錯覚と倒錯



「どうしたの?」
 優しく髪を撫でながら、ソウシは腕の中にいるヒロインを見た。
「やっぱり、いつもと違うのかな?」
 黙って首をふるヒロインは、とても緊張しているような気がする。
「ごめんね。思い出せなくて…」
 相変わらず、ヒロインに触れた記憶がない。こうして腕の中に納めていることも、現実のような気がしない。
「でも、私はソウシさんが好きだから…」
 ソウシは、自分を好きだというヒロインの頬に唇を寄せる。
「…いいのかな」
 本当に抱いてしまっていいのだろうか、と触れた途端に不安が顔をもたげた。何か違和感が警鐘を鳴らしているような漠然とした不安。
 黙って目を伏せたヒロインの手が、ソウシの道着のあわせから見える、鎖骨から胸骨をそっと触れていく。
「何? もしかして誘っているの?」
 くすっと笑ってヒロインの顔を覗き込むと、慌てたようにヒロインが頬を真っ赤に染めた。
「フフ…可愛い。ねえ、教えて? 昨日、私はこのあと、どうした?」
「ええっ?」
「昨日と全く同じことをしたら、思い出すかもしれないでしょ? 君のどこに触れて、どうやって服を脱がしたのかな?」
「あ、あの…」
「うん?」
 恥ずかしそうに、ヒロインが囁く。
「聞こえないよ?」
「や、ムリ……」
 先ほどの囁きとは明らかに違う言葉に、微笑んだソウシが、ヒロインの上着を留めている腰紐をほどいて、腰のあたりから手を差し込んだ。
「こうやって脱がしたんだよね?」
 衣服を押し上げるようにソウシの指先がヒロインの肌をなぞっていく。
 くすぐったそうにヒロインが身をよじって、微かに甘い声を響かせた。
「もっと聞かせて?」
 衣服を脱がせながら、ソウシがそっと囁いて肌のあちこちへ唇を寄せ、軽くついばむようにキスを繰り返す。
 痕が残らぬほどささやかでそっと寄せられる刺激に、くすぐったそうにヒロインも甘い笑いを漏らす。
 大切に大切に扱われ、繰り返し愛撫され続けるヒロインの肌が、次第に熱を帯び、上気した色に染まっていく。
「んっ……。ぁんっ……」
 相変わらず、優しくついばむようなキスが胸の突起を捕えて、ヒロインは蕩けたように甘い声をあげて呼吸を乱した。
「フフ…可愛い。……とっても…」
 そっと手の平で頬を挟み込んだソウシが、唇を浅く何度もついばむ。触れるたびに、喜びと違和感がソウシを苛む。
 緩やかな刺激に、もっと強い刺激を求めるかのようにヒロインの腕がソウシの首の後ろへ回る。
「なに? もっと欲しいの?」
 頬を上気させて、どこか潤んだ瞳で見上げてくるヒロイン。こんな彼女を見たかった筈。そう、まるでかつて想像した通りの光景…のような気がする。
「どうなっても知らないよ?」
「……ソウシさ…すき…」
 ソウシの鼓動が、ドクンと波打つ。欲しかった言葉。自分を求める彼女に、雄の本能が違和感を押しのける。
 先ほどまでのゆっくりとした優しさが嘘だったかのように、ソウシの大きな掌がヒロインの後頭部へ回って、深く唇を重ねた。
 呼吸ごと激しく吸い上げ、苦しげに開かれる歯列の間から舌を滑り込ませて絡め取る。
「ふっ……ぅぅっ…んっ」
 深く口づけを交わし続けたまま、ソウシの片手がヒロインの膨らみを撫で、真ん中の小さな突起を指の間に挟んで膨らみごと揉み始める。
「んんっ…んーっ」
 ヒロインが背中を大きく反らして刺激に反応する。
 それでも口づけ絡めた舌は離さずに、ヒロインの腿の間に、ソウシは自分の膝を割り込んだ。
「っ……」
 ソウシの膝頭が、ヒロインの秘部を確かめるように押す。
 クチュ、と潤った部分から小さな音が流れる。
 ようやく唇を解放したソウシが、乱れた呼吸を続けるヒロインを優しい笑みで見下ろした。
「ごめんね、あんまり誘うから…我慢できなくなっちゃった」
 そう言う片手は突起を挟んで胸を揉み続け、もう一方の指先が潤っている秘部の奥へ潜り込む。
「あんっ…」
「もう、やめられないからね?」
 クチュクチュと潤いの奥に刺激を加えていたソウシが、ふっと笑みを消して手を離し、ヒロインの腰を掴む。
 ぐいっと潤った花弁を押し割って入り込む熱に、ヒロインがひどく切ない嬌声をあげる。
「入れただけでそんなに感じた?」
 微かに痙攣する膣の中を、ソウシがゆっくりと撫で上げると、ヒロインの喉から甘い吐息が響く。
「可愛い声……もっと聞かせて」
 ヒロインの声を求めるように、ソウシはヒロインの腕をとって、つながったままの身体を抱き起こす。
 差し込まれた熱が中で動いて角度を変える刺激。
「ゃあんっ…」
「嫌? 恥ずかしいの? なら、向こう向く?」
 抱きしめたヒロインの腰を持って、つながったままの身体を回す。
「ひぅんっ……あっ…あっ…」
「この方が、好き? 声が大きくなったね」
 背後から貫く体制になったソウシの両手が、ヒロインの胸の突起や秘部の突起を撫で、抓み、玩ぶ。
「あっ……ああっ……」
 まるで悪戯のように優しく、時に強く加えられる刺激に、自然とヒロインは腰を揺らして反応する。
「とっても上手だね、ヒロインちゃん……っ」
腰を揺らし続けるヒロインの体内が、中にあるソウシを強く締め上げ痙攣した。
「あっ…。イッたね。……ごめん、私はまだなんだ。もっとさせてね」
 詫びる言葉と同時に、ソウシが貪るようにヒロインの身体を捕えて再び正常位に変え、先程よりも激しい動きで責め立て始める。
「あっ…やっ…もう……いってるのに…」
「うん、ごめんね…」
 言葉とは裏腹に、ベッドに縫いとめるように抑えつけられたヒロインの中を、ソウシの熱の塊が激しく出入りする。
「ああぁっ…」
 奥まで貫かれ、わずかに痙攣する身体。ソウシは満たされず何度も奥を穿つ。
乱れながら精を求めるように蠢くヒロインの身体。気持ちよく感じるものの、どんなに出入りを繰り返しても、足りない。
体位を変えながら、終わらず膣へ続けられる刺激に、ヒロインは声を枯らすほど喘ぎ、やがて意識を手放した。


くったりと意識を手放してしまった身体を、ソウシがそっと抱きしめる。
「無理させちゃって…ごめんね……やっぱり、何か違う気がするんだ……」
ヒロインが愛しい。
ヒロインが欲しい。
なのに、ソウシの中の何かが、違う、と感じる。
自分が求めているヒロインは、違う、と。
抱いても、満たされない。
どんなに優しく触れても、激しく触れても、最後は少々乱暴に抱いてみたけれど、どこか空洞が空いていて、満たされない。
違う。この娘ではない。欲しいのは別。
「…いったい、どうしてしまったのかな、私は……」
そっと身体を離し、ソウシは道着を羽織って立ち上がった。
あれほど抱いたのに、ソウシは最後まで達することができない。
それどころか、もう一度抱く気にもなれない。
「恋人失格だね?」
そっと呟いたソウシは、静かに医務室を出ていった。

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