雲の間で
シビアな操舵を長時間強いられた後は、身体の疲れよりも精神的な疲れを感じる。
先に眠っているだろうヒロインを気遣って、静かに部屋へ戻ったシンは、サイドテーブルに置かれた白い塊に目
をとめた。
『シンさんのために作ったデザートのマシュマロです。
今日は、あんな素敵な景色をありがとうございました。
先に寝ます。
ごめんなさい。ヒロイン』
添えられたメモ書きに、吹き出す。
雲の海に迷い込んだような景色に、呆れるくらいはしゃぎまわっていたヒロイン。
シンはそれどころではなかったのだ。
航海士としての能力をフル回転して乗り切った海域だったというのに。
「雲だから、マシュマロか?」
一つ、つまんで口にいれると、やわらかな食感と、甘い甘い…。
「んー」と、寝がえりをうつヒロインの腕も、マシュマロのように白くて。
精神的に疲れていると理性は弱くなる。
甘い塊を嚥下したシンの中で、欲情が首をもたげた。
「……先に寝るなんて…許さない」
できることなら、はしゃぐヒロインの横へ行きたかったのに。
危険さえなければ、二人だけで、あの幻想的な眺めを堪能したかった。
雲と霧に挟まれる、稀有な自然現象。
寝込みを襲うほど飢えてはいないはずなのに。
いや、これは苦労も知らずはしゃいでいた罰だ。
ちょっと、懲らしめてやりたい気分だから、キスくらいは。
シンは、眠るヒロインにかがみこむ。
ついばむようなキス。
何度も。
何度も。
深くなるキス。
「んっ…シンさん……」
寝言混じりの反応に酷薄して、シンは、するするとヒロインの衣服を取り去る。
「んー…」
眠りの深さから、なかなか浮きあがろうとしないヒロイン。
服を脱がしておいて、目覚めた時に驚かせる予定だったはず。
ヒロインの無防備な肢体に、シンの身体も熱を持つ。
シンの優しい優しい愛撫とキスに、幸せそうな笑みを浮かべて寝返りをうとうとするヒロインの肩を捕まえて、
「まったく……俺じゃなかったらどうするんだ?」
苦笑を浮かべて、首筋に唇を寄せると、ヒロインの腕がシンに触れ、すり寄る。
目を覚まさない彼女に、シンの情欲が苛立ちを伴っていく。
「早く…起きろ…」
最初、自分が何をしたかったのかを、無防備なヒロインの肢体が忘れさせていく。
シンの中で苛立ちが募る。
優しい愛撫が性急さを纏っていく。
眼の前にある愛しい耳朶を、シンは噛む。
「んっ……。え? あれ?」
ようやく目覚めたヒロインの首筋に、シンが噛みつく。
「イタッ…やめて、シンさん?」
「起きるのが遅い。お仕置きが必要だな」
ヒロインを抱きすくめたシンが、弑虐的な妖しい光をまとった瞳で笑う。
「えっ? あっ…イタッ…ぁんっ…」
肩へ、脇へ、腕へ、
シンは言葉通り噛みついて、うすい歯型をヒロインの肌に残す。
「った…ゃあん。…ぁひぃ…んっ」
噛みつきながら、胸の突起をまさぐり、指先でつまんで引いた。
「ぁん…。っふ…。っん…。シンさん、ゃぁぁっ…」
寝起きでまどろんでいたヒロインの身体に、痛みと一緒に快感が走る。
快感が痛いのか、痛いのが快感なのか、わからないままに、甘く痺れた感覚が錯綜する。
「こっちのマシュマロもうまそうだ」
ヒロインを苛む気満々のシンのが、胸に噛みつく。
弱く、強く。時に、突起に吸いつきながら…
「やぁはっん…あふ…。ぃたぁん…あっ…あぁぁっ」
今までに感じた事の無かった痛みと快感が同時に訪れる感覚に、ヒロインは翻弄される。
「食われるのそんなにイイのか? なんでこんなに濡れているんだ?」
太ももの間に手を伸ばしたシンが、肩をゆらして笑う。
「ぃや…。シンさん…ゃだぁ」
恥ずかしくて、真っ赤になって首を振るヒロインの突起を甘噛みしながら、シンが笑みを浮かべて言う。
「何度教えたら覚える? そういう時は、嫌じゃなくて、イイと言うんだ」
「ぃやぁ…。シンさん。シンさんっ…」
「ほら、イイと言えたら、もっと良くしてや……」
寝ていた時から行われた愛撫に、わけもわからず流されたヒロインの身体は、既に強くシンを欲しているのが一目瞭然だった。
ただ、ヒロインは、身体がシンを欲し求める状態を理解できていない。
ひたすら、迷子のように、切なくシンを呼び続ける。
「シンさん…。…ンさんっ」
シンの意地悪な声が届かないほどに。
「もぅ…やぁ……。シンさん…っ」
自分を求めてこんな状態になっているヒロインの姿が、シンを強く刺激しないわけがなく。
一方で、自分のもたらした結果に、内心驚きつつ。
「……っ。…ヒロイン……」
少し掠れた熱い吐息で自分の名を呼ぶ唇に口づけると、求め続けるヒロインの中心へ一気に身を沈めた。
「あぁぁんっっっ」
背を反らして悦びの声を漏らす痴態に、シンも激しく煽られる。
「…っく。そんなに…ヒロイン、締め付け過ぎだ」
ヒロインの膣内が、細かく痙攣してシンを急き立てる。
「あんっ…あぁんんっ」
「ヒロインっ…まてっ…ヒロイン」
たまらず、シンはヒロインをかき抱いた。
ふと気づけば、外が白んできている。
傍らで可愛らしく眠るヒロインと、その肌に残る微かな歯型を見て、珍しくシンが頬を染めた。
「…なるほどな。おまえの『恥ずかしい』が、わかった」
昨夜、自分らしくもなく、
ヒロインに煽られて我を忘れ、一緒に乱れに乱れた記憶が甦る。
乱れたのはお互い様ではあるが…。
自分の噛んだ痕に血が出ているものが無いのが、せめてもの救いだ。
何事もなく顔を合わせるには、まだ消化しきれていない熱が体内に残っていて…。
静かに衣服を着こむと、残っていたマシュマロを持って、シンは航海室へ立ち去った。
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