相即不離の業
シンは甲板から無言まま、ヒロインを連れ帰り、部屋へ押し込んだ。
「服を脱げ」
「…え?」
淡いメイクをした顔が、驚いたようにシンを見る。
「その服を脱げ」
怒っているような、呆れているような。
無表情でよくわからないシンを見たヒロインは、困ったように自分が身につけているワンピースに視線を落とした。
「あの…そんなに、似合いませんか? これ…」
「……チッ」
舌打ちしたシンの手が、ヒロインの肩を掴んで、ベッドに沈めこむ。
「シンさんっ?」
「ロイと二人だけで、小舟の上で何があった?」
「何って…」
シンがスカートを大きくめくりあげて、ヒロインの下着に触れる。
普段のヒロインなら、身につけることは無さそうな、ちょっとセクシーなデザインの下着。
「この下着も、ファジーが買って用意しておいてくれたと? ずいぶんと用意周到だな?」
確かに、下着もファジーに渡されたものだ。
シリウス号の甲板から海に落ちて、ロイに助けられたヒロインは、リカー号へ行き、ファジーに着替えをもらった。
シンたちが来るのを、リカー号で待っていた。
「こっちは、あんたの勝負下着にどうかなって思って、別の時に買っておいたんだけど。とりあえず、これ、使いな。でも…船に戻ったら、あんたはすぐに着替えた方がいいかもね…変な誤解されちまうと可哀そうだからさ」
そう苦笑していたファジーを思い出し、ヒロインは唇を噛んだ。
「濡れた服をどうした? ロイは、どう優しかった? 風邪をひくといけないとでも言って、脱がせてくれたか?」
「え? や…っ……」
シンが何を言おうとしているのかよくわからないヒロインは、突然足を開かされて、あわてて抵抗した。
「ロイにどこまで触らせた? 優しかったんだろ?」
シンの指が、下着の隙間から入り込んできて、言われている意味がおぼろげながら理解できたヒロインは、慌てて言った。
「触らせたって…違いますっ。ロイさんは、そんな意地悪なことは…」
「ああ、優しかったんだったな? 俺は意地悪だからな。確かめてみないと納得できないな」
「?」
下着がはぎとられ、困惑するヒロインの秘壺の入り口が、シンの指に広げ開かれる。
「やぁ……」
「ほら、ロイに触らせてないなら、おとなしくしてろ。嫌がると、ロイに触らせたんだと俺は思うぞ」
シンの言葉に、ヒロインは羞恥に目をきつく閉じたまま、抵抗をやめる。
その様子を見下ろして、満足げな笑みを浮かべたシンが、指をゆっくりと回す。
「ほら、二人だけの時、優しいロイと、何があったか全部説明してみろ」
「な…何も……」
「濡れた髪を、ロイに絞らせたんだろ? 服も絞ってくれたんじゃないのか?」
「服は、着たまま、絞れるところを自分で……んっ…」
シンの指の刺激に、秘壺の潤いが増す。
「じゃあ、ロイの何が、そんなに優しかったって?」
「私の濡れた服が透けるからって、恥ずかしいだろうって、自分の着てたコートを貸してくれて…きゃんっ」
シンの指が突然三本に増やされて、ヒロインは仰け反った。
「他に、何が優しかったって?」
「やぁんっ……うぅん………」
目を閉じて甘い声を洩らすヒロインを見下ろしたシンの瞳に、妖しい色が混じる。
「なんだ? ロイを思い出しながら、そんな声あげているのか? お仕置きが必要だな?」
「違いま……はぅぅぅんっ」
小さな芯の部分を押されたヒロインが、更に声を上げる。
「なら、ちゃんと俺を見て答えろ。何が優しかったって?」
とても恥ずかしそうに目を開けたヒロインが、請い求めるようにシンを見上げた。
「んっ……。嫌がることはしないって言って、いつもみたいに急に抱きついてきたりするのも、無かったんです…あんっ…」
「ほう? じゃあ、嫌がることをしている俺は、さぞかし意地悪だな?」
「そんな…ロイさんとシンさんじゃ、違う……。シンさんだっ…て…優し…あぁぁぁっん」
指先とは比べ物にならない質量に貫かれて、ヒロインの腕がシンに救いを求めるようにしがみ付く。
