯された部屋の中で、一糸まとわぬ状態でシンの腕の間にいるヒロイン。
「寝ぼけて俺を誘ったのはお前だ。…それに、もう遅い」
 慌てて起きあがろうと上体を起こしかけた視界に、怒張しているシンが見えて、ヒロインが顔を赤く染める。
「シ、シンさん…なんで……」
「馬鹿が。4日ぶりで、あんな誘われ方をしたら、当然だろう」
 肩をベッドに押し戻され、いつのまにか潤っていた入口の様子をうかがうように、熱いシンの先端が粘液の表面を擦っていく。
「だって…明かり……ァン…」
「フン……たまにはいいだろう。黙ってろ…」
 声を奪うように深く唇が重なると同時に、熱いシンの槍がゆっくりと入口を広げて差し込まれていく。
 唇を離したシンが、呼吸の乱れたヒロインの耳に囁いた。
「不思議だな…いったい、俺はいつ、お前に惚れたんだか……。あの酒場で逢ったときは……こんなに大切な女になるなんて、考えもしなかったが…」
「え?」
「今日だぞ? 俺とお前が初めて出会った記念日は…」
 ヒロインの体内に深く分身を埋め込んだまま、動かずに、どこか切なげな表情でシンが笑う。
「シンさんっ…!」
 嬉しそうに、ヒロインが両腕をシンの首へ回して、抱きつくように身体を引き寄せる。
「くっ……いきなり、そんなに締め付けるな…」
 シンが一瞬、苦しげに顔をしかめて、ヒロインを抱きとめた。
「あ、すいませんっ…」
 頬を火照らせるヒロインに、シンが苦笑する。
「この状態になっても、色気のない奴だな……」
「そんなこ……っ。あんっ……あっ……、あぁっ…」
 シンが腰を動かし始めると、ヒロインは話すこともできずに衝動に流されて声をあげていった。


「これは…」
 ヒロインに渡された品物をみて、シンは目を丸くした。
 スミレ色に染めた布地に、シリウスの海賊旗を描いたハンカチは、シンの想定していた品物だったのだが。
 そのハンカチに包まれて出てきたのは、紫水晶を彫り込んで創られた、掌ほどの大きさの舵輪。
「あの、それ、シンさんがよく使っているペンと同じ色で、海図を広げる時に置く文鎮にちょうどいいと思って……」
「文鎮?」
 手のひらにちょうど乗る大きさの舵輪。
 ずっしりとある程度の重みがある紫水晶は、確かに長時間丸めて保管されていた羊皮紙などを机上へ広げる時に役立つだろう。
 ただし、シンの記憶が確かなら、これは文具品ではなくて装飾品の棚に並んでいた宝石細工だった筈だ。
 いや、活用法はともかく、それより…。
 シンは疑問を言葉にする。
「……お前、いつの間にこれを…?」
 しばらく前に二人で立ち寄った店で、シンが買ってやると言ったのを、慌てて辞退して薬局へ逃げ込んだヒロイン。
 シンは、一人で買い物をして、薬局の前でヒロインが出てくるのを待ち、一緒に船に戻った。
 それからあの港のあの店に行く機会は、ヒロインには無かったはずなのだ。
「あ、あの……実は、薬局でソウシ先生に会って…」
 シンが店内で買い物をして、薬局の前で待っている間に、ヒロインは薬局内で偶然ソウシに出会い、どうしたらいいか相談したのだという。
「…そうか……。あの時からドクターが絡んでいたのか…」
 名前を聞いただけで、様子が見えるような気がした。
 ソウシが笑顔でヒロインに言ったに違いない言葉も推測できる。どんなものか、詳しく教えてくれるかな? シンに内緒にするのなら、私が買ってきてあげるよ、と。
「それで、ソウシ先生が代わりに買ってきて、船で渡してくれて…」
 ヒロインの話を聞いていたシンが、笑いだす。
「? シンさん?」
「そうか。ハンカチは、こいつを包むためだな? 他の奴等のは、ついでだろう?」
「……うそっ。ソウシ先生にも言ってないのに、どうして判るんですか?」
 くっくっくっ……と、喉の奥でシンが愉しげに笑い続ける。
 紫水晶の細工をラッピングしようとしたら、紙よりは布で、白よりは紫で、とヒロインは考えそうな気がした。
 ちょうどいい色合いの布が見当たらず、染めることにしたのだろう。
 そのついでに、他の人にも何か…と。
 シンへのプレゼントを知っているソウシなら、聞かなくても予想がついただろう。
「なるほど。ドクターがああなるはずだ…」
 笑いながらシンは、ヒロインを抱き寄せ、その腕をとる。
「? シンさん?」
「俺からも、お前にプレゼントだ」
 白瑪瑙細工のブレスレットを取り出して、シンが意図的に残した腕の痕の上に被せる。
 金具をとじ合わせると、腕に馴染んだようにぴったりと、ヒロインの腕に留まった。
「あ……」
「首輪でも良かったんだがな……。それなら、料理や洗濯でも邪魔にならないだろう?」
 嬉しそうに目を輝かせるヒロイン。
「シンさんっ、ありがとうございますっ」
「続きは今夜の宴の後だな…もう寝ろ」
 意志とは関係なく頭をもたげる自分の中の雄に苦笑しつつ、シンはヒロインに言ったのだった。


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