昼の恋人



自分が寝ていた昨日一日で、どの程度船が進んだか確認したシンは、航海室へ戻って、海図を広げた。
 進んだ航路を海図に書き込み、大まかな予定航路をもとに、今日、どのあたりまで進むか確認する。
 ノックの音がしてヒロインが航海室に入ってきた。が、黙って立っている。
 チラリ、とヒロインを一瞬見たが、シンはヒロインに声をかけずに作業を続けた。
 戸口に立ったヒロインは、黙ったまま、動かない。ただ、シンを見つめている視線を感じた。
「………」
 ヒロインが何の用で来たのか分からないが、この際、ヒロインが何か言いだすまで無視を続けようと、シンは作業に没頭する。
「………」
「………」
 静かに時間だけが流れていった。
作業が一区切りついたシンが、海図やペンを片付け、ふと顔を上げる。
 やはり、黙って自分をみつめているヒロインと目があって、反射的に笑みが漏れた。
「いつまでそうしてるつもりだ?」
「えーと…シンさんのご機嫌が直るまで、です」
 生真面目な答えに、笑いが漏れる。
「バカか?」
 笑って、自分の中に渦巻いていたイライラとしたものが、消えていることにシン自身も気づいた。
「機嫌なら、とっくに直っているぞ。こっちへ来い」
 シンが椅子に座ったまま手を差し伸べれば、ヒロインは素直にシンの目の前にやってきた。
「どうせ、誰かの入れ知恵だろう?」
 指先で頬を撫でながら、目を覗きこむと、ヒロインの瞳がとても困ったように揺れている。
「俺に呼ばれるまで黙って待ってろと言われたか?」
「えーと…あの……」
 シンの手のひらがヒロインの後頭部へ回り、ぐいと引きよせた。
「相変わらず、嘘のつけないヤツだな。お前に入れ知恵したの、ナギだろ?」
 囁いて、唇を重ね、もう一方の手で、ヒロインの身体を抱きよせる。  
 椅子に座るシンの膝に乗るような姿勢になったヒロインが、耳まで赤くなった。
「俺とこうするのは何日ぶりだか言ってみろ」
「あ、あの…えーと……7日…」
 ニヤリと、シンが笑う。
「なら、俺がどうしたいかも、判るな?」
「で、でも…その、まだ、お昼前で、こんなに明るくて…」
「大丈夫だ」
「だっ…大丈夫って、いつ、誰が来るかも判らなくて…」
「ちゃんと、そんなこと気にならなくしてやる」
「え? 気にならなく???」
 もう一度、引き寄せられて唇が深く合わさる。シンの優しい舌が、ヒロインの舌を探し出して絡め捕る。
「ぁ…んっ……」
 抱きよせたヒロインを机の上に置いて、シンが唇を離し、囁いた。
「俺のことしか考えられなくしてやるから、余計なことは考えるな」
 服の中に滑り込んだ手が、ヒロインの胸の突起を弄り、置かれた机の上で背筋がビクンと反応する。
「あっ…ぃやぁ……」
 明るい昼間で、しかも自分が机の上に置かれたことが恥ずかしくて、抗おうとしたヒロインの耳に、名前を呼ぶ声が届く。
「ヒロイン」
 ふと声のした方を見ると、明るい日差しの中で、シンの二つの目が、熱くヒロインを見つめていた。
 普段、夜しか見れないシンの素顔が、陽ざしに照らされていて思わず目を奪われる。
「何も考えなくていい、俺だけ見てろ」
 眼の前のシンに言い聞かせられたヒロインが、驚いたように動きを止めた隙に、シンの指はヒロインの衣服のボタンを外していく。
「俺の声だけ聴け」
 シンの指先が、ヒロインの意識を解きほぐしていく。
「あっ……はぅ……ん…ふ……」
 ヒロインの喉から、甘い吐息が溢れてこぼれた。


航海室の机の上。
 しどけなく開かれたヒロインの身体に、シンの分身が穿たれていた。
 飽くことなく求められた肌のあちこちに、紅い印を散らしたヒロインが、揺らされるリズムに合わせてどこか焦点の定まらない瞳のまま、甘い吐息を溢す。
「シン、昼飯だって……」
 ノックも無しに無造作に扉を開けたハヤテが、ひどく慌てて扉を閉めて踵を返した。
「んあぁぁっ……シンさん…」
 チラと、横目で扉を見遣ったシンが、何も気づかずにシンの与える刺激に翻弄されているヒロインにキスをする。
「ん…んー……っふ…」
 シンは、ククっと喉の奥で嗤って、突き揺らす速度をあげた。
 扉の奥から、たたみかけるような嬌声が響く。
 聞こえてくる声から逃げるように、ハヤテは食堂へ走った。


「シンとヒロインはどうした?」
 二人を呼びに行った筈のハヤテの表情を見たリュウガが、にやにやと笑い出す。
「そんなに刺激の強いモン覗き見たのか」
「なっ………の、覗き見てなんかねー」
「今朝、やたらシンが機嫌悪かったのは、そーいうことか。おい、ナギ、さっさと食うぞ」
 リュウガが笑って、フォークを手にする。
「たぶん、夜まで我慢するつもりだったシンを、朝、ハヤテが散々煽っちゃってたからね……しかたないねぇ。毎日聞き耳たててるハヤテの証言が確かなら、一週間ぶりなのかな?」
 ソウシも苦笑して、スープを口へ運んだ。
「べ…別に、オレはあいつらの、聞き耳なんて、たててねえしっ」
 ただ、勝手に聞こえて来るから…という言葉は、小さく消える。
「シンさん、結構怒ってましたけど…大丈夫でしょうかヒロインさん…」
 トワが、気遣わしげに呟いて、パンを手にとる。
 トワの言った名前に、ハヤテがドキリとする。
 脳裏には、一瞬だけ目に入ったキスマークを散らして揺れる肌が浮かんだ。
「だ、だから、覗き見とかしてねーし」
慌てたように繰り返し言ったハヤテを見て、ナギがポツリと言う。
「…そうか、見たんだな?」
「だから、わざとじゃねーって」
 ナギとソウシとリュウガは、シンがその気になれば、ハヤテ如きに見られるようなことはしないと知っている。
 つまりは、恋人達の事情を不用意にからかった報復なのだろうと、予想がつく。
「普通は、近づくだけで分かりそうなもんだがな…」
リュウガが、にやにやと、ハヤテを見た。
「そうだよね…。どうしても、音が聞こえてくるものね」
ソウシも、リュウガに同意する。
 音…ハヤテの耳に、扉の奥から聞こえてきた嬌声が甦る。
「き、気付かなかったんだよっ」
「…そうか。気付かず、戸を開けたのか。どうせ、散々、シンに注意されているのに、またノックもしなかったんだな?」
 ナギの言葉に、ハヤテは肩を落とした。
「えぇっ! ハヤテさん、扉を開けて、お二人を見ちゃったんですか?」
トワがひどく驚いている。
「だから、わざとじゃねーって」
 その一日、何かにつけて必死に弁解するハヤテだった。



Triangle againへ戻る