フッと表情を緩めたシンが、自分の与える刺激に溺れていくヒロインを愛おしそうに抱いた。
「ヒロイン…」
力尽きてしまった、情事の痕を残す愛しい体を抱きよせて、シンはため息をつく。
ヒロインが言った言葉に、ひどく逆撫でされたのは確かで。
更に遡れば、ロイが大声で主張していた言葉も耳に残っていのは確かで。
ヒロインがシリウス号から姿を消して、知らぬ間に海に落ちたのではないかと心配していた時の気持ちからしたら、無事に今、ヒロインが腕の中にいること以上に臨むものなど無いはずなのに。
ロイが『本当の優しさと愛をヒロインに教える』と声高に主張したのは、戯言だと一蹴したはずだった。
けれども、ヒロインが『嬉しくなっちゃうくらい優しかった』と言うのを聞いた途端に、再びロイのどうだといわんばかりの表情と言葉がシンの脳裏に蘇ってきて。
無事でよかった、と素直に抱きしめられなくなってしまった。
おまけに、いつのまにか下着までドレスアップされていたヒロイン。
質問に、ただ答えればいいのに、なぜかソウシに無意識の極上の笑顔を向けて応えていたヒロイン。
シンにしてみれば、守りたいのに守れず、気づくべき時に気付けなかったという状況だというのに。
憤りと苛立ちが鳩尾に溜まり、シンから表情を奪った。
正直、持っていきようのないソレを処理できなくて、結局、腕の中に戻ってきた恋人に八つ当たりした、という自覚はある。
「……ヒロイン」
そっと優しいキスを、額に、瞼に、唇に、落とす。
愛しい。
愛しくて、手放したくない。
彼女はシンの与えた理不尽な八つ当たりに、疲れ果てて、深い眠りに落ちてしまったようだった。
昨夜も深夜までシンに翻弄されていた彼女は、ハヤテほどではないにしても、寝不足だったのは確かだ。
その上、海に落ちて体力を消耗し、リカー号でも眠る暇は流石に無かっただろう、とも判る。
「悪かったな…」
そっと呟いて、ひどく乱れて腕を括るようになっているワンピースを取り除く。
白い腕に、縒れた布の痕が赤く残っているを目にして、切ない表情でシンはそこへもキスを落とした。
乱れたヒロインの髪を梳きほぐし、箪笥から新しいヒロインの着替えを取り出す。
「……ハヤテの馬鹿が来ないとも限らないか…」
深く眠り、人形のようにされるままのヒロインに、シンは衣服を着せ、ベッドに横たえて毛布をかけた。
「んーっ」
かすかな呻きとともに寝返りをうって、毛布を床に落とした恋人。
シンは、その姿を見下ろして、苦笑する。
「まったく…服を着せて正解だな。ゆっくり寝てろ…」
もう1度毛布をかけなおして、シンは部屋を後にした。
自己嫌悪とさまざまな後悔とどこにもぶつけられない怒りと。なんとも苦いものを抱えたまま、シンは甲板に出た。
夕方にはもう少し時間があるものの、日は傾きかけている空を見上げる。
「ヒロインちゃんは?」
背後に立ったソウシの気配に、シンは振り返らずに答えた。
「………昼寝…です」
クス、とソウシがシンの背後でひそかに笑ったのを感じる。
「あまり無理させちゃだめだよ?」
「………」
どこまでがソウシの言う無理なのか。身に覚えがありすぎて、正直、はかりかねる。
「それはそうと、今回、シンにしては随分、ハヤテに寛大じゃない?」
「……ハヤテを構うより優先すべきことが多かったもので」
相変わらず、人の悪いドクターだ、とシンは内心苦笑する。
ハヤテが寝不足の原因。
結局、ヒロインを守りたいのに、守れなかった要素の一つとして、自分に還ってくる。原因は、自分の行動。
八つあたりをしたところで、消えるものでもない。
シンが抱えた言葉にできないモノ。
葛藤。
自責。
「……ふーん。そういうことにしておくね」
「………」
空を眺めるシンと、その背中を見遣るソウシ。
ミズンマストに寄りかかっていたリュウガが、そんな二人の船員を見て哂った。
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