軟禁中の二人



「なんだこれは……」
ベッドの上を覆い隠すように置かれた毛布を持ち上げたシンが、片眉をあげた。
「あのですね…その……シンさんのために、千羽鶴を作ろうと思って……」
「千羽鶴?」
「ヤマトでは、親しい人が病気になったりした時に、早く治るように祈りを込めて、鶴を1千羽、折るんです」
ベッドの上に散らばる大量の折鶴。
依存性のある薬…いわゆる麻薬を投与された、シン。
その禁断症状が治まり、薬の影響下から脱却するまで船倉に隔離されていたシンのことを思いながらも、船長に逆らって部屋で謹慎処分となっていたヒロイン。
部屋にいるヒロインがシンのために何かしたいと思いついたのが、千羽鶴だったのだという。
「これで、一千羽あるのか?」
改めて、ベッドの上、毛布の中に隠されていた折鶴を眺めてシンが先ほどよりはずっと柔らかい声で尋ねる。
「いえ……まだ半分の500にもなっていなくて…ですね」
できれば一人で全部やりたかったヒロインは、千羽鶴を作っていることを、食事を運んでくるトワにも内緒にしていたのだと説明した。
一人で作っていたので、実はまだ、一千には程遠い数なのだと。
「なるほどな。…ちょうどいい。がんばったご褒美をやるから、目をつぶって手を出せ」
「?」
素直にシンに言われるままに差し出した手に…正確には手首に、カチャリ、と冷たく重いものが乗る。
「え?」
驚いて目を開けたヒロインが見たのは、自分の腕にはめられた鉄枷。
「シ…シンさんっ???」
「クククッ……今朝まで俺がつけていたブレスレットだ」
至極意地悪な表情でシンがヒロインの肩に手を置く。
「…アクセサリーじゃないですよね?」
「俺のお下がりじゃ不満か?」
着替えたばかりのヒロインの服の中へ、シンの指先がするりと入り込む。
「ちょっと、待ってくださ……」
折鶴が散らばるベッドの上に、どさりと押し倒されると同時に、唇が重なった。
「ん…ちょっ……これじゃ、あちこちチクチクして…」
唇が離れた合間に、ヒロインが身をよじって訴える。
とがった先端をいくつか持つ折鶴。
「フン…それも一興だろう?」
「そんな…っ」
「俺たちは、夜までこの部屋で謹慎だからな」
朝食を終えてしばらくして、部屋に戻ってきたシン。
そのまま、シャワー室へ連れて行かれたヒロイン。
結局、シンにとっては、それが一週間ぶりのシャワーだった。
ただし、シンは手枷を外して様子をみようと言ったソウシに無断で、船室へ来ていたことが、シャワー室から出たところで発覚した。
「シンさんが、ソウシ先生に無断で来たと知っていたら、私だって勝手に部屋から出たりしなかっ……んっ」
「夜までなんて待てるか」
深く深く、唇が合わせられ、ヒロインの言葉が奪われる。
まるでシンの手の中に存在していることを確かめるような執拗な体中の愛撫に、手枷で拘束されたヒロインが激しく悶える。
「んん……ぃゃん…っ…」
同じ船に居ながら、逢えなかった時間を全て埋め尽くす勢いで求められ、ヒロインの意識が遠のきながら満たされていく。
「ふっ……ぁあんっっっ……」
指先で散々に刺激され焦らされた挙句、ようやく入り込んできたシンの分身。
「あっ……はぅんっっっ」
手が自由にならないもどかしさと、シンから与えられる快感と、抱かれるぬくもりの温かさと、一気に頂まで突き上げられていく苦しさと。
不思議な感覚に包まれながら、ヒロインは嬌声をあげた。


ふと、薄暗い部屋の中で目覚めたが、夕焼けに染まる窓の外を見た。
「起きたか。昼食とおやつがあるが、どうする?…といっても、そのうち夕食になるが…」
シンは服をきて椅子に座り、穏やかな目でヒロインを眺めていた。
「あ、でも、食べないと…せっかくナギさんが作ってくれたものだから…」
身体を起こして、全裸であることを自覚したヒロインが、慌てて毛布で体を隠し、薄暗い部屋を見渡した。
「あれ…私の服は…」
「そこに置いてある」
ベッドの上、シンの指したところに、丁寧に折りたたまれた衣服がかろうじて見えた。
立ち上がったシンが、部屋の明かりを灯す。
「きゃぁっ」
「なんだ?」
「あっ…あの…。どうせなら、私が服を着てからにしてもらった方が…」
耳まで赤くして、毛布にくるまったヒロインを見下ろしたシンが、何を今更と苦笑した。
「だって…」
「俺はむこう向いてるから、さっさと支度しろ」
急いで衣服に袖を通すヒロインの目に、首飾りのように連なった折鶴が映る。
「あ…」
「今度は何だ?」
「あの…鶴……」
「ああ、壊れずに無事だったものだけ、糸でつなげた。……せっかく作ったのに悪かったな」
背中を向けたシンが、なんでもないことのように告げる。
「私こそ…だってシンさん、私のせいで、役人に捕まって、大変なことになって……」
俯いて言葉を濁したヒロイン。
もとを正せば、他人の厄介事に首を突っ込んでヒロインが役人にめをつけられることがなければ、シンが代わりに捕まるような事態にならなかった。
捕まって、変な貴族に買われて、怪我をして、麻薬を投薬されるような事態にはならなかった。
「もういい」
ふと気付けば、目の前にシンが立っている。
「もう気にするな」
命じるような強い口調で言われ、でも、と言いかけた言葉は封じられる。
唇を離したシンが、ククっと自嘲的な笑みを漏らした。
「シンさん?」
「さっさと食え。俺は、これでも、もう一度お前を抱くのを我慢しているんだ。次に俺にキスさせたら、そう簡単に離してやれそうもないぞ」
「ええっ…」
シンの言葉にどう反応していいのか判らないヒロインがどぎまぎと慌てだす。
「なんだ? ナギの作った飯より俺を選ぶか?」
「い、いえ、そのっ。いただきますっ」
「どっちを?」
シンの指が、悪戯をするようにヒロインの背中を撫でる。
「あ、あの。おなかすいたので、ひゃんっ…」
「時間切れだな」
「そ、そんな…今、服着たばかりだし、せめてスープだけでも……」
ヒロインの言葉を応援するかのように、ぐぅぅぅぅっ、と胃が鳴く音がして、シンの手が止まり、笑いだす。
「そんなに笑わなくたって……」
笑いながら再び赤くなったヒロインを解放したシン。
「こんなに笑ったのは久しぶりだな…。もういいから、さっさと食え」


部屋から響く楽しげなシンの笑い声に、扉をノックしようとしていたソウシが微笑を浮かべて踵を返した。
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