秘密の夜に



 世界が、ふわふわとしている。
 目の前に、無数の輝きが広がって、瞬いている。
「ヒロイン?」
 シンさんの声が、どこかから聞こえてくる。
「そんなに良かったか?」
 優しい指に撫でられて、息をしただけなのに、声が聞こえる。
これは、私の声?
「ヒロイン?」
 シンさんに触れられているところの全てが、痺れていて、自分でもよく判らない。
 息をしているだけなのに、声が止まらない。
 たくさんの星たちが、自分の中に落ちてきて、身体の中で瞬いているみたい。
 シンさんの優しい声だけが聞こえる。
「戻れないのか? しょうがないやつだな。迎えにいってやるから、そこで待ってろ」
 唇が重なって、シンさんが流れ込んでくる。
「あんっ……ふっ……」
 シンさんにキスされたところが、燃えるように熱くなる。
 もっと、シンさんが欲しい。
 はやくここへ来てほしい。
「そんなに急かすな。いつの間に、こんなに淫乱になった?」
 また、意地悪?
 たくさんの星が、身体の中で暴れ出しそうで、怖い。
「ヒロイン」
シンさんが、私の中へ入ってくる。
 違う、戻ってきてくれたのかな…つながった境目が世界に溶けて判らなくなっていく。
 空の星が、落ちてくる。
 私の身体に集まった星たちが、どこかへ溢れて出て行こうとしている。
 眼の前に、シンさんが見えた。
 綺麗な黒い瞳と茶色の瞳が、こっちへこい、と呼んでいる。
 両手でシンさんにすがり付くと、優しいキスがたくさん降ってくる。
 シンさんが呼んでいる。
 何かが一気に身体の中を駆け回り始めて、わけがわからなくなった。


 ふと気づいたら、ここは甲板で、真上には星空が広がっていた。
「今度は戻ってきたか?」
 私を見下ろしているシンさん。
 シンさんも私も、何も着ていなくて…というか、シンさんとつながったままで、なんだかものすごく恥ずかしい格好を…。
「えっ…ちょっ……やっ…」
「こら、またそんなに締め付けるな」
 恥ずかしくて、少し身動きしただけなのに、シンさんに押さえつけられてしまった。
「さっきまでお前、イキまくってただろ?」
 自分ではなんだかよく判らなかったけど…。
「もう一度見せろ」
「そ、そんな…」
 自分でも、何がどうなっていたのか理解できないのに、無理です。
「すごく良かったぞ…」
 シンさんが囁いて、指先で唇をなぞる。
 たったそれだけなのに、背中全体が痺れるような痛いような…。
「ヒロイン、今夜のお前、最高だな」
 合わさった唇の隙間から、シンさんの舌が優しく撫でてきて、つながっているところが熱くなる。
 胸に置かれた手が動き出すと、知らないうちにまた、自分の声とは思えない音が喉から出ていく。
「そんな淫らな声、いつ覚えた?」
 身体が、思う様に動かない。
「どうした? またイかせてやるから、もっと欲しがってみせろ」
 また、世界がふわふわと覚束なくなっていく。
「愛してる」
 シンさんの声に世界が支配されていく。
 深く貫いていく欲求と引き抜かれていく波が、繰り返されて夜空の星が再び瞬きを始める。
 あっという間に、戻ってきてしまった、ゆるゆるとした曖昧な世界。
 シンさんが欲しくて、離れたくなくて。
 恥ずかしいとか関係なくて。
 シンさんが一緒にいれば、他の何もいらない……。
 もっとください。
 シンさんが欲しい……。
 ヒロインの髪を指先で梳きながら、シンは腕の中にある愛しい寝顔を眺めた。
 二人だけの食事のあと、甲板で満天の星を眺めて、キスで誘いこんで、そのまま甲板に押し倒した。
 仲間がいる時に甲板で押し倒せば、絶対に抵抗するヒロインも、今夜は二人だけだったせいかとても素直で、予想外の反応までしてみせた。
 そのせいで、つい、嬉しくなって無理をさせてしまった自覚は、ある。
 何度ヒロインを追い立てて昇りつめさせたか、分からない程度に。
 だから今、名前を呼んでも何をしても、深い深い眠りに落ちてしまったヒロインが目覚める気配はない。
「朝までここにいたら、さすがに風邪ひくからな…」
 シンはため息をついて、少し疲れが残る身体を起こした。
 シャツを羽織って、ヒロインを抱きあげる。
 部屋のベッドまでヒロインを運ぶ。
「あんなお前を見せつけられたら、この先、お前がどんなに嫌がっても、もう絶対に手放してやらないからな…覚悟しとけよ?」
 眠ったままのヒロインは、シンの言葉に反応すらしない。
 それでも、言葉という形にして満足したのか、シンは一緒に毛布にくるまって目を閉じた。  


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